解離性健忘の体験談や症例、チェック項目

解離性健忘症は、記憶喪失の一種で、心がトラウマやストレスに反応して起こる障害です。この状態では、個人に関する重要な情報への記憶アクセスが遮断されるため、通常の忘れることとは異なる特別な種類の「記憶のギャップ」が生じます。この障害の主な原因は、心が不快な経験やトラウマから個人を守るために記憶をブロックすることにあります。記憶自体は消失しているわけではなく、むしろそれにアクセスすることが難しくなっているのです。

解離性障害と記憶の断片

解離性障害に苦しむ人々は、しばしば記憶に関して特有の困難に直面します。この障害では、特定の出来事や経験に関する記憶が部分的に、あるいは完全に欠落することがあります。この現象は特に、感情的に負荷が高く、心理的に苦痛を伴う出来事の際に顕著に現れます。

例えば、ストレスやトラウマに満ちた出来事があった場合、その出来事の詳細を全て正確に覚えていることが困難になります。この際、関連する出来事の一部の情景だけが断片的に記憶されるか、完全に忘れ去られることもあります。重要なのは、これに伴う身体的な痛みや強いネガティブな感情も同様に記憶から失われることが多いという点です。

この記憶の喪失は、心が過剰なストレスやトラウマから自己を守るための無意識の防衛機制として機能すると考えられています。心は、辛い経験を直面することから避けるために、その記憶を抑制または排除することがあります。しかし、この過程で、解離症状を持つ人々は自己の過去や経験の全体像を完全に理解することが難しくなり、自己同一性や現実感に大きな影響を及ぼすことがあります。

断裂された自己: トラウマの永続的な影響

解離性障害に苦しむ人々は、生まれながらに繊細で傷つきやすい性質を持っていることが多く、身体の中には深いトラウマが刻まれています。これらのトラウマは、本来の自己とは逆行する人生を歩むことを強いられる原因となっています。彼らは幼少期から人間関係の困難さに悩み、緊張を強いられ、居場所を見つけられない経験をしてきました。性暴力や虐待の被害者であることが多く、これが彼らのトラウマの源となっています。

長期間にわたるストレスと神経の張り詰めが、身体に慢性的な緊張をもたらします。身体の深部は硬く凍りつき、手足の末端は麻痺し、冷たくなっています。このような身体的状態は、自分の身体に対する深い不安を引き起こし、外部環境に対しても過敏に反応するようになります。人の目や評価を気にし、人に傷つけられる恐れが強まります。人込みの中では情報処理ができず、パニック状態に陥ることもあります。

これらの状況は、しばしばトラウマティックな身体感覚から逃れるために、頭の中の空想の世界へ飛んでしまうことにつながります。この空想の逃避行動中には、その間の記憶が失われることが多いのです。解離の症状が顕著に現れるようになり、現実の世界と自分自身の認識との間にギャップが生じます。

迷いの中の自己: 解離性健忘と複数人格のはざまで

解離性健忘は、特定の期間の記憶が完全に欠如する状態です。日常の記憶が抜け落ち、数分前に行った行動すら思い出せないことがあります。この現象は、通常、非常に強いストレスや耐え難い痛みを経験した結果として生じます。身体と心が分離しているかのように感じられ、現実世界がぼやけ、夢と現実の境界が曖昧になることがあります。

解離性障害や解離性同一性障害を患う人々は、記憶の一部が抜け落ちることが日常的に起こります。自分が行った行動に対する自覚がないことがしばしばあり、見知らぬ人が自分のことを知っていると主張するなど、人間関係が怖くなることがあります。日常生活の多くを担う人格は、人見知りで引っ込み思案ですが、自分とは正反対の人格が存在することもあります。この別の人格は、社交的で仕事を効率的にこなし、積極的に異性との恋愛関係を築くことがあります。しかし、日常を担う主な人格は、このような活動の記憶をほとんど、または全く持っていないことが多いのです。

この状態では、一つの身体に複数の人格が共存しているかのように感じられ、一方の人格が行動している間、もう一方の人格はその記憶を持たないことがしばしば起こります。このような解離性健忘は、個人の日常生活に大きな混乱と挑戦をもたらし、自己同一性と現実感に影響を与えることがあります。

解離性健忘症のチェック項目

解離性健忘症のチェック項目についての説明をより詳細かつ分かりやすく表現すると、以下のようになります。

  1. 重要な個人情報の喪失: 通常、人は自分の生い立ちや過去の重要な出来事、大切な人々のことを忘れることはありません。解離性健忘症の場合、これらの基本的な情報が思い出せなくなることがあります。
  2. トラウマやストレスによる記憶喪失: 心的外傷や極度のストレスを経験した後、関連する記憶が欠落することがあります。これは、心が経験したトラウマから守るために記憶を封じる反応です。
  3. 普通の忘れ物とは異なる記憶喪失: 日常的な物忘れと解離性健忘症は異なり、後者はより深刻な記憶の欠如を伴います。
  4. 自身の過去に関する混乱: 自分が誰であるか、または自分の過去の重要な出来事について混乱し、自己同一性に疑問を持つことがあります。
  5. 自分の身元に対する不明瞭さ: 自分自身の身元や出自について明確な理解がなく、自分がどこから来たのか、何者であるのかが不明瞭です。
  6. 断片的な時間認識: どうして現在の場所にいるのか、どのようにしてそこに来たのかが分からないという状況に陥ることがあります。
  7. 日常機能への影響: 社会的、職業的、あるいは日常生活において、記憶喪失が機能障害を引き起こす可能性があります。
  8. 他の医学的な原因によるものではない: この状態は、薬物の影響やアルコール依存症、脳の疾患など、他の物理的な原因によるものではありません。

