夢の中にいるような感覚の病気:解離・離人感・現実感消失症の症状と対策

夢の中にいるような感覚 解離・解離性障害

朝、目を覚ましていつもの部屋を見渡しても、どこか現実味がない。窓から差し込む光も、家族の声も、昨日までと変わらないはずなのに、自分だけが薄い膜の向こう側にいるように感じる。外に出れば普通に歩けるし、人と会話もできる。それでも、自分が本当にここにいるという実感が、どこか抜け落ちている。

まるで長い夢から覚めきっていないような感覚です。周囲の景色が映画の背景のように見えたり、自分の身体が勝手に動いているように感じられたりすることもあります。目の前で起きている出来事を理解していても、そこに自分が参加しているという手応えが薄く、時間だけが過ぎていくように感じられます。

こうした体験は、心理学や精神医学では「離人感」や「現実感消失」と呼ばれ、解離症状の一つとして理解されています。強いストレスや睡眠不足などによって一時的に生じる場合もあれば、症状が長引き、生活に大きな支障をきたす場合もあります。

特につらいのは、この違和感を周囲に説明しにくいことです。身体は動くし、話もできるため、外からは普段と変わらなく見えます。しかし本人の内側では、自分と世界とのつながりが薄れていくような不安や孤独が続いています。

この記事では、夢の中にいるような感覚がなぜ起こるのか、解離や離人感・現実感消失症にはどのような特徴があるのかを整理しながら、トラウマとの関係や回復に向けた対処法について解説していきます。

Table of Contents

  1. 夢の中にいるような感覚とは?現実感がなくなるときに起きていること
  2. 解離・離人感・現実感消失症にみられる主な症状
    1. ① 離人感|自分が自分ではないように感じる
    2. ② 現実感消失|周囲の世界が夢や映画のように見える
    3. ③ 自動操縦のように生活している感覚
  3. 夢と現実の区別がつかない感覚と、離人感・現実感消失症の違い
  4. 現実感がなくなる原因|ストレス・不安・トラウマとの関係
    1. 強いストレスや不安によって現実感が薄れる
    2. 睡眠不足や疲労、身体疾患が関係する場合
    3. 幼少期からの複雑なトラウマと解離
  5. 身体が凍りつくとき、感情や現実感が遠ざかる
  6. 現実がつらすぎるとき、心の中に別の世界をつくる
  7. 離人感・現実感消失症が長引くと、なぜ不安が強くなるのか
  8. 夢の中にいるような感覚が日常生活にもたらす影響
    1. 人と一緒にいても孤独を感じる
    2. 仕事や勉強への集中が難しくなる
    3. 感情が分からなくなり、自分の人生が遠く感じられる
  9. 現実感を取り戻すための5つの対処法
    1. ① 五感を使って周囲の環境に意識を向ける
    2. ② 身体を少し動かし、生活の感覚を取り戻す
    3. ③ 睡眠と生活リズムを整える
    4. ④ 現実感の確認から少し離れ、日常の活動に戻る
    5. ⑤ 安心できる人とのつながりを保つ
  10. 解離・離人感・現実感消失症の治療とトラウマケア
    1. 身体の緊張を和らげ、安心できる感覚を育てる
    2. 過去のトラウマと現在の反応を整理する
    3. 安心できる関係の中で、自分の感覚を取り戻す
  11. 夢の中にいるような感覚が続くとき、病院に行く目安
  12. 現実感がない状態は治るのか|回復の過程で大切なこと
  13. 当相談室での解離・離人感・現実感消失に関するカウンセリング
  14. 参考文献
    1. ご相談をご希望の方へ

夢の中にいるような感覚とは?現実感がなくなるときに起きていること

私たちは普段、自分の身体を動かし、目の前の景色を見て、人の声を聞きながら、自然に「自分がここにいる」という感覚を持っています。自分の考えや感情と周囲の出来事が結びついているため、いちいち意識しなくても現実の中で生活することができます。

ところが、この当たり前の感覚が不安定になると、身近な場所や人までよそよそしく感じられるようになります。毎日通っている道が初めて訪れた場所のように見えたり、親しい相手と話していても、その声が遠くから聞こえてくるように感じられたりします。

