抑圧と解離の防衛機制の違いとは?|ストレス・トラウマ・精神分析から見た“心の守り方”

抑圧と解離は、私たちが強いストレスや恐怖、恥や痛みに直面したときに、心が自分を守るために起動させる防衛です。
ただし、両者は似ているようで、守り方のレベルが違います。

抑圧は、受け入れがたい願望や衝動、感情を「意識から締め出して」無意識に押し留め、日常を維持しようとします。
一方、解離は、生命の危機や圧倒的情動の中で「体験そのものとの結びつき」を切り離し、現実感や自己感を薄くして生き延びようとします。

この違いを理解すると、症状の見え方も、回復に必要な順序も変わってきます。


Table of Contents

抑圧とは何か|精神分析の基本概念(フロイト)

精神分析の抑圧とは、防衛機制の中でも最も基本的なものになります。
抑圧は、自我を脅かす願望や衝動を意識から締め出して意識下に押し留めることであり、意識されないままそれらを保持している状態です。

自分にとって受け入れられない感情や観念は、心の底に抑圧されます。
フロイトは、抑圧の概念を用いて精神分析を形作っていきました。

ここでのポイントは、「忘れた」「消えた」ではないことです。
意識からは見えなくなっても、無意識の力として残り、別の形で人生に影響します。


精神分析的療法が想定した治療モデル|無意識過程の意識化と洞察

精神分析的療法では、無意識過程の意識化と洞察を図る治療法です。
人が強いショックやストレス、不安や恥、苦痛を引き起こす過度な情動体験をしたとき、それが適切に処理されずに抑圧されると、神経症的な症状の形成につながると考えます。

その無意識化に抑圧されたエネルギーを意識化し、自覚的に調整できるようになれば、神経症は解消するとされました。
ここでは「症状=意味を持つ表現」と捉え、症状が生まれた内的葛藤を言語化し直すことが中心になります。


抑圧とは:無意識の影響|思い出せないのに“人生を動かす”

人は、不快な経験や否定的な感情、嫌悪感、恐ろしい体験、変えられない願望などを、心の奥深くに隠し込んでしまうことがあります。
これらの抑圧された願望や感情は、無意識の防御メカニズムであり、思い出すことが容易ではなく、本人が自覚することができない場合があります。

フロイトは、性的外傷が原因で生じる性的活動の抑圧が、内部の欲求やリビドー(性的欲望)を不安にさせ、ヒステリーを引き起こすと考えていました。
ここで言う“抑圧”は、道徳的な我慢ではなく、心の深層で起きる排除です。

「感情がわからない(失感情症)とトラウマ」
https://trauma-free.com/emotions/


子どもの抑圧はどう作られるか|「良い子」の背後で起きること

子どもは、親の厳しい躾を受けて育つことにより、親の顔色を見て、良い子に育っていくことがあります。
しかし厳しい躾に伴い、子どもは自分の欲求や願望、本音を隠して抑圧することがあります。

親に甘えたい、頼りたい、本音を話したい、お菓子を食べたい、もっと遊びたい。
そうした欲求や願望は抑圧されて、感じられなくなったりする欲求や願望、感情は、意識に触れずに心の奥底に閉じ込められ、本人が意識することができないことがあります。

ここで起きるのは、単に欲求を我慢することではありません。
「欲求を持つこと自体が危険だ」と学習して、欲求の出入口を閉じてしまう形になり得ます。

「親の機嫌を読み取る良い子と自己犠牲について」
https://trauma-free.com/good-girl/


親子関係の抑圧|ヒステリックな親と“予防としての自己消去”

抑圧という概念はトラウマに関連したものとして知られていますが、親子関係から理解することも大切です。
特に、ヒステリックな親に育てられた子どもたちは、相手の意図を予測して予防策を講じ、周囲を喜ばせようと努力することが多いです。