これらの症状が見られる場合は、精神保健の専門家に相談し、適切な診断と治療を受けることが重要です。自己診断は避け、専門家の助言に従うことが勧められます。

解離性健忘症の体験談

解離性健忘症の体験談を具体的に表現すると、次のようになります。

忘れられた日々: 解離性健忘と自己探求の迷路

今日、一体何をしていたのだろう? 朝から夜までの記憶がまるでない。まるでページが抜け落ちた本を読んでいるような感覚。目を覚ますと、しばしば『ここはどこ? 私は誰?』という混乱に陥る。自分がどんな人間で、どんな過去を持っているのかさえ、わからなくなる瞬間がある。

自分という存在がぼんやりとしてしまい、自己の軸が見えなくなる。そのため、周囲の環境や人々の影響を強く受けやすく、自分自身の意思や感情が何であるかを見失ってしまう。一日の終わりには、自分がどこで何をしていたのか、何を感じていたのかすら思い出せないことがよくある。

このような状態は非常に不安定で、日常生活において困惑やストレスを感じることが多い。自分の感じていることが現実なのか、ただの幻なのか区別がつかない時もある。常に自分を探し求めるような状態で、周囲の世界との関係を築くのが難しい。

夢遊病者の現実:解離と対峙する日々

解離するとき、現実から離れてフワフワとした感覚に包まれ、夢のような心地良さを感じます。そこは現実とは異なる、もう一つの世界です。このとき、私の中のもう一人の自分が顔を出し、現実から離れてしまいます。ぼんやりとした状態になり、何もせず時間が過ぎていくのを感じます。

現実世界と向こう側の世界の間での生活がほとんどで、現実に戻ってくると、周りが何をしているのか、自分がどこにいるのかさえ分かりません。同級生や知人から声をかけられても、どう反応していいかわからず、困惑します。

記憶がはっきりせず、状況を把握するのが難しいのです。さらに、私の中にいるもう一つの人格が、男女の交際などを経験することもあり、それにどう対処していいか自分でもわかりません。現実とは異なる自分が行動し、それに翻弄される日々です。この状態では、現実の世界との関係を築くことが難しく、自分自身を見失いがちになります。

断片的な自己と失われた連続性

解離性健忘症によって、私の生活史には継続性がありません。職場での出来事、学校での経験、さらには昨夜何をしていたのかすらも、はっきりと思い出せません。日々の記憶が断片的で、自分が過ごした時間についての連続性が失われています。

この状況は、自分自身が何者であるかを理解するのを難しくします。家族や友人から聞いた話によって初めて、自分がどのような人間であるか、どのような経験をしてきたかを知ることがあります。しかし、これらの話が自分のものとして内面化されることは少なく、その結果、家族や友人との繋がりや自己のアイデンティティが希薄になってしまいます。

私は、自分の人生を他人の物語を聞いているように感じることがよくあります。自分が過去にどのように振る舞ってきたのか、どんな関係を築いてきたのかが、自分の記憶としては存在しないのです。これにより、自分自身に対する理解が曖昧になり、自己同一性に対する深い疑問を抱くことになります。

二つの世界に生きる:日常と失われた時間

私の日常は、まるで二重の自己が行き来するような生活です。普段の私は、自分自身でいることができますが、仕事に関しては、まるで別の人格がそれを行っているかのようです。仕事中の行動や会話、決断など、その時の記憶がまったく残っていません。朝、出勤する私と、夕方、帰宅する私は、同一人物でありながら、その間の時間に何が起きたのか、一切分からないのです。

この状態が始まったのは、数ヶ月前からです。最初は、単なる忘れっぽさかと思っていました。しかし、次第にその症状は深刻さを増し、自分がどのように日々を過ごしているのか、全く把握できなくなりました。同僚や上司からの「昨日の会議でのあなたの意見は素晴らしかった」という言葉に、私はただ戸惑うばかり。それが本当に私の言葉だったのか、信じられない気持ちです。

更に深刻なのは、自分のアイデンティティーが曖昧になることです。鏡を見ても、そこに映るのは自分だと認識はできますが、それが本当に自分なのか疑問に思うことがあります。家族や友人との会話も、まるで遠くから聞いているような感覚で、自分がその場にいる実感が持てません。

医師は、これを解離性健忘症と診断しました。解離性健忘症は、ストレスや心的外傷が原因で、自己の記憶やアイデンティティーが一時的に失われる状態だと説明されました。治療は進んでいますが、この状態から抜け出すには時間が必要だと言われています。私の日々は、自分自身を取り戻す戦いの連続です。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-11-13
論考 井上陽平