境界性パーソナリティ障害の口癖と心理|自己否定・見捨てられ不安・攻撃的な言葉

境界性パーソナリティ障害の口癖 人格傾向・パーソナリティ

「どうせ私なんて、誰からも愛されない」「嫌いになったんでしょう?」「もう全部どうでもいい」。激しい怒りをぶつけた後に何度も謝り、つい先ほどまで大切だった相手を、突然「もう信用できない」と突き放す。周囲から見ると矛盾した言動に映りますが、その言葉の背後には、本人自身にも整理できない不安や孤独、強い自己嫌悪が隠れていることがあります。

境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、感情や自己イメージ、対人関係が不安定になりやすく、見捨てられることへの強い恐怖、慢性的な空虚感、衝動的な行動などが現れる精神疾患です。

BPDを抱える人の言葉には、「自分には価値がない」という自己批判、「離れてほしくない」という依存的な訴え、「誰も信用できない」という攻撃的な言葉などが現れる場合があります。その一方で、自分の気持ちが分からなくなったり、本当は苦しいのに「大丈夫」と答えたりすることもあります。

こうした言葉を理解するときに重要なのは、何を言ったかだけでなく、その言葉を口にする直前、本人の心と身体に何が起きていたのかを見ることです。

相手から返信が来ないことに強い不安を感じ、見捨てられたと思い込んでしまう。自分が悪かったと責め続け、相手に謝ることで何とか関係を保とうとする。耐えがたい孤独を感じると、誰かに助けを求めたい気持ちと、近づかれることへの恐怖が同時に生まれることがあります。

ただし、こうした言葉はBPDに特有のものではありません。うつ病や不安障害、複雑なトラウマ、強いストレスの中でも似た表現が現れます。口癖だけで診断することはできず、BPDと診断された人すべてが同じ言葉を使うわけでもありません。

大切なのは、一つひとつの言葉が、その人の内側にある何を伝えようとしているのかを理解することです。

境界性パーソナリティ障害の口癖に現れる5つの心理

BPDを抱える人の発言には、感情や自己認識、対人関係の揺らぎが反映されることがあります。

その背景には、自己否定と恥、見捨てられ不安、他者への強い依存と不信、慢性的な空虚感、感情をうまく言葉にできない苦しさなどが重なっている場合があります。

たとえば、恋人からの返信が遅れたとき、最初は「何かあったのかな」と心配していたのに、次第に「もう私のことが嫌いになったんだ」と感じるようになることがあります。

相手の気持ちを確かめたい一方で、もし拒絶されたら耐えられないという恐怖もある。その結果、「どうせ私なんていらないんでしょ」と責めるような言葉になってしまう場合があります。

メンタライジングの理論では、強い感情に圧倒されたとき、自分が感じていることを現実そのものとして受け止め、相手にも別の考えや事情があると想像することが難しくなる状態を、心的等価モードとして説明します。

「嫌われたと感じた」ことが、「実際に嫌われている」という確信へ変わってしまうのです。

そのため、本人が強く訴えている内容と、実際に起きた出来事が一致しない場合があります。それでも、本人が感じている恐怖や悲しみは切実なものです。

こうした状態を理解するときには、相手の感情を受け止めながら、その解釈が事実なのかどうかを丁寧に確かめる必要があります。

「どうせ私はダメだから」|自己否定と自己批判の口癖

「どうせ私はダメだから」「私なんて価値がない」「何をやってもうまくいかない」。こうした言葉を繰り返す背景には、自分自身への強い恥や嫌悪感が関わっていることがあります。

失敗を指摘されると、その行動だけでなく、自分という人間そのものが否定されたように感じる。相手が不機嫌になると、自分が何か悪いことをしたのではないかと考える。褒められても素直に受け取れず、期待に応えられなくなった瞬間、自分には価値がなくなるように感じることがあります。

幼少期から失敗を厳しく責められたり、親の期待に応えたときだけ認められたりしてきた人は、自分の価値を他者の評価に委ねやすくなる場合があります。

そのような環境では、誰かに批判される前に、自分から自分を責めることが習慣になることもあります。「どうせ私が悪い」と言っておけば、それ以上責められることを避けられるかもしれない。自分を低く扱うことが、対人関係の中で身についた防衛になる場合があるのです。

