見捨てられ不安がしんどい時に試したいセルフチェックと愛着ケア法

見捨てられ不安 愛着スタイル

LINEの返信がいつもより遅いだけで、何度もスマートフォンを確認してしまう。昨日まで優しかった恋人が、今日は少しそっけない。その変化が気になり、何か悪いことをしたのではないか、もう自分への気持ちが冷めてしまったのではないかと考え始める。

相手が忙しいだけかもしれないと頭では分かっていても、不安は簡単に収まりません。仕事に集中できず、食事も喉を通らなくなり、夜になっても相手の言葉や表情を繰り返し思い出してしまうことがあります。

ようやく返事が届くと安心するものの、その安心は長続きせず、次に連絡が途切れると再び不安になる。相手を信じたい気持ちはあるのに、関係を失うことへの恐怖が強く、自分でもどうしてここまで苦しくなるのか分からなくなる場合があります。

見捨てられ不安(abandonment anxiety)とは、大切な人から拒絶されたり、関係を失ったりすることに対して、強い恐怖や不安が生じる状態です。

その背景には、幼少期の親子関係、過去の裏切りや別れ、愛着不安、トラウマなどが関わることがあります。また、現在の恋人や家族との関係が不安定であるために、不安が強まっている場合もあります。

見捨てられ不安が強くなると、相手の気持ちを確かめることに多くの時間を使い、自分が何を感じ、何を必要としているのかを見失いやすくなります。相手からの連絡や愛情が、自分の価値や安心を支える唯一のものになってしまうこともあるのです。

この記事では、見捨てられ不安の心理的な背景や身体の反応、愛着との関係を整理しながら、自分の状態を確認するための14項目のセルフチェックと、しんどいときに実践できる5つの愛着ケア法を紹介します。

見捨てられ不安とは?

見捨てられ不安が強いと、人との関係に少し変化が生じただけで、相手の気持ちが自分から離れていくように感じることがあります。

恋人からの返信が遅くなった。友人が以前ほど話しかけてくれなくなった。パートナーが疲れていて、いつもより口数が少なかった。そのような出来事が、関係の終わりを知らせるもののように感じられてしまうのです。

相手が忙しいだけなのかもしれないと思っても、心の中では「嫌われた」「もう必要とされていない」という考えが大きくなり、何度も確認せずにはいられなくなることがあります。

そのとき本人が恐れているのは、単に相手と会えなくなることだけではありません。大切な人を失うことで、自分の存在や価値まで失ってしまうような感覚が生じる場合があります。

例えば、恋人と一緒にいるときには安心して過ごせても、一人になると急に不安が強まり、自分が本当に愛されているのか分からなくなる。相手に何度も気持ちを確かめ、そのたびに安心しても、しばらくすると再び不安が戻ってくることがあります。

こうした心理を理解するうえで重要なのが、愛着不安という考え方です。

SimpsonとRholes(2017)は、成人の愛着と恋愛関係におけるストレスについて、愛着不安と愛着回避が、それぞれ異なる感情調整や対人反応と関係することを整理しています。

愛着不安が強い場合には、相手が自分を大切に思っているかどうかを気にしやすく、関係が不安定になったときに強い苦痛を感じる傾向があります。

相手との距離が少し変化しただけで心が大きく揺れるのは、その人にとって親しい関係が、それほど重要な安心の支えになっているからかもしれません。

見捨てられ不安の背景:親子関係とトラウマ

子どもにとって、親や養育者は生活を支えてくれる重要な存在です。怖いときには守ってもらい、悲しいときには気持ちを受け止めてもらう。そうした経験を重ねながら、子どもは人との関係に安心を感じるようになります。

しかし、親の機嫌によって態度が大きく変わる家庭では、子どもは安心して甘えることが難しくなる場合があります。

昨日は優しく抱きしめてくれたのに、今日は同じことをしただけで激しく怒られる。泣いて助けを求めても面倒そうにされ、親の期待に応えたときだけ褒めてもらえる。そのような生活が続くと、子どもは親の表情や声の調子を絶えず確かめるようになります。

親が不機嫌になると、自分が何か悪いことをしたのではないかと考える。怒らせないように振る舞い、自分の気持ちよりも親の期待を優先する。そうすることで、何とか関係を保とうとするのです。

特に、親から無視されたり、拒絶されたりする経験が繰り返されると、「本当の気持ちを出したら嫌われる」「愛されるためには相手に合わせなければならない」という感覚が強まる場合があります。

