マインドフルネス瞑想とは?効果・やり方と心身の感覚を取り戻す方法

マインドフルネス瞑想 セルフケア・対処法

仕事が終わって家に帰っても、頭の中では昼間の会話が続いている。あのとき別の言い方をすればよかったのではないか、相手は自分をどう思っているのか、明日また何か問題が起きるのではないか。考えても答えが出ないことを繰り返し、身体は疲れているのに、気持ちはなかなか休まらない。

人と話しているときにも、相手の表情や声の調子を気にしすぎて、自分が何を感じているのか分からなくなることがあります。緊張していることに気づかないまま一日を過ごし、帰宅した途端に身体が重くなる。自分の疲れや怒り、悲しみよりも、周囲の期待や予定を優先してきた人ほど、心と身体の感覚が遠くなっている場合があります。

マインドフルネスとは、そうした状態から少し離れ、自分が今どこにいて、何を感じ、何に反応しているのかを丁寧に捉えるための実践です。

過去への後悔や未来への不安に意識が引き込まれているとき、呼吸や身体の感覚、目の前の景色、周囲の音などへ注意を戻し、現在起きていることを見つめていきます。

大切なのは、頭の中を空っぽにすることでも、感情を消すことでもありません。

怒りや不安、悲しみ、焦りが浮かんできたとき、それらにすぐ飲み込まれるのではなく、「今、自分の中ではこういうことが起きている」と気づけるようになることです。

マインドフルネス瞑想は、ストレスや不安への対処として活用されており、心理療法にも取り入れられています。一方、過去に虐待や性暴力などを経験してきた人にとっては、目を閉じて身体の内側へ注意を向けることが、かえって苦痛を強める場合もあります。

そのため、マインドフルネスを実践するときには、正しい姿勢や長い瞑想時間にこだわるより、今の自分が安全に扱える感覚から始めることが重要です。

Table of Contents

  1. マインドフルネスとは?「今ここ」に注意を向ける心理的な実践
  2. マインドフルネス瞑想にはどのような効果があるのか
    1. 不安やネガティブな思考に気づきやすくなる
    2. 感情に振り回される前に、自分の状態を確かめられる
    3. 身体の疲労や緊張に気づきやすくなる
  3. 現代社会で自分の感情や身体感覚が分からなくなる理由
  4. 身体志向アプローチとマインドフルネス|心と身体を一緒に理解する
  5. マインドフルネス瞑想のやり方|初心者が始める呼吸と姿勢の練習
    1. 1.自分が落ち着ける姿勢を選ぶ
    2. 2.自然な呼吸の動きを確かめる
    3. 3.息を吐くときの身体の変化を見る
    4. 4.考えが浮かんだら、気づいたところから戻る
    5. 5.終わった後の身体の状態を確かめる
  6. 深呼吸が苦手な人は、無理に呼吸を整えなくてもよい
  7. ボディスキャン瞑想|身体の感覚を少しずつ取り戻す
  8. マインドフルネスはトラウマや解離にも役立つのか
  9. 日常生活でできるマインドフルネスの実践方法
    1. 歩くときに足裏の感覚を確かめる
    2. 食事の味や香りをゆっくり感じる
    3. 日常の動作へ注意を向ける
  10. 自然の中で行うマインドフルネスウォーキング
  11. マインドフルネス瞑想を続けるときに大切なこと
  12. おわりに|今ここに戻ることは、自分自身の感覚を取り戻すこと
  13. 参考文献
    1. ご相談をご希望の方へ

マインドフルネスとは?「今ここ」に注意を向ける心理的な実践

マインドフルネス(mindfulness)は、今この瞬間の体験へ意図的に注意を向け、そこで起きていることを、すぐに評価したり判断したりせずに観察する姿勢を指します。

