凍結(Freeze)や強直性不動状態に陥るとき、人の身体と心は、極度に高まった警戒状態の中にあります。
それは性格や意思の問題ではなく、自己防衛のために引き起こされる生理的反応です。
凍結(Freeze)とは何が起きている状態なのか
強い脅威や逃げ場のないストレスを感じた際、本来であれば発動する「戦うか」「逃げるか」という反応が途中で遮断され、神経系は第三の選択として**「凍結」**を選びます。
戦うことも、逃げることもできない。
その状況で身体が選んだのが、動きを止めることによる生存でした。
このとき人は、強い無力感に包まれます。
それは心理的な感覚というより、身体がそう感じさせている状態です。
凍結状態で身体に起きる変化
凍結状態に入ると、筋肉は強く緊張し、まるで文字通り体が凍りついたかのように、動きが制限されます。
身動きがとれず、身体は硬直し、自由に動けなくなる感覚に襲われます。
同時に、呼吸は浅くなり、息苦しさを感じることも少なくありません。
これらはすべて、危険を感知した神経系が自動的に引き起こす、自然な防衛反応です。
身体全体が「いまは動かないほうが安全だ」と判断し、緊張状態を維持しているのです。
凍結は「無意識の防衛反射」である
凍結状態にある人は、口を固く閉ざし、歯を食いしばり、時には息を止めることさえあります。
これは意識的な選択ではありません。
自分を守るために、無意識レベルで反射的に起こっている反応です。
そのため、この状態を「自分の意思で何とかしよう」としたり、「避けよう」とすることは、極めて困難になります。
動けないのは、怠けているからでも、気持ちが弱いからでもありません。
身体が主導権を握っている状態なのです。
凍結が思考やコミュニケーションに与える影響
さらに凍結状態が続くと、思考にも大きな影響が及びます。
頭の中が混乱し、物事を整理したり、言葉を選んだり、他者とコミュニケーションを取る力が著しく低下します。
脳は防衛モードに入り、通常の思考プロセスはオーバーライドされます。
その結果、
・何を言えばいいのかわからない
・判断ができない
・考えがまとまらない
といった状態に陥りやすくなります。
凍結状態から回復するための基本的な視点
このような凍結状態では、身体は一種の麻痺に近い状態にあり、意識の大部分が「脅威の検知」に向けられています。
そのため、頭で理解しようとするよりも、体感覚や現実感に注意を向けるアプローチが有効になります。
たとえば、
・自分の身体が今どこにあるのか
・床や椅子に触れている感覚はどうか
・周囲にどんな物が見えるか
といった、「今・ここ」の感覚を確認することが助けになります。
周囲の環境をゆっくり観察し、自分の感覚を取り戻していくことで、神経系は少しずつ「現在は安全だ」という情報を受け取るようになります。
その積み重ねが、凍結状態から抜け出すための足がかりになります。
凍結反応は「壊れている証拠」ではない
凍結反応は、非常に強いストレスやトラウマに直面した際に発動される、高度な防衛メカニズムです。
そのため、そこから回復するためには、意志や思考よりも、身体と感覚に働きかけるアプローチが不可欠になります。
強直性不動(Tonic Immobility)とは何か
― 自律神経・脳幹レベルで起きている反応 ―
強直性不動(Tonic Immobility)とは、極度の恐怖や逃走不能な脅威に直面したとき、身体が自動的に「動きを止める」生理反応を指します。これは意思や性格の問題ではなく、自律神経と脳幹が主導する反射的な防衛反応です。
人の防衛反応は一般に「闘争(Fight)」「逃走(Flight)」が知られていますが、それらが物理的・心理的に不可能だと判断された場合、神経系は次の段階として「凍結(Freeze)/強直性不動」へ移行します。
このとき身体は、動けば危険が増すと判断し、「動かないことで生存確率を上げる」選択をします。
つまり、動けなかったのは「諦めたから」でも「弱かったから」でもありません。
生き延びるために、身体が最善を尽くした結果なのです。
「なぜ動けないのか」
― 凍結は“選択”ではなく“遮断”である ―
強直性不動が起きている最中、脳内では次のような変化が起こっています。
・脳幹が主導権を握り、大脳皮質(考える脳)の働きが抑制される
・筋緊張が高まりながらも、随意運動は遮断される
・呼吸・発声・視線・表情が制限される
この状態では、「動こう」「話そう」「助けを呼ぼう」と考える回路自体が一時的にオフラインになります。
そのため、あとから振り返って「なぜ抵抗できなかったのか」と自分を責めてしまう人が非常に多いのですが、臨床的にはそれは不可能な要求です。
凍結とは、
意思が届く前に、神経系が回線を遮断した状態
であり、「できなかった」のではなく「できない状態に入っていた」のです。
「凍結」と「解離」の関係
― 別の反応だが、しばしば同時に起こる ―
