迷走神経反射になりやすい人の特徴と背側迷走神経の関係:原因と対策

迷走神経反射は、「気分が悪くなって急に血の気が引く」「視界が暗くなって倒れそうになる」「冷や汗と吐き気で動けない」といった状態として、日常生活の中で突然起こることがあります。
しかし、その背後では「単なる立ちくらみ」では片づけられない、自律神経システムとトラウマの深い歴史が動いています。

ここでは、迷走神経反射と背側迷走神経の働き、その背景にあるトラウマや性格特性、そして回復のために何ができるのかを、できるだけ身体の内側から描き出すように解説していきます。


1. 迷走神経反射とは何か――身体が「自分を守る」極端なブレーキ

迷走神経反射とは、迷走神経が急激に刺激されることで、心拍数や血圧がストンと落ちてしまう現象です。

迷走神経は、脳と心臓、肺、胃腸などの内臓をつなぐ「心と身体の大動脈」のような神経で、自律神経のうち副交感神経に属します。本来は、興奮した神経を落ち着かせ、呼吸を深くし、心臓の鼓動を整え、消化を促す「回復と休息」の役割を担っています。

ところが、強いショックや生命の危機を感じる状況では、この「休ませるための神経」が、今度は極端なブレーキとして作動します。
その結果、心拍数が急激に落ち、血流が頭部から引き、視界が白く(あるいは黒く)遠のき、あくびや冷や汗、吐き気、失神といった症状が一気に押し寄せてきます。

これが、いわゆる「迷走神経反射の発作」です。


2. 背側迷走神経――生命の危機に反応する「シャットダウン・システム」

迷走神経には大きく分けて「腹側迷走神経」と「背側迷走神経」があります。

  • 腹側迷走神経
    安心して人とつながる、休息する、消化する、落ち着いて物事に向き合うときに働くシステム。
    「安全」と「つながり」を回復させる神経です。
  • 背側迷走神経
    命の危機や極度のストレスを前にしたときに働く、シャットダウン・システム
    心臓の動きを弱め、血圧を下げ、身体を動かせなくし、「これ以上ダメージを受けないようにする」ための防御反応です。

危険から逃げられる余地があるとき、人はまず交感神経を総動員して戦い・逃げようとします。
しかし、逃げることも戦うこともできない――
「どうしようもない」と身体が判断した瞬間に、背側迷走神経が強く作動し、フリーズ(凍りつき)や虚脱状態へと切り替わります。

フリーズ反応については、こちらの記事も参考になります。
→ 身動きが取れなくなるフリーズ反応とトラウマ
https://trauma-free.com/freezing/

迷走神経反射の発作は、この背側迷走神経が急に高トーンで作動し、

  • 心臓の動きが弱まり徐脈になる
  • 血流が頭部や四肢から引き、顔面蒼白・冷や汗
  • 息が吸えないような息苦しさと連続するあくび
  • 吐き気、腹痛、下痢
  • 強烈な「死ぬのではないか」という恐怖とともに、意識が遠のく

といった形で現れます。


3. 発作を呼び起こすもの――「知覚の誤作動」とトラウマの記憶

日常の中で迷走神経反射が起きるきっかけ(トリガー)は、一見ささいに見えることも少なくありません。

  • 激しい怒りや恐怖、嫉妬などの感情
  • かつてのトラウマ体験を思い出させる状況や匂い、音
  • 突然の痛みやケガ、採血・注射
  • 空腹や低血糖、強い疲労や睡眠不足
  • 薬物・アルコール・カフェインなどの影響
  • 人前で失敗しそう、恥をかきそうな場面

こうした刺激そのものが「危険」でなくても、身体がそれを危険として受け取ってしまうとき、知覚のレベルで誤作動が起こります。

この誤作動を起こしやすい人の多くは、発達早期に命の危機に近いストレスや虐待、事故、医療的な苦痛などを経験していることが少なくありません。
幼いころ、身体の奥深くで「もう無理だ」「これ以上耐えられない」という感覚を何度も味わっていると、神経系は**「似た匂いのストレス」に対して過敏にシャットダウンを起こす**ようになります。