JørgensenとBøye(2024)は、BPDと診断された女性21人への質的インタビューを通して、強い恥がどのように経験されているのかを調べました。

参加者の語りからは、自分は根本的に欠陥のある人間だという感覚、自己嫌悪、人と目を合わせることへの恥、精神疾患を抱えていることへの羞恥心などが明らかになりました。

また、恥を隠すために役割を演じたり、周囲の期待に合わせたりすることも報告されています。

ここで注目したいのは、本人が単に自信を失っているというより、自分の存在そのものを恥ずかしいものとして感じている場合があることです。

「どうせ私はダメ」という短い言葉には、自分を責め続けてきた長い時間が凝縮されていることがあります。

自己否定が止まらない人へ|自分を責め続ける心はどこから生まれるのかでは、こうした自己批判が人間関係や幼少期の経験とどのように結びつくのかを詳しく扱っています。

「嫌われた?」「もう捨てるんでしょ?」|見捨てられ不安の口癖

「返事が遅いってことは、もう嫌いになったんだよね」「私のこと、うんざりしているんでしょう?」「どうせそのうち捨てるんでしょ?」

こうした言葉は、相手への不信感として表れる一方で、関係を失うことへの強い恐怖から生まれる場合があります。

BPDの人にとって、親しい相手は安心を与えてくれる存在であると同時に、その相手を失うことが大きな苦痛につながる存在でもあります。

恋人からの返信が少し遅れる。いつもより口数が少ない。会う予定が変更になる。それだけで、相手の気持ちが離れていくように感じることがあります。

その不安が強まると、何度も連絡をしたり、愛情を確かめたりするようになります。相手が説明してくれても安心できず、さらに確認を重ねることもあります。

一方で、これ以上傷つくことが怖くなると、「もう連絡してこないで」「あなたなんか必要ない」と自分から突き放す場合もあります。

近づきたい気持ちと、傷つく前に離れたい気持ちが、短い時間の中で入れ替わるのです。

過去に大切な人から拒絶された経験や、不安定な関係の中で育った経験が、こうした反応に影響している場合もあります。ただし、すべての見捨てられ不安を幼少期のトラウマだけで説明できるわけではありません。

見捨てられ不安がしんどい時に試したいセルフチェックと愛着ケア法では、親しい相手から離れることへの恐怖や、愛情を繰り返し確かめたくなる心理を掘り下げています。

「自分がどうしたいのか分からない」|揺らぐ自己イメージ

「何がしたいのか分からない」「自分が何を感じているのか分からない」「本当の自分がどれなのか分からない」。

BPDでは、感情だけでなく、自分自身をどのような人間だと感じるかという自己イメージも揺らぎやすくなることがあります。

ある日は、自分には可能性があると思える。ところが、仕事で失敗したり、親しい人と喧嘩したりすると、それまでの自信が失われ、自分には何の価値もないように感じられることがあります。

恋人と一緒にいるときには、その人との未来が人生のすべてのように思える。しかし、関係が悪化すると、今まで何を望んでいたのかさえ分からなくなってしまう場合もあります。

周囲の期待に応えようとする傾向が強い人は、相手によって振る舞いを大きく変えることがあります。家族の前では従順で、職場では明るく、恋人の前では依存的になる。どの姿も自分なのに、一人になると自分が何者なのか分からなくなるのです。

また、強いストレスによって解離症状が現れると、感情や身体感覚が遠のき、自分の気持ちをつかみにくくなる場合があります。

「分からない」という言葉は、答えることを拒んでいるのではなく、本人自身が自分の内側を把握できなくなっていることを表している場合があります。

解離に伴う自己感覚の変化については、解離性障害の症状・チェックリスト|日常生活に現れるサインでも詳しく解説しています。

「消えたい」「死にたい」|苦痛から逃れたいという訴え

「もう生きていたくない」「消えてしまいたい」「こんな苦しさが続くなら、死んだ方がましだ」。

こうした言葉が出るときには、本人が強い絶望感や孤独に襲われている可能性があります。

BPDでは、感情の変動が激しくなることがあり、対人関係の衝突や拒絶された感覚をきっかけに、耐えがたい苦しさが急激に高まる場合があります。

その瞬間には、これから先もずっと同じ苦痛が続くように感じられ、ほかの選択肢を考える余裕がなくなることもあります。

「死にたい」という言葉には、現在の苦痛から解放されたい、誰かに苦しさを理解してほしい、これ以上自分を責め続けることに耐えられないといった複数の気持ちが重なっている場合があります。

