過食が止まらない原因とは?ストレス・食事制限・トラウマと回復方法

過食が止まらない 強迫・依存・その他

食べ始めると、自分でも驚くほど止められなくなることがあります。もう満腹のはずなのに、次の食べ物を探してしまう。お腹が苦しくなっても手が止まらず、食べ終わった後には、何をどれほど食べたのかを思い返して強い後悔に襲われる。

食べている間は、少しだけ気持ちが静かになります。仕事で言われた嫌な言葉も、誰かに傷つけられた悔しさも、自分への苛立ちも、その時間だけは遠ざかることがあります。口に入れる、噛む、飲み込むという感覚に意識が集中し、頭の中を占めていた不安や孤独が薄れていくのです。

しかし、食べ終わると、今度は別の苦しさが始まります。

どうしてまた食べてしまったのか。あれほど我慢していたのに、なぜ止められなかったのか。明日は食事を減らさなければならない。体重が増えていたらどうしよう。

鏡を見ることが嫌になり、自分の身体を責める気持ちが強まる。食べたことをなかったことにしたくなり、嘔吐や下剤、絶食、過度な運動へ向かう場合もあります。

そして、翌日から厳しい食事制限を始めても、空腹や疲労、精神的なストレスが重なると、再び食べたい衝動に襲われてしまう。

このように、苦しさを和らげるために食べることと、食べた自分を責めることが繰り返されると、過食は抜け出しにくい悪循環になっていきます。

過食が止まらない背景には、食事制限による強い空腹、体型への不安、感情調整の難しさ、慢性的なストレス、対人関係の問題など、さまざまな要因が関わります。

さらに、幼少期の虐待やネグレクト、性暴力などを経験した人では、食べることが耐えがたい感情を鎮めたり、身体の感覚を鈍らせたりする手段になっている場合があります。

ただし、過食に苦しむ人すべてにトラウマがあるわけではありません。摂食障害には遺伝的な要因や気質、食事制限、身体像へのとらわれ、生活環境などが複雑に関わっています。

大切なのは、食べる行動だけを問題にするのではなく、食べたくなる前に何が起きているのか、そして食べることによって何を得ようとしているのかを理解することです。

Table of Contents

  1. 過食症とは?過食が止まらない症状と摂食障害の違い
    1. むちゃ食い症|食べることをコントロールできない苦しさ
    2. 神経性過食症|食べたい気持ちと太る恐怖の間で揺れる
  2. 過食が止まらない心理|不安や怒りを食べることで鎮めようとする
  3. 食べている間だけ、何も考えずに済む|過食と感情の麻痺
  4. 食事制限が過食を引き起こす理由|我慢するほど食べたくなる悪循環
  5. 食べた後の自己嫌悪|過食と自己否定が繰り返される心理
  6. 幼少期の家庭環境と過食|自分の感情を後回しにしてきた人
  7. 性暴力やトラウマが、食べることと身体への嫌悪に結びつくとき
  8. 過食嘔吐が身体へ与える影響|見た目では分からない危険
  9. 過食をやめるには?食事制限と自己否定の悪循環を緩める
  10. 過食の前に何が起きているのか|感情と身体の変化を理解する
  11. 過食の回復に必要なのは、食べ物以外にも自分を支える方法を持つこと
    1. 運動を、食べたことへの罰にしない
  12. 過食の回復を妨げる恥と孤独|誰にも相談できない苦しさ
  13. 摂食障害の治療とカウンセリング|身体と心理の両方を支える
  14. 過食からの回復とは、食べることへの恐怖を少しずつ減らすこと
  15. おわりに|過食を責めるより、食べることで耐えてきた苦しさを理解する
  16. 参考文献
    1. ご相談をご希望の方へ

