トラウマの治し方・克服する方法――凍りつきと過覚醒から回復していくために

トラウマから回復するうえで、最初に大事なのは「強くなること」でも「忘れること」でもありません。
大切なのは、安全で快適な環境を作り、脅威から距離を取り、必要なサポートを受けられる状態を整えることです。

なぜならトラウマとは、出来事そのものだけではなく、出来事の最中に身体が学習した「生存の反応」が、いまも続いてしまう状態だからです。心の問題として理解されがちですが、実際には、呼吸・筋肉の緊張・血流・注意の向き・声の出しやすさ・内臓感覚など、身体全体の防衛システムが“危険モード”に固定されていることが多いのです。

回復は、精神論で押し切るものではありません。
安全が確保され、身体が落ち着き、少しずつ「いまは大丈夫」を学び直せるとき、トラウマ反応はゆるみ始めます。


Table of Contents

この記事で扱うこと

この記事は、次の検索意図を一つにまとめて扱います。

  • 「トラウマとは何か」を身体反応まで含めて理解したい
  • 「過覚醒」「凍りつき」「解離」「虚脱」の違いとメカニズムを知りたい
  • トラウマを克服するために、何から始めればいいか知りたい
  • 身体アプローチ(ソマティックエクスペリエンス、呼吸、ヨガ、瞑想等)をどう使うか知りたい
  • イメージワークと身体ワークをどう組み合わせるか、具体的手順がほしい
  • 治療への抵抗(怖い、遅すぎる、金銭的に厳しい、期待が苦しい等)への対処を知りたい
  • 日常生活でできるセルフケアを「実感レベル」で積み上げたい
  • 最終的に「回復した状態」がどんな感覚か見通しを持ちたい

トラウマとは何か

――生命を脅かす危機で、身体が“うまく動けなかった”ときに残るもの

トラウマは、人が生命を脅かす危機を感じたときに発生します。
危険な場面で、誰かに助けを求めて実際に助けてもらえた場合、人は「危険は終わった」と身体が理解しやすく、トラウマとして固着しにくいことがあります。

一方で、助けを求めようとしても効果的に行動できない、あるいは逃げる・抵抗する・声を出すといった行動が封じられると、交感神経系が過活動になり、心拍が上がり、筋肉が戦う/逃げる準備を始めます。けれど、そこで戦うか逃げるための有効な行動が取れないと、身体は次の段階へ移行します。つまり、凍りつき(フリーズ)や死んだふり(シャットダウン)、さらに虚脱解離に近い状態へ、段階的に落ちていくことがあります。

ここが重要です。
トラウマ反応は、弱さでも怠けでもありません。
それは、生存状況で効果的だった「過去の反応」であり、身体が無意識に生き残りを助けた結果です。身体は偉大です。しかし、過去には合理的だった反応が、現在の生活のなかで再演されると、苦しみになります。


闘争・逃走だけではない:凍りつき/死んだふり/虚脱/解離

「トラウマ反応」と言うと、戦う(闘争)か逃げる(逃走)のイメージが強いかもしれません。けれど臨床では、それだけでは説明できない反応が繰り返し見られます。

  • 凍りつき:筋肉が硬直し、動けない。注意が一点に狭まり、身体が固まる。
  • 死んだふり:抵抗できない状況で、意識や表情、声、身体感覚が落ちていく。
  • 虚脱:息の根を止められそうな恐怖の極限で、筋肉が崩れ、心拍数・血圧が下がり、倒れそうになる。
  • 解離:身体感覚が麻痺し、感情との接触が切れ、世界とのつながりが薄れる。

人が凍りつくと、喉が引き締まり、手足が痺れ、話すことも叫ぶこともできなくなることがあります。抵抗できない場合、死んだふりをして生き残ろうとします。さらに危機が深いと、筋肉が崩れて心拍数や血圧が下がり、虚脱状態になることがあります。虚脱では身体感覚が麻痺し、感情との接触を失い、世界とのつながりが失われる可能性があります。


複雑なトラウマの背景:脅威への過敏さと「注意の狭まり」

小さい頃から困難な状況を経験してきた人は、危険や脅威に対して敏感で、常に緊張状態になりやすく、心の視野が狭くなり、注意や集中の問題が出やすくなります。

これは性格ではなく、身体の学習です。
「油断すると危険が来る」
「関係は予測不能」
「安心すると痛い目に遭う」
そうした学習があると、身体は安全より警戒を優先します。

結果として、日常の些細な刺激にも反応しやすくなり、過覚醒(交感神経の上がりっぱなし)と、凍りつき/シャットダウン(動けない・感じない)を行き来するようになります。過覚醒については、こちらの記事も併せて参照できます。
https://trauma-free.com/complexity/hyperarousal

凍りつきの具体像については、こちらに整理があります。
https://trauma-free.com/complexity/freezing


回復の原則:トラウマを克服するには「安全」を身体に教え直す

――治療は“安心の土台づくり”から始まる

トラウマを克服するには、安全で快適な環境を作ることが重要です。
自分の力で潜在的な脅威から距離を置くことができ、サポートを受けるときに効果が出ます。

トラウマ治療は、単に過去を語る作業ではありません。
安全と快適さの感覚を確立し、安定した心理状態を維持できるようにすることが中心になります。土台ができて初めて、身体は「いまは危険ではない」を繰り返し学習できるからです。


「安全な空間を作る」:家庭・職場・治療関係の三つの安全

トラウマを克服する過程において、安全な環境を整えることが非常に重要です。
トラウマを抱えた人は、過去に経験した出来事が再び起こるのではないかという恐怖心に苦しみ、安心して治療を受けることができる環境が必要となります。

まず、自分が生活している環境が安全である必要があります。家庭環境や職場環境が安全であることが望ましいです。特に、トラウマを引き起こした出来事が自宅や職場で起こった場合には、その環境から離れることも必要となる場合があります。

加えて、治療を行う場所やセラピストとの関係性が安全であることも必要です。治療の場では、安全で信頼できる環境を整えることが重要です。治療の場所が安全であることに加え、セラピストとの信頼関係が築けることが望ましいです。治療において、自分自身のトラウマについて話しやすい環境を整えることが大切です。