自律神経全体の乱れと身体症状については、こちらの記事も併せて読んでみてください。
→ 自律神経の乱れと心身の不調
https://trauma-free.com/autonomic-nerves/


4. 迷走神経反射が起きやすい人の特徴

迷走神経反射や背側迷走神経の過活動が起きやすい人には、いくつか共通する背景があります。

4-1. 神経が繊細で真面目、我慢しがち

  • 小さな変化や他人の表情に敏感
  • 「迷惑をかけてはいけない」「我慢しなければならない」と自分を追い込む
  • 嫌なことを嫌と言えず、不快な環境に長くとどまってしまう

こうした人は、身体に蓄積するストレスの量に比べて、「安全な場所」「安心して崩れられる人」が少ないことが多く、その分、神経系が限界まで張りつめてしまいます。

4-2. 長期にわたる八方塞がりの状況

  • 家庭や職場、学校など、逃げ場のない環境が長く続いている
  • 助けを求めても「大したことない」「気のせい」と扱われてきた
  • 休みたくても休めず、倒れるまで頑張ってしまう

こうした「出口のないストレス」が続くと、交感神経で戦い続けるエネルギーが枯渇し、
背側迷走神経によるシャットダウンが慢性化していきます。

4-3. トラウマと背側迷走神経

PTSD や複雑性トラウマを抱える人の中には、

  • ふだんは何とか日常生活をこなしているように見える
  • しかし、内側では常に疲労・痛み・ネガティブな感情が渦巻き、限界ギリギリで耐えている

という状態が続いている人が少なくありません。

迷走神経とトラウマ症状の関係については、ポリヴェーガル理論の視点からまとめた記事も役立ちます。
→ ポリヴェーガル理論からみるトラウマと神経システム
https://trauma-free.com/treatment/polyvegal/


5. 背側迷走神経が過剰に働き続けるときに起こること

背側迷走神経が慢性的に高トーンのままになると、心身には次のような変化が起こります。

5-1. 身体レベルの変化

  • 心拍数が低くなり、血流が悪くなる
  • 一年中、手足が冷たい・冷え性が強い
  • 立ちくらみ、めまい、ふらつき、意識が遠のく感じ
  • 頭がボーッとして覚醒しきらない感覚
  • 頭痛、腹痛、下痢と便秘の繰り返し、蕁麻疹、微熱
  • 呼吸が浅くなり、眠りも「リラックスして眠る」というより気絶するような睡眠になりやすい

とくに強いストレス時には、血流がさらに低下し、
「視界が真っ白(真っ暗)になって倒れる」「息が詰まる」「全身の力が抜けて動けない」
といった迷走神経反射の発作として表面化することがあります。

5-2. 心・意識レベルの変化

  • 物事に興味が持てない、何をしても虚しい
  • 生きている実感がなく、世界が遠くにあるように感じる
  • 自分の感情が分からず、相手の気持ちにもピンとこない
  • 時間の流れが止まったように感じる
  • 人と関わっても「心が動かない」「ただ目の前で起きている事を眺めているだけ」

この状態は、「怠けている」「やる気がない」のではなく、
**神経システムが“これ以上ダメージを受けないために、意識と身体のスイッチを切ろうとしている”**状態です。

→ 不定愁訴を引き起こすトラウマの影響と身体のサイン、原因不明の不調の背後で起きること
https://trauma-free.com/trauma-unexplained-physical-symptoms/


6. 交感神経が弱く、背側迷走神経が優位な人の世界

交感神経で「戦う・逃げる」力が弱く、背側迷走神経のシャットダウンに傾きやすい人は、次のような人生経験を語ることがあります。

  • 「ずっと負け続けてきたような人生だった」
  • 「頑張ろうとしても、力が湧く前に疲れ果ててしまう」
  • 「外の世界が怖くて、一枚壁の向こう側から覗いているような感じがする」
  • 「人と関わると消耗してしまうので、家にこもっていたい」

