感情がなくなる人の特徴と原因:失感情症やストレスが引き起こす「無」になりたいと願う心の正体

感情がなくなる人 心の病・精神疾患

仕事から帰ってきても、疲れたという感覚さえはっきりしない。誰かに嫌なことを言われても怒りが湧かず、悲しい出来事があっても涙が出てこない。以前は好きだった音楽を聴いても心が動かず、人と会って笑っていても、どこか自分だけがその場から離れているように感じる。

こうした状態が長く続くと、「もう感情なんていらない」「何も感じずに生きられたら楽なのに」と思うことがあります。

感情は本来、自分にとって何が大切なのか、何が苦痛なのか、どのような関係を望んでいるのかを知らせる働きを持っています。しかし、感情が生じるたびに傷つき、苦しみ、現実への対処が難しくなる経験を繰り返していると、感じることそのものが負担になる場合があります。

悲しみを見せれば責められ、怒りを表現すれば関係が悪くなり、怖いと伝えても誰にも助けてもらえなかった。そんな環境で過ごしてきた人にとって、自分の感情を表に出さず、考えることや行動することに集中するのは、日常を乗り越えるための方法だったのかもしれません。

ところが、つらい感情を抑える習慣が長く続くと、喜びや安心、親しみまで感じにくくなることがあります。周囲からは普通に生活しているように見えても、本人の内側では、自分が何を感じているのか分からず、生きている実感が薄れていくような苦しさが続いている場合があります。

感情がなくなる状態には、失感情症(アレキシサイミア)、慢性的なストレス、トラウマに伴う感情の麻痺、うつ病、統合失調症の陰性症状、離人感・現実感消失など、さまざまな心理的・医学的な要因が関係します。

それぞれの状態には共通する部分がありますが、感情を感じにくいこと、感情を理解できないこと、感情を表現できないことは、必ずしも同じ現象ではありません。

ここでは、感情がなくなったように感じる人の心理や身体反応、その背景にある家庭環境やトラウマ、関連する病気の特徴と回復について詳しく考えていきます。

失感情症|感情があるのに、自分の気持ちが分からない

失感情症(アレキシサイミア)とは、自分の感情に気づいたり、何を感じているのか区別したり、その感情を言葉にしたりすることが難しい傾向を指します。

例えば、職場で上司から理不尽なことを言われたとき、本人は「特に何も感じなかった」と話します。しかし、その日の夜になると胃が痛くなり、肩や背中が強くこわばり、眠れなくなることがあります。

翌日になっても身体が重く、仕事へ行くことを考えると胸が苦しくなる。それでも、怒っているのか、悲しいのか、怖いのかと尋ねられると、うまく答えられません。

身体には何らかの変化が起きていても、その変化を自分の感情として理解することが難しくなっているのです。

失感情症について研究してきたデイヴィッド・プリースらは、感情へ注意を向け、その感情が何を意味するのかを評価する働きに注目しました。失感情症では、感情を感じ取ることや識別すること、言語化することに個人差があると考えられています。

臨床の場でも、感情について尋ねられると、出来事の説明ばかりが続くことがあります。

「上司から新しい仕事を頼まれました。今の仕事もあるので、時間的には難しいと思いました。でも、引き受けたほうがよいと判断しました」

このように状況を詳しく説明できても、そのとき自分がどう感じたのかについては言葉が出てこない場合があります。

さらに尋ねてみると、「断ったら困らせると思った」「帰ってから頭痛がした」といった説明が続くことがあります。

感情を理解しようとしたとき、本人の意識は自分の内側よりも、状況や相手の反応、合理的な判断へ向かいやすくなっているのです。

失感情症は、それ自体が独立した精神疾患の診断名というより、感情を認識・表現する際の特徴を示す概念です。うつ病やトラウマ関連の問題、身体症状などと関連する場合がありますが、さまざまな背景によって生じます。

