心の傷が深すぎる人の消えない痛み、苦しいトラウマ

深い心の傷は、その痛みを言葉にすることが難しいものです。この痛みは、しばしば悲しみや不安、孤独感といった内面的な感情の形をとり、これらは人の目には見えないものの、心と身体の両方に深刻な影響を及ぼします。外から見れば、心の傷は繊細なものとして映るかもしれませんが、実際には、これらを抱える人々にとっては、毎日が耐え難い苦痛の連続であり、時には生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされることもあります。

この状況は、人間の精神の脆弱さと強さを同時に示しています。脆弱さとは、心の傷が容易に生じ、また容易に深まることを意味し、強さとは、それにもかかわらず生き続けようとする人間の不屈の意志を指します。

心の内部被爆: 目に見えない傷の影響

心の傷は、痛みに気づいてもらいたいという願いと、その痛みを隠したいという衝動がせめぎ合っている複雑な感情の渦を生みます。目に見える傷は、その存在が明確であるため、治療の道筋が見えることが多く、希望を持って取り除くことができることがあります。しかし、目に見えない心の傷は、自分自身でさえその全容を把握しきれず、どこにどれだけの深さの傷があるのかも分からないまま、じわじわと悪化していくことがあります。

この不可視の病は、たとえ体中を解剖しても姿形を見せず、逃げ回り、誰の手にも捕まらない幽霊のようなものです。その結果、心の傷は私たちの内側でずっと支配し続けることになり、心の平穏を奪っていきます。閉じ込められた痛みは、身体の内部から放射性物質のように放出され、絶えず我々自身を攻撃します。それは内部被爆、心の内部からの静かなる爆発です。その結果、我々は常に警戒心を持つことを余儀なくされ、心からの安息は訪れません。

痛みの身体、心の傷つき

トラウマは、心だけでなく身体にも深く影響を及ぼします。生活全般にわたる緊張と警戒心は、慢性的な疲労や疼痛の兆候を引き起こすことがあります。体は絶えず高まる緊張から逃れることなく、一日中、激しい苦しみとの戦いと和解を繰り返しています。その結果、身体は常に倦怠感と疲労感に襲われ、心身ともに重い負担を抱えています。

しかし、病院での検査結果は「異常なし」という言葉で報告されます。検査結果は身体の表面的な問題を示すものであり、深いトラウマによる心身の疲労を明確には捉えられません。医師からは気休め程度の点滴の実施を提案され、ビタミン剤を処方されます。そして、「疲れたら休んでください」という言葉を添えられ、病院から帰る道を辿るしかありません。

このような状況は、トラウマによる深刻な疲労と苦痛が、医療的な対応策だけでは十分に解消されないという現実を示しています。身体の疲労や疼痛は、トラウマと向き合い、それを克服するための長い旅路の一部であり、その過程で生じる困難を乗り越えることが求められます。

心の中に深い傷を持つ人に潜む過去の影

心の中に深い傷を持つ人たちは、彼らの繊細な感受性のゆえに、新たな傷を受けやすい立場にあります。小さな感情の変化や、言葉のニュアンス、突如変わる態度など、日常の細やかな出来事にも彼らの心は敏感に反応するのです。

とりわけ、強圧的な態度や、声を大にしての命令、乱暴な言葉の選び方、他者の感情を顧みない行動、あいまいな言葉の使い方、嘘や裏切り、そして突然の見放しは、彼らの心を深く傷つけることがあります。そうした反応の背後には、彼らが過去に経験した辛い記憶や心のトラウマが隠れており、それが彼らの敏感な反応を生む原因となっているのです。

解離という防衛機制

ユング派心理学のドナルド・カルシェッドの理論を借りると、人間は激しい痛みに直面した際、解離という防衛機制を用いて、その痛みを隠蔽し、表面上の穏やかさを維持する力を持っています。この複雑な心のプロセスは、我々が日常生活を続けることを可能にし、時として苦しみから一時的な避難所を提供します。

しかし、この防衛策は重大な代償を伴います。トラウマの残骸は、私たちの心の深部や身体の隅々に深く刻み込まれ、その痛みが広範囲に広がり、遂には否定的な形を取ることがあります。これは、心の痛みが肉体的な痛みや精神的な苦痛として現れ、他者との繋がりを阻害し、我々の生活に影響を及ぼすことを意味します。

この否定的な存在は、内的の世界につきまとい続けて、自動的に作動し、恐ろしい獣や魔女の姿で現れ、無邪気な部分を無慈悲にも攻撃します。解離は、非常に多くの攻撃性を内包しています。この攻撃は、心の一部から別の部分へと向けられ、まるで心の統一性が力により遮断されなければならないかのような状態を引き起こします。

この分裂は、極めて暴力的な状況を示しています。内的な世界が暴力で満たされる場所では、原始的な防衛機制も存在し、解離のエネルギーがこの攻撃性から生じることが明らかになっています。それはまるで、心の中に広がる無秩序な戦場のよう。そこでは、無垢な部分と否定的な部分が、絶えず戦いを続け、心の統一性を乱すのです。