安全とは、抽象的な美徳ではありません。

  • 連絡を遮れる
  • 境界線を引ける
  • 怒鳴られない
  • 圧迫されない
  • こちらのペースが尊重される
    こうした具体条件が揃うほど、身体は落ち着きやすくなります。

「ストレスや緊張を減らす」:睡眠・食事・運動・休憩が治療の一部になる

トラウマを抱えた人が生活全般のストレスや緊張を感じると、トラウマの影響を受けやすい状態になることがあります。
このため、まずはストレスや緊張を軽減することが重要となります。

睡眠不足は、ストレスや不安を増加させるため、十分な睡眠時間を確保することが必要です。
バランスの良い食事をすることも大切です。栄養バランスが良い食事を摂取することで身体の健康を維持し、ストレスに対する抵抗力を高めることができます。

さらに、運動をすることも有効です。運動は身体の緊張を解きほぐし、ストレスを軽減する効果があります。運動によって身体的なストレスを軽減し、回復を促すことができます。

そして、休憩です。
「休む」は、怠けではありません。神経系の再調整です。
日常生活の中で休憩を取り、リラクゼーションのテクニックを学ぶことは、リラックスした環境を作り出すのに役立ちます。

時間が経つにつれて、体の凍りつきや過覚醒反応は徐々に緩和され、体がリラックスするにつれて、心から良いものが溢れ、より柔軟になり、前向きな状態に戻ります。


トラウマの核心は「注意」と「身体感覚」が狭まること

――視野を広げ、身体に戻ることが回復の入口になる

トラウマを克服するためには、まず周囲への注意を広げることが大切です。
五感をフルに活用し、身体感覚を意識した生活を心がけましょう。

外界に対する注意が狭まっていると感じたら、意識的にそれを広げていくことが大切です。次に、自身の姿勢や筋肉が緊張していないかを常にチェックすることも重要です。気づいたら、リラックスする方法を使って筋肉を緩め、体を楽にして、心身ともにゆっくりと癒していきましょう。


「いま、ここ」に戻るとは何か:五感と姿勢の“現実接続”

トラウマ状態では、現実そのものが危険と結びついていることがあります。
だから注意は狭まり、身体は固まり、呼吸は浅くなり、頭は「最悪の予測」を繰り返しやすくなります。

ここで必要なのは、説得や反論ではありません。
身体が納得できる形で、「いまは安全」を増やすことです。

  • 視野を左右に広げる
  • 音の方向を確かめる
  • 足の接地感を感じる
  • 肩・顎・喉・みぞおちの硬さに気づく
  • 呼吸が通る場所を探す

こうした小さな操作が、「危険モード」から「現在モード」への切り替えを助けます。


トラウマケアの焦点:身体的影響と注意の向け方の“変化”

トラウマケアでは、トラウマ体験の身体的影響と、外界への注意の向け方がどのように現れて変化し続けるかに注意が払われます。
過去の経験を共有し、個人的な強さを通してトラウマ的な状況をコントロールすることも、癒しのプロセスに役立ちます。

ここで言う「コントロール」は支配ではなく、主導権です。
たとえば、身体が縮む場面で、

  • 逃げる
  • 距離を取る
  • 誰かに連絡する
  • 断る
  • 休む
    ができるだけで、身体は「終わらせられる」を学び直します。

そして、体内の閉じ込められたエネルギーを癒し、解放するという自然の力に身を委ねることは、トラウマを克服する上で非常に重要です。
凍りつきの奥には、出せなかった闘争・逃走のエネルギーが残っていることがあるからです。


トラウマを克服する方法

――恐怖の根源を理解し、自己調整スキルを獲得していく

複雑なトラウマを持つ人々は、環境の変化に応じて筋肉や内臓の緊張の高まりを経験し、脳は防御メカニズムに従事します。
これらのトラウマを克服するためには、自分の体のおびえた部分怒りを引き起こす可能性のある部分を調べて認識することにより、恐怖の根源を理解することが重要です。

環境の刺激に対する身体の反応の認識を深めることで、生体の恒常性を維持する力が強まり、身体的な恐怖や感情的な痛みに直面しても、落ち着くための自己調整スキルを学ぶことができます。


身体性を育む:観察し、友好関係を作る

自分の体をしっかり感じて、刺激に反応してどのように変化するかを観察することで、身体性を育むことができます。
身体との友好関係を育むことで、心と身体の内部から悪いものが出てくる場合でも、身体的な感覚や感情に圧倒されることなく、落ち着きを保つために必要な自己調整スキルを身に付けることができます。

ここで言う「悪いものが出てくる」は、症状の悪化ではなく、麻痺がほどけて感じられるものが戻ってくるプロセスでもあります。
感覚が戻ると、痛み・凝り・吐き気・怒り・悲しみが噴き上がることがあります。だからこそ、次に述べる「振り子(行き来)」が重要になります。


生活の調和:ジムだけでなく、ヨガ・瞑想・演劇・交流まで含める

ジムで体を強化するだけでなく、ヨガ、瞑想、演劇、運動、人との交流などの実践を通じて調和のとれた生活を体験することが重要です。
徐々に体幹を強化し、姿勢を改善しながら、しなやかでリラックスした柔軟で伸縮性のある体づくりを目指します。

穏やかな状態を達成するために、身体的なアプローチ、イメージ療法、ヨガ、瞑想、演劇、歌、ダンス、トランポリン、バランスボール、スムービーリングの組み合わせを使用して、筋肉を伸ばしてリラックスさせ、内臓を楽にし、自律神経系を安定させ、自然に平和な状態に導くことができます。

ここでのポイントは「万能の一手」を探さないことです。
トラウマが残す影響は、筋肉・呼吸・注意・感情・関係性と多層にまたがります。だから、回復も単線ではなく、多層から支えていくほうが安定します。


