境界性パーソナリティ障害の人が突き放す言動|愛情と拒絶が揺れる心理と家族・恋人の関わり方

境界性パーソナリティ障害を突き放す 人格傾向・パーソナリティ

昨日まで「ずっと一緒にいたい」「あなたがいないと生きていけない」と言っていた人が、翌日には「もう顔も見たくない」「私に関わらないで」と冷たく突き放してくる。少し前まで深い愛情を示していたのに、突然、別人のような態度に変わってしまう。

境界性パーソナリティ障害(BPD)を抱える人との関係では、こうした愛情と拒絶の激しい揺れが生じることがあります。家族や恋人は、どちらが本当の気持ちなのか分からなくなり、相手の機嫌を損ねないように言葉を選び続け、次第に疲れ果ててしまうことがあります。

一方、本人の内面でも複雑な葛藤が起きています。大切な人に近づきたい気持ちが強くなるほど、失うことへの恐怖も大きくなり、相手の些細な言動から拒絶の気配を感じ取ってしまう。傷つけられるくらいなら自分から関係を終わらせたいと思いながら、実際に相手が離れていこうとすると、今度は耐えがたい孤独に襲われるのです。

愛情と拒絶は、まったく別の場所から生まれているとは限りません。大切な人を求める気持ちと、その人に傷つけられることへの恐怖が、同じ関係の中で激しくぶつかり合っている場合があります。

BPDでは、こうした対人関係の不安定さに加えて、強い感情の変動、衝動性、自己イメージの揺らぎ、慢性的な空虚感などがみられます。苦痛が限界を超えると、激しい怒りや自己破壊的な行動、自傷や自殺企図につながる場合もあります。ただし、症状の現れ方や程度には個人差があり、誰もが同じ行動を取るわけではありません。

BPDの症状や原因、愛着との関係については、境界性パーソナリティ障害(BPD)とはでも詳しく解説しています。

境界性パーソナリティ障害の「温かさ」と「冷たさ」はどこから来るのか

BPDを抱える人の中には、自分に関心を向けてくれる相手に対して、非常に温かく情熱的に関わる人がいます。相手の話を熱心に聞き、困っているときには自分のことを後回しにしてでも助けようとする。好きになった人のことを深く理解しようとし、その人にとって特別な存在でありたいと願います。

相手から優しくされると、自分の存在そのものが肯定されたように感じられ、それまで抱えていた孤独や空虚感が一時的に和らぐこともあります。愛する人の存在が、日常生活を支える大きな力になるのです。

ところが、相手が期待した反応を示さなかったとき、その温かさが急激に冷たさへ変わる場合があります。

一緒に過ごしているときは幸せだったのに、別れ際に相手が少し急いでいるように見えただけで、急に不機嫌になる。何度も愛情を伝えてくれた恋人が、その日だけ疲れて口数が少ないと、「もう私に飽きたんだ」「本当は一緒にいたくないんでしょう」と感じてしまう。

それまで信頼していた相手が、一瞬にして自分を傷つける存在へと変わって見えることがあります。

このような認識の急激な変化には、理想化と脱価値化と呼ばれる心理的な動きが関係することがあります。相手をかけがえのない存在として強く求めながら、期待が裏切られたと感じた瞬間には、相手の優しさやこれまでの関係まで信じられなくなるのです。

冷たい言葉を投げかけるとき、本人は相手への愛情が完全に消えたというより、傷ついた感情に圧倒され、相手の良い面を思い出す余裕を失っていることがあります。

見捨てられ不安と拒絶への過敏さが、関係を揺らす

境界性パーソナリティ障害の対人関係を理解するうえで重要なのが、見捨てられ不安です。

恋人からの返信がいつもより遅い。電話をかけても出てもらえない。家族が自分の話を聞きながら、少し面倒そうな表情を見せた。

こうした出来事は、本人の内面で大きな意味を持つことがあります。返信の遅れが単なる忙しさではなく、愛情の低下を示す証拠のように感じられ、相手の表情の変化から、自分が嫌われたのではないかと考え始めるのです。

一度その不安が強くなると、相手の説明を聞いても安心できなくなることがあります。「仕事が忙しかった」と言われても、頭の中では「本当はほかに大切な人がいるのではないか」「面倒になって嘘をついているのではないか」という疑いが膨らんでいきます。

このような反応の背景には、過去の対人経験が関係している場合があります。

幼い頃から親の機嫌によって愛情が変わったり、甘えたいときに拒絶されたり、安心できるはずの家庭で強い緊張を抱えてきたりすると、人との関係が安定して続くという感覚を育てにくくなることがあります。

