毒親育ちの人が将来を思い描けない理由|結婚・仕事・生き方への影響

毒親育ちの人が 親子関係・毒親

毒親育ちの人は、将来自分がどのような生き方をしたいか、どんな仕事をしたいか、結婚して家庭を持ちたいかどうかといった「未来」に、うまく意識が向かないことがあります。

周囲の人が結婚や転職、住宅の購入、子どもを持つことなど、人生の次の段階へ進んでいくなかで、自分だけが同じ場所に取り残されているように感じることがあります。将来について聞かれても、具体的な希望が浮かばず、何を選んでも後悔するような気がして、考えること自体が苦しくなってしまうのです。

その背景には、心の中で、まだ過去が終わっていないという問題があります。

子どもの頃に繰り返し傷つけられ、安心より緊張の多い家庭で育つと、人は「これからどう生きたいか」を考える前に、「これ以上傷つかずに済むか」を優先しやすくなります。

親の怒りや支配、否定的な言葉にさらされてきた人は、自由に何かを望むことよりも、自分の選択がどのような問題を引き起こすかを先に考えるようになります。何かを始めようとしても、失敗したときのことや、周囲から批判される可能性が頭に浮かび、動き出す前から疲れてしまいます。

そのため、未来がないのではなく、未来を描くための余白が、長いあいだの警戒と防衛によって埋め尽くされていることがあります。

自分の人生を考えるはずの時間が、過去の出来事を整理し、現在の危険を予測し、これ以上傷つかないようにするために使われているのです。

未来を考えられないのは、心の一部がまだ過去に取り残されているから

虐待を受けた記憶、見下された言葉、否定された感覚、理不尽に傷つけられた場面。そうしたものは、出来事としては過去になっていても、心身の中では終わっていないことがあります。

少し強い口調を向けられただけで胸が詰まり、誰かが不機嫌そうに見えるだけで身体が固まる。責められていないのに、自分が何か悪いことをしたような苦しさが広がり、実際には何も起きていない段階から、警戒だけが立ち上がります。

こうした反応には、現在の出来事が過去の危険と結びついて感じられることが関係しています。

子どもの頃に親の機嫌が突然変わり、昨日まで許されていたことが今日は激しく叱られる原因になった。何気なく自分の考えを話しただけで否定され、喜んでいたことを笑われた。そうした環境では、安心して自分の希望を持つことが難しくなります。

そのため、本来なら未来に向かうために使われるはずの力が、「もう傷つかないようにする」「また同じことが起きないようにする」「相手の機嫌を先回りして読む」という方向へ使われてしまいます。

何かを決めるときにも、自分が望んでいることより、誰かから反対されないか、失敗したらどうなるか、批判されたときに耐えられるかを考えてしまいます。

過去の傷つきを繰り返し思い出し、現在の人間関係でも同じことが起きる可能性を考え続けると、心は未来に向かう余裕を失っていきます。

こうした状態では、明日を思い描く前に、まず今日を何とかやり過ごすことで精一杯になります。

このような心の働きについては、過去のトラウマを繰り返してしまう再演の心理や、ぐるぐる思考が止まらない理由と過覚醒でも詳しく取り上げています。

毒親育ちの人は、「本当はどうしたいか」が分からなくなりやすい

子どもは安心できる関係の中で、抱えられ、見つめられ、受け止められながら、少しずつ「自分は何を感じているのか」「自分は何を望んでいるのか」を知っていきます。

遊びたい、甘えたい、嫌だ、怖い、もっとやってみたい。そうした感情や欲求を周囲に受け止めてもらう経験を通して、自分の感覚を信じる力が育っていきます。

しかし、親の支配や否定が強い家庭では、その土台が揺らぎやすくなります。

欲求を出せば責められる。怒れば嫌われる。悲しめば面倒がられる。甘えれば支配される。黙っていても空気を読まされる。

自分の気持ちを表すたびに親から否定されると、子どもは何を感じているのかを確かめるより、親がどのような答えを求めているのかを考えるようになります。

たとえば、進路を選ぶときにも、本当は何を勉強したいかより、親が認める学校かどうかが重要になります。服装や友人関係、趣味についても、親から嫌な顔をされない選択を繰り返すうちに、自分の好みが分からなくなっていきます。

