解離や過覚醒を和らげる身体ワーク|グラウンディングとオリエンティングの方法

解離のワーク 身体志向・ソマティック

解離や警戒が強いとき、頭では「もう安全な場所にいる」「今は何も起きていない」と理解していても、身体の緊張がなかなか抜けないことがあります。

部屋の中にいても周囲の物音が気になり、誰かが近づいてくる気配に身構える。少し強い口調を聞いただけで胸が苦しくなったり、反対に、急に頭がぼんやりして現実感が薄くなったりすることもあります。

トラウマを経験した人の中には、過去に身につけた警戒反応が現在の生活でも繰り返され、周囲の変化を絶えず確かめながら過ごしている人がいます。そうした状態が長く続くと、安心できる場所にいても身体の力を抜きにくくなり、何も起きていない時間さえ落ち着かなくなることがあります。

また、強いストレスにさらされると、身体の感覚が遠のいたり、自分がここにいる実感が薄れたりすることがあります。これは解離に関連する反応の一つで、緊張によって身体が固まる状態とは異なりますが、どちらも現在の環境や身体感覚をつかみにくくなる場合があります。

こうしたとき、無理に気持ちを落ち着かせようとしたり、呼吸を深くしようとしたりすると、かえって緊張が強まることがあります。身体の内側へ注意を向けること自体が負担になる人もいるためです。

そこで最初に試したいのが、身体を支えているものに注意を向け、そのあとで周囲の環境を静かに確かめていく方法です。

身体の接地感を確かめるグラウンディングと、現在の環境を見渡すオリエンティングを組み合わせることで、過去の危険を思い起こさせる反応から少し距離を置き、今いる場所へ注意を戻すきっかけをつくります。

トラウマで脳はどう誤作動するのか|過覚醒・警戒反応が解除されない理由でも解説しているように、トラウマの影響は、考え方や感情だけでなく、身体の警戒反応や周囲の刺激への敏感さにも現れます。

今回紹介するのは、難しい呼吸法や激しい運動を使わず、身体と環境にある小さな手がかりから、今ここに戻る感覚を探していく身体ワークです。

まず身体の支えを確認する|接地感を取り戻すグラウンディング

解離や警戒が強い人は、最初に身体が何に支えられているのかを確認するところから始めると、取り組みやすい場合があります。

強い緊張の中では、注意が周囲の危険や相手の反応に集中し、自分の身体が今どのような姿勢にあるのか、どこに力が入っているのかがわかりにくくなることがあります。

椅子に座っていても落ち着かず、腰が浮いているように感じたり、足が床についている実感が薄かったりする。解離が強いときには、身体そのものが遠く感じられ、自分がどこにいるのかつかみにくくなることもあります。

こうした状態では、いきなり全身の感覚を確かめようとするより、椅子や床と接している一部分だけに注意を向けてみます。

身体の支えを感じるワーク

安定した椅子に座り、できれば足を床につけます。背中を背もたれに預けてもかまいません。目は開けたまま、呼吸も自然な状態で進めます。

最初は、次の中から一つだけ選びます。

  • 背中が椅子の背もたれに触れている
  • 骨盤が座面に乗り、体重を支えられている
  • 太ももの裏が椅子に接している
  • 肘掛けや机に腕が触れている
  • 足裏が床に接している

たとえば、背中を選んだ場合には、背もたれに触れている部分を数秒だけ確かめてみます。

背中全体を感じようとする必要はなく、肩甲骨のあたりが椅子に当たっている、少し硬いものに触れている、といった程度で十分です。

次に、骨盤や太ももの裏など、もう一か所へ注意を移してみてもよいでしょう。

このとき、身体を大きく動かしたり、無理に力を抜いたりする必要はありません。椅子が身体を支えていることを、わかる範囲で確認していきます。

何も感じられない場合には、実際に座面へ手を触れたり、足の位置を少し変えたりして、目で接触を確かめる方法もあります。

大切なのは、身体の感覚を正確に把握することより、今の自分には身体を支えているものがあると、少しずつ確かめていくことです。

身体の緊張が強いと、無意識に足を踏ん張ったり、肩を持ち上げたり、腰を固めたりしていることがあります。身体の支えに気づくことで、必要以上に力を入れていた部分を認識し、自然に姿勢を変えられることもあります。

