トラウマ/PTSD症状、心的外傷後ストレス障害

トラウマとは、単に外的な出来事や物理的な怪我だけを指すものではありません。それは、人の心の中で生じる深い傷、精神的な打撃をも意味しています。実際、人は生物学的に危険や脅威から身を守るための反応を持っていますが、これが過度に強くなると、心の傷として残ることがあるのです。そして、この心の傷がトラウマ体験として持続することで、日常生活に多大な影響をもたらすことがあります。

トラウマの影響は、その深さや継続性、そして個人の精神的な状態によって大きく変わります。ある人は、特定の刺激に過敏に反応するようになるかもしれません。一方で、別の人は、何も感じなくなるか、過度な反応を示すことがないかもしれません。それぞれのトラウマ体験や感じ方は、個人の歴史や背景、生きてきた環境に根ざしています。

そして、多くの人々が共通して体験するのは、トラウマが「今」の状況や感覚を歪めることです。過去の恐怖や痛みが現在の出来事や環境と混ざり合い、現実を正確に捉えることが難しくなることがあります。このような状態での生活は、日常の小さな出来事にも過度に反応することがあるため、生活にストレスや困難をもたらすことがあるのです。

さらに、トラウマを抱えた人は、自らの経験や感じ方を他者と共有することが難しくなることもあります。彼らは、自らの経験が理解されず、孤立してしまう恐れから、自らを守るために、自分の感情や経験を隠すことを選ぶことがあるのです。しかし、そのような心の中の孤立や痛みを乗り越え、周りの人々との関わりやサポートを得ることが、トラウマの回復への一歩となることも多いのです。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、まさに体と心が経験したトラウマから逃れるための反応として発症することが多い疾患です。しかし、人々は単に「恐怖」や「危機」を感じただけでなく、自らの存在や人生そのものが脅かされる感覚に見舞われるのです。それはまるで、身を守るための盾や防具がまったくない中で、過酷な戦場を生き抜こうとするかのような状態になります。

このようなトラウマを経験した後、人々はしばしば「過去の恐ろしい出来事」が現実の今として蘇るフラッシュバックを経験します。その瞬間、彼らは再びその場面に取り込まれ、当時の恐怖や絶望を味わうことになります。これは、時間や場所を超えてその瞬間を繰り返し体験することから、日常生活の中で突然として現れるため、社会生活を営む上で非常に困難となります。

PTSDによる身体の反応は、生き延びるための進化的な反応であるとも言えます。しかしながら、この反応が過度になると、体は常に非常事態の準備をしているかのような状態となり、心身の健康を害することになります。これは、本来安全であるはずの日常の中で、常に危機を感じているという状態です。

心理的な面から見ると、PTSD患者は自分を取り巻く世界に対して不信感を抱くことが多いです。これは、経験したトラウマが、彼らの信じていた世界観や価値観を根底から揺さぶるものだったためです。そのため、再び同じような痛みや苦しみを感じないよう、過去の経験から学んだ防御策を取り入れることが多くなります。

過覚醒モード

トラウマを経験した人の心理と身体は、本能的な反応として、自身を守るための対策を講じます。これは人間の基本的なサバイバルモード、すなわち生存本能が働く結果です。心の深い部分で、潜在的な脅威に対して警戒を続けることが求められるため、最小限の刺激で扁桃体が反応し、心理的警報が鳴り響きます。

この過覚醒の状態は、戦場や緊急事態での迅速な行動を可能にするための、進化的な仕組みと言えます。例えば、急な危険が迫ったとき、迅速に身を守る行動をとるためには、心拍数を上げ、筋肉に酸素や栄養を供給する必要があります。そのため、過覚醒状態になると、血流が活発化し、反応速度が上がります。

しかしながら、現代社会では、日常的にトラウマのような真の生命の脅威が存在するわけではありません。そのため、このような過度な警戒反応が、むしろストレスを増幅させ、身体や心に悪影響を及ぼすことがあります。特にPTSDを持つ人々は、過去のトラウマ体験が引き金となり、日常の小さな刺激でも過度な反応を起こしてしまうことが多いです。

さらに、過覚醒状態によって消耗されたエネルギーを回復するために、身体は休息を必要とします。しかしながら、この過覚醒の状態が続くと、正常な休息や睡眠が取れず、身体や心が持続的なストレス状態となり、様々な健康問題を引き起こす可能性が高まります。それゆえ、過覚醒の症状の早期発見と適切なケアや治療が非常に重要となります。

低覚醒モード

低覚醒状態は、身体がエネルギーの節約モードに入る現象であり、交感神経の活動が低下し、背側迷走神経が活性化することで起こります。この生理的な反応は、一般的には身体や心が長期間の疲労やストレスを経験した際の自己防衛機構としての役割を果たしています。

心臓の働きが鈍ることで、血液の循環が悪化し、酸素や栄養分の供給が不足します。このため、筋肉は衰える傾向にあり、全体的な身体機能が低下します。脳への酸素供給も十分でなくなるため、集中力や注意力の低下が起こり、頭が重く感じたり、日常の活動が難しくなったりします。

低覚醒の状態になると、自らの存在や周囲の環境を正確に捉えることが難しくなります。その結果、現実から離れた半眠状態になり、時には現実と夢の境界が曖昧に感じられることもあります。