過食症とは?過食が止まらない症状と摂食障害の違い

一般に「過食症」という言葉は、食べ過ぎが続く状態を広く指す言葉として使われています。

しかし、医学的には、過食の現れ方や、その後にどのような行動が起きるかによって診断が異なります。

むちゃ食い症|食べることをコントロールできない苦しさ

むちゃ食い症(過食性障害、Binge Eating Disorder)は、一定の時間内に通常より多くの食べ物を摂り、食べることを自分でコントロールできない感覚が繰り返される状態です。

本人は、お腹が空いているから食べているとは限りません。

満腹になっても止められず、食べる速度が速くなったり、人に見られたくないため一人で食べたりすることがあります。

そして、食べ終わった後には、強い罪悪感や自己嫌悪、落ち込みを経験する場合があります。

むちゃ食い症では、神経性過食症のような習慣的な排出行動や補償行動を伴わないことが特徴です。

ただし、食べる量の多さだけで判断することはできません。本人がどの程度コントロールを失っているのか、どのような苦痛を感じているのか、生活にどれほど影響が出ているのかを確認する必要があります。

神経性過食症|食べたい気持ちと太る恐怖の間で揺れる

神経性過食症(Bulimia Nervosa)では、過食の後に体重増加を避けようとして、嘔吐や下剤の乱用、絶食、過度な運動などを繰り返すことがあります。

食べたいという衝動が強い一方で、食べることへの恐怖も非常に強くなっている状態です。

食べている間は苦しさから離れられても、食べ終わると、体重や体型への不安が急激に高まる。その不安を解消するために補償行動へ向かい、再び強い空腹やストレスが生じることで、過食を繰り返してしまう場合があります。

この状態では、食事や体型への考えが生活の中心になりやすくなります。

朝起きて最初に体重のことを考える。食事をする前から、その後どう調整するかを考える。人と食事をするときにも、楽しむより食べた量が気になってしまう。

周囲には普通に生活しているように見えても、本人の頭の中では、一日の多くの時間が食べ物や体重に占められている場合があります。

また、摂食障害は見た目の体型だけでは判断できません。やせている人にも、標準的な体型の人にも、体重が増えている人にも起こり得ます。

過食が止まらない心理|不安や怒りを食べることで鎮めようとする

過食の直前に、強い空腹とは別の苦しさが生じていることがあります。

職場で理不尽なことを言われても、言い返せなかった。恋人から冷たくされ、傷ついた気持ちを伝えられなかった。家族の要求に応え続け、自分の時間がなくなってしまった。

その場では平気なふりをしていても、身体には緊張が残っています。

帰宅して一人になった途端に、胸の奥がざわつき、急に食べ物が欲しくなることがあります。

食べ始めると、意識は目の前の食べ物へ向かいます。

味や香り、噛む感覚、飲み込む感覚、次に何を食べるかということが頭の中を占め、先ほどまで続いていた不安や怒りから少し距離を取れるように感じられる場合があります。

食べることが、気持ちを切り替えるための最も手近な方法になっているのです。

Brelandら(2018)は、米国の退役軍人医療機関に通う女性20人にインタビューを行い、トラウマ体験と摂食行動の関係を調べました。

参加者の中には、過去のつらい記憶や強い感情を和らげるために、食べる行動へ向かっていた人がいました。

食べることで一時的に安心できても、その後には新たな罪悪感や自己否定が生まれ、再び苦しい感情を抱えるという循環も語られています。

また、食べることを、感情を落ち着かせるためではなく、感じたくない怒りや苦痛を麻痺させる方法として使っていた人もいました。

この研究は特定の女性集団を対象としたもので、過食の原因を一つに決めるものではありません。しかし、食べることが本人にとって、単なる楽しみや習慣以上の役割を持っている場合があることを示しています。

過食を理解するときには、何をどれだけ食べたのかだけでなく、その人が食べることで、どのような感情から離れようとしているのかを見ることが大切です。

食べている間だけ、何も考えずに済む|過食と感情の麻痺

強いストレスを抱えている人の中には、考え続けることそのものに疲れ切っている人がいます。

仕事で失敗したことを何度も思い返す。相手の言葉の意味を考え続ける。自分が悪かったのではないかと責める。何もしていない時間にも、頭の中では同じ考えが繰り返されている。

