好意を向けられると気持ち悪い・逃げたくなる心理|親密さが怖くなる理由と、距離を選び直すために

好意をもたれると苦しくなる 対人関係の悩み

※本稿には、親子関係、性被害、身体的な接触に関する記述が含まれます。読み進める中で強い不安や身体の緊張が生じる場合には、無理をせず、落ち着ける場所で休むことを優先してください。

それまでは自然に話せていた相手なのに、好意を告げられた途端、急に会いたくなくなる。昨日まで楽しかったLINEも、相手から「会いたい」「好きだよ」という言葉が届くようになると、返信することが負担になってしまう。相手を嫌っていたわけではないのに、距離を縮められることに気持ち悪さを覚え、自分でもどうしてこんな反応になるのか分からなくなることがあります。

特に、恋愛関係になった瞬間から、相手の表情や行動が以前とは違って見える場合があります。自分に向けられる視線が気になり、手をつなごうとされると身体がこわばる。優しい言葉をかけられても、嬉しさよりも居心地の悪さが強くなり、できれば一人になりたいと感じることもあるでしょう。

好意を向けられると気持ち悪い、相手から好きになられると冷める、親しくなるほど逃げたくなる。こうした反応には、さまざまな心理が関係しています。

相手への恋愛感情がなかったことに気づく場合もあれば、好意を受け取ることで、自分の自由や生活が奪われるように感じる場合もあります。また、過去の親子関係や恋愛経験の中で、優しさの後に要求や支配が続いた人は、好意そのものを負担として受け取ることがあります。

誰かから好かれることは、必ずしも本人にとって心地よい経験とは限りません。相手の気持ちが近づいてくることで、自分の望んでいない関係へ進んでしまいそうな不安が生じることもあります。

ここで大切なのは、好意を受け取れない自分を責めるよりも、相手から好かれた瞬間に、自分の内側で何が起きているのかを理解することです。

この記事では、好意に嫌悪感を抱く心理、親子関係や愛着の影響、恋愛や身体的な接触への恐怖、性被害後の反応、そして自分に合った距離を選び直すための方法について解説します。

好意が負担になるとき、心の中で起きていること

人から好意を向けられたとき、その気持ちを嬉しいものとして受け取れる場合もあれば、相手の期待に応えなければならないという負担が先に生じる場合もあります。

例えば、職場の同僚から親切にされ、仕事の相談にも乗ってもらっていたとします。最初は頼れる相手だと感じていたのに、個人的な連絡が増え、休日にも会いたいと言われるようになると、急に気持ちが重くなることがあります。

相手に悪意があるとは思っていなくても、返事をしなければならない、誘いを断ったら傷つけてしまうかもしれない、期待に応えなければ関係が悪くなるのではないかと考えるようになるのです。

その結果、以前は自然にできていた会話にも緊張が生じ、相手と目を合わせることや、同じ空間で過ごすことさえ負担になってしまう場合があります。

特に、周囲の期待を優先してきた人は、相手が自分を好きだと分かった瞬間から、その気持ちをどう扱えばよいのか考え続けることがあります。

相手を傷つけたくないという気持ちが強いほど、自分が本当はどうしたいのかを確かめる余裕がなくなります。そして、好意を返すことも、断ることも難しくなり、その関係から離れることが唯一の解決方法のように感じられることがあります。

心理学では、成人の愛着と親密な関係におけるストレス反応について研究が行われています。SimpsonとRholes(2017)は、愛着不安や愛着回避の傾向によって、恋愛関係でストレスを感じたときの感情調整や対人行動が異なることを整理しています。

親密な関係で距離を取りたくなる反応には、愛着回避が関係している場合があります。ただし、好意を向けられると気持ち悪くなる人のすべてが回避型の愛着を持っているわけではありません。

相手との相性や現在の関係、性的・恋愛的な関心の有無も含めて、何が負担になっているのかを考えることが大切です。

また、優しくされることでかえって警戒が強くなる心理については、安心できない人の心理と身体|落ち着くほど苦しくなる理由と回復の道でも詳しく扱っています。

親からの抱擁や愛情表現に戸惑う理由

子どもにとって親からの抱擁や愛情表現は、安心や親しさを感じる経験になり得ます。しかし、その触れ合いがどのような状況で行われていたかによって、子どもの受け取り方は大きく変わります。

