職場で泣くのは悪いこと?|涙が仕事の評価に与える影響と感情の整え方

泣くこと 境界線・自己肯定感

会議中、何とか平静を保っていたのに、上司から「どうしてこうなったの?」と尋ねられた瞬間、急に喉が詰まってしまう。自分では落ち着いて説明したいと思っているのに、声が震え、目に涙が浮かぶ。周囲の視線が集まることに気づくと、余計に言葉が出なくなってしまう。

その場では仕事の話を続けたい。何が起きたのか説明し、必要なら改善策を考えたい。それなのに涙が止まらず、誰かから「大丈夫?」と声をかけられると、さらに感情が込み上げてくることがあります。

職場で泣いてしまったとき、苦しさはその場だけで終わるとは限りません。

翌日、同僚と顔を合わせることが気まずくなる。上司にどう思われただろうかと考え、仕事を任せてもらえなくなるのではないかと不安になる。泣いてしまったことを何度も思い出し、あの場で感情を抑えられなかった自分を責め続けることもあります。

涙は、悲しみや悔しさ、怒り、安心、感動など、さまざまな感情によって生じる自然な反応です。しかし、職場には仕事上の役割や上下関係、評価、周囲からの期待があり、涙が本人の意図とは違う意味で受け取られる場合があります。

そのため、泣くことのメリットとデメリットは、単に涙を流すことが身体によいか悪いかという問題だけでは説明できません。

涙を流した本人が何を感じていたのか、周囲がその涙をどのように受け止めたのか、そして涙が出た原因となった職場の問題が、その後どう扱われたのか。

この三つを分けて考えることが、職場での涙と感情管理を理解するうえで重要になります。

泣くことのメリットとデメリット|涙は感情を伝える一つの表現

涙には、自分の感情を他者へ伝える働きがあります。

悲しいことがあったときに涙がこぼれる。悔しい思いをしたとき、言葉より先に涙が出る。長いあいだ緊張していた人が、誰かに優しく声をかけられた途端、泣き始めることもあります。

本人がすべてを説明できなくても、涙によって、何らかの強い感情が生じていることが周囲へ伝わる場合があります。

その結果、誰かが負担の大きさに気づき、話を聞いたり、休息を勧めたりすることがあります。

一方、涙が出たからといって、本人が何を感じているのかが正確に伝わるとは限りません。

悔しくて泣いているのに、悲しんでいると思われる。怒りを感じているのに、相手を怖がっていると受け止められる。仕事への強い責任感から涙が出たのに、プレッシャーに弱い人だと評価されてしまうこともあります。

つまり涙には、苦しさを周囲へ伝えるという働きがある一方、その意味を他者の解釈へ委ねてしまう側面もあります。

泣くことで得られるもの

涙が出たことをきっかけに、自分がどれほど無理をしていたのかに気づく場合があります。

それまで平気だと思っていたのに、泣き始めると、疲労や悲しみ、怒りが自分のなかに強く残っていたことを実感する。

また、安心できる相手に受け止められたことで、気持ちが少し軽くなることもあります。

泣くことが、自分の感情を理解したり、他者へ助けを求めたりするきっかけになる場合があるのです。

泣くことで生じる負担

反対に、人前で涙を見せたことによって、羞恥心や自己批判が強くなる場合があります。

仕事の話が途中で止まり、必要な確認ができなくなる。周囲に気を遣わせたと感じ、さらに自分を責める。

涙の意味を誤解され、相手との関係がぎこちなくなる場合もあるでしょう。

泣くことの影響は、涙そのものだけでなく、どのような状況で泣き、そのあとに何が起きたのかによって変わります。

泣くとストレスは解消されるのか|涙の効果に関する研究

泣いたあとに、胸のつかえが取れたように感じることがあります。

思い切り泣いたあとで気持ちが落ち着き、少し眠れるようになることもあるでしょう。そのような経験から、泣くことはストレスを解消し、心を浄化するものだと考えられることがあります。

