感情が爆発するのはなぜ?怒りが止まらない心理とトラウマの影響

怒りの感情のコントロール セルフケア・対処法

普段は穏やかに振る舞っているのに、相手の何気ない一言をきっかけに、突然怒りが抑えられなくなることがあります。

少し強い口調で注意された。話している途中で遮られた。約束を一方的に変更された。こちらの気持ちを説明しても、まともに聞いてもらえなかった。そんな出来事をきっかけに、胸の奥から激しい怒りがこみ上げ、声を荒らげたり、涙が止まらなくなったりすることがあります。

その場では怒りを止められず、頭の中が真っ白になる。相手に言い返しながら、自分でもなぜこれほど激しく反応しているのか分からない。しばらくして落ち着くと、今度は強い疲労や自己嫌悪に襲われ、「また同じことを繰り返してしまった」と自分を責めることもあります。

複雑なトラウマを抱えて生きてきた人では、こうした感情の爆発に、過去の人間関係で身についた防衛反応が関わっている場合があります。

幼い頃から、怒れば関係が悪くなる、泣けば迷惑をかける、苦しいと言えば面倒に思われる。そのような経験を重ねると、自分の感情を表現する前に、相手の反応を考えることが習慣になります。

本当は腹が立っていても笑って受け流し、傷ついていても大丈夫だと答える。相手の言い方に違和感を覚えても、自分の受け取り方が悪いのだと思い直す。そうして自分の感情を抑えることが、日常生活の中で当たり前になっていきます。

しかし、感情を表に出さないまま生活を続けていると、自分がどれほど無理をしているのか分からなくなることがあります。

疲労や不満、恐怖、悲しみが重なり、身体の緊張が高まっていても、本人はいつものように振る舞おうとします。そして、ある出来事をきっかけに、その場で受け止められる感情の大きさを超え、怒りが一気に噴き出すことがあります。

複雑性PTSDでは、感情調整の困難が症状の一つとして位置づけられています。ただし、怒りが強いことだけで複雑性PTSDと判断できるわけではなく、睡眠不足や慢性的なストレス、うつ状態、現在の対人関係など、さまざまな要因が関わることもあります。

感情の爆発を理解するためには、その瞬間の怒りだけでなく、爆発する前に何を我慢していたのか、身体にどのような変化が生じていたのか、過去のどのような経験と結びついているのかを見る必要があります。

感情が爆発する前に、身体はすでに限界へ近づいている

感情が爆発したとき、本人は「急に怒りが出てきた」と感じることがあります。

しかし、その日を振り返ると、怒りが噴き出す前から、心身にはさまざまな変化が起きていたことがあります。

朝から身体が重く、些細な音がいつもより大きく聞こえる。人から話しかけられるだけで疲れ、返事をすることさえ面倒に感じる。仕事では小さなミスが気になり、何度も確認する。誰かの言葉を聞くと、普段なら気にならないことまで引っかかる。

そうした状態の中で、さらに相手から理不尽なことを言われたり、自分の気持ちを無視されたりすると、怒りが急激に強まる場合があります。

怒りの高まりには、自律神経系を含むストレス反応が関わります。危険や脅威を感じると、心拍が速くなり、呼吸が浅くなり、肩や顎、腹部などの筋肉に力が入ることがあります。

身体が強く緊張すると、相手の言葉を落ち着いて理解したり、別の可能性を考えたりすることが難しくなる場合があります。

例えば、上司から「これはどうなっているの?」と尋ねられただけなのに、責められたように感じて胸が苦しくなる。相手の表情が少し険しくなると、自分の失敗を厳しく追及されるのではないかと身構える。その緊張が強くなったところへ、さらに注意を受けると、突然激しい怒りや恐怖が生じることがあります。

怒りが強くなった場面だけを見れば、相手の一言に過剰に反応したように映るかもしれません。しかし、その前から身体が強い負荷を受けていたなら、本人にとっては、最後の刺激が限界を超えるきっかけになった可能性があります。

また、慢性的なストレスや睡眠不足が続くと、感情を調整する余力が少なくなることがあります。普段は抑えられている不満や焦りが、疲労の強い日に表面へ出やすくなる場合もあるでしょう。

