普通のことができないのはなぜ?発達障害・トラウマで日常生活がつらくなる理由

発達障害の生きづらさ 発達特性

朝、目が覚めても身体を起こせない。起きなければならないことは分かっているのに、布団から出るまでに長い時間がかかる。ようやく着替えても、次に何をすればよいのか分からなくなり、気づけば予定の時間が迫っている。

外出すれば、人の視線や物音が気になる。職場や学校では周囲のペースについていこうと必死になり、帰宅した頃には何もする力が残っていない。食事を用意することも、入浴することも、散らかった部屋を片づけることも、大きな負担になってしまう。

周囲からは「それくらい普通にできるでしょう」「もっと頑張ればいい」と言われることがあります。しかし本人は、すでに十分すぎるほど頑張っている場合があります。

世の中では、目標を立て、計画し、努力を重ね、成果を出すことが当然のように求められています。学校では決められた時間に授業を受け、職場では複数の仕事を並行して進め、家庭では家事や生活管理をこなす。その積み重ねによって、社会生活が成り立っています。

けれど、発達障害やトラウマ、精神的な不調を抱えている人にとっては、そうした日常生活そのものが大きな負荷になることがあります。

一つの作業を始めるために多くのエネルギーが必要になる。周囲の音や光、人の動きを処理するだけで疲れる。相手の言葉を理解し、適切な返事を考えるまでに時間がかかる。過去に失敗を責められた経験から、何かを始めようとするたびに強い緊張が生じる。

外から見える行動は同じでも、そこへ至るまでに必要な努力や、身体が受ける負担は人によって異なります。

特に、幼少期から周囲に合わせることを求められ、できないことを責められてきた人は、自分の困難を隠すためにさらに努力するようになります。

疲れていても平気なふりをする。分からないことがあっても、何度も聞くことができない。周囲に迷惑をかけないよう先回りし、失敗しそうになると身体が緊張する。

こうした生活を続けるうちに、本人は自分の限界が分からなくなり、ある日突然、これまでできていたことさえ難しくなる場合があります。

「普通のことができない」という苦しさには、発達特性そのものによる困難と、周囲へ適応するために重ねてきた無理、そして傷ついた経験による心身の緊張が重なっていることがあります。

その違いを理解することが、自分を責め続ける生活から離れ、現実的な回復や支援を考えるための出発点になります。

Table of Contents

  1. 普通のことができない人が抱える、見えない日常の負担
  2. 発達障害があると、周囲と同じペースで生活することが難しくなる
    1. ADHDでは、やりたいことを行動に移すまでが難しい
    2. ASDでは、感覚刺激や暗黙のルールが負担になる
  3. 周囲に合わせて「普通」を演じるほど、心身は疲れていく
  4. 学校生活で「普通」ができない子どもの孤独
    1. 周囲と同じ速度でできないことが、劣等感につながる
    2. 人と関わることが恐怖に変わる
  5. 人から見られると頭が真っ白になる|注視される恐怖と身体の緊張
  6. 発達障害とトラウマが重なると、日常生活の負担はさらに大きくなる
  7. 機能不全家庭で育つと、休むことさえ怖くなる
  8. 頑張り続けた人ほど、ある日突然できなくなる
    1. 自閉スペクトラム症のバーンアウト
    2. 限界を感じられないまま、身体が動かなくなる
  9. 「普通にできない自分」を責め続けることで、さらに動けなくなる
  10. 生活を立て直すには、努力を増やす前に負担を減らす
    1. 生活の最小単位を守る
    2. 発達特性に合った方法で作業を組み立てる
    3. 外出や人付き合いの後に、回復する時間を確保する
  11. 周囲に必要なのは、励ましよりも困難への具体的な理解
  12. 回復と自己成長|できる日とできない日がある生活を前提にする
  13. 「普通」を基準にした社会で、自分の生き方を取り戻す
  14. おわりに|普通にできない苦しさを、自分の価値と結びつけないために
  15. 参考文献
    1. ご相談をご希望の方へ

普通のことができない人が抱える、見えない日常の負担

日常生活には、外から見えにくい多くの作業が含まれています。

朝起きて出かけるだけでも、身体を起こし、身支度を整え、必要なものを準備し、時間を確認しながら行動しなければなりません。

仕事や学校では、人の話を聞き、指示を理解し、優先順位を決め、途中で予定が変われば対応することも求められます。

これらの作業を比較的自然に進められる人にとっては、特別に意識する必要のない行動かもしれません。

しかし、発達特性や強いストレスによって、注意の切り替え、行動の開始、感覚刺激の処理、感情の調整などに負担が生じている場合には、一つ一つの行動に多くの力が必要になります。