特に長期間のストレスやトラウマを経験している場合、自分の感情に注意を向けることが、かつては苦痛を増やす行為だった可能性があります。

怒りを自覚しても反論できず、悲しみを感じても慰めてもらえず、怖いと思っても逃げられなかった。そのような経験を重ねる中で、感情を確かめることよりも、目の前の状況を乗り切ることが優先されてきたのかもしれません。

大人になってからも、その習慣が続いていると、自分が何を望み、何を嫌がっているのかが分かりにくくなります。

トラウマによって変わる脳と心の働き

強い恐怖や慢性的なストレスは、感情や注意、記憶、身体の反応に影響します。

例えば、子どもの頃から親の機嫌が急に変わる家庭で生活していた場合、相手の表情や声の変化を敏感に察知することが習慣になることがあります。

親が帰宅したときの足音を聞き、今日は機嫌がよいのか悪いのかを考える。食器を置く音が強くなると緊張し、何かを頼まれる前に自分から動く。

そのような生活では、自分の感情を落ち着いて確かめる余裕が少なくなります。

本当は怖かったとしても、その怖さを感じながら立ち止まるより、相手が怒らないように行動する必要があります。悲しいと感じていても、泣いているとさらに責められるのであれば、涙を抑えて日常を続けるほうが現実的だったのでしょう。

こうした状態が長く続くと、何か問題が起きたとき、自分の感情へ注意を向けるより先に、周囲の状況を確認し、必要な行動を取ろうとする場合があります。

トラウマを経験した人の中には、恐怖や怒りが強く現れる一方で、ある場面では感情が急に遠くなる人もいます。

例えば、親しい相手との口論で、最初は強い怒りを感じていたのに、相手が大声を出した瞬間、頭が真っ白になり、自分の気持ちが分からなくなることがあります。

相手が何を話しているのかは聞こえていても、言葉の意味がうまく入ってこない。何とか返事をしてその場を終わらせたあと、急に身体が重くなり、長い時間動けなくなる場合もあります。

プティカらは、PTSDに関連する失感情症と感情の麻痺について、神経科学的な研究を整理しています。その中で、感情を認識することの難しさと、感情体験そのものが弱まる状態には、異なる特徴があることを指摘しています。

つまり、自分の感情が分からない状態と、感情が薄くなっている状態は、外から見ると似ていても、その内側で起きていることが異なる場合があります。

トラウマによって脳の特定の部分が一律に停止するという単純な仕組みではなく、感情処理や注意、記憶、脅威への反応に関わる複数の働きが影響し合っていると考えられます。

身体の緊張が慢性化する仕組みについては、背中がガチガチに固いのはなぜ?|ストレス・トラウマで力が抜けない理由でも詳しく解説しています。

感情がなくなる人の特徴

感情がなくなったように感じる人は、周囲から冷静で落ち着いているように見られることがあります。

感情的になることが少なく、人前で取り乱さず、つらい出来事についても淡々と説明できる。そのため、本人の苦しさが周囲に伝わりにくい場合があります。

特に、長いあいだ自分の気持ちを抑えてきた人には、真面目で我慢強く、人の期待に応えようとする傾向が見られることがあります。

ただし、こうした性格的な特徴だけで失感情症やトラウマを判断することはできません。重要なのは、その人が日常生活の中でどのように自分の感情を扱っているかという点です。

例えば、次のような状態が続いている場合があります。

  • 悲しい出来事があっても、涙や悲しみが出てこない
  • 怒られてもその場では平静で、あとから身体の不調が現れる
  • 人から「何を考えているの?」と聞かれても、自分でも分からない
  • 相手の希望を優先し、自分の好き嫌いを考える機会が少ない
  • 疲れていることに気づかず、限界を超えてから急に動けなくなる
  • 一人になると何もする気が起きず、ぼんやりと時間が過ぎていく
  • 人と親しくなりたい気持ちはあっても、距離が近づくと負担を感じる

こうした反応が生じる背景は、人によって異なります。

職場での強いストレスによって感情が鈍くなった人もいれば、幼い頃から家庭で自分の気持ちを抑えることが習慣になっていた人もいます。

一見すると問題なく生活できていても、その生活を続けるために、かなりの心理的な努力を続けている場合があります。

例えば、仕事中には笑顔で対応できるのに、帰宅した途端に何もする気が起きなくなる。友人との食事では楽しそうに話せていたのに、帰り道では何を話したかあまり覚えていない。