凍結(強直性不動)と解離は、混同されやすい反応ですが、厳密には異なる防衛機構です。
- 凍結:身体の運動・反応が止まる(身体主導)
- 解離:意識・感情・現実感が切り離される(意識主導)
しかし、実際のトラウマ場面では、この二つが重なって起こることが非常に多い。
身体は凍結し、同時に意識は「ここではないどこか」へ退避する。
これは、身体と心がそれぞれ別のルートで生存を試みた結果です。
重要なのは、解離も凍結も、
「逃げ」や「回避」ではなく、
逃げられなかった状況で発動した最終防衛だという点です。
ポリヴェーガル理論から見た「凍結」の位置づけ
ポリヴェーガル理論では、自律神経は大きく三つの状態に分けて理解されます。
- 腹側迷走神経:安全・つながり・安心
- 交感神経:闘争・逃走(Fight / Flight)
- 背側迷走神経:遮断・麻痺・凍結(Shutdown / Tonic Immobility)
強直性不動(凍結)は、背側迷走神経が強く優位になった状態です。
ここではエネルギーは極端に下げられ、
・動かない
・感じない
・反応しない
という方向へ身体が導かれます。
これは「壊れた状態」ではありません。
神経系が“これ以上の刺激は生命を脅かす”と判断した結果です。
そして重要なのは、
この状態は「意志」や「思考」で解除できない、ということです。
だからこそ、次に進むためには
神経系そのものに働きかけるアプローチが必要になります。
なぜ「解放のステップ」の前に理解が必要なのか
凍結した身体と心を解放するプロセスは、
「頑張る」「前向きに考える」「思い出さないようにする」ことでは進みません。
もし凍結の仕組みを知らないままステップに進むと、
・動けない自分をまた責める
・反応が出ないことに焦る
・「うまくできない」と感じて再び凍結する
という二次的な傷つきが起こりやすくなります。
まず必要なのは、
「動けなかった身体は、間違っていなかった」
という理解です。
理解は、それ自体が神経系にとっての安全信号になります。
その安全があって初めて、
身体は少しずつ緊張を手放し、回復のプロセスへ入っていけます。
凍結した身体と心を解放するステップ ー 自己とのつながりを取り戻す
凍結や強直性不動状態から解放されるには、いくつかの繊細なステップを経ることが必要です。
まず第一歩として、自分の身体が過度な緊張状態にあることに気づきましょう。
筋肉が硬直し、呼吸が浅くなり、姿勢が縮こまっているのを自覚することが、回復の鍵となります。
次に、意識を自分の身体の一部に集中させていきます。
例えば、手や足、あるいは呼吸に注意を向けてみましょう。
その部分に意識を向け続けることで、血流が改善され、その部位が活性化していくと考えられています。
この「活性化」は、その部位の働きが向上し、より快適な状態に近づくという意味です。
マインドフルネスの実践においては、身体感覚や体の動きに意識を向けることが重要です。
自分の体がどのように感じるか、どのように動くかを注意深く観察し、その変化をそのまま受け入れることが、体とのつながりを深め、自己認識を高める一助となります。
「受け入れる」とは、その変化を否定するのではなく、今ここにある現実として認識し、それに対して評価や判断をしないことです。
これによって、自己の身体感覚や感情に対して寛容な姿勢を育み、ストレスや不安を和らげることができるのです。
身体に意識を向けることに慣れてきたら、次に周囲の環境へ注意を広げていきます。
まずは、あなたがいる部屋の物に目を向け、その色彩や質感、空間の広がりに気づくことから始めます。
それはまるで新しい風景に足を踏み入れるような体験で、その空間を自分自身のものとして受け入れることができます。
次に、部屋全体が安全な場所であると心の中でイメージしてみましょう。
ここには何も危険な要素がなく、自分が完全に守られているという安心感を深めていきます。
それは、まるで家族や信頼できる友人に囲まれているような感覚です。
さらに、もしセラピストがいる場合、その穏やかな声に意識を集中してみましょう。
その声のトーンや言葉に耳を傾け、そのメッセージに心を開くことは、あたかも温かい音楽に身を委ねるような感覚で、心の調和をもたらしてくれます。
注意の焦点を徐々に広げていくと、警戒心が次第に薄れ、筋肉が緩み、皮膚も柔らかくなっていくのを感じるでしょう。
やがて、身体全体が再び自由に動けるようになり、自分が自分の中心に戻ってきたことを実感し始めます。
現実感や身体感覚も次第に取り戻され、凍結していた状態から解放されるのです。
身体が柔軟になってきたら、ゆっくりと立ち上がり、軽く歩いたり、腕を上げたり、肩を回したりしてみてください。
これらの動作は、硬直していた身体が再び自由に動けるようになったことを確認する一助となります。