傷つきやすさと保護者/迫害者

複雑なトラウマを経験し、解離症状を持つ人は、日々の生活の中で、自分自身の痛みと向き合いながらも、その苦しみを隠し、平常心を保って過ごすという難しさに直面しています。この隠された傷つきやすい部分は、身体の隅々で声を上げ、不安で心細くて、寂しくて苦しくて、誰かに助けを求めています。それはまるで、私たちの内部で痛みを感じる自分自身と、それを隠す自分自身が二つの異なる人格のように感じられます。

構造的解離を持つ人の心の奥底には、内的人格が存在しています。それは時に無慈悲な自己批判と自己虐待の形で、私たちを攻撃します。この内的人格は、無垢で純粋な部分が恥をかいて、これ以上傷つかないようにするために、激しく攻撃することで、私たちの内部世界を暴力的に分断しているかのように感じられます。

しかしながら、その攻撃性の裏側には、守護の意志が見え隠れします。それは、私たちの心の中に存在する断片的で傷つきやすい部分を守ろうとする本能的な試みであり、それがまるで鎧のように私たちを包み込んで、外部からの攻撃や傷つけられる可能性から我々を守ってくれます。

トラウマによって引き起こされる内側の戦い

心と心が交錯する長時間の厳しい戦いが、静かに始まっています。助けを求める悲痛な叫びは、魂が恐ろしい獣や魔女と化し、体の内外から隅々まで猛烈な攻撃を繰り返します。それは身体を掻き毟るような痛みで、その源は見えず、形を掴むことができません。それは自分自身からの攻撃、自己の獣化・魔女化した姿です。

見えない、つかめない痛みと対峙することになりますが、それから逃げることはできず、避けることもできません。ただ、痛みと苦しみに耐えるしかありません。心は悲痛と苦痛に覆われ、獣化した自己からの苦しめる叫びに耐えます。その声は拒絶できず、耳を塞いでも頭から離れません。

荒れ狂う心の海は、身体を焦がすような熱い痛みを伴います。苦しめる私と苦しめられる私が同時に存在し、その痛みを共有します。痛みは全身に広がり、微細な痙攣や不随意運動を引き起こします。全身が震え、飛び跳ね、転がり落ちるような動きになることもあります。

不安と恐怖が心を満たし、身体を小さく丸め、自己を抱きしめるようにして嵐が過ぎるのを待ちます。息も絶え絶えで、死にそうなほどの息苦しさを感じます。その恐怖の深度は、意識が朦朧とするほどです。

この戦いは、自己と自己との間で、隅から隅まで全身を覆います。それは獣のように荒々しく、しかし終わりは見えません。それは内側からの戦いであり、自分自身との闘いでもあります。そしてその戦いは、時に悲痛に満ち、時に恐怖に包まれ、自己の内部を揺さぶります。

痛みと攻撃性の精神

虐待やいじめ、性的な被害に遭った人々の心は、数え切れないほどのトラウマに引き裂かれます。その一つ一つが私たちの抵抗の象徴であり、痛みと戦う攻撃性の具現化となります。それらは、耐え抜く過程で私たちの心の中深くに密閉され、その悲痛の叫びが闘争の炎を燃やし、自己保護のエネルギーに変えます。

複雑なトラウマを経験した人々の心に潜んだ攻撃性は、残酷にも繰り返されるトラウマ体験によって増幅されます。それはまるで、虐待者との闘争を反映した、私たち自身のもう一つの顔と言えるでしょう。それぞれの体験が、この攻撃性の核をさらに強固で強大なものにしています。

身体の中に存在する攻撃性は、絶えず自己攻撃を続けるため、安息の時間を持つことができません。そして、その内部に封じ込められた、生き抜くための攻撃的な精神、人間の悪意によって養われた狂暴な獣は、時折、制御不能なほどに暴れだします。

その声は力強く、激しく、あたり一面を震わせます。その勢いは、全てを打ち破る嵐のようになり、我々はただその猛威を受け止めるしかありません。私たちの内部から生まれたこの攻撃性は、自己防衛と自己破壊の狭間で私たちを追い詰めます。

これは、自己保存と自己破壊のバランスの維持が難しい、繊細な状況を描写しています。心の中に潜む攻撃性は、一方では私たちを保護し、危険から守るための力となります。しかし、その力が過剰になり制御不能となると、逆に自己に向けられ、自己破壊的な行動を引き起こすこともあります。

そのため、私たちが自身の内部に存在する攻撃性と向き合い、それを理解し、コントロールすることは非常に重要です。その過程は困難かもしれませんが、それによって初めて、自己破壊的な行動から自由になり、自己保護の力を適切に活用することが可能となります。また、その過程を通じて、私たちは自分自身をより深く理解し、成長することができます。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-05-13
論考 井上陽平