そうした状態では、考えることをやめたいと願うようになることがあります。

しかし、やめようと思っても、頭の中の声は簡単には静かになりません。

そこで、食べるという感覚的な行動に没頭することで、思考から離れられる場合があります。

口の中がいっぱいになる。噛む感覚が続く。胃が満たされていく。

その時間だけは、頭の中で自分を責めていた声が少し遠ざかる。

過食が始まると、自分がどれほど食べているのかを十分に意識できなくなる場合もあります。

食べ終わってから、急に現実へ戻ってきたような感覚になり、目の前に残った食べ物の包装や食器を見て、強い自己嫌悪が生じることがあります。

ただし、こうした感覚があるからといって、必ず解離症状が起きているとは限りません。

食べることへの強い没頭や感情調整の難しさによっても、時間の経過や食べた量を十分に意識できなくなる場合があります。

一方、トラウマや解離症状を抱える人では、感情や身体感覚が遠のく体験と過食が重なることもあります。

その場合には、食べる行動を止めようとすることだけでなく、本人がどのような感情や身体の状態に耐えられなくなっているのかを理解する必要があります。

食事制限が過食を引き起こす理由|我慢するほど食べたくなる悪循環

過食は、精神的なストレスだけで始まるわけではありません。

厳しい食事制限を続けることによって、身体が強く食べ物を求め、過食へつながる場合もあります。

体重を減らしたい。太りたくない。自分の身体が嫌いだから、何とか変えたい。

そのような思いから、食べる量を厳しく制限することがあります。

最初は計画どおりに食事を減らせていても、制限が続くと空腹が強まり、食べ物のことが頭から離れなくなる場合があります。

食べてはいけないと思うほど、食べ物が気になる。少し食べただけでも、決めていたルールを破ったように感じる。

そして、一度食事制限が崩れると、「どうせもう駄目だから」と考え、食べ続けてしまうことがあります。

Brownstoneら(2021)は、食べることをコントロールできなくなる体験について、14人への質的インタビューを行いました。

研究では、本人が食べすぎたと感じているものの、客観的には必ずしも大量の食事ではない場合も含め、その体験の意味を調べています。

参加者の語りには、普段の厳しい自己管理や食事制限と、食べることをコントロールできなくなる感覚が結びついている様子が表れていました。

また、食べた後には、安心するよりも苦痛や自分自身との断絶感が強まる場合もありました。

ここで重要なのは、過食が必ずしも大量に食べたという事実だけで決まるわけではないことです。

本人にとって、食事のルールを破ったことや、食べることをコントロールできなかったという感覚そのものが、強い苦痛になる場合があります。

そして、その苦痛を取り戻そうとして、さらに厳しい食事制限へ向かうことがあります。

制限する、反動で食べる、自己嫌悪に陥る、再び制限する。

この循環が続くと、食事は身体を養うためのものから、自分の意志の強さや価値を試すものへ変わっていきます。

回復では、食べることをさらに厳しく管理するより、極端な制限を見直し、食事のリズムを整えることが重要になります。

食べた後の自己嫌悪|過食と自己否定が繰り返される心理

過食の後には、食べた量や体重への不安だけでなく、自分自身に対する激しい嫌悪感が生じることがあります。

なぜ止められなかったのか。どうして自分はこんなこともできないのか。

