心と体の分断|トラウマが引き起こす自律神経・フリーズ反応・過剰警戒への実践ガイド

心と体の分断 トラウマ反応・身体症状

トラウマが起きるとき、心と体は同じ場所にいないように感じられることがある。出来事そのものを理解しようとする心と、それに先回りして命を守ろうとする体は、まるで別々の時間軸を走り始める。

頭が「大したことはない」と言葉を選び終える前に、心臓はすでに激しく打ち始め、呼吸は浅くなり、筋肉は緊張する。あるいは、何かを言い返そうとした瞬間、身体が一気に凍りつき、声も動きも失われてしまう。

怒られているわけでも、実際に危険が迫っているわけでもない。それなのに、相手の視線や声の変化に身体が反応し、胸が締めつけられ、胃が縮み上がるような感覚に襲われる。

その瞬間に起きているのは、本人の意思よりも早く働く防御反応である。自律神経を含む身体の調整システムが危険に備え、頭で状況を理解するよりも先に、逃げる、身構える、動きを止めるといった反応が生じている。

心はあとから出来事の意味を考えようとするが、体はすでに生き延びるための準備を始めている。このズレが積み重なるほど、「自分の心」と「自分の体」が、まるで別人のもののように感じられるようになる。

トラウマによる心身の分断は、こうした身体反応だけでなく、感情の麻痺、離人感、現実感の喪失、自分の欲求が分からなくなる感覚など、さまざまな形で現れる。

頭では安全だと理解しているのに、体が言うことを聞かない。その苦しさを理解するには、過去の危険に適応してきた神経系が、現在の生活の中でどのように働いているのかを見ていく必要がある。

Table of Contents

  1. 自律神経が「安全か危険か」の判断に偏るとき
  2. フリーズ反応とは|動けなかった自分を責めてしまう理由
  3. フリーズが終わっても、身体の緊張が残り続ける
  4. 神経系の過敏化と「予測しすぎる頭」
  5. 自分の身体なのに自分のものではない|心身の分断と解離
  6. 身体症状として現れるトラウマの影響
  7. 心と体を再統合するための三つのアプローチ
    1. 1.ボトムアップ|身体から安心できる感覚を取り戻す
    2. 2.身体の緊張と弛緩のあいだに、小さな揺らぎをつくる
    3. 3.トップダウン|過去の恐怖に新しい意味を与える
    4. 4.社会的なつながり|他者との関係の中で調整を取り戻す
  8. 自律神経の乱れやフリーズが強いときの実践ガイド
  9. セルフチェック|心と体の分断が起きているときのサイン
  10. カウンセリングで心と体の分断に取り組むとき
  11. よくある質問
    1. Q1.トラウマによる自律神経の過剰反応は、意志の力で直せますか?
    2. Q2.フリーズして身体が動かないときは、どうすればよいですか?
    3. Q3.トラウマを思い出すと身体症状が悪化するのはなぜですか?
    4. Q4.心と体が切り離されたように感じるのは、解離なのでしょうか?
    5. Q5.フリーズや過覚醒は、カウンセリングで改善しますか?
  12. 結び|分断された心と体が、再びつながりを取り戻すまで
  13. 参考文献
    1. ご相談をご希望の方へ

自律神経が「安全か危険か」の判断に偏るとき

本来、自律神経は活動や休息、緊張や弛緩に応じて絶えず調整されている。交感神経は活動や危険への対応に関わり、副交感神経は休息や消化などを支えている。両者は状況に応じて複雑に働き、私たちの身体を日々の環境に適応させている。

ところが、長期間にわたって暴力、虐待、威圧的な人間関係などを経験すると、危険を予測する働きが強まり、安全な状況でも身体が緊張しやすくなることがある。

穏やかな日常の物音、誰かの足音、スマートフォンの通知音、相手の視線や気配。本来なら気に留めずに過ごせる刺激に対して、身体が瞬時に反応し、心拍が速くなったり、肩に力が入ったりする。

こうした反応が続くと、本人は何も起きていない時間にも休まらなくなる。自宅でくつろいでいるつもりでも、隣の部屋から物音がすれば身構え、誰かから連絡が来ると、内容を確認する前から嫌な予感が広がってしまう。

