回避性パーソナリティ障害のチェックリストと向いている仕事、原因

回避性パーソナリティ障害(APD)は、深刻な人間関係に関する恐れや不安を伴う、人の心を揺さぶる精神障害として知られています。特に、他者からの拒絶や批判に対して過度に敏感であり、その結果、社会的な状況や他人とのコミュニケーションを極力避ける傾向があります。この障害を持つ人々は、心の中で絶えず「自分は拒絶されるだろう」「批判されるに違いない」といった感情に苛まれていることが一般的です。

これらの感情や恐れは、多くの場合、過去の経験や育った環境、そしてその人自身の性格の形成過程に起因しています。多くの場合、子供時代や青春期に何らかのトラウマや深い傷を持つ人々が、成人後もその痕跡を心に持ち続け、APDの特徴として現れることがあります。このような背景を持つ人々は、人間関係を築くことが難しく、友情や愛情といった感情を他者と共有することが困難になります。

更に、自尊心の低さや自己評価の低さから、自分の真の感情や考えを他者に伝えることが難しくなります。これは、他者との深い関係を築く上での大きな障壁となり、孤独感や疎外感を深める要因ともなります。

回避性パーソナリティ障害とは

回避性パーソナリティ障害になる原因は

回避性パーソナリティ障害の成因は多様であり、それぞれの人に独特の背景が存在します。環境的要因と遺伝的要因が複雑に影響し合って、この障害が発症すると考えられています。環境的要因としては、持続的な有害なストレスや、不安定な親子関係、虐待やネグレクトなどの体験が影響していることが多いようです。これらの経験は、脳の神経回路の発達を阻害し、ホルモンや神経伝達物質のバランスを乱してしまう可能性があります。この結果、感情のコントロールの難しさや認知の歪みが生じ、社会的な要求に適応することが難しくなります。

遺伝的な側面においても、親や近親者に類似の症状や障害がある場合、それを引き継ぐリスクが高まることが指摘されています。この遺伝的な要因が、特定の環境と組み合わさることで、障害の発症を促進させることが考えられます。

加えて、幼少期に適切な感情表現やコミュニケーションのモデルを持たなかった人、また、自己の価値や能力に自信を持てない人は、回避性パーソナリティ障害の発症リスクが高まると言われています。慢性的なストレスや過去のトラウマ体験も、この障害の引き金となる要因の一つとして挙げられます。

回避性パーソナリティ障害とトラウマ

回避性パーソナリティ障害を持つ人々の中には、何らかのトラウマを経験している人が多くいます。このトラウマは彼らの心に深く刻まれ、日常の社会的な関わりの中で、様々なシチュエーションを危険と感じることが多くなります。それは、外的な脅威だけでなく、人間関係の中の微細な緊張や、他者の言動に対する過度な警戒心として現れます。このような状態は、交感神経と背側迷走神経の高度な活性化を引き起こし、心身ともに極度の緊張状態に置かれます。その結果、「凍りつく」反応が起き、体が思うように動かせなくなることがあり、この感覚を非常に恐れるようになります。

普段の生活においても、これらの反応を避けるために、絶えず脅威の有無をアセスメントし、可能な限り安全な選択をすることが生存戦略として優先されます。人との関わり自体が脅威として感じられるため、困難な状況や対人関係に直面すると、「闘う」よりも「逃げる」行動を選択することが多くなります。

しかし、この逃避行動は短期的には安全を保つための戦略であっても、長期的に見ると逆効果となる場合が多いです。社会的な交流を避け続けることで、次回の社交的な場面への不安や恐怖はさらに増してしまいます。新しい関係性を築くことの難しさは、孤独感や不安をさらに増長させ、悪循環が生まれることがあります。

回避性パーソナリティ障害の症状のチェックリスト

1. 傷つきやすくて、疲れてしまって、本当は誰とも関係を持ちたくなく、人間関係を回避したい。
2. 他人からどう思われるかを過剰に意識して、他人からの評価に対して自信を失いやすく、自分を受け入れられない。
3. 自分自身の価値や能力に疑問を抱き、自分の行動を批判する傾向がある。
4. コミュニケーションの場面において、緊張しすぎて、複雑な内容を理解したりすることが難しい。
5. 社会的な場面に出ることが不安で、すぐ過緊張になってしまい、自分を守るために距離を置く。
6. 他人から批判されたり拒絶されたりすることに敏感で、気分が落ち込んだり、見境なく怒ってしまうことへの恐怖がある。
7. トラウマの影響から、神経発達が阻害されて、 身体が脆弱であり、抑うつや不安、無力な状態に陥りやすい。
8. 逃げ道のない状況に追い込まれたり、身動きが取れなくなることが怖くて、物事を回避する。
9. 外の世界が危険と感じて、恐怖心から行動ができず、孤独な活動を好む。
10. 自分のアイデアを思い浮かべることが難しかったり、考えや感情を表現することが苦手です。
11. 好かれることが確実でない限り、人とは関わりたくない。
12. 自分のことを他人に知られたり、近くにいたりすることに躊躇を示す。

回避性パーソナリティ障害の無力感、劣等感

回避性パーソナリティ障害を持つ人は、社交の場において不安や違和感を常に抱えています。彼らは多くの場面で「私はここにいてもいいのだろうか」という疑問を感じ、どう振る舞えば良いのか分からずに、居心地の悪さを深く感じることが多いです。自分の存在が他者との間に違和感を生むのではないかという不安から、自分の考えや感情を他者に伝えることを避ける傾向があります。

彼らは、その内向的な性格を自覚しているため、人前で自分を出すのではなく、逆に内に閉じこもるような態度を取ることが多いです。しかし、そのような態度が逆に社交の場での緊張や疎外感を強め、他者から見てもその不安や違和感が感じ取られることがあります。その結果、彼らは意図せずとも周囲から誤解や偏見を受け、批判や拒絶の経験を増やしてしまうことがあります。