食べたことへの後悔が、いつの間にか自分という人間全体への否定に変わっていきます。

以前から自分に厳しく、失敗を許せない人ほど、一度の過食を大きな失敗として捉えやすくなる場合があります。

そのため、過食の後に生じる苦しさは、身体的な不快感だけにとどまりません。

自分には価値がない。どうせ何をしても続かない。ほかの人は普通に食べられるのに、自分にはそれができない。

そうした考えが繰り返されると、食べること以外の生活にも自信を持ちにくくなる場合があります。

さらに、他人から体型や食事について指摘されることが、恥や自己否定を深める場合もあります。

「また食べたの」「少し痩せたら」「意志が弱いからだよ」といった言葉が、本人の中にある自己批判と重なってしまうのです。

その結果、人前で食事をすることを避けたり、食べたことを隠したりするようになる場合があります。

誰にも知られないように食べ、食べた後には一人で自分を責める。そうした孤立が続くほど、苦しさを誰かへ伝えることは難しくなっていきます。

過食の悪循環を理解するときには、食べる前の苦しさだけでなく、食べた後に自分へ向けている厳しい言葉にも注意を向ける必要があります。

幼少期の家庭環境と過食|自分の感情を後回しにしてきた人

過食に苦しむ人の中には、子どもの頃から周囲の期待に応えることを優先してきた人もいます。

親の機嫌を読み、家の空気が悪くならないように振る舞う。困っていることがあっても、家族に迷惑をかけたくなくて黙っている。悲しいときにも泣かず、怒りを感じても相手へ伝えない。

良い子でいることが、家庭の中で自分の居場所を守るための方法になっていたのかもしれません。

そのような環境では、自分の感情を理解するより、相手が何を望んでいるのかを考える習慣が身につく場合があります。

自分が疲れていることに気づく前に、家族の用事を引き受ける。怒っていることを自覚するより、相手を不機嫌にさせない方法を考える。

そうした生活が長く続くと、自分の感情を言葉にすることが難しくなる場合があります。

スウェーデンで摂食障害の治療を受けていた女性9人への質的研究では、自分が何を感じているのか分からないことや、感情を隠し、食行動によって調整しようとしてきた経験が語られています。

研究では、怒りや悲しみ、不安だけでなく、喜びさえも扱いにくいものとして感じていた参加者がいました。

感情をそのまま感じることが難しく、食べることや食事制限によって、自分の内側を調整しようとしていたのです。

ただし、感情の扱いにくさが先に存在したのか、摂食障害によって強まったのかは、一概に判断できません。

それでも、摂食障害を理解するときには、食べる行動だけでなく、その人がこれまでどのように感情を扱い、どのような関係の中で生活してきたのかを見る必要があります。

親から褒められるのは、期待に応えたときだけだった。失敗すると厳しく責められた。自分の希望を伝えると、わがままだと言われた。

そのような経験を重ねると、自分の身体や食事に対しても、厳しい基準を向けるようになる場合があります。

食べることを管理できれば、自分には価値がある。体型を維持できれば、周囲から認められる。決めたことを守れなければ、自分は駄目な人間だ。

こうした自己評価が強まるほど、食事は自分を管理し、評価するためのものになっていきます。

無条件の愛情とは|子どもの自己肯定感を育てる親子関係では、結果や役割とは別に、自分の存在を大切にされる経験が、その後の自己評価へどのように関わるのかを扱っています。