意味もなくイライラするのは「性格」ではなく、神経システムの悲鳴かもしれないでは、慢性的な緊張や疲労が、怒りや焦燥感として現れる過程について詳しく扱っています。

怒りの奥に、恐怖や恥、無力感が重なっている

強い怒りが生じたとき、その感情の背景には、恐怖や悲しみ、恥、無力感など、複数の感情が重なっていることがあります。

相手から軽く扱われたと感じたとき、本当は悲しかったのかもしれません。自分の意見を否定されたときには、恥ずかしさや無力感が生じていた可能性があります。親しい相手に冷たくされたときには、見捨てられるような怖さがあったのかもしれません。

ところが、そうした感情を表現することに慣れていない人では、自分が悲しいのか、怖いのか、傷ついているのかを理解する前に、怒りが強く表れる場合があります。

幼少期から、弱さや悲しみを見せるとさらに責められる環境で育ってきた人では、傷ついたことを認めること自体が怖くなる場合があります。

泣けば親から怒られる。怖いと言えば大げさだと扱われる。助けを求めても無視される。そのような経験が続くと、悲しみや恐怖を感じても、その感情をすぐに抑えようとすることがあります。

一方、怒りが強まったときには、相手へ言い返すことで、一時的に自分を守れたように感じる場合があります。

しかし、怒りの下にある傷つきや無力感が理解されないままだと、相手に言い返しても苦しさが残ります。怒りが収まった後に、今度は悲しみや虚しさが押し寄せることもあるでしょう。

Kimmellら(2021)は、米国シカゴに暮らすメキシコ系移民女性121人へのインタビューを通して、繰り返されたトラウマ体験と感情の表現について調べました。

参加者の中には、過去の虐待や不当な扱いと結びついた激しい怒りを、強い悲しみや苦痛、身体の反応を伴うものとして語る女性たちがいました。怒りは単独で存在する感情というより、長く続いた苦痛や不正への憤りと重なりながら経験されていたのです。

この研究は、文化的な感情表現も扱ったもので、複雑性PTSDの人すべてに同じ現象が起こると示したものではありません。それでも、激しい怒りの背景に、本人が長年抱えてきた悲しみや不条理な経験が重なっていることを理解するうえで参考になります。

怒りが止まらなくなったときには、その場で生じた怒りだけを問題にするより、何がこれほどつらかったのか、どのような感情が傷つけられたのかを、落ち着いた状態で確かめることが大切です。

怒りの爆発は、過去の痛みが現在の出来事に重なったときに起こる

トラウマを抱えた人にとって、感情が爆発するきっかけは、現在の出来事だけでは説明できない場合があります。

相手が少し強い口調で話しただけなのに、急に身体が固まり、激しく言い返したくなる。約束を軽く扱われたと感じた瞬間、見捨てられたような恐怖と怒りが同時に押し寄せる。誰かに注意されたとき、強い恥ずかしさや屈辱感が生じ、相手の言葉を受け止められなくなる。

こうした反応の背景には、過去に繰り返し経験してきた怒鳴り声や無視、支配、暴力、人格否定などが関わっていることがあります。

子どもの頃、親が怒ると自分の意見を言うことが許されなかった人は、大人になっても、相手の声が強くなった瞬間に身体が緊張する場合があります。

親から何度も理不尽に責められてきた人は、現在の相手が自分の行動について注意しているだけでも、人格全体を否定されたように感じることがあります。

その瞬間、頭では「今の相手は親ではない」と分かっていても、身体には当時と似た恐怖や緊張が生じている場合があります。

本人は、目の前の相手に対して怒っているつもりでも、その怒りの強さには、これまで何度も経験してきた無力感や屈辱が影響しているかもしれません。

FarleyとMcWey(2025)は、若者が怒りや攻撃性をどのように経験しているのかを、質的研究によって調べました。

研究では、逆境への曝露が多い若者たちは、殴られること、抑圧されること、見下されること、過剰な圧力をかけられることなどを、怒りの引き金として語っていました。また、相手に尊重されない、話を聞いてもらえないと感じたときに、怒りが強くなる経験も報告されています。

この研究は若者を対象としており、成人の複雑性PTSDを直接調べたものではありません。それでも、怒りがどのような人間関係の中で生まれ、どのような役割を持ってきたのかを理解する必要があることを示しています。