Dadiら(2023)は、幼少期に心理的虐待を経験した若年成人58人へのインタビュー研究で、親の期待に応えられないと責められる経験、人格への攻撃、兄弟姉妹や他者との比較、感情や精神的な苦しさを認めてもらえない経験などを報告しています。

この研究は、親から受ける傷つきが、暴力や露骨な暴言だけに限られないことを示しています。

自分の気持ちを伝えても否定され、何をしても親の期待に届かない環境では、自分が何を望んでいるのかより、どうすれば認めてもらえるのかが生活の中心になっていきます。

すると大人になってからも、「本当は何がしたいのか分からない」「嫌なことは分かるのに、好きなことが分からない」「どうしたいかと聞かれると頭が真っ白になる」「仕事も結婚も、自分の希望がよく見えない」といった感覚を抱くことがあります。

それまで長いあいだ、自分より相手を優先することで生活を保ってきたため、自分の欲求を確かめる習慣そのものが育ちにくかったのです。

やりたいことが分からない状態でも、何かを嫌だと感じる力は残っている場合があります。今の仕事が苦しい、親と会うと疲れる、恋人に合わせ続けるのがつらい。その違和感が、自分の意思を取り戻す最初の手がかりになることもあります。

こうした自己喪失の問題については、自分の気持ちや本音がないように感じる理由や、アイデンティティの揺らぎとトラウマとも深くつながっています。

結婚したい気持ちと、家庭を持つことへの恐怖が同時に生まれる

毒親育ちの人は、親密さの中で傷ついてきたことがあります。

本来なら守ってくれるはずの相手、安心を与えてくれるはずの相手との関係の中で、否定、支配、侵入、気まぐれな愛情、感情的な揺さぶりを経験してきた人も少なくありません。

そのため、人とのつながりは安心を求める場所であると同時に、再び傷つく危険を感じる場所にもなりやすいのです。

「誰かと生きたい」「安心できる家庭がほしい」「理解し合える関係を築きたい」と願う一方で、同じ心の中に「近づいたら支配される」「自由を奪われる」「見捨てられる」「また傷つく」という恐れが存在することがあります。

交際している間は楽しく過ごせても、結婚の話が具体的になると気持ちが重くなる。相手と一緒に暮らすことを考えた途端、自分の部屋や一人で過ごす時間を失うように感じる。相手の両親との関係を想像すると、かつての家族関係が再び始まるような不安が出てくることもあります。

自分が育った家庭で、結婚生活が支配や我慢、怒りや諦めと結びついていた場合、家庭を持つことへの希望そのものが育ちにくくなることがあります。

また、子どもを持つことに対しても複雑な感情が生まれます。

自分は親と同じことをしてしまうのではないか。子どもの感情を受け止められるだろうか。育児を通して、忘れていた子ども時代の記憶がよみがえるのではないか。

こうした不安が強いと、結婚や出産という将来の出来事が、楽しみよりも大きな責任や脅威として感じられる場合があります。

Phillipsら(2025)は、幼少期に虐待を経験し、成人後にもパートナーからの暴力を経験した16人を対象とする質的研究で、子どもの頃に満たされなかった愛情や承認を親密な関係に求めること、自分の欲求を優先する難しさ、虐待を見分けることの難しさなどを報告しています。

この研究は特定の経験を持つ人たちを対象としており、毒親育ちのすべての人に当てはまるものではありません。それでも、幼少期に身につけた対人関係のあり方が、成人後の親密な関係にも影響しうることを考える手がかりになります。

人との関係の中で傷ついてきた人ほど、誰かと安心してつながりたい気持ちと、もう二度と相手に巻き込まれたくない気持ちの両方を抱えることがあります。

ただし、結婚や子どもを持つことを望まない生き方も、一つの選択です。大切なのは、過去の恐怖や親の価値観に縛られず、自分自身がどのような関係や生活を望んでいるのかを考えられるようになることです。