これは、親の機嫌を良くすることで脅威を退け、心の安定を保つために必要な行動になります。
このような状況では、本来の欲求や願望、感情は、自分自身の気持ちに従うことなく抑圧されてしまいます。

長い間脅かされ続けた環境で育つ子どもは、相手の気持ちを予想し、先手を打つことによって皆を喜ばせようと努力することが必要になります。
身近な親の気持ちを優先して考えないと、酷い目に遭ったり、見捨てられることを恐れるからです。

そのため、自分自身の意見ではなく、正解を探して意見を言うようになります。
しかしこの状況では、本音や気持ち、欲求を正直に伝えることができなくなります。

抑圧が長引くと、本来の自分が失われ、神経症(心の病)になることもあります。
「親子関係の支配・過干渉と自己喪失」
https://trauma-free.com/toxic/


神経症的な生き方の具体像|顔色観察・見捨てられ不安・“偽っている感覚”

神経症になるような人は、人々の表情を観察して、相手が不機嫌だと心配になり、自分が見捨てられることを恐れたりします。
周りの人々を不快にさせないように気を配り、自分の気持ちを後回しにして他者の感情を優先することで、本当の気持ちが分からなくなり、苦しむことがあります。

本音や本当の感情を表現できないことは、本来の自分ではなく表面的なものだけを装って生きていることになります。
この生き方は疲れていき、身体的にも不調になり、誰といても幸せを感じられなくなってしまいます。

この世界がどんなに厳しくても、仕事や学校、人との関わりの中で生活するためには食べていかないといけません。
そのため常に正常に見えるように振る舞い、普通の生活を送ろうとするのですが、常に偽っているかのような感覚の中で生きていると、心が壊れていって、本当にやりたいことが分からなくなってしまいます。


親が“危険の発生源”のとき|怒りと依存が抑圧され、身体に分裂排除される

親が子どもに危険や恐怖を与える張本人の場合、子どもは親に依存する一方で、親が良くなることを期待してもいつも裏切られることが多く、耐え難い怒りの感情を抱くことになります。
しかし子どもは親に愛着を持っているため、怒りの感情を向ける矛先がなく、抑圧されます。

また、親との関係の中で「親に頼ってはいけない」というメッセージや、「人に迷惑をかけていることが恥ずかしい」という思いもあり、子どもの依存感情も抑圧されます。
これらの抑圧された感情は、身体に分裂排除され、無意識の中に押し込まれていくことがあります。

身体のパーツたちは、人に対して汚らわしい、嫌い、しんどい、めんどくさい、叫びたい、気が狂いそう、気付かないで欲しいと思っている場合があります。
ここでは「心」だけでなく、身体感覚のレベルで拒否や嫌悪が分割され、本人が一枚岩として感じられなくなることがあります。

「解離とは何か:症状・原因・回復」
https://trauma-free.com/dis/


心の深層:解離のメカニズム|フリーズ/虚脱と“現実感の切断”

抑圧は、親子関係においてのストレスや性暴力などの恐ろしい経験によって、自然と生じていくものです。
この経験によって心的な傷が深く残り、無意識のレベルで影響を受け続けます。

一方、解離は少し条件が異なります。
解離は、生命の危機を感じる場面において、交感神経と背側迷走神経が過剰に作用し、身体が凍りつく際に起きる現象か、交感神経がシャットダウンする虚脱状態の際に発生します。

人は脅威を感じると、過剰な警戒心から筋肉が硬直して、戦うか逃げるかの反応をすることがあります。
しかし長期的に脅威に曝されてきた人は、このような反応ができなくなり、身体を凍りつかせたり、死んだふりをすることで対処するようになります。

「トラウマの凍りつき(フリーズ)反応」
https://trauma-free.com/trauma/freeze/
「虚脱・シャットダウン(背側迷走神経)と回復」
https://trauma-free.com/collapse/


