黒い守護者とトラウマの防衛システム|内なる悪魔は、傷ついた魂を守るために生まれた

黒い守護神 解離・解離性障害

弱さを見せれば生き残れない世界で、傷ついた魂に代わって強さを引き受ける存在が生まれることがあります。その存在は、危険を見張り、痛みを記憶し、「二度と同じ目に遭わせない」と心の内側から本人を守ろうとします。

ここでは、その存在を「黒い守護者」と呼びます。

黒い守護者は、最初から冷酷だったわけではありません。泣くことも、怯えることも、助けを求めることも許されなかったとき、傷つきやすい心を奥へ隠し、その柔らかな部分を守るために生まれた存在です。

ところが、幼い頃に作られた防衛は、過去の時間を基準に働き続けます。かつて危険だった世界を、今も危険な場所として捉え、優しさの中に罠を感じ、親密さを侵入のように受け取り、弱音を敗北だと判断します。

そのため、誰かに委ねる前に関係を切り、傷つけられる前に相手を突き放し、期待して壊れるくらいなら、最初から何も望まないようにします。

臨床心理学の視点では、こうした反応は、トラウマによって形成された防衛システムや、解離された自己状態として理解できます。

トラウマを抱えた心には、日常をこなす自分、恐怖の中で凍りついた子どもの自分、怒りによって相手を遠ざける自分、感情を閉ざして何も感じないようにする自分など、複数の自己状態が残ることがあります。

そこには、弱さを見つけるたびに厳しい言葉を向ける黒い守護者もいます。

それぞれの部分は別々に見えても、同じ生命を守るために生まれました。心が壊れた結果というより、壊れずに生き延びるため、心の内側で役割を分けてきたのです。

この仕組みは、解離と防衛反応についての記事や、トラウマによる自己の分裂についての記事ともつながります。

黒い守護者は、なぜ自分を攻撃するのか

カルシェッドの視点では、黒い守護者は、傷つきやすい魂を守るために現れる強い防衛の力として捉えられます。

その力は、外からの危険を防ぐだけでなく、本人の中に残っている無垢さや依存心、愛されたい願いまで危険なものとして扱います。

「期待するな」
「甘えるな」
「信じるな」
「弱くなるな」
「どうせ裏切られる」

その声は厳しく聞こえます。しかし、その奥には、もう二度と見捨てられたくない、あの頃のような無力な自分に戻りたくないという切実な思いがあります。

黒い守護者は本人を苦しめながら、同時に本人を守ろうとしています。

守るために作られた力が強くなりすぎると、人を信じたい気持ちや、誰かに甘えたい願い、安心してつながりたい思いまで抑え込まれます。

傷つきたくない。裏切られたくない。期待した末に壊れたくない。あのときのように何もできない自分へ戻りたくない。

その思いが強いほど、黒い守護者は外の世界だけでなく、自分自身にも刃を向けます。

この内的な防衛については、ドナルド・カルシェッドとトラウマの防衛についての記事でも詳しく扱っています。

魂の奥に閉じ込められた野生の力

マリオン・ウッドマンやエステスの深層心理学的な考え方を借りれば、黒い守護者が抱えている力は、魂の奥へ閉じ込められた野生の力ともいえます。

本来なら、生命力、怒り、直感、境界感覚、創造性として流れるはずだったものが、愛されるために抑え込まれ、生き延びるために形を変え、やがて硬く攻撃的な姿で現れます。

怒りは、「これ以上入ってこないでほしい」と知らせる境界の力です。直感は、危険を見分ける感覚であり、強さは、自分の命と尊厳を守るための力です。

しかし、怒ることも、拒むことも、自分の感覚を信じることも許されなかった人の中では、その力が自然に流れません。

抑え込まれた力は心の奥へ沈み、長い時間をかけて黒く硬い形へ変わります。それでも、その力の中心には、傷ついた魂を守りたいという目的が残っています。

黒い守護者は、誰よりも長く痛みを覚え、危険の気配を知り、守られなかった幼い心のそばに立ち続けてきました。

それは乱暴な敵というより、傷の記憶を抱えた番人です。ただ、長く一人で戦ってきたため、穏やかな守り方を身につける機会がなかったのです。

黒い守護者に問いかける

あなたの警戒が強くなると、私は人を信じられなくなり、安心や喜びから遠ざかっていく。

誰かに近づこうとすると、あなたは危険を知らせ、弱さを見せようとすると、そんな姿を見せるなと私を責める。少し安心しかけるたびに、あなたは過去を思い出し、再び刃を握る。