特に、幼少期から自分の気持ちを無視されてきた人では、現在の相手から話を遮られたり、軽く扱われたりしたとき、当時の苦痛が再び呼び起こされる場合があります。

こうした反応がフラッシュバックを伴うこともありますが、強い怒りや身体反応が生じることだけでフラッシュバックと判断することはできません。過去のトラウマを現在の出来事として再体験しているのか、似た状況によって強い感情が喚起されているのかは、丁寧に見極める必要があります。

フラッシュバックの対処法|思い出すと泣くほど辛い再体験から戻るためにでは、過去の恐怖が現在の体験としてよみがえったとき、心身にどのような変化が生じるのかを解説しています。

感情を抑え込む生活が続くと、怒りに気づくのが遅くなる

感情を抑えることは、社会生活の中で必要になる場面があります。

仕事中に腹が立っても、その場で怒鳴らずに対応する。家庭内で感情的になりそうなときに、少し時間を置く。相手と意見が違っていても、落ち着いて話せる状態になるまで待つ。

こうした感情の調整は、人との関係を維持するうえで役立ちます。

しかし、怒りを感じるたびに自分の感情を否定し、何もなかったことにする生活が続くと、自分が何に傷ついたのか分からなくなる場合があります。

本当は腹が立っていても、「相手にも事情がある」と考える。嫌なことを言われても、「こんなことで傷つく自分が悪い」と思い直す。何度も同じ要求をされても、「断るほどのことではない」と自分を納得させる。

そのようにして、自分の違和感を次々と打ち消していくうちに、どこまでなら我慢できるのかが分からなくなっていきます。

例えば、職場で仕事を押しつけられても、その場では引き受ける。相手の言い方に腹が立っていても、感情を表に出さず、いつも通りに振る舞う。

しかし帰宅してから、何度もその場面を思い返し、怒りが強まっていくことがあります。

自分ばかりが我慢している。相手はいつも好き勝手に振る舞っている。なぜ誰も分かってくれないのか。

そうした考えが繰り返されると、次に同じ相手と関わるときには、すでに強い警戒や不満を抱えた状態になっていることがあります。

感情を抑えることによる負担は、怒りがそのまま身体のどこかに蓄積されるという単純な仕組みでは説明できません。むしろ、傷ついた経験が十分に理解されないまま残り、反芻や慢性的なストレス、対人関係の問題と重なることで、怒りが強まりやすくなると考えられます。

怒りを閉じ込めて生きてきた人へ|関係を壊さないために、内側へ折り返した感情では、怒りを表現できなかった経験が、自己否定や身体の緊張へ結びついていく過程を掘り下げています。

怒りの爆発を防ぐためには、限界に達してから感情を抑えようとするより、普段の生活の中で、自分が何を嫌だと感じているのかを早い段階で確かめることが大切になります。

怒りが止まらないとき、考え方と身体には何が起きているのか

怒りが急激に強まると、相手の言葉や行動を、いつもより脅威的に受け取ることがあります。

相手が少し反論しただけでも、自分のことを全否定しているように感じる。言い訳をされたように思うと、さらに怒りが強くなる。相手が黙り込むと、無視されたと受け取り、何とか反応させようとして言葉が激しくなる。

そのような状態では、目の前の出来事を落ち着いて考え直す余裕が少なくなります。

過去に無視されたり、人格を否定されたりしてきた人では、相手の沈黙や反論が、以前の苦痛を呼び起こすこともあります。

本当は自分の気持ちを理解してほしいのに、相手がすぐに理解してくれないと、さらに強い怒りが生じる。その結果、言いたかったことを伝えるよりも、相手へ言い返すことに意識が向いてしまう場合があります。

また、怒りが強まっているときには、身体の反応も変化します。

心拍が上がり、呼吸が浅くなる。顎を強く噛みしめ、肩や背中が固まる。声が大きくなり、話す速度が速くなる。相手の言葉が耳に入らず、頭の中で同じ考えが繰り返される。

こうした変化が起きると、本人は落ち着こうと思っていても、実際には会話を続けることが難しくなっている場合があります。

感情の爆発を防ぐには、この状態になってから理屈で自分を説得するよりも、もっと早い段階で身体の緊張や思考の変化に気づくことが重要になります。

怒りが強くなる前に、言葉数が減る人もいれば、逆に早口になる人もいます。相手の言葉を何度も確認したくなる人、胸の奥に熱を感じる人、手が震える人、周囲の音がうるさく感じられる人もいるでしょう。