しかし、苦痛を伝える意味が含まれているからといって、自殺の危険が低いと判断することはできません。実際に死にたいという意思や具体的な計画が伴っていることもあり、発言の背景を慎重に確認する必要があります。

また、自傷行為にもさまざまな背景があります。強い感情を鎮めようとする場合もあれば、空虚感や解離の中で感覚を取り戻そうとする場合もあります。ただし、自傷には重大な危険があり、その行為を生存のための方法として肯定的に扱うことは適切ではありません。

周囲の人は、こうした訴えを単なる「構ってほしい発言」と決めつけず、本人がどのような状態にあるのかを確認することが大切です。

今すぐ自分を傷つけるつもりがあるのか、具体的な計画や手段があるのかを直接確かめ、差し迫った危険があれば救急医療などの支援につなげる必要があります。

「誰も分かってくれない」「助けてほしい」|依存と不信が入り混じる言葉

「誰も私のことなんて分かってくれない」「一人でいいから、ちゃんと理解してほしい」「もう誰にも頼れない」。

こうした言葉には、誰かと深くつながりたい気持ちと、他人を信じることへの恐怖が重なっている場合があります。

本人は、自分の苦しさを分かってほしいと思っています。しかし、これまで助けを求めても理解されなかったり、弱さを見せたことで傷つけられたりした経験があると、相手の優しさを素直に受け取れないことがあります。

親しくなった相手へ自分のすべてを打ち明けたくなる一方で、少しでも期待と違う反応が返ってくると、「やっぱり誰も分かってくれない」と感じてしまう。

その結果、理解してほしい相手を強く責めたり、わざと距離を取ったりする場合があります。

Moltuら(2023)は、BPDと診断された女性12人の体験を調べ、感情に圧倒される苦しさ、自分自身への不信感、他者への依存によって安定を得ようとする感覚、助けを求めることへのためらいなどを報告しています。

誰かに頼りたい気持ちが強い一方で、頼ることそのものが不安を生む場合もあるのです。

このような関係では、支える側がすべてを理解し、すべての要求を満たそうとすると、互いに疲弊してしまうことがあります。

本人の苦しさを受け止めながらも、できることと難しいことを明確にし、一貫した関わり方を続けることが大切です。

「私がいなくなっても誰も困らない」|存在価値を感じられない苦しさ

「私なんか生きている意味がない」「誰の役にも立っていない」「私がいなくなっても、誰も困らない」。

こうした言葉は、強い無価値感や孤独を表している場合があります。自分が誰かの役に立っているときには安心できても、必要とされなくなったと感じた瞬間、自分の存在そのものが空っぽになってしまうことがあります。

幼少期から親の機嫌を取ったり、きょうだいの世話をしたり、家庭の問題を誰にも話さず抱え込んできたりした人は、自分の価値を役割や他者への貢献によって確かめるようになる場合があります。

誰かの役に立っていなければ、自分には価値がない。相手の期待に応えられなければ、愛されなくなる。そうした考えが強いと、何もしていない時間に不安や罪悪感が生まれることがあります。

そのため、仕事で成果を出しても満足できない。人から褒められても、次は失敗するのではないかと怖くなる。誰かに必要とされることを強く求めながら、必要とされている自分を信じられない場合もあります。

このような無価値感は、抑うつや強い自己批判とも重なります。特に「自分がいなくなっても誰も困らない」という言葉が繰り返される場合には、孤独や絶望の深さだけでなく、自殺念慮の有無にも注意を向ける必要があります。

「もう疲れた」「全部うんざり」|感情を抱え続ける疲労

「もう疲れた」「何も考えたくない」「全部どうでもいい」。

こうした言葉には、日常的な疲労だけでなく、感情の変動や対人関係の緊張に疲れ切っている状態が表れている場合があります。

朝は比較的落ち着いていても、恋人からの連絡が遅れたことで強い不安に襲われ、昼には自分を責め、夕方には相手への怒りが湧いてくる。その後、激しい自己嫌悪に陥り、夜には何も感じられなくなることもあります。

そのような感情の変化が繰り返されると、本人は自分の心を保つために多くの力を使うことになります。

人の表情や言葉を細かく読み取り、嫌われていないかを確かめ、傷つけられた出来事を何度も思い返す。自分が相手を傷つけたことを後悔し、関係を修復しようとする。そのすべてが、精神的な負担として積み重なっていきます。