現実感が薄れているときには、次のような体験が起こることがあります。

  • 夢の中にいる感覚: 起きているのに、眠っているときの夢が続いているように感じる。
  • 自分が自分ではない感覚: 身体や感情が自分から離れ、別の誰かになったような違和感がある。
  • 世界が遠く感じる: 景色や人の声が、ガラスや薄い膜の向こう側にあるように感じる。
  • 現実とのつながりが弱くなる: 目の前の出来事を理解していても、自分がそこに参加している実感が薄い。
  • 時間の感覚が変わる: 時間が止まったように感じたり、一日を過ごした手応えが残らなかったりする。

こうした状態では、現実を理解する働きと、現実を自分の体験として感じる働きとの間に、ずれが生じていると考えられます。

例えば、目の前にある机が本物であることは分かっているのに、どこか作り物のように見える。自分が話していることも理解しているのに、誰かが自分の声を使って話しているような気がする。その違和感を説明しようとしても、適切な言葉がなかなか見つかりません。

このような現実味の薄れは、一時的な疲労や強い緊張のあとにも起こります。一方で、離人感や現実感消失が繰り返されたり、何週間も続いたりすると、生活そのものが不安定になります。自分の感覚を信頼しにくくなり、仕事や人間関係にも影響が広がっていきます。

解離・離人感・現実感消失症にみられる主な症状

夢の中にいるような感覚は、人によって現れ方が異なります。自分自身の存在が遠く感じられる場合もあれば、周囲の世界が現実離れして見える場合もあり、両方が重なって生じることもあります。

① 離人感|自分が自分ではないように感じる

離人感とは、自分の身体や感情、思考が自分から切り離されたように感じられる状態です。

鏡に映った自分の顔を見ても、どこか知らない人のように感じることがあります。自分の顔だと理解しているのに、いつものような親しみが湧いてこない。手足を動かしていても、自分の意思で動かしているという感覚が弱く、身体を遠くから操作しているように感じられることもあります。

離人感では、次のような症状がみられます。

  • 自分の身体が自分のものではないように感じる。
  • 鏡に映る自分の顔に違和感がある。
  • 自分の行動を外側から眺めているように感じる。
  • 嬉しい、悲しいといった感情の実感が薄くなる。
  • 自分の声や考えが、自分から離れているように感じる。

感情の感じ方が変わることも、離人感の特徴です。嬉しい出来事があっても気持ちが動かず、悲しい知らせを聞いても涙が出てこない。頭では状況を理解できるため、感情がついてこない自分に戸惑い、以前の自分と何かが変わってしまったような不安を抱えることがあります。

Sierraら(2002)は、離人症性障害のある人の身体反応を調べ、感情を伴う刺激に対する自律神経の反応が弱まる傾向を報告しています。こうした研究は、離人感に伴う感情の鈍さを、身体の反応という側面から理解する手がかりになっています。

② 現実感消失|周囲の世界が夢や映画のように見える

現実感消失は、自分の外側にある世界が遠く、人工的で、現実味を失ったように感じられる状態です。

普段見慣れている街並みが映画のセットのように見えたり、周囲の景色に薄い霧がかかっているように感じられたりします。人の表情や動きが不自然に見えることもあり、目の前で起きている出来事が、どこか別の世界の出来事のように思えてきます。

現実感消失では、次のような感覚が現れることがあります。

  • 周囲の景色が夢の中のように感じられる。
  • 世界全体に霧がかかったように見える。
  • 人や物が遠く、平面的に見えることがある。
  • 周囲の音や人の声が遠くから聞こえるように感じる。
  • 見慣れた場所なのに、どこか知らない場所のように思える。

家族と食卓を囲んでいても、その光景をガラス越しに見ているように感じることがあります。会話の内容は理解できるし、相手の表情も読み取れる。それでも、そこに自分が一緒にいるという実感が薄く、世界との間に見えない距離が生まれます。