しかし、泣いた人が必ず気分を回復するわけではありません。

2011年にBylsmaらが発表した研究では、97人の女性が日常生活のなかで経験した1,004回の泣くエピソードが分析されました。

その結果、泣いたあとに気分が改善したと報告されたのは、全体のおよそ3分の1でした。

泣いたことによって楽になった人もいれば、気分が変わらなかったり、かえってつらくなったりする人もいたのです。

研究では、泣くことの影響が、その場の人間関係や本人の感情状態などによって変わることも示されています。

また、Gračaninらが2015年に行った実験では、感情を動かす映画を見て泣いた参加者は、直後には気分が悪化しました。しかし、その後に気分が回復し、90分後には映画を見る前よりも否定的な気分が少なくなっていました。

この研究は、泣いた直後と、しばらく時間が経ってからでは、気分の変化が異なる可能性を示しています。

ただし、映画によって生じた涙と、職場で強いストレスにさらされたときの涙は、同じ条件ではありません。

特に、上司から繰り返し叱責されている場合や、人間関係で深く傷ついている場合には、泣くことで一時的に落ち着いたとしても、ストレスの原因が残っていることがあります。

また、感情的な涙によってストレスホルモンや有害物質が大量に排出されるため、心身が浄化されるという説明には、十分な科学的根拠がありません。

オキシトシンやエンドルフィンの働きだけで、涙の心理的効果を説明することもできません。

泣いたあとに感じる安堵には、時間の経過や感情の変化、他者からの支援、その場の安全など、複数の要因が関わっていると考えられます。

涙はストレスへ対処するきっかけになることがありますが、泣くこと自体が治療や問題解決になるわけではありません。

職場で泣くと評価が下がる?|涙の受け止められ方を調べた質的研究

職場で涙を見せたあと、「仕事ができない人だと思われたのではないか」と不安になることがあります。

普段は責任を持って仕事を進め、周囲から信頼されていても、一度泣いたことによって、それまでの評価が変わってしまうのではないかと感じる。

職場で涙がどのように受け止められるのかについては、組織心理学の研究があります。

2018年にElsbachとBechkyが発表した質的研究では、さまざまな職業に就く65人へのインタビューを通して、職場で泣いた女性を周囲がどのように評価するのかが調べられました。

研究では、仕事上のフィードバック、日常業務のストレス、激しい会議、個人的な問題という、職場で涙が生じる四つの状況が扱われています。

そこで明らかになったのは、周囲の評価が、単に泣いたかどうかだけで決まっていたわけではないということです。

その場面で涙が出ることを理解できると受け止めた場合、周囲は、本人が困難な状況に置かれていることへ目を向けやすくなりました。

一方、その場では泣くべきではないと判断した場合には、本人の性格や能力の問題として受け止められることがありました。

涙を見せた人が、弱い、専門性に欠ける、あるいは周囲を操作しようとしていると解釈される場合もあったのです。

興味深いのは、周囲が涙の背景にある感情を推測しても、それが必ずしも評価を決める中心にはなっていなかったことです。

つまり、本人が悲しかったのか、怒っていたのかという問題よりも、職場の人たちが、その場面で涙を見せることをどう理解しているのかが、評価に関わっていました。

この研究は女性が泣いた場面に対する周囲の認識を調べたものであり、職場で泣いた人の評価が必ず下がることや、実際に昇進機会が減ることを証明したものではありません。

しかし、涙が本人の意図とは異なる意味で受け止められる可能性を示しています。

また、2024年にPittarelloらが発表した研究では、涙が周囲を操作する目的で流されたものだと受け止められた場合、女性への評価がより厳しくなる傾向が報告されました。