そのような経験は、大人になってからの人間関係にも影響することがあります。

恋人に嫌われないように本音を隠す。友人から頼まれると断れず、相手の都合に合わせ続ける。パートナーが不機嫌になると、自分の疲れや不満を後回しにして、何とか機嫌を直してもらおうとすることもあります。

Cyrら(2010)は、55研究を対象としたメタ分析で、虐待や複数の社会的な危険要因のある家庭では、子どもの安定した愛着が少なく、愛着の混乱が多く見られることを報告しています。

幼少期の養育環境が、その後の人間関係に影響する可能性を示した研究ですが、過去の経験だけで成人後の愛着が決まるわけではありません。その後にどのような人と出会い、どのような関係を経験してきたかによっても、人への信頼感や安心の持ち方は変化していきます。

自分の愛着の傾向を詳しく知りたい場合は、愛着スタイル(アタッチメント)セルフチェックも参考になります。

トラウマが強化する「見捨てられ恐怖」

幼少期に親から無視されたり、突然置き去りにされたり、家庭内で暴力や強い支配を経験したりした人は、大人になってからも、人との関係が変化することに敏感になる場合があります。

例えば、子どもの頃、親が怒ると何日も口をきいてもらえなかったとします。子どもは何が悪かったのか分からず、どうすれば以前のように話してもらえるのかを考え続け、不安な時間を過ごしていたかもしれません。

大人になって恋人が黙り込んだとき、相手は単に疲れているだけであっても、当時のような不安が一気に込み上げることがあります。

また、過去に恋人から突然別れを告げられたり、信頼していた友人から裏切られたりした経験が、現在の関係に影響する場合もあります。

相手の返事が来ない。予定が延期になった。以前より表情が硬く感じられた。こうした出来事に触れた瞬間、過去に経験した拒絶や孤独が重なり、現在の出来事以上に強い恐怖が生じることがあります。

本人は今の相手について考えているつもりでも、その感情の強さには、過去の経験が関わっている場合があるのです。

ただし、現在の相手が実際に約束を繰り返し破ったり、突然連絡を絶ったりするなど、不安を強める行動をしている場合もあります。

自分が不安になる理由をすべて過去のトラウマに求めるよりも、現在の関係で何が起きているのかを確かめることが大切です。

見捨てられ不安がもたらす心と体の変化

見捨てられ不安が強まると、感情だけでなく身体にもさまざまな反応が現れることがあります。

相手からの返事を待っている間に胸が苦しくなり、何度もスマートフォンを確認する。胃が重くなり、食事をする気になれない。夜になっても考えが止まらず、ようやく眠れても途中で何度も目が覚めることがあります。

また、相手から拒絶されたように感じた瞬間、強い怒りが湧き上がったり、急に距離を取りたくなったりする場合もあります。反対に、頭の中が真っ白になり、何も言えなくなることもあるでしょう。

見捨てられ不安が強いときに現れやすい反応には、次のようなものがあります。

  • 身体の反応: 胸の圧迫感、息苦しさ、動悸、胃の不快感、頭痛、吐き気、肩や首のこわばり。
  • 睡眠や食事の変化: 寝つきが悪い、途中で目が覚める、食欲がなくなる、反対に過食へ向かう。
  • 闘争的な反応: 相手を責める、激しく問い詰める、怒りを抑えられなくなる。
  • 逃避的な反応: 傷つく前に自分から関係を断つ、連絡を絶つ、相手から距離を取る。
  • 凍結や感情の麻痺: 言葉が出ない、身体が固まる、何も感じなくなる、現実感が薄れる。

こうした反応には、ストレスによる心身の変化が関わっている場合があります。

ただし、胸痛や息苦しさ、吐き気などには身体的な原因が関係することもあるため、症状が強いときや繰り返すときには医療機関での確認も必要です。

トラウマと身体の反応については、身体はトラウマを記憶する|脳・心・体のつながりでも詳しく扱っています。

人間関係に及ぼす影響:依存と自己犠牲の悪循環

見捨てられ不安が強いと、人との関係を失わないために、自分の希望や限界を後回しにしてしまうことがあります。

恋人から誘われれば、疲れていても予定を変更して会いに行く。友人から頼まれたことを断れず、相手の都合に合わせ続ける。傷つくことを言われても、関係が悪くなるのを恐れて我慢する場合があります。