③ 自動操縦のように生活している感覚

離人感や現実感消失が強まると、普段の行動にも奇妙な違和感が現れます。

朝起きて支度をし、電車に乗って職場へ向かう。仕事をして帰宅するまで、必要なことは一通りこなしているのに、一日を自分で過ごしたという感覚が弱いのです。

誰かと会話していても、口から言葉が出ているだけで、そこに気持ちが伴っていないように感じる場合があります。人の話を聞きながら返事はできても、会話の場面に十分に入り込めず、どこか遠くから出来事を眺めているような感覚が続きます。

この状態が長引くと、生活の中で得られる充実感や達成感も薄れやすくなります。頑張って仕事を終えても実感が湧かず、楽しい時間を過ごしても心に残りにくいため、次第に疲労感や虚しさが積み重なっていきます。

夢と現実の区別がつかない感覚と、離人感・現実感消失症の違い

「夢の中にいるみたい」「現実なのか分からなくなる」という表現は、離人感や現実感消失を経験している人からも聞かれます。ただし、医学的には、そのとき本人が現実をどのように理解しているかが重要になります。

離人感・現実感消失症では、周囲が夢のように感じられていても、実際には現実であると理解する力が保たれています。自分の身体が他人のもののように感じられても、本当に他人の身体になったと考えているわけではなく、感覚と認識の間にずれがあることを本人も分かっています。

この現実を見分ける力は「現実検討能力」と呼ばれ、離人感・現実感消失症を診断する際の重要な特徴となっています。

一方、統合失調症などで精神病症状が現れている場合には、現実についての判断そのものが大きく変化することがあります。また、解離症状の中には、記憶が抜け落ちたり、時間の経過を思い出せなくなったりするものもあり、離人感・現実感消失症とは異なる評価が必要になります。

同じように「現実が分からない」と表現していても、その内側で起きていることは一様ではありません。症状が長引く場合には、どのような感覚が、いつ、どのくらい続いているのかを詳しく確認することが大切です。

現実感がなくなる原因|ストレス・不安・トラウマとの関係

夢の中にいるような感覚が生じる背景には、心理的なストレス、睡眠の状態、身体疾患、薬物の影響など、さまざまな要因が関係しています。

主な原因や関連する要因には、次のようなものがあります。

  • 精神的なストレス: 強い不安、緊張、パニック発作、長期間の心理的負担
  • 精神疾患: 解離症、うつ病、不安症、PTSDなど
  • 睡眠や生活習慣: 睡眠不足、過労、生活リズムの乱れ
  • 身体的な要因: てんかんなどの神経疾患や、一部の薬物・アルコールの影響
  • 過去のトラウマ: 幼少期の虐待、いじめ、家庭内暴力、長期間の心理的な脅威

症状が現れた時期だけでなく、それ以前からどのような負担が続いていたのかを振り返ることで、理解につながることがあります。

強いストレスや不安によって現実感が薄れる

人は大きな危険や強い緊張に直面すると、心身の状態が普段とは大きく変わります。心拍数が上がり、周囲の刺激に敏感になることもあれば、反対に感覚が鈍くなり、頭が真っ白になることもあります。

特に、逃げ場のない状況や長時間の緊張が続いていると、感情や身体感覚が遠くなるような反応が生じる場合があります。

仕事で強いプレッシャーを受け続けているときや、人間関係の問題から気持ちが休まらないときなどに、急に周囲の現実味が薄くなることがあります。また、パニック発作の最中や強い不安を感じたあとに、自分の身体や周囲の世界が普段と違って感じられる場合もあります。

こうした感覚が一度生じると、「また起きたらどうしよう」という不安が新たな負担になります。感覚の変化を警戒するほど自分の状態が気になり、ますます日常の活動に集中しにくくなることがあります。

睡眠不足や疲労、身体疾患が関係する場合

睡眠が不足していると、注意力や集中力だけでなく、周囲の出来事を生き生きと感じる力も低下しやすくなります。徹夜に近い状態が続いたあとに、景色がぼんやり見えたり、頭が働いていないように感じられたりするのは、その一例です。

また、離人感や現実感消失に似た体験は、てんかんなどの神経疾患や、薬物・アルコールの影響によっても生じることがあります。症状の背景を理解するためには、身体面と精神面の両方から検討する必要があります。

