離人感や「現実感がない」状態とは、自分が現実世界に存在している実感や、周囲の物や人が本当にそこにいるという確かさが薄れ、「これは現実なのか?」という疑問が頭のどこかに居座ってしまう体験です。夢の中にいるように感じたり、世界がフィルム越しに見えたり、距離感や色彩が不自然に思えたりすることもあります。
この感覚は、単に気分の問題ではなく、自己と外界の“接続感”が弱まっているサインでもあり、混乱や不安、孤立感を強く引き起こします。
この症状は「離人性障害」や「現実感喪失症」とも呼ばれ、自己の存在や外界との関係性の認識に影響を及ぼします。離人感が強いと、感情の麻痺、自分自身を遠く感じる体験、周囲が遠ざかったり変化したように感じる体験が伴いやすくなります。つまり、自我と現実の境界がぼやけ、自己と外界の関連性が断ち切られたように感じるため、深い不安や孤立感が生まれやすいのです。
離人感とは
離人感は、自分の行動や感情が「自分のものではない」ように感じられる特異な心理状態です。歩く、笑う、話す、感情を表す――そうした日常的な行為が、どこか他人事のように感じられます。
多くの人が「自分を俯瞰している」「外部の観察者として自分を見ている」と表現します。本人は現実検討(現実かどうかの判断)が保たれていることも多い一方で、“実感”だけが抜け落ちるため、かえって恐ろしく感じられます。
この体験が続くと、自己同一性(自分が自分である感覚)に疑問が生じ、「私は誰なんだろう」「自分の輪郭が掴めない」といった不確かさを抱えやすくなります。結果として、日常生活の小さな判断や対人場面でさえ、疲労と混乱を強めることがあります。
現実感がない人々とは
現実感の喪失は、周囲の世界や環境から自分が切り離されているように感じる状態です。「現実感がない」とは、起きている出来事が理解できないというより、理解はしているのに、体で“現実だ”と感じられない状態を指します。
実感の強度が極端に弱まるため、出来事が遠く、音が薄く、景色が平板に感じられることがあります。
この状態は、とくに心理的な不安やストレスが強い状況で起こりやすい傾向があります。心が圧力に晒されると、人は現実からの逃避として、あるいは心理的な防御機制として、現実感を弱めてしまうことがあるのです。
また、現実感喪失は離人症と密接に関連している場合があります。離人症では、自分の感情・感覚・思考が自分のものではないように感じたり、自分を第三者視点で眺めているかのような体験が生じやすく、結果として「現実と自分の間の距離」が広がっていきます。
離人感や現実感がない原因
離人性障害や現実感喪失症は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、重度のストレス、うつ病、不安障害、解離性障害、薬物の使用など、複数の原因で引き起こされることがあります。
この状態にある人は「現実世界とのつながりを失った」感覚を抱えやすく、日常生活の機能や社会的な相互作用に大きな困難が出ることがあります。周囲と適切につながっていない感じ、現実の感覚が鈍い・湧かない感じは、本人にとって相当に消耗します。
そして、離人感や現実感の喪失は、脳の神経回路が一時的に異常をきたして生じる可能性も指摘されます。とくに、視床下部、扁桃体、海馬など、感情処理・ストレス反応・記憶形成に関与する領域が、ストレスや不安、うつ、トラウマ、パニック、薬物の副作用などの影響を受けると、感覚と情動の結びつきが弱まり、結果として「実感が消える」方向へ傾くことがあります。
これは本人の意思の弱さではなく、**脳と神経が“守るために切り離す”**側へ寄ってしまった状態だと理解した方が回復に繋がります。
離人感や現実感が薄れると起こること
離人感や現実感が薄れた状態では、自分が浮遊しているような感覚や、夢の中にいるような感覚が出やすくなります。周囲が現実的でない、ふわふわして不確か――その「異質さ」こそが、さらに不安を増幅させます。
夢が現実のように見えたり、現実が夢のように感じられたりする混線が起きると、本人は「自分が自分でなくなっていく」恐怖に晒されます。
また、コントロールできない感覚――自分の感情や行動が自分のものではない感じ――は、離人感・現実感喪失の悪循環をつくりやすく、自己同一性の揺らぎを強めます。
その結果、「自分がどこにいるのか」「どこへ向かっているのか」が分からない感覚が生まれ、対人関係でも距離が広がり、孤独感や孤立感が深まっていくことがあります。
自己の分離感
離人感や現実感の喪失は、自分が自分自身から分離されている感覚として現れることがあります。これが「自己の分離感」です。
この状態では、自分が現実世界の一部であるかどうかさえ曖昧に感じられ、周囲の環境や人々の“手触り”が変わってしまうことがあります。自分の身体や行動が自己とは無関係のように感じられ、認識や感覚が歪むため、日常生活にも影響が出やすくなります。
離人感や現実感がない具体例
離人感・現実感喪失を抱える人の表現には、次のようなものがあります。
「1週間ぶりに外に出たけど、なんだかふわふわしてて、現実が遠く感じるんだ。これって離人症って言うのかな。地に足がついてない感じで、すべてがぼんやりしているんだよね。」
「頭がぽやぽやして、体もふわふわ浮いているような感覚があって、なんだか気持ち悪い。これが離人感なのかな、」
このような感覚は、とくに久しぶりの外出や、緊張・不安が引き金となることがあります。離人感が強くなると、周囲の出来事が現実とは思えず、不安や恐怖感が増し、精神的負担が急に大きくなることもあります。こうした場合、専門家に相談することで、症状の理解と対策が見つかることが期待されます。
また、次のような表現も現実感の欠如を示しています。
「お風呂の扉を開けると、まるで夢の国に繋がっているみたい。そこではふわふわした雲の中を旅したり、お母さんのおなかの中に戻った。」
この言葉は、現実感がぼやけ、想像の世界と混ざり合った感覚を表しています。離人感が軽い局面では創造性が働くこともありますが、現実感が極端に薄れると日常生活に支障が出ます。“詩的”に見えることが、本人の苦痛を軽くするわけではない点が重要です。
まとめ:長引くほど生活機能が削られていく。だからこそ早期に整える
離人感や現実感の喪失が長期間続くと、慢性的な疲労感や精神的苦痛が積み重なり、身体の健康にも影響して体力・エネルギーが低下しやすくなります。仕事、家事、人間関係に悪影響が出て、生活の質が著しく下がることもあります。さらに孤立感や不安感が強まると、うつ病や不安障害など別の問題が重なっていくリスクも上がります。
だからこそ、早期の評価と適切な治療が重要です。精神科医や心理療法士などの専門家による評価を受け、原因や引き金を見立てたうえで、心理療法・薬物療法・ストレス管理・リラクゼーションなどを組み合わせていくことで、症状が緩和し、回復と生活の再建が進みます。
加えて、家族や友人の理解とサポートは回復過程で大きな支えになります。孤立を深めず、必要なときに支援へ繋がることが、悪化の予防にもなります。
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【執筆者 / 監修者】
井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)
【保有資格】
- 公認心理師(国家資格)
- 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)
【臨床経験】
- カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
- 児童養護施設でのボランティア
- 情緒障害児短期治療施設での生活支援
- 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
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