生きづらさは、どこで生まれたのか。
この問いをめぐって書いた本、
『かくれトラウマ―生きづらさはどこで生まれたのか』が、ワニブックスより発売されました。
著者は、井上陽平(公認心理師)です。
2026年2月26日発売。現在、Amazonにてご購入いただけます。
緊張が抜けないのは、身体がずっと守ってきたから
毎日を普通に過ごしているだけなのに、疲れが抜けない。
人と会ったあと、家に帰ると動けなくなる。
休んでいるはずなのに、身体の奥がこわばっている。
誰かの声の調子や沈黙に、心がすぐ揺れてしまう。
こうしたしんどさを抱えている人は、長いあいだ自分を責めてきたのではないでしょうか。
「気にしすぎなのかもしれない」
「自分が弱いだけかもしれない」
「もっと普通にできるはずなのに」
けれど、心と身体の反応を丁寧に見ていくと、そこには別の物語が見えてきます。
緊張が抜けないのは、あなたが神経質だからではありません。
かつて安心できない環境の中で、身体が「休まないこと」を覚えてきたのかもしれません。
人の顔色を読む。
怒らせないように先回りする。
空気を壊さないように自分の気持ちを飲み込む。
本音を出す前に、相手の反応を想像する。
それは、弱さではなく、生き延びるために身についた力でした。
ただ、その力が大人になっても働き続けると、安心できる場面でも身体だけが危険に備え続けてしまいます。
本書では、そうした目に見えにくい心身の反応を、「かくれトラウマ」という視点から読み解いています。
過緊張について先に知りたい方は、こちらの記事も参考になります。
https://trauma-free.com/hyper-tension-nervous-system/
「何も起きていないのにしんどい」の奥にあるもの
トラウマというと、大きな事件や事故、災害のような出来事を思い浮かべる人が多いかもしれません。
もちろん、そうした体験も深い傷になります。
けれど、臨床の中で見えてくるのは、もっと静かで、もっと日常に入り込んだ傷つきです。
たとえば、親の機嫌を常にうかがっていた。
家の中に安心できる空気が少なかった。
泣きたいときに泣けず、怒りたいときに怒れなかった。
助けてほしいときに、迷惑をかけないように我慢してきた。
自分の感情より、相手の機嫌を優先することが当たり前になっていた。
こうした環境では、身体は「今を楽しむ」より先に、危険を察知することを覚えます。
声のトーンが少し変わる。
足音が近づく。
沈黙が長くなる。
相手の表情が曇る。
その小さな変化を身体が拾い、胸が固まり、呼吸が浅くなり、頭の中が一気に忙しくなる。
大人になってからも、その反応は残ります。
職場で少し注意されただけで、存在ごと否定されたように感じる。
LINEの返信が遅いだけで、見捨てられたように不安になる。
相手が黙っただけで、自分が何か悪いことをしたように感じる。
人といると笑って合わせられるのに、帰宅後にどっと崩れる。
それは、いまの出来事だけに反応しているのではありません。
過去の環境で身についた警戒が、現在の人間関係の中で再び動き出しているのです。
アダルトチルドレンや機能不全家庭の背景については、こちらにもまとめています。
https://trauma-free.com/adult-children/
過剰適応の感覚が強い方は、こちらの記事も参考になります。
https://trauma-free.com/overadaptation/
かくれトラウマは、身体の中に残る
本書で扱っている「かくれトラウマ」は、思い出としてはっきり残っている傷だけを指しているわけではありません。
むしろ多くの場合、それは言葉になる前に、身体の反応として残っています。
誰かの不機嫌に胸がざわつく。
人の視線を感じると身体が固まる。
安心してよい場面なのに落ち着かない。
優しくされると、かえって怖くなる。
休むと罪悪感が出る。
何もしない時間に、不安が膨らんでくる。
こうした反応は、頭で考えているというより、身体が先に動いています。
だからこそ、「考え方を変えよう」としても、なかなか楽になりません。
頭では「大丈夫」とわかっていても、身体が危険を感じていると、心は落ち着けません。
大切なのは、正しい考え方を自分に言い聞かせることよりも、身体が安心を感じ取れる時間を少しずつ増やしていくことです。
肩の力が少し抜ける。
呼吸が少し深くなる。
足の裏が床につく感じが戻る。
相手の感情と自分の感情を分けられる。
緊張している自分に気づいても、すぐに責めずにいられる。
回復は、劇的な変化だけで進むものではありません。
身体が「ここは前とは違う」と少しずつ学び直していく中で、心の奥にあったこわばりも、ゆっくりほどけていきます。
自律神経や迷走神経について知りたい方はこちらも参考になります。
https://trauma-free.com/vagus-nerve/
過去を無理に掘り返す本ではありません
トラウマの回復というと、過去を詳しく思い出し、つらかった出来事を語らなければならないと思われることがあります。
けれど、傷つきが深い人ほど、いきなり過去に触れることが大きな負担になることがあります。
話そうとした瞬間に、頭が真っ白になる。
身体が固まる。
急に眠くなる。
涙が出るのに、何を感じているのかわからない。
話したあとに、数日間ぐったりしてしまう。
それは、心が弱いからではありません。
身体が、その人を守ろうとしている反応です。
本書では、過去を無理に掘り返すことよりも、いまの身体に残っている反応を理解することを大切にしています。
「なぜ私は、すぐ緊張してしまうのか」
「なぜ人といると、こんなに疲れるのか」
「なぜ休んでいるのに、休んだ感じがしないのか」
「なぜ安心したいのに、安心すると落ち着かなくなるのか」
その理由を、自分責めではなく、心身のしくみとして見ていく。
そこから回復は始まります。
解離的な反応や、心と身体が離れてしまう感覚について知りたい方はこちら。
https://trauma-free.com/dis/
回復の入口については、こちらにも整理しています。
