休もうとしているわけでも、
諦めたつもりでもないのに、
身体だけが、先に深く沈んでいく。
もう踏ん張れない、というより、
踏ん張るという選択肢自体が
身体の中から消えてしまったような感覚。
この状態は、
「何も起きていない」のではなく、
ある段階に到達した結果として現れています。
力を入れられなくなった身体が到達する段階
過弛緩の人は、目の前に差し迫った危険がないにもかかわらず、
身体の深部で
「これ以上、力を入れて生きることはできない」
という段階に入っています。
それは気力の問題でも、甘えでもありません。
長期にわたる過緊張の末、
神経系が生存のために選び取った最終的な配置です。
この段階は、
闘争・逃走が終わった後の神経系、
あるいは慢性背側迷走神経優位状態として理解されます。
身体はもはや抵抗も期待もしない。
関係に向かって身を乗り出すことも、
自分を押し出すことも行われません。
その代わり、
感じること、欲すること、
つながろうとする衝動そのものが、
静かに、しかし徹底的に沈められていきます。
体感としては、
回復不能型シャットダウンに近い質感を帯びます。
止まっているように見える身体の内側で起きていること
外から見ると、
動きが少なく、感情の起伏も乏しい。
淡々としていて、問題がないように見えることもあります。
しかし内側では、
常に
「これ以上、崩れないようにする」
という作業が続いています。
凍結後の低活性化状態とは、
何も起きていない状態ではありません。
むしろ、崩壊を防ぐために
活動水準を意図的に極限まで落とした状態です。
動かないこと、反応しないこと自体が、
この段階では
生を維持するための重要な働きになっています。
他者に預けられなかった緊張がつくる関係構造
この状態に至るまでには、
本来であれば他者に預けられたはずの緊張や不安を、
身体ひとつで引き受け続けてきた時間があります。
頼るよりも、
自分で抱えたほうが安全だった。
緩むよりも、
耐え続けるほうが関係を保てた。
そうした選択の積み重ねによって、
世界との関係性そのものが
「力を抜いたまま、かろうじて保つ」
構造へと変化していきました。
▶︎ 人に預けられなかった緊張が身体に残る仕組み
https://trauma-free.com/body-remembers-trauma/
感情や衝動が「起きないように」管理される段階
この段階では、
感情や衝動は自然に消えたのではありません。
起きないように管理されている
と言ったほうが正確です。
当事者はしばしば、
「何も感じない」
「欲がない」
「生きている実感が薄い」
と語ります。
これは死への欲望ではありません。
存在が揺らがないよう、
存在感そのものを弱めている状態、
すなわち生存反応としての低覚醒です。
▶︎ 何も感じない感覚と身体反応の関係
https://trauma-free.com/paralysis/
低活性の背後で働く、強い内部の守り
このような低活性の背後には、
非常に厳格な内的構造が存在します。
それは、
これ以上傷つかないために、
生命力そのものを封じるという選択です。
生きることを止めるのではなく、
「感じながら生きる」回路を一時停止する。
それによって、
全体の存続を守っています。
回復を「元気になること」と誤解しない
この段階にある人は、
回復を
「元気になること」
「前向きになること」
と誤解されやすい。
しかし臨床的に必要なのは、活性化ではありません。
まず必要なのは、**安全な間(あいだ)**です。
何も起こらなくていい関係性。
期待も評価も差し向けられない時間。
▶︎ 仏教と心理学が教える安心感を育む方法
https://trauma-free.com/safe/
「何もしない」ことで始まる、身体の変化
闘争・逃走が終わった後の神経系は、
「何もしない」ことによってのみ、
再び身体へ戻る準備を始めます。
回復は意欲や理解から始まるのではありません。
まず、身体の微細な変化として現れます。
深い溜息。
わずかな違和感。
小さな嫌悪。
それらは、
回復不能型シャットダウンが
少しずつ緩み始めた兆候です。
低いままでいい。
動かなくてもいい。
感じなくても問題が起きない。
その経験が積み重なった先で、
必要な分だけの反応が、
自然に戻ってくる余地が生まれます。
力を抜ききったところで続いてきた、生存の形
身体は、力を抜いたまま生きる配置を選び続けてきました。
もう踏ん張れないからではありません。
踏ん張り続けた末に、
これ以上エネルギーを使わない形で
生を維持する段階へ移行しただけです。
感じない。
欲さない。
動かない。
それらは停止ではなく、
消耗をこれ以上進めないための
維持のやり方でした。
回復とは、
再び気力を奮い立たせることでも、
感情を取り戻そうとすることでもありません。
まず起きるのは、
力を入れなくても続く時間がある、
何もしなくても崩れない関係がある、
という事実を、
神経系が静かに受け取っていくことです。
低いままでいい。
動かなくてもいい。
感じなくても問題が起きない。
その経験が積み重なった先で、
必要な分だけの反応が、
自然に戻ってくる余地が生まれます。
それが、
過弛緩の位置から始まる回復のプロセスです。
【執筆者 / 監修者】
井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)
【保有資格】
- 公認心理師(国家資格)
- 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)
【臨床経験】
- カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
- 児童養護施設でのボランティア
- 情緒障害児短期治療施設での生活支援
- 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
- 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
- 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
- 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入
【専門領域】
- 複雑性トラウマのメカニズム
- 解離と自律神経・身体反応
- 愛着スタイルと対人パターン
- 慢性ストレスによる脳・心身反応
- トラウマ後のセルフケアと回復過程
- 境界線と心理的支配の構造