自己愛性パーソナリティ障害

自己愛性パーソナリティ障害は、誇大な自己像、自分は特別である、賞賛への欲求、権力、他者を利用する、共感の欠如、嫉妬、傲慢など広汎なパターンを特徴とします。精神分析的自己心理学の提唱者コフートは、自己愛性パーソナリティ障害を両親が共感に失敗することから生じる自己の欠損に由来するものと考えていて「自己愛パーソナリティ障害の患者の問題は自己体験の断片化から生じる。」と述べています。

自己愛性パーソナリティ障害

自己愛性パーソナリティ障害の原因

自己愛性パーソナリティ障害の原因としては、ひとつには、子どもが成長する過程で、養育者が不適切な態度を取ることがあげられます。ふたつめには、トラウマ(外傷体験)という文脈において考えてみると、トラウマを負った人が、人生のなかで不条理な目に遭い続けることがあげられます。彼らは、子どもの頃に感じていた親や家族、他者への不快感を、大人になっても再体験します。

自己愛性パーソナリティ障害の人は、人生の不条理な有り様のなかで戦ってきたため、他人への根深い不信感があり、自分の弱さや恐れをさらすことできません。どうしようもなさや変えられない不運な境遇に生まれてきたという惨めさがあり、優越感にのめり込む反面、劣等感や無力感、被害者意識が強くなります。子どもの頃から、自分のこだわりが強く、依存や執着があって、それをお守りにしています。

自己愛性パーソナリティ障害の人は、トラウマの犠牲者であり、攻撃な部分と無力な部分を併せ持ちます。また、発達障害の傾向を持つ人もいて、無力だからこそ優位に立って生きるしかありませんでした。本当は気が弱くて、パニックやフリーズ、癇癪を起こしやすいですが、そんな無力な自分では生き残れないから、凄い自分になろうとして、万能感を持ちます。トラウマや発達障害というハンデがあると、現実の生々しい刺激に対して、自律神経系の調整がうまく働きません。嫌悪刺激に対しては、過剰に反応して不快に感じます。緊張が強まる場面では、不安や焦りが出て、自分のことばかりに意識が向いてしまいます。日頃から、次の脅威に備えた人生になり、相手の顔色を伺い、外界のプレッシャーと戦いながら、正しい答えや正しい選択肢を探ります。そして、相手のために頑張ったぶんだけ、自分のことを特別扱いしてもらいたいと思います。しかし、動かしがたい他者との関係のなかで、完璧な答えが見つからず、自分を大切に扱ってもらえない辛さで、もがき苦しみます。

自己愛性パーソナリティ障害の特徴

自己愛が強い人とは、ナルシストであり、自分は何でも知っていて賢くて、能力があり、特別な存在なんだと信じています。根拠がない自信を信じ込んでいて、自分が幸せであるかのように過ごします。そして、自分は世の中の本質を見極めていて、人がみな馬鹿に見えます。誇大な空想に耽り、思い上がって人を見下し、人を人とも思わないような態度を取る人もいます。病的な自己愛な人ほど、自分に酔っていて、実際の自分より大きくみせて、傲慢な生き方になります。

他者の評価が自分の評価になるため、完璧な自分を演じようとしています。普段から、人に良く思われるために、自分に厳しく、たくさんの知識を取り入れるとか、美しくいたいとか、綺麗に保つことを心掛けています。非の打ちどころのない人間じゃないと安心できないので、いい車に乗り、スーツや時計、靴にこだわり、整形やジム通い、ダイエットをして外見を磨く人もいます。仮面を被り、表と裏の顔を使い分けて、他人に良く思われることが、自分の価値につながり、心地良さを感じます