他者と関わるために意識を外側へ向け続け、自分の内側に何が起きているのかを確かめる余裕がなくなっているのかもしれません。

感情が乏しく見えることと、他者への関心や思いやりが乏しいことは、別の問題です。自分の感情を理解することが難しくても、相手の苦しさを深く考え、必要な行動を取ろうとする場合があります。

むしろ、自分の気持ちは分からないのに、相手の気持ちばかりを考え続けて疲れてしまうこともあります。

幼少期のトラウマと親子関係

幼少期は、自分の感情を理解し、それを周囲に伝える方法を少しずつ学んでいく時期です。

子どもは、不安になったときに大人へ助けを求め、悲しいときには泣き、嬉しいときには喜びを表現します。そのような感情を周囲の大人が受け止めることで、自分が何を感じているのかを理解する経験が育っていきます。

ところが、家庭の中で感情を表すことが危険につながる場合、子どもは自分の気持ちよりも親の反応を優先するようになることがあります。

泣くと叱られる。怒ると反抗的だと言われる。怖いと伝えても大げさだと笑われる。悲しい気持ちを話しても、親自身の苦労を聞かされて終わってしまう。

そうした経験が続くと、子どもは次第に感情を表現しなくなる場合があります。

例えば、学校で嫌なことがあっても、親に相談すると面倒なことになるため、何もなかったように振る舞う。親が不機嫌な日は、自分の悩みを話すことを控え、相手を刺激しないように過ごす。