治療で何が起きているか:イメージと刺激を“行き来”して耐性を育てる

――修復と治癒を繰り返し、身体の反応を変えていく

治療では、心地良いイメージや不快なイメージを行き来し、身体に音や振動を繰り返しさらし、身を委ねながら、修復と治癒を繰り返すことにより、ストレスやトラウマ反応に対する耐性を高めます。

この「行き来」は、ただの気分転換ではありません。
トラウマは、強すぎる刺激に対して身体が“落ちる”ことで生き残った履歴です。だから治療は、刺激を一気に突破するのではなく、落ちる直前で戻れる幅を増やすことになります。


振り子(ペンデュレーション):心地よさと不快さの間を、戻りながら進む

トラウマ治療の多くは、形式は違っても同じ核を持っています。
それは、

  • 安心できる感覚(資源)
  • 不快で怖い感覚(トラウマ負荷)
    の間を、戻れる範囲で行き来することです。

戻れないほど入ると、再トラウマ化します。
入らなさすぎると、変化が起きません。
だからこそ、安全・ペース・関係が前提になります。


音・振動・刺激に“慣れる”身体ワーク:スムービーリングを含む

スムービーリングとは、振動や音を用いて身体の反応を感じていくことで、自己調整能力を高めるトラウマ治療の一つです。健康な人は心地良く感じる傾向がありますが、トラウマを抱える人は刺激が強すぎて、身体内部から悪いものが溢れ出てくる場合があります。

だから必要なのは、刺激を避けるか耐えるかではなく、
**“耐えられる形に分割して、身体に新しい記憶を刻む”**ことです。

トラウマを克服するためには、スムービーリングなどを使って様々な刺激に触れ、注意を広げ、身体の反応を繰り返し感じていくことが必要となります。
トラウマに関する感覚や痛みを身体に染み込ませることで、身体と心の不調和を改善し、過去の恐怖感を減少させ、生々しい刺激に慣れることで現実世界と調和が取れるようになります。


カウンセリング:侵襲性の高い治療の前に「支持的な関係」が必要になる

――生活の安定と信頼関係が、回復の速度を決める

トラウマを克服するためには、支持的なカウンセリングが有効です。
トラウマを扱う治療法は侵襲性が高く、本人の負担が大きくなりすぎることがあります。
そのため、まずは信頼関係を構築し、生活が安定するまでは、カウンセリングを中心に行うことが重要です。

カウンセリングでは、自分の気持ちや思っていることを少しずつ話していき、カウンセラーが肯定的な関心や気持ちで受け止めてくれることが重要です。
この体験を通じて、自分自身の感情を受け入れ理解し、回復のための自信や力を得ていきます。

回復の道は、孤立のなかでは難易度が上がります。
支持的な関係は、単なる慰めではなく、神経系の再学習の場です。


トラウマ治療への抵抗:怖さ・遅さ・お金・期待が苦しい

トラウマを抱えた人が治療を受ける際には、抵抗が生じる可能性があります。
治療するには遅すぎると感じたり、身体に刻まれた恐怖のために自分自身に直面することを避けたり、あるいは「期待すること」自体が苦しくなることがあります。

また、複雑なトラウマを抱えている人は仕事を続けることが大変なことが多く、金銭的に長期治療が困難になる可能性もあります。

さらに、再び傷つくことを恐れ、緊張や警戒心を解きたくないと感じることもあります。
しかし治療は、その緊張や警戒心に働きかけ、少しずつリラクゼーションを施していきます。治療が進むにつれて、心身の状態変化を経験し、以前の自分を手放すことにジレンマを感じることもあるでしょう。

ここで大事なのは、抵抗を「悪」としないことです。
抵抗は、身体が守ろうとしている証拠でもあります。
だから治療は、抵抗を壊すのではなく、抵抗が安心して緩める条件を整えていきます。


ソマティックエクスペリエンス:言葉だけでは届かない領域に触れる

――解離してしまった身体感覚と感情を回復するために

複雑なトラウマに苦しみ、解離の症状を示している人にとって、従来の「傾聴中心」の方法だけでは、感情的な痛みの深さに到達できないことがあります。
特に、トラウマによって感情や身体感覚が解離している場合、新しいアプローチが必要になることがあります。

そこで、身体ワークの一つであるソマティックエクスペリエンスが有効な治療法の一つとして挙げられます。
身体感覚に基づいた治療法であり、トラウマが身体に残す影響を解放するために身体を使います。


何をするのか:リラックス部位と緊張部位を交互にたどる

ソマティックエクスペリエンスでは、呼吸法や筋弛緩法、瞑想などを取り入れ、身体感覚を利用して治療を行います。
身体の中のリラックスしている部分と緊張する部分に交互に意識を向け、今何を感じているか、そこから浮かぶ感情・イメージ・場面とのつながりを見ていきながら、段階的に深くつながれるようにしていきます。

身体感覚による実感が伴うため、涙が出る、悲しむ、震える、良かった頃の記憶が戻るなど、強い反応が起きることがあります。
それは異常ではなく、分断がほどけて結び直される過程で起きうることです。


身体アプローチの重要性:麻痺がほどけると「感じすぎ」が起きる

うつ病、無力感、悲しみのために身体感覚を麻痺させてしまった人にとって、身体感覚を取り戻すことは癒しに重要です。
しかし取り戻そうとすると、不快感や違和感、強い感情がどっと押し寄せることがあります。

そのときは無視するのではなく、受け止め、身体感覚に焦点を当てたアプローチで、痛みや疲労を解放し、全身が暖かく穏やかに感じられる方向へ進めていきます。
呼吸、マインドフルネス、自律訓練法、リラクゼーション、筋弛緩法などはその手段になります。


身体を落ち着かせる方法

――ヨガ・瞑想・呼吸・ストレッチ・フォーカシングで“現在”を取り戻す

トラウマを抱える人々は、悩み続けることをやめ、自分の身体の状態に注意を払うことから始めます。
身体の状態に注意を払うことは、現在の自分自身を理解し、感情と感覚について学ぶことです。