さらに、感情が強く高まった後に、急に何も感じられなくなることがあります。

怒りや不安で身体が緊張していたのに、突然力が抜け、何もする気力が湧かなくなる。人と話すことも、食事をすることも負担になり、ただ横になっていたくなる場合があります。

こうした疲労には、感情調整の困難だけでなく、睡眠不足、うつ病、解離、身体疾患なども関わることがあります。本人の「疲れた」という言葉を理解するときには、何によって消耗しているのかを丁寧に見ていく必要があります。

「ごめんなさい」が口癖になる理由|謝罪によって関係を守ろうとする

「ごめんなさい、こんなことを言って」「ごめん、私が悪いんだよね」「迷惑をかけてごめんなさい」。

BPDの人の中には、自分に明確な非がない場面でも、反射的に謝ってしまう人がいます。

相手が少し不機嫌になると、自分が何か悪いことをしたように感じる。自分の気持ちを話した後に、相手を困らせてしまったのではないかと不安になる。その結果、自分が傷ついた出来事であっても、先に謝って関係を保とうとすることがあります。

幼少期から、親の機嫌によって家庭の雰囲気が大きく変わる環境にいた場合には、謝ることで衝突を避けようとする関わり方が身につくことがあります。

自分が悪いことにすれば、相手の怒りが収まるかもしれない。自分から謝れば、見捨てられずに済むかもしれない。そうした経験が重なると、謝罪が感情を表現する前に出てくるようになる場合があります。

しかし、謝り続けていると、自分が何に傷ついたのか、どのような扱いを受け入れられないのかが、相手に伝わらなくなることがあります。

本当は腹が立っていたのに謝る。本当は助けてほしかったのに、迷惑をかけたことを謝る。そうして自分の気持ちを後回しにするほど、自己否定が深まっていく場合があります。

「ごめんなさい」という言葉が繰り返されるときには、本人が何について責任を感じ、何を怖れているのかを理解することが大切です。

「大丈夫」|本当の気持ちを隠す自己防衛

「大丈夫、心配しないで」「何でもないから」「もう平気だから」。

こうした言葉を口にしていても、本人の内側では強い不安や悲しみが続いている場合があります。

苦しいと伝えたところで、相手を困らせてしまう。何度も相談すれば嫌われるかもしれない。自分の感情を見せることで、相手が離れていくのではないか。そうした不安から、本当の気持ちを隠してしまうことがあります。

周囲からは落ち着いているように見えても、一人になると涙が止まらなくなったり、強い自己嫌悪に襲われたりする場合があります。

また、本人自身も自分がどれほど苦しいのかを理解できなくなっていることがあります。

長いあいだ感情を抑えてきた人は、怒りや悲しみを感じても、すぐにその感覚を切り離してしまうことがあります。強いストレスの中では、解離によって感情が遠のき、本当に何も感じられなくなる場合もあるでしょう。

そのため、「大丈夫」という言葉だけで、本人の状態を判断することは難しい場合があります。

ただし、すべての「大丈夫」が苦痛を隠しているわけではありません。本人が今は話したくないと感じているなら、その意思を尊重することも必要です。

相手が話せるときに話せる関係を作ることが、無理に本音を聞き出そうとすることよりも助けになる場合があります。

「誰も信用できない」「みんな敵だ」|攻撃的な言葉と他者への不信

「あいつらは無能だ」「どうせ誰も信用できない」「みんな私を騙している」。

BPDの人の中には、自分を激しく責める一方で、他人に対して強い怒りや不信感を向ける人もいます。

最初は相手を理想的な存在として受け止め、この人だけは自分を理解してくれると感じていたのに、小さな失望をきっかけに、相手のすべてが許せなくなることがあります。

約束を一度破られただけで、過去の優しさまで嘘だったように感じる。親切にしてくれた相手が、自分の期待に応えてくれなかった瞬間、裏切られたと確信してしまう。

このように、相手を非常に良い存在として受け止めた後、急激に価値を切り下げることは、理想化と脱価値化という言葉で説明されることがあります。

その背景には、相手に深く期待することや、拒絶されることへの恐怖が関わる場合があります。

ただし、すべての攻撃的な言葉が自己防衛として説明できるわけではありません。実際に相手へ強い不満を持っている場合もあれば、怒りを調整できず、相手を傷つける言葉を選んでしまう場合もあります。