呼吸困難や喘息の発症は、気管支の活動低下や、胸部の筋肉の衰えに起因しています。また、低覚醒状態は、心臓の鼓動や血流の低下を引き起こすことで、各種の身体的症状を誘発します。これにより、めまいやふらつき、頭痛、そして様々な消化器系の問題が発生します。

このような生理的な反応は、心の中に抱え込んでいる恐怖や痛み、ストレスや不安を、身体が何とかしようとする自然な結果とも言えます。しかし、その結果として生じる筋肉の過緊張や緩和、抑うつ症状や無気力は、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。これらの症状に対する適切な理解とケアが必要となります。

PTSDのフラッシュバック

人々が極度の危機的状況や生命の危険を経験すると、その衝撃は深層心理に深く刻み込まれます。そして、日常生活の中で、何気ない瞬間に、そのトラウマを思い起こさせる出来事や感覚が突然現れることがあります。例えば、特定の香りや音、色、場面が、かつての恐ろしい出来事を突然、生々しく蘇らせることがあります。このような状況は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ばれる症状の一部として知られています。

再体験症状、特にフラッシュバックは、過去の出来事が現実のように脳裏に浮かび上がる現象です。その瞬間、人は過去の恐怖や痛みを現実の中で再び体験しているかのように感じます。そして、その強烈な感情と身体的な反応は、現実の状況とは関係なく発生します。このような瞬間は、非常に大きなストレスや疲労を引き起こし、心身のバランスを崩してしまいます。

フラッシュバックが起こると、脳の働きは一時的に乱れ、左脳の論理的な機能や言語機能が停滞します。このため、その時の感情や体験を言葉にするのが非常に困難になります。また、身体は実際の危険が存在しないにも関わらず、過去の脅威に対する防御反応を取ります。このような身体的、心理的な反応は、日常生活における様々な活動や人間関係に悪影響を及ぼし、社会的な障害を引き起こすことがあります。

しかし、適切な治療やサポートを受けることで、これらの症状は軽減され、日常生活の質を向上させることが可能です。心理的なサポートや専門的なカウンセリング、そして場合によっては薬物療法が有効であることが知られています。

PTSDの回避行動

PTSD(心的外傷後ストレス障害)を持つ人は、外見上は日常を送っているように見えても、心の奥深くで多くの苦悩と戦っています。それはまるで心の中に巨大な嵐が吹き荒れているかのような、不安、悪夢、不眠、悲しみ、怒りなどの多岐にわたる症状とともに、人々との関わり合いにも影を落としてしまうことが多々あります。

その症状のひとつ、攻撃的衝動や突発的な恐怖感は、理不尽な形で現れることが多い。その結果、予期せぬ状況や場面での強い感情の爆発を恐れ、トラウマを惹起する可能性のあるシチュエーションを極力避けるようになります。この行動は、本人にとっては自己防衛の一環として無意識に行われることが多いのです。

その回避行動は、初めはトラウマを引き起こす特定の刺激や状況だけを避けるものから、次第に日常生活の中のさまざまな場面や行動へと拡大していきます。例えば、人ごみや特定の場所、音、香りなど、あらゆる刺激がトラウマの再体験を引き起こす可能性があると感じるようになります。

このように日常生活の範囲が狭まっていく中で、PTSDを持つ人は徐々に社会から孤立していく傾向があります。家族や友人とのコミュニケーションも避けるようになり、外出や人との交流が激減します。結果、日常の楽しみや生活のリズムが失われ、さらには自宅を出ることすら避けるようになることも。この状態は、自らを更なる孤立と孤独に追い込んでしまい、心の傷が深まる原因となってしまいます。

このような複雑な心の動きや状態を理解し、共感することが、PTSDを持つ人々へのサポートの第一歩となります。

認知と気分の陰性の変化

PTSD(心的外傷後ストレス障害)を持つ人は、トラウマ体験を起源とする多層的な心の葛藤と向き合っています。その後の人生においても、多くの人はこのトラウマに影響され、その後遺症としてさまざまな症状に悩まされることとなります。

彼らの中には、トラウマとなった出来事の一部や重要な側面を思い出せないという現象に直面している人もいます。これは、心がその瞬間の痛みや恐怖から自己を守るための防衛機制として、過度に困難な思い出を遠ざけることで発生するのです。しかし、この部分的な記憶喪失は、完全な回復や受け入れのプロセスを妨げることがあります。

加えて、PTSDを抱える人々は、自分自身や周囲の世界に対して過度にネガティブな視点を持つことが多いです。これは、彼らの経験が彼らの信念や価値観を根底から揺るがせるほどの衝撃をもたらしたためです。このような否定的な見解は、自分や他人、さらには世界全体に対する信頼を失わせ、孤立感や絶望感を増幅させる要因となります。

また、自分がトラウマを招いた原因となったとの過度な自責の念や、他者を過度に非難する傾向も見られます。これにより、彼らはさらに孤立を深め、社会とのつながりを失ってしまうことがあります。

日常生活においても、活動への関心が低下し、肯定的な感情や喜びを感じる機会が減少してしまいます。これらの症状は、PTSDを持つ人々の生活の質を著しく低下させ、彼らが再び社会と繋がること、そして自分自身を取り戻すことの障壁となります。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-03-25
論考 井上陽平

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