トラウマを経験した人の身体では、危険が実際に起きているかどうかよりも、危険が起こる可能性を見逃さないことが優先される場合がある。

これはPTSDでみられる過覚醒や過剰警戒と関係する反応であり、常に次の一撃を予測しながら生活しているような状態である。

脳は過去の危険を参照しながら、「また起こるかもしれない」「次はもっとひどいかもしれない」と、絶えず未来の最悪の展開を想像し続ける。

そのような状態では、目の前にある穏やかな風景さえ、これから壊れるかもしれないものとして見えてしまう。五感は安らぎを味わうためよりも、危険の兆候を探すために使われ、身体は休息する機会を失っていく。

また、強い緊張が続いたあとに、極端な倦怠感や無感覚が生じることもある。昼間は過剰に働き、人と話し、周囲の期待に応えていたのに、自宅に帰ると急に動けなくなる。身体が重くなり、何も考えたくなくなり、感情まで薄れてしまう。

こうした状態には、持続的な警戒による疲弊、睡眠の問題、解離、抑うつなどが複雑に関係することがある。

自律神経の働きは、単純なアクセルとブレーキだけで説明できるものではないが、緊張が高まりすぎる状態と、活動性が大きく低下する状態との間で揺れ動く感覚は、トラウマを抱える人の生活の中でしばしば問題になる。

フリーズ反応とは|動けなかった自分を責めてしまう理由

トラウマ反応の中でも、とりわけ誤解されやすいのが、フリーズ(凍りつき反応)である。

突然怒鳴られたとき、何かを言い返そうとしても声が出ない。相手に強く腕をつかまれた瞬間、逃げなければと思いながら身体が動かなくなる。頭の中では必死に状況を理解しようとしているのに、手足が自分の意思から切り離されたように感じられる。

その場を離れたあとになって、ようやく怒りや恐怖が湧き上がってくることもある。

「どうして何も言い返せなかったのだろう」「なぜ逃げようとしなかったのか」。そう考えるほど、自分の弱さや判断力のなさを責めてしまう。

しかし、強い恐怖にさらされた場面では、身体の動きが自分の意思に反して抑えられることがある。

その代表的な反応の一つが、**強直性不動(tonic immobility)**である。

2017年、Möllerらは性的暴行を経験した女性298人を対象に、被害時の強直性不動について調査した。その結果、約70%が顕著な強直性不動を報告し、この反応はその後のPTSDや重度の抑うつ症状とも関連していた。

この研究は、強い恐怖の中で動けなくなることが、本人の意思や抵抗する気持ちだけでは説明できない現象であることを示している。

ただし、日常的に使われるフリーズという言葉には、危険に注意を集中させながら一時的に動きを止める反応や、強い恐怖のもとで身体が動かなくなる強直性不動など、異なる状態が含まれている。

さらに、身体の力が抜け、意識が遠のくようなシャットダウンや解離も、外からは似た状態に見えることがある。それぞれの背景や身体反応は必ずしも同一ではない。

フリーズの最中には、みぞおちが強く縮む、手足が冷たくなる、喉が閉まったように感じる、声が出なくなるといった反応が生じることがある。

本人は恐怖を感じているのに、表情が乏しく、周囲からは落ち着いているように見える場合もある。

こうした反応について理解しておくことは、過去の自分を責め続けてきた人にとって重要である。

動けなかったという事実と、抵抗したくなかったという意思は、同じ意味ではない。

強い恐怖の中で身体が止まってしまった経験については、凍りつき反応(フリーズ)とは何か|トラウマで心身が止まる仕組みと回復の全体像でも詳しく解説している。

フリーズが終わっても、身体の緊張が残り続ける

恐怖を感じた出来事が終わったあとも、そのときの身体反応が日常生活の中で再び現れることがある。

職場で上司に強く叱責された経験がある人が、その後、別の上司から普通に話しかけられただけで頭が真っ白になる。幼少期に親から怒鳴られていた人が、恋人の声が少し強くなっただけで身動きできなくなる。

現在の状況と過去の出来事は異なっていても、身体が似た危険を感じ取り、以前の防御反応を呼び起こしてしまう。

本人は「今は安全な場所にいる」「この人は昔の親とは違う」と理解している。それでも、胸の緊張や胃の不快感、身体が固まる感覚は簡単には収まらない。

こうして、心は現在を生きているのに、身体は過去の危険に反応し続けているような分断が生じる。

フリーズから抜け出したあとに、激しい疲労や眠気が生じたり、しばらく誰とも話したくなくなったりすることもある。反対に、身体の緊張が解けず、落ち着かないまま歩き回ったり、同じ場面を何度も思い返したりする場合もある。

