セックス依存症とは|止めたいのに繰り返す性的行動と、心身の苦しさを理解する

セックス依存症 強迫・依存・その他

もう繰り返さないと決めたはずなのに、強い孤独や不安に襲われると、また性的な刺激や相手を求めてしまう。行動している間は、それまで頭を占めていた苦しさが薄れ、身体の緊張も少し和らぐ。しかし、時間が経つと後悔や自己嫌悪が押し寄せ、なぜ自分は同じことを繰り返すのだろうと、自分自身を責めるようになる。

性的な行動が終わった後、相手と別れ、一人になった途端に虚しさが強まることもあります。誰かに求められている間は、自分にも価値があるように感じられたのに、その時間が終わると、再び孤独が戻ってくる。安心したかったはずなのに、かえって自分が惨めに思えたり、身体だけを使って人とつながっているように感じたりする場合もあります。

性欲や性的な快感は、人間の自然な営みの一部です。性欲が強いことや、自慰をすること、合意のある関係の中で豊かな性生活を送ること自体が、病気を意味するわけではありません。

一方で、性的な行動が苦しさを和らげるための主要な手段となり、やめたいと思っても調整できず、仕事や健康、経済状況、パートナーとの約束、人間関係に大きな影響が出ている場合には、性欲の強さとは別の問題が生じています。

こうした状態は一般に「セックス依存症」と呼ばれることがあります。臨床では、性的な衝動や行動を繰り返し、自分で調整しようとしてもうまくいかず、生活に深刻な影響が生じている状態として理解していきます。

その背景には、強いストレスや孤独、見捨てられ不安、自己否定、身体の過緊張、過去のトラウマなどが関わっている場合があります。性的な刺激を求めているように見えても、本人が本当に求めているのは、緊張から解放されることや、自分の存在を誰かに確かめてもらうことなのかもしれません。

セックス依存症とは?性欲の強さと強迫的な性的行動の違い

セックス依存症という言葉から、性的な欲求が非常に強い人や、多くの相手と性的な関係を持つ人を想像するかもしれません。しかし、性欲の強さや性行為の回数、経験した相手の人数だけで、依存症かどうかを判断することはできません。

重要なのは、本人がその行動をどの程度調整できているのか、そして性的な行動が生活の中でどのような位置を占めているのかという点です。

例えば、性的な刺激を求めるために睡眠時間を削り、翌日の仕事へ支障が出ている。経済的に苦しいと分かっていても支出を繰り返し、生活費や貯金を失ってしまう。パートナーと交わした約束を何度も破り、関係が傷ついているにもかかわらず、同じ行動を止められない。

また、本人が望んでいない行動まで繰り返し、終わった後に強い後悔を感じることもあります。以前は快感や満足感を得られていたのに、次第に楽しさが薄れ、ただ落ち着くためだけに性的な行動へ向かう場合もあります。

ICD-11では「強迫的性行動症」として位置づけられている

世界保健機関(WHO)の国際疾病分類ICD-11では、こうした問題に関連する診断として、強迫的性行動症(Compulsive Sexual Behaviour Disorder:CSBD)が設けられています。

これは、強い性的衝動や欲求を繰り返し調整できず、性的行動が生活の中心となり、健康や仕事、人間関係などに重大な影響を及ぼしている状態を指します。一般に6か月以上といった長期間にわたって問題が続き、明らかな苦痛や生活機能の障害が生じていることが診断上の重要な要件になります。

ICD-11では、強迫的性行動症は衝動制御症群に分類されています。「セックス依存症」という呼び方が広く用いられていますが、アルコール依存症などと同じ依存症の仕組みで説明できるかについては、研究上の議論が続いています。