手足を伸ばし、身体が広がり、空間を自由に使える感覚を再び思い出すことができるでしょう。
その後、全身に広がる温かさや新たな活力、そして自分自身が成し遂げた達成感をゆっくりと味わってみましょう。
腕を振り上げたり、肩を回したり、手足を伸ばすといった動きは、かつて凍結していた身体が再びほぐれ、自由と安心感を取り戻す手助けとなります。
最終的には、自分自身が安全な場所にいること、そして自分が自分の身体を完全にコントロールできることを再確認するでしょう。
この新たに得た自由と自己とのつながりが、凍結状態からの真の解放へとつながるのです。
これらのステップは、心と体のバランスを取り戻し、身体感覚と現実感を再び呼び覚ますためのガイドとして機能します。
各ステップが、困難を乗り越えて自由で安全な自分へと向かう道筋を示しているのです。
凍結反応を身体感覚に意識を向けて癒す
凍結や強直性不動状態は、強いストレスやトラウマ反応に深く結びついています。
これらの反応にとらわれず、自由になるためには、自分の体の感覚に注意を向けることが重要です。
特に、交感神経系と副交感神経系が過度に活性化し、「戦うか逃げるか」という反応を引き起こす状態を観察し、自己の感覚を通じてその緊張を鎮めることが求められます。
しかし、性暴力などの重度のトラウマを経験した人々は、自己観察を行う際に強烈な身体反応を示すことがあります。
例えば、体が固まる、胸が締め付けられるように痛む、震えが止まらない、手足がピリピリとした感覚を伴う動きを示すなど、これらはトラウマが身体に刻んだストレス反応であり、強い恐怖と関連しています。
このような反応が起こったときに大切なのは、恐怖や過去の記憶に飲み込まれないよう、体の感覚に意識を集中させることです。
目標は、強い恐怖や記憶による過剰な覚醒を防ぎながら、体の自己回復力を引き出し、落ち着きを取り戻すことです。
また、トラウマが引き起こす「戦闘または逃走」反応をうまく遂行できると、体の固まりが解け、徐々に心と体が本来の安定した状態に戻っていくことが可能になります。
しかし、このプロセスは決して簡単ではなく、トラウマがもたらす強い覚醒状態に耐えられず、解離状態に陥ることもあります。
解離とは、極度のストレスや恐怖の状況で、現実感を失い、自我や記憶、感覚、意識が切り離される現象です。
解離は自己防衛の一形態であり、身体が自動的に反応するため、決して「弱さ」や「逃避」ではありません。
このメカニズムを理解し、穏やかに自分を取り戻すためのステップを踏んでいくことが、回復への重要な一歩となるでしょう。
トラウマからの回復:心と体の調和を取り戻すアプローチ
トラウマは、私たちの心に深い傷を残すだけでなく、身体にも大きな影響を及ぼします。
トラウマ体験による心身へのストレスは、さまざまな身体的症状を引き起こし、その一例が「凍結」や「強直性不動状態の麻痺反応」として現れます。
これらは身体が防衛反応として動けなくなる状態であり、心と体の両方が極度のストレスに晒されていることを示しています。
凍結は「止まっている」のではなく、最小限のエネルギーで生き延びるために、神経系が選んだ高度な戦略です。
そのため、凍結からの回復とは「動かすこと」ではなく、「安全を感じられる条件を増やすこと」から始まります。
身体が再び動き出すのは、理解したからでも、頑張ったからでもなく、「もう凍らなくていい」と神経系が判断したときです。
【執筆者 / 監修者】
井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)
【保有資格】
- 公認心理師(国家資格)
- 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)
【臨床経験】
- カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
- 児童養護施設でのボランティア
- 情緒障害児短期治療施設での生活支援
- 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
- 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
- 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
- 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入
【専門領域】
- 複雑性トラウマのメカニズム
- 解離と自律神経・身体反応
- 愛着スタイルと対人パターン
- 慢性ストレスによる脳・心身反応
- トラウマ後のセルフケアと回復過程
- 境界線と心理的支配の構造
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。