性被害の女性へのトラウマケア|親密な関係の中で安全を取り戻すために

性被害の女性 性暴力・虐待

恋人と一緒にいたいと思う。抱きしめられると安心することもある。それなのに、キスを求められたり、身体の特定の場所へ手が伸びてきたりすると、突然、胸が締めつけられ、身体が固まってしまう。

相手のことは好きなのに、性的な接触が近づくほど緊張が強くなる。自分でも理由をうまく説明できず、相手を拒絶しているようで申し訳なく感じることがあります。

性被害を経験した女性にとって、親密な関係は、安心したい気持ちと傷つくことへの恐怖が同時に生じる場所になることがあります。

誰かを信じたい。愛されたい。自分も相手を大切にしたい。しかし、身体へ触れられることや、自分の意思とは関係なく相手が近づいてくることに、強い不安や嫌悪感が生じる場合があります。

性被害による傷つきは、出来事が終わったあとも、心と身体、自己認識、人間関係、仕事、家庭生活など、さまざまな場面へ影響することがあります。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)、抑うつ、不安、パニック、睡眠障害、解離、慢性的な身体の緊張などが現れることもあれば、日常生活を送りながら、特定の場面でだけ強い反応が生じる人もいます。

被害直後から苦しさが続く人もいれば、当時は何とか日常を維持していたのに、何年も経ってから恋愛や結婚、妊娠、出産、婦人科の診察などをきっかけに、身体の反応が強くなる場合もあります。

また、性被害による苦しさは、被害そのものだけで決まるわけではありません。

打ち明けたときに信じてもらえなかった。なぜ逃げなかったのかと問われた。被害を軽く扱われ、むしろ自分の行動を責められた。そうした二次被害によって、他者への信頼がさらに損なわれることがあります。

そのため、性被害からの回復を考えるときには、過去の記憶や症状を扱うことに加えて、自分の身体に誰を近づけるのか、何を受け入れ、何を断るのかを、自分の意思で決められる感覚を取り戻すことが重要になります。