また、本人が宗教的・道徳的な価値観から性的行動を悪いものだと感じている場合でも、その罪悪感だけで強迫的性行動症と判断されるわけではありません。

例えば、自慰をしたことに強い罪悪感を抱いていても、自分で行動を調整でき、生活に重大な支障が生じていないのであれば、別の視点から苦しさを理解する必要があります。

大切なのは、その人の性的なあり方を評価することより、性的な行動によって何が起きていて、本人がどのような困難を抱えているのかを具体的に確認することです。

なぜセックス依存症はやめられないのか|苦痛を鎮める行動が習慣になる

性的な衝動が強まる前には、必ずしも性的な欲求だけが存在しているわけではありません。

仕事で強く責められ、帰宅しても気持ちが落ち着かない。恋人からの連絡が途絶え、自分が見捨てられたように感じる。何かに失敗したことを何度も思い返し、自分への嫌悪感が強まっている。そうした状態で、急に性的な刺激を求めたくなることがあります。

行動へ向かうと、意識はそれまで抱えていた苦しさから離れ、身体の刺激や目の前の相手へ集中します。頭の中で繰り返されていた自己批判が静かになり、緊張が別の感覚へ置き換わることで、一時的に落ち着ける場合があります。

誰かに求められることで、自分が受け入れられているように感じることもあります。身体が強く反応することで、それまで感じていた空虚さや感情の麻痺から抜け出せたように思える人もいるでしょう。

しかし、その安堵は長く続かないことがあります。

行動が終わると、再び孤独や不安が戻ってくる。それだけでなく、約束を破った後悔や、秘密を抱える苦しさ、経済的な負担、性的な行動を繰り返してしまった自分への嫌悪感が加わります。

すると、今度はその苦しさから逃れるために、再び性的な刺激を求めたくなる。

苦しさを鎮めるための行動が、新しい苦しさを生み、その苦しさを和らげるために同じ行動を繰り返す。 この循環が続くほど、本人は自分の行動を調整することに自信を失っていきます。

Fernandezら(2021)は、性的行動のコントロールに困難を抱え、自助グループに参加していた14人へインタビューを行い、回復の過程を質的に分析しました。

参加者の多くは、性的な行動によって生活が立ち行かなくなるほどの問題を経験したことをきっかけに、回復へ向かっていました。そして、取り組みを続ける中で、性的な行動そのものだけでなく、その背後にある未解決の感情や生活上の問題へ目を向けるようになったことが語られています。

この研究は自助グループの参加者を対象としたもので、すべての人に同じ回復過程が当てはまるわけではありません。それでも、性的な行動を止めることだけでは整理しきれない苦しさがあり、生活全体を立て直すことが重要になる場合があることを示しています。

トラウマと依存症|心の痛みを麻痺させる行動(アルコール・薬物・ギャンブル)では、短期的な安心や解放感を得られる行動が、次第に苦しさを増やしていく過程について詳しく扱っています。

性被害やトラウマが、性的な行動の繰り返しに関わることがある

性暴力や性的虐待、支配的な人間関係を経験した後、性との関わり方が大きく変わる場合があります。

自分の身体を他人に触れられることが怖くなる人もいれば、性的なことを考えるだけで強い嫌悪感が生じる人もいます。相手と親密になりたい気持ちはあっても、身体が緊張してしまい、性行為を避けるようになる場合もあるでしょう。

一方で、性的な行動を繰り返す方向へ向かう人もいます。

過去に自分の身体を他者から支配された経験がある場合、今度は自分の意思で性的な関係を選び、身体の主導権を取り戻そうとすることがあります。誰かに求められることで、自分には価値があると確かめようとする人もいます。

また、過去に経験した関係と似た状況へ繰り返し入ってしまう場合もあります。相手から大切にされないと分かっていても、関係を断ち切れない。傷つくことが多いのに、今度こそ愛されるかもしれないという期待を捨てられない。

こうした行動には、性的な欲求だけでなく、かつて満たされなかった愛情への願いや、傷ついた関係を別の結末へ変えたいという気持ちが関わっている可能性があります。

ただし、性的な行動を繰り返す人すべてに性被害の経験があるわけではありません。また、トラウマを経験した人が必ず強迫的な性的行動へ向かうわけでもありません。実際の反応には大きな個人差があります。