ただし、接地感を確かめるだけで必ず緊張が緩むわけではありません。身体への注意が不安や解離を強める場合は、そこでやめて、次の環境を見る方法から始めてもかまいません。

次に周囲の環境を見る|オリエンティングで今いる場所を確かめる

身体の支えを少し確認できたら、次は周囲の環境へ注意を向けていきます。

これがオリエンティングです。

オリエンティングとは、自分が今どこにいて、周囲に何があるのかを確かめる働きを指します。トラウマケアでは、現在の環境に意識を向け直すための方法として活用されることがあります。

ただし、警戒が強い人は、普段から無意識に周囲を観察しています。人の動き、声の変化、出入り口、足音などを細かく確認し、何か危険なことが起きないかを探している場合があります。

そのため、このワークでは、いつものように危険を探すのではなく、今の環境の中で、比較的刺激が弱く、自然に視線を置けるものを探します。

たとえば、カーテンの色、柔らかい光が当たっている壁、机の上にある小物、葉の形が見える植物などです。

視線を向けても緊張が強まらないものを一つ見つけ、数秒ほど眺めてみます。

そのとき、何か特別な感情が生まれる必要はありません。きれいだと思えなくても、心地よさを感じられなくても大丈夫です。

「この壁は見ていてもそれほど疲れない」「この色なら目を向けていられる」といった、小さな違いを確かめていきます。

一つ見つけたら、少し視線を移して、もう一つ探してみます。部屋全体を見回したり、すべてのものを確認したりする必要はなく、視線を置きやすい場所を二つほど見つけられれば十分です。

警戒状態が続いていると、周囲を見ること自体が、危険を探す行動になりやすいものです。しかし、自分にとって負担が少ないものを選んで見ることで、現在の環境との関わり方を少し変えることができます。

また、解離によって周囲の現実感が薄れているときには、部屋の中にある具体的なものを確認することが、現在の場所を把握し直す助けになる場合があります。

視線を動かすとめまいや気分の悪さが出る場合には、首や目を無理に動かさず、一点を眺めるだけにします。

なぜ身体から環境へという順番が役立つのか

解離や過覚醒が強いときには、頭で理解していることと、身体で起きている反応が一致しないことがあります。

「この部屋は安全だ」と考えていても、胸が詰まり、肩や首が固くなり、誰かの足音に反応してしまう。あるいは、言葉で説明しようとすると急に頭がぼんやりして、今何を話しているのかわからなくなることもあります。

こうしたときには、過去の出来事を思い出して整理したり、感情を細かく分析したりすることが負担になる場合があります。

そこで、現在の身体を支えているものを確かめ、そのあとで周囲の環境を見るという、比較的単純な作業から始めます。

椅子に支えられている背中や骨盤の感覚は、今の身体の位置を確認する手がかりになります。そして、目の前にある壁やカーテン、机の形を見ることは、自分が今いる場所を把握する助けになります。

この二つを組み合わせることで、身体の位置と周囲の環境を少しずつ結びつけていくのです。

2017年に発表されたWestらの質的研究では、幼少期に慢性的な虐待を経験し、PTSDを抱える成人女性31人が、10週間のトラウマ・センシティブ・ヨガを体験したあとの変化について語っています。

その中では、自分の身体の状態に気づきやすくなったことや、身体の動かし方を自分で選べるようになったこと、感情を扱う際の主体性が増したことなどが報告されました。

注目したいのは、身体の感覚を取り戻すことが、単にリラックスする経験にとどまらず、自分の状態を知り、自分で選択する感覚にもつながっていた点です。

長くトラウマを抱えてきた人は、自分の身体が思い通りにならないように感じたり、身体から伝わってくる感覚そのものを避けたりすることがあります。だからこそ、身体のどこへ注意を向けるか、どの程度続けるかを自分で決められることにも意味があります。