そのうち、何かあったときにも、まず自分の気持ちを確かめるより、どう対応すれば問題を起こさずに済むのかを考えるようになります。

怒りや悲しみを感じることが無意味に思えたり、その感情を自覚すること自体が負担になったりする場合もあります。

そして大人になってからも、他者との関係で同じような反応が続くことがあります。

職場で理不尽なことを言われても、その場では何も感じず、淡々と対応する。恋人から傷つく言葉を向けられても、相手の事情を考え、自分の気持ちを後回しにする。

けれど、帰宅して一人になった途端に身体が重くなり、理由の分からない疲労や息苦しさが現れることがあります。

幼い頃、自分の感情を抑えることによって家庭の緊張を乗り越えてきた経験が、現在の対人関係に影響している可能性があります。

ただし、感情が分からなくなる原因をすべて親子関係に求めることは適切ではありません。発達上の特性、現在のストレス、抑うつなども併せて理解する必要があります。

大切なのは、その人が自分の感情をどのように学び、どのような場面で感情を抑える必要があったのかを丁寧に振り返ることです。

幼少期に心の中へ避難するように過ごしてきた人の心理については、心を閉ざしてしまうのはなぜ?|トラウマで「心の避難所」に隠れる心理でも詳しく取り上げています。

毒親育ちの影響|伝えたい気持ちを閉じ込めてきた人

親に本当の気持ちを伝えたいのに、どうしても言葉が出てこないことがあります。

自分がどれほど傷ついたのかを分かってほしい。なぜあのとき助けてくれなかったのか聞きたい。理不尽な扱いに対して、怒りを伝えたい。

そうした思いがあっても、実際に親を前にすると、これまでと同じように黙り込んでしまう場合があります。

何かを伝えれば、親は怒り出すかもしれない。泣いてしまうかもしれない。こちらの気持ちを理解するどころか、逆に責められるかもしれない。

親の反応を予測しているうちに、自分が何を伝えたかったのかが分からなくなっていきます。

例えば、親から一方的に責められたとき、本当は反論したかったのに、口から出てきたのは「分かった」「ごめんなさい」という言葉だけだった。

その場では何も感じないまま会話を終え、あとになって強い怒りが込み上げてくることがあります。

反対に、どれほどひどい言葉を向けられても、怒りさえ出てこなくなる場合もあります。

長いあいだ感情を表現することが難しい環境で過ごしていると、自分の気持ちを持ちながら他者と関わることが、非常に難しくなる場合があります。

また、親との関係を壊したくないという思いと、これ以上傷つきたくないという思いが重なり、身動きが取れなくなることもあります。

親を大切にしたい気持ちがある一方で、会うたびに強い疲労や緊張が残る。距離を取りたいと思っていても、そのことに罪悪感が生じる。

こうした葛藤の中では、自分の感情に向き合うことよりも、できるだけ波風を立てずに関係を維持することが優先されがちです。

その結果、怒りや悲しみを意識しないまま親の要求に応じ、あとからひどく疲れてしまうことがあります。

自分の感情が分からなくなった人にとって、回復の重要な課題の一つは、親にすべてを理解してもらうことより、自分が何を感じ、何を望んでいるのかを確かめられるようになることです。

親の機嫌とは別に、自分には自分の気持ちがある。その感覚を取り戻すことが、成人後の人間関係にも影響していきます。

PTSDになるような強いショックと感情の麻痺

事故、暴力、災害、性的被害など、強い恐怖や無力感を伴う出来事のあと、感情や身体感覚が変化することがあります。

出来事が起きた直後には、何が起きているのか理解できず、ただ周囲の状況を見ているだけになる場合があります。

身体が固まり、声が出なくなり、目の前の出来事が現実ではないように感じられることもあります。

その後、出来事を思い出すと強い恐怖が込み上げる人もいれば、反対に、当時の記憶を振り返っても感情がほとんど動かない人もいます。

PTSDでは、侵入症状、回避、認知や気分の変化、過覚醒などが見られます。その中には、肯定的な感情を感じにくくなる状態や、他者から切り離されたように感じる状態も含まれます。

また、一部の人には、離人感や現実感消失などの解離症状が見られます。

例えば、恐ろしい出来事を経験している最中に、自分が天井からその場を見ているように感じたり、周囲の音が遠くなったりすることがあります。

出来事が終わってからも、強いストレスを受けると、同じような感覚が現れる場合があります。

自分の身体がマネキンや人形のように感じられる。手足がゴムでできているように感じられ、触れている感覚が遠い。血液が身体を流れている実感が薄く、身体全体が冷たくなっているように感じることもあります。

また、周囲の景色が映画の映像のように見えたり、家族の顔を見ても現実味が湧かなかったりする場合もあります。

こうした体験は、本人にとって非常に不安なものです。

自分が自分ではなくなったように感じ、これから元に戻れなくなるのではないかと恐れることもあります。

しかし、離人感や現実感消失を経験している場合でも、本人はその感覚が普段と違うことを理解している場合があります。

例えば、「世界が夢のように見えるけれど、本当は現実だと分かっている」と説明することがあります。

解離症状にはさまざまな程度や形があり、診断には専門的な評価が必要です。

また、長期間にわたる虐待や強いストレスを経験した人の中には、解離症状が複雑に現れる場合もあります。

解離の重い形や自己感覚の変化については、解離性同一性障害の実例|思い込みではない精神疾患で詳しく取り上げています。

感情がなくなる人に現れる症状

感情が鈍くなると、本人が感じる苦しさは、単に喜怒哀楽が少なくなることにとどまりません。

仕事や家事、人間関係、身体の感覚など、生活のさまざまな部分に影響が現れることがあります。

以前は楽しみにしていた趣味に関心が向かなくなり、休日になっても何をしたいのか分からない。好きだった音楽をかけても途中で止めてしまい、食事をしても味わう楽しさが感じられないことがあります。