突然症状が現れた場合や、意識が途切れる、けいれんするといった変化が重なる場合には、医療機関での評価が重要になります。

幼少期からの複雑なトラウマと解離

幼い頃から家庭内の暴力や心理的虐待、いじめなどにさらされていると、安心して過ごせる時間が少なくなります。相手の機嫌を読み、怒らせないように気を配りながら生活するうちに、心身が常に緊張した状態になっていくことがあります。

そのような環境では、苦痛を感じ続けること自体が大きな負担になります。逃げることも助けを求めることも難しい状況で、怖さや痛み、悲しみから意識が離れていくような反応が生じる場合があります。解離は、こうした耐え難い状況への適応として理解できることがあります。

Simeonら(2001)は、離人症性障害のある人と健康な人を比較した研究で、幼少期の対人トラウマ、とりわけ心理的虐待と離人感との関連を報告しています。幼少期に受けた精神的な傷つきが、その後の自己感覚に影響する可能性を示した研究です。

例えば、親の怒鳴り声を聞くたびに身体が固まり、自分の気持ちを押し殺していた子どもが、大人になってからも強い緊張を感じる場面で現実感を失うことがあります。かつて身につけた反応が、似たような緊張や不安をきっかけに再び現れるという理解が考えられます。

発症にはさまざまな背景があるため、その人の生活歴や現在の状況を含めて丁寧に見ていくことが大切です。

関連する解説:現実が統合できなくなったときに起きる意識の断絶、解離という心の防衛反応

身体が凍りつくとき、感情や現実感が遠ざかる

強い恐怖や緊張が続くと、身体が硬くなり、周囲の音や人の声が遠く感じられることがあります。頭では何が起きているのか理解していても、身体が動かず、感情が湧いてこなくなるような状態です。

例えば、威圧的な相手から突然怒鳴られたときに、頭が真っ白になって言葉が出てこなくなる。相手が話している内容は聞こえているのに、どこか遠い場所で起きている出来事のように感じられることがあります。

トラウマ反応では、こうした感覚の鈍さや切り離された感覚が生じる場合があります。恐怖に対して身体が強く反応する場合もあれば、逆に感情の動きが弱まり、周囲とのつながりが薄くなる場合もあります。

Laniusら(2010)は、PTSDにおける解離症状と感情調整の関係を検討し、強い恐怖や再体験が前面に現れる状態とは異なり、感情が過度に抑えられるような反応を示す一群があることを報告しています。

こうした研究は、トラウマによる苦痛が、激しい不安や恐怖として現れる場合だけでなく、感情や現実感が遠くなる形でも現れうることを示しています。

日常生活の中でも、強い緊張を感じたあとに身体が重くなり、何も考えられなくなることがあります。周囲からは落ち着いているように見えても、本人は疲れ切っていて、目の前の出来事を十分に感じられない場合があります。

そのような状態が繰り返されているときには、身体がどのような状況で緊張し、どのようなときに感覚が遠くなるのかを理解することが、回復への手がかりになります。

現実がつらすぎるとき、心の中に別の世界をつくる

現実の中に安心できる場所が少ないと、想像の世界や空想が、気持ちを落ち着かせる大切な居場所になることがあります。

例えば、家庭では親の暴力におびえ、学校でもいじめを受けている少年を考えてみてください。家でも学校でも気を抜くことができず、一人になったときにだけ、好きな物語やキャラクターの世界へ思いを巡らせるようになります。

その世界では、誰かに怒鳴られることも、傷つけられることもありません。自分を受け入れてくれる仲間がいて、自由に動き回ることができるため、現実で味わうことの少ない安心感を得られます。

やがて、現実の生活で苦しいことがあるたびに、空想の世界へ気持ちが向かうようになるかもしれません。それは、その子どもが厳しい環境を生き延びるうえで、大切な心の支えになっていたとも考えられます。

空想に没頭することは、それ自体では解離症状を意味しません。しかし、強いストレスのもとで自分の感情や身体感覚が遠くなり、現実とのつながりが薄れていく場合には、解離という観点からの理解が役立つことがあります。

