トラウマインフォームドケアの主要原則について

トラウマインフォームドケア(Trauma-Informed Care)は、トラウマとは何か、その経験がどのように個人に影響を与えるかを理解することから始まります。そして、トラウマの経験がその人の健康に与える影響を認識し、それに対応するための医療やケアのアプローチになります。

また、トラウマインフォームドケアは、トラウマを経験している人が、自分の体の中にトラウマがあることを認識し理解することで、治療やケアを受けやすくすることを目的としています。

トラウマインフォームドケアには、以下のような要素が含まれています。

  • 治療とケアをより利用しやすいものに、患者のトラウマ体験を認識して理解する。
  • トラウマ体験が患者さんに及ぼす心理的影響を認識し、対応する。
  • 治療とケアのプロセス全体を通して、患者に安全で信頼できる環境を提供します。
  • 治療やケアのチームにおいて、トラウマに対する知識やスキルを習得し、患者に対して適切な支援を提供すること

トラウマインフォームドケアは、医療や福祉、教育、司法など様々な分野で使用されており、患者に対して適切な支援を提供することが期待されています。

トラウマインフォームド・ケアを学ぶ

ここからは、厚生労働省の資料をまとめています。

トラウマの影響を受けた子どもや家族は、その影響による行動化や症状を周囲に理解されず、しばしば叱責、誤解といった不適切な対応を受けている。トラウマを経験した人は、叱責や制限だけで対応されてきた場合、自責感や自己否定感は、トラウマの回復を妨げる。

トラウマインフォームド・ケア(TIC)は、公衆衛生的な基本的な知識に基づく関わりを指し、トラウマケア全体の基盤に位置づけられるものである。トラウマが広く周知され、正しい知識や対応がされるようになり、誤った理解や対応を減らしていこうという取り組みです。

TICは、現在の行動をトラウマの観点から理解するアプローチであり、一般的なトラウマに関する情報を提供し、対象者をトラウマの「メガネ」(なぜ、その問題とされる行動が起きているのかを見える化する視点)を用いて理解しようとするものである。

トラウマケアの3段階としては

  • Informed∶基本的理解
  • Responsive∶適切な対応
  • Specifit∶特化したケア

TICを「4つのR」で説明している。

  • ReaIize∶トラウマについての知識を持ち
  • Recognize∶どんな影響を受けているか認識して
  • Respond∶適切な対応をすることで
  • Resistre−traumatization∶再トラウマを予防する

TICでは、支援者がトラウマを理解するのではなく、本人やその身近な人にもトラウマの性質や影響、適切な対処法を伝える「心理教育」が欠かせない。

トラウマになりうる出来事は、その全てがトラウマ(こころのケガ)となるわけではない。同じような出来事であっても、主観的体験は人によって異なる。被害時の状況だけでなく、その後で周囲がどのように対応してくれたかといった体験も影響する。すぐに適切なケアがされていれば、回復が見込めるが、放置されたり、責められるといった二次被害を重ねるほど、予後は悪くなる。

トラウマの影響は、幼少期の体験は人生に大きな影響をもたらす。児童期逆境体験(ACEs)に関する研究では、18歳までの虐待や家族の機能不全といった出来事を数多く体験するほど、成人期以降の心身の疾患や社会適応の状態を悪化させ、暴力の連鎖や寿命の縮小につながることが実証された。

トラウマを体験したあと、無自覚にトラウマと類似した行動や関係性を繰り返すという「トラウマ関係の再演」が起こりやすい。相手の度重なる“試し行動”や裏切り、攻撃といった挑発的な態度によって、支援者も、個人的なトラウマを抱えている。

TICは、子供や家族だけではなく、支援者を含むあらゆる人を対象とする。トラウマに関わる現場では、職員の二次的外傷性ストレスは避けられない。トラウマの影響に気づき、それに対する健康的な対処を身につけていくというTICのアプローチは、支援者の安心や安全感なしに、対象者の回復はない。

トラウマ体験後の回復・成長

子ども時代に虐待を経験した人が、成人期になっても脳損傷が続いている。子ども時代のような激しいストレスを繰り返し経験した個人は、常時、警戒興奮状態が解除できない状態に長期間置かれることになり、それが脳に破壊的なダメージを与えている。

トラウマによるダメージによって発生するような過覚醒反応による不穏行動を、自己中心性の問題とは区別して対応することが必要だと考えられる。このアプローチを基本的に支える具体的な方法論の一つが「トラウマインフォームド・ケア」と呼ばれる一連のアプローチである。

子どもが生活における安全な居場所の感覚の獲得は、穏やかな繰り返しの感覚∶日常性が感得されることと深くつながっていることが多い。こころのケガ(トラウマ)の影響のために生じているかもしれない不穏状態や不安・緊張、興奮状態や、暴力、挑発行為、自己破壊的な行動の出現に、支援者と当人が被害経験者の心身・感情状態、PTSDやトラウマの再演に気づくことが始まる。

トラウマの影響を知り、その反応についての理解が進むことで、不穏状態への対処、コントロールへの注意も明確になっていく。能動的に対処を試み、不穏状態に対して支援関係を通じて被害経験者と支援者が事態をコントロールできるようになっていくことは、トラウマインフォームド・ケアの中核的な領域である。治療の適用によっては、専門とする医師等の判断によるが、同時に当人の生活環境におけるみたてとトラウマインフォームド・ケアが協働して進められることが望ましい。

成育経過に過酷な経験をして、こころのケガ(トラウマ)と呼ばれるようなダメージを受け、かつ、家族から離れて、社会的養護、教育サービスを受けることになった子どもへの支援の目標は、自立支援であり、対人関係におけるレジリエンシーのある関係性の経験とそうした関係がもてる環境の保障が子どもを支える。生活適応に必要な理解と支援を継続的に確保し、それぞれの人生の選択、生き方をえらぶことを支え、助け、理解し合い、分かち合っていくために、できることはまだまだ多く、未達成の課題として残されている。

支援者が心得ること

トラウマに対処するには、安全で協力的な環境を作る必要があります。トラウマは、治療を受ける個人が安全ではなく、サポートされていないと感じさせる可能性があります。支援者とトラウマを経験している人の間で明確な境界の提供や、力のダイナミクスの確認、オープンなコミュニケーションの促進が含まれます。

トラウマに関わる支援者が自分自身の反応に注意しましょう。トラウマは対処することが難しい場合が多く、それに対する自分自身の反応を認識することが重要です。これには、自分自身の成育歴や現在の状況、心身の状態などを認識し、一歩下がって自分の世話をする必要があるかもしれません。

トラウマインフォームド・ケアは、人中心のアプローチになります。つまり、個人のニーズに焦点を当て、今までのユニークな経験や文化的な背景、歴史、およびアイデンティティを考慮に入れます。

トラウマはさまざまな形で現れる可能性があり、個人にさまざまな影響を与える可能性があります。サポートを提供するさまざまな方法に柔軟に対応することが重要です。

トラウマインフォームド・ケアでは、多くの場合、トラウマの対処するのに役立つ資源と個人を結びつけます。これには、治療、支援グループ、およびその他の形態の支援が含まれます。

トラウマインフォームド・ケアは常に進化している分野です。最新の調査、ベストプラクティス、トレーニングの機会を常に把握して、可能な限り最高のサポートを提供できるようにしてください。

参考文献:トラウマインフォームド・ケアを学ぶ – 厚生労働省

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-01-28
論考 井上陽平