その反応を自分で制御できないことが、さらに不安を強めてしまう。

神経系の過敏化と「予測しすぎる頭」

危険を検出する働きが過敏になると、考えること自体が、危険を予測し続ける作業へと変わっていく。

道を歩くとき、誰かと話すとき、仕事のメールを読むときでさえ、頭の中では無数の可能性が検討されている。

返信の文章が短ければ、相手は怒っているのではないかと考える。会議で上司が黙り込めば、自分の発言に問題があったのではないかと不安になる。誰かがこちらを見ただけで、何か悪いことをしたのではないかと考え始める。

そのような思考は、本人にとって危険を避けるための準備になっている。

かつて家庭内で親の機嫌を読み続けてきた人は、怒りの前触れを見逃さないことで身を守っていた。職場で長期間にわたり威圧や叱責を受けてきた人は、相手の反応を先読みすることで、次の攻撃を避けようとしていたかもしれない。

その経験が重なると、危険を予測することが習慣になり、目の前の現実を確かめるよりも先に、最悪の展開を想像するようになる。

こうして本来は可能性を広げるための思考が、危険を見逃さないための監視装置へと変わっていく。

注意力や集中力が高いように見えても、その内側では膨大なエネルギーが消費されている。仕事中は何とか持ちこたえていても、帰宅後には何もできず、休日も疲労が抜けないことがある。

また、夜になって身体を休めようとしても、頭の中の監視は続いている。明日の予定、誰かの表情、過去に言われた言葉が繰り返し浮かび、眠ろうとするほど身体が緊張してしまう。

これはPTSDに伴う過覚醒や過剰警戒、反芻思考などが重なって生じることがある状態である。

こうした仕組みについては、過覚醒とは|PTSDで身体が先に緊張へ切り替わる反応でも詳しく取り上げている。

自分の身体なのに自分のものではない|心身の分断と解離

複雑なトラウマを抱えている場合、心と体の分断は、緊張やフリーズだけでなく、自分自身の存在感や感情の感じ方にも影響することがある。

自分が何者なのか分からない。自分の欲求や好き嫌いが分からない。誰かと親しくなりたいと思っていても、距離が近づくと強い恐怖や嫌悪感が湧き、相手から離れたくなる。

外側から見ると、優柔不断、気分屋、近づきがたいと受け取られることがあるが、その背景には、自分の気持ちを表現することや、他者に身体を近づけられることが、過去の危険と結びついている場合がある。

2025年にJosephsonらが発表した、トラウマ経験者238人を対象とする量的・質的研究では、PTSD症状と自分の身体をどのように経験しているかとの関連が調べられた。

自由記述の分析では、身体が苦痛や不快感の場所になっていること、自分と身体が切り離されているように感じること、他者の視線に困難を覚えることなどが明らかになった。一方で、身体活動やセルフケアを通して、自分の身体との関係を少しずつ改善しようとする経験も語られていた。

この研究から見えてくるのは、トラウマが単に恐怖の記憶として残るだけでなく、自分の身体をどのように感じ、どのように扱い、どれほど自分のものとして受け取れるかという感覚にも関係していることである。

たとえば、他人の足音には敏感に反応するのに、自分が疲れていることには気づけない。人の表情の変化はすぐに察知するのに、自分が怒っているのか、悲しいのか、怖いのかは分からない。

身体は外側の危険を探し続けている一方で、内側から伝わってくる感覚は遠ざけられている。

このような、自分の内臓や身体内部の状態を感じ取る働きは、内受容感覚(interoception)と呼ばれる。

2024年にLeechらが発表した43研究を対象とするスコーピングレビューでも、内受容感覚とPTSD、感情調整との関係が検討されている。トラウマを経験した人では、身体内部の感覚に対する注意が過度に強まる場合もあれば、反対に身体の感覚を捉えにくくなる場合もあり、身体感覚への気づき方は一様ではない。