職場での涙を考える際には、本人の感情だけでなく、周囲が持つ先入観や、性別による期待にも目を向ける必要があります。

職場で泣くことのデメリット|涙が仕事のやり取りを変えてしまう

職場では、仕事の内容だけでなく、相手との関係や職務上の役割も重要になります。

上司へ報告する。会議で意見を伝える。仕事上の失敗について説明し、改善策を考える。

そのような場面で涙が出ると、本人が伝えようとしていた内容より、泣いているという事実に周囲の注意が向かうことがあります。

たとえば、業務上の問題について話し合っていたのに、周囲が本人を慰めることへ意識を向け、肝心の課題が曖昧なまま終わってしまうことがあります。

反対に、涙を見た上司が動揺し、必要なフィードバックを控えるようになる場合もあるでしょう。

本人は仕事上の問題をきちんと整理したいのに、周囲から腫れ物に触れるように扱われることもあります。

また、職場によっては、涙を見せたことから、責任の重い仕事を任せても大丈夫なのかと疑問を持たれる可能性もあります。

ただし、そうした受け止め方には、職場の文化や上下関係、周囲の偏見などが関わります。

感情を表したことだけで能力を判断するのは、適切な評価とは言えません。

重要なのは、泣いたかどうかだけで仕事の能力を決めず、実際の業務遂行や本人の状態を分けて考えることです。

一方、涙によって会議や面談が進めにくくなっている場合には、いったん時間を置き、仕事の内容を改めて整理することが現実的な対応になります。

泣いたあとに強くなる恥ずかしさ|職場での自己嫌悪と反芻

職場で泣いてしまったあと、何度もその場面を思い出すことがあります。

上司はどう思っただろうか。同僚は陰で何か話しているのではないか。明日出勤したら、どのような顔をすればよいのだろうか。

考えれば考えるほど、その日の涙が大きな失敗だったように感じられることがあります。

とくに、自分の感情を周囲へ見せることに抵抗がある人は、涙が出たこと自体に強い羞恥心を抱く場合があります。

仕事では冷静でいたい。誰かへ迷惑をかけたくない。つらいことがあっても、自分のなかで処理したい。

そのような価値観を持つ人にとって、職場で泣くことは、自分が守ろうとしてきた姿を崩してしまったように感じられることがあります。

しかし、その場で涙が出たことと、仕事上の責任を果たせなかったことは、分けて考える必要があります。

涙が出たあとに、業務上の説明や必要な対応ができている場合もあります。

また、一時的に対応できなかったとしても、落ち着いてから続きを話し合うことができます。

泣いたことへの反省が長く続くと、職場へ行くこと自体が怖くなる場合があります。

そのため、涙が出た出来事を振り返る際には、自分が何を感じ、何が起き、そのあとにどのような対応が必要なのかを整理することが大切です。

感情を抑え続けることにも負担がある|職場の感情労働

職場では、自分の感情をそのまま表現できるとは限りません。

疲れていても笑顔で接客する。理不尽な要求を受けても、落ち着いた口調で対応する。上司の機嫌が悪くても、表情を変えずに仕事を続ける。

こうした場面では、本人が感じている感情と、職務上求められる感情表現の間に隔たりが生じます。

心理学や組織行動論では、このような感情の調整を「感情労働(emotional labor)」という概念で扱います。

特に、内心では怒りや不安、悲しみを感じていても、表面上は笑顔や落ち着いた態度を保とうとすることは、表層演技(surface acting)と呼ばれます。

2016年にBoucherが発表した質的研究では、オーストラリアの医療分野で働く中間管理職49人へのインタビューが行われました。

研究では、女性管理職が、上位の管理職の感情に対応する役割を引き受け、自分の本当の気持ちとは異なる落ち着きや楽観性、共感を示していたことが報告されています。

そこでは、仕事の内容だけでなく、周囲の感情を調整するという、表からは見えにくい負担が生じていました。

こうした感情労働が長く続くと、自分の疲労や怒りに気づく余裕が少なくなり、心身の負担が大きくなる場合があります。

職場で笑顔を保ち、誰かの機嫌を読み続けていた人が、帰宅して一人になった途端、涙を流すこともあるでしょう。

職場では何とか感情を抑えられていても、そのために大きな力を使っていた可能性があります。

特に、幼少期から周囲の期待に応え、自分の気持ちを後回しにしてきた人は、仕事でも同じような適応を続ける場合があります。

過剰適応とは?他人軸で生きて疲れ切る人の特徴・原因と回復では、周囲から求められる役割を果たし続けることで、自分の感情や疲労が分からなくなっていく心理を詳しく扱っています。