また、人との関わり方にも変化が生じます。

友人から近況を聞かれても、特に話すことが思い浮かばない。恋人から気持ちを尋ねられても、自分でも分からないため、何と答えればよいのか迷ってしまう。

相手が悲しんでいることは理解できても、自分の感情が動かず、どのように反応すればよいか分からなくなる場合があります。

そのため周囲から、冷たい、無関心、何を考えているのか分からないと受け取られてしまうことがあります。

本人は相手を大切に思っていても、その気持ちが表情や言葉として現れにくくなっている場合もあるのです。

身体にもさまざまな変化が現れることがあります。

慢性的なストレスによって筋肉の緊張や睡眠の乱れが続く一方で、身体の感覚に意識を向けにくくなっている場合があります。

例えば、疲労が強くなるまで休む必要に気づかず、限界を超えてから急に動けなくなる。空腹や身体の不快感に気づきにくく、生活のリズムが乱れてしまうこともあります。

また、味覚や嗅覚、触覚などの変化を訴える場合には、精神的な問題だけでなく身体疾患や薬剤の影響なども検討する必要があります。

感情がなくなる状態で特につらいのは、自分の苦しさを言葉にできなくなることです。

何が嫌なのか、何に傷ついたのか、どのような支えが必要なのかを説明しようとしても、適切な言葉が出てこない。

周囲から「何がつらいの?」と聞かれるほど答えに困り、最後には「自分でも分からない」としか言えなくなる場合があります。

そうした状態では、助けを求めること自体が難しくなります。

そのため、感情について無理に説明しようとするより、どのような場面で体調が変化し、何をすると少し楽になるのかを整理することが、自己理解の手がかりになる場合があります。

感情がなくなる病気(4タイプ)と背景

感情がなくなったように感じる状態には、さまざまな医学的・心理的な背景があります。

ここでは、特に関連の深いうつ病、統合失調症、失感情症、離人感・現実感消失症について整理します。

なお、この四つは同じ分類の疾患ではありません。うつ病と統合失調症は精神疾患、失感情症は感情の認識や表現に関わる特徴、離人感・現実感消失症は解離症群に含まれる疾患です。

さらに、感情が鈍くなる状態には睡眠不足、身体疾患、服薬の影響、慢性的な疲労なども関わるため、症状の持続や生活への影響に応じた評価が必要です。

うつ病|楽しさや意欲が失われていく

うつ病では、気分の落ち込みだけでなく、これまで楽しめていたことに関心が向かなくなったり、喜びを感じにくくなったりすることがあります。

朝起きても一日を始める気力が湧かず、好きだった趣味にも手が伸びない。友人から誘われても、会いたいという気持ちが起きず、返信することさえ負担になる場合があります。

以前は休日を楽しみにしていたのに、今は休みの日になっても何をしたいのか分からない。時間だけが過ぎていき、夜になると何もできなかった自分を責めてしまうこともあります。

うつ病に関連する重要な症状の一つに、快感消失(アンヘドニア)があります。

トレッドウェイとザルドは、うつ病における快感消失について、楽しさを実際に感じる働きと、楽しみを求めて行動する意欲の働きを区別する重要性を論じています。

例えば、以前は好きだった映画を観ても楽しく感じられない場合と、映画を観れば楽しめるかもしれないのに、観始めるための意欲が湧かない場合では、本人の体験が異なります。

臨床では、このような違いを確かめることが重要です。

また、うつ病では思考や身体の動きが遅くなったり、疲労感が強くなったりすることがあります。

そのため、感情がなくなったように感じる人の中には、感情そのものの問題だけでなく、物事に関心を向けたり、行動を始めたりすることが難しくなっている場合があります。

うつ病には遺伝的な要因、ストレス、身体の健康状態など、複数の要因が関係します。セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質も感情や気分の調整に関わりますが、そのバランスだけでうつ病を説明することはできません。

症状が長く続き、睡眠や食事、仕事、家庭生活に支障が出ている場合には、精神科や心療内科での評価と治療が重要です。

統合失調症|感情表現が乏しくなる陰性症状

統合失調症では、幻覚や妄想、思考のまとまりにくさなどが現れることがあります。また、意欲や感情表現が低下する陰性症状が見られる場合もあります。

陰性症状には、表情や声の抑揚が乏しくなる感情鈍麻、会話量が減ること、活動を始める意欲が低下すること、人との関わりへの関心が減ること、喜びを感じにくくなることなどが含まれます。