親密な関係の中で自分を失いやすい心理については、境界線を持てなかった人の人生はなぜ危険になるのかでも詳しく解説しています。

仕事を選べない、転職できない|親の評価が人生の基準になっている

仕事についても、毒親育ちの影響が残ることがあります。

親から繰り返し否定されてきた人は、自分が何をしたいかよりも、何をすれば評価されるか、失敗しても責められないかを基準に仕事を選ぶ場合があります。

安定した仕事を選んだものの、毎日が苦しい。興味のある分野が見つかっても、挑戦する前に自分には無理だと考えてしまう。今の職場を辞めたいと思っても、転職に失敗したらどうしようという不安が強くなり、身動きが取れなくなることもあります。

特に、親の期待に応えることで自分の価値を保ってきた人は、仕事でも同じような役割を担いやすくなります。

上司から頼まれると断れない。人の仕事まで引き受ける。理不尽な扱いを受けても自分の努力が足りないと考える。周囲が帰宅しても、一人で仕事を続けてしまう。

自分が望んでいる働き方を考えるより、職場で必要とされ続けることが優先されるのです。

また、仕事で成功しても、満足感が長く続かないことがあります。

昇進しても、次はもっと頑張らなければと思う。周囲から評価されても、自分にはまだ足りないところがあると感じる。休暇を取ると、何もしていないことに罪悪感を抱く。

仕事が自分の能力を発揮する場所であると同時に、かつて親から得られなかった承認を求め続ける場所になっている場合があります。

反対に、失敗への恐怖が強すぎると、応募書類を書くことや面接を受けることさえ難しくなることがあります。何度も準備を重ね、十分にできると思えるまで行動を先延ばしにしてしまいます。

こうした状態では、将来の仕事を考えることが、自分の可能性を広げる作業ではなく、自分の能力や価値を試される場面になってしまいます。

回復の過程では、何が得意か、何が好きかということだけでなく、どのような働き方なら身体の緊張が少ないか、どのような人間関係なら自分の意見を言えるか、何を犠牲にせず働きたいかを考えていくことも大切になります。

回復は、いきなり未来を決めることではなく、現在に戻ることから始まる

毒親育ちの人は、あまりにも長く生き延びることを優先してきたため、知らないうちに感覚を鈍らせ、麻痺、無力感、先延ばし、空想、回避へ傾くことがあります。

やろうと思っているのに身体が動かず、将来について考え始めると頭が重くなる。何かを決めようとしても、急に眠くなったり、考えること自体が面倒になったりする場合もあります。

このような状態には、慢性的なストレスや疲労、抑うつ、トラウマに伴う凍結や解離など、さまざまな要因が関わることがあります。

強い危険を感じているとき、心身は目の前の状況に対処することを優先します。そのため、落ち着いて将来を検討したり、自分の希望を整理したりする余裕が持ちにくくなるのです。

カウンセリングでも、いきなり「将来どうしたいですか」「結婚したいですか」「本当は何がしたいのですか」と問いかけられると、困ってしまうことがあります。

自分が何を望んでいるのか分からないまま、早く答えを出さなければならないと感じ、以前と同じように相手が求める答えを探し始めてしまうこともあります。

先に必要なのは、過去の経験と現在の状態を少しずつ分け、自分の感覚を確かめられる時間を持つことです。

身体の緊張が強いときには、部屋の中をゆっくり見渡し、背中や足裏が支えられている感覚を確かめます。周囲の音に注意を向けたり、身体を少し動かして楽な姿勢を探したりすることもできます。

身体の内側へ注意を向けると苦しくなる場合には、無理に感覚を探さず、今いる場所や周囲の景色など、外側の環境から確かめていきます。

こうした働きかけだけですべての問題が解決するわけではありませんが、緊張が和らぐ方法を知ることは、自分の状態を理解する助けになります。

心身が動かなくなる反応については、シャットダウンや凍結からの回復でも詳しく取り上げています。

そして、未来についても、最初から大きな決断をする必要はありません。

今日は何を食べたいか。どんな空間だと少し楽か。誰といると自分らしく話せるか。今月は何を減らしたいか。これから何を少し増やしたいか。

そうした日常の選択を通して、自分の感覚や欲求を確かめていきます。

親の期待に応えたり、誰かの機嫌を整えたりするために選ぶのではなく、自分がどう感じているかを基準にして、小さなことを決める経験を重ねていくのです。

自分の人生を取り戻すと、未来の見え方も変わっていく

毒親育ちの人が未来を思い描けるようになるためには、親との関係だけでなく、自分自身との関係を少しずつ変えていくことが大切です。

これまで自分の感情を後回しにしてきた人は、嫌だと感じることにも罪悪感を抱く場合があります。親から求められた役割を手放すと、何もしていない自分には価値がないように感じることもあります。