強い動悸に意識が集中して不安が増幅することもあれば、身体が疲れ切っているのに、その疲労を自分のものとして感じ取れないこともある。

さらに、離人感や現実感の喪失が生じると、自分の身体が遠くにあるように感じたり、目の前の世界が現実ではないように思えたりする。

こうした解離症状の仕組みと回復については、こちらの記事で詳しく解説している。

身体症状として現れるトラウマの影響

心と体の分断が続くと、感情の問題として自覚されるより先に、身体の不調として現れる場合がある。

慢性的な肩や首のこわばり、頭痛、胃の不快感、腹痛、吐き気、動悸、息苦しさ、手足の冷え、強い倦怠感など、症状の現れ方はさまざまである。

人間関係の緊張が高まると胃腸の調子が悪くなり、職場で叱責されたあとには胸の圧迫感が続く。休日になって緊張が少し緩むと、今度は強い疲労感や頭痛が表れることもある。

自律神経は心拍、呼吸、消化などの調整に関わるため、持続的なストレスが身体の不調と結びつくことは十分に考えられる。

ただし、身体に生じる症状をすべてトラウマ反応として説明できるわけではない。動悸や失神、強い頭痛、痙攣のような動き、意識が遠のく発作、月経に伴う不調などには、身体的な疾患や薬剤の影響が関係することもある。

症状が新たに出現した場合や、強さや頻度が増している場合には、必要な医療的評価を受けたうえで、心理的な要因も含めて理解していくことが大切になる。

一方で、検査では明確な異常が見つからなくても、本人が強い身体的苦痛を経験していることはある。

身体がつらいのに、その理由をうまく説明できない。休む必要があると分かっていても、休むことに不安を感じる。何もしていないはずなのに、全身が疲れ切っている。

こうした経験の背景を考える際には、身体症状の有無だけでなく、その人がどのような環境で緊張し、どのような場面で感覚が遠のき、どのようなときに少し楽になるのかを丁寧に見ていくことが重要になる。

心と体を再統合するための三つのアプローチ

分断された心と体を、どのように橋渡ししていけばよいのだろうか。

回復の過程では、つらい記憶を言葉にして理解することだけでなく、現在の身体反応に気づき、緊張や恐怖が高まったときに対処する方法を身につけることも重要になる。

その際に役立つ視点が、身体から働きかけるボトムアップ、意味や認知から働きかけるトップダウン、そして他者との関係を通して安心や調整を支える社会的なつながりである。

これらを一度に実践する必要はなく、そのときの心身の状態に合わせて、取り組みやすいところから始めていく。

1.ボトムアップ|身体から安心できる感覚を取り戻す

身体からの働きかけでは、緊張を無理に取り除こうとするより、現在の環境と自分の身体とのつながりを少しずつ確かめることが大切になる。

たとえば、椅子に座っているときに、足裏が床に触れている感覚を確かめる。太ももが座面に支えられている重さを感じたり、背中が椅子に触れている部分へ注意を向けたりする。

身体の感覚に集中すると不安が強くなる場合には、無理に内側へ意識を向けず、周囲にある物を眺めることから始めてもよい。

部屋の中をゆっくり見回し、光っているもの、柔らかそうなもの、落ち着いた色のものを探してみる。今いる場所の特徴を確かめることが、過去の記憶に引き込まれていた注意を、現在の環境へ戻す手がかりになる。

呼吸も、心身の緊張を調整する方法の一つである。

たとえば、無理のない範囲で4秒ほどかけて息を吸い、6秒ほどかけてゆっくり吐いてみる。数を正確に守る必要はなく、呼吸が苦しくならないことを優先する。

ゆっくりとした呼吸は、緊張を和らげる助けになる場合がある。ただし、呼吸に注意を向けることで息苦しさや不安が強まる人もいるため、その場合は自然な呼吸のまま、視線や足裏の感覚を利用する方が取り組みやすい。

2.身体の緊張と弛緩のあいだに、小さな揺らぎをつくる

フリーズや強い緊張が生じているときには、身体を一気にリラックスさせようとすることが負担になる場合がある。

長い間、力を入れて自分を守ってきた身体にとって、突然力を抜くことが不安につながることもあるからだ。

そのようなときには、緊張している場所に短い時間だけ気づき、そのあと別の感覚へ注意を移す方法が役立つ場合がある。

たとえば、肩に力が入っていることに気づいたら、次に足裏の感覚や椅子に支えられている身体の重さを確かめる。再び肩に注意を向け、最初より少しでも変化があるかを感じ取ってみる。

