トラウマの種類|心的外傷体験による身体反応

トラウマ的な出来事とは、命の危険を脅かされるような状況において、自分で有効な対処を取ることができず、激越な感情に襲われ、耐え難い痛みを負う経験を指します。最重度のトラウマ場面では、戦うことも逃げることもできず、恐怖と凍りつくような寒さに包まれ、身体が極限まで縮こまり、血の気が引いて、身体が崩れ落ちていき、気を失うこともあります。

トラウマ症状の種類

外傷体験の中で最も精神的なショックが大きい箇所をホットスポットと呼びます。トラウマのホットスポットで感じる恐怖は人によって異なりますが、脅威に対して最大限の機動力を発揮するため、人間の身体は極限まで拡張と収縮を繰り返します。しかし、有効な手段が取れず、身動きが取れなくなると、体の中からバンと破裂するような体験になります。この時、自分の容量を超えてしまい、最重度のトラウマ反応が起こることがあります。

命の危機に直面すると、人は行動する準備をし、交感神経が活発に働き、心臓が全身に血液を送り、手足を機敏に動かして、戦うか逃げることができます。しかし、自分を脅かす対象が圧倒的に強い場合、戦うことも逃げることもできず、本来取るべき行動が妨げられ、身動きが取れなくなり、身体が凍りついて不動状態になります。その後も、脅かされることが繰り返されると、解離、離人、死んだふり、機能停止、虚脱、人格交代などが起こることがあります。

闘争/逃走

人は危険が差し迫ると、目をこらし、耳を澄まし、胸がざわついて、過剰警戒になります。脅威が目の前に迫り、危険を感じると、交感神経が活性化し、心拍数や呼吸が増えて、血液を筋肉に送り、行動を取る準備に入り、闘争/逃走状態になります。身体は興奮し、過覚醒になり、毛が逆立ち、目が大きく開かれ、瞳孔が拡張し、呼吸は浅く早く、心臓がバクバクして血液を全身に送り、手足の力がみなぎって機動力になります。脅威に直面した極限状況では、一瞬スローモーションになるような体験をする人もいます。

このような身体の反応は、自然な防衛反応であり、身を守るための身体の機能です。しかし、強いストレスが継続すると、身体は疲弊し、健康を害することがあります。また、長期にわたるストレスによって、精神的な問題や心身の不調を引き起こすことがあります。脳は、情報を集め、判断し、適切な反応をすることで、身体を守ることができます。しかし、過剰なストレスによって、脳は過剰な興奮状態に陥り、正常な機能を失うことがあります。このような状態は、不安症状やパニック症状を引き起こすことがあり、心身に悪影響を与えることがあります。

凍りつき

凍りつきとは、いつ脅かされてもおかしくない状況下で、頭の中は「大変だ!どうしよう」と焦りながら、じっと耐え、脅威が去るのを待つ状態を指します。この状態では周りの様子を伺うことができますが、強い恐怖で身がすくみ、喉がつっかえて、胸が圧迫されるような痛みを感じ、息が止まるような感覚になります。身体が凍りついて身動きが取れない場合には、感覚が麻痺して声を出すことも、叫ぶこともできず、頭の中が真っ白になることもあります。

不動状態

敵に捕まってしまう状況では、戦うことも逃げることもできず、筋肉が固まって動かせなくなります。恐怖が怒りを抑え込み、心拍数や血圧が上昇し、体が過剰に刺激されて興奮し、交感神経と副交感神経が強く作用し合っています。このような状態で無力感が強くなると、解離や離人症状が現れ、機能停止や虚脱状態に陥ることがあります。

解離・離人

解離・離人症状は、脅威に曝されて身体が動かせなくなり、心身ともに痛みや不安、恐怖を感じた時に現れる現象です。この状態では感覚が麻痺していき、自分の身体がぼやけたり、自分の身体が切り離されていくような感覚が生じたりします。また、激しい感情に圧倒されて交感神経がシャットダウンし、筋肉が極度に弛緩し、心拍数や血圧が低下して、意識が朦朧としている中で解離が発生します。