解離が起きるときの体験|圧倒的な情動と痛み、そして麻痺

人が凍りつくときは、圧倒する感情や神経の痛み、息苦しさ、胸がざわつく、お腹がきついなどを伴う反応が生じます。
これらの不快な感覚は、長期的な脅威の源から生じています。

この状況下では、無意識に不快な感覚や感情を感じないようにするために、身体が麻痺していくことがあります。
しかし実際は、この身体の麻痺は、現実感や自己感を喪失させ、病的な解離状態になっていくことがあります。

ここでの臨床的要点は、「感情が強すぎるから麻痺する」だけではなく、
麻痺が進むほど、現実検討や自己統合の機能が落ちやすくなる点です。


解離が深まると起きうること|欲求・感情・性的衝動が“わからなくなる”

無意識下で生命の危機を感じることにより引き起こされる凍りつきや虚脱状態は、生活を送る上で欠かせない欲求や感情、性的衝動などを分からなくしてしまうことがあります。
感覚が麻痺して現実感や自己感が喪失していく状況では、自分自身の人格が入れ替わることがあります。

このような人格の交代は、自分の知らない間に、料理をしたり、お菓子を食べたり、自傷行為をしたりなど、自分自身の記憶にない間に起こる可能性があります。
重要なのは、ここで起きているのが「演技」ではなく、危機状況を生き延びるための切断の延長として現れ得る、という理解です。


抑圧と解離の違いを整理する|どちらも守るが、守る“場所”が違う

抑圧と解離は、私たちの心が直面する複雑な状況や困難な経験に対応するための心の防衛策です。
それらは、過度の不安やストレスを感じるときや、自らや他者からの直接的な危険を認識する際に働きます。

抑圧:意識の表面から隠す(しかし残り続ける)

抑圧は、深い心の層で働く機制で、辛い記憶や痛みを感じる出来事、またはそれに関連する情報を意識の表面から隠す役割を果たします。
これは一時的に痛みや不安から解放されることで、私たちが日常生活を継続するのを助ける働きがあります。

しかし、これらの感情や記憶は完全に消え去るわけではなく、潜在的な形で存在し続け、時折表層に出てくることがあります。
抑圧は「意識に上げない」ことで均衡を保ちますが、均衡のために症状や反復が生まれることがあります。

解離:体験との結びつきを断つ(現実感・自己感まで薄れる)

一方、解離は少し異なるアプローチをとります。
心は痛みやトラウマから自分自身を保護するため、その出来事や感じている情感との結びつきを一時的に断ち切ります。

これにより、人は自分が経験したことと自分自身を一時的に分離し、状況から距離をとることができます。
ただし長期にわたって過度に働くと、現実感・自己感・身体感覚・欲求の基盤そのものが薄くなり、生活機能に影響します。

両方のメカニズムは役立つ面がある一方、長期化・過剰化すると心の健康に悪影響を及ぼすことがあります。
心の安全と健康を維持するためには、それぞれがどう働いているか、そして自分がどう巻き込まれているかを理解し、適切に対処することが重要です。


安全の獲得が先|抑圧の洞察より前に必要になる“安定化”がある

ここは特に重要です。
抑圧の領域では「無意識を意識化する」「語れるようにする」ことが治療の中核になりやすい一方、解離が強い人に同じ速度で“掘る”と、症状が悪化することがあります。

解離が強い局面では、洞察よりも先に「安全の獲得(安定化)」が必要になります。
安全とは、単に環境が静かという意味ではなく、神経系が“今は危機ではない”と学習できる条件のことです。

安全の獲得は、少なくとも次の3層で設計します。

  1. 環境の安全:トリガーが強い場・関係・加害源から距離を取り、安心できる人/場を確保する
  2. 身体の安全:睡眠、栄養、痛み、過緊張、呼吸、疲労の管理を優先し、フリーズ/虚脱の波を小さくする
  3. 心理の安全:語る内容の量と深さを調整し、解離の兆候(ぼんやり、遠のき、記憶の抜け)を目印にペースを落とす