そのため回復の過程では、親の期待と自分の希望を分け、自分が望む生活を少しずつ考えられるようになることが重要です。

Schneidermanら(2023)は、幼少期に虐待やネグレクトを経験しながらも、比較的良好な心理社会的状態にあった成人21人へのインタビュー研究で、自己価値の回復、過去の経験を整理して前へ進むこと、他者との境界線を持つこと、人生の意味を見いだすことなどを報告しています。

研究では、未来に目を向けられるようになることが、過去の経験を抱えながら生活を築いていく過程の一つとして示されていました。

過去の傷つきを経験した人の人生は、その傷つきだけで決まるものではありません。

これまで他人の期待に応えることで自分を保ってきた人が、少しずつ自分の希望を持ち、自分で選んだことに責任を持てるようになる。その変化の中で、未来の見え方も変わっていきます。

結婚を考えられなかった人が、安心できる相手と暮らすことを想像できるようになるかもしれません。仕事を辞めることが怖かった人が、自分の生活を守るために働き方を見直せるようになるかもしれません。

また、結婚をしないことや、競争の激しい働き方から離れることを、自分の意思で選ぶようになる場合もあります。

どのような選択をするかよりも、その選択が親の恐怖や期待に縛られたものから、自分自身の感覚や価値観に基づいたものへ変わっていくことが重要です。

回復とは、親を許すことや、無理に前向きになることではありません。

過去に縛られていた心身が少しずつ現在へ戻り、自分の感覚、自分の欲求、自分の境界、自分のリズムを取り戻していくことです。

その過程で、これまで考えることさえ難しかった未来が、少しずつ自分の人生の延長として感じられるようになっていきます。

まとめ|毒親育ちの人が、自分の未来を取り戻すために

毒親育ちの人が結婚や仕事、生き方について考えられなくなる背景には、長いあいだ自分の希望よりも、親の期待や周囲の反応を優先してきた経験が関わっていることがあります。

何かを望めば否定され、失敗すれば責められ、自分の意思を示すことが危険につながっていた人は、大人になっても選択することに強い不安を感じる場合があります。

将来について考えようとしても、何がしたいかより、何を選べば失敗しないか、どうすれば誰にも責められないかという問いが先に浮かびます。

過去の傷つきが心身に残っていると、未来に向かうための力が、現在の警戒や防衛に使われ続けることもあります。

そのため、回復では自分の身体や感情を確かめ、日常生活の中で小さな選択を重ねながら、自分が何を望んでいるのかを取り戻していきます。

これまでの人生で、親の期待に応えることや、周囲から責められないことが最優先だったとしても、これからの人生まで同じ基準で選び続ける必要はありません。

誰と暮らしたいのか、どこで働きたいのか、何を大切にして生きたいのか。その答えは、誰かに決めてもらうものでも、急いで見つけなければならないものでもありません。

自分の感覚を取り戻し、自分の意思で選べることが増えていくと、未来は少しずつ具体的な形を持ちはじめます。

未来が見えないのは、長いあいだ、生き延びることに多くの力を使ってきたからかもしれません。

その力を、これからは自分が望む生活を築くためにも使えるようになること。それが、過去の影響から少しずつ離れ、自分の人生を取り戻していく過程なのです。


参考文献

  1. Dadi, D., et al. (2023). Emerging adult college students’ descriptions of exposure to childhood emotional abuse and associated factors: A qualitative exploration. Child Abuse & Neglect, 146, 106516. 論文
  2. Phillips, A. R., et al. (2025). Lived-experience perspectives on the psychological factors linking childhood maltreatment to later intimate partner violence victimization. European Journal of Psychotraumatology, 16(1), 2524922. 論文
  3. Schneiderman, J. U., Mennen, F. E., Palmer Molina, A. C., & Cederbaum, J. A. (2023). Adults with a child maltreatment history: Narratives describing individual strengths that promote positive wellbeing. Child Abuse & Neglect, 139, 106133. 論文

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井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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