一方、トラウマ(外傷体験)の影響から、自己愛的な損傷があり、怒りのパーツを閉じ込めていて、それが現在の人間関係を生きにくくしています。彼らは、ありのままの自分を受け入れ愛することができません。ありのままの自分は、人付き合いが苦手で、理想とは程遠いため、理想の自分とのギャップに苦しむことになります。自己愛性パーソナリティ障害の人は、慢性的な空虚な感覚を持ち、自分自身を保てない不安、先々どうなるかわからない不安が強くあり、その不安を減らすために、外的な価値で埋め合わせをしますが、外面を取り繕うだけの人生になり、人間らしさに欠けています。

世の中への不信感

親への信頼関係が育たず、基本的信頼感がないまま大人になりました。世の中への不信感があり、誰といても安心できず、家族や社会に支えられてきたという実感が薄く、感謝の気持ちを持てません。人から文句を言われたり、恥をかかされることを恐れ、心の奥底には、罪悪感や劣等感、孤独感があります。

権威に対して

権威に対して、批判的に考える人もいますが、一方で、権威を目の前にすると、その相手の顔色を伺いながら、一生懸命に頑張って、賞賛されたいとか、特別扱いしてほしいとポジション争いをして、要領がいい人がいます。彼らは、自分より目上の人には良い顔をしますが、自分より下だと思っている人には軽く扱います。また、人の集まりの中で、その場の雰囲気を悪くする人に腹が立ち、誰かを悪者にすることで、皆の絆意識を高め、自分を安心させます。

完璧主義

物事がスムーズにいっているときは何も問題がありませんが、不快な状況に直面すると、落ち着かなくなり、苛立ちや強迫行為、抑うつ感が出ます。彼らは、傷つきやすいメンタルを持ち、自分が他者から必要とされなくなることに不安を持ち、自分の失敗や欠点を恐れています。普段から、不快な状況に陥らないように、頭で完璧な選択肢や完璧な答えを考えて、論理で武装し、問題解決しようとします。ただし、完璧さを求めれば求めるほど、到達が難しいことにチャレンジしており、ミスができないから、気を張って、ハードな生き方になります。

ストレスへの脆弱性

ストレスが少ない状況では何も問題がありません。しかし、一般の人と違うのは、ストレスに対して脆弱で、自律神経の調整不全があり、ストレスが強くなると、身体的な問題が表れ、心理面に大きな影響が出ます。恥をかいてしまうと、周りが見えなくなり、声がうわずったり、汗をかいたり、手足が震えたりします。人間関係で思い悩み、八方塞がりの状況に陥ると、抑うつ感や過覚醒になり、自分を大切にされていないと感じると、自分の感情を制御できなくなり、自己愛憤怒を引き起こすかもしれません。そのため、普段から、環境の変化に敏感になり、最悪なことが起きないように自意識が過剰になります。

賞賛への欲求

自分の弱さや惨めさをさらすことは死につながると思っているところがあります。耐え難い現実の防衛として、自分は特別なのだという意識があり、すごい愛の空想にとらわれて、必要以上に自分を大きく見せます。また、人から評価されたくて、美しさや富、名声と同一化し、大勢の人から注目を集めるとか、他者から賞賛されることを望んでいます。

自己愛憤怒

パートナーや甘えられる人に対して、自分を大切にされていないとか、自分の思った通りにしてくれないことに腹を立てます。恥をかかされたと激怒する時は、手足が震え、感情を抑えきれず、後先の人間関係を考えず、その怒りを対象にぶちまけます。罵声を浴びせかけ、感情のままに振る舞い、怒りがなかなか鎮まらない場合は、長時間に及びます。怒っているときは、活発に動けて、活発に思考もでき、体の中に滞っているエネルギーを発散して、自分を元気にします。

自他の境界が曖昧

トラウマや発達障害の影響から、体にハンデを抱えており、不自由な人生になりますが、脱身体化させて、傷つかさなさと偽りの姿で社会に適応します。そのため、私は人間であるという体験が欠けており、自他の境界が曖昧で、積極的な行動を取り、他人のものまで自分のものにしてしまいます。