解離症状が深刻な人は、恐ろしい体験に直面すると身体が硬直して動けなくなったり、パニックや混乱、震え、死んだふり、機能停止、虚脱などが起こるため、うまく対処できなくなることがあります。また、身体感覚や感情が鈍化して「からっぽ」のようになり、何もできなくなることもあります。そのため、危機的状況に直面した場合、自分を解離させ、防衛的な人格に身を委ねることで、早急に対処することができます。解離する前の自分は、宙に浮いていたり、夢の中にいたり、気絶したりすることがあり、気がつけば終わっていることがあります。解離した後の自分は、現実世界の危機的な状況に対処します。そのときには、様々な人格が現れ、その場その場に応じた態度を取ることがあります。たとえば、攻撃的な人格が現れると、トラブルメーカーになりやすく、冷静な人格が現れると、スムーズに対処できるようになります。

解離症状がある人が危機的状況に直面すると、自分の身体から離れた視点になり、眼差しの視点で自分の様子を上から見下ろしているような感覚を持つことがあります。そして、自分の身体を防衛的な別の人格に明け渡して、難しい場面を乗り切ろうとします。ここで問題なのは、周囲からはその本人が狂気に陥って動けない状態や、解離・離人、虚脱、人格交代といった現象が目に見えないため、誤解されやすくなります。周囲の人は、自分なら絶対取らないような言動をしている姿をその人だと思います。解離する前の自分と解離した後の自分の人格が大きく異なる場合、周りの人からはその人格の行動が理解できず、トラブルを引き起こしたと誤解されてしまうことがあります。凍りつきや不動、解離、離人、虚脱、別人格化の現象は、一般の人には理解しづらい症状であるため、解離症状についての研究も進んでいない現状があります。

死んだふり

死んだふりとは、敵に対して戦うことや逃げることができない状況下で、体を小さく丸めてうずくまり、攻撃を回避して、なんとか乗り切ろうとする行動です。この行動は、脅威から身を守るために身を捨てることを意味し、敵の攻撃を防ぐために動かずにいる戦術と言えます。死んだふりの人は、息を潜め、静かにしていて、人目につかないように隠れて、周囲の状況を注視しています。脅威の対象がまだ存在する場合は、心臓をドキドキさせて、怒りや恐怖の感情を持ちながら、その存在が消えるまで身を隠し続けます。

機能停止

機能停止は、危機的な状況に直面したときに、張りつめた緊張感の中で、戦ったり逃げたりできない場合に起こる現象で、頭がフリーズして五感、呼吸、筋肉、血液循環、消化器、エネルギーの活動機能が一部停止し、最小限のエネルギーで生き延びようとします。全身が固まり、動けなくなり、何も言えなくなり、気絶しそうになり、身体から魂がどこか遠くに消えたような抜け殻状態で静止しています。

虚脱

虚脱は、脅威的な状況に直面して、全身が凍りつき、胸や背中が痛み、手足が硬直して動かせない状況に陥った場合に起こる現象です。容赦のない攻撃を受けることで、無力な状態に陥り、息が詰まったり、腸が捻じれるような痛みを感じたり、筋肉が伸びきって力を失ったりすることがあります。心臓の働きが低下し、血の気が引いて、意識が遠のいて、身体が崩れ落ちます。崩れ落ちるときは、全ての望みを放棄して、極限状態に陥る反応であり、交感神経がシャットダウンし、張り詰めていた緊張感が崩壊します。足はふらつき、身体は重くなり、力が入らず、自分自身が跡形もなく消えてしまうような体験をします。

虚脱状態に陥った人は、顔色が青白く、全身の筋肉が緩んで身体が開ききり、心臓が膨らんで脈が弱くなり、身体の感覚が鈍くなります。身体が液体になって溶けていくかのような感覚があり、自分の身体と外の世界との境界が曖昧になり、現実感を失ってしまう場合があります。離人感や現実感喪失症などが現れ、視界が歪み感覚が錯乱し、自分の感情が分からず、自分の進むべき方向性が見失われることもあります。