例えば、以前は家族とよく話していた人が、次第に会話をすることが少なくなる。好きだった活動を始めることが難しくなり、長い時間を自室で過ごすようになることがあります。

周囲からは、本人が何もしたがらないように見えるかもしれません。

しかし、意欲の低下や感情表現の乏しさには、疾患に伴う症状のほか、抑うつ、薬剤の影響、社会的な孤立などが関係する場合もあります。

コレルとスクーラーは、統合失調症の陰性症状について、感情表現の低下や意欲の低下などを整理し、評価と治療における重要性を論じています。

また、感情表現が乏しいことと、内側で感情を経験していないことは必ずしも一致しません。

周囲から表情が乏しく見えていても、本人の内側では不安や悲しみ、喜びなどが経験されている場合があります。

そのため、表情や会話量だけで本人の気持ちを判断するより、どのような体験をしているのかを丁寧に確かめることが大切です。

統合失調症の治療では、薬物療法や心理社会的支援、生活環境の調整などを組み合わせながら、症状と日常生活の両面を支えていきます。

失感情症(アレキシサイミア)|自分の感情を理解し、表現することが難しい

失感情症では、身体や心の内側で何かが起きていても、それがどのような感情なのか分からないことがあります。

例えば、恋人から「本当はどうしたいの?」と聞かれても、何も思い浮かばない場合があります。

相手と一緒にいたいのか、一人で過ごしたいのか、自分でも分からない。どちらを選んでもよいと言われると、かえって困ってしまうことがあります。

そのため、相手が喜びそうな答えを選び、あとから疲れを感じる場合もあります。

失感情症の特徴には、感情を識別しにくいこと、感情を言葉にしにくいこと、内面的な感情よりも外側の出来事や具体的な事実に注意が向きやすいことなどがあります。

この傾向は、慢性的なストレスやトラウマを経験した人に見られる場合もありますが、すべての失感情症をトラウマに結びつけることはできません。

また、自分の感情が分からないことと、他者に共感できないことも同じではありません。

相手が困っていることは理解できても、自分がその場でどう感じているのか分からない場合もあります。

臨床的には、感情の名前をすぐに答えられるようにすることより、どのような出来事があったときに身体や行動が変化するのかを確かめることが役立つ場合があります。

例えば、相手から仕事を頼まれたあとに胸が重くなる。断ったあとには落ち着かず、相手から感謝されると少し安心する。

そうした変化を振り返る中で、自分が不安や罪悪感を感じていた可能性に気づく場合があります。

離人感・現実感消失症|自分や世界とのつながりが遠くなる

離人感・現実感消失症では、自分自身や周囲の世界に対する現実感が変化します。

自分が自分ではないように感じる。身体が自分のものではないように思える。自分の声が遠く聞こえ、話している自分を外側から眺めているように感じることがあります。

また、周囲の景色が夢の中のように見えたり、よく知っている場所なのに現実味がなくなったりする場合もあります。

人の顔が平面的に見えたり、声や音が遠く感じられたりすることもあります。

こうした状態が続くと、本人は自分が現実から切り離されてしまったように感じ、強い不安を抱えることがあります。

離人感や現実感消失は、強いストレスや不安、睡眠不足などに伴って一時的に生じることもあります。

また、PTSDやパニック症など、ほかの精神疾患に関連して現れる場合もあります。

離人感・現実感消失症という診断では、症状の持続や反復、生活への影響、ほかの疾患や薬剤などによる原因との区別が重要です。

特に、現実感が薄くなることで「このまま元に戻れないのではないか」と不安が強まり、その感覚を繰り返し確認してしまう場合があります。

自分の身体や周囲を何度も確かめようとするほど、違和感に注意が集中し、日常生活へ意識を戻しにくくなることもあります。

このようなときには、症状の原因を適切に評価すると同時に、睡眠や生活上のストレスを整え、不安を強めている行動を理解することが重要です。

無感情になった人の治療|感情を取り戻すための回復の道筋

長いあいだ感情を感じにくかった人が、自分の気持ちを理解し直す過程では、さまざまな戸惑いが生じることがあります。

これまで何も感じないと思っていたのに、ある日突然、悲しさが込み上げてくる。以前は平気だった言葉に傷ついたり、これまで我慢していたことに怒りを感じたりする場合もあります。