仏教の瞑想実践に由来する考え方ですが、現代では宗教的な修行とは別に、医療や心理療法、ストレス対処などにも取り入れられています。

例えば、誰かから厳しい言葉を向けられたとき、私たちは反射的に「自分が悪い」「嫌われた」「どうすれば相手の機嫌が直るだろう」と考えることがあります。

そのとき、身体の中では胸が締めつけられたり、肩に力が入ったり、呼吸が速くなったりしているかもしれません。

しかし、相手の言葉や自分への評価に意識が集中していると、身体に何が起きているのかには気づきにくくなります。

マインドフルネスでは、そうした瞬間に、自分の反応を少し違った角度から見つめます。

胸が苦しくなっている。肩が固くなっている。頭の中では、相手から嫌われたのではないかという考えが繰り返されている。

そのことに気づくだけでも、目の前の出来事と、自分の中に生じている反応を少し分けて捉えられるようになります。

不安な考えが浮かんだからといって、その考えがすべて事実だとは限りません。身体が緊張しているからといって、現在の状況が必ず危険だということでもありません。

マインドフルネスは、感情や思考を無理に変える前に、それらが今どのように生じているのかを知るための方法です。

マインドフルネス瞑想にはどのような効果があるのか

マインドフルネス瞑想は、不安やストレス、抑うつ症状への対処、注意の調整、感情との付き合い方を学ぶ方法として研究されてきました。

米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)は、マインドフルネスに基づく実践が、不安や抑うつの軽減に役立つ可能性を示しています。ただし、研究の質や実践方法には違いがあり、誰にでも同じ効果が得られるわけではありません。

マインドフルネスの効果を考えるときには、単にリラックスできるかどうかだけでなく、普段の感情や思考との関係がどのように変わるのかを見ることが大切です。

不安やネガティブな思考に気づきやすくなる

不安が強いとき、人は同じ出来事について何度も考え続けることがあります。

仕事で失敗したこと、誰かに言われた言葉、まだ起きていない未来の問題。その内容を繰り返し検討しているうちに、考えること自体が止められなくなってしまう場合があります。

マインドフルネスでは、こうした考えを無理に追い払おうとせず、思考が始まっていることに気づく練習をします。

「また仕事のことを考えていた」「相手の反応を気にしている」と気づいたら、足裏や呼吸、目の前の景色へ注意を戻してみる。

思考が消えなくても、考え続けることから一時的に離れ、今していることへ注意を向け直せる場合があります。

ぐるぐる思考が止まらないのは|不安を検知した神経系が作る、自動ループの正体では、考え続けることで危険を避けようとする心理と、身体の過覚醒との関係について詳しく扱っています。

感情に振り回される前に、自分の状態を確かめられる

人から傷つく言葉を向けられたとき、すぐに怒りが爆発することもあれば、反対に何も言えず、後になって強い悲しみが生じることもあります。

マインドフルネスでは、感情が生じたことに気づき、それが身体や思考にどのように現れているのかを観察します。

腹が立っているときには、顎を強く噛みしめているかもしれません。不安なときには、胸が固くなり、呼吸が速くなっているかもしれません。

そうした変化に気づけると、その場で何かを言い返すのか、少し時間を置くのか、相手から離れて休むのかを考えやすくなる場合があります。

身体の疲労や緊張に気づきやすくなる

長い間、自分の感情や身体感覚を後回しにしてきた人は、疲労がかなり強くなるまで気づかないことがあります。

仕事中は何とか動けていても、帰宅した途端に身体が重くなる。誰かと会っている間は元気に振る舞えても、一人になると何もする力が残っていない。

マインドフルネスでは、身体にある小さな緊張や不快感を確かめることで、自分が今どの程度の負担を受けているのかを知る手がかりが得られます。

ただし、身体感覚を感じ取ることが難しい人もいます。感覚がはっきり分からなくても、その状態自体を一つの気づきとして扱うことができます。

現代社会で自分の感情や身体感覚が分からなくなる理由

仕事や人間関係の負担が続くと、人は自分の感情や身体の状態へ注意を向ける余裕を失いやすくなります。

朝から予定を確認し、仕事の優先順位を考え、周囲の期待に応えながら一日を過ごす。帰宅してからも、家事や家族への対応が続き、スマートフォンには次々と新しい情報が入ってくる。