性暴力やトラウマが、食べることと身体への嫌悪に結びつくとき

性暴力や性的虐待など、身体への侵害を経験した後に、食事や自分の身体との関係が変わる場合があります。

自分の身体が自分のものだと感じられない。鏡を見ることが苦しい。人から身体を見られることが嫌になる。触れられることに強い恐怖を感じる。

そうした状態では、自分の身体を心地よいものとして感じることが難しくなる場合があります。

食べることによって身体の感覚を強く感じようとする人もいれば、反対に、食べることで不安や嫌悪感を麻痺させようとする人もいます。

また、身体が自分の意思を超えて他者に支配された経験を持つ人にとって、食事や体型を管理することが、自分で決められる数少ない領域として感じられる場合があります。

自分の身体を誰にも触れさせたくない。性的な対象として見られたくない。目立たない身体になりたい。

そうした願いが、体型への複雑な感情と結びつくこともあります。

Brelandら(2018)の研究では、トラウマを経験した女性たちの中に、食行動を通して、過去の加害者や性的な接近から距離を取ろうとしていた人がいました。

ただし、体重の増減がすべて性被害への防衛として生じるわけではありません。身体への嫌悪や過食の背景には、さまざまな要因が関わっています。

Olsenら(2024)は、むちゃ食い症で入院治療を受けた経験のある女性6人にインタビューを行い、自分の身体をどのように経験しているのかを調べました。

参加者の語りには、家庭の中で感情や人間関係の問題を十分に話せなかった経験に加え、自分の身体への強い嫌悪や恥が表れていました。

身体への嫌悪が、自分自身の感じ方や他者との関係にも影響していたのです。

この研究は少人数の女性を対象としたものであり、過食を経験する人すべてに同じ背景があるわけではありません。

それでも、過食からの回復を考えるうえで、食べる行動だけでなく、自分の身体をどのように感じているのかが重要な問題になることを示しています。

性暴力や虐待の経験がある場合には、食行動を改善することと並行して、身体への嫌悪や過去の傷つきを丁寧に扱う支援が必要になる場合があります。

PTSDになりやすい人の特徴|トラウマが心と身体に深く残る背景では、強い恐怖や身体への侵害を経験した後、心身や人間関係にどのような影響が残るのかを解説しています。

過食嘔吐が身体へ与える影響|見た目では分からない危険

過食の後に嘔吐や下剤の乱用、絶食、過度な運動などを繰り返している場合には、身体の健康にも注意が必要です。

本人は、体重を増やさないため、食べたことを帳消しにするために、こうした行動へ向かっている場合があります。

しかし、その行動が身体に大きな負担をかけることがあります。

嘔吐や下剤の乱用などが続くと、脱水や電解質異常、不整脈などが生じる危険があります。また、胃や食道の炎症、歯の損傷、便通の乱れ、慢性的な疲労などにつながる場合もあります。

体型が大きく変化していなくても、身体の中では深刻な問題が起きていることがあります。

特に、強い動悸や胸の痛み、失神、著しい脱力、血を吐く、激しい腹痛などがある場合には、速やかな医療的評価が必要です。

摂食障害は、外見だけで重症度を判断することが難しい病気です。

周囲からは健康そうに見えても、本人は長い間、過食や嘔吐を繰り返し、身体の限界に近づいている場合があります。

また、過食嘔吐をしている人は、その行動を知られることに強い恥を感じ、受診をためらうことがあります。

しかし、身体の安全を確認し、必要な治療を受けることは、過食からの回復を進めるための大切な土台になります。

過食をやめるには?食事制限と自己否定の悪循環を緩める

過食が止まらないとき、多くの人は、もっと食事を厳しく管理しなければならないと考えます。

明日から甘いものを食べない。食事の量を減らす。食べたい気持ちが出ても、何とか我慢する。

しかし、強い食事制限が過食を引き起こしている場合には、制限をさらに厳しくすることで、悪循環が深まることがあります。

英国のNICE(国立医療技術評価機構)は、むちゃ食い症の治療において、認知行動療法に基づく支援を推奨しています。

その中では、規則的な食事や間食を取り入れ、強い空腹を避けること、過食につながる感情や状況を理解すること、身体への否定的な考え方を扱うことなどが重視されています。

また、過食の治療中に体重を減らそうとしてダイエットを行うことは、過食を誘発する可能性があるため、避けるよう勧めています。

回復では、食べることを自分への罰や評価から少しずつ切り離していく必要があります。

食べることは、身体へ必要な栄養を届ける行為です。

体重や体型を管理するためだけに食事を捉えるのではなく、身体が必要としているものを、安全に受け取れるようにしていくことが大切です。

ただし、長期間にわたる食事制限や低栄養、頻繁な過食嘔吐がある場合には、食事の調整を一人で進めることが難しい場合があります。医師や管理栄養士、摂食障害の専門家とともに、身体の状態を確認しながら進めることが必要です。