性被害の最中に身体が反応したことへの苦しさ

性被害を経験した人の中には、被害の最中に身体が性的に反応したことを、長い間、自分への嫌悪や罪悪感として抱えている人もいます。

嫌だったはずなのに、なぜ身体が反応したのだろう。自分もどこかで望んでいたのではないか。そうした考えが繰り返され、自分自身の身体を信じられなくなる場合があります。

しかし、身体の性的な反応は、本人の意思や同意とは別に生じることがあります。2024年に発表されたVandervoortらの文献レビューでも、同意のない性的な行為の中で、被害者に生理的な性的反応が生じる場合があることが確認されています。

身体の反応が生じたことを、同意や積極的な希望の証拠として扱うことはできません。

そのような経験を抱えている人にとっては、性行為や身体感覚そのものが、複雑な意味を持つことがあります。性的な刺激を求める気持ちと、その刺激への嫌悪が同時に存在する場合もあります。

回復では、本人がどのような体験をし、その後、自分の身体をどのように感じるようになったのかを丁寧に理解する必要があります。

性被害の内容とトラウマ症状|心と身体に残る影響では、性暴力や性的虐待が、身体感覚や対人関係、自己評価へ残す影響について詳しく解説しています。

幼少期の傷つきが、性的な関係の中で繰り返されるとき

子どもの頃から、安心できる関係を十分に経験できなかった人は、大人になってからも、自分が大切にされているという感覚を持ちにくい場合があります。

親の機嫌によって態度が変わる。自分の気持ちを伝えても無視される。甘えたいときに受け止めてもらえず、役に立ったときだけ認めてもらえる。

そのような環境では、自分が愛されるためには、何かを差し出さなければならないと感じるようになる場合があります。

それが成人後の親密な関係にも残ると、自分の希望より相手の欲求を優先し、断りたいことにも応じてしまうことがあります。相手に求められることで安心する一方、相手が離れていくことを強く恐れるため、自分にとって苦しい関係から抜け出せなくなる場合もあります。

イランの女性を対象としたMoshtaghら(2022)の質的研究では、強迫的な性的行動に苦しむ女性たちの生活史について、44件の半構造化面接が行われました。

研究では、幼少期の傷つきや性に関する価値観、喪失によって生じた空虚さを埋めようとする行動、感情を調整することの難しさなどが、参加者の語りから浮かび上がりました。

特に、性的な行動が、失われたものを埋めたり、満たされない気持ちを一時的に和らげたりする手段になっていたことが示されています。

この研究には、参加者が置かれた社会的・文化的な背景も影響しています。結果をそのまますべての人へ当てはめることはできませんが、性的な行動の背景に、本人の生活史や人間関係、感情を扱うことの難しさが深く関わる場合があることを理解する助けになります。

過覚醒と解離|落ち着くための性と、感じるための性

強迫的な性的行動には、身体の緊張や感覚の変化が関わっている場合があります。

幼少期から強い緊張の中で生活してきた人や、トラウマによる過覚醒が続いている人は、何もしていない時間にも身体が落ち着かないことがあります。周囲の物音や人の気配が気になり、眠ろうとしても頭が働き続ける。理由の分からない焦りや不安があり、休息しているはずなのに身体が休まらない。

そのような状態で、性的な刺激や行動によって、一時的に緊張が弱まると感じる人もいます。

本人が求めているのは、必ずしも性的な快感だけではありません。張りつめた状態から離れ、頭の中の騒がしさを静め、身体を落ち着かせることが、行動の重要な役割になっている場合があります。