そうした生活では、自分が今何を感じているのかを確かめる時間が、少しずつ減っていきます。

身体は肩のこわばりや息の浅さ、胃の不快感、妙な焦りとして疲労を知らせているのに、頭では「まだやることがある」「もっと頑張らなければ」と考え続けてしまう。

また、子どもの頃から勉強や成果、周囲からの評価を優先してきた人は、自分の感情が動くより先に、どう振る舞うべきかを考える習慣を身につけている場合があります。

親の機嫌を読み、先生から叱られないように行動し、友人の中で浮かないように気を遣う。そうした経験が続くと、自分の気持ちを確かめることより、相手にどう見られているかを考えることが優先されます。

責任の重い立場にいる人も、自分の弱さや迷いを見せないよう、感情を厳しく管理し続けることがあります。

周囲からは落ち着いて仕事ができる人に見えていても、内側では緊張が続き、何を楽しみにしているのか、どこで疲れているのか分からなくなっている場合があります。

マインドフルネスは、そのような生活の中で、自分の感覚をもう一度確かめる時間になります。

自分が誰かの期待に応えるために何をしているのかを考える前に、今、身体にどのような感覚があるのかを感じてみる。

相手にどう振る舞うべきかを決める前に、自分が何を嫌がり、何を望んでいるのかを確かめてみる。

そうした小さな気づきが、他者の評価や役割だけに偏っていた注意を、自分自身へ戻す手がかりになります。

身体志向アプローチとマインドフルネス|心と身体を一緒に理解する

身体志向のアプローチでは、感情、姿勢、呼吸、筋肉の緊張、視線、行動、思考の流れを関連づけながら、その人の状態を理解していきます。

例えば、苦手な相手を前にしたとき、頭の中では「普通に話さなければ」と考えていても、身体では別のことが起きている場合があります。

喉が固くなり、胸が縮み、肩に力が入り、視線を合わせることが難しくなる。相手の話を聞いている間も、身体はその場所から離れる準備をしているかもしれません。

その状態で、もっと落ち着いて話すよう自分へ言い聞かせても、身体の緊張がすぐに変わるとは限りません。

そこで、まず今の身体に何が起きているのかを確かめます。

足裏が床に触れている。椅子が背中を支えている。手を少し動かすことができる。相手から視線を外してもよい。

こうした感覚を確かめることで、頭の中の不安だけに注意が集中していた状態から、身体や周囲の環境へ意識を広げられる場合があります。

また、人から褒められたとき、自分の胸が少し広がるのか、それとも緊張するのか。誰かから頼まれたとき、本当は嫌なのに笑って引き受けてしまうのか。

そうした小さな反応へ気づくことは、自分がどこで無理をしているのかを理解する助けになります。

トラウマの治し方・克服する方法|安全と身体感覚を取り戻す回復の過程では、身体の緊張や凍りつき、過覚醒を扱いながら、安心できる感覚を少しずつ育てていく方法を詳しく紹介しています。