こうした関わりが続くと、自分が何を望んでいるのか分からなくなり、相手に必要とされることが、自分の価値を確かめる唯一の方法のように感じられることがあります。

一方で、不安が強くなると、相手の気持ちを何度も確認したくなる場合もあります。

LINEの返信が遅い理由を繰り返し尋ねたり、SNSで相手の行動を確認したりする。恋人がほかの人と仲良くしていると、強い嫉妬や不安が生じ、相手の行動を制限したくなることもあるでしょう。

こうした関係では、次のような悪循環が起きることがあります。

  1. 相手の態度が変わったように感じ、不安が強まる。
  2. 愛情を確認するために、連絡や質問を繰り返す。
  3. 相手が負担を感じ、少し距離を取るようになる。
  4. その距離を「見捨てられた証拠」として受け取る。
  5. 不安や怒りがさらに強まり、確認や束縛が増えてしまう。

本人は安心したいと思って行動していても、その行動がかえって関係を難しくしてしまう場合があります。

また、見捨てられることが怖いあまり、相手から別れを告げられる前に、自分から関係を終わらせようとすることもあります。

こうした悪循環を変えるためには、相手の行動ばかりを確認するよりも、自分が何に不安を感じ、その不安からどのような行動を取っているのかを理解することが大切です。

自分の状態を知る:見捨てられ不安セルフチェック

以下は、現在の人間関係の中で、見捨てられることへの不安がどのように現れているのかを確認するための14項目のセルフチェックです。

最近の恋愛や友人関係、家族とのやり取りを振り返りながら、自分に当てはまるものへチェックを入れてみてください。

見捨てられ不安のセルフチェック14項目

  • 他人が自分を見捨てるのではないかと、頻繁に心配する。
  • 親しい人が少しでも離れると、不安や孤独感を強く感じる。
  • 他者からの評価や承認を強く求めてしまう。
  • 関係が悪化するのを防ごうとして、相手の顔色をうかがったり、過度に尽くしてしまう。
  • 相手に無視されたり、連絡が来なかったりすると、強い不安や焦りを感じる。
  • 人間関係において、自分が必要とされていないと感じることが多い。
  • 親しい人と意見が食い違うと、もう見捨てられるのではないかと感じる。
  • 過去に裏切られたり、突然関係を断たれたりした経験が、今も強く影響していると感じる。
  • 他人に過剰に依存してしまうことがある。
  • 関係を失う恐怖から、相手を束縛したり、過度に干渉してしまう。
  • 見捨てられることを恐れて、自分から人を遠ざけたり、関係を断ったりすることがある。
  • 恋人や友人がほかの人と仲良くしていると、強い嫉妬や不安を感じる。
  • 自分の気持ちを相手へ十分に伝えられず、関係を深めることが難しいと感じる。
  • 孤独感は強いのに、人との関係を続けることが難しい。

セルフチェックの結果と目安

7項目以上当てはまる場合

複数の対人場面で、見捨てられ不安が現れている可能性があります。恋人や友人との関係で強い不安が続き、仕事や睡眠、食事などの生活にも影響している場合には、専門家と一緒に心理的な背景を整理することが役立ちます。

4〜6項目当てはまる場合

相手や状況によって、見捨てられ不安が強くなる可能性があります。特にどのような関係で不安が生じやすいのか、相手のどのような言葉や行動に敏感になるのかを振り返ってみましょう。

3項目以下の場合

当てはまる項目が少なくても、特定の恋人や家族との関係で、強い見捨てられ不安を感じることがあります。項目の数だけでなく、不安の強さや生活への影響にも目を向けることが大切です。

※このセルフチェックは、自己理解のために作成したものであり、医学的な診断や標準化された心理検査ではありません。点数区分も研究によって妥当性が検証されたものではないため、症状の重さを判定する基準としては使用せず、現在の困りごとを整理する目安として活用してください。

愛着障害と見捨てられ不安の関係

見捨てられ不安の背景を理解するうえでは、愛着スタイルという考え方が役立ちます。

愛着とは、怖いときや不安なときに、親しい相手とのつながりを求め、安心を得ようとする働きと関係しています。

幼い頃、親へ助けを求めたときに受け止めてもらえる経験を重ねると、人との関係に安心を感じやすくなる場合があります。一方で、親の反応が予測できなかったり、求めたときに拒絶されたりする経験が続くと、相手との関係を失うことへの警戒が強まることがあります。