猫背になり、腕や脚の筋力が落ちていくのも、
「怠け」ではなく、エネルギーを節約せざるを得ない防御モードの表れと見るべき場合が多いのです。


7. 「治療・回復」の方向性――まずは「安全に休む」から始める

背側迷走神経が過活動になっている人にとって、最初の課題は
**「戦うこと」でも「ポジティブになること」でもなく、「安全に休めるようになること」**です。

7-1. 休むことを習慣にする

  • 疲れ切ってから倒れ込むのではなく、「少し疲れたかな」というタイミングで休む
  • スマホや刺激から離れ、身体感覚に意識を戻す短い休憩時間を一日の中に何度も挟む
  • 「休む=サボり」「休む=価値のない自分」という信念を少しずつほどいていく

これは「だらしなく生きる」ことではなく、
**神経システムを修復し、迷走神経の反応を調整し直す“リハビリ”**です。

7-2. 神経を落ち着かせる具体的な方法

  • ゆっくりした腹式呼吸(吐く息を長く)
  • 軽いストレッチやヨガ、関節を小さく揺らすような動き
  • 温かい飲み物を少しずつ飲み、身体の内側の感覚に注意を向ける
  • 寝椅子やソファに横になり、「身体が沈んでいく感覚」を確かめる

こうした「小さなリラックスの体験」を積み重ねることで、
神経系は少しずつ「緊張→回復」というリズムを取り戻しやすくなります。


8. セラピーの中で起こること――静から動へ、段階的に神経をならす

複雑なトラウマを抱える人ほど、
「じっとしていること」が逆に不安で、座っているだけで心臓がバクバクしたり、過去の映像が押し寄せてきたりします。

そのため、セラピーではいきなり深いトラウマを掘り起こすのではなく、

  1. 安心できる空間で、ソファなどに身を預ける
  2. セラピストとの対話を続けながら、「身体を休めても大丈夫」という経験を少しずつ重ねる
  3. ぼんやりとしたまどろみのような意識状態で、自分の内面を静かに眺めてみる
  4. 安全が確保された状態で、過去の出来事や感情に触れていく

といった**「静的な休息 → ゆるやかな動き」への段階的プロセス**が重視されます。

トラウマと神経システム、身体反応の関係については、こちらも参考になります。
→ トラウマによるPTSDの症状とそのメカニズム
https://trauma-free.com/trauma/symptoms/


9. 「管理しすぎない」ことも、大切なセルフケア

最後に重要なのは、
「自分を完璧に管理しよう」としすぎないことです。

  • 食事、睡眠、運動、ストレス管理……
    どれも大切ですが、「ちゃんとしなきゃ」と自分を追い込みすぎると、それ自体が新たなストレスになります。

背側迷走神経が過剰になりやすい人ほど、
「うまくやれない自分」を責めやすく、
その自己批判がさらに神経系を疲弊させてしまいます。

大事なのは、

  • 少しずつ、自分のペースで
  • 完璧を目指さず、「今日はこれくらいできた」で終わらせる
  • 心身が少しでも楽になった感覚を、「ダメな自分」ではなく「回復への一歩」として受け取る

という、ゆるやかな自己への態度の変化です。


まとめ

迷走神経反射や背側迷走神経の過活動は、
「弱いから起こる」「気持ちの問題」という話ではありません。

むしろ、
どうしようもない状況を何度もくぐり抜けてきた身体が、
それでも生き延びるために身につけざるを得なかった最終防衛のかたち
だと言えます。

その身体の知恵を責めるのではなく、
少しずつ安全な休息とつながりを取り戻しながら、
神経システム全体のリズムを整え直していくことが、
「原因と対策」の本質的な方向性になります。

STORES 予約 から予約する

【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
新刊『かくれトラウマ - 生きづらさはどこで生まれたのか -』
2026/2/26発売|Amazonで予約受付中
過緊張や生きづらさは、あなたのせいではなく、育った環境や親子関係の中で身についた生存の反応として残ることがあります。
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。