大切なのは、感情を一切抑えずに働くことよりも、自分の内側で何が起きているのかを理解し、負担が大きくなる前に対応できるようになることです。

涙が出たとき、職場のストレスそのものを見直す必要がある

職場で泣いてしまったとき、多くの人は、どうすれば次は泣かずに済むのかを考えます。

しかし、涙が生じた背景に、長時間労働や過度な業務量、威圧的な指導、繰り返される人格否定などがある場合には、本人の感情管理だけでは問題が改善しないことがあります。

上司から厳しく叱責され続けている。仕事を一人で抱え込み、相談しても十分な支援が得られない。努力しても否定され、失敗したときだけ強く責められる。

そのような環境では、涙を抑えられるようになったとしても、職場のストレスそのものが減るわけではありません。

感情を管理することと、理不尽な扱いを我慢し続けることは、区別して考える必要があります。

職場で涙が出ることが繰り返されている場合には、どのような業務や人間関係で負担が強まっているのかを整理することが重要です。

業務量が多すぎるのであれば、仕事の分担や優先順位を見直す必要があるかもしれません。

特定の上司との関係で強い恐怖や緊張が生じているなら、相談先や指導方法について検討する必要があります。

また、現在の職場環境によって、睡眠障害や動悸、吐き気、出勤困難などが生じている場合には、医療機関や産業保健スタッフへの相談も大切になります。

適応障害とは?気分の波・身体症状・過剰適応から回復するためにでは、仕事や人間関係の負担が、心身の不調として現れる状態について詳しく扱っています。

職場で泣いてしまったときの対処法|涙を止めることより、その場を整える

仕事中に涙が出そうになったとき、何とか止めようと意識するほど、自分の身体や表情が気になり、さらに緊張する場合があります。

周囲にどう見られているかを考え続けると、話の内容へ集中することも難しくなります。

そのため、まずは涙を完全に止めようとするよりも、自分が仕事の話へ戻れる状態を整えることが大切です。

1. 会話をいったん止め、短い時間を確保する

涙が出て言葉が詰まったときには、少し時間が必要であることを伝える方法があります。

「少し落ち着いてから、続きをお話ししてもよいでしょうか」

「今、言葉が詰まっているので、少し時間をください」

こうした言葉を使うことで、その場を一時的に中断できます。

十分に説明しようとして、かえって苦しくなる必要はありません。

話を続けられる状態になってから、必要な内容を伝えることができます。

2. 呼吸や身体の緊張を無理に操作しない

涙が出る直前には、喉が詰まり、胸や顔に圧迫感が生じることがあります。

そのようなときには、肩や顎に力が入っていないかを確かめ、楽な姿勢を取ることが役立つ場合があります。

呼吸をゆっくり整える方法が合う人もいますが、無理に深く吸おうとすると、息苦しさやめまいが強まる場合もあります。

自分が苦しくならない範囲で行うことが大切です。

3. 人の視線から少し離れる

可能であれば、休憩スペースや静かな場所へ移動し、周囲の視線を気にせず過ごせる時間を取ります。

涙を拭いたり、水を飲んだりして、現在の身体の状態を確かめることもできます。

職場で泣いたあと、そのまま多くの人に囲まれることが負担になる場合もあるため、自分にとって落ち着ける場所を選ぶことが重要です。

4. 落ち着いてから、仕事の内容を整理する

感情が強くなっているときには、相手の説明を十分に理解できなかったり、言いたいことを伝えられなかったりする場合があります。

そのため、落ち着いたあとで、業務上の問題を改めて確認することが役立ちます。

何が問題だったのか。自分がどこまで対応すればよいのか。相手へ確認しておきたいことは何か。

必要であれば、短いメモを作り、相手との話し合いに備えることもできます。

5. 涙が出たことと、業務上の問題を分ける

泣いてしまったことが気になり、仕事の問題について十分に考えられなくなる場合があります。

しかし、涙が出たことと、業務上どのような対応が必要なのかは、分けて整理することができます。

自分に改善すべき点があれば、その点について対応する。相手から不当な扱いを受けた場合には、その問題について別に考える。

涙が出たことを理由に、すべて自分が悪かったと結論づける必要はありません。

職場で泣いた翌日、どう振る舞えばよいのか

職場で泣いてしまった翌日、何事もなかったように振る舞うべきなのか、それとも謝った方がよいのかと迷うことがあります。

しかし、涙が出たこと自体について、必ず謝罪しなければならないわけではありません。

会議や面談が途中で終わり、仕事の確認ができていない場合には、その続きを相談することができます。