https://trauma-free.com/treatment/recovery/
22のレッスンで、安心を取り戻していく
『かくれトラウマ』では、身体と神経系の視点を軸にしながら、感情、人間関係、自己否定、休めなさ、過緊張、反芻、境界線の問題まで扱っています。
ただ知識を並べるのではなく、読んだ人が自分の生活の中で
「これは自分の身体にも起きていたことだ」
と感じられるように書きました。
本書の中心にあるのは、安心を取り戻すための22の小さなレッスンです。
自分の状態が上がりすぎているのか、沈みすぎているのか。
休んでも回復しないとき、身体の中で何が起きているのか。
人間関係で消耗するとき、どこで自分の境界が薄くなるのか。
自己否定が止まらないとき、まず何を整えればよいのか。
こうした問いを、日常の感覚に近い言葉でたどっていきます。
回復は、自分を追い込むことではありません。
もっと強くなることでも、過去をなかったことにすることでもありません。
身体が安心できる条件を、ひとつずつ増やしていくこと。
自分の反応を責める前に、その反応が生まれた理由を知ること。
人に合わせてきた心を、自分の感覚のほうへ少しずつ戻していくこと。
その積み重ねの中で、人は少しずつ、自分の輪郭を取り戻していきます。
人といると疲れる人へ
この本は、人間関係で疲れやすい人にも向けて書いています。
人と会う前から緊張する。
会話中も、相手の表情や声の調子を読み続ける。
変なことを言わなかったか、あとから何度も思い返す。
相手に合わせすぎて、自分が何を感じていたのかわからなくなる。
こうした反応の奥には、関係の中で安心できなかった経験が関係していることがあります。
本当は人とつながりたい。
でも、近づくと苦しくなる。
大切にされたい。
でも、優しさを受け取ると怖くなる。
ひとりは寂しい。
でも、人といると自分が消えていく。
この矛盾は、とても深いところで人を疲れさせます。
本書では、そうした「近づきたいのに苦しくなる」心の動きを、性格の問題として片づけず、身体の防衛反応として読み解いています。
境界線は、頭で引くものだけではありません。
相手の感情と自分の感情を分ける感覚。
自分の身体の内側に戻ってくる感覚。
相手に合わせながらも、自分の中心を失わない感覚。
その感覚を育て直すことが、人間関係の回復につながっていきます。
反芻や考えすぎが止まらない方は、こちらの記事も参考になります。
https://trauma-free.com/rumination-overarousal/
休んでも回復しない人へ
「休めばよくなる」と言われても、休むことそのものが難しい人がいます。
横になっても、身体の芯がゆるまない。
眠っても、疲れが取れない。
予定がない日ほど、かえって不安になる。
何もしていないと、罪悪感が出てくる。
休んでいるのに、頭の中だけがずっと動いている。
これは、単なる疲労だけでは説明しきれません。
過去に、気を抜けない環境で過ごしてきた人の身体は、休むことを安全と結びつけにくくなります。
休むと危ない。
何もしないと怒られる。
油断すると傷つく。
止まると、置いていかれる。
そうした感覚が身体に残っていると、休息の時間でさえ緊張を生みます。
本書では、休めなさを「怠けられない性格」として見るのではなく、身体が休息を安全なものとして受け取れなくなっている状態として見ていきます。
大切なのは、いきなり深く休もうとすることではありません。
まずは、身体が受け取れる範囲で、ほんの少し緊張をゆるめることです。
あたたかい飲み物を持つ。
背中を壁につける。
足の裏を感じる。
外の音を聞きながら、今いる場所を確かめる。
身体が「今は大丈夫かもしれない」と感じられる瞬間を増やしていく。
小さすぎるように見えることが、回復の土台になります。
身体が沈む、動けない、凍りつくような感覚が強い方はこちらも参考になります。
https://trauma-free.com/shutdown-freeze-recovery/
この本を手に取ってほしい人
この本は、はっきりした理由のない生きづらさを抱えてきた人に向けて書きました。
人の目が気になりすぎる人。
いつも身体が緊張している人。
休んでも回復しない人。
自分を責める癖が止まらない人。
人間関係で消耗しやすい人。
過去を思い出したくないのに、身体だけが反応してしまう人。
安心したいのに、安心する感覚がわからなくなっている人。
そして、長いあいだ
「自分のこの苦しさには、何か理由があるはずだ」
と感じてきた人に、読んでほしい一冊です。
この本に込めたこと
生きづらさを抱えている人の多くは、自分を責める言葉をたくさん持っています。
弱い。
重い。
面倒くさい。
気にしすぎ。
普通にできない。
人とうまく関われない。
でも、その言葉の奥には、ずっと守ろうとしてきた身体があります。
怒られないように身構えてきた身体。
相手を優先してきた心。
寂しさを飲み込んできた小さな自分。
助けを求める代わりに、平気なふりをしてきた日々。
安心したいのに、安心することさえ怖くなってしまった神経。
『かくれトラウマ』は、その反応を責めるための本ではありません。
その反応が、どこで生まれ、どのように今の生活に残っているのかを見つめる本です。
自分を責める言葉が少し静かになる。
身体の反応に理由が見えてくる。
人に合わせすぎていた心が、自分の感覚へ戻ってくる。
休むこと、頼ること、境界を持つこと、安心することを、少しずつ学び直していく。
そのための一冊として、この本を書きました。
書誌情報
書名: かくれトラウマ―生きづらさはどこで生まれたのか
著者: 井上陽平
出版社: ワニブックス
発売日: 2026年2月26日
ASIN: 4847076303
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本書では、身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻すための22のレッスンとしてまとめました。