ヨガ、ストレッチ、瞑想、呼吸法、マインドフルネス、フォーカシングを使って、身体の状態に気づき、どのような感覚があるのか、次に何が起こるのか、どのような変化が起こるのか、その変化に抵抗することなく観察します。
身体を動かすことは頑張りすぎることではなく、緊張を解放することを目的として進めます。

最初は、身体を見ることを恐れたり、何も感じられなかったりするかもしれません。ですが時間とともに感覚が戻ってきます。
そのとき大事なのは、巻き込まれない範囲で、安心感と安全感に注目しながら進むことです。


身体の凍りつきをケアする:伸ばす・温める・触れる・声を出す

身体の麻痺が解けていくと、痛みや凝りが表面化することがあります。みぞおちが苦しい、首や喉、胸、鼻が詰まる、全身が詰まったように感じることもあります。

身体が凍りついている場合は、筋肉が縮まっているところを伸ばす必要があります。
ヨガ、ストレッチ、マッサージ、歌、演劇、ダンス、ペットとの触れ合い、愛する人と話をすることなどが有効です。

人は寝ているときに身体が凍りついていくことがあるため、朝は朝食をとり、ヨガで筋肉を伸ばすか、体の声に従って自由に動かし、汗ばむくらいの運動で温めることが大切です。
日中は、こわばりや凍りつき反応に気づいたら、好きな場所に行く、好きなことを空想しながら身体を感じるなどで緩和を促します。
夜は寝る前のストレッチが効果的です。


身体感覚の麻痺を解く:揺れ・震え・叩く・跳ぶ・踊る

トラウマや発達障害を持つ人は、身体内部から悪いものが出て毎日がしんどくなり、感覚が麻痺していくことがあります。
瞑想、マインドフルネス、ヨガ、ジャンプ、ダンス、トランポリン、身体に振動を与える、身体を軽く叩く、ヴーと声を出して腹から息を吐く、体の揺れや震え、スムービーリング、楽しく全身運動などを通じて、身体感覚を取り戻し、ボディイメージを改善することができます。

ここでの鍵は「気合い」ではなく「許容量」です。
感じる量を調整しながら、身体に安全な変化を刻みます。


先々の不安より「好奇心」に目を向ける

――防御思考から抜け、自己にアクセスする力を育てる

重度のトラウマを抱えている人は、凍りや麻痺で注意が狭まり、思考が漂い、不安が増し、決定が難しくなりやすいことがあります。
この状態では、未来の不安にとらわれるほど、身体はさらに危険モードを強めます。

そのとき大切なのは、解離や離人症状の発現を恐れて追い払うことよりも、自分の中で何が起こっているのかに興味を持つことです。
自己への好奇心は、防御的思考に頼らず内面にアクセスする助けになります。

五感を使い、身体をアクティブに動かし、「いま何が起きている?」と問える状態を増やすこと。
それが自己発見と自己発展を促し、回復の力になります。


死を意識して受け入れる

――有限性が、恐怖を相対化し、視野を広げることがある

死を意識することは、トラウマからの解放に役立つことがあります。
人生の有限性を受け入れることで大局的視点が生まれ、恐怖や痛みを相対的に捉え、平穏を取り戻す助けになる場合があります。

また、自分の価値観や人生の目的を見つめ直す機会にもなります。
死の意識は、絶望の道具ではなく、「本当に大切にしたい方向」へ戻るための羅針盤になり得ます。


恐怖を感じるメカニズム

――扁桃体・身体信号・理性脳の関係を、体験として理解する

同じ出来事でも、人によって恐怖の感じ方は異なります。
脅威に対して有効な手段があるときは、恐怖をあまり感じません。
しかし、有効な手段がなく身動きが取れなくなると、死ぬほどの恐怖を感じます。

身体が凍りつきや虚脱にあるとき、内臓や筋肉の神経から脳へ危険信号が送られ、扁桃体が強く反応し、人は恐怖を感じます。
一方、情動脳より理性脳が働いている場合、恐怖をある程度抑制できます。

そして、凍りつき(筋収縮)や虚脱(筋崩壊)から抜け出せるようになると、その体験は安全感へ変化します。
回復とは、出来事の記憶を消すことではなく、身体が抜け出せることを覚えることでもあります。


イメージワークと身体ワーク

――「頭の理解」を「身体の納得」に変えるための手順

トラウマを克服するためには、イメージワークと身体ワークを併用することが主流です。
イメージワークでは、自由連想に耽ったり、望ましい自分を演じたり、トラウマのイメージを書き換えたりすることで、自己イメージや他者イメージを逆転させ、モードを切り替えます。

セラピストはクライエントが無意識にアクセスしやすいように誘導し、浮かぶイメージや空想を探求します。具体的には、
①安心するイメージや望ましいイメージを想像して身体を楽にする。
②身体の違和感に着目し、そこから浮かぶイメージや空想を使って自己を癒す。
③頭に浮かぶイメージ・空想・考えを自由に連想していく。
こうした流れがあります。


身体→安心→脅威→防衛→回復の順で「完結」を作る

まずは現在の身体感覚に注目します。
足の接地感、ふくらはぎの筋肉、手の感覚、みぞおちの状態、呼吸などに意識を向けます。
肩を回す、口の開け閉め、目を左右に動かすなどで血流を促し、全身の緊張を緩和します。

その後、安心できるイメージを持ち、部屋の中の良い気配を目にしながら身体をリラックスさせます。

次に、脅威があるというイメージを思い浮かべ、人に傷つけられる場面を目で見て、身体が収縮している状態を確認します。
トラウマを受けた時の身体状態を再現し、凍りついたり虚脱したりしながら、自分を守るための身体的行動を取ったり、納得のいく答えを見つけたりします。

自分が脅威を遠ざける/倒す/逃げることができると、身体に安心感が戻ってきます。
一連の反応を追体験し、身体反応と感情を一致させることで、癒しが起きるとされます。


天国と地獄のイメージ:快と不快の往復で「感じ方」を変える

イメージや空想を膨らませながら、天国のイメージ(息がしやすく、血流が良く、至福の体)に浸り、または地獄のイメージ(手足が冷たく、息苦しく、気を失う)から逃げ出すことで、心身の見方を変えていく方法があります。