トラウマケアは、被害によって失われた安全感や自己決定感を、現在の生活と人間関係のなかで少しずつ回復していく過程でもあるのです。

性被害のトラウマが心と身体に残る理由|PTSDとフラッシュバック

性被害の記憶は、過去の出来事として言葉で思い出されるだけではありません。

相手の声、足音、匂い、身体へ加わった圧迫感、部屋の明るさ、服の感触など、当時の感覚と結びついた刺激が、後になって強い恐怖や身体反応を引き起こすことがあります。

例えば、職場で誰かが背後から近づいてきたとき、急に身体が固まる。電車で他人の身体が触れた瞬間、息が詰まり、強い嫌悪感が生じる。

似た香りを感じただけで吐き気がしたり、特定の声の調子を聞くと心臓が激しく動き始めたりすることもあります。

本人は現在の場所にいて、目の前の相手が加害者ではないことも理解しています。しかし、身体は過去の恐怖に結びついた刺激へ強く反応してしまうことがあります。

PTSDでは、このような再体験に加えて、被害を思い出させるものの回避、過度な警戒、否定的な自己認識や気分の変化などが生じる場合があります。

再体験が強いときには、過去を思い出しているというより、過去の出来事が現在へ入り込んできたように感じられることがあります。

目の前の景色は見えているのに、身体だけが当時の恐怖へ戻ってしまう。逃げようとしても動けず、周囲の声が遠くなり、現実感が薄れることもあります。

このような反応が続くと、日常生活のさまざまな場所で警戒が強まります。

学校や職場へ行くこと、人混みの中を歩くこと、病院で診察を受けること、恋人と二人きりになることにも、大きな負担を感じる場合があります。

その結果、本人は自分を守るために、特定の場所や人、身体的接触などを避けるようになることがあります。

周囲からは行動範囲が狭まっているように見えても、本人にとっては強い恐怖を避け、日常生活を維持するための対応になっているのです。

女性や子どもの性暴力被害とフラッシュバック(再体験)では、性被害によって生じる身体の凍結や再体験、感覚の変化について詳しく扱っています。

自分の身体が自分のものではなくなる感覚|性被害と解離

性被害を経験した人のなかには、自分の身体に対して、以前とは違う感覚を抱くようになる人もいます。

鏡で自分の身体を見ることがつらい。身体の一部に触れられると、強い嫌悪感が生じる。入浴や着替えのときに、突然、過去の感覚が戻ってくる。

自分の身体であるはずなのに、どこか自分から切り離されたもののように感じられることがあります。

強い恐怖や圧倒的なストレスのなかでは、感覚や感情が鈍くなったり、身体や周囲の現実感が薄れたりする解離反応が生じる場合があります。

被害の最中、何も感じなくなった。自分がその場にいないように感じた。身体が動かず、起きていることを遠くから眺めているようだった。

そうした経験をした人が、被害後も似た感覚を繰り返すことがあります。

身体へ触れられたときに急に感覚が遠のく。性的な場面になると、相手の声は聞こえているのに、自分がそこにいる実感が薄くなる。

自分の気持ちを確かめようとしても、何も感じられず、相手に合わせてしまう場合もあります。

このような状態では、本人自身も、自分が何を望み、何を嫌がっているのか分かりにくくなることがあります。

また、自分の身体を他者の欲求へ応えるためのものとして扱われた経験があると、身体に誰を近づけるのかを自分で決めることへの感覚が揺らぐ場合があります。

恋人が求めているなら応じなければならない。断ったら嫌われるかもしれない。自分の気持ちより、相手を失望させないことを優先してしまう。

そうした心理が重なると、本人が苦しさを感じていても、親密な接触を断ることが難しくなる場合があります。

そのため、性被害からの回復では、身体の感覚を取り戻そうと急ぐよりも、まず、自分が何を受け入れられるのか、どこに抵抗を感じるのかを確かめられることが大切です。

身体の感覚が遠くなったり、現実感が薄れたりする仕組みについては、感情がわからない・身体の感覚がない|解離とストレスで「麻痺」が起きる仕組みでも詳しく解説しています。

性被害後の恋愛と親密さ|好きな相手なのに触れられることが怖い

性被害を経験した女性が、恋愛や結婚を望みながら、身体的な親密さへ強い不安を抱くことがあります。

一緒に食事をしたり、出かけたりすることは楽しい。手をつなぐことや抱きしめられることには安心を感じる。それなのに、性的な接触が始まりそうになると、急に身体が緊張してしまう。

キスまでは大丈夫でも、その先へ進もうとすると嫌悪感が強くなる人もいます。抱擁にも強い抵抗を感じる人もいれば、特定の触れ方や身体の部位にだけ、強い恐怖が生じる人もいます。

相手のことを愛しているかどうかと、身体が性的な接触を受け入れられるかどうかは、必ずしも一致しません。

しかし、本人はその違いをうまく説明できず、相手への愛情が足りないのではないか、自分が恋愛や結婚に向いていないのではないかと悩むことがあります。

2024年にStockmanらが発表した質的研究では、成人後に性暴力を経験した14人(女性10人、男性4人)へインタビューを行い、その後の恋愛や親密な関係について分析しています。

そこでは、親密な関係を一時的に避けること、パートナーに求める性質が変わること、過去の被害が現在の関係へ影響すること、反対に、親密な関係が回復を支える経験になることなどが語られています。