過覚醒とは|PTSDで身体が先に緊張へ切り替わる反応では、危険が過ぎた後も身体が警戒を続け、休息へ戻りにくくなる仕組みを詳しく扱っています。

一方で、過覚醒とは異なる苦しさを抱える人もいます。

自分が何を感じているのか分からない。身体が自分のものではないように思える。周囲の出来事が遠く感じられ、喜びも悲しみも十分に実感できない。

そのような感覚の麻痺や解離が生じているとき、性的な刺激によって、ようやく自分の身体を感じられるように思う場合があります。

強い刺激を通して、自分がここに存在していることを確かめようとする。空虚さの中で、何かを感じるために性的な行動へ向かう。

このように、ある人にとっては性的な行動が過剰な緊張を静めるための手段となり、別の人にとっては失われた感覚を取り戻すための手段になることがあります。

ただし、過覚醒や解離がある人すべてに、強迫的な性的行動が生じるわけではありません。また、性的な行動を繰り返していることだけで、解離が起きていると判断することもできません。

重要なのは、行動の前後で本人の感情や身体感覚がどのように変化しているのかを理解することです。

感情がわからない・身体の感覚がない|解離とストレスで「麻痺」が起きる仕組みでは、強いストレスの中で感情や身体感覚が遠のく経験について詳しく扱っています。

孤独や見捨てられ不安を、性的な関係で埋めようとするとき

誰かに求められている間だけ、自分には価値があるように感じられることがあります。

相手が自分へ関心を向けている。身体を求められている。必要とされているように感じられる。その時間には、普段抱えている孤独や自己否定が弱まる場合があります。

しかし、関係が終わり、一人になると、再び強い空虚感が戻ってくることがあります。

相手は自分のことを本当に大切に思っていたのだろうか。身体だけを求められていたのではないか。次にいつ会えるのだろうか。

そうした不安が強まると、相手との関係を確かめたくなり、何度も連絡したり、新しい関係を探したりする場合があります。

特に、見捨てられることへの恐怖が強い人は、性的な親密さを通して、相手とのつながりを維持しようとすることがあります。相手の希望に応えることが、関係を失わないための方法になっている場合もあるでしょう。

しかし、性的な親密さと、情緒的に安心できる関係は、必ずしも同じものではありません。

身体が近づいても、自分の気持ちを伝えられないことがあります。性的な関係が続いていても、相手へ不安や寂しさを話せず、心の距離を感じている場合があります。

そのようなとき、本人は親密な関係を求めて性的な行動を繰り返しているのに、行動が終わるたびに孤独を深めてしまうことがあります。

回復では、誰かに求められることだけで自分の価値を確かめる状態から、少しずつ離れていく必要があります。性的な関係以外にも、自分の気持ちを伝えられる関係や、安心して過ごせる場所を育てていくことが重要です。

性的な行動の後に、恥と自己嫌悪が強まる理由

強迫的な性的行動を繰り返している人は、行動そのものだけでなく、行動の後に生じる強い自己嫌悪に苦しむ場合があります。

もう二度としないと決めたのに、また繰り返してしまった。パートナーとの約束を破ってしまった。自分の行動を誰にも知られたくない。

そうした気持ちが重なると、行動を振り返ることが、自分自身を否定することへ変わっていきます。

なぜ止められなかったのかを考えているうちに、自分はだらしない人間だ、信用される価値がない、誰からも理解されないと感じるようになることがあります。

このような恥は、本人を孤立させやすくなります。

誰かに相談すれば軽蔑されるかもしれない。家族やパートナーに知られれば、すべてを失うかもしれない。そう考えるほど、秘密を抱え続けるようになります。

そして、孤独や自己嫌悪が強まったときに、その苦しさから逃れるため、再び性的な刺激を求めてしまう場合があります。

ここでは、行動への責任と、本人の人格への評価を分けて考える必要があります。

相手の同意を損なう行為や、パートナーとの約束を破る行為、自分や他者の健康を危険にさらす行為については、責任を持って向き合うことが必要です。

一方で、本人を一人の人間として否定し続けるだけでは、苦しさを抱えたまま行動を繰り返す循環から抜け出しにくくなる場合があります。

性的な行動によって何を得ようとしていたのか、どのような感情が行動を強めていたのかを理解しながら、行動を変えるための具体的な方法を身につけていくことが重要です。

セックス依存症からの回復は、性欲を消すことではない

強迫的な性的行動から回復することは、性欲そのものを失うことではありません。

自分の性的な欲求を理解しながら、相手との同意や約束、健康、生活を大切にできる形で性と関われるようになることが重要です。

そのためには、性的な衝動が高まるとき、どのような状況が重なっているのかを知ることが役立ちます。

例えば、仕事で強いストレスを感じた日の夜に衝動が強まる。飲酒した後には判断が難しくなる。恋人と喧嘩した後や、誰とも話さずに過ごした休日に、性的な刺激を求めたくなる。