成人の愛着は、主に愛着不安と愛着回避という二つの側面から理解されますが、子どもの愛着研究では、さまざまな分類が用いられてきました。

不安型・アンビバレント型

相手とのつながりを強く求める一方で、その関係を失うことへの恐怖が大きくなりやすい傾向があります。

恋人からの返事が遅いだけで不安になり、何度も愛情を確認したくなる。相手が自分から離れるように感じると、強く引き止めようとする場合があります。

回避型

人との関係を求める気持ちがあっても、自分の弱さや本音を見せることに抵抗を感じ、親密な関係になるほど距離を取りたくなる場合があります。

誰かに頼ることで傷つくことを恐れ、一人で何とかしようとする傾向が現れることがあります。

無秩序型

子どもの愛着研究で用いられる分類の一つで、安心を求める相手が同時に恐怖の対象でもあるような状況と関連して研究されています。

成人後の関係では、人に近づきたい気持ちと、近づくことへの恐怖が複雑に絡み合う場合があります。

誰かに甘えたいと思いながらも、実際に親しくなると怖くなり、自分から距離を取ってしまう。その一方で、相手が離れると強い不安が生じることがあります。

ただし、成人の愛着スタイルと医学的な診断としての愛着障害は区別して理解する必要があります。また、愛着の傾向は一つの型に固定されるものではなく、相手との関係や経験によって変化する場合があります。

重要なのは、自分が人との関係に何を求め、どのような場面で不安や恐怖が生じるのかを理解していくことです。

境界性パーソナリティ障害と見捨てられ不安

境界性パーソナリティ障害(BPD)では、見捨てられることへの強い恐怖が、感情の揺れや対人関係の不安定さと結びついて現れる場合があります。

例えば、恋人を誰よりも信頼できる存在として感じていたのに、些細なすれ違いをきっかけに、急に裏切られたような怒りが湧き上がることがあります。

相手に深く愛されたい気持ちがある一方で、いつか捨てられるのではないかという不安が強く、何度も愛情を確かめたくなる。相手の反応が期待と違うと、激しく責めたり、反対に自分から関係を終わらせようとしたりすることもあります。

本人にとっては、大切な人との関係を失うことが、自分の存在や価値まで失うような苦しさにつながる場合があります。

そのため、相手を強く求める気持ちと、傷つく前に遠ざけようとする気持ちが、短い時間の中で揺れ動くことがあります。

こうした心理には、見捨てられることへの恐怖に加えて、自己評価の不安定さや感情調整の難しさなど、さまざまな要因が関係している場合があります。

ただし、見捨てられ不安が強いことだけで、境界性パーソナリティ障害と判断することはできません。愛着不安や過去のトラウマ、現在の対人関係の問題によっても、似た反応が生じることがあります。

境界性パーソナリティ障害(BPD)の原因・症状・恋愛と対人関係では、見捨てられ不安が感情や対人関係にどのように影響するのかを詳しく扱っています。

見捨てられ不安を和らげるための5つのケア法

見捨てられ不安が強いときには、相手から安心できる言葉をもらうことばかりに意識が向き、自分自身の感情や身体の状態を確かめる余裕がなくなることがあります。

そのようなときには、不安を無理に消そうとするより、今の自分に何が起きているのかを理解し、落ち着いて対応するための時間を持つことが役立ちます。

ここからは、日常生活の中で取り入れやすい5つの方法を紹介します。

① 感情の「出どころ」をたどる

恋人から返信が来ないときや、相手の態度が冷たく感じられたときには、まず自分が何に傷つき、何を恐れているのかを確かめてみます。

相手に嫌われたと思ったのか、自分が必要とされなくなったように感じたのか。それとも、突然一人になることが怖かったのか。自分の感情を少し整理できたら、過去にも似たような不安を感じたことがなかったかを振り返ることもできます。

例えば、次のような経験が関係している場合があります。

  • 子どもの頃、親が不機嫌になると強い不安を感じていた。
  • 以前の恋人から突然別れを告げられた。
  • 信頼していた友人や先生から拒絶された経験がある。
  • 自分の気持ちを伝えたことで、関係が悪くなった経験がある。

現在の出来事に過去の傷つきが重なることで、不安が大きくなっている場合があります。

ただし、苦しさが強いときには無理に過去を掘り下げず、今誰といて、何が起きているのかを確かめるだけでも十分です。

② 呼吸とグラウンディングで神経を「今」に戻す

強い不安が生じると、呼吸が浅くなり、胸や肩に力が入ることがあります。相手のことを考え続けているうちに、現在の自分の身体や周囲の状況へ注意を向けることが難しくなる場合もあります。