もちろん、この研究はヨガ全体の体験を扱ったものであり、「身体の支えを確認してから環境を見る」という順番の優位性を直接検証したものではありません。この順番は、身体への注意が負担になりにくい人にとって、実践しやすい入り口の一つとして考えられます。

身体と環境を行き来しながら、現在に戻る感覚を育てる

オリエンティングは、ただ部屋の中を眺める作業ではありません。

過去の危険を思い起こさせる刺激に注意が奪われているときに、現在の環境にある具体的なものへ意識を向け直す作業でもあります。

たとえば、誰かから強い口調で注意されたあと、身体が固まり、相手の言葉が何度も頭の中で繰り返されることがあります。もうその場を離れているのに、胸の緊張や息苦しさが続き、周囲の様子が十分に目に入らなくなる場合もあります。

そうしたとき、椅子に座って骨盤が座面に支えられていることを確かめ、それから目の前の机や壁へ視線を向けてみます。

今いる部屋の明るさ、椅子の硬さ、足裏に触れている床の感触などを、無理のない範囲で確認していきます。

必要であれば、今日の日付や今いる場所を言葉にしてもよいでしょう。過去の出来事が頭に浮かんでいても、今の自分がどこにいるのかを確かめることで、現在の状況を把握し直しやすくなる場合があります。

2025年に発表されたMarshらの質的研究でも、PTSDと物質使用の問題を抱える人への心理教育とトラウマ・センシティブ・ヨガを組み合わせたプログラムにおいて、身体を動かすことや床との接地感、呼吸への気づきが、自分の身体とのつながりを感じ直す経験として語られています。

参加者の中には、それまで身体の緊張に悩まされていたものの、身体を動かしたり、接地感を確かめたりすることで、自分の身体との関わり方が変わったと感じる人もいました。

この研究も複数の支援方法を組み合わせた体験を扱っているため、接地感だけの効果を示すものではありませんが、身体とのつながりを取り戻すことが、当事者にとってどのような意味を持つのかを考える手がかりになります。

解離や強い警戒がある人にとって、自分の身体がどこにあるのかを感じられることや、今いる場所を確認できることは、当たり前の経験とは限りません。

解離とは何か|離人感・現実感喪失・健忘の原因と回復でも扱っているように、解離には、自分の身体や感情、周囲の現実とのつながりが薄れる状態が含まれます。

身体の支えと環境の手がかりを交互に確かめることは、そうした状態から現在の感覚へ戻るための、小さな練習になります。

何も感じられないときや、逆に不安が強くなるとき

この身体ワークを試しても、何も感じられなかったり、かえって不安が強くなったりすることがあります。

解離が強いときには、身体への注意を向けても感覚がつかめず、触れている場所がぼんやりしていることがあります。また、過覚醒が強い人は、静かに座って自分の身体を意識することで、普段は気づかなかった動悸や緊張に注意が集まり、かえって落ち着かなくなる場合があります。

そのようなときには、身体の感覚を確かめる時間を短くしたり、最初から視覚を使ったりする方が取り組みやすいことがあります。

たとえば、足裏の感覚がわからないときには、足を少し動かして位置を確かめる。背中を意識すると不安になる場合には、机の色やカーテンの模様を見る。じっと座っていることが苦しいときには、立ち上がってゆっくり歩き、足が床に触れる感覚を確かめる方法もあります。

無理に呼吸を深くしたり、目を閉じたりする必要もありません。

また、身体の内側へ注意を向けることに強い抵抗がある場合は、目の前の物の形や色を確認するだけでもかまいません。

重要なのは、自分の状態に合わせて方法を変えられることです。

トラウマを経験した人の中には、かつて自分の意思に反して行動を強いられたり、身体を自由に動かせなかったりした経験を持つ人もいます。そのため、身体ワークでも「こうしなければならない」という圧力が強くなると、以前の経験を思い起こす場合があります。

