解離性障害を抱える人々の空想は、一般の人が日常的に行う空想とは異なり、非常に複雑で多層的なものです。一般の人も時折、現実から一時的に離れるために空想にふけることがありますが、これは通常、リフレッシュや創造的な思考の一環として行われます。しかし、解離性障害の人々にとって、空想は単なる逃避の手段ではなく、もっと深刻で避けられない現実逃避の形を取ることが多いです。
解離性障害は、過去のトラウマや極度のストレスに対する防衛機制として現れます。これにより、彼らは感覚遮断を引き起こし、自分自身を現実から切り離すことになります。この過程で、彼らは「こちら側の世界」と「あちら側の世界」との間を行き来することがあります。「あちら側の世界」は、彼らの内面の安らぎや安全を感じられる場所であり、外界の痛みや苦しみからの一時的な逃避先となります。
解離性障害の人々が空想に耽るとき、その空想はしばしば非常に詳細で、複数の人格や異なる時間・場所を含む複雑なものになります。これらの空想は、現実の世界に対する防御反応として、また過去のトラウマからの保護として機能します。彼らは自分自身を守るために、無意識のうちにこれらの空想の世界を作り上げ、その中で異なる人格や物語を展開させるのです。
トラウマ(外傷体験)の防衛機制
極度のストレス体験、例えば戦争、暴力行為、レイプ、誘拐、監禁、人質事件、拷問などを経験した人々は、その精神的影響から彼らの「本来の自己」(つまり、トラウマが発生する前の彼らの人格)が内側に閉じ込められることがあります。これは一種の心の防衛機制であり、自己をその苦痛から守るためのものです。
彼らは、トラウマ発生前の時間を記憶の中で再生し、その時間帯で生き続けることがあります。これは現実からの逃避ともいえます。その記憶の中では、現実の苦痛から解放され、自己を保護することが可能になります。
例えば、子どもの頃に生命を脅かすような強い衝撃を受けた人々は、心理的にその時点で時間が止まったかのように感じることがあります。彼らは心の中で、まるで学校に通い続けているかのような夢を見続けたり、夢の中の虚構の世界で生き続けたりすることがあります。このような精神状態にある人々にとって、現実の出来事から逃れることは自己を保護するための一種の手段であり、それは一見すると苦痛から解放されるための利点とも見えます。
現実逃避したい心理:安全地帯への旅
解離性障害を抱える人々は、自分たちが現実世界に直面するとき、それを薄いヴェールを通して見るかのような感覚に陥ることがあります。彼らにとって、そのヴェールは現実の世界と自分たちを分け隔てる境界線であり、この状態はまるで自分たちが別の世界にいるかのように感じることがあります。
その”上の世界”は、彼らが現実世界から逃避して自分だけで過ごす場所です。ここは物理的には暗く、一見すると快適とは言えない場所かもしれません。しかし、現実世界が彼らにとって怖くて不安な存在であることを考えると、この”上の世界”は彼らにとって比較的安心できる場所になるのです。
つまり、解離性障害の人々にとって、この”上の世界”は現実世界の恐怖から逃れるための隠れ家のようなものであり、彼らにとっての安全地帯となり得るのです。この”上の世界”は物理的には不快かもしれないが、彼らにとっては現実からの一時的な逃避場所となり、安心と安全を感じることができる特別な空間なのです。
解離性障害:夢の世界への逃避と現実への戦い
解離性障害は、極度のストレスやトラウマ体験が引き金となり、一つの人格が二つ以上に分裂する心の状態を指します。この病態にある人々は、彼らの「元の自我」が存在する世界を、あたかも「夢の世界」として経験することがあります。この夢の世界は物理的な肉体を超越した存在で、過去の痛みから逃避し、外部の敵から自己を遮断する安全な場所として機能します。ここでは、彼らは自己を安心させ、心地よく癒やすことができます。
しかしながら、この状態が長期間続くと、社会的な生活や人間関係を維持することが難しくなる可能性があります。
解離性障害を抱える人々は、現実の鮮烈な刺激に触れると、しばしば身体が硬直し、行動が取りづらくなることがあります。彼らは恐怖や不安に襲われ、体が力を失い、皮膚の感覚が鈍くなり、眠気が襲ってきます。その結果、彼らは再び夢の世界に引き戻され、現実の悩みや痛みから解放される。この安息の地は彼らにとって魅力的であり、しばしば現実の世界に戻りたくないという強い感情を生じさせます。
このような解離性障害の症状は、複雑なトラウマを抱える人々の間で一般的に見られるものです。これは彼らが現実の辛さや苦痛から逃れ、自己を保護するための一種の防衛機制と理解されます。
極度のトラウマが引き起こす現実と夢の自我の分離
極度のトラウマが人々に与える影響は深刻で、ショックの大きさにより、人は現実の生活について記憶を失うことがあります。解離性障害という状態に陥ると、もはや現実の出来事に主体的に参加する能力が損なわれ、現実世界との接触が困難になり、本来の自己へと戻る道が閉ざされる可能性があります。
このような過酷なトラウマを経験した結果、現実の世界から避難するために、新たな人格が生まれることがあります。この状況下では、元の自我は異なる世界で時間が止まってしまい、そのまま存在し続けることになります。夢の中で日々を過ごしているため、元の自我は年を重ねることなく、周囲の環境や仕事、学校の状況も変わることがない状態が続きます。現実と夢の世界での自己がはっきりと分離し、それぞれの世界で生きるような感覚に襲われることがあります。
トラウマによって現実世界での日常生活は新たな人格が代わって対応している間、本来の自我(解離する前の自我)はどこか遠くに存在しますが、誰もが到達することができない状態になります。この本来の自我は、夢の世界に存在しているかもしれません。その場所は例えば、天の川のほとりのような美しい景色かもしれません。解離性障害が深刻な場合、自己に戻ることができず、現実世界に接触することもできなくなってしまうのです。
解離性障害の克服:現実と夢の世界を統合するプロセス
解離性障害を乗り越えるためには、まず自分がどのように現実から逃避しているかを理解し、その逃避がどのようにトラウマと結びついているかを知ることが必要です。セラピストとの対話を通じて、過去の痛みを癒し、現実と夢の世界の間にある断絶を少しずつ埋めていくことが大切です。自己を統合し、現実世界での生活を再び取り戻すためには、長期的かつ一貫したサポートが求められます。
解離性障害において、社会とのつながりが失われることが多いため、再び社会生活に戻ることは大きな挑戦です。現実世界に戻るプロセスでは、小さなステップから始め、徐々に日常生活に戻ることが推奨されます。家族や友人の理解が、再び社会に適応するための大きな支えとなります。
また、夢の世界と現実世界のバランスを取り戻すことができれば、彼らは過去のトラウマを超えた新たな自己を見つけ出し、成長していくことが可能となります。この統合のプロセスは時間がかかるものですが、それによって自分自身や社会との健全なつながりを再び築くことができるのです。
最終的には、夢の世界と現実の世界を統合することで、彼らは過去のトラウマに縛られることなく、真の意味で自由な生き方を手に入れることができるでしょう。
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻すための22のレッスンとしてまとめました。
井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)
- 公認心理師(国家資格)
- 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)
- カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
- 児童養護施設でのボランティア
- 情緒障害児短期治療施設での生活支援
- 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
- 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
- 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
- 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入
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