大人になってからも、現実の人間関係に疲れ果てると、自分の内側に閉じこもりたくなることがあります。外の世界では常に役割を求められ、相手の期待に合わせなければならないと感じているほど、一人でいる時間や想像の中に安心を見いだしやすくなるかもしれません。

そこには、誰かとつながりたい気持ちと、これ以上傷つきたくない気持ちが同時に存在しています。現実に戻ろうとしても身体が緊張してしまうときには、まず何が負担になっているのかを理解することが、回復への手がかりになります。

離人感・現実感消失症が長引くと、なぜ不安が強くなるのか

夢の中にいるような感覚が続くと、その奇妙な感覚自体が強い不安の対象になっていきます。

最初は、疲れているからだろうと思っていた違和感も、何日も続くうちに「自分の脳に何か異常が起きているのではないか」「このまま元に戻れなくなるのではないか」という心配に変わっていきます。

すると、日常の中で何度も自分の感覚を確認するようになります。今は現実味があるだろうか。昨日よりよくなっているだろうか。自分の手はちゃんと自分のものに感じられるだろうか。こうした確認が増えるほど、普段なら自然に行われる感覚の働きに注意が集中していきます。

離人感や現実感消失が続くと、次のような悪循環が生じることがあります。

  1. 現実感が薄れることに気づき、強い不安を感じる。
  2. 自分の感覚や身体に異常がないか、何度も確認する。
  3. 感覚への注意が強まり、違和感がますます気になる。
  4. 不安を感じる場所や活動を避けるようになる。
  5. 生活の範囲が狭くなり、症状について考える時間が増える。

例えば、外出中に現実感が薄れた経験をしてから、再び同じことが起こるのを恐れて外出を控えるようになったとします。外に出る機会が減ると、日常の活動や人との交流も少なくなり、自分の身体や感覚に意識が向きやすくなります。

このような状態が続いているときには、症状があるかどうかを絶えず確認する生活から、少しずつ目の前の活動へ意識を戻していくことが助けになる場合があります。

夢の中にいるような感覚が日常生活にもたらす影響

離人感や現実感消失は、本人の内側で生じる体験ですが、その影響は人間関係や仕事、日常のさまざまな場面に及びます。

人と一緒にいても孤独を感じる

家族や友人と過ごしていても、その場に自分がいるという感覚が薄いと、親しい相手との間に距離ができたように感じられます。

相手が笑っていても、その楽しさが自分の中まで届いてこない。会話を続けることはできても、どこか演技をしているような気持ちになり、人と会ったあとに疲れだけが残ることもあります。

こうした変化を自分でも理解しにくいため、周囲に相談することをためらう場合があります。説明しようとしても「疲れているだけじゃないの」と言われると、それ以上言葉にすることが難しくなり、孤独感が深まっていきます。

仕事や勉強への集中が難しくなる

現実感が薄れているときには、目の前の課題に注意を向け続けることが難しくなる場合があります。資料を読んでも内容が頭に入らず、会議中に話を聞いていても、どこか遠くから声が聞こえているように感じられます。

仕事を終えたあとも、自分で取り組んだという実感が弱く、達成感を得にくいことがあります。そのため、実際には多くのことをこなしていても、自分が何もできていないように感じ、自己評価が下がっていく場合があります。

感情が分からなくなり、自分の人生が遠く感じられる

離人感が長く続いていると、自分の気持ちをつかみにくくなることがあります。

本当は疲れているのに疲労を感じにくかったり、嫌なことを言われても、その場では何も感じなかったりします。後になって強い疲れや落ち込みが現れ、初めて自分が負担を受けていたことに気づく場合もあります。

自分の感情を手がかりに物事を選ぶことが難しくなると、何をしたいのか、誰と過ごしたいのかといった日常の判断にも迷いが生じます。自分の人生を生きているという実感が薄くなることは、離人感がもたらす大きな苦しさの一つです。

