解離性障害とは、自分が自分であるという感覚が失われている状態を指します。この状態にある人は、まるで空想の繭の中に自分自身を包み込んで、外界の生々しい刺激から自分の身を守るような感覚を持ちます。しかし、頭と体と心がつながらない状態であるため、現実感がなく、ふわふわとした感覚があります。また、ある時期の記憶が全く思い出せないことがあったり、いつの間にか自分の知らない場所にいたり、もう一人の自分が話したり行動したりすることを眺めることがあったりなど、生活の様々な面で支障をきたしている状態です。
かつてヒステリーと呼ばれていた解離性障害は、古代ギリシャ語で「子宮」という意味を持つ言葉に由来します。当時、女性特有の疾患と誤解され、原因は子宮にあると信じられていました。解離性障害の人は、無意識のうちに外の世界に危険を感じ、複雑な情報処理を頭の中で行っています。脅威に直面すると、交感神経と背側迷走神経が活性化し、体が凍りつき、足元が不安定になり、自分が自分でいられなくなります。重度の解離性障害になると、生きていくことが怖くなり、不安に圧し潰されながら、慢性的なトラウマ状態に陥ります。彼らは、凍りつきや死んだふりの状態で生活しており、現実世界と異なる世界を行き来して、なんとか乗り切ろうとしています。酷い環境に居る場合、虚脱状態になり、強制収容所に囚われた人々の状態を描いたヴィクトール・フランクルの「夜と霧」に登場する人々のような状態になってしまうかもしれません。
解離性障害の特徴-21項目
解離性障害の人には、発達障害の傾向を持っている人もいますが、どこかで恐ろしい外傷体験に曝されて、体が固まって身動きが取れなくなってしまい、その後も同様の反応をしてしまうため、慢性的な外傷を受けることがあります。彼らの多くは、幼少期や児童期の頃から強い精神的ストレスを受けてきた経験があります。彼らは、潜在的な脅威に備えた生き方をしており、内臓や筋肉は危機や崩壊への不安が強く、脳に危険信号が送られ、頭の中で過剰な情報処理を行い、ネガティブな情報を選択しがちで、思考に支配されます。そのため、体は凍りついて感覚が麻痺し、今を感じられなくなることがあります。
病的な解離性障害は、過去に繰り返し脅かされたことで、身体の感覚を麻痺させ、感情を抑え、表に出ないように心を守るために発生します。そのため、解離性障害の人は、過去の出来事を知識として覚えていても、体感として記憶することができません。常に環境の変化に敏感に反応し、緊張状態にあり、凍りついたり、死んだふりをしたり、虚脱に陥ったりする防衛パターンを繰り返します。疲労やストレスが高まると、感覚が麻痺してぼんやりとした状態になり、集中力が低下し、ものすごい眠気に襲われるなど、自分を守るために何も感じられなくなります。脅威が去っても、体が凍りついたり、死んだふりをしたままの状態が続いたりすることがあり、楽しいや嬉しいなどの感情が理解できない、生きている実感が乏しいなどの症状が出ることがありますが、その背後には複雑な感情があることがあります。
トラウマの影響により、自律神経系の調整が上手く機能せず、周囲の状況に緊張し、交感神経が活性化しているときは、この世界に存在しており、刺激に圧倒されたり、感覚に溢れたりしています。一方、交感神経がシャットダウンすると、筋肉が極度に弛緩し、この世界から離れて、刺激が遮断されたり、感覚が鈍麻したりします。そして、意識がぼんやりとして夢と現実が曖昧になり、現実感が失われることがあります。
自己感覚の喪失
自分の体が自分のものではなく、感覚が麻痺していくと、実感が薄れ、何も感じることができなくなり、自分自身をよく理解できなくなってしまいます。自分の感情や言葉が自分自身のものではないように感じられ、物事を判断する能力を失い、周囲に流される生活を送らざるを得なくなります。何をしていいのか分からず、空虚な感覚に陥り、周囲の出来事を自分の経験として認識することができず、何も自分の経験として積み重ねることができません。重度になると、何もやる気が起こらず、生きているのか死んでいるのかも分からなくなり、生きている実感がなく、虚しさが広がります。
身体性の喪失
心と体が統合されず、自分の体や物に触れても感触がわからず、自分自身が人形のように感じられます。足が地面にしっかりとついている感覚がなく、フワフワとしていて、歩きにくいです。この状態は、身体の内部が空洞になり、皮膚や筋肉、内臓、関節、腱などの感覚がわからないために生じます。
気配過敏
誰もいない場所にいるときに、人の気配を感じたり、目に見えないものまでが見えたりすることがあります。常に警戒心が高いため、後ろに誰かいるかのような気配を感じたり、誰かに見られているような気がしたり、黒っぽい影が見えたりすることがあります。また、聴覚が過敏になって音に怯えたり、光がとても眩しかったり、匂いに耐えられなかったりすることがあります。夕方から夜にかけて気配が変わることに恐怖を感じたりすることもあります。
対人恐怖