不快な感覚だけに集中し続けるのではなく、比較的落ち着いて感じられる部分にも注意を移していく。

身体を動かせそうであれば、指を一本だけ動かしたり、足の位置を少し変えたりすることもできる。

重要なのは、どれほど大きく動けたかよりも、自分の意思で動きを選べたという感覚である。

身体が強く固まるときには、何かをしなければならないという焦りが生じやすい。その焦りによって緊張が増すこともあるため、動きや感覚の変化は小さなものから確かめていく。

3.トップダウン|過去の恐怖に新しい意味を与える

身体の反応が少し落ち着いてきたら、そのときの経験を言葉にして整理することも役立つ。

たとえば、過去に強い恐怖を感じたときの自分を思い返すと、「何もできなかった」「逃げるべきだった」という自己批判が浮かぶかもしれない。

しかし、強い恐怖にさらされた場面では、身体が自分の意思に反して動かなくなることがある。

そのことを理解すると、当時の自分に対する見方が少しずつ変わっていく。

「あのときは、身体が強い恐怖に反応していた」
「動こうとしても、動けない状態だった」
「今の自分は、あのときとは違う場所にいる」

こうした言葉を通して、過去の出来事を現在から振り返り、当時の自分が置かれていた状況を捉え直していく。

また、現在の人間関係で強い緊張が起きたときにも、その反応が何と結びついているのかを考えることができる。

目の前の相手に恐怖を感じているのか、それとも過去に傷つけられた相手との類似性に反応しているのか。現在の状況には、以前とどのような違いがあるのか。

その違いを確認することが、過去の危険と現在の現実を分け直す手がかりになる。

ただし、トラウマ記憶を詳しく思い出す作業は、強い再体験や解離を引き起こすこともある。記憶への働きかけは、本人の状態や安全を確かめながら進めることが重要である。

4.社会的なつながり|他者との関係の中で調整を取り戻す

長い間、危険な人間関係の中で生活してきた人にとって、他者の存在は安心と恐怖の両方に結びついている。

誰かにそばにいてほしいと思う一方で、人が近づくと身体がこわばる。話を聞いてほしい気持ちはあるのに、実際に自分のことを話そうとすると、喉が締めつけられたり、頭が真っ白になったりする。