捻じれるトラウマ

捻じれるトラウマは、突然襲いかかる強烈なショックによって、身体が強い力で捻じれるように歪んでしまう現象です。そのショックによって、身体の筋肉が崩壊して、身体の一部が反転し、白目を向いたまま気絶することがあります。また、過去と現在の時間軸が遮断され、過去から現在までのつながりが切れ、過去の自分と現在の自分がつながらなくなります。現在の自分は現実に存在しているが、捻じれた身体を持っているために不自由を強いられます。一方、過去の自分はあちら側の世界におり、夢の中にいるような状態となります。

捻じれたトラウマを抱える人は、過去に経験した強烈なトラウマの影響から、現在の状況に対して過剰に反応してしまい、自分の意識が混乱し、自分自身と現実の区別がつかなくなります。そのため、自分自身が外部から切り離され、現実感喪失状態に陥ることがあります。このような状態では、自分自身の欲求や感情よりも、他者に合わせようとする傾向が強くなり、自分自身が捻じれたり、解離状態に陥ることがあります。このような状態に陥ると、自分自身が本来持っている心や体が制御不能になってしまい、過剰なストレスや不安、苦しみなどを感じてしまうことがあります。

バラバラになるトラウマ

脅威の対象が身近にいて、脅かされることが繰り返されると、その対象に取り込まれてしまって、自分の形を保てなくなり、心と身体がバラバラになってしまいます。トラウマの影響から、バラバラになっている人は、例えば、足は冷えて力が入らない状態になっている一方、胸は熱く、首や肩に凄い力が入っているなど、体の部位によってそれぞれ反応は異なります。更に酷い場合には、自分の身体の輪郭が消えて、自分を覆っていたもの全てが剥がれていき、自分の存在が分からなくなる場合もあります。そして、首から下の身体パーツがなかったり、上半身と下半身の繋がりがバラバラだったり、手足のパーツがバラバラだったり、頭、手、腕、足が空間に浮いていたりして、自分がどう戻っていいか分かりません。

トラウマの内なる世界では、防衛パーツ同士の葛藤が強く、身体パーツのそれぞれが怒りや怯えといった相反する感情を持ち、投げやりになったり、引きこもったり、うんざりした状態にあります。このような複雑なトラウマがある人は、記憶や体験、意志、身体がバラバラになり、生きながらに死んだような不気味な感覚がつき纏うこともあるようです。

小さな死と大きな死に抗う力

人からの悪意によって、繰り返し脅かされることで、意識を失い、小さな死を迎えることがあります。この状況下では、防衛の第一戦線が突破され、活動機能の一部が停止します。小さな死の瞬間には、頭の中が砂嵐のように乱れ、周囲が見えなくなり、暗い中で輪郭しか見えなくなります。騒音が響き渡り、暗いトンネルを進むような感覚に陥り、その先に至福の夢が広がるような映像や感覚が現れることがあります。しかしながら、身体は生き延びるために戦い続けて、防衛の第二戦線が発動し、火事場の馬鹿力が働きます。ただ、そのとき身体は乱れ、上半身と下半身、手足がばらばらに動き、もがき苦しみ、手足をバタバタさせながら、大きな死に対して最後の抵抗をします。このような状況下であっても、人間の生命力は驚くべきものであることがわかります。

虚脱状態からの激しい攻撃性

人間の身体には、危険に遭遇した場合に自己防御するために様々な反応が備わっています。その中には、反撃や逃走の反応があります。しかし、場合によっては身体を動かすエネルギーがなく、身動きが取れない状況に陥ることがあります。そのような状況でも、脅威の対象が背中を見せている場合は、身体は激しい攻撃性や自暴自棄な反撃、無秩序な逃走反応を示すことがあります。これは、生命を守るための本能的な反応であり、窮地に立たされたときには、鋭い本能が働くことがあるということです。

子ども人格からの回復

虚脱した状態になると、精神や肉体が崩壊して抜け殻のような状態に陥ることがあります。しかし、その後の回復過程で、人は子どものような人格になることがあります。暴れて力尽きた後に、性格が一変し、無垢な子どもの頃の自分に戻って、そこから少しずつ心身の機能を回復させ、大人の自分になっていくのです。