今日は背中の支えを確かめるだけにする。足裏を感じにくければ、床を目で見る。途中で不快になったら、そこで終える。

こうした選択ができること自体が、身体との関係を少しずつ取り戻す経験になります。

ワーク中に現実感がさらに薄れたり、強い恐怖やフラッシュバックが生じたりする場合は、いったん中止して周囲の安全を確認してください。症状が強い場合や繰り返す場合には、解離やトラウマに詳しい専門家と一緒に、自分に適した方法を探すことが望まれます。

解離や強い警戒があるとき、どのような場面で役立つのか

この方法は、日常生活のさまざまな場面に取り入れることができます。

たとえば、人と会ったあとに強い疲労が残り、身体の緊張が抜けないとき。仕事中に注意を受けたあと、頭では気持ちを切り替えようとしても、身体が固まったままになっているとき。家に帰っても周囲の物音が気になり、落ち着いて休めないときなどです。

また、カウンセリング中に過去の出来事を思い出し、急にぼんやりしたり、話している内容が遠く感じられたりしたときにも、現在の環境を確かめる方法が役立つ場合があります。

感情を扱う前に椅子の支えを確認したり、話の途中で一度周囲へ視線を向けたりすることで、自分の状態を確かめながら対話を続けやすくなることがあります。

強い解離症状がある人の場合、感情や記憶を扱う過程で、意識の連続性が途切れたり、出来事の一部を思い出しにくくなったりすることがあります。こうした症状については、解離性健忘の体験談と仕組みでも詳しく説明しています。

なお、突然の意識消失や繰り返す記憶の空白には、解離以外の医学的な原因が関係する場合もあるため、必要に応じて医療機関での評価も大切になります。

身体ワークは、日常生活の中で現在の感覚を取り戻すための補助的な方法です。解離やPTSDの症状が強い場合には、専門的な治療や支援と組み合わせていくことが必要になることもあります。

まとめ|安心は身体と環境の小さな経験から育っていく

解離や強い警戒があるとき、身体は周囲の危険に敏感になったり、反対に、自分の身体や現実とのつながりが薄れたりすることがあります。

そのような状態で、いきなり気持ちを落ち着かせようとしても、思うようにいかない場合があります。

まずは椅子や床に身体が支えられていることを確かめ、次に周囲の環境へ視線を向け、今いる場所を静かに確認していきます。

背中が椅子に触れていること、骨盤が座面に乗っていること、足裏が床についていること。目の前には壁やカーテンがあり、今の自分が比較的負担なく眺められるものがあること。

そうした小さな経験を繰り返すことで、現在の身体と環境に注意を戻すための手がかりを増やしていきます。

最初は数秒しか取り組めなくても、何も感じられない日があっても、そのときの自分に合った方法を選びながら続けることができます。

トラウマからの回復では、過去に何が起きたのかを理解することと同じくらい、現在の生活の中で安心できる経験を持てることが大切になります。

身体が支えられていることを確かめ、周囲の環境に目を向け、自分の意思で注意を動かせるようになること。

そうした小さな身体経験が、強い警戒や解離から現在の感覚へ戻るための、身近な手がかりになっていくのです。


参考文献

1. West, J., Liang, B., & Spinazzola, J. (2017).
Trauma Sensitive Yoga as a Complementary Treatment for Posttraumatic Stress Disorder: A Qualitative Descriptive Analysis.
International Journal of Stress Management, 24(2), 173–195.
幼少期の慢性的な虐待に関連するPTSDを抱えた女性31人を対象に、トラウマ・センシティブ・ヨガ後の身体感覚、自己受容、主体性などの経験を検討した質的研究。

2. Marsh, T. N., et al. (2025).
A Qualitative Study to Explore Feasibility of Implementing Seeking Safety and Trauma-Sensitive Yoga.
PTSDと物質使用の問題を抱える人への複合的な支援プログラムを対象に、参加者の身体感覚、接地感、緊張の変化などの体験を分析した研究。

3. NHS inform.
PTSD and CPTSD self-help guide.
PTSD・複雑性PTSDに対するセルフヘルプ資料。触覚や視覚などを利用して、過去と現在の違いを確認するグラウンディングを紹介。

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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