本人が強い苦しさを抱えていたとしても、暴言や脅迫によって相手を傷つける行動には責任が伴います。

支える側は、本人の不安や過去の経験を理解しながらも、自分の安全や尊厳を守る必要があります。

「空っぽ」「何も感じない」|慢性的な虚無感の正体

「心の中が空っぽ」「何をしても満たされない」「何も感じない」。

こうした言葉は、BPDに見られる慢性的な空虚感を表している場合があります。

誰かと一緒にいるときには安心できても、一人になると、自分の内側に何も残っていないように感じる。楽しいことをしていても満足感が続かず、何かを求めているのに、それが何なのか分からない。

Millerら(2021)は、BPDと診断された15人への質的インタビューを通して、慢性的な空虚感がどのように経験されているのかを調べました。

参加者からは、自分自身や他者とのつながりが失われたような感覚、感情が麻痺した状態、目的や充実感の欠如などが語られています。

また、空虚感の苦しさを和らげるために衝動的な行動を取る人もいれば、ほかの活動へ注意を向けることで対処している人もいました。

興味深いのは、多くの参加者が、空虚感を孤独、絶望、うつ病、解離とは区別して経験していたことです。

空虚感は、単に寂しいという感情だけでは説明できません。自分が何者なのか分からないことや、生活に意味を見いだしにくいことと結びついている場合もあります。

そのため、空虚感を抱える人への支援では、目の前の苦痛を和らげるだけでなく、自分の感情や価値観、生活の中で大切にしたいことを少しずつ見つけていくことも重要になります。

「大好き」と「大嫌い」が入れ替わる|言葉に現れる対人関係の不安定さ

BPDの人との関係では、相手への評価が大きく変わることがあります。

「あなたしかいない」「こんなに理解してくれる人は初めて」と言っていた相手に対して、しばらくすると「最低な人間だ」「最初から信用しなければよかった」と激しく責める。

周囲から見ると、なぜそこまで気持ちが変わるのか理解しにくいことがあります。

しかし、本人の内側では、その瞬間に感じている怒りや悲しみが非常に強くなり、相手の良い部分を思い出すことが難しくなっている場合があります。

安心しているときには、相手が自分を愛してくれていると感じられる。しかし、傷ついたときには、相手が自分を苦しめる存在のように見えてしまう。

こうした変化が繰り返されると、親密な関係ほど激しい衝突が起こりやすくなります。

本人は相手を失いたくないと思いながら、怒りの中で関係を壊すような言葉を口にしてしまう。相手が本当に離れていくと、今度は強い後悔と見捨てられ不安に襲われることもあります。

このような関係の揺れを理解するには、発言だけでなく、相手とどのような関係を築き、何を怖れているのかを見る必要があります。

境界性パーソナリティ障害の口癖を聞いたとき、周囲はどう接すればよいのか

BPDを抱える人の言葉には、強い自己批判や依存、怒り、絶望感が表れることがあります。しかし、周囲がその言葉をすべて本人の本心として受け取ると、関係がさらに混乱する場合があります。

「どうせ私なんていらないんでしょう」と言われたとき、相手が本当にそう考えていると決めつける必要はありません。本人が何をきっかけにそう感じたのかを確かめることが大切です。

また、「誰も信用できない」と言われたときには、その背景に何らかの不信感や傷つきがあるのかもしれません。ただし、暴言や人格を否定する言葉が続いている場合には、支える側が無理に受け止め続ける必要はありません。

相手の気持ちを理解しながら、自分の考えや限界を伝えることが重要です。

「そう感じるほど不安だったんだね。でも、私はあなたを嫌いになったわけではないよ」「今は強い言葉で責められてつらいから、少し時間を置いて話したい」

こうした関わり方は、本人の感情を否定せず、現実の関係も大切にするためのものです。

一方で、「死にたい」「消えたい」といった言葉が出ているときには、普段の対人関係の問題と同じように扱うことはできません。本人の安全を確認し、必要であれば医療機関や緊急支援につなげることが優先されます。