自分にどのような前触れがあるのかを知ることで、感情が限界に達する前に、休息や距離を取る選択がしやすくなります。

感情が爆発した後、強い自己嫌悪に襲われる理由

怒りを抑えきれなくなった後、今度は自分を激しく責めることがあります。

相手に強く言いすぎた。あんなに怒る必要はなかった。自分は感情をコントロールできない人間だ。親のように怒ってしまった。もう誰とも関わらない方がよいのではないか。

そのような考えが浮かび、激しい後悔や恥ずかしさに襲われる場合があります。

特に、幼少期に怒りを表現することを厳しく禁じられてきた人は、自分が怒ったという事実そのものに強い嫌悪感を持つことがあります。

親が激しく怒鳴る姿を見て育ち、絶対に同じような人間にはなりたくないと考えてきた人もいるでしょう。

そのため、自分が声を荒らげた瞬間、相手を傷つけたことへの後悔だけでなく、自分自身が親と同じ存在になってしまったような恐怖が生じる場合があります。

また、怒りが強くなったときに、相手から拒絶されたり、関係が悪くなったりした経験が重なると、怒りを表現した自分への恥や罪悪感がさらに深まることがあります。

その結果、次からは絶対に怒らないようにしようと考え、以前よりも感情を強く抑え込むようになることがあります。

しかし、感情を抑えることだけを目標にすると、自分がどのような場面で傷ついているのかを理解する機会まで失ってしまいます。

怒りの爆発を振り返る際には、二つのことを分けて考える必要があります。

一つは、相手へ向けた言葉や行動が適切だったかどうかです。暴言や威圧、物を壊す行為などによって相手を傷つけた場合には、その行動について責任を引き受け、必要な対応を考えなければなりません。

もう一つは、なぜそこまで怒りが強まったのかという問題です。

何を我慢していたのか。どのような言葉が引き金になったのか。その前に疲労や不安が重なっていなかったか。過去のどのような経験と似ていたのか。

怒りの背景を理解することは、他者への攻撃を正当化するためではなく、同じ状況を繰り返さないための手がかりを得ることにつながります。

怒りの爆発を繰り返す人が、早めに気づきたい身体のサイン

怒りが強くなったときには、自分の状態を客観的に振り返ることが難しくなる場合があります。

そのため、落ち着いているときに、感情の爆発が起きる前の変化を整理しておくことが役立ちます。

例えば、次のような状態が続いていないかを確かめます。

  • 身体の変化: 肩や顎に力が入る、胸が詰まる、胃が重い、手が震える、呼吸が浅くなる
  • 感覚の変化: 周囲の音がうるさく感じる、人の声や表情が気になる、急に暑く感じる
  • 思考の変化: 相手の言葉を何度も思い返す、責められたと感じる、相手の意図を悪い方向へ考える
  • 行動の変化: 早口になる、口数が減る、相手に何度も確認する、落ち着かず身体を動かす
  • 生活の変化: 睡眠が浅い、疲れが取れない、仕事や人間関係の負担が重なっている

こうした変化は、必ずしも怒りだけに特有のものではありません。しかし、普段の自分と比較することで、心身に余裕がなくなっていることに気づく手がかりになります。

特に、自分の身体がどのような段階で緊張し始めるのかを知っておくと、怒りが強くなる前に対処しやすくなります。

例えば、声が大きくなる前に胸が熱くなる人であれば、その段階で会話をいったん中断する。相手の言葉を何度も思い返すようになったら、その日の疲労や睡眠の状態を確認する。

怒りが爆発した後に自分を責め続けるよりも、爆発する前の段階で何が起きているのかを理解することが重要です。

感情が爆発しそうになったとき、どうすればよいのか

怒りが強まっているときには、相手との話し合いを無理に続けないことが役立つ場合があります。

自分の気持ちを理解してもらいたいと思うほど、その場で何とか伝えようとしてしまうことがあります。しかし、心身が強く緊張している状態では、言葉が激しくなったり、相手の反応を冷静に受け止められなくなったりすることがあります。