この研究は少人数の体験を分析したものであり、すべての性被害サバイバーが同じ経過をたどるという意味ではありません。

それでも、性被害後の恋愛を単純に「人を信じられなくなる」と説明するだけでは、本人が抱える複雑な気持ちを十分に捉えられないことが分かります。

誰かと親しくなりたい気持ちがある一方で、近づくことで再び傷つくことへの怖さがある。

親密な関係に入りたいと思いながら、今は性的な接触を避けていたい場合もあります。

また、信頼できるパートナーと出会い、自分の意思や身体の限界を尊重してもらうことで、これまでとは違う安心感を経験することもあります。

重要なのは、恋愛関係に入ることや性的な接触ができるようになることを、回復の基準にしないことです。

本人が望む親密さの形は、人によって異なります。

その希望を確かめながら、関係の距離や身体的な接触を自分で選べることが、安全感を取り戻すうえで大切になります。

性的な場面で身体が固まるとき|凍結反応と同意を区別する

性被害を経験した人が、親密な場面で突然、身体を動かせなくなることがあります。

さっきまで普通に話していたのに、相手が近づくと急に黙り込む。身体が硬直し、視線が合わなくなる。呼吸が乱れ、震えたり、涙が出たりする。

反対に、表情が乏しくなり、ぼんやりした状態になることもあります。

強い恐怖のもとでは、声が出ない、身体が動かない、抵抗できないといった凍結反応が起こる場合があります。極度の恐怖や拘束感に伴う不動状態は、強直性不動(tonic immobility)という概念から研究されることもあります。

また、解離によって身体感覚や現実感が弱まる場合もあります。

こうした反応は、本人が意識的に選んで起こしているとは限りません。

性被害の最中に抵抗できなかったことを、あとから自分の責任として感じてしまう人もいます。

どうして逃げなかったのか。なぜ声を出せなかったのか。相手を拒否することができたはずではないか。

しかし、強い恐怖のなかでは、本人が望んでも身体が動かなくなることがあります。

また、性的な刺激によって身体に反応が生じたとしても、それは同意や快楽を意味するものではありません。

身体が動かなかったこと、拒否の言葉が出なかったこと、身体に性的な反応があったことを、同意の証拠として扱ってはいけません。

これは過去の性被害を理解するうえでも、現在のパートナーとの関係でも重要です。

性的な接触の途中で、相手が急に黙り込む、身体が固まる、視線が合わなくなる、反応が乏しくなるといった変化が見られた場合には、すぐに行為を止める必要があります。

事前に同意があっても、その同意は途中で変わることがあります。

また、凍結や解離が生じているときには、本人が停止の合図を出せない場合もあります。そのため、あらかじめ合図を決めておくことだけでなく、相手の状態を確かめ、自由な意思による同意が確認できないときには進めないことが重要です。

親密な関係のなかで安全を保つには、相手の意思をその都度尊重し、途中でも中止できることが基本になります。

性被害トラウマを抱えるパートナーとの接し方|選択できる関係をつくる

性被害を経験した人との関係では、相手を大切にしたいという気持ちだけでなく、具体的な関わり方が重要になります。

優しく接しているつもりでも、突然抱きしめられたり、身体へ触れられたりすると、本人の恐怖が強まる場合があります。

反対に、何をしてほしいのかを尋ねられることや、距離を置きたいという希望が尊重されることによって、安心しやすくなる場合もあります。

例えば、恋人と一緒に過ごしているとき、本人が急に黙り込んだり、身体を硬くしたりしたとします。

そのとき、相手が「怖がる必要はないよ」「自分のことは信用できるでしょう」と説得しようとすると、本人は自分の身体の反応を否定されたように感じる場合があります。

大切なのは、接触を止め、本人が落ち着ける距離を保つことです。

「少し離れようか」

「今は触れないでおくね」

「ここにいる方がいい? それとも一人になりたい?」

そうした確認を通して、本人が自分の状態に合わせて選べる余地をつくります。

また、日頃から、どのような触れ方なら安心できるのか、どのような場面で負担を感じやすいのかを話し合える関係も重要です。

ただし、本人がまだ自分の反応を十分に理解できていない場合もあります。

昨日は大丈夫だった接触が、今日はつらいこともあるでしょう。

以前は受け入れられていたことでも、その日の体調や心理状態によって、負担になる場合があります。

そのため、過去に同意した経験を根拠に、現在も同じ接触を受け入れられると判断することはできません。

また、接触を中止したあとに、理由を詳しく説明するよう求めることも、本人の負担になる場合があります。

今は何が起きたのかを言葉にできないこともあります。

親密な関係における安全とは、相手が常に自分の状態を説明できることよりも、説明が難しいときにも、身体の限界や意思が尊重されることによって支えられます。

複雑性PTSD(CPTSD)の人への接し方|過覚醒・トリガーを悪化させない対応の基本では、強い警戒や凍結、解離が生じる人と関わる際の距離感や配慮について詳しく扱っています。

