ジャニーズ事務所の性加害問題が明るみに出たことは、多くの人々にとって大きな衝撃であり、社会全体に対しても深い問いかけを投げかける出来事となりました。私も20代前半の頃に、その忌まわしい出来事について耳にする機会が何度かあり、性被害やトラウマがもたらす深刻な影響、そしてそうした問題に直面しながらも声を上げることができず、目を閉じるしかない人々の存在に、胸が締め付けられる思いを抱いてきました。
被害者が確実に存在しているにもかかわらず、長い間多くの人が見て見ぬふりをしてきたこの社会の歪みには、無力感とともに強い怒りを感じることもありました。しかし、今、私たちの意識は少しずつ変わり始めています。この問題を忘れ去ることなく、一人ひとりが自らの意識を変え、声を上げ続けることが、より良い社会を築くための重要な一歩になると信じています。
権力構造と沈黙:ジャニー喜多川氏の性加害問題に見る闇
ジャニーズ事務所の創始者であるジャニー喜多川氏による性加害問題を掘り下げると、一部のメンバーにとって、その行為はまるでデビューへの通過儀礼のように見られていた可能性があります。彼らは、性的な被害を受けることが、デビューへのステップの一部であり、回避できない「試練」であるかのように感じていたかもしれません。この体験が、事務所内で暗黙の了解として存在し、若いタレントたちに無言の圧力を与えていたという構図が浮かび上がります。
さらに、ジャニー氏が事務所内外でどのように見られていたかを考察すると、宗教的なカリスマ性を帯びた構造が見えてきます。ジャニー氏は、まるで教祖のように絶対的な権威を持ち、彼の言葉や行動が事務所内では絶対的な価値を持つと信じられていました。彼の視点や意見に従うことが当然とされ、彼への忠誠心と信頼は、事務所で成功するために欠かせない要素であったと考えられます。
ジャニー氏の目に留まり、デビューを果たしたいと強く願う若者たちは、その期待に応えようと懸命に努力しました。彼らの中には、性的な加害を受けても、それを自身のキャリアの一環として受け入れるしかないと感じていた者もいたでしょう。そうした受け入れは、彼らにとってジャニー氏の信頼を裏切らないための一種の「自己犠牲」だったのかもしれません。
このような権力構造による性的加害は、カトリック教会の神父による性加害事件と多くの共通点を持ちます。教祖や神父といった絶対的な権威者が、その権力を利用して信者や信頼を寄せる者たちに対する性加害を行い、その事実を隠蔽するというパターンです。この権力の悪用によって、多くの被害者が声を上げられない状況に追い込まれました。こうした構造的な問題は、単なる個別の事件ではなく、権力と支配の不均衡が生む深刻な社会問題として考えるべき課題であると言えるでしょう。
夢と闇の狭間で:元ジャニーズ性被害者が語れなかった真実
元ジャニーズの性被害者たちが、その心に刻まれた深い傷を公に告発できなかったのは、命の危険を感じるほどの恐怖が彼らを縛っていたからだと考えられます。彼らは、もしその真実を世に明かしたならば、この世界から消されてしまうかもしれないという絶望的な感覚に押しつぶされていたのです。この恐怖は、単なる不安ではなく、彼らにとって現実的な脅威として存在していました。
華やかで光り輝くエンターテインメント業界の裏には、彼らが経験したような暗い現実が潜んでいました。表向きは魅力的で夢のような世界に見えても、その舞台裏では、権力者たちが弱者を利用し、無垢な心を持つ少年たちがその餌食になっていたのです。彼らが目の当たりにしたのは、人間の本質的な汚さと、権力者たちによる歪んだ力の行使によって心を引き裂かれるという、暗澹たる現実でした。
最も悲劇的なのは、業界に足を踏み入れた子どもたちが夢を追い求め、明るい未来を信じて努力を重ねる一方で、彼らの純粋な期待がその闇に裏切られることです。彼らは自分の才能を信じ、輝くステージを目指してきたにもかかわらず、背後には避けられない悲劇が待ち受けていたのです。夢を追い続ける無垢な子どもたちが、その一途な願いゆえに、闇の世界に飲み込まれてしまうという残酷な現実がここには存在していました。
この物語は、夢と現実が交錯するエンターテインメントの世界で、どれほどの闇が無垢な心に傷を負わせるかを象徴しています。
光と影を宿す存在:ジャニー喜多川と少年たちの夢と苦悩
ジャニーズからデビューするためには、ジャニー喜多川氏からの理不尽で不条理な性搾取に耐えることが暗黙のうちに求められていました。彼の強烈な欲望を満たすために、多くの少年たちは反抗することなく、侮辱に屈することもなく、その苦痛に耐え続けなければならなかったのです。これは、加害者であるジャニー氏の人間性全体を直視し、受け入れるという、非常に困難で重い選択を迫られる状況でした。