例えば、部屋を片づけようとしても、何から始めればよいのか決められない。目の前にある物を一つ手に取ると、別の用事を思い出し、そちらへ意識が移ってしまう。片づける場所や順番を考えているうちに疲れ、結局何もできなかったように感じることがあります。

一方、人と会うときには、会話の内容だけでなく、相手の表情や声の調子、周囲の音、場の雰囲気など、多くの情報へ同時に注意を向けなければならない場合があります。

その結果、外出中は何とか対応できていても、帰宅した途端に強い疲労が現れ、食事や入浴をする気力さえ残らなくなることがあります。

困難の現れ方には個人差がありますが、例えば次のような状態が重なることがあります。

  • 朝起きる、着替える、食事を用意するなどの生活動作に時間がかかる
  • やるべきことは理解しているのに、最初の行動へ移れない
  • 複数の指示を受けると混乱し、何から手をつければよいのか分からなくなる
  • 人の視線や声、音や光に疲れやすく、外出後に強く消耗する
  • 予定の変更や予想外の出来事によって、気持ちの切り替えが難しくなる
  • 周囲に合わせている間は動けても、一人になると何もできなくなる
  • 失敗を恐れるあまり、作業を始めること自体が怖くなる

これらの状態があるからといって、必ず発達障害やトラウマ関連の障害があるとは限りません。

睡眠不足、うつ病、不安症、身体疾患、慢性的な疲労などによっても、似たような困難が生じることがあります。

重要なのは、「普通にできない」という結果だけを見るのではなく、何をすると負担が大きくなるのか、どのような条件なら動きやすいのかを理解することです。

発達障害があると、周囲と同じペースで生活することが難しくなる

自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)などの発達障害では、情報の受け取り方や注意の働き、行動の組み立て方などに特性が見られます。

ただし、ASDとADHDでは中心となる特性が異なり、同じ診断名であっても困難の現れ方は人によって大きく違います。

また、発達障害は幼少期からの神経発達に関わるものであり、トラウマによって発達障害になるわけではありません。一方で、発達障害がある人が虐待やいじめなどを経験し、その影響を重ねて抱える場合はあります。