被害をパートナーへ打ち明けられない理由|恥と拒絶への恐怖

性被害を経験した女性は、現在のパートナーに自分の過去を伝えることへ強い抵抗を感じる場合があります。

話したら嫌われるかもしれない。自分を見る目が変わるかもしれない。身体に触れられることへの恐怖を説明したら、面倒な人だと思われるのではないか。

また、被害の内容を詳しく話そうとするだけで、当時の感覚が戻ってくることもあります。

そのため、相手を信頼していても、すべてを打ち明けられるとは限りません。

2025年にPersonらが発表した研究では、成人後に性被害を経験した330人を対象に、恋人へ被害を伝えるかどうか、その判断と相手の反応について調べています。

調査では、パートナーが自分の気持ちを理解し、受け止めてくれると感じている人ほど、被害について話している傾向がありました。

一方、打ち明けない理由には、被害について話すこと自体がつらいことや、現在の関係にとって話す必要性を感じていないことなどが含まれていました。

研究には自由記述の質的分析も含まれており、話すことも話さないことも、本人がさまざまな事情を踏まえて選んでいることが分かります。

重要なのは、被害についてすべて話せることを、パートナーへの信頼の証拠として扱わないことです。

被害を打ち明けるかどうか、いつ、どこまで話すのかは、本人が決めることです。

今の関係で困っていることについて、「身体へ触れられると急に怖くなることがある」「性的な接触は今の自分には負担が大きい」と伝えるだけでも、必要な理解につながる場合があります。

過去の詳細をすべて説明しなければ、現在の身体の境界線を尊重してもらえないという関係では、本人の負担がさらに大きくなります。

相手の身体へ触れることについては、過去の事情を知っているかどうかにかかわらず、現在の意思を尊重する必要があります。

性被害を話したときの反応が、回復と信頼に影響する

性被害を誰かに打ち明けることには、大きな勇気が必要になる場合があります。

長いあいだ誰にも話せなかった出来事を、ようやく言葉にする。その相手が信じてくれるのか、自分をどう見るのか、本人には分からないまま話し始めることがあります。

そのとき、「どうして逃げなかったの」「なぜもっと早く言わなかったの」と問われれば、被害者は自分の行動を責められているように感じるでしょう。

「もう終わったことだから忘れよう」「いつまでも気にしていたら前へ進めない」と言われた場合にも、現在の苦しさを理解してもらえなかったと感じることがあります。

2025年にMayerらが発表した質的研究では、性暴力の経験を誰かに打ち明けた51人へのインタビューを通して、どのような反応が支えになり、どのような反応が負担になるのかが調べられました。