過食の前に何が起きているのか|感情と身体の変化を理解する

過食を減らしていくためには、食べる行動だけを監視するより、その前に何が起きているのかを理解することが役立ちます。

例えば、夕方になると急に食べたい衝動が強まる場合、その日の出来事を振り返ってみます。

仕事で強く緊張していなかったか。誰かから傷つく言葉を向けられていなかったか。昼間の食事を十分に取れていたか。睡眠不足が続いていなかったか。

そのように整理すると、過食の背景に複数の負担が重なっていることに気づく場合があります。

食べる直前に、はっきりした感情を自覚できない人もいます。

何となく落ち着かない。身体が張りつめている。胸が苦しい。急に一人になりたくなる。

そうした曖昧な感覚が、過食へ向かう前に現れている場合もあります。

特に、幼少期から自分の感情を抑え、周囲へ合わせてきた人は、自分が怒っていることや悲しんでいることを、すぐには理解できない場合があります。

そのようなときには、感情へ名前をつけることを急がず、身体がどのような状態なのかを確かめることも役立ちます。

ただし、トラウマや解離症状がある場合には、身体の内側へ注意を向けることで苦痛が強まることがあります。

その場合には、無理に感情や身体感覚を掘り下げるより、周囲の環境を見渡したり、現在の生活の負担を減らしたりすることを優先します。

大切なのは、過食の原因を毎回正確に見つけることではありません。

自分がどのような状況で苦しくなり、その苦しさをどう扱おうとしているのかを、少しずつ理解していくことです。

過食の回復に必要なのは、食べ物以外にも自分を支える方法を持つこと

過食が長く続いている人にとって、食べることは生活の中で重要な役割を担っている場合があります。

仕事の緊張から離れる時間。孤独を紛らわせる時間。自分を責める考えから一時的に逃れる時間。

そのような役割を理解せずに食べる行動だけを止めようとすると、本人は苦しさを扱う方法を失ったように感じることがあります。

回復では、食べること以外にも、自分を落ち着かせたり、気持ちを切り替えたりできる方法を増やしていくことが重要になります。

音楽を聴く。短い散歩をする。好きな本を読む。絵を描く。植物を育てる。信頼できる人と話す。

こうした活動が、過食の衝動を必ず抑えるわけではありません。

しかし、食べること以外にも自分を支えるものがあると感じられるようになると、苦しさに対して取れる選択肢が増えていきます。

また、過食が強い日には、何もしたくないと感じる場合もあります。

そのようなときに、何か役立つことをしなければならないと自分を追い立てると、さらに疲労が強まることがあります。

回復のための活動まで義務にするのではなく、今の身体がどの程度の負担を受けているのかを確かめながら、できることを選んでいく必要があります。

運動を、食べたことへの罰にしない

運動が気分転換や睡眠の助けになる人もいます。

しかし、過食や過食嘔吐を繰り返している人にとっては、運動が食べた分を帳消しにするための行動になることがあります。

食べたから運動しなければならない。運動できなかった日は食事を減らさなければならない。

そうした考え方が強くなると、運動もまた、体重や身体を管理するための厳しい義務になってしまいます。

特に、低栄養や電解質異常などがある場合には、過度な運動によって身体への負担がさらに大きくなる危険があります。

運動を取り入れる場合にも、体重を減らすためだけではなく、身体の状態に合わせて、無理なく行えるかどうかを考えることが大切です。

身体の状態によっては、運動を控え、医療的な評価や休養を優先する必要があります。

過食の回復を妨げる恥と孤独|誰にも相談できない苦しさ

過食を繰り返している人は、その行動を誰にも知られたくないと思うことがあります。

食べた量を隠す。家族が寝静まってから食べる。嘔吐していることを知られないようにする。人前では普通に食事をしているように振る舞う。

そのように生活していると、自分の苦しさを誰かへ伝える機会が失われていきます。

周囲からは、きちんと生活している人に見えているかもしれません。

しかし本人は、食べ物や体型について考え続け、何度も自分を責め、誰にも相談できない孤独を抱えている場合があります。

Bremerら(2023)は、むちゃ食い症の回復プログラムに参加していた6人への質的インタビューを行い、当事者がどのような苦しみを抱え、何を回復の支えとして感じているのかを調べました。