一人で取り組むのは困難なので、セラピストと共に地獄の世界に潜り、その苦痛を受け入れたり、天国と地獄の間をゆっくり行き来することで、徐々に健康的な状態へ向かいます。
地獄の体験が変化すると、不快な体反応が変わり、態度や思考にも変化が生じ、ストレス対処が改善します。


自分自身や対象を受け入れる

――未知への恐怖を否定せず、身体と一体化していく

トラウマは未知の要素を含みます。
未知への恐怖を否定したり、身体反応を無視したりするのではなく、そのまま受け入れ、自分に寄り添うことが大切です。

胸がつかえるほどの不快、足が震える恐怖、吐き気。
それらを抱えながらも、身体と一体化していくことが求められることがあります。

さらに、自分を脅かした両親や重要人物に対して、憎悪だけではなく愛情や思いやりを持てるようになることが、新たな可能性への道を開く場合があります。
悲しみや傷つきを持つ人は、身体的痛みやそれを引き起こした対象に対し、献身的自己犠牲という意味ではなく、思いやりのある注意を向けられるようになることで、内面世界が変容していくことがあります。
内なる悪魔や蛇が善良な存在へ変わる、という表現は、その象徴です。


トラウマのエネルギーの解放

――凍りついた身体を震わせ、生命感を取り戻す

複雑なトラウマを抱える人は、過去に繰り返し脅かされ、闘争・逃走反応がうまく機能しなくなっていることがあります。
その結果、身体が凍りついて動かない部分が残ります。

治療では、恐怖や苦痛に向き合い、凍りついていくのを感じる状況を作り出します。
そして、不快感や不動状態への見方を変え、圧力を跳ね返すイメージを持ちながら、筋肉や神経に溜まったエネルギーを震わせ、ビリビリと感じながら解放することで、生き生きとした自分を取り戻すことができます。

凍りつきが解放されると、感覚や視界の改善、現実との接点の回復が起きることがあります。
身体が正常に戻るほど、自己・他者・世界と向き合えるようになります。

解放には継続的エクササイズが必要です。身体を使って自己理解を深めるほど、自己像・他者像・認知の歪み・思考パターン・安心感が変化し、人生の方向性が見えてくることがあります。


トラウマ専門のセラピストの姿勢

――安心・安全・自由に語れる場が、治療の土台になる

トラウマ治療において、セラピストはクライエントに対して、安心・安全な場所を提供し、自由に思ったことを話せるような態度を取ることが重要です。セラピストは、クライエントに無条件の肯定的配慮と共感的理解を示せるよう、自己一致(純粋性)を高める訓練が必要です。

ここで言う「安心・安全」とは、雰囲気の良さだけではありません。身体が防衛反応を緩められるための条件、つまり「ここでは急がされない」「責められない」「言い直してもいい」「沈黙しても壊れない」という体験の積み重ねです。トラウマでは、言葉以前に身体が縮こまります。だからこそ、治療の土台は“態度”で作られます。

セラピストは職業としているため、精神科医のように営利を求めて、効率性や生産性を重視している場合があります。しかし、その利己的な段階に留まっている限り、トラウマに苦しんでいる人を助けることはできません。トラウマを扱うセラピストは、自分や組織の利益よりも、クライエントの利益を最大限にするために努め、人間的な思いやりや愛情を持って関わり、心に寄り添うことが重要になります。

トラウマ領域では、クライエントが「うまく話せる」こと自体が最終目標ではありません。話せない沈黙、混乱、言葉の途切れ、身体反応の揺れを含めて、クライエントの全体が“ここに居てもよい”と感じられることが先に必要です。治療の進みは、効率では測れません。安全が育つ速度で進む必要があります。

精神分析家のウィルフレッド・ビオンの理論において、セラピストはある特殊な役割を果たすべきだとされています。新生児を思いやりと愛で見守る母親のように、セラピストはクライエントに対しても同様の感情を持つべきでしょう。これは、新たにこの世に出てきたばかりの小さな生命を優しく抱きしめる母親の無条件の愛情と受容を象徴しています。

この比喩は、甘やかしの推奨ではありません。トラウマでは「感じること」が危険だった歴史があるため、クライエントは“感じる方向へ戻る”こと自体に恐れを抱えています。そこに必要なのは、正論や叱咤ではなく、身体が戻っていけるほどの受容と支えです。

また、セラピストは「目覚めていて夢見ているような心の在り方」を持つことが求められます。これは現実と夢、意識と無意識が交錯する境界線上で働くことを意味します。セラピストは、クライエントの内的体験とその象徴的な表現を理解し、解釈するために、この夢見がちな状態に身を置くことが重要です。

トラウマ臨床では、クライエントが語るのは事実の報告だけではありません。身体の感覚、突然のイメージ、言語化できない恐怖、自己否定の声、断片化した記憶、象徴として現れる夢や空想が、治療の重要な手がかりになります。その領域を「現実か非現実か」で裁かず、境界上で丁寧に扱う姿勢が求められます。

このようにセラピストが新生児の母親のような愛情深く、また夢見がちな心を持つことで、クライエントが母胎や乳児の時期の感覚に戻れるようにするという点にあります。このビオンの理論は、人間の精神的な癒しと成長を助ける深い洞察を提供しています。


日常生活のセルフケア

――「薬が難しい」状況でも、身体から整えていく

複雑なトラウマがある人は、日常生活が非常に辛く苦しいものであることがあります。しかし、そんな中でも、自分の身体に着目し、身体を落ち着かせることで、辛さを軽減することができます。たとえ今とても辛い状況にあっても、薬を飲まずに身体を落ち着かせる方法を学ぶことで、自分の感情をうまく調節することができるようになります。たとえば、交感神経が刺激され、焦りを感じている場合でも、自分の身体を落ち着かせる方法を実践することができれば、感情の調整がうまくいくようになるでしょう。