そのような傾向が分かると、衝動が強まる前の段階で、自分の生活を調整できる部分が見えてきます。

衝動と行動の間に、少し時間を作る

強い衝動が生じたとき、すぐに行動へ移ることが習慣になっている場合には、その間に少し時間を取ることが役立つ場合があります。

例えば、部屋を移動する。温かい飲み物を飲む。外の空気を吸う。短い散歩をする。信頼できる人へ連絡する。

こうした方法で必ず衝動が消えるわけではありませんが、性的な行動以外にも自分を落ち着かせる方法を持つことは、選択肢を増やす助けになります。

また、衝動が強まる時間帯に一人で過ごすことが負担になる場合には、その時間の過ごし方を見直すこともできます。

性的な行動を禁止することだけに集中するより、どのような生活であれば心身が落ち着きやすいのかを考えることが大切です。

自分の存在を、性的な関係だけで確かめない

誰かから求められることによって自分の価値を感じている人にとっては、性的な行動を減らすことが、孤独や空虚感を強める場合があります。

そのため、性的な行動以外にも、自分の存在を確かめられる経験を増やしていく必要があります。

友人と話す。好きなことへ時間を使う。仕事や創作に取り組む。身体を休ませる。自分の気持ちを否定せずに聞いてもらえる関係を持つ。

そうした経験は、性的な衝動を直接なくすものではありません。しかし、生活の中に複数の支えが生まれることで、苦しさを一つの行動だけで処理しなくてもよい状態へ近づいていく場合があります。

回復には、行動の背景を理解することが必要になる

性的な行動を繰り返すことによって、生活が立ち行かなくなった経験を持つ人は、まず行動を止めることを強く望むかもしれません。

しかし、行動を控えるだけでは、これまで性的な刺激によって和らげてきた苦しさが、そのまま残る場合があります。

孤独を感じたときにどうすればよいのか。怒りや不安が強まったときに、どのように身体を落ち着かせればよいのか。誰かに求められなくても、自分の存在に価値を感じられるのか。

そうした問題と向き合うことが、回復の中では重要になる場合があります。

Fernandezら(2021)の質的研究でも、回復へ取り組んでいた参加者たちは、性的な行動を控えることに加えて、生活習慣や人間関係、自分自身との向き合い方を変えていくことを重視していました。

参加者の中には、性的な行動が減ったことだけでなく、自分の生活全体が変化したことを、回復の重要な部分として捉えていた人もいました。

長く苦しさを抱えてきた人にとって、回復とは、以前と同じ生活へ戻ることだけではないのかもしれません。

これまで性的な刺激へ向かうことでしか扱えなかった感情を、少しずつ理解できるようになる。人とつながる方法が増え、自分を責め続ける時間が減っていく。

そのような変化を重ねることで、性的な行動に生活を支配される状態から、少しずつ離れていくことができます。

セックス依存症の治療とカウンセリング|専門家へ相談する目安

強迫的な性的行動が続き、自分で調整しようとしてもうまくいかない場合には、医療機関や専門家へ相談することが役立ちます。

特に、性的な行動によって仕事や家庭生活に大きな支障が出ている場合、経済的な損失が続いている場合、パートナーとの関係が深く傷ついている場合、危険な行動が増えている場合には、早い段階で支援を受けることが重要です。

