中途覚醒・睡眠障害とは|深く眠れず、夜中に何度も目が覚める人に起きていること

深く寝れていない。
夜中に何度も目が覚める。
眠っているはずなのに、朝になると身体がまったく回復していない。

このような 中途覚醒 が続くと、人は原因を自分に向けがちです。
年齢のせいかもしれない。
ストレスに弱いから仕方ない。
考えすぎる性格が悪いのだろう、と。

しかしトラウマ理論の視点から見ると、この状態の本質は 意思や性格の問題ではありません
それは、神経系がまだ「一日を終えられていない」状態です。


眠っているのに休めていない

神経が「終わっていない一日」を抱えたまま夜を迎えている

本来、睡眠とは単なる休息ではありません。
日中に起きた出来事、処理しきれなかった感情、身体に残った緊張を、神経系がゆっくり整理し、終結させていく時間です。

ところが中途覚醒が起きているとき、この「終わらせるプロセス」が完了していません。

眠っている間も内側では、
考えきれなかったこと、
飲み込んだまま押し下げた感情、
反応しきれなかった身体の緊張が、
静かに動き続けています。

そのため、身体は横になっていても、神経はまだ 「起きている」状態にあります。


問題は「眠れていないこと」ではない

起きているのは「回復に入れない」状態

ここで重要なのは、問題が不眠そのものではない、という点です。
多くの場合、起きているのは 眠れてはいるが、休めていない という状態です。

神経が警戒を解かないまま眠りに入ると、脳も身体も「いつでも起きられる浅い睡眠」しか許可しません。
その結果、少しの音で目が覚める、決まった時間に覚醒する、夢が異様に生々しくなる、という現象が繰り返されます。

これは怠けでも異常でもなく、神経がまだ勤務中であることの表れです。


トラウマ理論で見る「眠り」

睡眠は神経系にとって無防備に近い

トラウマ理論では、眠りはきわめて無防備な状態だと考えます。
眠るということは、意識を手放し、警戒を下げ、身体を環境に委ねることだからです。

過去に危険や恐怖を経験した神経系にとって、この無防備さは「安心」ではなく、再び何かが起きるかもしれない状態として知覚されることがあります。

特に、暗闇・静けさ・刺激の少なさが重なる夜は、神経がかえって警戒を強めやすい。
その結果、睡眠は回復の時間ではなく、見張りを続ける時間に変わります。


中途覚醒の正体

身体が「安全確認」を終えられていない

横になっても呼吸が浅い。
無意識に歯を食いしばっている。
胸や腹部に微細な緊張が残っている。

このとき神経系は、眠っている間も周囲を監視し、異変に備え、すぐ起きられる準備を続けています。
中途覚醒とは、身体が安全確認を続けている結果です。

それは失敗でも後退でもなく、これまで生き延びるために身につけた、防衛の働きです。


夜は本来、回復と再生の時間

それでも目が覚めるのは、弱さではない

夜は本来、心と身体が一日の役割を終え、回復と再生へ向かう時間です。
それでも何度も目が覚めるのは、あなたが弱いからではありません。

むしろ、その日一日を生き延びるために、神経が働き続けていた証です。
緊張を解く余裕がなかったほど、警戒を下げられなかったほど、必死に今日を乗り切っていたということでもあります。


回復に入るための具体的ステップ(夜・日中)

中途覚醒が続いているとき、
「どうすれば眠れるか」を考え始めると、かえって神経は緊張します。
回復に必要なのは、眠りそのものを操作することではなく、神経が一日を終えられる条件を整えることです。

夜にできること|「眠ろうとしない」ための準備

夜に大切なのは、深く眠ることではありません。
神経に“もう見張らなくていい”と伝えることです。

横になったら、
眠ろうとせず、
背骨に沿って、ゆっくり呼吸を通します。

吸う・吐くの長さを整えようとしなくていい。
ただ、呼吸が背中側を通っている感覚を探す。

そのとき、
「今日はここまででいい」
「もう終わった」
と、言葉ではなく感覚で区切りをつけることを意識します。

眠れなくても問題ありません。
この時間は、回復が身体の言語で進んでいる時間です。


日中にできること|夜の中途覚醒を減らす本当の鍵

実は、中途覚醒の多くは夜ではなく日中に仕込まれています

・緊張を感じたまま次の予定に進む
・不快感を無視して動き続ける
・「あとで休めばいい」と身体を置き去りにする

こうした積み重ねが、
神経に「今日はまだ終わっていない」という信号を残します。

日中にできるのは、
小さな終結を何度も入れることです。

たとえば、
一つの作業が終わったら、数秒だけ足の裏に体重を感じる。
呼吸が浅くなっていることに気づいたら、深くしようとせず、ただ気づく。

この「終わりを作る習慣」が、
夜に神経が休みに入る許可になります。


中途覚醒・睡眠障害のセルフチェック

神経が「終わっていない一日」を抱えているサイン

以下は、診断のためのチェックではありません。
神経系の状態を把握するための目安です。

  • 寝る直前まで、身体のどこかに力が入っている
  • 布団に入ると、考え事が急に増える
  • 夢がやけに現実的、または感情が強すぎる
  • 夜中、決まった時間に目が覚めやすい
  • 朝起きた瞬間から、すでに疲れている
  • 「ちゃんと休めた感覚」を思い出せない
  • 静かな場所ほど、逆に落ち着かない
  • 眠ることに、どこか不安や緊張がある

複数当てはまる場合、
あなたの神経系はまだ「安全確認」を終えられていない可能性があります。

これは異常でも、失敗でもありません。
これまで生き延びるために身につけた、適応の形です。


無理に眠ろうとしなくていい

回復は、すでに身体の言語で始まっている

深く眠るために必要なのは、無理に眠ろうとする努力ではありません。
思考を止めることでも、意識をコントロールすることでもありません。

眠れない夜は、
失敗でも、後退でもない。

回復が、
まだ身体の言語で進んでいる時間です。

背骨に沿って、
ゆっくりと呼吸を通す。

「もう見張らなくていい」と、
身体に伝えるように。

神経が「今日は終わった」と感じられたとき、
眠りは自然に、回復の側へ戻っていきます。

眠れなさは、あなたの欠陥ではありません。
それは、これまであなたを守ってきた身体が、まだ仕事を終えていないだけなのです。

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【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造

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