トラウマ/PTSD症状、心的外傷後ストレス障害

トラウマ体験は、生命に対する深刻な脅威を感じたり、自分の力ではどうにもならない状況で安全が脅かされたり、強烈な恐怖感にさいなまれる状況に起因することがあります。ある出来事がトラウマとして認識されるかどうかは、客観的な基準で判断できるものではなく、その体験がもたらす想像を絶する恐怖や、耐えがたい苦痛といった個々の主観的な経験に依存します。

例えば、交通事故に遭遇した場合、それがトラウマになるかどうかは、その事故の状況や内容だけでなく、被害者自身の主観的な経験に依存します。同じ事故に遭遇しても、人によってはトラウマにならない場合もあります。

トラウマ体験には、短期的なものから長期的なものまで様々な種類があります。例えば、急性ストレス反応は、トラウマ体験によって引き起こされる短期的な反応の1つであり、思い出したり、その体験に関連するものを目にすると、不快な感情や身体的反応を引き起こすことがあります。

また、後遺症として、心的外傷後ストレス障害(PTSD)があります。PTSDは、トラウマ体験から1か月以上経過した後に、再び同じ状況に遭遇した場合、強い不安や恐怖を感じ、過剰に反応してしまうことが特徴です。

PTSD

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、生命の危機に瀕したときに引き起こされる不安障害です。PTSDの症状には、悪夢、フラッシュバック、過覚醒、睡眠障害、気分障害、自殺念慮、回避などあります。一般的な併存疾患として、うつ病、不安障害、適応障害、パニック障害、解離性障害、物質依存が挙げられます。

PTSDは、外傷的な体験に曝された際に、身体に戦慄の衝撃を与え、強烈な感情が湧き上がり、神経機能や生理現象に急激な変化をもたらします。PTSDを抱える人は、トラウマ関連の刺激に対する過剰な反応を示します。彼らは。脅威を感じると過剰な警戒心や、闘争・逃走反応の過敏状態に陥ります。この状態では、交感神経が活性化し、アドレナリンやノルアドレナリンが体内に放出され、戦闘や逃走に必要な筋肉の動きが促されます。

この際、体は活発な活動に対応するために緊張し、心臓の鼓動が速まり、血圧が上昇し、筋肉や血管が収縮します。運動に必要な酸素を確保するため、気管支が拡張され、呼吸が浅く速くなり、発汗も誘発されます。動作を機敏にするために、胃液の生成が抑制され消化器官の働きが停止し、尿意も抑えられます。さらに、周囲の敵を把握するため、瞳孔が拡大して、視野が広がり、聴覚が鋭敏になり、周囲の安全性や危険性を慎重に確認します。

過覚醒

トラウマを経験した人は、潜在的な脅威から自己防衛を図ります。危険を感じると扁桃体が強く反応し、頭の中の警報器が鳴り、過剰な警戒心が生じます。過覚醒は危険が原因で、神経が昂り、交感神経が急激に優位になります。この状態では、情動が溢れ、不安やストレス、焦り、苛立ちが増し、理性が働きづらくなります。

過覚醒のときは、呼吸は浅く速く、心臓は活発に働き、全身に血液が巡ります。手足は動く衝動に駆られるため、外の世界の刺激に敏感になり、身体が自動的に反応します。この状態では、気管支の活性化、呼吸の速さ、心拍数の上昇、血管の拡張、発汗などが観察されます。その結果、身体の不調や痛みが消え、活発で無理が効く状態になりますが、同時に身体に負担がかかり、エネルギーが切れると急速に低覚醒状態に陥る可能性があります。

PTSDに関連する過覚醒の症状は、本来生存目的で必要だった反応ですが、実際には危険のない状況でも過剰な覚醒状態に陥ってしまうことが問題となります。このような状態では、落ち着きを失い、過敏症や驚愕反応、気分の不安定さ、不眠症、恐怖症、身体症状が特徴的であり、疲れやすくて、日常生活に支障をきたすようになります。