この厳しい現実の中で、少年たちはジャニー氏の暗い側面を認識しながらも、その中にわずかに残る人間的な善良さを見逃さず、彼の存在全体を受け止めるという複雑な感情を抱えていました。ジャニー氏の人物像は、創造と破壊、光と闇が交錯するものであり、彼は少年たちの夢を叶える力を持つ一方で、その過程で少年たちの心を深く傷つけるという二面性を持っていました。
彼の行為は残虐でありながらも、少年たちをスターに押し上げるという「光」の側面も見逃せませんでした。このような矛盾した人間性を持つジャニー氏と向き合うことは、少年たちにとって大きな苦悩と葛藤を伴うものでした。彼らは、彼の暗黒面を知りながらも、それを受け入れざるを得なかったのです。そして、この苦悩が、逆にジャニー氏の行動のエネルギーとなり、彼を駆り立てる力となっていたのかもしれません。
少年たちは、夢を叶える光の存在と、彼らを苦しめる闇の存在の両方と向き合わざるを得ませんでした。この複雑で深い人間関係の中で、彼らが感じた苦痛や矛盾は、今なお多くの人々に問いかけるものが残っています。
性暴力被害者が抱える心と体の分裂
性暴力の被害を受けた人々は、その体験が身体と心の深い部分に強く刻まれ、極度の恐怖や混乱に直面します。この体験は、単なる出来事にとどまらず、体と心に持続的な影響を与え続けるものです。
被害の瞬間、彼らの体は恐怖によって硬直し、まるで「凍りついた」ように感じることがあります。これは、自己防衛のために体が無意識にとる反応であり、まるで時間が止まったかのような感覚を伴います。この身体的な凍結反応は、動けなくなり、声も出せない状態を引き起こし、その場から逃れることが不可能なように感じさせます。
一方で、精神的な混乱はその瞬間から始まり、激しい感情の渦に巻き込まれることがあります。恐怖、自己嫌悪、理解できない出来事に対する驚き、そして圧倒的な無力感が同時に押し寄せ、心はまさに嵐の中にいるかのような状態に陥ります。この精神的な嵐は、心の中で暴風のように吹き荒れ、被害者はその整理がつかずに混乱を深めていきます。
さらに多くの被害者は、体が体験した恐怖や苦痛をある程度認識しつつも、心がその出来事に追いつけない感覚を持つことがよくあります。これは、体が感じた強烈な感情や反応を、心がまだ処理できず、受け入れる準備が整っていないという状況です。こうした状態は、体と心が別々の方向に向かっているように感じさせ、被害者にとって非常に苦しい体験となります。
男性同士の性被害とトラウマの個別性
男性が別の男性から性加害を受けた場合、その経験を全ての被害者が同じように認識するわけではありません。被害をどのように受け止めるかは、個々の感じ方や解釈によって大きく異なります。そのため、すべてのケースを一律に「被害」と捉えることはできないのです。
重要なのは、そのような出来事が必ずしも心的外傷後ストレス障害(PTSD)やトラウマにつながるとは限らないという点です。個人の心理的な反応は、彼らが持つ精神的な耐性、サポート体制、そして出来事をどう解釈するかによって異なります。ある人はトラウマとなる経験でも、別の人は自然にその難局を乗り越え、心の傷を最小限に抑えることができる場合もあるのです。
精神的なレジリエンス(回復力)や対人関係のサポートは、性加害という困難な経験をどのように処理し、乗り越えていくかに大きな影響を与えます。個々の適応能力やサポート体制が強ければ、深刻なトラウマに陥らないこともありますが、そのような自覚がない場合でも、性被害による心身への影響はしばしば予想以上に大きく、深刻です。
性被害によるトラウマは、被害の瞬間に感じた五感の情報と密接に結びついています。被害時に見た景色、嗅いだ匂い、触れた感覚など、身体を通して刻まれた情報は、心の奥深くに蓄積されます。これらの断片的な記憶は、心の深層で静かに作用し、被害者の心理に影響を与え続けます。
これらの影響は、無意識のうちに進行し、時折日常生活の中で予期せぬ形で現れます。例えば、特定の匂いを嗅ぐことで不安感が増したり、特定の感触に過敏に反応するなど、表面的には説明のつかない反応が出ることがあります。これらの現象は、性被害というトラウマが心の奥底で作用し続けている証拠です。
性被害の経験は、その表面的な影響だけでなく、心と体に深い影響を与えます。たとえ被害を受けたことに気づいていなかったり、トラウマとして認識していなくても、心の深層でその傷は徐々に広がり、意識に影響を与え続けることがあるのです。