そのとき、自分が不安定になったように感じることがあるかもしれません。

けれど、今まで気づきにくかった感情が分かるようになることは、自分の希望や限界を知るための手がかりになる場合があります。

一方で、強い感情が急に現れると、日常生活に支障が生じることもあります。回復を考える際には、感情をたくさん感じることよりも、自分が扱える範囲で感情を理解し、生活の中で調整できることが大切です。

また、症状の背景がうつ病や統合失調症、解離症などの場合には、それぞれに合った医学的・心理的な治療が必要です。

感情との向き合い方

感情を長く抑えてきた人にとって、「今、何を感じていますか」という問いは、簡単に答えられるものではありません。

何も感じていないように思えることもあれば、身体の不快感ばかりが強く、どのような感情なのか分からない場合もあります。

そのようなときには、無理に感情の名前を探すより、現在の状態を具体的に確かめてみます。

例えば、人と会ったあとに疲れを感じたなら、その人といる間に何が起きていたのかを振り返ります。

相手の話をずっと聞いていたのか、自分の話をする余裕がなかったのか、途中で帰りたいと思っていたのか。会話の中で気になった言葉や、身体の緊張が強まった場面があったかもしれません。

感情そのものが分からなくても、その前後に何が起きていたのかを整理することはできます。

また、身体の感覚から考えることが役立つ場合もあります。

胸が重くなった。喉が詰まった。胃のあたりが固くなった。相手と別れたあとに急に眠くなった。

そのような変化を手がかりにしながら、「あの場面では負担を感じていたのかもしれない」「本当は断りたかったのかもしれない」と考えることができます。

ただし、身体の反応だけで感情を決めつける必要はありません。胸が苦しいから必ず不安を感じているとは限らず、身体的な原因が関係している場合もあります。

大切なのは、すぐに答えを出すことより、自分の状態へ注意を向ける経験を少しずつ増やすことです。

感情が分かるようになると、これまで我慢していたことに気づく場合もあります。

人から頼まれたとき、以前なら何も考えずに引き受けていたのに、今は少し負担だと感じる。誰かに失礼なことを言われたとき、自分が傷ついていたと分かる。

そうした気づきが、これからの行動を考える手がかりになります。

サポートの重要性

感情が分からなくなっているときには、一人で考え続けても、なかなか整理できない場合があります。

何がつらいのか分からず、相談しようとしても話す内容がまとまらない。助けてほしい気持ちはあっても、何をしてもらいたいのか分からないことがあります。

そのようなとき、安心して話せる人との関係が助けになる場合があります。

例えば、自分がうまく説明できなくても、急かさずに聞いてもらえる。途中で言葉が止まっても、すぐに答えを求められない。

そのような関係では、今まで言葉にならなかった感情を少しずつ考えられる場合があります。

また、周囲の人から「それは大変だったね」と言われたとき、初めて自分が苦しい経験をしていたことに気づく場合もあります。

ただし、誰かに話すことで必ず気持ちが軽くなるとは限りません。話した内容を否定されたり、無理に過去の出来事を尋ねられたりすることで、かえって負担が強まることもあります。