治療や心理支援では、行動の頻度だけでなく、その前後の感情や生活状況、身体の状態などを整理していきます。

認知行動療法では、衝動が高まる状況や考え方、行動の習慣を理解し、別の対処方法を身につけていくことが目標になります。強迫的性行動症に対する治療研究では、認知行動療法を中心とする心理的支援に一定の効果が示されていますが、研究の蓄積にはまだ限界があり、本人の状態に合わせた支援が必要です。

トラウマや解離症状が強い場合には、過去の記憶を急いで掘り下げるより、現在の生活や身体の安全を確保することを優先する場合があります。

また、急に性的な衝動が強くなった場合や、睡眠が少なくても活動し続けられる、気分の高揚や衝動性が極端に強まっている場合には、双極性障害の躁状態・軽躁状態や薬剤の影響など、別の要因も含めて医療的な評価が必要になることがあります。

一人で繰り返し自分を責めるより、どのような状態が起きているのかを専門家と整理し、必要な支援を選んでいくことが大切です。

パートナーや家族が知っておきたいこと

大切な人の強迫的な性的行動によって、パートナーや家族も深く傷つくことがあります。

性的な関係を隠されていた。約束を何度も破られた。説明を求めても十分に答えてもらえず、何を信じてよいのか分からなくなった。

そうした経験は、怒りや悲しみだけでなく、自分自身への疑いを生むことがあります。

自分に魅力がなかったのではないか。もっと相手を理解していれば、違う結果になったのではないか。どうすれば、相手は自分だけを大切にしてくれるのだろう。

そのように考え続けると、傷ついた側まで、自分を責めるようになる場合があります。

しかし、本人のトラウマや孤独が性的な行動の背景にあったとしても、それによってパートナーが受けた傷つきが消えるわけではありません。

行動の背景を理解することと、約束を破ったことや、相手を傷つけたことへの責任を持つことは、両立させる必要があります。

また、パートナーが本人の行動をすべて監視し、治療者のような役割を担うと、関係そのものがさらに苦しくなる場合があります。

本人は、自分の行動を変える責任を持ち、必要な支援へつながることが大切です。同時に、パートナーも自分の気持ちや生活、安全を守るための支援を受けることができます。

関係を続けるかどうか、どのような約束や境界線を設けるかについては、傷ついた側にも、自分の意思で選ぶ権利があります。

おわりに|性に振り回される生活から、自分の意思を取り戻す

セックス依存症と呼ばれる苦しさの中心には、性的な行動を止めたいと思っても止められず、そのたびに自分を責め、さらに孤立していく循環があります。

性的な刺激を求めているとき、本人は強い快感だけを追いかけているとは限りません。孤独を紛らわせたい。身体の緊張を鎮めたい。自分が誰かに必要とされていると感じたい。何も感じない空虚さから抜け出したい。

そうした気持ちが、性的な行動と結びついている場合があります。

特に、幼少期から安心できる関係を持てなかった人や、性暴力、支配的な関係を経験してきた人は、性との関わり方に複雑な葛藤を抱えることがあります。

誰かに求められることで安心する一方、身体だけを必要とされているように感じて傷つく。親密になりたいと思いながら、相手を信頼することが怖い。自分の身体を取り戻したいと願いながら、その身体へ嫌悪感を抱いている。

こうした矛盾した感覚の中で、本人は性との距離をどう取ればよいのか分からなくなっている場合があります。

回復では、性的な行動を減らすことに加えて、その行動が自分の生活の中でどのような役割を担ってきたのかを理解する必要があります。

衝動が高まる前に、どのような不安や孤独が生じているのかを知る。身体が緊張しているときには、性的な刺激以外にも落ち着ける方法を持つ。誰かに求められることだけで、自分の価値を確かめなくてもよい関係や生活を育てていく。

そして、相手の同意や自分自身の健康、パートナーとの約束を大切にしながら、自分の欲求と向き合えるようになることが重要です。

セックス依存症からの回復とは、性欲を消し去ることではなく、苦しさを性的な行動だけで処理しなくても済むようになり、自分の意思で行動を選べる生活を取り戻すことです。

これまで性的な刺激へ向かうことでしか落ち着けなかった人が、少しずつ自分の感情を理解できるようになる。孤独や不安を抱えたときにも、別の方法で自分を支えられるようになる。