そのようなときには、次のような方法を試してみます。

  • 呼吸: 苦しくない範囲で4秒ほどかけて息を吸い、6秒ほどかけてゆっくり吐く。
  • 足裏の感覚: 椅子に座り、足裏が床に触れている感覚を確かめる。
  • 身体の支え: 背中が背もたれに触れていることや、太ももが座面に支えられている感覚へ注意を向ける。
  • 周囲の確認: 視線をゆっくり動かし、部屋の家具や窓、目に入る色などを確かめる。

こうした動作は、不安でいっぱいになった意識を、現在の身体や環境へ少しずつ戻すためのものです。

呼吸や身体感覚に注意を向けることで、かえって苦しさが強くなる場合には、無理に続けず、周囲の景色を見るなど負担の少ない方法を選びます。

③ 感情を書き出して「外に置く」

見捨てられ不安が強いときには、実際に起きた出来事と、自分が想像していることが混ざり合いやすくなります。

例えば、恋人から3時間返信が来なかったとき、まだ何も確かめていないのに、「嫌われた」「別れたいと思っているのかもしれない」と考えが広がってしまうことがあります。

そのようなときには、ノートやスマートフォンのメモを使って、次の3つを分けて書いてみます。

  • 事実: 恋人から3時間返信が来ていない。
  • 感情: 不安、寂しさ、怒り、見捨てられることへの恐怖。
  • 身体感覚: 胸が苦しい、胃が重い、肩が緊張する、落ち着かない。

こうして整理すると、現実に起きていることと、自分が恐れていることを少し分けて考えやすくなります。

Liebermanら(2007)は、感情に名前をつけることが、感情的な刺激に対する脳の反応に影響することを報告しています。

自分が不安なのか、怒っているのか、それとも寂しいのかを言葉にすることは、感情を理解するための手がかりになります。

ただし、書くことで考え込みが強まる場合には、長く続けず、短い言葉だけで終えてもかまいません。

④ 安全な人に「そのままの不安」を話してみる

見捨てられ不安が強い人ほど、「こんなことを言えば重いと思われる」「不安を伝えたら嫌われるかもしれない」と考え、本当に苦しい気持ちを隠してしまうことがあります。

しかし、安心できる関係の中で、自分の不安を少しずつ言葉にする経験は、これまでの対人関係のあり方を変える手がかりになります。

例えば、次のような伝え方があります。

  • 「返事が遅いと、少し不安になることがある」
  • 「最近、人との関係で不安が強くなっているので、少し話を聞いてほしい」
  • 「急に予定が変わると不安になるから、分かった時点で教えてもらえるとうれしい」

相手を責めるよりも、自分がどのように感じているのかを伝えることで、互いの気持ちを理解しやすくなる場合があります。

ただし、安心したい気持ちが強くても、相手には相手の生活や限界があります。自分の不安を伝えることと、その不安をすべて相手に解消してもらうことを分けて考えることも大切です。

身近に安心して話せる人がいない場合には、トラウマ治療やカウンセリングなどの専門的な支援を利用することも選択肢になります。

⑤ 自分を大切に扱う時間を「予定」として入れる

見捨てられ不安が強いと、生活の中心が恋人や友人の予定になってしまうことがあります。

相手から連絡が来るかもしれないと考えて、自分の予定を入れずに待ち続ける。会いたいと言われれば疲れていても応じ、自分が楽しみにしていたことを後回しにする場合もあります。

そのような生活が続くと、相手がいない時間に何をすればよいのか分からなくなり、孤独感がさらに強まることがあります。

そのため、一日の中に、自分のためだけに使う時間を少しずつ取り入れてみます。

  • 一人でゆっくりお茶を飲む。
  • 近所を散歩し、外の空気に触れる。
  • 好きな音楽を聴いたり、本を読んだりする。
  • 自分の食べたいものを選び、落ち着いて食事をする。
  • 誰かの予定に合わせず、自分が休みたい時間に休む。

大切なのは、誰かから求められたから行動するのではなく、自分が何をしたいのかを確かめ、そのために時間を使ってみることです。

相手からの連絡を待っている間も、自分の生活は続いています。恋人や友人との関係を大切にしながら、自分自身の時間も持てるようになることが、自己信頼を育てる一つの経験になります。