そのため、誰に、どこまで話すかを自分で選べることも重要です。

心理療法やカウンセリングでは、現在の生活や身体の状態を確認しながら、その人がどのような経験をしてきたのかを整理していきます。

トラウマが関係している場合には、日常生活の安定や安全を確かめながら、必要に応じて過去の経験を扱うことがあります。

感情が薄くなっている人にとって、話す内容と同じくらい大切なのは、その関係の中で無理をしなくて済むことです。

相手に合わせて答える必要がなく、自分の考えがまとまるまで待ってもらえる。分からないことは分からないと伝えられ、話したくないことは自分で決められる。

そうした経験を通して、人との関係に対する緊張が少しずつ変わっていく場合があります。

未来への希望と感情の力

感情が少しずつ分かるようになると、日常の受け取り方が変わることがあります。

以前は何も感じなかった景色を見て、きれいだと思えるようになる。好きだった音楽を聴いて懐かしさが込み上げたり、誰かの言葉に温かさを感じたりする場合もあります。

また、自分が何を嫌がっているのか分かるようになることで、人間関係の選び方にも変化が現れます。

これまで相手の希望に合わせてばかりいた人が、自分の意見を伝えられるようになる。疲れたときには休みたいと思えるようになり、誰かから頼まれたときにも、自分に余裕があるかを確かめてから返事ができるようになる。

感情は、人との関係を深めるためだけでなく、自分の生活を自分で選ぶためにも重要な働きを持っています。

例えば、怒りは、自分が不当に扱われたことに気づくきっかけになる場合があります。悲しみは、大切にしていたものを失ったことを知らせ、誰かに支えを求める手がかりになることがあります。

喜びや興味は、これから自分が何を大切にしていきたいのかを考える助けになります。

長く感情を抑えてきた人が回復していく過程では、これまで気づかなかった悲しみや怒りが現れる場合もあります。

そのようなときには、感情が戻ったこと自体を急いで評価するより、今の自分がどのような状態にあり、どのような支えが必要なのかを確かめることが大切です。

回復とは、以前と同じ自分に戻ることだけではありません。

自分の感情を理解し、必要なときには人に頼り、無理をしていることに気づいたら生活を調整できるようになること。そのような選択肢が増えていくことも、回復の重要な変化です。

かつては感じることが苦痛だった人が、自分の感情を持ちながら安心して人と関われるようになる。その過程で、日常生活の中に少しずつ喜びや関心が戻ってくる場合があります。

ご相談をご希望の方へ

感情がなくなったように感じる状態が続いているときには、現在の生活で何が起きているのか、どのような症状が現れているのかを整理することが重要です。

幼少期の家庭環境や人間関係の経験が関係している場合もあれば、現在の仕事や生活上のストレス、うつ病などの精神疾患、身体的な問題が影響している場合もあります。

カウンセリングでは、感情の変化だけでなく、身体の緊張や疲労、睡眠、人間関係の負担なども含めて、その人の経験を丁寧に確認していきます。

必要に応じて医療機関と連携しながら、自分の感情を理解し、生活の中で無理のない選択ができるようになることを目指します。

長いあいだ何も感じずに過ごしてきた人にとって、自分の好き嫌いや希望を考えることは、初めのうちは難しいかもしれません。

それでも、今日は何を食べたいのか、誰と過ごしたいのか、どのような時間なら少し落ち着けるのか。そうした小さな感覚を確かめられるようになると、自分の生活を自分の意思で選ぶ機会が増えていきます。

感情は、誰かに見せるためだけにあるものではありません。

自分が何に傷つき、何を大切にし、どこへ向かいたいのかを知るための働きでもあります。

これまで感じることを抑えてきた心が、自分の感覚を少しずつ取り戻していく。その過程を支えることが、トラウマケアや心理的な回復における大切な課題になります。

参考文献

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  2. Putica, A., Van Dam, N. T., Steward, T., Agathos, J., Felmingham, K., & O’Donnell, M. (2021). Alexithymia in post-traumatic stress disorder is not just emotion numbing: Systematic review of neural evidence and clinical implications. Journal of Affective Disorders, 278, 519–527. https://doi.org/10.1016/j.jad.2020.09.100
  3. Treadway, M. T., & Zald, D. H. (2011). Reconsidering anhedonia in depression: Lessons from translational neuroscience. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 35(3), 537–555. https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2010.06.006
  4. Correll, C. U., & Schooler, N. R. (2020). Negative symptoms in schizophrenia: A review and clinical guide for recognition, assessment, and treatment. Neuropsychiatric Disease and Treatment, 16, 519–534. https://doi.org/10.2147/NDT.S225643

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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心の病・精神疾患
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