セルフケアは、贅沢な余暇ではありません。トラウマ反応が強いほど、生活は「平時のタスク」ではなく「危機対応」になります。だから日常の回復は、精神論ではなく“神経系のマネジメント”として扱うほうが現実的です。

日常生活においては、セルフケアを行うことで、落ち着いて過ごす時間を増やしていくことが重要です。また、自分のペースでトラウマケアのワークやセルフモニタリングを繰り返すことが大切です。時間が経つにつれて、セルフケアが身についていけば、数か月前とは比べ物にならないくらい体調が良くなっていくでしょう。何年にもわたって繰り返し続けることで、徐々に自己回復能力が高まり、辛さを乗り越えることができます。

ここで重要なのは、調子が良い日も悪い日も「同じ尺度で自分を裁かない」ことです。トラウマの回復は直線ではなく、波がある前提で進みます。セルフモニタリングは、評価ではなく“地図づくり”です。自分の身体が何に反応し、何で落ち着くのかを知るほど、回復は加速します。


ヨガでトラウマから自由になる

――身体を目覚めさせ、呼吸を深くし、内側から整える

ヨガは、身体の反応が鈍くなっている人がその感度を上げるために行われるとされています。現代の生活はストレスや緊張が多く、それが原因で身体が緊張してしまうことがあります。また、普段の生活で同じようなことしかしていないため、身体をうまく使えていない状態に陥ることがあります。そこで、ヨガでは身体の眠っているところを目覚めさせ、身体をより活性化させることが目的とされています。

トラウマでは、身体が「感じないことで生き延びた」歴史を持つことがあります。その結果、身体の反応が鈍る一方で、刺激が入ると急に過敏になるという矛盾が起きます。ヨガは、その両極端をなだらかにし、身体の中に“戻れる範囲”を広げます。

ヨガでは、呼吸法を使い、身体の内部を活性化します。普段から浅い呼吸しかしない人は、肺を大きくして、呼吸を深くすることで、身体に十分な酸素を供給し、代謝を促進します。また、身体の縮まっているところをストレッチして伸ばしていくことで、血液の循環が良くなり、内臓が活性化して、身体が快適になります。ヨガのポーズや呼吸法を繰り返すことで、身体の調子を整えることができ、ストレスや緊張を解消し、心にも良い影響を与えます。

ヨガは身体だけでなく、心と精神にも効果があります。ヨガのポーズをとることで、身体と心のつながりを深め、自分の内側を見つめることができます。また、ヨガの呼吸法や瞑想を行うことで、心を静め、自分の内側に集中することができます。その結果、ストレスや不安感が減り、心の平穏を取り戻すことができます。

ポイントは、頑張り過ぎないことです。トラウマ領域の実践は「限界を押し広げる」より、「安全域を増やす」ことが目的になります。きついポーズを達成することより、終わったあとに呼吸が通り、身体が少しでも温かい方向へ向かったかを指標にしてください。


身体に良い体験を刻む

――安心・安全を「出来事」ではなく「感覚」として身体に残す

トラウマがある人は、家や学校、職場、社会など、生活の中でさまざまな圧力を感じているかもしれません。しかし、そのような圧力に我慢したり、抗ったりするのではなく、自分自身がしたいことをしたり、見たい景色のある場所に行ったりするなど、五感をしっかり使い、心や体が望むままに動くことが大切です。

トラウマの状態から抜け出すには、安心・安全な感覚を体に刻む必要があります。神社仏閣巡りや自然暮らし、快適な生活、人との交流を重ねる、愛する人とのセックス、ペットとの触れ合いなど、良い経験を積んでいくことで、心と身体の変化が現れます。自分が安心できる環境を作り、自分自身を解放し、心身の緊張を和らげることが大切です。

ここで言う「刻む」は、意識の上で「良かった」と評価することではありません。身体が、皮膚感覚や呼吸や体温として「大丈夫だった」を覚えることです。五感の体験は、トラウマの言語化より先に働きます。だから、回復は“良い経験の反復”によって現実的に起こります。


考えすぎを止める習慣や生活環境

――過度思考から抜け、世界との接触を深める

心の平和を維持するための生活環境を作り出すことが重要です。それは過度な思考から逃れ、存在の本質を感じることを可能にする環境です。過度な思考に頭が満たされているとき、現実と向き合うことは難しくなります。そんなときこそ、意識を今、この瞬間に向けることが必要です。

感覚を呼び覚まし、外界との接触を深めていきましょう。風の優しい撫でるような感触、自然から放たれるさまざまな香り、目に映る風景の細部まで…これらは全て今、ここにいるという実感を呼び起こします。目を閉じて、風が皮膚に触れる瞬間を感じてみてください。そこには、あなたと世界との境界が曖昧になる特別な一瞬があります。

そして、感じたことを言葉に表現することが大切です。無形の感覚を形にすることで、思考の束縛から自由になれます。体験したこと、感じたことを言葉で捉えると、心の深部が軽くなり、広大な世界とのつながりが明らかになります。それぞれの感覚を詳細に描き出すことは、思考の迷路から抜け出し、現実と直接対話する道を開く鍵となります。そして、その一瞬一瞬が積み重なることで、より豊かで満足のいく生活を創り出すことができます。

「考えすぎ」は性格というより、防衛です。危険予測を止めると不安が増えるため、脳が回し続けてしまう。だから止め方は、説得ではなく“感覚への接続”が有効になります。身体が今を感じられるほど、思考は自然に減速します。


毎日続けることで身体が変わる

――循環・体温・呼吸・思考のクリアさが戻る

日常生活の中で、ソファーやリクライニングチェアでくつろぎながら、急がずに身体の声に従って、呼吸がしやすい状態や快適な状態を意識して保つようにしてください。自分自身のペースで、トラウマの身体ワークやイメージワーク、ヨガ、瞑想、リラクゼーション、演劇、運動などを毎日行い、縮んだ身体を伸ばして、心地よい状態を作ることが大切です。このようにすることで、血液の循環が良くなり、手足の末端まで血液が循環し、基礎体温が上がります。また、胸が楽になり、呼吸がしやすく、頭がクリアになります。