例えば、子どもが寂しくて親へ近づいたときには突き放されるのに、親が機嫌のよいときだけ突然抱きしめられる。子どもが嫌がっていても、親が愛情表現として身体に触れ続ける。親の不安や寂しさを満たすために、子どもが抱きつくことを求められる場合もあります。

そのような関係では、触れ合うことが、子ども自身の安心や喜びと結びつきにくくなることがあります。

親が抱きしめてくれているのに、なぜか落ち着かない。親のことを嫌いではないのに、急に身体へ触れられると嫌悪感が生じる。親から愛情を示されたとき、自分も喜ばなければならないように感じることがあります。

特に、親の機嫌によって愛情表現が変わる家庭では、子どもは親が何を求めているのかを先に考えるようになる場合があります。

抱きしめられたら喜ばなければならない。親が寂しそうなら、そばにいてあげなければならない。自分は触れられたくなくても、拒否すると親が傷ついたり、怒ったりするかもしれない。

こうして、身体的な接触に自分の意思よりも相手の感情が優先される経験が重なると、大人になってからも、親密な関係の中で同じような負担を感じることがあります。

Assor、Roth、Deci(2004)は、親の期待に応じたときにだけ愛情や承認が与えられる「条件付きの関心・愛情」が、内面的な義務感や不安定な自己評価などと関連することを報告しています。

この研究が身体的な接触への嫌悪を直接説明しているわけではありませんが、愛情が相手の期待に応えることと結びついていると、好意を受け取ることにも心理的な負担が生じ得るという理解につながります。

親から愛情を示されたときにどう感じたか、嫌なときに断ることができたか、触れられることを自分で選べたか。そのような経験を振り返ることが、現在の親密さへの戸惑いを理解する手がかりになる場合があります。

褒め言葉や優しい言葉を受け取れないとき

「すごいね」「助かったよ」「あなたと一緒にいると安心する」と言われたとき、嬉しさよりも先に気まずさを感じることがあります。

褒められた瞬間、相手が何を期待しているのか気になり、次も同じようにできなければならないと思う。感謝されても素直に受け取れず、「そんなことはないです」と急いで否定したり、話題を変えたりする場合もあります。

こうした反応は、幼い頃から評価や愛情を条件付きで受け取ってきた経験と関係している場合があります。

例えば、学校で良い成績を取ったときだけ親から褒められ、失敗すると冷たくされた経験があれば、褒められることは次の期待が生まれる瞬間でもあります。

誰かに認められることが、安心よりも責任や緊張につながるのです。

恋愛でも同じようなことが起こります。恋人から「一緒にいると幸せ」と言われたとき、相手を幸せにし続けなければならないと感じる。優しくされるほど、その期待を裏切ったときのことが怖くなり、次第に距離を取りたくなる場合があります。

また、褒め言葉が自分の自己評価と大きく異なる場合には、受け取ること自体に違和感が生じることもあります。

自分では価値がないと思っているのに、相手が素晴らしい人だと言ってくれる。その言葉を信じたい気持ちはあっても、そんなふうに思われるほどの人間ではないと感じ、相手からの評価を負担にしてしまうことがあります。

好意を向けられたときに苦しくなる背景には、相手からの評価に見合う自分でいなければならないという思い込みが関係している場合もあるのです。

思春期に、好意や恋愛が怖くなることがある

思春期には、身体の変化とともに、他者からの視線や恋愛的な関心を意識する機会が増えていきます。

昨日まで普通に話していた同級生から告白され、急に相手の顔を見られなくなる。友人としては好きだった相手なのに、恋愛感情を向けられた瞬間、同じ距離で接することが難しくなる場合があります。

その戸惑いには、恋愛経験の少なさだけでなく、自分が他者から恋愛や性的な対象として見られることへの抵抗が関わっている場合もあります。

例えば、教室で誰かから好意を持たれていると知らされると、周囲の視線が気になり始める。相手から近づかれるだけで緊張し、友人たちに二人の関係をからかわれることが苦痛になる場合もあるでしょう。

相手の気持ちへどう応えればよいのか分からないまま、周囲から恋愛関係になることを期待されると、自分の気持ちを整理する前に強い負担を感じることがあります。

また、恋愛や性的な関心のあり方には個人差があります。誰かに好意を向けられたからといって、同じような恋愛感情や身体的な親密さへの欲求が生じるとは限りません。

恋愛関係を望まないことや、身体的な接触を好まないこと自体は、心理的な問題を意味するものではありません。

思春期に大切なのは、周囲の期待に合わせて恋愛を始めることよりも、自分がどのような関係を望み、どこまでの親密さなら心地よいのかを理解していくことです。

性被害の後、好意や接触が恐怖につながるとき

性暴力や、本人が望まない身体的な接触を経験した後には、他人から近づかれることや、身体へ触れられることに強い恐怖が生じる場合があります。

例えば、恋人に抱きしめられそうになった瞬間、身体が硬くなり、息が詰まるように感じることがあります。相手が信頼できる人であっても、手首をつかまれたり、突然身体へ触れられたりすると、過去の経験と結びついた恐怖が現れる場合もあります。