優位と劣位

何事にも失敗することを恐れ、人と比べてしまって、自信を失いますが、その分だけ優位に立ちたいと思います。自分が優位に立っている時は、息がきちんと吸えて、元気です。自分が劣位に立たされた時は、いたたまれない気持ちになって、その場にいられなくなります。地味な自分より派手な自分に、惨めな自分より優越的な自分に、臆病な自分より特別な自分になろうとします。

高機能の自己愛性パーソナリティ障害

高機能の自己愛性パーソナリティ障害の人は、子どもの頃から、学校の成績が優秀で、運動も得意で、外見も自信があって、集団の中では自分の思う通りにできた経験が多く、ポジティブな記憶を持ちます。彼らは、自分はこんなはずじゃないと強く振る舞い、不快な状況に陥れば、正解を探して、問題解決していきます。このタイプは、日本社会において男性が優遇されているため、社会的に成功しやすいポジションにいる男性に多いです。

高機能の自己愛性パーソナリティ障害の人は、仕事がうまくいき、社会的に成功しやすいです。高機能な人ほど、自分の思う通りに動かすことに長けていて、若いのに管理職についていたり、年収も日本の平均年収の2~5倍以上稼ぐ人もいます。頭の中で合理的思考が出来て、仕事を転々とすることなく、長期に渡り、一つのことを継続する力があります。

子どもの頃から、親に厳しく躾られて、その親の顔色を伺いながら、行動の手順を考え、先回りをして、正解を探す優等生になり、実績や結果を残してきました。仕事では、認められようと頑張り、石橋を叩いて叩いて、進みます。あらゆる想定をして、バックアップし、こういうケースではこうしようとか、次こうなったらこういうプランを立てようとします。そして、仕事に取り組んで、周りから評価されることが、自分の評価になり、気分の不安定さを埋めてくれます。

中年期以降は、役職を任されるようになり、責任ある立場についていきます。仕事で責任やプレッシャーを抱えて、追いつめられながらも、与えられた課題を解決していき、仕事のストレスを家庭に持ち込むようになります。外では、良い夫を演じますが、家の中では、重箱の隅をつつくように、妻のあら探しが始まり、無茶苦茶な態度を取ります。

低機能の自己愛性パーソナリティ障害

低機能の自己愛性パーソナリティ障害の人は、子どもの頃から、学校の成績が悪く、運動も苦手で、外見に自信がなく、集団の中では自分の思った通りにはいかず、ネガティブな記憶を持ちます。彼らは、敏感なプライドを持ち、傷つくことを極度に恐れています。そして、無力感に支配されていき、人目を避けようとして、下を向いて歩き、引きこもる傾向があります。このタイプは、発達障害や複雑なトラウマを抱えている男女に多いです。

低機能の自己愛性パーソナリティ障害の人は、本番で緊張しすぎて、力を出しきれずに、どれだけ努力していても不完全な結果に終わり、失敗だけが積み重なります。ひたすら努力して、完璧を求めて、高い理想を持ちますが、性格は引っ込み思案でうまくいかないために、現実の自分と理想の自分のギャップに苦しみ、落ち込みます。

また、将来をネガティブに考えてしまい、将来に対して、絶望や無力感があり、焦りを感じます。先々どうなるかわからない不安が強く、いろんなリスクを考えすぎて、自分がどうしていいか分からずに、頭の中をグルグルしています。具体的な問題解決があっても、自分の力を信じることができず、選ぶことの自由を放棄して、うまく対処できません。そして、他者から良いものを差し出されても、拒んでしまいます。

彼らは、些細なことでも脅かされているように感じて、恐怖が大きくなり、決断できません。頭の中は、不安や心配事ばかりになり、何も選ばないでいると、憂鬱な気分にとらわれ、時間だけが過ぎて。ますます動けなくなり、人前に出られくなります。世の中の変化が怖く、生き残るための行動はできても、自分の主体的な行動はできません。

トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2021-02-21
論考 井上陽平

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