現実感を取り戻すための5つの対処法

離人感や現実感消失が強いときには、現実味を取り戻そうとして、自分の感覚を何度も確認したくなります。しかし、感覚を意識しすぎることで緊張が高まる場合もあるため、まずは現在の環境や身体の状態を落ち着いて確かめることから始めます。

① 五感を使って周囲の環境に意識を向ける

目の前にあるものを一つ選び、その色や形をゆっくり観察してみます。机の木目やカーテンの模様、窓から見える建物など、身近なものを具体的に眺めることで、注意を自分の内側から周囲の環境へ移していきます。

例えば、次のような方法があります。

  • 部屋の中にあるものを5つ見つけ、色や形を確かめる。
  • 温かい飲み物を持ち、カップの温度を感じる。
  • 柔らかい布やタオルに触れ、その手触りを確かめる。
  • 窓の外を眺め、聞こえてくる音に耳を傾ける。

このように、現在の環境へ注意を向ける方法は「グラウンディング」と呼ばれ、解離症状への対処として用いられることがあります。

感覚への注意がかえって不安や違和感を強める場合には、無理に続けず、普段の活動に戻るなど、自分に合った方法を選ぶことが大切です。

② 身体を少し動かし、生活の感覚を取り戻す

長時間同じ姿勢で過ごしていると、身体のこわばりや疲労に気づきにくくなることがあります。椅子から立ち上がって少し歩いたり、肩や腕をゆっくり動かしたりすると、身体の動きと周囲の環境を結びつけやすくなります。

例えば、部屋の中を歩きながら床に足が触れる感覚を確かめたり、外の空気を感じながら短い散歩をしたりします。運動量を増やすことよりも、自分が無理なく動ける範囲で、日常の動作に意識を向けることを大切にします。

身体の感覚が遠く感じられるときには、激しい運動や強い刺激を取り入れるより、慣れた環境の中で穏やかな動きを続けるほうが取り組みやすい場合があります。

③ 睡眠と生活リズムを整える

離人感や現実感消失は、睡眠不足や強い疲労によって悪化する場合があります。夜遅くまで症状について調べ続けたり、眠ろうとして焦ったりすると、緊張が続いて休息を取りにくくなります。

生活の中では、次のようなことを意識してみましょう。

  • 毎日の起床時間をできる範囲で一定にする。
  • 疲労が強い日には予定を減らし、休息を取る。
  • 寝る前は刺激の強い情報やSNSから距離を置く。
  • 食事や入浴の時間を整え、生活のリズムをつくる。

生活のリズムが安定してくると、心身の負担を把握しやすくなり、症状が強まりやすい状況にも気づきやすくなります。

④ 現実感の確認から少し離れ、日常の活動に戻る

現実感が薄れているときには、今の自分が正常かどうかを何度も確かめたくなることがあります。鏡を見たり、身体を触ったり、インターネットで症状を繰り返し調べたりすることで、一時的に安心できる場合もあるでしょう。

しかし、確認を重ねるほど自分の感覚に注意が集中し、違和感が気になりやすくなることがあります。

症状が出ていることに気づいたら、少しずつ目の前の活動に意識を戻してみます。料理をする、音楽を聴く、洗濯物を畳むなど、普段行っていることに取り組む時間を増やしていくと、症状について考え続ける時間を減らしやすくなります。

感覚の変化を繰り返し確かめるよりも、安心して取り組める日常の活動を少しずつ増やしていくことが、一つの目標になります。

⑤ 安心できる人とのつながりを保つ

現実感が薄れているときには、人と会うこと自体が負担になる場合があります。その一方で、一人で症状について考え続けていると、不安が大きくなっていくこともあります。

安心して話せる相手がいる場合には、自分の状態を無理のない範囲で伝えてみることも助けになります。「周りが夢のように感じる」「疲れると自分の身体が遠くなる感じがする」といった具体的な言葉で説明すると、相手にも状況が伝わりやすくなります。

家族や周囲の人は、本人の体験を急いで解釈したり、無理に普段通りの行動を求めたりせず、何がつらいのかを聞くことが大切です。安心して過ごせる関係があることは、生活の安定を支える一つの要素になります。