男性同士の性加害がもたらす深刻な心理的影響
男性が別の男性から性加害を受けた場合、その結果は身体的な苦痛にとどまらず、深い心理的影響を引き起こします。特に、被害によって身体が侵害されると、被害者は自分自身の身体とのつながりを失い、生身の存在感が希薄になることがよく見られます。この現象は、離人感や現実感の喪失として現れ、被害者の日常生活に深く影響を与えるのです。
性暴力を受けた人々は、その出来事から派生するトラウマと絶えず闘わねばなりません。トラウマは、身体的な反応だけでなく、認知機能や行動にも大きな影響を与えます。被害者は、自分の身体が自分の意志を超えて動くように感じたり、言葉の理解が難しくなる、さらには日常的なタスクをこなすことが困難になるなど、劇的な変化を経験します。これらの症状は、心的外傷が彼らの心身に及ぼす強力な影響を物語っています。
精神的な影響もまた深刻です。被害者はしばしば強迫的な思考や希死念慮に苛まれます。これらは、自分の尊厳と安全感を奪われた結果、心がその恐怖や屈辱に対処しようとする防衛反応です。
さらに、加害者と似た背丈や外見の男性を見ると、被害者は過去のトラウマが瞬時に蘇り、恐怖心が激しく増大することがあります。たとえその男性が無害であっても、彼の存在だけで被害者は過去の恐ろしい瞬間に引き戻されてしまうのです。脳はその状況を「危険」として即座に認識し、身体は逃げ出そうとする反応を示します。心拍数の上昇、汗、足の震え、視界の揺らぎなどの身体的反応が現れ、思考はパニック状態に陥りますが、身体は鉛のように重く感じ、動けなくなることさえあります。
また、被害者は性的混乱にも悩むことがあります。被害前には異性愛者としての明確な自己認識を持っていた人でも、加害後に自分が同性愛者なのではないかという不快な想像や混乱が生じることがあるのです。この種の混乱は、性的アイデンティティに対する不確実感を引き起こし、持続的なストレス源となります。
このように、性加害の影響は被害者の心身に長期的な苦しみをもたらし、彼らの現実を歪ませる可能性があります。被害者がこの恐怖とどう向き合い、日常生活の中で自分の平穏を取り戻すかは、非常に大きな課題です。
性被害者が直面する長期的影響と回復のためのステップ
男性からの性的被害を受けた被害者が抱えるトラウマは、非常に複雑で深刻です。被害者は、身体的・心理的に長期間続く影響に苦しむことが一般的です。たとえば、頭痛、耳鳴り、吐き気、過呼吸、パニックなどの身体症状に加え、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のような心理的な影響も生じることがあります。
被害が発生した瞬間、被害者は理解できない状況と圧倒的な恐怖に直面します。この心理的衝撃は、匂いや触覚、視覚的な体験などの感覚を通じて強く刻み込まれ、ただの一瞬の出来事ではなく、被害者の心と身体に持続的な影響を与えます。このトラウマの影響は、日常生活、人間関係、そして自己認識にまで広がり、被害者の人生全体に影響を及ぼすこともあります。
特に、被害の記憶が何度も蘇るフラッシュバックは、被害者にとって非常に苦しい経験です。フラッシュバックが起こるたびに、身体は震え、防衛的に緊張状態に陥ることがあります。この身体の硬直は自然な生理的反応ですが、持続することで心身に負担をかけ、慢性的な健康問題を引き起こすこともあります。
被害後、心拍数の増加や呼吸の困難、慢性的な痛みや疲労感などの症状が長引くこともあり、最悪の場合、寝たきり状態になる可能性も否定できません。こうした身体的な不調と心理的なトラウマを乗り越えるためには、専門的な心のケアだけでなく、身体のリハビリテーションも重要です。
加害者によってもたらされた深刻な苦しみを一人で乗り越えるのは非常に困難です。被害者には、適切な治療とサポートが不可欠であり、彼らが安全と自立を感じられる環境を提供することが重要です。また、社会全体が性的被害の深刻さを理解し、被害者を支援するための体制を強化することも、この問題を解決するための不可欠な要素です。
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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-05-22
論考 井上陽平
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