健康度が上がることで、自律神経系や免疫力、ホルモンバランスなどが整い、風邪を引きにくく、不眠やうつ、PMS、過呼吸、体調不良などが緩和され、外の世界に対して肯定的な感情が芽生えます。身体や心の健康状態を維持することで、トラウマによる影響を減らすことができます。定期的な運動や呼吸法、瞑想などを取り入れることで、身体と心の健康を保ち、トラウマからの回復を促進することができます。

「続けることで変わる」というのは、気分の問題ではなく、身体の基礎条件(循環・呼吸・睡眠・体温)が変わるという意味です。ここが変わると、外界が“敵”としてしか見えない状態から抜けやすくなります。回復とは、生活の地盤を作り直す作業でもあります。


トラウマ治療がもたらす変容のプロセス

――解放と不安定さを通過して、統合へ向かう

トラウマ治療が進むにつれて、クライエントは少しずつ心身の安定を取り戻し、新たな自分との出会いが始まります。治療の初期段階では、過去の記憶や感情に向き合うことが難しく、特に身体が凍りついていたり、緊張が続いている場合、進展が遅く感じられることもあります。しかし、セラピーを進めることでクライエントは次第に自己理解を深め、身体感覚や感情に対する反応が徐々に変わっていくのです。


心と体の解放と不安定感

治療が進行するにつれて、クライエントは「解放感」を感じることが増えますが、これには驚きや不安も伴います。長年、自己防衛やトラウマに対する防御反応として維持してきた行動や感情のパターンを手放す過程は、時に未知の感覚を呼び起こし、不安定さを感じる瞬間もあります。それでも、これらの変化は自己成長への大きな一歩であり、クライエントが心と体のつながりを意識し、より統合された自己を感じるための重要なプロセスです。


感情と身体感覚の統合

治療がさらに進むと、クライエントは感情、記憶、身体感覚がバラバラだった状態から、これらが一体化された「統合された自己」を感じ始めます。トラウマによって分断されていた心と体が再び結びつき、クライエントは自己をより全体的に捉えられるようになるのです。この段階では、クライエントはトラウマに起因する身体の反応や緊張に対して敏感になり、無意識に生じる防御反応を自覚する力を養います。

たとえば、特定の状況で心拍数が上がったり、体が緊張したとき、その瞬間に気づき、呼吸法やリラクゼーション技術を使って自分自身を落ち着かせることができるようになります。この技術はセラピーの中だけでなく、日常生活でも応用され、クライエントは恐怖や不安を感じる状況に再び直面しながらも、自己調整のスキルを実践していきます。


日常生活への応用と自己成長

治療を通して習得した技術は、クライエントの日常生活にも取り入れられます。たとえば、緊張やストレスを感じたとき、クライエントは深呼吸を行い、身体の硬直を意識的に緩めることができるようになります。また、五感を活用して現在の環境に注意を向け、過去のトラウマに基づく視野の狭まりを解放し、「今、この瞬間」を楽しむ力が身につきます。

治療が進むにつれて、クライエントは自分の人生に対する新しい目標や挑戦を持ち、自己成長を促す機会を探し始めます。かつては不安や恐怖によって避けていた活動にも挑戦できるようになり、新しい趣味やスキルを学び始めたり、社交の場に積極的に参加するようになります。これにより、クライエントは以前とは異なる充実感を持って生活を送ることができるようになるでしょう。


自己受容と未来への歩み

クライエントがこの段階に達すると、自身の強みや限界を正しく理解し、それを受け入れながらも、さらに成長していく力を持つようになります。セラピストのサポートを受けながら、クライエントは過去のトラウマを乗り越え、新しい未来に向かって歩み始めます。これは、単に過去の傷を癒すだけでなく、自分自身を受け入れ、未来への希望を抱くプロセスです。

心と身体が調和し、過去のトラウマや恐怖から解放されることで、クライエントは新しい視点を持って人生を捉えることができるようになります。内面的な変化を実感し、今まで気づかなかった自分の新たな可能性に目を向けることで、日常生活にも小さな喜びや感謝が生まれ、心に余裕が生まれてきます。


社会的つながりの再構築と豊かな人生

トラウマによって失われていた社会的つながりも、治療を通じて再び構築されていきます。クライエントは、家族や友人との関係を見直し、トラウマに基づく防衛的な態度を手放し、よりポジティブなコミュニケーションを育むことができるようになります。これにより、クライエントは社会とのつながりを深め、より豊かな人間関係を築くための基盤を得るのです。


心と身体が調和した健康な状態とは

――「鎧」が脱げ、地に足がつく感覚が戻る

トラウマとは、過去の嫌な記憶や感情、そして感覚が突然蘇り、心に大きな苦痛をもたらす状態のことです。この状態にある人は、思い出すたびに苦しくなり、勝手に考えが頭に浮かび、消耗してしまうことがよくあります。さらに、周りの人々の感情や期待に敏感になり、「自分がどう思われているのか」と考えすぎてしまい、日常生活にも悪影響を及ぼすことがあります。

しかし、トラウマが徐々に癒されると、その影響は和らいでいきます。過去の出来事に囚われることが減り、以前は気にしていたことがあまり気にならなくなります。今まで苦手だった人や状況に対しても「もうどうでもいい」と思えるようになり、心の中で穏やかな変化を感じ始めるでしょう。かつて悩み続けていた問題についても、しつこく考え込むことが減り、心の負担が軽くなるのです。


トラウマから解放された状態

トラウマの影響を受けていない、健康な状態とは、外の世界に対して過度に警戒する必要がなくなり、体が緊張したり、固まったりしていない状態です。体も心もバランスが取れており、落ち着いていて、気持ちよく感じられます。この状態では、私たちが無意識に作り出していた「鎧」を脱ぎ捨て、脳の防御的な反応が和らぎます。これにより、肉体的な感覚や思考も柔らかくなり、他者と自然に関わることができるようになります。