そのようなときには、「今は落ち着いて話せないので、少し時間がほしい」と伝え、会話から距離を取ることができます。

相手がいる場所から少し離れる。水を飲む。窓の外を見る。足裏が床に触れている感覚を確かめる。短い散歩をする。

こうした行為は、怒りを無理に消すためというより、強くなった心身の緊張を少し下げ、落ち着いて考えられる状態へ戻すためのものです。

Metcalfら(2025)は、トラウマ経験後に怒りの問題を抱えた10人への質的インタビューなどを通して、怒りを調整するための支援方法を検討しました。

参加者の経験からは、怒りが生じる前、強まり始めた段階、すでに激しくなった段階では、必要な支援が異なることが示されました。研究では、怒りの程度を早めに確認し、その段階に応じた対処法を選べるようにすることの重要性が取り上げられています。

この研究は、怒りの調整を支援するデジタル介入の開発を目的としたもので、その方法の治療効果が十分に確立されたことを意味するわけではありません。それでも、怒りを一つの状態として扱うより、強さや段階に応じて対処することの大切さを示しています。

怒りが少し高まっている段階であれば、自分が何に傷ついたのかを考える余裕があるかもしれません。しかし、すでに相手へ攻撃的な言葉を向けそうな状態では、原因を分析するよりも、その場から距離を取り、安全を確保することが先になります。

また、自分や他者を傷つけそうな衝動が強いときには、危険な物から距離を取り、運転などを中断し、必要に応じて周囲の人や医療機関へ助けを求めることが重要です。

アンガーマネジメントのやり方|怒りの感情をコントロールし、冷静さを保つ方法では、怒りの引き金や身体の変化を理解し、日常生活で実践できる対処法について詳しく解説しています。

怒りを小さな段階で表現できるようになると、爆発の仕方が変わる

長い間、怒りを抑えてきた人は、怒りの表現について、我慢するか爆発させるかの二つしか選択肢がないように感じることがあります。

相手が嫌なことをしても、その場では笑って受け流す。しかし、同じことが続いて限界に達すると、今度は激しく言い返してしまう。

自分の気持ちを伝えることに慣れていないため、怒りが強くならないと、相手へ不満を言葉にできないことがあります。

回復では、怒りが大きくなる前に、小さな違和感や不満を表現できるようになることが重要です。

相手の言葉がきつく感じられたときには、「その言い方は少しつらい」と伝える。急に予定を変更されたときには、「今日は対応できない」と言う。仕事を頼まれたときには、すぐに引き受けず、「今の仕事が終わってから考えたい」と伝える。

こうした小さな自己表現を重ねることによって、自分が傷ついていることや、負担を感じていることを、限界に達する前に相手へ伝えられるようになります。

ただし、相手が支配的であったり、暴力や脅迫を行っていたりする場合には、直接不満を伝えることで危険が高まることがあります。そのような関係では、安全を優先し、第三者の支援を利用しながら距離を取る方法を考えることが重要です。

怒りを扱うことは、常に相手へ感情を伝えることを意味しません。

自分が嫌だと感じたことを理解し、その相手とどの程度関わるのか、どこまでなら引き受けるのかを、自分の意思で選べるようになることも大切です。

怒りが爆発した後は、何が起きていたのかを整理する

感情が爆発した後には、強い後悔や自己嫌悪が生じることがあります。

そのようなとき、すぐに過去のトラウマと結びつけて原因を探ろうとすると、かえって気持ちが混乱する場合があります。

まずは身体の緊張が落ち着くのを待ち、必要な休息を取ることが大切です。

その後で、出来事をいくつかの段階に分けて振り返ることが役立ちます。

何が起きたのか。その前から疲れていたのか。どの言葉や態度に反応したのか。相手から何をされたと感じたのか。本当はどのように扱ってほしかったのか。

例えば、相手から予定の変更を求められたときに激しく怒った場合、その背景には、何度も予定を変えられてきた不満や、自分の時間を大切にしてもらえなかった悲しさがあるかもしれません。