参加者が求めていたのは、自分の経験を認めてもらうこと、支えてもらえるという安心、そして自分を責める気持ちを和らげる関わりでした。

一方、過度に感情的な反応や、一方的な助言、同情を向けられることを負担に感じる場合もありました。

支える側が強く取り乱すと、被害者が今度は相手を落ち着かせなければならないと感じることもあるでしょう。

また、相談した相手がすぐに自分の経験を語り始めることで、被害者がようやく話した内容が十分に受け止められなくなる場合もあります。

被害を打ち明けた人に対しては、まず、その人が何を伝えたいのか、何を求めているのかを丁寧に受け取ることが重要です。

必要な助けは、人によって異なります。

話を聞いてほしい場合もあれば、今は一緒にいてほしいだけかもしれません。医療機関を探すことや、生活上の負担を減らすことを求めている場合もあるでしょう。

本人の希望を確かめながら、支え方を考えていくことが大切です。

性被害による自己否定と二次被害|なぜ自分を責めてしまうのか

性被害を受けた人は、恐怖だけでなく、恥、怒り、嫌悪感、罪悪感、自己否定など、複雑な感情を抱えることがあります。

自分にも落ち度があったのではないか。あの場所へ行かなければよかった。もっと早く危険に気づけたはずだ。

そのように過去の行動を繰り返し振り返り、自分を責めてしまうことがあります。

しかし、性被害の責任は、同意のない性的行為を行った側にあります。

被害者がその場で抵抗できなかったことや、すぐに相談できなかったことによって、被害の責任が本人へ移ることはありません。

それでも自己否定が続く背景には、被害を理解しようとする心理に加えて、周囲からの偏見や二次被害が関わっている場合があります。

被害を話したときに疑われた経験がある。自分の服装や行動を責められた。相談した相手から、たいしたことではないと言われた。

こうした経験が重なると、誰かに助けを求めること自体が怖くなる場合があります。

また、被害を知った家族や恋人が激しく怒ったり、加害者への報復を口にしたりすると、本人は新たな混乱を抱えることがあります。

自分の経験を話したことで、周囲の人まで傷ついてしまったように感じることもあるでしょう。

被害者にとって必要な支援は、周囲が代わりにすべてを決めることよりも、本人の意思を確認しながら、必要な選択肢を示していくことです。

相談すること、治療を受けること、法的な支援を利用することについても、本人の希望や安全を尊重する姿勢が求められます。

性被害後の孤独を深めるのは、被害そのものの苦しさだけではありません。

被害について安心して話せないこと、自分の感情を受け止めてもらえないこと、周囲から繰り返し説明を求められることも、大きな負担になります。

だからこそ、性被害を経験した人が、自分の言葉と自分のペースで経験を扱える環境が必要なのです。

性被害トラウマと親密な関係|近づきたい気持ちと離れたい気持ちが揺れるとき

親密な関係では、相手への安心と恐怖が急に入れ替わることがあります。

恋人と過ごす時間が心地よく、これからも一緒にいたいと思っていたのに、ある触れ方や言葉をきっかけに、突然その場から離れたくなる。

本人も、なぜ気持ちが変化したのかをうまく説明できない場合があります。

そのようなとき、相手が「さっきまでは大丈夫だったのに」「自分のことを信用していないの」と責めると、本人はさらに苦しくなることがあります。

また、関係を壊したくないために、自分の恐怖を隠して相手へ合わせようとする場合もあります。

しかし、身体が強く緊張している状態で無理に接触を続けることは、本人の負担を増やす可能性があります。

親密な関係では、性的な接触だけを中心に考える必要はありません。

一緒に食事をする。散歩をする。好きな音楽を聴く。同じ部屋で静かに過ごす。

手をつなぐことが心地よいなら手をつなぎ、今は触れられたくないなら距離を保つ。

そのような選択が尊重される関係のなかで、安心できる時間を少しずつ積み重ねていくことができます。

ただし、すべての性被害サバイバーが身体的な接触を避けるわけではありません。

性的な親密さを望む人もいれば、現在は望まない人もいます。身体的接触への感じ方が日によって変わる人もいるでしょう。

大切なのは、被害経験があるからこう感じるはずだと決めつけず、本人が今何を望んでいるのかを確かめることです。

また、恋人や配偶者との間でも、同意のない性的行為は性暴力に当たります。

現在のパートナーが本人の拒否を無視したり、罪悪感を与えて性的行為へ応じさせようとしたりしている場合には、その関係の安全を検討する必要があります。

親密な関係を回復の支えにするためには、まず、本人の意思が尊重されることが欠かせません。

性被害を経験した女性へのトラウマケア|安全感と自己決定を取り戻す

性被害からの回復では、本人が何に恐怖を感じ、どのような場面で身体の反応が強まるのかを理解していくことが重要になります。