もし自傷や希死念慮、記憶の欠落が増えるなど、危険度が上がるサインがある場合は、個人で抱えず、医療・専門機関・支援先と連携してください。

「安全感の作り方:回復の土台(安定化)」
https://trauma-free.com/treatment/recovery/


精神分析的治療のアプローチ|抑圧されたものを“語れる形”へ

抑圧された感情や欲望を意識化し、再体験することが精神分析的治療の中心的なアプローチです。
無意識に押し込められた感情や記憶を掘り起こすことで、クライエントは内的葛藤と向き合い、未解決の感情を解放し、再統合するプロセスを経験します。

※解離が強い場合は、上記プロセスを行う前に、前章の「安全の獲得」を十分に整えます。

1. 自由連想法

自由連想法は、クライエントが心に浮かぶあらゆる思考や感情を自由に語る手法です。
これにより抑圧された無意識の内容が徐々に表面化し、自己理解が深まります。セラピストは語りを丁寧に聞きながら、無意識的なテーマや葛藤を探ります。

2. 夢分析

フロイトは夢を「無意識への王道」と呼び、夢を通じて抑圧された欲望や感情が表れると考えました。
夢分析は、夢の内容を語ることで、抑圧された感情や欲望に光を当て、それを意識的に扱うための手助けをします。

3. 転移の活用

治療の過程でクライエントは、しばしばセラピストに対して親子関係や過去の対人関係に基づいた感情を投影します。これを「転移」と呼びます。
セラピストはこの転移を利用して、クライアントが過去の未解決の感情と向き合い、それを解消する機会を提供します。

「精神分析的療法とは分かりやすく解説」
https://trauma-free.com/treatment/psychoanalysis/


抑圧の治療に向けた具体的ステップ|“気づけない感情”を生活へ戻す

1. 自己認識の向上

抑圧された感情に気づくことが第一歩です。
感情や身体的な反応に注意を向け、不安やストレスを感じる瞬間を観察することが重要です。

特定の状況や人との関わりで感情が高ぶる場合、それは抑圧された感情が表に出てきているサインかもしれません。

2. 安全な環境での感情表現

抑圧された感情を表現するためには、安全で受容的な環境が必要です。
セラピストや信頼できる人々との対話を通じて、本当の感情を表現する練習をすることが有効です。

感情を抑え込まずに表現することで、心の解放が進みます。
ただし、解離が強いときは「表現の量」を増やすほど危険になることもあるため、必ず安全の獲得と併走します。

3. 身体感覚への意識

抑圧はしばしば身体に蓄積され、緊張や不調として現れます。
ボディワークやマインドフルネスを取り入れることで、身体と心のつながりを再確認し、感情を解放するサポートとなります。

4. 過去の経験と向き合う

抑圧の源泉となっている過去のトラウマや感情を意識的に探求することも重要です。
ジャーナリング(日記を書くこと)や芸術療法などの手段が役立ちます。

自分の過去を再評価し、感情を言葉や創造的表現で解放することが、自己理解と治癒への道を開く鍵となります。
ただし解離が強い場合は、掘り下げよりも「今の生活の安全・安定」を優先し、扱う範囲を小さく刻むことが重要です。


結論|抑圧は“意識の外”へ、解離は“体験の結びつき”を切る。回復は安全から始まる

抑圧は自己を守るための防衛機制でありながら、長期的には心身に大きな影響を与えることがあります。
精神分析的アプローチを通じて抑圧された感情を意識化し、自己理解と感情の解放を進めることが、抑圧によって引き起こされる神経症や心の葛藤からの回復につながります。

一方、解離が関与している場合、洞察を急ぐよりも、まず安全の獲得(安定化)を整え、神経系が危機を終えられる条件を作ることが不可欠です。
その上で、抑圧されたもの/切断されたものを、耐えられる形で少しずつ“生活へ戻す”ことが、現実的な回復の道筋になります。

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【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
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