ADHDでは、やりたいことを行動に移すまでが難しい

ADHDのある人は、注意を維持したり切り替えたりすること、予定を立てて実行すること、時間や優先順位を管理することなどに困難を抱える場合があります。

例えば、提出しなければならない書類が目の前にある。何をすればよいのかも分かっている。それなのに作業を始められず、別のことをしているうちに時間だけが過ぎていく。

本人は、その状況に焦りを感じています。早く始めなければならないと思えば思うほど、作業への抵抗が強まり、ますます手をつけにくくなることもあります。

周囲からは先延ばしをしているように見えても、本人の内側では、行動の開始や注意の調整に困難が生じている場合があります。

Bjerrumら(2017)は、成人ADHDに関する10件の質的研究を統合し、当事者が日常生活をどのように経験しているのかを調べました。

研究では、仕事や学業、人間関係の中で周囲と同じように振る舞おうと努力していることや、日常の作業を組み立て、実行することに困難を感じている様子が示されています。

一方で、本人なりの工夫を身につけたり、周囲から予定の確認や作業の構造化などの支援を受けたりすることで、生活を管理しやすくなることも報告されています。

ADHDによる困難を考えるときには、本人にもっと注意するよう求めるだけでなく、予定や作業をどのように整理すれば取り組みやすくなるのかを考える必要があります。

ASDでは、感覚刺激や暗黙のルールが負担になる

ASDのある人は、感覚刺激の受け取り方や、対人コミュニケーション、予定の変更への対応などに特性が見られる場合があります。

教室のざわめき、廊下の足音、蛍光灯の光、隣の席で動く人の気配。周囲にとっては気にならない刺激が、本人には強い負担になることがあります。

また、会話の内容は理解できても、相手が何を暗黙のうちに期待しているのか分からず、返答に迷う場合があります。

「適当にやっておいて」「普通に考えれば分かるでしょう」と言われても、その「適当」や「普通」が何を意味するのか判断できない。

そこで何度も確認すると、細かいことを気にしすぎだと言われることがあります。

一方、確認せずに進めれば、今度は周囲の意図と違っていたとして責められてしまう。

こうした経験が繰り返されると、本人は新しいことへ取り組む前から、失敗や誤解を強く恐れるようになる場合があります。

ASDの特性による困難に加えて、周囲から理解されず、否定的な経験を重ねてきたことが、日常生活の緊張をさらに強める場合があるのです。

周囲に合わせて「普通」を演じるほど、心身は疲れていく

発達特性のある人の中には、自分が周囲から浮かないように、意識的に振る舞いを調整している人がいます。

相手の顔を見る時間を考える。会話の途中で不自然な沈黙が生まれないようにする。周囲が笑えば一緒に笑い、驚くべき場面では驚いた表情を作る。

人から変だと思われないよう、会話の流れを頭の中で確認し、発言する前に何度も考えることがあります。

こうした、発達特性を目立たなくさせたり、周囲の期待に合わせたりする行動は、**カモフラージュ(camouflaging)**と呼ばれます。

Hullら(2017)は、ASDのある成人92人を対象に質的研究を行い、カモフラージュの方法や動機、その影響を調べました。

参加者の語りからは、周囲に受け入れられ、人とのつながりを持つために、普段の自分とは異なる振る舞いを身につけてきたことが分かりました。

しかし、そのような努力には大きな負担が伴い、疲労や自己認識の揺らぎにつながる場合があることも報告されています。

社会生活の中では、本人がどれほど努力しているかが、周囲から見えないことがあります。

仕事中は問題なく話せている。学校では笑顔で過ごしている。頼まれたことにもきちんと対応している。

そのため、周囲は本人が日常生活へ適応できていると思うかもしれません。

けれど、帰宅すると会話をする力も残っておらず、翌日の予定を考えることさえ苦しくなる場合があります。

本人は「自分は何もできていない」と感じていても、実際には、周囲の期待に合わせることだけで多くの力を使っているのです。

過剰適応とは?他人軸で生きて疲れ切る人の特徴・原因と回復では、周囲の期待へ応え続けるうちに、自分の疲労や感情が分からなくなっていく心理について詳しく扱っています。

学校生活で「普通」ができない子どもの孤独

発達特性や幼少期のトラウマを抱えている子どもにとって、学校生活そのものが大きな負担になることがあります。

学校では、一定の時間に登校し、授業を受け、周囲と同じペースで課題を進めることが求められます。

授業中には先生の話を聞き、必要なところを書き取り、周囲の動きを見ながら行動する。休み時間には友人と関わり、集団活動では暗黙のルールへ合わせることも必要になります。