マインドフルネス瞑想のやり方|初心者が始める呼吸と姿勢の練習

マインドフルネス瞑想を始めるときには、長時間座り続ける必要はありません。

まずは一分程度でも、自分の呼吸や身体、周囲の環境へ注意を向けてみます。途中で考え事が浮かんでも、無理に消そうとせず、気づいたところから戻れば十分です。

1.自分が落ち着ける姿勢を選ぶ

椅子に座る、床に座る、横になるなど、自分が比較的楽に過ごせる姿勢を選びます。

背筋を無理に伸ばすより、身体が支えられている感覚を確かめることが大切です。

足裏が床に触れている。椅子の座面に体重がかかっている。背中が支えられている。

肩や顎、手などに力が入っていることに気づいたら、少し動かしてみてもかまいません。

目を閉じると落ち着く場合には閉じてもよいですが、開けたままでも実践できます。

2.自然な呼吸の動きを確かめる

姿勢が落ち着いたら、呼吸へ注意を向けてみます。

鼻を通る空気の感覚、胸や肋骨のわずかな動き、お腹の膨らみなど、感じ取りやすい部分を一つ選びます。

最初から深く吸おうとする必要はありません。普段の呼吸を続けながら、空気が入ってきて、また外へ出ていく流れを確かめます。

呼吸が浅く感じられたとしても、すぐに変えようとせず、今はそのような呼吸になっていることを受け止めます。

呼吸へ注意を向けると苦しくなる人は、無理に続ける必要はありません。その場合は、足裏や手の感覚、目の前の景色などへ注意を切り替えます。

3.息を吐くときの身体の変化を見る

呼吸を意識しても苦しくならない場合には、吐く息を少しゆっくりにしてみることもできます。

例えば、無理のない範囲で二秒から四秒ほどかけて吸い、それより少し長めに吐いてみます。秒数を数えることが負担になる場合には、数えなくてもかまいません。

息を吐くとき、肩や胸、顎などに少し変化があるかを確かめます。

身体の力が緩むこともあれば、あまり変わらないこともあります。

何か特別な感覚を得ようとせず、今の身体の状態を見つめていきます。

4.考えが浮かんだら、気づいたところから戻る

呼吸へ注意を向けていると、仕事や家族のこと、過去の出来事などが浮かんできます。

最初は呼吸を見ていたのに、気づいたら明日の予定を考えていたということもあるでしょう。

そのときには、考え事が浮かんだことを確認し、再び呼吸や足裏の感覚へ注意を戻します。

この行き来を繰り返すことが、マインドフルネスの大切な練習になります。

考えが何度も浮かんだからといって、瞑想がうまくできていないわけではありません。考えていることに気づき、注意を戻す経験そのものに意味があります。

5.終わった後の身体の状態を確かめる

瞑想を終えるときには、急いで立ち上がらず、周囲を見渡しながら自分の状態を確かめます。

呼吸が少し落ち着いた。肩が重い。手が温かくなった。まだ不安が残っている。何も変わっていないように感じる。

その時点の身体の状態を、そのまま受け止めます。

マインドフルネスは、毎回必ずリラックスすることを目指すものではありません。自分が今どのような状態にあるのかを知ることも、実践の一部です。

深呼吸が苦手な人は、無理に呼吸を整えなくてもよい

マインドフルネスと深呼吸は関連することがありますが、同じものではありません。

呼吸法では、吸う時間や吐く時間を調整し、身体の緊張を和らげようとすることがあります。

一方、マインドフルネスでは、呼吸のリズムを変えることよりも、呼吸をどのように経験しているのかへ注意を向けます。

そのため、深呼吸をすると息苦しくなる人でも、別の感覚を使ってマインドフルネスを実践できます。

強いストレスやパニックを経験してきた人の中には、呼吸の動きに注意を向けると、胸の圧迫感や息苦しさが気になり、不安が強くなる場合があります。

また、身体の内側に注意を向けることが、過去の怖い記憶や身体感覚を呼び起こす人もいます。

そのようなときには、呼吸を整えることへこだわらず、次のような方法を使うことができます。

  • 目を開けて部屋の中を見渡し、物の色や形を確かめる
  • 足裏を床につけ、少し体重を移動させる
  • 温かい飲み物を手に持ち、手のひらの温度を感じる
  • ゆっくり歩き、足が地面に触れる感覚を確かめる
  • 周囲から聞こえる音を、無理のない範囲で聞き分ける

呼吸へ意識を向けることだけが、今ここへ戻る方法ではありません。

自分が落ち着いていられる感覚を選べることが、心身の安全を保つうえで重要です。

ボディスキャン瞑想|身体の感覚を少しずつ取り戻す

ボディスキャンは、身体のさまざまな部分へ順番に注意を向け、その場所にどのような感覚があるのかを確かめる実践です。

例えば、足先から始めて、ふくらはぎ、膝、太もも、骨盤、お腹、胸、背中、肩、首、顔へと、ゆっくり注意を移していきます。

足裏に床や靴下が触れている感覚がある。ふくらはぎが少し張っている。太ももには重さがある。お腹はあまり感じられない。

そのような身体の状態を、一つずつ確かめていきます。

肩に強い緊張を感じたとしても、必ず緩めなければならないわけではありません。

その場所が固くなっていることに気づき、次の部分へ注意を移していくこともできます。

また、身体の中に不快な部分がある場合には、その場所へ長く集中し続ける必要はありません。

少し楽に感じられる手や足、座面に触れている部分などへ注意を移すことで、負担を調整しながら実践できます。

Colganら(2017)は、PTSDを抱える退役軍人102人を対象に、ボディスキャン、呼吸へ注意を向ける瞑想、ゆっくりした呼吸、静かに座る方法を比較し、参加者の体験を質的に分析しました。