この時、地に足がしっかりとつき、腹には力強さと安定感が宿ります。無防備でありながら恐怖心はなく、物事に動じず、冷静な自分が存在します。頭はクリアで、視界もはっきりし、手足は温かく、みぞおちが柔らかく感じられるでしょう。感情の波も減り、自分で自分を調整できる能力が向上します。幸福感が体全体に広がり、全身が温かく感じられるとき、手先からつま先までが調和していることに気づきます。


健康な日常生活の姿

健康な状態にあるとき、日常生活はどのように変わるのでしょうか?例えば、リラックスした姿勢で椅子に座り、体が自然と安定しているのを感じられるでしょう。何かに追い立てられることなく、ゆったりと過ごすことができます。就寝前には、大の字で仰向けになり、頭がクリアで、目や顎、肩、首の力もすっかり抜けています。全身をマットに預け、深くリラックスした状態で眠ることができ、みぞおちがつかえることもありません。

朝目覚めたときは、体が軽く、頭もすっきりしているでしょう。悩み事は少なく、元気な一日を始める準備が整っています。このように、心と体が調和し、リラックスした健康な状態が続くと、日常生活においても自然とポジティブな感情が芽生え、充実した日々を送ることができるのです。


健康な状態がもたらす日常の変化

トラウマから解放され、心と体が安定すると、日常生活のあらゆる側面に変化が現れます。例えば、これまでのように人間関係に敏感になりすぎることも減り、他人の評価や感情に振り回されることが少なくなります。自分自身を肯定的に捉えられるようになるため、自然体で他者と関わることができ、人間関係にも安定感が生まれます。

トラウマがある時期は、自分が傷つくことを恐れて、無意識に自分を守る鎧を身にまとっていました。しかし、その鎧が徐々に取り除かれると、心の緊張がほぐれ、身体の筋肉もリラックスしていきます。これによって、身体の感覚や反応により敏感になり、過去には気づかなかったような、体の微細な感覚も感じられるようになるでしょう。

特に、ストレスを感じたときや緊張を感じたときに、体がどのように反応しているかに気づけるようになります。そして、その反応に応じて、自分自身をリラックスさせるスキルも自然に発揮できるようになるのです。


体と心が一体となる感覚を取り戻す

健康な状態では、体と心が一体となり、互いに影響し合っている感覚が明確に感じられます。これまでは分離して感じていた体の感覚や感情が、徐々に調和し、統合されるようになります。その結果、自己の一体感が生まれ、内面的な安定感がより強固なものとなるでしょう。

例えば、深い呼吸を意識することで、みぞおちがリラックスし、全身に酸素が行き渡る感覚が得られるようになります。これは単に身体的なリラクゼーションだけでなく、心にも深い安心感を与え、思考がクリアになり、穏やかな気持ちが湧き上がる瞬間です。このように、体と心のつながりを強化することが、トラウマからの回復には不可欠です。


持続的な自己ケアの重要性

トラウマからの回復後も、心と体をケアし続けることは非常に重要です。定期的なセルフケアを行うことで、身体がリラックスし、再びトラウマの影響を受けることなく、安定した健康状態を保つことができます。呼吸法や瞑想、ヨガなどを日常に取り入れることで、緊張を緩め、心の平和を取り戻すことができます。

また、日々の自己ケアを通じて、自分自身の感情や体の状態を定期的にチェックすることが、ストレスへの対処法を学び、心身のバランスを維持する鍵となります。これにより、予期しないストレスや感情的な揺れが生じた際にも、速やかにリラックスし、自己調整ができるようになるのです。


未来への希望と新たなチャレンジ

トラウマから解放された状態では、新しいチャレンジに対する前向きな姿勢が生まれます。以前は不安や恐怖で避けていたことにも挑戦できるようになり、自分自身の成長や変化を実感することができます。この時期には、自己肯定感が高まり、過去の制限を超えて、自分の人生に新たな可能性を見出す力がついているでしょう。

新しい趣味やスキルを学んだり、これまで手を出せなかった活動に挑戦することで、人生に新たな色彩を加えることができます。心と体の健康が整うと、これまで見えなかった選択肢やチャンスが浮かび上がり、より積極的に未来を切り開いていけるようになるのです。


トラウマからの回復と新たな道

最終的に、トラウマからの解放は、ただ苦痛から抜け出すだけでなく、自分自身の新たな可能性を発見し、未来に向けて前進するための力を得ることです。心と体が調和し、健康な状態を保つことで、日常生活においても幸福感が増し、他者とのつながりも深まります。


まとめ:トラウマの克服は「安全」「身体」「関係」の再学習である

トラウマの克服は、過去を消すことではなく、身体がいまを安全として扱えるように再学習していくプロセスです。

  • 安全な環境を整え、脅威から距離を取る
  • 過覚醒と凍りつきを理解し、身体の反応を観察できるようにする
  • 五感と姿勢で注意を広げ、現在に戻る
  • 休憩とリラクゼーションで神経系の回復を支える
  • 身体ワークとイメージワークを組み合わせ、行き来しながら耐性を育てる
  • 支持的カウンセリングで関係の安全を確保し、抵抗も含めて扱う
  • 日常のセルフケアで“良い体験”を身体に刻む

これらが積み上がるほど、凍りつきや過覚醒は緩み、身体がリラックスし、心から良いものが溢れ、柔軟さと前向きさが戻ってきます。
トラウマは「意志の弱さ」ではなく、身体が生き延びた履歴です。だから回復も、身体が納得できる形で、少しずつ進めることが最短になります。

心理療法やトラウマ治療の全体像を整理して理解したい方は、心理療法とは何か|トラウマ治療・カウンセリング・身体アプローチを統合的に解説をご覧ください。

このプロセスは、一朝一夕で達成されるものではありませんが、継続的な自己ケアと専門的なサポートを受けながら進むことで、クライエントはより豊かな人生を歩むことができるようになるのです。

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【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
新刊『かくれトラウマ - 生きづらさはどこで生まれたのか -』
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過緊張や生きづらさは、あなたのせいではなく、育った環境や親子関係の中で身についた生存の反応として残ることがあります。
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。