こうした流れにうまく乗れない子どもは、毎日のように、自分だけが置いていかれる感覚を抱くことがあります。

周囲と同じ速度でできないことが、劣等感につながる

先生の説明を聞いて理解するまでに時間がかかる。何を質問すればよいのか考えている間に、授業が先へ進んでしまう。

手先の不器用さや運動の協調に難しさがある場合には、文字を書くこと、道具を扱うこと、体育の活動についていくことが負担になる場合もあります。

周囲の子どもが自然にこなしていることを、自分だけが何度もやり直さなければならない。

しかも、努力していることが十分に理解されず、「もっと早く」「ちゃんとやって」と繰り返し言われると、自分の能力そのものが劣っているように感じられることがあります。

本当は頑張りたいし、周囲と同じようにできるようになりたい。それでも、うまくいかない。

この経験が積み重なるほど、子どもは新しいことへ取り組む前から、失敗することを恐れるようになる場合があります。

人と関わることが恐怖に変わる

学校生活では、友人との関係も重要になります。

会話の意味を取り違えたり、集団の暗黙のルールを理解できなかったりすると、からかわれたり、仲間から外されたりする場合があります。

自分では普通に話しているつもりなのに、相手が笑い出す。何が間違っていたのか分からず、周囲から説明してもらえない。

そのような経験が続くと、人と話す前から緊張し、自分の発言を何度も確認するようになることがあります。

やがて、友人を作りたい気持ちがあっても、人との関わりそのものが怖くなってしまう場合があります。

それでも、誰もいない場所では自由に話せたり、好きなことへ集中できたりすることがあります。

その違いを見るときには、本人の能力だけでなく、人前で何が負担になっているのか、どのような環境なら持っている力を発揮できるのかを考える必要があります。

人から見られると頭が真っ白になる|注視される恐怖と身体の緊張

人から注目されることに、強い恐怖を感じる場合があります。

先生に指名される。クラスの前で発表する。職場の会議で発言する。誰かが自分の作業を見ている。

普段は理解できている内容でも、人から見られた瞬間に、言葉が浮かばなくなることがあります。

身体が固まり、声が出にくくなり、何をすればよいのか分からなくなる。何とかその場をやり過ごした後に、強い疲労や自己嫌悪が現れる場合もあります。

こうした反応には、社交不安や過去の失敗体験、強いストレスによる反応などが関わる場合があります。

幼い頃から、間違えるたびに人前で叱られたり、失敗を笑われたりしてきた人は、注目されることそのものを危険として感じるようになることがあります。

周囲の視線が集まった瞬間、以前の恥ずかしさや恐怖がよみがえり、頭では答えが分かっていても、言葉が出てこなくなる。

人が見ていない場所ではできるのに、見られるとできなくなる。その経験がさらに自己否定を強め、次に同じ場面へ入ることが怖くなっていきます。

ただし、人前で頭が真っ白になることを、すべて解離として理解することはできません。

強い不安によって注意や記憶の働きが妨げられる場合もあれば、解離症状として現実感や身体感覚が遠のく場合もあります。

また、空想へ没頭することも、それだけで解離を意味するわけではありません。

現実の苦しさから距離を取り、想像の世界に自分の居場所を見いだしてきた人もいます。空想が一時的な慰めや創造性につながる場合もありますが、現実感の喪失や記憶の途切れを伴い、生活に大きな支障が生じている場合には、解離症状についても丁寧に確認する必要があります。

解離とは何か|離人感・現実感喪失・健忘・DIDの原因と回復では、強いストレスによって現実感や身体感覚が遠のく仕組みについて詳しく扱っています。

発達障害とトラウマが重なると、日常生活の負担はさらに大きくなる

発達特性そのものによる困難と、トラウマによって生じる心身の反応は、区別して考える必要があります。

ASDやADHDでは、情報の処理、感覚刺激への反応、注意の調整、行動の組み立て方などに特性があります。

一方、トラウマを抱える人では、過去の危険を思わせる刺激に強く反応したり、身体が緊張したり、特定の場所や人間関係を避けるようになったりする場合があります。

この二つが重なると、もともと負担の大きかった日常生活が、さらに難しくなることがあります。

例えば、騒がしい教室が感覚的に苦手な子どもが、そこで繰り返しいじめを受けた場合、その場所は感覚刺激が強いだけでなく、過去の恐怖を思い出させる場所にもなります。

大きな音が苦手な人が、怒鳴られる家庭で育った場合には、突然の声や物音に対して、感覚的な負担と恐怖の反応が重なることがあります。

Kernsら(2022)は、自閉スペクトラム症の成人14人と、その家族などの養育者15人にインタビューを行い、当事者がどのような経験をトラウマとして捉えているのかを調べました。

研究では、虐待やいじめなどの経験に加えて、感覚刺激への強い負担、予測できない変化、周囲とのコミュニケーションの行き違いなどが、長く残る苦痛と結びついていることが語られました。

また、一般的なトラウマの質問票では十分に捉えられない経験も報告されています。

こうした研究からは、発達特性のある人が経験する苦痛を理解する際に、一般的に重大な出来事とされるものだけでなく、本人が置かれてきた環境や、そこで繰り返し受けてきた負担を考える重要性が見えてきます。

ただし、強いストレスを受けた体験がすべてPTSDにつながるわけではありません。本人が何を経験し、それによってどのような症状や生活上の困難が生じているのかを、個別に整理することが必要です。

機能不全家庭で育つと、休むことさえ怖くなる

幼少期に虐待やネグレクト、家庭内の激しい対立などを経験した人は、子どもの頃から十分に安心して過ごせなかった場合があります。

親の機嫌を読み、怒られないように振る舞い、家の空気が悪くならないように気を遣う。親が疲れていれば家事を手伝い、きょうだいが困っていれば自分が守る。

そうした生活では、自分が疲れたから休むという選択を取りにくくなります。

誰かが困っているときに休むことは、わがままだと感じられる。自分の希望を優先すると、親から責められるかもしれない。

そのため、身体が疲れていても、周囲の期待へ応えることが先になります。

大人になってからも、この習慣が続く場合があります。

仕事を終えて帰宅しても、家事や家族への対応を優先する。疲れていることに気づいても、まだ頑張れるはずだと考える。休日に何もしていないと、自分には価値がないように感じる。