インタビューからは、今この瞬間への気づきが増えたこと、感情や身体の反応にすぐ巻き込まれにくくなったこと、緊張が和らいだことなどが報告されています。

マインドフルネスを用いた参加者の方が、ほかの方法を行った参加者よりもPTSD症状の改善を報告する割合が高い傾向も見られました。

ただし、これは参加者の主観的な体験を分析した研究であり、ボディスキャンを行えば誰でもPTSDが改善すると証明したものではありません。

それでも、呼吸や身体感覚へ注意を向けることが、単なるリラクゼーションを超えて、感情との付き合い方に変化をもたらす可能性を示しています。

マインドフルネスはトラウマや解離にも役立つのか

トラウマを抱える人は、過去の出来事が終わった後も、身体の緊張や強い警戒が続く場合があります。

人から声をかけられた瞬間に身体が固くなる。相手の表情が少し変わっただけで、何か悪いことが起きるのではないかと感じる。過去の怖い記憶が浮かび、目の前の出来事に集中できなくなることもあります。

また、強いストレスの中では、身体の感覚や感情が遠のき、自分が今どこにいるのか分からなくなるような解離症状が生じる場合もあります。

マインドフルネスは、そのようなときに、現在の場所や身体の感覚へ注意を戻す方法として役立つ可能性があります。

しかし、トラウマや解離がある人にとって、身体へ注意を向けることが必ず安心につながるわけではありません。

目を閉じると過去の場面が浮かぶ。身体の内側を感じようとすると、嫌悪感や恐怖が強まる。静かにしていると、かえって現実感が遠のいてしまう場合もあります。

そのため、トラウマを抱える人へのマインドフルネスでは、現在の安全や本人の選択を尊重することが重要です。

Bermudezら(2013)は、親密なパートナーからの暴力を経験し、PTSDを抱える女性10人に、マインドフルネスに基づくストレス低減プログラムを実施し、その体験を質的に分析しました。

参加者の語りには、瞑想を続ける難しさや、実践に取り組む中での葛藤が表れていました。一方、自分自身への理解や、他者との関係に変化を感じたという経験も報告されています。

この研究は少人数を対象としたもので、一般的な効果を結論づけることはできませんが、トラウマを経験した人にとって、マインドフルネスには負担と可能性の両方があることを示しています。

また、Garfinら(2023)は、複数のトラウマを経験し、薬物依存の治療施設で生活していた女性28人へのフォーカスグループ調査を行いました。

参加者たちは、マインドフルネスが自分の苦しさへの対処に役立つ可能性を感じる一方、実践を継続することの難しさや、生活環境に応じた支援の必要性についても語っています。

トラウマを抱える人にとって、マインドフルネスは一律に行うものではなく、本人の状態や生活環境に合わせて調整する必要があるのです。

現実が統合できなくなったときに起きる意識の断絶|解離という心の防衛反応では、強いストレスや恐怖の中で、現実感や身体感覚が遠のいていく状態について解説しています。

マインドフルネスは、PTSDや解離性障害の専門的な治療をそのまま置き換えるものではありません。症状が強い場合には、専門家と相談しながら、無理のない形で取り入れることが大切です。