その過程では、過去の出来事をすぐに詳しく語ることよりも、現在の生活で安全を保てる条件を整えることが優先される場合があります。

例えば、身体の緊張が強いときには、周囲の環境を確かめることや、落ち着ける場所へ移動することが役立つかもしれません。

人との距離が近すぎると負担になる場合には、自分が安心できる距離を伝えることもできます。

身体の感覚が遠くなるときには、目の前にあるものや、足が床についている感覚など、現在の環境へ注意を向ける方法が合う場合もあります。

ただし、身体感覚へ注意を向けること自体が負担になる人もいるため、その人に合った方法を選ぶ必要があります。

また、性的な接触に抵抗がある場合には、パートナーと話し合い、現在受け入れられることと、負担になることを整理していくことができます。

その際、性的な行為へ慣れることを急いだり、パートナーが独自に接触を増やしていったりすることは避ける必要があります。

過去の記憶と結びついた強い恐怖や解離がある場合には、専門的な支援のなかで、身体的な反応を含めて慎重に扱うことが大切です。

PTSDに対する専門的な治療としては、トラウマに焦点を当てた認知行動療法やEMDRなどがあり、症状や本人の希望に応じて検討されます。

英国NICEのPTSD診療ガイドラインでも、トラウマ記憶だけでなく、恥や罪悪感、怒りなどの感情、日常生活や対人関係の機能を含めて扱うことが重視されています。

また、性被害後の不安や抑うつ、睡眠障害、身体症状などには、必要に応じて医療的な支援を組み合わせることも重要です。

ただし、性被害を経験した人すべてがPTSDを発症するわけではありません。

現在どのような困りごとがあるのかを確かめ、その人にとって必要な支援を選んでいくことが大切です。

パートナーができること|回復を急がせず、関係の安全を保つ

性被害を経験した人を支えたいと思うと、パートナーは何とか苦しさを取り除こうとすることがあります。

どうすれば怖くなくなるのか。何をすれば以前のように戻れるのか。もっと安心させる方法はないのか。

そう考え、励ましたり、解決策を探したりする場合もあるでしょう。

しかし、本人が必要としているのは、必ずしも解決策や助言とは限りません。

自分の話を聞いてほしいときもあれば、今は何も話したくないときもあります。そばにいてほしい日もあれば、一人で過ごしたい日もあるでしょう。

そのような変化を受け止めながら、関係を続けることが大切です。

また、支える側が疲れ切ってしまわないことも重要です。

本人の苦しさをすべて引き受けようとすると、パートナーも大きな負担を抱えます。その負担が強くなると、相手を早く回復させたいという焦りにつながる場合もあります。

支えることと、相手の回復を自分一人で担うことは別です。

必要に応じて心理専門職や医療機関の支援を利用し、パートナー自身も自分の生活や休息を守ることが大切になります。

PTSDの人にかける言葉と接し方|安心を損なわずに支えるためにでは、フラッシュバックや強い不安を抱える人へ、どのような言葉や距離感で関わればよいのかを詳しく扱っています。

性被害を経験した人が安心できる関係は、いつも優しい言葉をかけてもらえる関係とは限りません。

嫌だと伝えたときに、その意思が尊重される。途中で気持ちが変わっても、責められない。触れられたくない日にも、相手との関係が続いている。

そうした経験が積み重なることで、本人は親密な関係のなかでも自分の意思を持っていられるようになる場合があります。

性被害からの回復を支える社会の役割|二次被害を減らすために

性被害を経験した人が安心して生活を取り戻すためには、個人の努力やパートナーの理解だけでは足りない場合があります。

医療機関、相談機関、学校、職場、家族など、本人が関わる場所で、被害について適切に理解されることが重要です。

被害者が助けを求めたとき、説明を何度も求められる。相談のたびに過去の出来事を詳しく話さなければならない。本人の希望を確かめないまま、周囲が対応を決めてしまう。

こうした関わりは、被害者が自分の意思を尊重されなかった経験と重なる場合があります。

支援では、本人に何が必要なのかを確かめ、利用できる選択肢を示しながら、できる限り本人の意思を尊重することが大切です。

また、性被害は見知らぬ相手からの暴力だけに限りません。

交際相手、配偶者、家族、職場で立場の強い人など、本人にとって身近な相手から被害を受ける場合もあります。

そのような状況では、加害者との関係を断つことが難しかったり、生活上の事情から相談をためらったりする場合もあります。

被害者が置かれている現実を理解し、安全を確保するための支援を考える必要があります。

日本には、性犯罪・性暴力の被害について相談できるワンストップ支援センターがあります。全国共通番号「#8891」から最寄りのセンターにつながり、医療や心理的支援、法律相談などの専門機関と連携した支援を受けることができます。