また、被害が親しい相手から起きた場合には、優しい言葉や愛情表現そのものが、過去の苦しい経験を思い出させることもあります。

加害的な関係の中で「好きだから」「愛しているから」と言われながら、本人の意思を無視された経験があれば、同じような言葉を聞くだけで警戒が強まる場合があります。

Dworkinら(2017)は、性被害と精神的健康の関連を扱った多数の研究を統合し、性被害の経験がPTSDをはじめとするさまざまな心理的困難と関連していることを報告しています。

ただし、被害後の反応には大きな個人差があり、すべての人が身体的な接触への恐怖を経験するわけではありません。

特に重要なのは、好意を向けられたことと、身体的な接触へ同意することは別だという点です。

相手を好きだと思っていても、触れられたくないと感じることがあります。以前は受け入れていた接触でも、その日の体調や気持ちによって嫌になる場合があります。

また、強い恐怖の中で身体が固まり、拒否する言葉が出なかったとしても、それは接触への同意を意味しません。

性被害後の回復では、自分が望んでいることや望んでいないことを、少しずつ確かめられるようになることが大切です。

相手を信頼するために、身体的な接触を急いで受け入れる必要はありません。自分の身体へ誰が、いつ、どのように触れるのかを選べることが、安心して人と関わるための重要な土台になります。

好意を向けられると、逃げたくなる理由

好意を持たれると逃げたくなる心理には、相手への気持ちが冷める場合と、関係が近づくことに恐怖が生じる場合があります。

例えば、遠くから憧れていた相手が、自分に好意を持っていると分かった途端、急に気持ちが変わることがあります。

以前は相手から連絡が来ることを楽しみにしていたのに、恋愛関係になれると分かった瞬間、会うことが面倒に感じられる。優しくされても嬉しさがなくなり、相手の何気ない行動まで気持ち悪く感じてしまう場合があります。

こうした現象は、一般に「蛙化現象」と呼ばれることがあります。

蛙化現象と、親密さへの恐怖の違い

蛙化現象という言葉は、もともと、自分が好意を持っていた相手から好意を向けられた途端、その相手に嫌悪感が生じる現象を指して使われてきました。

日本では、吉田ら(2020)が、恋愛における蛙化現象の経験や困難感について検討しています。

ただし、近年は、相手の些細な行動を見て気持ちが冷めることにも、この言葉が広く使われています。恋愛感情が冷める理由は一つではなく、必ずしもトラウマや愛着の問題があるとは限りません。

一方、親密さそのものに強い恐怖がある場合には、相手に好意を持ち続けていても、距離が近づくほど逃げたくなることがあります。

相手のことは好きなのに、毎日連絡を求められると苦しくなる。会いたいと思っていたのに、実際に会う約束が決まると不安になる。抱きしめてほしい気持ちがありながら、触れられそうになると身体がこわばる場合もあります。

このとき本人が怖れているのは、相手を好きになることそのものより、親しくなった後に起こるかもしれない変化である場合があります。

自分の生活へ踏み込まれることが怖いのか。期待に応え続けることが負担なのか。身体的な接触が苦しいのか。それとも、自分の内面を知られることで、いつか傷つくのではないかと感じているのか。

そうした違いを理解することで、逃げたくなる理由が少しずつ見えてきます。

愛着回避の傾向が強い場合には、親密さが増す場面で、感情的な距離を取ることで落ち着こうとすることがあります。

一方で、相手が実際に頻繁な連絡を要求したり、断っても誘い続けたりする場合には、その距離の取り方に違和感を覚えることにも理由があります。

自分の反応をすべて愛着の問題として捉えるより、現在の関係で何が起きているのかを確かめることが大切です。

好意を受け取ることは、期待に従うこととは違う

人から好意を向けられると、その気持ちをどう扱えばよいのか分からなくなることがあります。

相手が自分を好きだと言ってくれるなら、同じように応えた方がよいのではないか。親切にしてもらったのだから、誘いを断るのは失礼なのではないか。そうした考えが強くなると、相手の気持ちと自分の希望を分けることが難しくなります。