日常生活でできるマインドフルネスの実践方法

マインドフルネスは、静かな部屋で座っているときだけに行うものではありません。

歩く、食べる、家事をする、窓の外を見るといった日常の動作の中でも、自分の感覚へ注意を向けることができます。

歩くときに足裏の感覚を確かめる

歩いているときには、足裏が地面へ触れる感覚へ注意を向けます。

かかとが地面につき、足の裏へ体重が移り、つま先が離れていく。そうした動きを数歩だけ確かめてみます。

歩きながら考え事が浮かんできたら、また足裏の感覚へ注意を戻します。

無理にゆっくり歩いたり、特別な歩き方をしたりする必要はありません。普段の歩行の中で、身体がどのように動いているのかを確かめます。

食事の味や香りをゆっくり感じる

食事のときには、最初の一口だけでも、味や温度、香り、口の中での感覚へ注意を向けてみます。

普段はスマートフォンを見たり、仕事のことを考えたりしながら食べている人もいるでしょう。

そのような時間に、食べ物の味や食感を確かめることで、思考だけに偏っていた注意を現在の体験へ戻すことができます。

日常の動作へ注意を向ける

手を洗うときには、水の温度や手のひらに触れる感覚を確かめます。

洗濯物を畳むときには、布の柔らかさや重さに注意を向けてみる。

窓を開けたときには、外から入ってくる風や空気の匂いを感じる。

こうした日常の動作の中にも、マインドフルネスを実践できる場面があります。

特別な体験を求めるより、普段は意識していなかった感覚へ少し注意を向けることが大切です。

自然の中で行うマインドフルネスウォーキング

自然の中を歩くことは、身体を動かしながら、周囲の景色や音、空気の感覚へ注意を向ける機会になります。

木々の間を歩くとき、葉が揺れる音が聞こえる。足元には土や落ち葉があり、少し遠くには空が広がっている。

そのような環境では、目の前の景色や身体の動きに自然と注意が向くことがあります。

春には、新芽の色や柔らかな風を感じる。夏には木陰の涼しさや蝉の声がある。秋には落ち葉を踏む音や乾いた空気を感じ、冬には頬へ触れる冷たい風や、吐く息の白さに気づく。