そのため、他者との関係を通じて安心感を育てる過程では、相手との距離や関わる時間を自分で選べることが重要になる。

信頼できる人と短い時間だけ話す。同じ空間にいても、無理に会話を続けなくてよい関係を持つ。つらいときには話を中断できると分かっていることも、安心につながる。

人は他者の声や表情、態度などから多くの情報を受け取っている。穏やかな関わりが緊張を和らげることもあれば、相手の態度によってかえって警戒が高まることもある。

大切なのは、誰かと一緒にいることを無理に目指すのではなく、自分が安心できる距離で関わる経験を積み重ねていくことである。

自律神経の乱れやフリーズが強いときの実践ガイド

過覚醒とフリーズでは、取り組みやすい方法が異なる場合がある。今の身体がどのような状態にあるのかを確かめ、負担の少ない方法から選んでいく。

過覚醒が強いとき

動悸が強く、周囲の刺激に敏感になり、考えが止まらないときには、まず現在の環境を確かめる。

窓や家具、床など、目に見える物をゆっくり眺め、身体が楽に感じられる姿勢を探してみる。音や光が負担になっている場合には、刺激を減らせる場所へ移動する。

呼吸をゆっくり整えることが心地よければ、無理のない範囲で続けてもよい。

フリーズして身体が動きにくいとき

身体が固まり、声が出にくく、頭が真っ白になっているときには、大きな動作を急がず、小さな動きから始める。

指先を少し動かす、足裏を床に押し当てる、視線を動かして周囲を確認するなど、自分で選べる範囲の動きを試してみる。

呼吸や身体感覚に意識を向けることで苦しさが増す場合には、無理に続ける必要はない。

感覚が遠のき、現実感が薄れているとき

周囲の景色が遠く感じられたり、自分の身体の感覚が薄くなったりしているときには、今いる場所や日付を確かめ、外側の環境へ注意を向ける。

目に入る物の形や色を言葉にする、椅子や床に触れてみる、周囲の音を聞き分けてみるなど、現在の状況を確認できる方法を選ぶ。

いずれの場合も、反応を短時間で消そうとするほど緊張が強まることがある。自分の状態に合わせて方法を選び、つらさが増すときには中断することが大切である。

セルフチェック|心と体の分断が起きているときのサイン

次の項目は、トラウマに関連する心身の反応を振り返るための目安である。

  • □ 何も起きていない場面でも、突然動悸や息苦しさが生じる
  • □ 小さな物音や人の気配に身体が反応し、緊張が抜けにくい
  • □ 頭では大丈夫だと分かっていても、身体が固まって動けなくなる
  • □ 相手の声や表情が変わると、頭の中が真っ白になる
  • □ 疲れていることに気づかず、限界になってから動けなくなる
  • □ 自分の感情や身体の感覚が分からなくなることがある
  • □ 自分の身体が自分のものではないように感じる
  • □ 周囲の景色が遠く感じられ、現実感が薄くなることがある
  • □ 人と関わっている間は緊張し、帰宅後に極端な疲労が出る
  • □ 睡眠や胃腸の状態が不安定で、休んでも回復した感覚が乏しい

これらの反応はPTSDや解離などと関連する場合がある一方で、不安症、睡眠障害、身体疾患などでも生じることがある。

チェック項目の数だけで原因や診断を判断することはできない。症状が続き、生活や仕事、人間関係への影響が大きくなっている場合には、専門家とともに背景を整理していくことが望ましい。

カウンセリングで心と体の分断に取り組むとき

心と体の分断が強い場合、過去の出来事を詳しく語ること自体が大きな負担になることがある。

つらい経験を話そうとすると身体が固まり、声が出なくなる。反対に、感情があふれて呼吸が浅くなり、その場にいることが難しくなる場合もある。

そのため、カウンセリングでは、今どの程度の緊張が起きているのか、どのような場面で感覚が遠のくのか、何をすると少し落ち着けるのかを確かめながら進めていくことが重要になる。

身体感覚に注意を向けることが助けになる人もいれば、最初は周囲の環境を確認する方が取り組みやすい人もいる。記憶を振り返る作業も、本人の状態に応じて方法や進め方を調整する必要がある。

PTSDに対しては、トラウマ焦点化認知行動療法やEMDRなど、効果が検証されている心理療法がある。英国NICEのPTSD診療ガイドラインでも、これらの治療が推奨されている。

身体の感覚を取り戻すためのエクササイズは、こうした専門的な治療を支える方法として役立つ場合があるが、それだけでトラウマ記憶やPTSDの症状がすべて改善するとは限らない。

回復には、身体の反応を調整することと、過去の経験が現在の感情や人間関係に与えている影響を理解していくことの両方が関係している。

具体的な治療の進め方については、トラウマの治し方・克服する方法|安全と身体感覚を取り戻すためにでも詳しく取り上げている。

よくある質問

Q1.トラウマによる自律神経の過剰反応は、意志の力で直せますか?

身体が危険を察知して起こす反応には、自分の意思だけでは制御しにくい部分がある。そのため、無理に反応を抑え込もうとするより、どのような状況で緊張が高まり、どのような方法で落ち着きやすいのかを知ることが役立つ。

身体の調整とともに、危険を予測し続ける思考や、過去のトラウマ体験との関係を整理していくことも重要になる。

Q2.フリーズして身体が動かないときは、どうすればよいですか?

まず現在の安全を確かめ、可能であれば身体が楽になる姿勢を取る。指先を動かす、足裏を床に触れさせる、周囲にある物を見るなど、小さな動きや感覚から始める方法がある。

強い恐怖の最中に無理に動こうとすると、かえって緊張が高まる場合もあるため、そのときにできる範囲で試していく。

Q3.トラウマを思い出すと身体症状が悪化するのはなぜですか?

トラウマ体験に結びついた記憶や感覚が呼び起こされると、当時の恐怖と関連した身体反応が再び生じることがある。

そのため、過去の出来事を振り返る際には、現在の安全を確かめながら、本人の状態に応じた方法で進めることが大切になる。強い再体験や解離が起きる場合には、専門家とともに取り組むことが望ましい。

Q4.心と体が切り離されたように感じるのは、解離なのでしょうか?

自分の身体が自分のものではないように感じたり、周囲の世界が現実ではないように思われたりする場合には、離人感や現実感喪失といった解離症状が関係している可能性がある。

ただし、身体の違和感や感情の鈍さには、ほかの心理的・身体的な要因も関係するため、症状の経過や生活への影響を含めて判断することが重要になる。

Q5.フリーズや過覚醒は、カウンセリングで改善しますか?