例えば、恋愛感情のない相手から何度も食事へ誘われ、断ることに罪悪感を覚える場合があります。

相手を傷つけたくないために誘いへ応じ続けていると、相手は関係が進展していると受け取るかもしれません。その結果、さらに親密さを求められ、本人はますます苦しくなってしまいます。

こうした関係では、相手の気持ちを尊重することと、自分の意思を伝えることの両方が必要になります。

好意を向けられたからといって、恋愛感情を返す義務が生じるわけではありません。また、交際している相手であっても、連絡する頻度や会う回数、身体的な接触について、自分の希望を持つことができます。

相手との関係を大切にしながら、自分の希望を伝えるには、具体的な言葉が役立つ場合があります。

「連絡は毎日より、少しゆっくりしたペースの方が落ち着く」「まだ恋愛関係になるかどうか考えたい」「突然触れられるのは苦手だから、先に聞いてほしい」

こうした言葉は、相手を拒絶するためだけでなく、自分がどのような関係なら安心できるのかを知らせるためにも使えます。

また、断った後に相手が不機嫌になったとしても、相手の感情をすべて自分が引き受ける必要はありません。

自分の身体や気持ちについて、どこまで受け入れ、どこから断るのかを決められることは、親密な関係においても大切な権利です。

境界線を伝えたときに、相手がその意思を尊重してくれるかどうかも、安心できる関係を考えるための重要な手がかりになります。

好意を受け取る力は、安心を経験する中で育つ

好意を向けられると緊張したり、逃げたくなったりする場合には、無理に親密な関係へ慣れようとするよりも、自分がどのような距離なら安心できるのかを知ることが大切です。

例えば、相手から毎日の連絡を求められると苦しくなるのであれば、連絡の頻度を調整することができます。長時間一緒にいると疲れてしまうなら、短い時間だけ会うことから始めてもよいでしょう。

また、向かい合って感情を詳しく話すことには抵抗があっても、一緒に散歩したり、共通の趣味を楽しんだりする時間には安心を感じる場合があります。

親密さの感じ方や、心地よい距離には個人差があります。

大切なのは、一般的な恋愛関係の形へ自分を合わせることより、自分が望んでいる関係を少しずつ理解していくことです。

特に、過去に相手の機嫌を優先してきた人は、自分の希望を伝えることに強い不安を感じる場合があります。

嫌だと言えば嫌われる。会いたくないと伝えれば関係が終わる。そうした恐怖があると、相手の期待に応え続けるか、突然関係を断つかという極端な選択になりやすくなります。

しかし、実際には、その間にもさまざまな距離の取り方があります。

今日は一人で過ごしたいと伝え、後日また会う。連絡が負担になっていることを話し合い、互いに無理のない頻度を決める。身体的な接触が苦しいときには、その理由を詳しく説明しなくても、今は触れられたくないと伝えることができます。

そのような希望を相手が尊重してくれると、自分の意思を表現しても関係がすぐに壊れるわけではないと経験できる場合があります。

また、相手からの好意を受け取ることが怖い人は、優しくされた後に何かを要求されるのではないかと身構えることがあります。

その場合には、親切にされたことを感謝しながらも、相手の希望にすべて応える必要はないという経験が役立つことがあります。

関係を深めることを急がず、自分が安心できる距離を確かめながら、信頼できる人との関わりを少しずつ育てていくことが大切です。

カウンセリングで扱えること

好意を向けられると気持ち悪くなる、恋愛感情を示されると急に逃げたくなる、身体的な接触に強い抵抗があるといった悩みは、その背景によって必要な支援が異なります。

例えば、恋愛関係になることで相手の期待に応えなければならないと感じている場合には、自分の希望と相手の感情を分けて考えることが重要になります。

相手へ好意を返さなければならないという義務感がどこから生じているのか、断ったときに何を恐れているのかを整理していきます。

一方、誰かに近づかれると身体がこわばり、吐き気や強い恐怖、現実感の低下などが生じる場合には、現在の身体反応や過去の経験を丁寧に確認する必要があります。

例えば、恋人から抱きしめられそうになったとき、胸が苦しくなり、身体が固まるのであれば、その瞬間に何を感じているのかを、本人が無理なく話せる範囲で整理していきます。