休もうとすると、やり残したことや誰かから責められる可能性が気になり、かえって落ち着かなくなることがあります。

そのような状態では、休息が回復へつながりにくくなります。

一日中横になっていたとしても、頭の中では不安や自己批判が続いている。何もできなかったことへの罪悪感が強まり、翌日にはさらに自分を追い立ててしまう。

過緊張の人はなぜ休めないのか|力を抜けない心理と身体の仕組みでは、長期間にわたる警戒や緊張が、休息を難しくする心理について詳しく解説しています。

発達特性がある人がこうした家庭環境で育った場合には、もともとの生活上の困難を理解してもらえないまま、さらに努力を求められてきた可能性があります。

その結果、周囲に助けを求めるより、自分を責めて頑張り続ける方法が身についてしまう場合があるのです。

頑張り続けた人ほど、ある日突然できなくなる

長い間、無理を重ねてきた人は、ある時期から急に日常生活を維持することが難しくなる場合があります。

以前は仕事へ行けていたのに、朝起きられなくなる。人と話すことができていたのに、会話そのものが強い負担になる。買い物や入浴、部屋の片づけなど、以前は何とかこなしていたことに手がつかなくなる。

本人は、自分の能力が急に失われてしまったように感じることがあります。

しかし、その前から睡眠の乱れや慢性的な疲労、身体の痛み、胃腸の不調、感覚刺激への過敏さなどが続いていた可能性があります。

周囲に合わせるために多くの力を使い続け、回復する時間が十分に取れない状態が長引くと、これまで維持してきた生活が崩れる場合があります。

自閉スペクトラム症のバーンアウト

ASDのある人たちの間では、このような深い消耗について「自閉スペクトラム症のバーンアウト(autistic burnout)」という言葉が使われています。

Raymakerら(2020)は、ASDのある成人へのインタビューと当事者による記述を分析し、バーンアウトの体験を質的に調べました。

参加者からは、慢性的な疲労に加えて、これまでできていたことができなくなる感覚や、感覚刺激に耐えにくくなる状態が報告されています。

また、周囲の期待へ応え続けることや、自分に合った支援を受けられないことが、消耗を強める要因として語られました。

回復に関わる経験としては、周囲から受け入れられること、負担を減らすこと、休息を確保すること、自分の特性に合った生活を送れることなどが挙げられています。

ただし、autistic burnoutは現在、独立した正式な医学的診断名ではありません。また、うつ病や一般的な燃え尽き症候群、トラウマによる疲労などとの違いについては、研究が続けられています。

それでも、当事者が「普通に振る舞う」ためにどれほど大きな力を使い、その負担が蓄積すると生活の維持まで難しくなるのかを理解するうえで、重要な視点を与えてくれます。

限界を感じられないまま、身体が動かなくなる

幼少期から我慢することに慣れてきた人は、自分がどれほど疲れているのかを感じ取りにくくなっている場合があります。

仕事中は緊張によって何とか動ける。人と話している間は笑顔を保てる。頼まれたことにも応えられる。

ところが、その緊張が緩んだとき、急に身体が重くなり、何もできなくなる。

疲労を感じないからといって、身体に負担がかかっていないとは限りません。

また、強い疲労や意欲低下は、うつ病、睡眠障害、身体疾患などでも生じます。以前できていたことが急に難しくなった場合や、食事や睡眠などの生活機能が大きく低下している場合には、医療機関で状態を確認することも大切です。