もちろん、BPDの成立には生物学的な要因や気質、発達過程、対人環境などが複雑に関係しており、すべてを幼少期のトラウマだけで説明することはできません。

ただ、過去に繰り返し傷ついた経験を持つ人にとって、現在の恋人や家族の何気ない態度が、かつての拒絶や孤立を思い起こさせるきっかけになることがあります。

現在の出来事が小さくても、そこに重なる感情は過去から続く大きなものなのです。

トラウマによって対人関係の安全感が損なわれる仕組みについては、複雑性PTSDの人への接し方と関係の築き方も参考になります。

愛情を求めるほど、相手に依存してしまう心理

BPDを抱える人の中には、自分を深く理解してくれる相手と出会うことで、長く抱えてきた孤独がようやく終わるように感じる人がいます。

恋人は、単に好きな相手というだけでなく、自分の存在価値を確かめさせてくれる人であり、感情が崩れたときに支えてくれる人であり、ときには生きていく理由そのものになることがあります。

そのため、相手の期待に応えようと一生懸命になり、困難な状況でも忠実に尽くそうとします。自分が必要とされることに深い喜びを感じ、相手を満足させることで関係を維持しようとするのです。

しかし、相手の存在が自分の心の安定を支える唯一のものになると、その関係には大きな負担がかかります。

恋人が友人と会うだけで寂しさに耐えられなくなったり、休日を別々に過ごそうと提案されると愛情を疑ったりする。相手の行動を確認し、何度も気持ちを尋ね、安心できる言葉を求めるようになる場合があります。

相手がそれに応え続けている間は関係が保たれていても、恋人自身が疲れて距離を置こうとすると、本人の見捨てられ不安がさらに強まります。

安心したいから確認する。確認され続けた相手が疲れる。相手が距離を取ると、見捨てられる恐怖からさらに確認が増える。

こうして、愛情を確かめるための行動が、結果的に相手を遠ざけてしまうことがあります。

境界性パーソナリティ障害の人が大切な相手を突き放す理由

傷つけられる前に、自分から関係を壊そうとする

BPDの突き放す言動には、いくつか異なる心理が含まれています。

その一つが、相手から拒絶される前に、自分から相手を拒絶しようとする動きです。

恋人の気持ちが少し離れたように感じたとき、「もう別れよう」「どうせ私なんかいらないんでしょう」と突然関係を終わらせようとする。相手が引き止めてくれると安心する一方で、引き止め方が期待したものと違うと、さらに激しい怒りを向けてしまうこともあります。

本人の内側では、相手に捨てられるという受け身の苦痛に耐えるより、自分から相手を拒絶することで、関係の主導権を取り戻そうとしている場合があります。

愛情を失うことは怖い。それ以上に、愛情を求めている自分を相手に知られ、その弱さを利用されたり、軽く扱われたりすることが怖いのです。

そのため、相手に最もそばにいてほしいときに、反対の言葉が出てしまうことがあります。

「帰って」「もう連絡してこないで」と言いながら、相手が本当に帰ってしまうと、深い絶望に襲われる。自分から関係を切ったはずなのに、相手に見捨てられたと感じてしまうのです。

相手を試すことで、愛情を確かめようとする

突き放す言葉が、相手の愛情を確認するために使われる場合もあります。

「私なんかと一緒にいても仕方ない」「嫌なら別れればいい」と言いながら、本当は相手が「別れたくない」「あなたが大切だ」と答えてくれることを期待している。

しかし、相手が何度も同じ確認を求められると、次第に疲労や無力感を抱くようになります。

本人にとっては安心するために必要な確認でも、恋人から見ると、何度愛情を伝えても信じてもらえず、常に試されているような感覚が残ります。

こうした関係が続くと、相手は自分の本音を言いにくくなります。少しでも否定的なことを伝えれば相手が傷つき、怒ったり泣いたりするかもしれないため、言いたいことを飲み込むようになるのです。

すると、表面的には衝突が減っても、関係の中には本音を隠す習慣が生まれます。本人が求めていた親密さが、かえって失われていくことになります。

「愛したいのに壊してしまう」感情の過覚醒と自己破壊

BPDの感情の不安定さは、本人の意志や考え方だけで調整できるものばかりではありません。感情が急激に高まり、怒りや恐怖が強くなると、冷静に状況を判断することが難しくなる場合があります。

恋人と口論になったとき、最初は小さな不満だったものが、過去に傷つけられた記憶や、自分には価値がないという思いと結びつき、耐えがたい苦痛へ膨らんでいくことがあります。