低覚醒

低覚醒は、自身のエネルギーを保持しようとする生体反応であり、交感神経の活動が低下し、背側迷走神経が優位となることで、心臓の働きが弱まり、筋肉が衰えることが特徴です。低覚醒状態では、外の世界の刺激に鈍感となり、集中力や注意力が低下し、解離性健忘や半眠状態での生活が一般的です。喉の違和感や気管支の活動低下により、呼吸が困難になり、喘息が発症しやすくなります。

さらに、心拍数の低下や血圧の低下が原因で、めまい、ふらつき、頭痛、疼痛、悪寒、パニックが頻発に起こります。一方で、胃腸の活動性が増加するため、吐き気や腹痛、下痢が引き起こされることがあります。

低覚醒状態は、周囲を警戒しつつも、隠れて何かを我慢し続ける様子が見られたり、表情が乏しく、意識がぼんやりとしたまま過ごしたり、恐怖や痛みを自分から遠ざけようとしています。筋肉が過度に緊張したり、筋肉が極端に弛緩したりを繰り返し、抑うつ状態や無気力な状態が現れます。この状態では、身体が怠く、重く、痛くなり、動かすこと自体が困難になることがあります。

フラッシュバック

人々は、生命が脅かされるような出来事を経験した後、生物学的な脳や身体のメカニズムの影響で、トラウマ体験そのものだけでなく、それを思い起こさせる光景、匂い、音、声、感覚、感情などに対して過敏に反応するようになります。特に、PTSDを持つ人の日常生活において疲労感を増大させる要因となるのが、過去の悲惨な体験が再び脳裏に蘇る再体験症状(フラッシュバック、悪夢、パニック発作)です。

フラッシュバックが発生している間、脳の機能は通常の状態とは異なり、頭痛、吐き気、筋肉のこわばり、恐怖感、被害妄想、腹痛など、非常に厳しい苦痛を伴う状況に陥ります。一方、左脳の機能がほとんど停止しており、言葉による表現が困難となります。そのため、当時の出来事を客観的に分析したり、自分の人生の物語の一部として捉えることができません。

フラッシュバックや悪夢の影響で疲労や痛みが蓄積し、PTSDを持つ人にとって非常に厳しい日常生活を送ることにつながります。適切な治療やサポートによって症状の改善が期待できます。その結果、仕事や家事、学校などへの出席が困難になることがあるのです。

回避行動

PTSDを持つ人は、不安、悪夢、不眠、否定的な感情、身体的な不調、過緊張、パニック、イライラ、集中力の低下といった多くの症状に悩まされる状態です。さらに、不合理な攻撃的衝動に翻弄されることで、手に負えない恐怖感に圧倒されることがあります。このため、トラウマを経験している人は、恐怖や怒り、悲しみなどの否定的な感情を抑え込み、強い感情が喚起される場面を避ける傾向があります。また、脅威となるものや恐怖感、羞恥心、フラッシュバック、パニック発作、そして身体的症状を引き起こすような刺激を避ける傾向があります。

PTSDの回避行動は、トラウマ関連する状況や場所、活動、感情、考えを避ける行動になり、再び同様の出来事に遭遇することを恐れます。しかしながら、これらの危険な要素から逃れようとするあまり、徐々に行動範囲が狭まっていくことになります。結果として、人々の多い場所を避けるようになり、公共の交通手段が利用できなくなり、さらには外出すら困難になってしまいます。これらの状況が重なり、結局、自宅に引きこもる生活に陥ってしまうことが多く、孤立感や孤独感を感じるようになります。

認知と気分の陰性の変化

PTSDを持つ人は、トラウマの後に始まる、あるいは悪化するネガティブな思考や感情、トラウマとなった出来事の重要な側面を思い出せない現象、自分自身や世界に対する過度にネガティブな見解や思い込み、トラウマを招いた自分や他人への過剰な非難、ネガティブな感情が生じます。さらに、活動への関心が低下し、孤立感が増し、肯定的な感情を経験することが困難になります。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-03-25
論考 井上陽平