「普通にできない自分」を責め続けることで、さらに動けなくなる

日常生活がうまくいかないとき、本人は自分の能力や性格に問題があると考えてしまうことがあります。

ほかの人は普通に働き、家事をし、友人と会っている。それなのに、自分は一日を過ごすだけで疲れ果ててしまう。

周囲から努力不足だと言われると、その言葉を自分でも信じるようになる場合があります。

もっとしっかりしなければならない。これくらいできなければ社会で生きていけない。自分は人として何かが欠けているのではないか。

そのように自分を責めるほど、失敗への恐怖は強くなっていきます。

何かを始めようとするたびに、またできなかったらどうしようと考える。以前に失敗した場面を思い出し、身体が緊張する。

そして、行動を始める前から疲れてしまうことがあります。

特に、幼少期から失敗を厳しく責められてきた人は、できなかったことを単なる失敗として受け止めにくい場合があります。

一つのことができなかっただけで、自分という人間全体を否定されたように感じる。人から注意されると、子どもの頃に叱られた感覚がよみがえる。

このような状態では、目の前の作業に取り組むことと、自分が傷つかないように身を守ることを、同時に行わなければならなくなります。

その分だけ、日常の小さな行動にも大きな負担がかかってしまうのです。

生活を立て直すには、努力を増やす前に負担を減らす

普通のことができないと感じているとき、本人は今よりもっと頑張ろうとすることがあります。

早起きをする。予定を細かく立てる。生活習慣を改善する。人との交流を増やす。できることを少しずつ増やす。

こうした取り組みが役立つ場合もありますが、すでに心身が疲弊しているときには、努力の量を増やすことで、さらに負担が大きくなる場合があります。

そのため、生活を立て直す際には、まず現在の負荷を確認することが重要です。

何をした後に強く疲れるのか。どのような環境で集中しにくくなるのか。誰と会った後に身体の緊張が続くのか。生活の中で、無理に周囲へ合わせている場面はないか。

こうしたことを整理すると、自分の能力が低いと思っていた問題の中に、環境を変えることで負担を減らせる部分が見えてくる場合があります。

生活の最小単位を守る

心身の負担が大きいときには、一日の中で何を優先するのかを絞ることが役立ちます。

疲れている日に、仕事、家事、運動、片づけ、人付き合いまで、すべてを普段通りにこなそうとすると、回復する時間がなくなってしまいます。

そのような場合には、睡眠や食事など、生活の維持に必要なことを優先し、その日の体調に合わせて負担を調整することができます。

例えば、料理が難しい日には簡単に食べられるものを用意しておく。入浴が大きな負担になるときには、体調や衛生状態に応じて方法や時間帯を調整する。家事を一度に終わらせず、短い作業へ分ける。

生活を維持するための工夫は、必ずしも理想的な生活習慣を完成させることではありません。

その人が今の状態で、無理なく続けられる方法を見つけることが大切です。

発達特性に合った方法で作業を組み立てる

ADHDのある人では、頭の中だけで予定や作業を管理することが難しい場合があります。

そのようなときには、やるべきことを見える形にしたり、最初に取り組む作業を具体的に決めたりすることが役立ちます。

また、ASDのある人では、予定をあらかじめ確認できることや、感覚刺激の少ない環境を利用できることが、生活上の負担を減らす場合があります。

ただし、細かい予定表やチェックリストが、かえって負担になる人もいます。

方法を増やせばよいというものではなく、自分が使いやすい形に調整することが重要です。

必要に応じて、医療機関での評価や治療、作業療法、就労支援などを利用することも考えられます。

外出や人付き合いの後に、回復する時間を確保する

人と会うことや外出によって強く疲れる人は、その後の予定まで詰め込んでしまうと、疲労が回復しにくくなる場合があります。

外出した日は、帰宅後に家事や仕事を多く入れない。人と長時間過ごす予定がある場合には、前後の時間に余裕を持たせる。

また、感覚刺激に疲れやすい場合には、静かな場所で過ごす時間を確保したり、環境を調整したりすることも役立ちます。

ただし、回復のための方法は人によって異なります。

横になることで楽になる人もいれば、軽く身体を動かす方が落ち着く人もいます。呼吸へ注意を向けることが役立つ場合もあれば、かえって不安が強まる人もいます。

自分にとって負担の少ない方法を選び、回復しやすい条件を確かめていくことが大切です。

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周囲に必要なのは、励ましよりも困難への具体的な理解

普通のことができないと感じている人に対して、周囲は善意から「もっと頑張って」「慣れればできるようになる」「考えすぎない方がいい」と声をかけることがあります。

しかし、本人がすでに限界まで努力している場合には、その言葉によってさらに追い詰められることがあります。

本人は、自分ができないことを誰よりも気にしています。

周囲に合わせようとして失敗し、何度もやり直し、迷惑をかけないように気を遣ってきた。それでもうまくいかないことに、本人自身が深く傷ついている場合があります。

そのようなときには、できていないことを指摘するより、何が難しくなっているのかを一緒に整理することが役立ちます。

例えば、「どうして片づけられないのか」と責める代わりに、どの段階で手が止まるのかを確認する。

作業を始められないのか。順番が決められないのか。途中で別の刺激に注意が向くのか。疲労が強く、身体を動かすこと自体が難しいのか。

原因によって、必要な支援は変わってきます。

また、人との関わりが難しい場合にも、コミュニケーション能力を高めることだけを目標にするのではなく、本人が安心して話せる環境を整えることが重要です。

集団の前では話せなくても、一対一なら話せる。口頭の説明では混乱しても、文章で伝えてもらえば理解しやすい。急な予定変更には対応しにくくても、事前に知らせてもらえば準備できる。