触れられることそのものが怖いのか。相手から逃げられなくなることが怖いのか。それとも、過去の嫌な体験が重なっているのか。そうした違いを理解することが、支援の方向性を考える手がかりになります。

ただし、トラウマ体験がある場合でも、最初から過去の出来事を詳しく語ることが必要とは限りません。

まずは現在の生活で安全を確保し、身体の緊張や不安を調整する方法を考えることが役立つ場合があります。

PTSDが認められる場合には、トラウマに焦点を当てた認知行動療法やEMDRなど、効果が確認されている治療法が選択肢になります。英国NICEのPTSD診療指針でも、本人の症状や希望に応じた専門的な心理療法が推奨されています。

一方で、恋愛感情や身体的な接触への関心が少ないこと自体を、治療によって変える必要があるとは限りません。

カウンセリングで大切なのは、本人が何に困り、どのような関係を望んでいるのかを確認することです。

好意を受け取れるようになることだけを目標にするより、相手に近づきたいのか、距離を置きたいのか、自分の気持ちに沿って選べるようになることが重要になります。

まとめ

好意を向けられると気持ち悪くなる、親しくなるほど逃げたくなるという反応には、さまざまな背景があります。

恋愛感情がない相手から好かれたことで戸惑う場合もあれば、好意を向けられることが、相手の期待に応え続けなければならないという圧力につながる場合もあります。

また、幼少期に条件付きの愛情を経験してきた人や、親密な関係の中で傷ついた経験がある人は、誰かから大切にされること自体に警戒を感じる場合があります。

性被害や望まない身体的な接触を経験している場合には、現在の相手が信頼できる人であっても、身体へ触れられることに強い恐怖が現れることがあります。

そのようなときには、相手の好意へ無理に応えようとするよりも、自分が何に苦しさを感じ、どのような距離を望んでいるのかを理解することが大切です。

好意を向けられたからといって、恋愛感情を返す必要はありません。誰かを大切に思っていても、身体的な接触を望まないことがあります。また、親しい関係を続けながら、自分だけの時間や生活を守ることもできます。

過去に、自分の気持ちを伝えることが難しい環境で育ってきた人にとって、相手の期待と自分の希望を分けることは、簡単ではないかもしれません。

それでも、会うかどうかを自分で決める。連絡の頻度を調整する。触れられたくないときには、その意思を伝える。自分の希望を相手が尊重してくれる経験を重ねることで、親密さに対する感じ方が変化していく場合があります。

回復とは、誰からの好意も喜んで受け取れるようになることではなく、自分の気持ちを理解し、望む関係と距離を選べるようになることです。

人とつながりたい気持ちがあるなら、その気持ちを大切にしてよいでしょう。一人で過ごしたいと感じるときには、その希望も尊重することができます。

相手の好意によって関係の形が決まるのではなく、自分がどのように関わりたいのかを確かめながら、少しずつ関係を育てていく。

その選択ができるようになることが、親密さへの恐怖を和らげ、自分らしく人と関わるための土台になっていきます。

参考文献

  1. Simpson, J. A., & Rholes, W. S.(2017). Adult Attachment, Stress, and Romantic Relationships. Current Opinion in Psychology, 13, 19–24.
    成人の愛着不安・愛着回避と、恋愛関係におけるストレスへの反応を整理した論文。
  2. Assor, A., Roth, G., & Deci, E. L.(2004). The Emotional Costs of Parents’ Conditional Regard: A Self-Determination Theory Analysis. Journal of Personality, 72(1), 47–88.
    親から条件付きで与えられる愛情や承認と、義務感、自己評価の変動などとの関連を検討した研究。
  3. Dworkin, E. R., Menon, S. V., Bystrynski, J., & Allen, N. E.(2017). Sexual Assault Victimization and Psychopathology: A Review and Meta-analysis. Clinical Psychology Review, 56, 65–81.
    性被害の経験とPTSDなどの心理的な困難との関連を統合したメタ分析。
  4. 吉田光成・下斗米淳・山田茉奈井(2020). 向けられた好意を拒絶することは苦しいことなのか?(1)―恋愛における「蛙化現象」の実存性と体験された困難さの定量的検討―. 日本教育心理学会第62回総会発表論文集。
    好意を向けられた途端に嫌悪感が生じる現象と、その体験に伴う困難さを検討した大会発表。
  5. National Institute for Health and Care Excellence(NICE)(2018). Post-traumatic Stress Disorder(NG116).
    PTSDに対するトラウマ焦点化認知行動療法やEMDRなどの治療に関する診療指針。

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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