神秘的な回復

身体が凍りついた後でも、安全な場所に避難したり、他者から温かく心強いサポートを受けると、極限まで縮こまった状態から、人間本来の拡張と収縮のリズムに戻って、闘争・逃走のエネルギーが神経系から解放されます。全身がブルブル、ガクガクと震え、目や鼻からも大粒の涙が溢れ、光が溢れ返り混じり合う現実の世界に戻ってくることができます。このように他者の支援を受けてトラウマから回復することができれば、絶望に対する体験が変わり、自分自身の態度や思考も変わるでしょう。

子どものトラウマ

子どもが慢性的に危険な環境にいる場合、交感神経が活性化して過覚醒状態に陥ります。この状態では、次の脅威に備えて戦うか逃げるかを選択しなければなりません。しかしながら、安全でない環境を生き残るためには、戦うか逃げるかの選択が無効な場合もあります。この場合、交感神経をシャットダウンさせる低覚醒状態になり、あたかも眠ったかのように過ごしたり、感覚を麻痺させてやり過ごします。

一般的に、慢性的に外傷体験に曝されている人は、日常生活において問題を抱えることが多く、そのストレスに対処するために意識を変容させたり、あいまいにしたり、忘れたりすることがあります。しかしながら、このような生き方を続けていると、個人の内的世界に葛藤が生じ、戦闘状態になってしまいます。つまり、内側で激しい戦いが繰り広げられているわけです。自分を偽った生活を送ることが続くと、この葛藤はますます強まり、全身に及ぶ複雑な疾患になることがあります。

四重の恐怖サイクル

心と身体が凍りつくようなトラウマを経験した場合、自分を脅かしてくるその張本人と一緒に過ごし続けることで四重の恐怖サイクルに陥ることがあります。このような状態になると、警戒心が過剰になり、外界の脅威に備えた生活を送らざるを得なくなります。自分自身が安心して住めないため、世界中の人が敵に見えてくるような知覚や気分の変動が起こることがあります。また、生活全般において、ありとあらゆることがトラウマのトリガーとなり、凍りつきや崩れ落ちることが恐怖になります。さらに、感情に圧倒されて我を失い、統制が効かない問題行動を繰り返したり、強烈な怒りや破壊の衝動をコントロールできなくなることを恐れることがあります。

外傷体験によって刻まれた恐怖と戦慄の衝撃が、心と身体に深く刻み込まれます。トラウマを引きずるため、本来危険でないはずのものでも恐怖を感じることがあります。四重の恐怖サイクルに陥ると、自己防衛本能が常に働いてしまい、日常生活が苦しくなることがあります。

①外傷体験によって、人は恐怖や戦慄の感情を強く感じます。この感情が深く刻まれ、トラウマとして残ります。外傷体験には、暴力や虐待、事故、自然災害、戦争などが含まれます。

②トラウマを経験した人は、身体が凍りついたり崩れ落ちたりするような恐怖を感じることがあります。このような状態になると、自己防衛本能が働き、外部からの刺激に過剰反応を示すようになります。

③トラウマを経験した人は、強烈な怒りや破壊の衝動を感じることがあります。しかし、これらの感情を統制することができず、問題行動を繰り返してしまうことを恐れることがあります。

④トラウマを経験した人は、生活場面や人との関わりなど、本来危険でないはずのものでも恐怖を感じることがあります。このような状態になると、自己防衛本能が働いてしまい、日常生活が苦しくなることがあります。

トラウマの治癒には、複数の恐怖について、どんなに怖かったかを話していくことが必要です。自分の体験をたくさん話すことで、トラウマの出来事に対して少しずつ慣れていき、客観的に見ることができるようになります。これにより、トラウマを克服することができます。

さらに、身体に着目したアプローチを行うことも重要です。トラウマは身体に刻み込まれるため、身体的なアプローチが有効とされています。身体的なアプローチには、ソマティックエクスペリエンスやマインドフルネス、トラウマケア、呼吸法、瞑想、ヨガ、マッサージ、アロマセラピーなどがあります。これらの方法は、身体と心のつながりを改善し、人間が本来備えている生命エネルギーの源として感じられるようにすることができます。

トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2021-03-07
論考 井上陽平

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