解離・離人感・現実感消失症の治療とトラウマケア

離人感や現実感消失が続いている場合には、症状が現れた背景を確認しながら、現在の生活を安定させていくことが重要になります。

医療機関では、症状の経過や睡眠状態、服薬状況、ほかの精神症状や身体症状などを確認し、必要に応じて検査を行います。うつ病や不安症、PTSDなどが関係している場合には、それらの治療を並行して進めることがあります。

心理療法では、現在のストレスや対人関係の負担を整理し、安心して生活できる環境を整えることが支援の一つになります。特にトラウマが背景にある場合には、感情や身体感覚がどのような場面で遠くなるのかを理解しながら、その人の状態に合わせて進めていきます。

身体の緊張を和らげ、安心できる感覚を育てる

長いあいだ緊張した環境で過ごしてきた人は、安心できる場所にいても身体の力が抜けにくいことがあります。頭では安全だと理解していても、人の声や表情、ちょっとした物音に身体が反応し、疲労やこわばりが続く場合があります。

こうした状態では、まず現在の身体がどのような負担を抱えているのかを確認します。肩や首に力が入り続けているのか、呼吸が浅くなっているのか、座っているときに落ち着かなさを感じているのかなど、本人が気づける範囲から始めていきます。

身体への注意が負担になる場合には、部屋の明るさや座る位置、周囲の音など、外側の環境を整えることを優先します。

落ち着ける場所を選び、自分のペースで動き、疲れたら休む。そのような経験を重ねることが、心身の安定を支える場合があります。

過去のトラウマと現在の反応を整理する

幼少期に強い恐怖や孤独を経験していると、大人になってからも、似たような状況で身体が反応することがあります。

例えば、上司の厳しい表情を見ただけで身体が固まり、頭の中が真っ白になる。相手が怒っていると感じた瞬間に、感情が遠くなり、周囲の声が聞こえにくくなることもあります。

心理療法では、現在の生活の中で何が引き金になっているのかを確認しながら、過去の体験とのつながりを整理していきます。過去の記憶に触れる際には、本人の状態や負担を見ながら、進め方を調整することが大切です。

また、自分の気持ちを感じにくくなっている場合には、日常の中で何を負担に感じ、どのようなときに少し落ち着くのかを丁寧に確かめていきます。感情や身体感覚とのつながりを少しずつ取り戻していくことが、生活の安定につながる場合があります。

安心できる関係の中で、自分の感覚を取り戻す

解離症状があるときには、自分の気持ちを言葉にすることが難しくなる場合があります。何がつらいのか聞かれても、よく分からなかったり、話している途中で頭が真っ白になったりすることもあります。

そのような状態では、安心して話せる関係をつくりながら、現在の感覚や気持ちを少しずつ確かめていきます。話す内容や進める速さを自分で選べること、疲れたときには中断できることも、安心感を育てるうえで大切です。

人との関係の中で緊張が強まってきた場合には、相手の期待に合わせ続ける生活を見直し、自分が落ち着いて過ごせる距離感を考えていくこともあります。

なお、離人感・現実感消失症そのものに対して、効果が十分に確立された薬物療法はまだありません。不安や抑うつなどを伴う場合には、医師の判断で薬物療法が検討されます。

夢の中にいるような感覚が続くとき、病院に行く目安

現実感が薄れる状態が一時的なもので、十分な休息によって落ち着いていく場合もあります。しかし、症状が繰り返し現れたり、日常生活に影響が出たりしている場合には、精神科や心療内科などで相談することが大切です。

次のような状態が続いている場合は、専門的な評価を受けることをおすすめします。

  • 夢の中にいるような感覚が長期間続いている。
  • 自分が自分ではない感覚が繰り返し現れる。
  • 現実感のなさによって仕事や勉強に支障が出ている。
  • 外出や人との交流が怖くなり、生活の範囲が狭くなっている。
  • 記憶が抜け落ちたり、時間の経過を思い出せないことがある。
  • 強い不安や抑うつ、睡眠障害を伴っている。

また、実際に意識が途切れる、けいれんや突然の強い頭痛を伴うといった症状がある場合には、神経学的な原因も含めて確認する必要があります。急な意識の変化、麻痺、言語障害などがある場合は、救急医療を優先してください。