解離性障害の人は、人間が脅威になっており、この世界が安心できなくて、耐えしのぐ方法でなんとか乗り切ろうとします。彼らは、人が多く集まる場所に行くことが苦手な傾向があり、不特定多数の人がいる電車に乗ることが怖いと感じたり、背後に来られるのが怖いと感じたり、人の視線や声、感情が怖いと感じます。人と接することで、自分が攻撃されたり追われたりするのではないかという強い恐怖心が湧き上がり、交感神経が活性化してしまいます。そのため、自己防衛のために、他者には近づかず、一人で過ごすことが多くなります。また、他者に頼ることを避けるため、自分で自分を守ろうとする傾向があります。
離人感
ストレスが強い場面では、解離性障害の人は、自分自身が現実から切り離され、自分を上から見下ろすような感覚に陥ります。自分が体とは別の存在として存在するように感じ、自分の行動や感情が自動的に動かされているかのような感覚を持ちます。この状態では、存在感がぼんやりしていき、現実世界から遠ざかっていくように感じられます。
現実感喪失
強いストレスや現実世界の生々しい刺激にさらされると、解離性障害の人は変性意識状態に入り、現実感が失われます。外の世界から自分が隔てられているように感じ、今ここにいるという現実感が薄れ、夢か現実か分からなくなってしまいます。夢の中が現実のようで、逆に現実が夢のように感じられることもあります。現実感が無くなると、感覚が麻痺してしまい、自分が生きていることを確認するために、自分の手首を切ることで現実感を確かめることもあります。
二重の自己
解離性障害の人は、過去に虐待、いじめ、性暴力などのトラウマを経験し、生きていくことがつらくなり、自分自身を切り離すような感覚に陥ります。そこで、もう一人の自分を作り出して、自分自身を遠くから観察するようにしています。この状態では、自分が別の人物のように感じられ、視点を変えることで自分を観察したり、自分自身について考えたりすることができます。このような状態では、自分自身が存在者としての私と、眼差しの視点の私の2つに分かれており、その間を行き来することができます。
体の明け渡し
解離症状には、人によって様々な種類がありますが、中には自分の体を明け渡し、もう一人の自分が生活しているように感じる人もいます。このもう一人の自分は、過去の経験に基づいて自動的に行動し、周りの人たちはその人を本人だと認識していますが、実際には本来の私が自分が自分で無くなりそうな不安と闘いながら苦しみ続けていることを知る者はほとんどいません。
解離性健忘
解離性障害の人は、幼少期に経験した出来事を思い出せなかったり、記憶喪失が起こることがあります。解離性健忘では、一定期間の記憶がなくなり、例えば、日常生活の出来事を覚えていなかったり、数分前にした行動を思い出せなかったりします。この状態になると、突然自分が別の場所にいたり、時間が過ぎていたりすることに気づきます。また、何をしていたかも思い出せないけども、体が疲れていたり、不安感を抱えていたりすることがあります。
時間感覚の障害
トラウマにより引き起こされるフラッシュバックにより、過去の出来事が再び思い出され、過去に戻ったかのような感覚に襲われます。この状態になると、時間感覚が混乱し、不快な感情に対処することができなくなります。自己意識が消失し、現実感が薄れると、時間の感覚も分からなくなってしまいます。このような状態に陥ると、現実世界から遠ざかってしまい、時間だけが過ぎていくように感じられ、現実に適応することができなくなってしまいます。
思考の混乱や幻聴
ストレスや危険に備えるため、脳内の情報処理が過剰になり、思考が勝手にグルグル回り、自分の中で混乱が生じます。自分が自分でなくなっていくと、自分の言葉が自分のものでなくなり、勝手に喋り始めたり、頭の中で別の声が話すようになります。思考の混乱から、自分自身をコントロールできなくなってしまうのです。
体感異常
長年に渡ってトラウマを抱えながら、凍りついた状態にロックされると、解消されないエネルギーが蓄積されます。何か嫌悪する刺激を受けると、頭や内臓に異物感が生じたり、手足に虫が這うような不快感が走ったりする体感異常が現れます。このような症状により、イライラや不安感が高まり、落ち着かなくなったり、立ち止まっていられなくなったりします。
原因不明の身体症状
嫌な出来事があると、呼吸が苦しくなり、思考力が低下し、発作が起こることがあります。また、神経が張りつめた状態から、エネルギーの消耗を減らすモードに入ると、筋肉が極端に緩み、血液が全身に循環しなくなり、茫然とした状態になります。この状態では、まばたきもできず、口が開いて、身体が動かなくなります。心身ともに無理をし続けると、自律神経系や免疫系の調整が崩れ、喘息、頭痛、腹痛、生理痛、めまい、吐き気、不快感、疼痛、発熱、過呼吸、パニック発作などの体調不良が生じることがあります。
身体機能が制限される
過度のストレスによって体が凍りついたり、虚脱状態に陥ると、身体の機能に制限がかかることがあります。その結果、突然声が出なくなったり、歩けなくなったり、聞こえなくなったり、視野が狭くなったり、どんよりとした視界になったり、立ち尽くしてしまったり、白目を向いて倒れそうになったりすることがあります。これらの症状は、一時的なものであり、体調が安定すると回復することがほとんどです。しかし、このような症状が頻繁に起きる場合は、医療機関で診察を受けることをおすすめします。