「昨日は途中でお話を止めてしまったので、業務について改めて確認させてください」

このように、仕事の内容へ焦点を戻すことができます。

周囲から心配の声をかけられた場合にも、自分の事情をすべて説明する必要はありません。

「少し疲れが重なっていました。気にかけていただいてありがとうございます」

その程度の説明で十分な場合もあります。

また、涙が出た背景に不当な叱責やハラスメントがある場合には、自分が泣いたことを謝るよりも、何が起きたのかを正確に記録し、必要な相談先へ伝えることが大切です。

泣いた翌日の対応で重要なのは、周囲の評価をすべて取り戻そうとすることよりも、自分の仕事や安全をどのように守っていくのかを考えることです。

涙が止まらない場合に考えたいこと|職場ストレスと心身の限界

職場で涙が出ることが一度あったからといって、それだけで精神的な病気を疑う必要はありません。

しかし、これまでと比べて涙が出る回数が増えたり、些細な場面でも感情を調整することが難しくなったりしている場合には、現在の心身の状態を確認することが大切です。

仕事へ向かう朝になると涙が出る。職場のことを考えると眠れなくなる。休日にも仕事のことが頭から離れず、食欲が低下している。

そのような状態が続くときには、職場のストレスが大きくなっている可能性があります。

抑うつ状態や適応障害、不安症状、トラウマ関連症状などが関わる場合もあります。

一方、涙が増える背景には、睡眠不足や身体的な問題、薬剤の影響などが関わる場合もあるため、心理的な問題だけで判断することはできません。

また、泣けなくなったことだけを、心身が深刻に傷ついている証拠と考えることも適切ではありません。

もともと感情を涙で表現しにくい人もいれば、強いストレスのなかで感情が鈍くなる人もいます。

涙が出るかどうかだけでなく、現在の生活で何が難しくなっているのかを理解する必要があります。

仕事や日常生活に大きな支障が出ている場合には、医療機関や心理専門職へ相談することが重要です。

涙が出る背景を詳しく理解したい場合には、涙が止まらないのは病気?|泣きたくないのに泣いてしまう原因で、ストレスや身体反応との関係を解説しています。

また、特に注意や指摘を受けたときに涙が出る場合には、注意されると泣いてしまう・落ち込んでしまう理由|過剰反応の原因と対処法も参考になります。

泣くことと感情管理を両立させる|必要なのは感情を消すことではない

職場での感情管理というと、どのような場面でも冷静で、感情を表へ出さずに対応できることを想像するかもしれません。

しかし、仕事をしていれば、悔しさや怒り、悲しみ、不安を感じることがあります。

理不尽な対応を受けたり、努力が認められなかったり、強い責任を抱えたりすれば、感情が大きく動くこともあるでしょう。

大切なのは、感情そのものを消すことよりも、その感情によって自分がどのような状態になっているのかを理解することです。

悔しいと感じたとき、その背景にあるのは何でしょうか。

自分の努力が認められなかったことなのか。相手の言い方が傷つくものだったのか。仕事への強い責任感から、自分を責めているのか。

あるいは、長いあいだ我慢してきた疲労が、その場面で表面化したのかもしれません。

感情の意味を理解できるようになると、ただ涙を抑えることだけでなく、何に対処する必要があるのかを考えやすくなります。

仕事上の問題であれば、業務内容や役割を確認する。人間関係の問題であれば、相手との距離や関わり方を見直す。

疲労や睡眠不足が重なっているなら、休息や働き方を調整する必要があるかもしれません。

感情管理とは、その場で泣かないようにする技術だけを意味するものではありません。

自分が何を感じ、なぜその感情が生じているのかを理解し、必要な行動を選べるようになることが重要です。

涙を流した人への接し方|上司や同僚ができること

職場で誰かが泣き始めたとき、周囲も戸惑うことがあります。

どう声をかければよいのか。仕事の話を続けてもよいのか。それとも、何も聞かずにそっとしておいた方がよいのか。

そのような場面では、涙の理由をすぐに決めつけず、本人が落ち着ける条件を整えることが大切です。

たとえば、少し休憩を取るかどうかを尋ねたり、必要であれば面談を中断したりすることができます。

周囲に人が多い場合には、本人のプライバシーへ配慮することも必要でしょう。

また、涙が出たことを理由に、本人の能力や人格を評価しないことが重要です。

職務上の問題がある場合には、その問題について適切に話し合う必要があります。しかし、感情が高まっている状態で、さらに強く責め続けることが、建設的な対応につながるとは限りません。