また、子どもの頃に親から一方的な要求を受け続けてきた人では、現在の相手から突然予定を変えられたことが、当時の無力感を呼び起こしていた可能性もあります。

こうした経験を整理すると、自分の怒りがどのような状況で強まりやすいのかが、少しずつ分かってくる場合があります。

一方、怒りの背景を理解できたとしても、相手を傷つけた言葉や行動については、必要に応じて責任を引き受けることが大切です。

感情が強くなった理由を理解することと、他者への攻撃を繰り返さないための行動を身につけることは、両方必要になります。

感情の爆発を繰り返すときは、トラウマと現在の負担を一緒に見直す

怒りの爆発を繰り返している場合には、過去の経験だけでなく、現在の生活にどのような負担がかかっているのかを確認することも重要です。

職場で長時間働き続け、十分な休息が取れていない。家庭内で自分ばかりが責任を引き受けている。親しい人との関係で、繰り返し傷つく出来事が起きている。

そうした状況では、トラウマによる反応に加えて、現在のストレスが怒りを強めている可能性があります。

過去のトラウマを理解することが大切であっても、今の生活で無理を重ね続けていれば、心身の負担はなかなか減りません。

自分がどのような場面で怒りを感じるのかを知ることに加えて、仕事量や人間関係、睡眠、休息などを見直す必要がある場合もあります。

また、怒りの爆発が続き、自分や他者を傷つける危険がある場合には、心理職や精神科などの専門的な支援を受けることが大切です。

トラウマに関連する感情調整の困難に対しては、現在の安全や生活の安定を確保しながら、強い感情への対処法を身につけたり、必要に応じてトラウマに焦点を当てた心理療法を行ったりすることがあります。

本人が安心して感情を扱えるようになるには、感情を強く引き出すことよりも、今の自分がどこまで受け止められるのかを確かめながら進めることが重要になります。

複雑性PTSDの回復が一進一退になる理由|過去の対処法が今を苦しめるときでは、かつて自分を守ってきた反応が、現在の人間関係や生活の中で苦しさにつながる仕組みについて解説しています。

おわりに|怒りを抑え込む生き方から、自分の感情を扱える生き方へ

複雑なトラウマを抱えて生きてきた人は、長い間、自分の感情を表現することよりも、相手の機嫌を損ねず、関係を壊さないことを優先してきた場合があります。

怒れば責められる。悲しみを見せれば面倒に思われる。助けを求めても受け止めてもらえない。

そのような環境では、自分の感情を抑えることが、安心を保つための方法になっていたのかもしれません。

しかし、大人になってからも、嫌なことを断れず、傷ついたことを伝えられず、相手に合わせ続けていると、心身の負担が大きくなることがあります。

そして限界に達したとき、普段の自分からは想像できないほど激しい怒りが噴き出し、落ち着いた後に深い自己嫌悪へ陥る場合があります。

このような反応を繰り返していると、自分は感情をコントロールできない人間なのではないかと思うかもしれません。

しかし、怒りが強くなる背景には、現在の出来事に加えて、これまで表現できなかった感情や、過去の経験と結びついた警戒反応、慢性的な疲労などが関わっている場合があります。

回復では、怒りを感じることそのものを禁止するのではなく、どのような場面で自分が傷つき、何を我慢し、どこで限界を超えているのかを理解していくことが大切です。

身体が緊張し始めたときに気づく。相手の言葉に傷ついたことを認める。自分の限界を超える前に、休息や距離を取る。必要なときには、自分の意思を言葉にして伝える。

そうした経験を重ねることで、怒りが激しくなる前に、自分の感情を扱える場面が増えていきます。

長い間、感情を押し込めることで生きてきた人にとって、怒りを小さな段階で認め、適切に表現することは、簡単なことではないかもしれません。

それでも、自分の感情に気づくことと、その感情に従って行動することを分けて考えられるようになると、怒りを我慢するか爆発させるかという繰り返しから、少しずつ離れていくことができます。

怒りを扱えるようになることは、自分の感情を失うことではなく、傷ついた自分を守りながら、他者との関係も守れるようになることです。

これまで言葉にできなかった怒りや悲しみを理解し、自分の限界を尊重できるようになることが、感情の爆発を繰り返してきた人にとって、大切な回復の過程になります。


参考文献

  1. Kimmell, J., Mendenhall, E., & Jacobs, E. A. (2021). Deconstructing PTSD: Trauma and emotion among Mexican immigrant women. Transcultural Psychiatry, 58(1).
    https://doi.org/10.1177/1363461520903120
  2. Farley, T. M., & McWey, L. M. (2025). Triggers and Regulation: Qualitative Experiences of Anger and Aggression Among Youth. The Family Journal, 33(1).
    https://doi.org/10.1177/10664807241257492
  3. Metcalf, O., Forbes, D., Henry, L. M., Q

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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