防衛的な意識が過剰
人から傷つけられることを恐れるため、防衛意識が過剰になり、悲惨な事態を常に想定するようになります。彼らは楽観的に構えることで、予期しないストレスを経験し、神経が損傷することを恐れています。そのため、サバイバルモードに入り、最悪のシナリオを常に考えることで、予期したストレスに対応するための準備ができ、ストレスや不安、神経の痛みを軽減しようと試みます。
死んだふりをして生きる
脅威から逃れるために人との接触を避け、自分自身を守ろうとする生き方をしています。彼らは人目につかないように、他者から隔離された場所に隠れたり、自分の居場所を密かに守るように生活しています。周りの人々とは距離を置き、常に冷静であり、状況をよく観察しています。彼らは自分自身を守るために、ある程度の孤立を選び、社会的なつながりを断ち切ることで、何とか乗り切ろうします。
希死念慮
解離症状や離人症状、死んだふり、虚脱の状態が長期間続くと、人生に救いがないと感じ、生きることにうんざりしてしまい、死ぬことが楽に感じられることがあります。この状態に陥ると、周りの人の支援や助けを受け入れることが難しくなり、自分自身が孤立してしまいがちです。
過剰な同調性
解離性障害の人は、他人に合わせて自分自身を変化させる同調傾向が強く、相手が求める自分になることで上手く立ち回ることができますが、同時に自分が簡単に入れ替わってしまう傾向があります。自分自身を表現することが難しく、その瞬間に必要な役割を演じるため、猫を被る自分のことが嫌いに感じることもあります。
過集中
解離性障害の人は、過度な外部刺激に対処するのが困難であるため、自分を保護するために、体の状態や周りの音や気配などの情報を遮断することで集中力を高めることができます。絵、音楽、詩、本、勉強、仕事、自然、宇宙、空想、想像など、さまざまなことに没頭することで、その世界に完全に没頭することができ、一つのことに熱中することができます。これにより、不安やストレスから解放され、自己を守りながら、自分自身を豊かに表現することができます。
空想に耽る
解離傾向を持つ人は、幼少期から空想上の友人を持つことがあります。現実世界での苦痛から逃れるため、一日中空想の世界に没頭することがあります。また、豊かな想像力を使って、絵画や文章、音楽などの芸術分野で才能を発揮する方もいます。しかし、解離が深刻な場合、脳が固まってしまい、想像することができなくなることもあります。
向こう側の世界
解離性障害を抱える人々の中には、現実世界から自己を切り離して、自分自身を別の世界に存在させることがあります。この世界は、現実世界の向こう側にあり、本来の自分自身はこの世界と一体化して過ごすことがあります。肉体から切り離されたことで、自分自身の輪郭が消失し、自己と他者の区別がない原初的な空間が広がり、その中で陶酔感に浸ることができます。
解離性障害の治療
解離症状が深刻な人は、自分の体が自分のものでないように感じたり、周りの世界と切り離されたり、体の反応が鈍かったり、感覚が麻痺していることがあります。解離性障害の治療では、現実世界で安全感を育み、自分が自分でいられるようになるためのリハビリが必要です。この治療の目的は、この世界とのつながりを取り戻し、自分が安心できる場所を見つけることです。治療では、ソマティックエクスペリエンスなどの体にアプローチする方法が有効であり、自分の体に注意を向け、無意識の解離や離人の流れに気づいていきます。以前は無意識に解離していましたが、今度は意識的に自分の体を観察することで、症状を少しずつコントロールできるようになります。
解離症状に苦しんでいる人々は、これまで自分の体の感覚を無視してきました。しかし、現実に向き合い、自分の体の感覚に寄り添うことで、震えや揺れ、チクチク感などが生じ、気力を取り戻していきます。同時に、脅威となるものに立ち向かい、勝利を手にするイメージを繰り返すことで、心身を強化します。体の凍りつきが解けると、手足の感覚が回復し、自分自身をよく理解できるようになり、落ち着いて話すことができるようになります。自分の心が体の中に戻ってくると、全体が自己のものになっていきます。
解離性障害の治療を進めることで、頭と体が繋がり、主体性や自己感が復活し、解離や離人感が消えるようになります。これにより、感情や感覚が自然に動き、本来の自分に近づくことができます。また、目の前の見え方が明確になり、体の感覚が改善され、心身が安定して過ごせるようになります。警戒心が和らぎ、人と関わることが少しずつできるようになります。以前は人の顔色しか見ていなかったが、自分に注意を向けることができ、物事に対する動揺が減少し、思い悩むことが少なくなります。さらに、動きたくない、何もしたくないと思っても、気持ちをすぐに切り替えることができるようになり、食欲も戻ります。自分を肯定できるようになると、嫌なことを思い出しても気にならなくなります。
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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2021-05-10
論考 井上陽平