そうした違いを理解することで、本人の負担を減らしながら、持っている力を発揮できる場合があります。

学校であれば、学習方法や課題の量、感覚刺激、対人環境などを調整することが考えられます。職場であれば、指示の明確化、作業の優先順位の共有、休憩の取り方、働く環境の調整などが役立つ場合があります。

支援とは、本人を無理に周囲と同じ形へ近づけることだけではなく、その人が生活しやすい条件を一緒に整えていくことでもあります。

回復と自己成長|できる日とできない日がある生活を前提にする

発達特性やトラウマ、慢性的な不調を抱えている人は、生活が少し安定すると、以前できなかったことを取り戻そうとして頑張りすぎる場合があります。

昨日は外出できたのだから、今日はもっと遠くまで行こう。仕事ができるようになったのだから、さらに多くの役割を引き受けよう。

そうして活動を増やした結果、翌日から強い疲労が生じ、再び動けなくなることがあります。

そのとき、本人は自分の回復が失敗したように感じるかもしれません。

しかし、体調や生活機能には、日によって変動が生じることがあります。

睡眠の状態、身体の疲労、予定の多さ、人間関係のストレス、感覚刺激の強さなどによって、その日にできることは変わってきます。

特に、発達特性に加えてトラウマによる緊張や回避がある場合には、同じ外出であっても、その日の心身の状態によって負担が大きく異なることがあります。

そのため、回復を考えるときには、毎日できることを増やし続けるだけでなく、疲れたときにどのように負担を減らし、生活を立て直せるかという視点も重要になります。

例えば、外出した翌日は予定を少なくする。強い緊張が続いた日は、人と関わる時間を調整する。睡眠や食事が乱れたときには、新しい目標を増やすより生活を整えることを優先する。

また、特定の活動がうまくできたときには、結果だけでなく、そのときの条件を確認することが役立ちます。

何時頃なら動きやすかったのか。誰と一緒だったのか。事前にどのような準備ができていたのか。どの程度の時間なら疲労が強くならなかったのか。

そうしたことを積み重ねると、自分にとって生活しやすい条件が少しずつ明確になります。

回復の過程では、以前と同じようにできることが増える場合もあれば、自分の特性に合った新しい生活の形を作っていく場合もあります。

その人が安心して暮らせることや、自分の望む活動に参加できることも、重要な目標になります。

「普通」を基準にした社会で、自分の生き方を取り戻す

学校や職場、日常生活の多くは、一定の速度で行動し、周囲の状況へ柔軟に対応し、人と関わることを前提に作られています。

決められた時間に登校する。複数の仕事を並行して進める。曖昧な指示から相手の意図を読み取る。予定が変われば、すぐに気持ちを切り替える。

そのような環境へ適応しやすい人にとっては、特別な努力を必要としない行動かもしれません。

しかし、発達特性やトラウマによる困難を抱える人は、同じ環境で生活するために、多くの力を使わなければならない場合があります。

その結果、周囲と同じ成果を出していても、本人の消耗が大きくなってしまうことがあります。

一方、環境が変わることで、これまで難しかったことができるようになる場合もあります。

騒がしい教室では集中できなかった子どもが、静かな場所では落ち着いて課題へ取り組める。集団の中では発言できなかった人が、少人数の場では自分の考えを伝えられる。複数の仕事を同時に進めることが難しかった人が、作業を整理してもらうことで能力を発揮できる。