参加者たちは、食べることをコントロールできない苦しさに加え、周囲から理解されないことや、体型について否定的な言葉を向けられることで、強い恥を感じていました。

一方で、自分を責め続ける状態から少し離れられることや、家族や友人、支援者から理解を得られることが、回復を支える経験として語られています。

この研究は少人数を対象としたもので、すべての人に同じ回復過程が当てはまるわけではありません。

それでも、過食の回復には、食べる行動の調整だけでなく、自分をどう評価しているのか、周囲との関係の中でどれほど安心できるのかが関わっていることを示しています。

過食を抱える人にとって、「また食べてしまった」と誰かへ伝えることには、大きな勇気が必要な場合があります。

そのときに、意志の弱さを責められたり、食べた量を問い詰められたりすると、本人はさらに自分を隠すようになるかもしれません。

苦しさを理解しようとしてもらえること。食べたことだけで人間としての価値を判断されないこと。

そうした関係の中で、本人は少しずつ自分の問題を言葉にできるようになる場合があります。

摂食障害の治療とカウンセリング|身体と心理の両方を支える

過食や過食嘔吐が続いている場合には、食事や身体の状態を確認しながら、心理的な背景にも取り組むことが重要です。

摂食障害には、認知行動療法などの心理療法が用いられます。

例えば、過食の起きやすい状況を整理し、食事制限と過食の循環を見直す。体重や体型に関する極端な考え方を扱い、強い感情が生じたときの対処法を増やしていく。

そのような取り組みを、本人の状態に合わせて進めていきます。

また、過食の背景に虐待や性暴力などのトラウマが関わっている場合には、PTSDや解離、身体への嫌悪、対人関係の問題なども含めて支援を考える必要があります。

ただし、過去の記憶を早く思い出したり、トラウマを詳しく語ったりすることが、必ずしも最初の課題になるわけではありません。

身体の状態が不安定な場合や、頻繁な過食嘔吐、強い解離症状がある場合には、まず安全を確保し、現在の生活を支えることが重要になります。

心理的な問題と身体的な問題を切り離さず、必要に応じて医師、管理栄養士、心理職などが連携しながら治療を進めることが望まれます。

また、過食の背景には、職場や家庭での慢性的な負担、経済的な不安、孤立などが関わる場合もあります。

そのため、本人の考え方や感情だけに注目するのではなく、生活環境そのものを調整することも回復の一部になります。

心理カウンセリングで相談できる内容|トラウマ・解離・愛着・発達特性・心身不調まででは、言葉にしにくい心身の苦しさを、心理的な支援の中でどのように扱っていくのかを紹介しています。