頭では相手が自分を傷つけようとしているわけではないと分かっていても、身体は緊張し、胸が苦しくなり、怒りや不安が一気に押し寄せる。相手の言葉を最後まで聞けず、大声を出したり、物に当たったり、突然その場から立ち去ったりすることがあります。

さらに、強いストレスのもとでは、現実感が薄れたり、感情が急に遠のいたりすることもあります。さっきまで激しく泣いていたのに、突然、表情が消えて冷たい態度になる。相手からすると、気持ちが一瞬で切り替わったように見えるかもしれません。

しかし本人の内側では、強い感情に圧倒されたあと、これ以上苦痛を感じないように心が反応を弱めている場合があります。

トラウマ反応を伴うケースでは、このような変化を凍りつき反応(フリーズ)と感情の遮断という視点から理解できることもあります。

また、慢性的な緊張を抱えている場合には、人の声や視線、周囲の音や光などが負担となり、日常生活で疲労が蓄積することがあります。これはBPDに必ずみられる特徴というより、トラウマや不安、感覚過敏などが重なったときに、感情調整をさらに難しくする要因になります。

こうした状態で「良い関係を保たなければ」と無理を重ねるほど、ある瞬間に限界が訪れ、攻撃や突き放しとして感情が噴き出すことがあります。

そして感情が落ち着いたあと、自分が言った言葉や相手を傷つけた行動を思い出し、激しい自己嫌悪に襲われるのです。

「また大切な人を傷つけてしまった」「自分は誰かと一緒に生きる資格がない」という思いが強まり、その苦痛から自傷や衝動的な行動へ向かう場合もあります。

「私を見捨てないで」の奥にある孤独と自己否定

BPDを抱える人の見捨てられ不安には、相手を失う悲しみだけでなく、自分自身の存在が揺らぐような感覚が含まれることがあります。

自分のことを愛してくれる人がそばにいるときには、安心して笑ったり、仕事や趣味に取り組んだりできる。しかし、その相手との関係が不安定になると、それまで保たれていた生活の意味や自分の価値まで分からなくなってしまうのです。

Moltuら(2022)は、BPDと診断されて間もない女性12人への質的インタビューを通して、本人たちが自分自身や他者との関係をどのように経験しているのかを調べています。

そこで浮かび上がったのは、自分の感情に圧倒され、自分自身の判断さえ信じられず、他者とのつながりを心の安定のよりどころとして求める姿でした。誰かに近づきたい気持ちがありながら、その関係にも不安がつきまとい、安心できる場所を探し続けていることが示されています。

この研究は、依存や自傷などの行動を、本人が抱える耐えがたい感情や不安定な自己感覚への対処という側面から理解する手がかりを与えています。

愛する人がそばにいないことが、ただ寂しいという感情を超えて、「自分には何も残っていない」「誰にも必要とされていない」という深い空虚感につながることがあるのです。

その一方で、強い愛情を求めている自分を恥ずかしく感じ、素直に助けを求められない場合もあります。相手に抱きしめてほしいのに、近づかれると怒ってしまう。慰めてほしいのに、優しい言葉をかけられると、かえって惨めな気持ちになる。

親密さへの渇望と、親密な関係の中で傷つくことへの恐怖が、同時に存在しているのです。

恋人や家族から突き放されたときに起こること

距離を置かれることが、見捨てられた感覚につながる

恋人や家族が疲れ果て、「少し距離を置きたい」「今日はもう話したくない」と伝えることがあります。

周囲にとっては、気持ちを落ち着かせるために必要な時間であっても、本人には関係そのものを拒絶されたように感じられる場合があります。

その瞬間、それまで積み重ねてきた愛情や信頼よりも、目の前で相手が離れようとしている事実が圧倒的に大きくなるのです。

相手を追いかけて何度も電話をかけたり、長いメッセージを送り続けたりすることがあります。反対に、突然連絡先を削除し、相手との関係を完全に断とうとする場合もあります。

これらは表面的には正反対の行動ですが、どちらにも、拒絶されることへの強い苦痛が関係している場合があります。

パートナーを失ったときの孤独と絶望

別れや離婚、家族との断絶が起きたとき、BPDを抱える人の中には、生活の支えを一度に失ったような深い絶望を経験する人がいます。

それまで相手と過ごしていた時間が空白になり、何をしていても相手のことが頭から離れない。食事や睡眠が乱れ、仕事や学校に行けなくなることもあります。

自分から別れを告げた場合でも、相手が本当に離れてしまうと激しい後悔が押し寄せ、再び関係を取り戻そうとすることがあります。反対に、傷つくことを避けるため、誰とも関わらず、心を閉ざしてしまう場合もあります。