被害を受けた人が、自分の状況や希望に応じて支援を選べること。そして、話したことでさらに傷つくことの少ない社会をつくることが、回復を支える重要な条件になります。

おわりに|性被害からの回復は、自分の身体と親密さを自分で選べるようになること

性被害を経験した女性が抱える苦しさは、過去の出来事を思い出すことだけに限られません。

人を信じたいのに、近づかれると怖くなる。恋人と一緒にいたいのに、身体へ触れられることに抵抗が生じる。自分の意思で断りたいと思っても、相手を失望させることが怖くなる。

そうした葛藤は、日常生活のさまざまな場面で生じることがあります。

また、被害後に自分を責め続けている人もいれば、身体の感覚が遠くなり、自分が何を望んでいるのか分からなくなる人もいます。

被害を打ち明けたことでさらに傷つき、誰かに助けを求めることが難しくなる場合もあるでしょう。

そのような経験を抱えた人にとって、回復は必ずしも一直線に進むものではありません。

昨日は安心できたことが、今日は怖くなる。誰かと親しくなれたと思っても、急に距離を取りたくなる。

その変化に戸惑いながら、自分の身体や感情を理解していく時間が必要になる場合があります。

性被害からの回復では、過去の記憶をどれほど詳しく話せたか、性的な接触がどこまでできるようになったかだけで、変化を測ることはできません。

自分が嫌だと感じたときに、その感覚を大切にできること。触れられたくないときに断ることができ、その意思が尊重されること。

誰かと一緒にいたいときには、その気持ちを伝えられること。そして、一人で過ごしたいときにも、自分の選択を受け止めてもらえること。

そうした日常の経験のなかで、失われた安全感や自己決定感が少しずつ育っていく場合があります。

親密な関係では、相手への愛情があっても、身体が怖がることがあります。

そのとき、本人が自分を責めたり、パートナーが拒絶されたと受け取ったりすると、二人の間に新たな苦しさが生まれることがあります。

しかし、本人の身体の反応を理解し、現在の意思を尊重しながら関わることで、これまでとは違う関係を築いていくこともできます。

触れ合うことを急がず、話したくないことを無理に聞き出さず、本人が何を望んでいるのかを確かめていく。

そのような関係では、親密さを深める速度も、身体的な接触のあり方も、本人の意思によって選ぶことができます。

性被害からの回復とは、過去に奪われた自分の身体や人生の主導権を、現在の生活のなかで取り戻していくことです。

自分の身体に誰を迎えるのか、誰とどのような距離で関わるのか、何を受け入れ、何を断るのか。

その選択が尊重される経験を重ねることで、人との関係は、再び自分が安心して存在できる場所になっていく可能性があります。

そして、その回復を支えるのは、本人の努力だけではありません。

被害者を責めず、意思を尊重し、必要な支援へつながれる環境を、パートナーや家族、支援者、社会がともにつくっていくことが重要なのです。


参考文献

  1. Stockman, D., Van Parys, H., De Mol, J., et al. (2024). Survivors’ Dating and Romantic Relationship Experiences Following Adult Sexual Violence: A Qualitative Interview Study. Victims & Offenders, 19(5), 888–914.
  2. Person, A. I., Frazier, P. A., & Simpson, J. A. (2025). Disclosing Past Adult Sexual Assault to Romantic Partners: A Mixed-Methods Analysis. Psychology of Women Quarterly, 49(1).
  3. Mayer, E. D., Peterson, R., Kim, E., et al. (2025). What Survivors of Sexual Violence Want When Disclosing Their Experiences in Person or Online: Qualitative Interview Analysis. Journal of Medical Internet Research, 27, e73497.
  4. National Institute for Health and Care Excellence(NICE). (2018). Post-traumatic stress disorder(NG116).
  5. 内閣府男女共同参画局. 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター.

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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