そのような変化は、本人の努力が急に増えたから起きるとは限りません。

環境と本人の特性が合うことで、それまで困難に使われていた力を、本来の活動へ向けられるようになる場合があるのです。

また、病気や障害の有無にかかわらず、人にはそれぞれ得意なことと苦手なことがあります。

誰もが同じ速度で動き、同じ方法で学び、同じように人と関われることを前提にすると、その基準に合わない人の困難は見えにくくなります。

生活を維持することに大きな力を使っている人へ、さらに成果を求めれば、本人は自分の限界を超えて頑張ろうとしてしまうことがあります。

だからこそ、社会の側にも、異なるペースや方法で生活できる余地が必要です。

支援制度や合理的配慮は、本人の困難を理解し、生活や学習、仕事へ参加しやすくするための重要な仕組みです。

また、こうした環境調整は、発達障害やトラウマを抱える人だけに意味があるものではありません。

病気、怪我、介護、加齢、強いストレスなどによって、これまで普通にできていたことが難しくなる可能性は誰にでもあります。

多様な人が生活しやすい環境は、誰もが状況に応じて支えを受けながら暮らせる社会にもつながっていきます。

おわりに|普通にできない苦しさを、自分の価値と結びつけないために

普通の人ならできることが、なぜ自分にはできないのか。

その問いを抱えながら、毎日を必死に過ごしてきた人は、これまで何度も自分を責めてきたのかもしれません。

朝起きることが難しい。予定通りに動けない。人と会うだけで疲れる。仕事や家事を終えた頃には、何もする力が残っていない。

周囲には、その苦しさが十分に伝わらず、怠けているように見られる場合もあります。

しかし、日常生活の中で生じる負担は、外から見える行動だけでは分かりません。

ADHDによって注意や行動の調整が難しい場合もあれば、ASDによる感覚刺激や対人関係の負担が大きい場合もあります。

また、幼少期からの虐待やいじめ、慢性的な緊張によって、失敗を恐れ、人から見られるだけで身体が固くなる場合もあるでしょう。

発達特性とトラウマが重なることで、もともと負担の大きかった生活が、さらに難しくなることもあります。

そうした状態で、周囲と同じようにできることだけを目標にすると、本人は自分の疲労や限界を無視して、さらに頑張り続けてしまう場合があります。

必要なのは、自分が何を苦手としているのかを理解し、どのような環境なら力を発揮できるのかを確かめることです。

人と関わると疲れるのであれば、負担の少ない関わり方を探す。予定を管理することが難しいのであれば、外部の道具や支援を利用する。過去の経験によって強い緊張が続いているのであれば、その苦しさを専門家と整理し、安心できる条件を増やしていく。

また、日常生活の機能が大きく低下している場合には、医療機関でうつ病や睡眠障害、身体疾患などの可能性も含めて確認することが重要です。

生活が安定してくると、以前できなかったことができるようになる場合もあります。一方、自分の特性に合った生活の方法を見つけることで、無理に周囲へ合わせなくても暮らせるようになる場合もあります。

どちらも、その人にとって大切な変化です。

普通のことができるかどうかだけで、その人がどれほど努力してきたのか、どのような力を持っているのかを判断することはできません。

何とか学校へ行った一日。緊張しながら仕事を終えた一日。食事をとり、身体を休めることで精一杯だった一日。

そこには、周囲から見えない多くの負担や努力が含まれている場合があります。

これまで、できない自分を何とか変えようとしてきた人にとっては、自分の困難を理解し、必要な支援を受け取ること自体が、大きな転換になるかもしれません。

自分が何に疲れ、何を怖がり、どのような環境なら落ち着いて過ごせるのか。それを少しずつ理解しながら、自分に合った生活を作っていく。

周囲と同じように生きることだけを目標にするのではなく、自分の心身を守りながら、できることや望むことを育てていく。

その積み重ねが、「普通にできない自分」を責め続ける生活から離れ、自分自身の人生を取り戻していくことにつながります。


参考文献

  1. Hull, L., Petrides, K. V., Allison, C., et al. (2017). “Putting on My Best Normal”: Social Camouflaging in Adults with Autism Spectrum Conditions. Journal of Autism and Developmental Disorders, 47, 2519–2534.
    https://doi.org/10.1007/s10803-017-3166-5
  2. Raymaker, D. M., Teo, A. R., Steckler, N. A., et al. (2020). “Having All of Your Internal Resources Exhausted Beyond Measure and Being Left with No Clean-Up Crew”: Defining Autistic Burnout. Autism in Adulthood, 2(2), 132–143.
    https://doi.org/10.1089/aut.2019.0079
  3. Bjerrum, M. B., Pedersen, P. U., & Larsen, P. (2017). Living with symptoms of attention deficit hyperactivity disorder in adulthood: A systematic review of qualitative evidence. JBI Database of Systematic Reviews and Implementation Reports, 15(4), 1080–1153.
    https://doi.org/10.11124/JBISRIR-2017-003357
  4. Kerns, C. M., Lankenau, S., Shattuck, P. T., Robins, D. L., Newschaffer, C. J., & Berkowitz, S. J. (2022). Exploring potential sources of childhood trauma: A qualitative study with autistic adults and caregivers. Autism, 26(8), 1987–1998.
    https://doi.org/10.1177/13623613211070637

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井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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