深刻な場合には、自傷や自殺念慮が強まることもあるため、別れや孤立が重なった時期には、本人の安全を確認し、必要に応じて医療機関や専門的な支援につなぐことが重要です。

ただし、相手の安全を守るために、恋人や家族が望まない関係を続けなければならないわけではありません。危機への対応と、交際や同居を続けるかどうかの判断は、分けて考える必要があります。

境界性パーソナリティ障害の人との関わり方|理解と境界線を両立させる

BPDの突き放す言動に対して、家族や恋人がすべてを受け止めようとすると、やがて自分自身の心が疲弊してしまいます。

一方で、相手の感情を理解しようとせず、冷たく拒絶したり、無視や絶縁を繰り返したりすれば、見捨てられ不安が強まり、関係がさらに不安定になる可能性があります。

大切なのは、本人の苦痛を理解することと、自分が傷つけられ続けないことを、同時に考える姿勢です。

たとえば、相手が「どうせ私なんて嫌いなんでしょう」と怒りを向けてきたとき、すぐに「そんなこと言っていないだろう」と反論すると、感情的な衝突が激しくなる場合があります。

このようなときには、「嫌われたと感じて、すごく不安になったんだね」と、まず本人の感情を言葉にすることが役立つ場合があります。そのうえで、「でも、怒鳴られると私もつらいから、落ち着いてから話したい」と自分の気持ちも伝えるのです。

相手の感情を理解することは、相手の解釈や要求をすべて正しいものとして認めることとは異なります。

突き放されたときに大切な対応

  • 「もう来ないで」と言われたとき: 感情が高ぶっている最中に何度も説得するより、「今は距離を置こう。明日、落ち着いてから話そう」と伝え、相手の希望と自分の安全を尊重する。
  • 「私を見捨てるんでしょう」と責められたとき: 「今日は一人で休みたい。でも、明日の夕方には話せるよ」と、距離を置く理由と次に関わる時間を具体的に伝える。
  • 暴言や脅しが続くとき: 「つらい気持ちは聞きたいけれど、怒鳴られながらは話せない」と伝え、会話を中断する。暴力の危険がある場合は安全の確保を優先する。
  • 自傷や自殺をほのめかされたとき: 関係を維持する約束だけで対応しようとせず、安全を確認し、切迫した危険があれば救急対応を含む専門的な支援につなぐ。

ここで重要なのは、言葉だけで境界線を設けるのではなく、実際の行動でも一貫性を持つことです。

昨日は暴言を受けても何時間も話を聞き、今日は突然連絡を遮断するという対応が続くと、本人は関係の予測が難しくなり、さらに不安を強めることがあります。

話し合える時間、受け入れられる行動、受け入れられない行動を明確にして、その基準をできるだけ安定させていくことが大切です。

家族・恋人・友人それぞれの立場での対応については、境界性パーソナリティ障害の人との接し方でも整理しています。

愛情だけでも、拒絶だけでも関係が難しくなる理由

BPDを抱える人との関係では、家族や恋人も次第に極端な対応へ追い込まれることがあります。

最初は相手を助けたいという思いから、何度も話を聞き、求められるままに時間を使い、相手の不安を和らげようとします。しかし、どれほど尽くしても同じ衝突が繰り返されると、怒りや疲労が積み重なっていきます。

やがて、相手の声を聞くだけで緊張したり、メッセージが届くたびに気持ちが重くなったりすることがあります。

それでも相手が泣いて謝ると、また以前の優しさを思い出し、関係を続けようとする。すると、しばらくして同じ問題が起こり、再び激しい衝突に巻き込まれてしまうのです。

こうした循環が続くと、家族や恋人自身も感情の調整が難しくなり、相手に対して激しい怒りを向けたり、突然すべてを断ち切ろうとしたりすることがあります。

本人の不安定さが関係全体へ広がり、互いの言動が相手の不安を強め合うようになるのです。

2026年に発表されたMolyneuxらの質的研究では、BPDのある人を含む6組のカップルにインタビューし、比較的安定した親密な関係がどのように維持されているのかを調べています。