過食からの回復とは、食べることへの恐怖を少しずつ減らすこと

過食をやめたいと思っている人は、食べることを自分で完全にコントロールできるようになりたいと考えるかもしれません。

しかし、厳しい自己管理が過食を強めてきた場合には、さらに管理を徹底することが、回復を妨げる場合があります。

回復では、食事を身体へ必要な栄養を届けるための行為として捉え直し、食べることに伴う恐怖や罪悪感を少しずつ和らげていく必要があります。

食べた後に自分を罰しない。体重や体型だけで自分の価値を判断しない。疲れているときには休み、悲しいときには、その悲しさを理解しようとする。

そうした経験を積み重ねることで、食べることに集中していた注意を、日常生活や人間関係、自分が本当に望むことへ向けられるようになる場合があります。

また、過食が再び起きたとしても、それまでの回復の取り組みがすべて失われるわけではありません。

過食が起きたときには、その前にどのような負担が重なっていたのかを整理し、必要に応じて支援の方法を見直すことが大切です。

食事のリズム、身体の健康、感情の扱い方、自己評価、人との関係。そうしたものが少しずつ整っていく中で、過食だけに頼らずに生活できる時間が増えていくことがあります。

おわりに|過食を責めるより、食べることで耐えてきた苦しさを理解する

過食が止まらないとき、本人は食べたことばかりを責めてしまう場合があります。

また我慢できなかった。自分には意志がない。こんなこともコントロールできない自分が嫌になる。

しかし、過食の背景には、本人が思っている以上に複雑な事情が重なっていることがあります。

厳しい食事制限によって身体が強い空腹を感じている場合もあれば、仕事や家庭でのストレスを抱え、食べることによって一時的に苦しさを鎮めようとしている場合もあります。

また、幼少期から自分の感情を抑えてきた人は、怒りや悲しみを言葉にする代わりに、食べることへ向かっている場合があります。

性暴力や虐待によって身体への嫌悪感を抱え、食事や体型を通して自分の身体との関係を何とか保とうとしている人もいます。

そうした背景がある場合には、食べる行動だけを問題にしても、苦しさの全体を理解することは難しくなります。

食べることが、何を感じずに済む時間だったのか。誰にも言えなかった感情が、どこに残っていたのか。自分の身体を、いつから厳しく評価するようになったのか。

そうしたことを少しずつ理解していくことが、回復への手がかりになります。

一方で、過食や過食嘔吐そのものへの専門的な治療も重要です。過去の傷つきを理解するだけで、食事制限や補償行動の循環が自然に改善するとは限りません。

身体の健康を守りながら、規則的な食事を取り戻し、自己否定を和らげ、食べること以外にも自分を支える方法を増やしていく必要があります。

過食からの回復とは、食べたい気持ちを力ずくで抑え込むことではなく、食べることによってしのいできた苦しさを、別の方法でも扱えるようになることです。

食事の時間が、自分を責める時間から、身体を支える時間へ変わっていく。食べた後に後悔ばかりを重ねるのではなく、自分の状態を理解し、必要な支援を受けられるようになる。

そして、食べることや体型に心の多くを奪われていた生活から、少しずつ自分自身の人生へ注意を戻していく。

そのような変化を重ねていくことが、過食の悪循環から離れ、自分の心と身体を大切にできる生活を取り戻すことにつながります。


参考文献

  1. Breland, J. Y., Donalson, R., Dinh, J. V., & Maguen, S. (2018). Trauma exposure and disordered eating: A qualitative study. Women & Health, 58(2), 160–174.
    https://doi.org/10.1080/03630242.2017.1282398
  2. Brownstone, L. M., Mihas, P., Butler, R. M., Maman, S., Peterson, C. B., Bulik, C. M., & Bardone-Cone, A. M. (2021). Lived experiences of subjective binge eating: An inductive thematic analysis. International Journal of Eating Disorders, 54(12), 2192–2205.
    https://doi.org/10.1002/eat.23636
  3. Olsen, H. T., Vangen, S. B., Stänicke, L. I., & Vrabel, K. (2024). “I feel so small and big at the same time”—exploring body experience and binge eating disorder following inpatient treatment: a qualitative study. Frontiers in Psychology, 15, 1432011.
    https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1432011
  4. Bremer, M. F., Garnweidner-Holme, L., et al. (2023). Experiences of living with binge eating disorder and facilitators of recovery processes: a qualitative study. Journal of Eating Disorders, 11, 201.
    https://doi.org/10.1186/s40337-023-00929-2
  5. National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Eating disorders: recognition and treatment (NG69).
    https://www.nice.org.uk/guidance/ng69/chapter/recommendations

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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強迫・依存・その他
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