自分を守るための境界線(バウンダリー)を引く

見捨てられ不安が強い人は、相手から嫌われることを恐れて、自分の希望や限界を伝えられない場合があります。

恋人から急に会いたいと言われると、疲れていても断れない。友人から頼まれたことを引き受け続け、自分の予定を後回しにしてしまう。相手が不機嫌になると、自分が何とかしなければならないと感じることもあるでしょう。

こうした関係では、相手を大切にすることと、自分を犠牲にすることが混ざり合っている場合があります。

境界線とは、自分がどこまで責任を持ち、何を引き受け、どのようなことには応じられないのかを示すものです。

例えば、次のような伝え方があります。

  • 「今日は疲れているので、ゆっくり休みたい」
  • 「今は対応できないから、明日返事をします」
  • 「そのことは、あなた自身が決めていいと思う」
  • 「今日はここまでにして、続きはまた話したい」
  • 「その言い方をされるとつらいので、落ち着いて話したい」

最初は、断った後に強い罪悪感や不安が生じるかもしれません。相手が怒っていないか気になり、何度も謝りたくなることもあるでしょう。

しかし、自分の気持ちを伝えた後でも関係が続く経験を重ねることで、少しずつ自己主張への恐怖が和らぐ場合があります。

また、境界線を伝えたときに、相手が繰り返し威圧したり、罪悪感を利用して従わせようとしたりする場合には、その関係自体を見直す必要があるかもしれません。

見捨てられることが怖いからといって、自分の生活や尊厳を犠牲にし続ける必要はありません。

相手を大切にすることと、自分を大切にすること。その両方ができる関係を育てていくことが、見捨てられ不安からの回復にとって重要になります。

まとめ:見捨てられ不安を癒す道は、「自己信頼」を育てる道

見捨てられ不安が強いと、人との関係を失うことが怖くなり、自分の気持ちよりも相手の反応を優先するようになる場合があります。

恋人からの返信が遅いだけで不安になり、相手の言動を何度も確認する。嫌われることを恐れて本音を隠し、無理な要求にも応じてしまう。そのような生活が続くと、親しい関係であっても十分に安心できなくなることがあります。

こうした反応の背景には、幼少期の親子関係や過去の傷つき、現在の対人関係で感じている不安などが関係している場合があります。

大切なのは、自分がなぜこれほど見捨てられることを恐れるのかを理解し、その不安によってどのような行動を取っているのかを確かめることです。

相手の返事を待っている間に、自分の身体がどのように緊張しているのかを知る。相手が離れていくように感じたとき、実際に何が起きているのかと、自分が何を恐れているのかを分けて考える。

また、信頼できる人へ少しずつ気持ちを伝えたり、自分のための時間を確保したりすることも、自己信頼を育てる経験になります。

自分が不安になったとき、何をすれば少し落ち着けるのか。どのような関係なら安心して過ごせるのか。何を嫌だと感じ、どこまでなら相手に合わせられるのか。

そうした感覚を一つずつ理解できるようになると、相手の反応だけに左右されていた生活から、自分の気持ちを大切にしながら人と関われる生活へと変わっていくことがあります。

見捨てられ不安からの回復は、人とのつながりを大切にしながら、自分自身への信頼も育てていく過程です。

不安が強い日もあるでしょう。相手の反応が気になり、以前と同じように確認したくなることもあります。そのようなときには、何がきっかけになったのかを振り返り、自分の感情や身体の状態を確かめながら、必要な対応を選び直していくことが大切です。

人との関係を失うことへの恐怖だけで行動するのではなく、自分がどのような関係を築きたいのかを考えられるようになる。その積み重ねが、安心して人とつながる力を少しずつ育てていきます。

参考文献

  1. Cyr, C., Euser, E. M., Bakermans-Kranenburg, M. J., & van IJzendoorn, M. H.(2010). Attachment Security and Disorganization in Maltreating and High-Risk Families: A Series of Meta-Analyses. Development and Psychopathology, 22(1), 87–108.
  2. Simpson, J. A., & Rholes, W. S.(2017). Adult Attachment, Stress, and Romantic Relationships. Current Opinion in Psychology, 13, 19–24.
  3. Lieberman, M. D., et al.(2007). Putting Feelings Into Words: Affect Labeling Disrupts Amygdala Activity in Response to Affective Stimuli. Psychological Science, 18(5), 421–428.

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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