その結果、関係の中で安心できる土台が育ち、互いの感情を率直に伝えながら、困難な状況を一緒に調整していくことが、関係の満足感や継続に関係していると示されました。

一方、パートナー自身にも負担があり、自分の時間を確保することや、必要な支援を受けることが重要であると報告されています。

この研究からも、相手を支えることと、自分自身を守ることの両方が関係の安定に関わると考えられます。

相手に合わせ続けることを愛情の証明にするのではなく、互いに違う感情や希望を持っていても関係を保てるようになることが、親密さを育てるうえで重要なのです。

突き放す言動を繰り返す人が、関係を回復していくために

BPDを抱える人が、愛情と拒絶の激しい揺れから少しずつ抜け出していくためには、自分の感情がどのような場面で急激に変化するのかを理解することが大切です。

恋人の返信が遅れたとき、何が起きたと感じたのか。相手に怒鳴る直前、自分の身体にはどのような緊張が生じていたのか。突き放す言葉を口にしたとき、本当は相手に何を求めていたのか。

こうした経験を振り返っていくと、激しい怒りの奥に、孤独や恐怖、恥、自分には価値がないという感覚が隠れていることに気づく場合があります。

それまでは「もう別れる」と言うことでしか表現できなかった感情を、「今、嫌われたように感じて怖くなっている」と伝えられるようになる。相手を責め続ける代わりに、「少し安心できる言葉がほしい」と自分の希望を言葉にできるようになる。

このような変化は、対人関係の安定につながる大切な一歩になります。

心理療法では、弁証法的行動療法(DBT)を通して感情調整や対人関係のスキルを身につけたり、メンタライゼーションに基づく治療(MBT)などを通して、自分や相手の行動の背景にある気持ちを考える力を育てたりする方法があります。

トラウマ体験が関係している場合には、現在の安全感や感情調整の力を整えながら、過去の経験が対人関係に与えている影響を扱っていくこともあります。

また、恋人や家族との関係だけに心の安定を委ねず、自分自身の生活や仕事、趣味、友人関係、専門家とのつながりなど、複数の支えを持てるようになることも大切です。

英国のNICE診療ガイドラインでも、BPDからの回復は可能であることを前提に、希望を持てる治療関係や、本人の状況に合わせた継続的な心理的支援の重要性が示されています。

愛情と拒絶が同じ場所から生まれるとき

BPDを抱える人が突き放す言葉を口にするとき、その奥には、相手に深く愛されたい気持ちと、愛されることを信じきれない苦しさが同時に存在している場合があります。

近づけば傷つくかもしれない。離れればひとりになってしまう。相手を信じたいのに、少しでも不安になると、これまでの愛情まで疑ってしまう。

こうした葛藤の中で、最も大切にしたい相手を自分から遠ざけ、関係が壊れたあとに深い後悔を抱えることがあります。

しかし、相手への愛情が強いことと、その関係を安定して維持できることは、別の問題です。どれほど深い愛情があっても、暴言や脅し、過度な束縛が続けば、家族や恋人の心にも傷が残ります。

本人の苦痛を理解しながら、傷つける行動には境界線を引くこと。そして、突き放すことでしか表現できなかった恐怖や孤独を、少しずつ言葉にして伝えられるようになること。

関係が回復していく過程では、相手がどれだけ自分を愛しているかを何度も確かめることから、意見が違ったり、一時的に離れて過ごしたりしても、関係が続いていくという経験を積み重ねることへと、重心が移っていきます。

愛情を確かめるために相手を突き放す必要がなくなり、相手を失う恐怖から自分を傷つけることも減っていく。そうした変化の積み重ねが、本人と周囲の人の双方にとって、安心できる関係を取り戻す道につながっていくのです。

参考文献

1. Moltu, C., Kverme, B., Veseth, M., & Natvik, E. (2023). How people diagnosed with borderline personality disorder experience relationships to oneself and to others: A qualitative in-depth study. International Journal of Qualitative Studies on Health and Well-being, 18(1), 2152220. https://doi.org/10.1080/17482631.2022.2152220

2. Molyneux, E., et al. (2026). “Someone catching me when I’m falling”: A qualitative study exploring satisfaction in romantic relationships where one partner has borderline personality disorder. Frontiers in Psychiatry, 17, 1807149. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2026.1807149

3. Kverme, B., Natvik, E., Veseth, M., & Moltu, C. (2019). Moving Toward Connectedness: A Qualitative Study of Recovery Processes for People With Borderline Personality Disorder. Frontiers in Psychology, 10, 430. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2019.00430

4. National Institute for Health and Care Excellence. (2009). Borderline personality disorder: Recognition and management (Clinical guideline CG78). https://www.nice.org.uk/guidance/cg78


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井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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