季節ごとに変わる景色の中で、普段は気にしていなかった小さな感覚が見えてくることがあります。

自然の中でマインドフルネスを行うときにも、すべての感覚を捉えようとする必要はありません。

歩いている間に、一つでも心地よいと感じるものがあれば、その感覚を少し味わってみます。

木漏れ日がきれいだった。風の音を聞くと落ち着いた。空を見上げたとき、肩の力が少し抜けた。

そうした小さな変化を経験することが、自分にとって安心できる環境を知る手がかりになります。

一方、屋外の騒音や人の視線、気温などが負担になる人もいます。自然の中での実践が必ず心地よいとは限らないため、自分が落ち着いて過ごせる場所を選ぶことが重要です。

マインドフルネス瞑想を続けるときに大切なこと

マインドフルネスを始めると、毎日きちんと続けなければならないと考えることがあります。

決まった時間に座り、呼吸へ集中し、雑念を減らし、少しずつ瞑想時間を長くしていく。そうした目標を立てることが役立つ人もいるでしょう。

しかし、もともと自分へ厳しい要求を向けてきた人は、瞑想まで努力や達成の対象にしてしまう場合があります。

今日は集中できなかった。昨日より雑念が多かった。落ち着けなかったから失敗した。

そうして、自分を責める時間になってしまうことがあります。

マインドフルネスでは、落ち着いている日も、考え事が多い日も、その日の自分の状態として扱います。

三分座れた日もあれば、三十秒ほどで終える日があってもよいでしょう。静かに座ることが負担なら、歩きながら行う方法を選ぶこともできます。

自分の状態を無視して頑張るより、その日の心身に合った方法を選べることが大切です。

また、瞑想中に不安が強まる、過去の記憶が鮮明になる、現実感が遠のくなどの変化が生じた場合には、実践を中断し、周囲の景色や足裏など外側の感覚へ注意を戻します。

症状が続いたり、日常生活に支障が生じたりする場合には、医療機関やトラウマに理解のある専門家へ相談することが重要です。

マインドフルネスは、苦しさに耐えるための訓練ではありません。自分の心身に何が起きているのかを理解し、必要な調整を行うための方法です。

おわりに|今ここに戻ることは、自分自身の感覚を取り戻すこと

強いストレスや不安の中で過ごしていると、人は目の前の生活よりも、過去に起きたことや、まだ起きていない未来へ注意を向け続けることがあります。

誰かに言われた言葉を何度も思い返し、失敗しないように先回りして考え、相手の反応を気にしながら一日を過ごす。

そのような生活が長く続くと、自分が今どのような感情を抱き、身体が何を感じているのかを確かめる余裕が失われていきます。

マインドフルネス瞑想は、そうした状態から少し離れ、現在の自分へ注意を戻すための実践です。

呼吸が出入りしていることを感じる。足裏が床に触れていることを確かめる。身体のどこに力が入っているのかを知る。目の前の景色や周囲の音へ注意を向ける。

そうした小さな体験を通して、自分が今どこにいて、何に反応しているのかを少しずつ理解できるようになります。

ただし、今ここへ戻ることが、いつでも心地よいとは限りません。

トラウマを抱えている人の中には、身体の内側へ注意を向けることで、過去の恐怖や不快な感覚が強まる人もいます。そのような場合には、無理に感覚へ集中するより、現在の環境を見渡したり、身体を少し動かしたりしながら、安全に感じられる範囲を探すことが大切です。

また、マインドフルネスは、感情を消したり、不安を完全になくしたりすることを目指すものでもありません。

怒りが生じたときには、怒っている自分に気づく。悲しいときには、悲しみがあることを認める。疲れているときには、身体が休息を必要としていることを確かめる。

そのように、自分の状態を理解できるようになると、これまで反射的に続けてきた行動を見直し、今の自分に必要な選択をしやすくなる場合があります。

長い間、他人の期待や周囲の危険ばかりを気にしてきた人にとって、自分自身の感覚へ注意を向けることは、慣れない経験かもしれません。

それでも、身体が少し楽に感じられる姿勢や、安心して過ごせる場所、心地よいと感じる音や景色を見つけていくことで、自分の生活の中に落ち着ける時間を少しずつ増やしていくことができます。

マインドフルネスは、心を完璧に静めるための技術ではなく、自分の感情や身体、今いる環境とのつながりを取り戻すための実践です。

呼吸や歩行、食事、自然の景色、手に触れる物の感覚。その一つひとつを通して、自分が今ここにいることを確かめていく。

過去や未来へ引き込まれていた注意を、少しずつ現在の生活へ戻しながら、自分の感情や身体を大切に扱えるようになること。その積み重ねが、心と身体の感覚を取り戻していくための大切な過程になります。


参考文献

  1. Colgan, D. D., Wahbeh, H., Pleet, M., Besler, K., & Christopher, M. (2017). A Qualitative Study of Mindfulness Among Veterans With Posttraumatic Stress Disorder: Practices Differentially Affect Symptoms, Aspects of Well-Being, and Potential Mechanisms of Action. Journal of Evidence-Based Complementary & Alternative Medicine, 22(3), 482–493.
    https://doi.org/10.1177/2156587216684999
  2. Bermudez, D., Benjamin, M. T., Porter, S. E., Saunders, P. A., Myers, N. A. L., & Dutton, M. A. (2013). A qualitative analysis of beginning mindfulness experiences for women with post-traumatic stress disorder and a history of intimate partner violence. Complementary Therapies in Clinical Practice, 19(2), 104–108.
    https://doi.org/10.1016/j.ctcp.2013.02.004
  3. Garfin, D. R., Amador, A., Osorio, J., Ruivivar, K. S., Torres, A., & Nyamathi, A. M. (2023). A multi-method exploration of mindfulness as a coping tool: Perspectives from trauma-exposed, unhoused women residing at a drug treatment facility. Stress and Health, 39(2), 347–360.
    https://doi.org/10.1002/smi.3188
  4. National Center for Complementary and Integrative Health (NCCIH). Meditation and Mindfulness: Effectiveness and Safety.
    https://www.nccih.nih.gov/health/meditation-and-mindfulness-effectiveness-and-safety/
  5. U.S. Department of Veterans Affairs, National Center for PTSD. Complementary and Integrative Health for PTSD.
    https://www.ptsd.va.gov/professional/treat/txessentials/complementary_alternative_for_ptsd.asp

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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