自分や周囲に危害が及ぶおそれがある場合や、強い希死念慮がある場合にも、速やかに医療機関や緊急の支援につながることが重要です。

受診する際には、症状がいつから始まったのか、どのくらい続くのか、睡眠やストレスとの関係があるのかを伝えると、状態を整理しやすくなります。

現実感がない状態は治るのか|回復の過程で大切なこと

離人感や現実感消失の経過には個人差があります。比較的短い期間で症状が軽くなる場合もあれば、改善と悪化を繰り返しながら長く続く場合もあります。

症状が長引いていると、以前のように世界を感じられる日が戻ってくるのか、不安になるかもしれません。朝起きるたびに現実感を確かめ、少しでも違和感があると落ち込んでしまうこともあるでしょう。

しかし、回復の過程では、症状があるかどうかを絶えず確認するよりも、日常生活の中で何ができるようになってきたのかに目を向けることが役立つ場合があります。

例えば、以前より外出しやすくなった、人と話す時間が少し楽になった、症状が出ても慌てずに過ごせるようになったといった変化です。こうした小さな変化は、生活の安定や症状への対処力が育ってきていることを示す場合があります。

また、トラウマが背景にある場合には、自分の感情や身体感覚を取り戻していく過程で、これまで感じにくかった疲労や悲しみに気づくこともあります。そうした変化が負担になるときには、心理療法の中で扱う内容や進め方を調整しながら、無理のない範囲で取り組むことが大切です。

現実感を取り戻していくことは、自分の身体や感情、周囲の世界との関係を、少しずつ確かめ直していく過程でもあります。安心して過ごせる時間が増え、日常の出来事を自分の経験として感じられるようになることが、回復の一つの目安になります。

当相談室での解離・離人感・現実感消失に関するカウンセリング

こころのえ相談室では、解離症状や離人感、現実感消失、複雑性トラウマなどに関するご相談をお受けしています。

「いつも夢の中にいるような感じがする」「自分の身体が自分のものと思えない」「人と話していても現実感がない」といった感覚は、言葉にすること自体が難しい場合があります。

カウンセリングでは、症状がどのようなときに現れるのか、身体や感情にどのような変化が起きているのかを確認しながら、生活の中で負担になっていることを整理していきます。

また、過去のトラウマや長年の緊張が関係していると考えられる場合には、現在の心身の安定を大切にしながら、その人の状態に合わせて心理的な支援を進めていきます。

症状が強い場合や医学的な評価が必要な場合には、精神科などの医療機関での診察や治療を優先し、必要に応じて心理的支援を組み合わせることが重要です。

夢の中にいるような感覚が続いているときには、目の前の現実に触れることさえ疲れてしまう場合があります。その感覚がいつから続き、どのようなときに強まるのかを一緒に整理することが、自分の状態を理解する第一歩になります。

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参考文献

  1. Spiegel, D.(2025). 離人症性障害|MSDマニュアル家庭版. 離人感・現実感消失症の症状、原因、診断と治療についての医学的解説。
  2. Simeon, D., Guralnik, O., Schmeidler, J., Sirof, B., & Knutelska, M.(2001). The Role of Childhood Interpersonal Trauma in Depersonalization Disorder. American Journal of Psychiatry, 158(7), 1027–1033. 幼少期の対人トラウマと離人感との関連を検討した研究。
  3. Lanius, R. A., Vermetten, E., Loewenstein, R. J., et al.(2010). Emotion Modulation in PTSD: Clinical and Neurobiological Evidence for a Dissociative Subtype. American Journal of Psychiatry, 167(6), 640–647. PTSDにおける解離と感情調整の関係を検討した論文。
  4. Sierra, M., Senior, C., Dalton, J., et al.(2002). Autonomic Response in Depersonalization Disorder. Archives of General Psychiatry, 59(9), 833–838. 離人感と感情刺激に対する自律神経反応の関係を調べた研究。

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愛着・対人関係・人格の問題 (72)
井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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解離・解離性障害
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