自分の口癖に気づくことが、回復の手がかりになる

長いあいだ同じ言葉を繰り返していると、それが自分の考え方や人との関わり方の一部になっていくことがあります。

「どうせ私はダメ」と言えば、挑戦する前から自分を諦めてしまう。「嫌われたんでしょう」と言えば、相手の気持ちを確かめる前に、拒絶されたことが前提になってしまう。

また、「ごめんなさい」と謝り続けることで、自分が本当は何に傷ついたのかを伝えられなくなることもあります。

自分の口癖に気づくことは、その言葉を無理に禁止するためではありません。その言葉が出てくるとき、自分が何を感じ、何を恐れ、相手に何を求めているのかを理解するためです。

たとえば、「どうせ私なんていらない」と言いたくなったときに、「今、相手との関係が不安になっている」と気づくことができるかもしれません。

「もう誰も信用できない」と感じたときには、「あの言葉に傷ついた」「期待していた反応が返ってこなくて悲しかった」と、自分の感情を少し具体的に理解できるようになる場合があります。

「大丈夫」と答えてしまう人は、「本当は疲れている」「今は話す余裕がない」と伝える練習が役立つこともあります。

こうした変化には時間がかかります。感情が激しくなっている最中には、自分の状態を整理することさえ難しい場合があるためです。

弁証法的行動療法(DBT)やメンタライゼーションに基づく治療(MBT)などの心理療法では、感情を理解し、衝動的な行動を調整し、自分や相手の心の状態を考える力を育てていきます。

本人が自分の言葉や行動を振り返り、苦しさを伝える別の方法を少しずつ身につけていくことが、対人関係の安定や回復につながる場合があります。

まとめ|境界性パーソナリティ障害の口癖には、何が隠れているのか

境界性パーソナリティ障害の人が口にする言葉には、自己否定、見捨てられ不安、他者への依存、不信感、慢性的な空虚感などが反映される場合があります。

「どうせ私はダメだから」という言葉には、自分を責め続けてきた苦しさがあるのかもしれません。「嫌われたんでしょう」という言葉には、大切な相手を失うことへの恐怖が隠れている場合があります。

「誰も信用できない」と言いながら、心の奥では誰かを信じたいと思っていることもあるでしょう。「大丈夫」と答えながら、助けを求めることへの恐怖を抱えている人もいます。

しかし、これらの言葉がすべて同じ意味を持つわけではありません。本人のこれまでの経験、現在の人間関係、感情や身体の状態によって、その言葉が表していることは変わります。

だからこそ、口癖だけで相手を判断するよりも、どのような場面でその言葉が出てくるのか、本人が何に傷つき、何を求めているのかを理解することが重要です。

また、本人が苦しい状態にあるからといって、周囲の人が攻撃的な言葉や行動を受け入れ続ける必要はありません。本人の感情を理解することと、互いの境界線を守ることは、両方とも大切です。

自分を責める言葉、相手を突き放す言葉、助けを求められずに口にしてしまう言葉。その一つひとつを手がかりに、自分の内側で起きていることを理解していくことができます。

BPDの口癖を知る意味は、その言葉から診断名を探すことよりも、本人が何を伝えられず、どのような苦しさを抱えてきたのかを理解することにあります。

その理解を通して、自分の感情を言葉にする方法や、相手との距離の取り方を少しずつ身につけていくことが、安心できる人間関係を育てるための一歩になります。

参考文献

  1. Jørgensen, C. R., & Bøye, R. (2024). “I am ashamed that I exist. I feel like apologizing for existing”: The phenomenology of shame in patients with borderline personality disorder: A qualitative study. Personality Disorders: Theory, Research, and Treatment, 15(3), 181–192.
    https://doi.org/10.1037/per0000655
  2. Moltu, C., Kverme, B., Veseth, M., & Natvik, E. (2023). How people diagnosed with borderline personality disorder experience relationships to oneself and to others. A qualitative in-depth study. International Journal of Qualitative Studies on Health and Well-being, 18(1), 2152220.
    https://doi.org/10.1080/17482631.2022.2152220
  3. Miller, C. E., Townsend, M. L., & Grenyer, B. F. S. (2021). Understanding chronic feelings of emptiness in borderline personality disorder: A qualitative study. Borderline Personality Disorder and Emotion Dysregulation, 8, 24.
    https://doi.org/10.1186/s40479-021-00164-8
  4. National Institute for Health and Care Excellence (NICE). (2009). Borderline personality disorder: Recognition and management (CG78).
    https://www.nice.org.uk/guidance/cg78

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井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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