あなたが怒るたび、私は人とのつながりを失い、あなたが疑うたびに、安心できる場所が狭くなっていく。

それでも、あなたがここまで私を守ってきたことを、私は知っている。

あなたは、誰も来てくれなかった夜に生まれた。泣いても届かないと知った日に涙を止め、助けを求めても傷つくだけだと感じた日に、心の扉を閉じた。

弱さを見せれば踏みにじられると知った日に、幼い私に代わって強さを引き受けた。

あなたは私を壊そうとしたのではなく、私が壊れずに生き続けられるように、傷つける側の力まで引き受けた。

あの頃の私は、逃げることも、助けを呼ぶことも、自分の言葉で拒むこともできなかった。誰かに守ってほしいと願うことさえ難しかった。

けれど、今の私は少しずつ選べる。

人に近づくことも、距離を取ることもできる。黙ることも、話すこともできる。誰かに頼ることも、一人で休むこともできる。傷ついたときには、その痛みに気づき、自分を手当てすることもできる。

だから、あなたが握っている刃を、すぐに手放さなくてもいい。

ただ、その刃を私の胸へ向け続ける必要はない。外のすべてを敵として切り離さなくてもいい。愛されたい気持ちまで危険なものとして閉じ込めなくてもいい。

あなたが守ってきた幼い心を、これからは今の私も一緒に守っていく。

回復とは、刃の役割を変えていくこと

回復とは、複数の自己状態を無理に一つへまとめることではなく、それぞれの部分のあいだに今の自分が立ち、互いの声を聞けるようになることです。

黒い守護者を消すのではなく、その力を現在に合った形へ置き直していきます。

「お前が弱いからだ」と責める声の奥には、「もう傷ついてほしくない」という思いがあります。

「誰も信じるな」という警告の奥には、助けを求めても誰も来なかった記憶があります。

「甘えるな」という命令の奥には、甘えたかったのに受け止めてもらえなかった悲しみがあります。

「期待するな」という言葉の奥には、期待した末に傷ついた子どもがいます。

回復の始まりは、その声を押さえ込むことではなく、その声が守っている痛みに気づくことです。

黒い守護者の言葉をそのまま信じる必要はありません。しかし、その声が何を恐れ、何を守ろうとしているのかを聞くことはできます。

怒りは、すべてを壊すための力から、自分の境界を知らせる力へ変わります。疑いは、誰も信じないためのものから、相手を慎重に見極める力へ変わります。冷たさは、愛を閉ざすための壁から、自分を守る適切な距離感へ変わっていきます。

黒い守護者が握っていた力は、境界、判断、自己保護の力として使い直すことができます。

そのとき、心の中の暗い部分は、長いあいだ傷を背負い、幼い魂を守ってきた存在として、新しい役割を持ちはじめます。

黒い守護者も、今の自分とともに歩き、自分の尊厳を守る力へと変わっていけます。

この過程は、トラウマからの回復についての記事とも深く関係しています。

まとめ

黒い守護者は、傷ついた魂を守るために生まれたトラウマの防衛システムです。

幼い頃に必要だった防衛が過去の時間を基準に働き続けると、人を信じたい気持ちや、愛されたい願い、安心して誰かとつながる力まで抑え込まれます。

そのため回復では、黒い守護者を追い出すのではなく、その声の奥にある痛みを理解し、役割を変えていきます。

「甘えるな」の奥にいる、甘えたかった子ども。「信じるな」の奥に残る、誰も来てくれなかった記憶。「期待するな」の奥にある、期待した末に壊れた痛み。

それらに今の自分が寄り添えるようになると、黒い守護者も少しずつ変わります。

自分を傷つける存在から、境界を守る存在へ。孤独に戦い続ける存在から、今の自分とともに生きる存在へ。

トラウマからの回復とは、心の暗い部分を切り捨てることではなく、そこに閉じ込められていた生命力を、自分の人生を守る力として取り戻していく過程です。

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執筆者 / 監修者
井上陽平
公認心理師・臨床心理学修士

保有資格

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士

臨床経験

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

専門領域

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
解離・解離性障害
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