そのような経験を重ねていくことで、性に振り回され、行動の後に自分を責め続けてきた生活から、少しずつ離れていくことができます。


参考文献

  1. World Health Organization. (2024). Clinical descriptions and diagnostic requirements for ICD-11 mental, behavioural and neurodevelopmental disorders. World Health Organization.
    https://www.who.int/publications/i/item/9789240077263
  2. Fernandez, D. P., Kuss, D. J., & Griffiths, M. D. (2021). Lived experiences of recovery from compulsive sexual behavior among members of Sex and Love Addicts Anonymous: A qualitative thematic analysis. Sexual Health & Compulsivity, 28(1–2), 47–80.
    https://doi.org/10.1080/26929953.2021.1997842
  3. Moshtagh, M., Mirlashari, J., Rafiey, H., & Brown, H. (2022). The circle of gain and loss: Iranian women’s life stories of suffering from compulsive sexual behaviour. Health & Social Care in the Community, 30(5), e2287–e2296.
    https://doi.org/10.1111/hsc.13667
  4. Vandervoort, M., Liosatos, A., Aladhami, H., Suschinsky, K. D., & Lalumière, M. L. (2024). Victim sexual arousal during nonconsensual sex: A scoping review. Archives of Sexual Behavior, 53, 2305–2318.
    https://doi.org/10.1007/s10508-024-02852-2
  5. Kraus, S. W., Krueger, R. B., Briken, P., First, M. B., Stein, D. J., Kaplan, M. S., Voon, V., Abdo, C. H. N., Grant, J. E., Atalla, E., & Reed, G. M. (2018). Compulsive sexual behaviour disorder in the ICD-11. World Psychiatry, 17(1), 109–110.
    https://doi.org/10.1002/wps.20499

Counseling & Share

ご相談をご希望の方へ

カウンセリングの空き状況をご確認いただけます。 このページを必要な方へ共有することもできます。

予約ページを見る
不妊治療・体外受精・卵子凍結なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院 | 8時〜21時・土日祝日も診療(東京/墨田区)
不妊治療専門の生殖医療クリニック錦糸町駅前院の公式サイト。女性医師による診察、21時まで診療、事後決済で会計待ちゼロ。不妊治療経験者の不満・不安の声を改善し、通いやすさを追求し不妊治療患者様のストレスをなくすことを目指しています。ブライダル…
セックスにかける理想の時間は?男女800人に対してアンケート調査を実施|【公式】ユナイテッドクリニック
本記事では男女800人に対して「セックスにかける理想の時間について」のアンケートを実施し、その結果を解説しています。調査の結果、理想の時間は男女ともに「30分〜1時間」でした。
NEW BOOK
『やわやわな心にはゼラチンを入れて、冷蔵庫で休ませましょう』
著者:井上陽平 / 2026年11月12日発売

人との距離、自分の気持ち、断ること、頼ること。 「心の境界線」という視点から、生きづらさをほどきながら、 自分の感覚や距離感を取り戻すための考え方とワークをまとめた一冊です。

BOOK
『かくれトラウマ』
生きづらさはどこで生まれたのか / 著者:井上陽平

人に合わせすぎる。緊張が抜けない。安心したいのに落ち着けない。 そうした日常の反応の奥にある見えにくい傷と、 身体が身につけてきた守り方を、 トラウマ・身体・神経系・愛着の視点から読み解いた一冊です。

テーマ別の新着記事

見たいテーマを開くと、そのカテゴリの記事を新しい順で読めます。

HSP・神経系の過敏性 (18)
セルフチェック (5)
トラウマ・CPTSD・解離 (86)
心の病・精神疾患 (43)
心理学(理論)・精神分析 (24)
心理技法・治療法 (22)
愛着・対人関係・人格の問題 (72)
井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

井上 陽平をフォローする
強迫・依存・その他
シェアする

コメント

タイトルとURLをコピーしました