反対に、本人が望んでいないのに、個人的な事情を詳しく尋ねたり、無理に励ましたりすることも負担になる場合があります。

職場での涙への対応では、本人の意思を尊重しながら、必要な業務上の話し合いを続けられるようにすることが大切です。

また、上司による威圧的な言動や業務量の偏りなどが原因となっている場合には、職場側がその問題を改善する必要があります。

涙を見せた本人にだけ感情管理を求めても、職場環境が変わらなければ、同じ問題が繰り返される可能性があります。

まとめ|職場で泣くことと、自分の感情をどう扱うか

泣くことは、喜びや悲しみ、怒り、悔しさ、安心など、さまざまな感情に伴って生じる自然な反応です。

涙を流したことで、自分がどれほど疲れていたのかを理解したり、周囲から支援を受けられたりすることがあります。

一方、職場では、涙が本人の意図とは異なる意味で受け止められ、仕事上の評価や人間関係に影響する可能性もあります。

職場で泣くことのメリットとデメリットは、涙を流したことだけで決まるものではありません。

どのような状況で涙が出たのか。そのとき、周囲はどのように対応したのか。そして、その後に必要な支援や話し合いが行われたのか。

こうした条件によって、涙が持つ意味は変わります。

また、泣いたあとに気持ちが軽くなる人もいれば、かえってつらさや羞恥心が強まる人もいます。

涙によってストレスがすべて解消されるわけではなく、涙を流せないことだけで感情の処理が滞っていると判断することもできません。

職場での感情管理では、涙を完全に抑えようとするよりも、自分の感情を理解し、その場の状況に応じて対応を選べることが重要になります。

涙が出て言葉が詰まったときには、少し時間を取ることができます。

落ち着いてから、仕事の内容を改めて確認することもできます。

また、職場のストレスが強く、繰り返し涙が出るようになっている場合には、本人の感情管理だけでなく、仕事量や人間関係、職場環境そのものを見直す必要があるかもしれません。

長いあいだ、周囲の期待に応え、どのような場面でも冷静でいようとしてきた人は、自分が何を感じているのかを後回しにしてきた可能性があります。

相手を不快にさせないこと、仕事を滞らせないこと、弱いと思われないこと。

そうしたことへ注意を向け続けるなかで、自分の疲労や悲しみ、怒りに気づく余裕を失ってしまう場合があります。

そのような人にとって、突然の涙は、自分が抱えてきた負担を理解するきっかけになることがあります。

けれど、涙が出るまで我慢し続ける必要もありません。

自分が疲れていることに気づく。無理な仕事を一人で引き受けず、必要な相談をする。相手の言葉に傷ついたときには、そのことを自分のなかで認める。

そうした対応を日常のなかで少しずつ増やしていくことが、感情を抱え込みすぎずに働くための土台になります。

職場で感情を管理するとは、涙を見せない人間になることではなく、感情を抱えたままでも、自分の仕事や生活を守る方法を持てるようになることです。

泣いてしまったあとに必要なのは、失われた冷静さを取り戻そうと必死になることよりも、自分が何に傷つき、何を必要としていたのかを理解することかもしれません。

仕事への責任を果たすことと、自分の感情や身体を大切にすることは、両立できます。

職場で涙を流した経験を、自分の能力や価値を決める出来事として抱え続けるよりも、そこから何を理解し、これからどのような働き方を選んでいくのかを考えること。

その積み重ねが、感情を押し殺し続ける働き方から、自分の心身を守りながら仕事を続けられるあり方へとつながっていくのです。


参考文献

  1. Elsbach, K. D., & Bechky, B. A. (2018). How Observers Assess Women Who Cry in Professional Work Contexts. Academy of Management Discoveries, 4(2), 127–154.
  2. Boucher, C. (2016). A Qualitative Study of the Impact of Emotional Labour on Health Managers. The Qualitative Report, 21(11), 2148–2160.
  3. Bylsma, L. M., Croon, M. A., Vingerhoets, A. J. J. M., & Rottenberg, J. (2011). When and for whom does crying improve mood? A daily diary study of 1004 crying episodes. Journal of Research in Personality, 45(4), 385–392.
  4. Gračanin, A., Vingerhoets, A. J. J. M., Kardum, I., Zupčić, M., Šantek, M., & Šimić, M. (2015). Why crying does and sometimes does not seem to alleviate mood: A quasi-experimental study. Motivation and Emotion, 39, 953–960.
  5. Pittarello, A., et al. (2024). Women who cry to manipulate others face more backlash than men. Journal of Behavioral Decision Making.

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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