この繰り返しの中で、彼らはさらに自己劣等感を深め、自分の存在や価値に疑問を感じるようになります。また、社会的な状況での孤立や疎外感が増すことで、深い孤独や絶望を感じることも少なくありません。それにもかかわらず、彼らは自分の感じている痛みや悩みを外に出すのが難しく、周囲にはその苦しみをなかなか理解されず、一人で抱え込むことが多いです。

回避性パーソナリティ障害は恋愛できない

回避性パーソナリティ障害を持つ人々は、恋愛への強い憧れや願望と同時に、その深い恐怖心との間で揺れ動くことが多いです。彼らが恋愛に踏み出す際に感じる不安や恐れは、多くの場合、過去の経験やトラウマに起因しています。過去の失恋や関係の破綻、または子供の頃の家庭環境など、多くの状況が彼らの心の奥底に根付いており、新しい恋愛関係への不安の原因となっています。

恋愛関係の中で、特に親密な瞬間や相手からの期待に直面したとき、それまで心の奥深くに封じ込めていた感情や記憶が突如として表面化することがあります。このような突発的な感情の噴出は、彼らにとって非常に過酷であり、取り返しのつかない恐怖や動揺を引き起こすことが多いです。このような感情の嵐の中で、彼らは自分を制御することが難しくなり、その結果として、愛する人との関係を避けたくなるのです。

このような内面の葛藤は、彼らが恋愛や人間関係において直面する難しい課題となります。しかし、回避性パーソナリティ障害を持つ人々が恋愛を避ける背景には、彼ら自身が過去の痛みやトラウマから守られたい、または再び傷つきたくないという強い願望があることを理解することが重要です。

回避性パーソナリティ障害の向いている仕事は

回避性パーソナリティ障害を持つ人は、対人関係における不安や恐れを抱えているため、大勢の人々との連携が求められる職種よりも、自らの力を最大限に発揮できる環境での仕事を選ぶことが、心身の健康やキャリアの発展にとって望ましいと言えます。

これらの人々にとって、一人で集中して取り組める仕事は、他者との関係性を気にすることなく、自身のスキルや知識を十分に活かす場となります。例として挙げられるプログラミングや研究者の職種は、深い知識や高度なスキルが求められる一方で、対人関係のストレスが最小限にとどまるため、回避性パーソナリティ障害を持つ人にとって安心して働ける環境を提供します。

また、ライターやデザイナーのようなクリエイティブな仕事は、独自の感性や視点を活かすことができ、他者との競争や比較のプレッシャーから解放され、自分らしい作品を生み出すことが可能です。情報処理や文書作成、会計などの仕事は、細かいデータや情報の整理・管理を得意とする彼らには最適なフィールドといえるでしょう。

回避性パーソナリティ障害とHSPの違い

回避性パーソナリティ障害とHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)は、一見すると似た特徴を持つかのように思えますが、根本的な違いがあります。

回避性パーソナリティ障害は、心の深い部分に対人関係における不安や恐れを抱えています。そのため、他者との関わりを避けることで、これらの不安や恐れから逃れようとします。この行動は、過去の経験やトラウマ、拒絶や批判を恐れる感受性が高まっているためと考えられます。その結果、彼らは自分を守るためのシールドとして、社会的な関係を極力避けることになります。

一方、HSPは、生まれつきの特性として、環境や他者の感情に対して非常に敏感であり、感受性が高いのです。彼らは、細かな刺激や情報を深く吸収し、その情報を深く処理する能力を持っています。この敏感さは、美しい音楽や芸術に対して深い共感を感じる一方、大きな音や明るすぎる光、過度な人間関係のストレスなどに敏感に反応することもあります。

HSPは、情報を深く処理するため、日常の出来事や他人の感情に対して強い共感を感じることがよくあります。しかし、その敏感さゆえに、過度な刺激や情報過多となると、それがストレスとなり、抑うつ症状や不安症状を引き起こす可能性があります。

回避性パーソナリティ障害の治療と回復に必要なこと

回避性パーソナリティ障害を持つ人々は、過去の経験や深層の感情が彼らの行動や反応の中心にあります。日々の生活の中で感じる不安や自己否定感は、他者との関係を築く過程での微細な亀裂やほんの小さな失敗が、彼らの心には大きな影として映り込むからです。これは、過去の傷つきや経験が現在の感じ方や認識を色濃く影響していることを示しています。

しかし、彼らが抱えている感情や恐れは、彼らの真の自分ではありません。それは、生きる上での防衛メカニズムや、過去の経験から学んだ対応方法に過ぎないのです。治療を通じて、彼らはこれらの感情や反応を正しく理解し、過去の影響を少しずつ解放していくことができます。

心理療法やカウンセリングは、彼らの感じる痛みや恐れ、不安と直接向き合い、その原因となる過去の出来事や感情を探る手助けをします。カウンセラーやセラピストの優しい言葉や深い理解は、彼らに新しい視点を提供し、自分を再評価するチャンスを与えてくれます。

この過程では、彼らの持つ繊細な感受性や深い思考が、大きな力となって彼らをサポートします。その感受性は、過去の経験や心の傷から生まれたものかもしれませんが、それを正しく理解し、受け入れることで、彼らはその独自の感性を力に変え、新しい人生の道を切り開くことができます。

この治療の過程は、回避性パーソナリティ障害を持つ人々の内面的な旅路とも言えます。その結果として、彼らは自分を受け入れ、愛することができるようになり、その中に眠る真の価値や美しさを再確認することができるのです。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-01-24
論考 井上陽平