トラウマに関連したフリーズや過覚醒は、心身の反応を理解し、現在の安全を確かめる方法や過去の経験への向き合い方を身につけることで、軽減していく場合がある。

PTSDの症状がある場合には、トラウマ焦点化認知行動療法やEMDRなど、効果が検証されている治療法も選択肢となる。症状の種類や強さ、解離の有無などによって適切な進め方は異なる。

結び|分断された心と体が、再びつながりを取り戻すまで

心と体の分断は、過去の危険な環境に適応してきた過程で生じることがある。

頭では大丈夫だと分かっているのに、身体が緊張してしまう。休みたいと思っているのに、警戒をやめられない。誰かと親しくなりたいのに、距離が近づくと身体が拒むように反応する。

そうした矛盾を抱えていると、自分の心や身体を信じられなくなることがある。

本来なら、身体はもう少し柔らかく反応できたはずだった。何かを怖いと感じたときには離れ、疲れたときには休み、安心できる相手のそばでは力を抜くことができたかもしれない。

しかし、長い間、瞬時に危険を察知し続けることを求められてきた人の身体には、そのような余裕を持つ機会が少なかった。

過去の危険に合わせて形成された反応は、現在の生活の中でも繰り返されることがある。それでも、今いる場所を確かめ、自分の身体の変化に少しずつ気づき、安心できる経験を積み重ねることで、反応の仕方が変わっていく可能性はある。

回復とは、別人になることではなく、これまで自分を守るために働いてきた反応を理解し、現在の状況に合った選択を少しずつ取り戻していくことである。

過去の恐怖がよみがえったときに、身体の反応に気づけるようになる。緊張が高まったときに、自分に合った方法で落ち着く時間を持てるようになる。誰かの機嫌を読み続ける代わりに、自分の疲れや不快感にも目を向けられるようになる。

その変化は、外から見ればほとんど分からないほど小さなものかもしれない。

けれど、かつて心と体が別々の方向へ向かわざるを得なかった場所に、少しずつ新しいつながりが生まれていく。

心が感じていることと、身体が伝えていることを、もう一度自分自身のものとして受け取れるようになる。

その経験を重ねていくことが、過去の危険に縛られていた心と体を、現在の人生へと取り戻していく過程になる。


参考文献

  1. Josephson, B. L., Holmqvist Gattario, K., Kling, J., & Piran, N. (2025). “My body is not mine”: A mixed methods study on trauma and the experience of embodiment. Body Image, 55, 101986.
  2. Möller, A., Söndergaard, H. P., & Helström, L. (2017). Tonic immobility during sexual assault – a common reaction predicting post-traumatic stress disorder and severe depression. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica, 96(8), 932–938.
  3. Leech, K., Stapleton, P., & Patching, A. (2024). A roadmap to understanding interoceptive awareness and post-traumatic stress disorder: A scoping review. Frontiers in Psychiatry, 15, 1355442.
  4. National Institute for Health and Care Excellence. (2018). Post-traumatic stress disorder: NICE guideline NG116.
  5. U.S. Department of Veterans Affairs, National Center for PTSD. Self-Help and Coping.

Counseling & Share

ご相談をご希望の方へ

カウンセリングの空き状況をご確認いただけます。 このページを必要な方へ共有することもできます。

予約ページを見る
NEW BOOK
『やわやわな心にはゼラチンを入れて、冷蔵庫で休ませましょう』
著者:井上陽平 / 2026年11月12日発売

人との距離、自分の気持ち、断ること、頼ること。 「心の境界線」という視点から、生きづらさをほどきながら、 自分の感覚や距離感を取り戻すための考え方とワークをまとめた一冊です。

BOOK
『かくれトラウマ』
生きづらさはどこで生まれたのか / 著者:井上陽平

人に合わせすぎる。緊張が抜けない。安心したいのに落ち着けない。 そうした日常の反応の奥にある見えにくい傷と、 身体が身につけてきた守り方を、 トラウマ・身体・神経系・愛着の視点から読み解いた一冊です。

テーマ別の新着記事

見たいテーマを開くと、そのカテゴリの記事を新しい順で読めます。

HSP・神経系の過敏性 (18)
セルフチェック (5)
トラウマ・CPTSD・解離 (85)
心の病・精神疾患 (44)
心理学(理論)・精神分析 (24)
心理技法・治療法 (22)
愛着・対人関係・人格の問題 (72)
井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

井上 陽平をフォローする
トラウマ反応・身体症状
シェアする

コメント

タイトルとURLをコピーしました