抑圧と解離の防衛機制の違いとは?ストレスと心理学の観点から理解する心のメカニズム

精神分析

精神分析の抑圧とは、防衛機制の中でも最も基本的なものになります。抑圧は、自我を脅かす願望や衝動を意識から締め出して意識下に押し留めることであり、意識されないままそれらを保持している状態です。自分にとって受け入れられない感情や観念は、心の底に抑圧されます。フロイトは、抑圧の概念を用いて、精神分析を形作っていきました。

精神分析的療法では、無意識過程の意識化と洞察を図る治療法です。人が強いショックやストレス、不安や恥、苦痛を引き起こす過度な情動体験をしたとき、それが適切に処理されずに抑圧されると、 神経症的な症状の形成につながると考えます。その無意識化に抑圧されたエネルギーを意識化し、自覚的に調整できるようになれば、神経症は解消するとされました。

抑圧とは: 無意識の影響

人は、不快な経験や否定的な感情、嫌悪感、恐ろしい体験、変えられない願望などを、心の奥深くに隠し込んでしまうことがあります。これらの抑圧された願望や感情は、無意識の防御メカニズムであり、思い出すことが容易ではなく、本人が自覚することができない場合があります。フロイトは、性的外傷が原因で生じる性的活動の抑圧が、内部の欲求やリビドー(性的欲望)を不安にさせ、ヒステリーを引き起こすと考えていました。

子どもは、親の厳しい躾を受けて育つことにより、親の顔色を見て、良い子に育っていくことがあります。しかし、このような厳しい躾を受けることに伴い、子どもは自分の欲求や願望、本音を隠して抑圧することがあります。親に甘えたいと思ったり、親に頼りたいと思ったり、本音を話したいと思ったり、お菓子を食べたいと思ったり、もっと遊びたいと思ったりする欲求や願望は、抑圧されて、感じられなくなったりすることがあります。これらの抑圧された欲求や願望、感情は、意識に触れずに心の奥底に閉じ込められ、本人が意識することができないことがあります。

親子関係の抑圧: 内なる葛藤とその影響

抑圧という概念は、トラウマに関連したものとして知られていますが、親子関係から理解することも大切です。特に、ヒステリックな親に育てられた子どもたちは、相手の意図を予測して、予防策を講じ、周囲を喜ばせようと努力することが多いです。これは、親の機嫌を良くすることで、脅威を退け、心の安定を保つために必要な行動になります。このような状況では、本来の欲求や願望、感情は、自分自身の気持ちに従うことなく、抑圧されてしまいます。

長い間脅かされ続けた環境で育つ子どもは、相手の気持ちを予想し、先手を打つことによって、皆を喜ばせようと努力することが必要になります。彼らは、身近にいる親の気持ちを優先して考えないと、自分自身が酷い目に遭ったり、見捨てられることを恐れるからです。そのため、自分自身の意見ではなく、正解を探して意見を言うようになります。しかし、このような状況では、自分の本音や気持ち、欲求を正直に伝えることができなくなります。これらの本音や気持ち、欲求は、自分自身を脅かすものとなって、抑圧された状態が長引いていくと、本来の自分が失われ、神経症(心の病)になることもあります。

神経症になるような人は、人々の表情を観察して、相手が不機嫌だと心配になり、自分が見捨てられることを恐れたり、周りの人々を不快にさせないように気を配っています。自分の気持ちを後回しにして、他者の感情を優先することで、本当の気持ちが分からなくなり、苦しむことがあります。自分の本音や本当の感情を表現することができないということは、本来の自分ではなく、表面的なものだけを装って生きていることになります。このような生き方は疲れていき、身体的にも不調になり、誰といても幸せを感じられなくなってしまいます。

この世界がどんなに厳しくても、仕事をすることや学校に通うこと、人と関わりながら生活するためには食べていかないといけません。そのため、常に正常に見えるような振る舞いをして、普通の生活を送ろうとするのですが、常に偽っているかのような感覚の中で生きていると、心が壊れていって、自分が本当にやりたいことが分からなくなってしまいます。

親が子どもに危険や恐怖を与える張本人の場合、子どもは親に依存する一方で、親が良くなることを期待してもいつも裏切られることが多く、耐え難い怒りの感情を抱くことになります。しかし、子どもは親に愛着を持っているため、怒りの感情を向ける矛先がなく、抑圧されます。また、親との関係の中で、親に頼ってはいけないというメッセージや、人に迷惑をかけていることが恥ずかしいという思いもあり、子どもの依存感情も抑圧されます。これらの抑圧された感情は、身体に分裂排除され、無意識の中に押し込まれていくことがあります。身体のパーツたちは、人に対して汚らわしい、嫌い、しんどい、めんどくさい、叫びたい、気が狂いそう、気付かないで欲しいと思っている場合があります。

心の深層: 解離のメカニズム

抑圧は、親子関係においてのストレスや性暴力などの恐ろしい経験によって、自然と生じていくものです。このような経験によって、心的な傷が深く残り、無意識のレベルで影響を受け続けます。一方、解離は、生命の危機を感じる場面において、交感神経と背側迷走神経が過剰に作用し、身体が凍りつく際に起きる現象か、交感神経がシャットダウンする虚脱状態の際に発生します。

人は、脅威を感じると過剰な警戒心から、筋肉が硬直して、戦うか逃げるかの反応をすることがあります。しかし、長期的に脅威に曝されてきた人は、このような反応ができなくなり、身体を凍りつかせたり、死んだふりをすることで対処するようになります。

人が凍りつくときは、圧倒する感情や神経の痛み、息苦しさ、胸がざわつく、お腹がきついなどを伴う反応が生じます。これらの不快な感覚は、長期的な脅威の源から生じています。このような状況下では、無意識に不快な感覚や感情を感じないようにするために、身体が麻痺していくことがあります。しかし、実際は、この身体の麻痺は、現実感や自己感を喪失させ、病的な解離状態になっていくことがあります。

無意識下で、生命の危機を感じることにより、引き起こされる凍りつきや虚脱状態は、生活を送る上で欠かせない欲求や感情、性的衝動などを分からなくしてしまうことがあります。感覚が麻痺して、現実感や自己感が喪失していく状況では、自分自身の人格が入れ替わることがあります。このような人格の交代は、自分の知らない間に、料理をしたり、お菓子を食べたり、自傷行為をしたりなど、自分自身の記憶にない間に起こる可能性があります。

抑圧と解離のメカニズムとその健康への影響

抑圧と解離は、私たちの心が直面する複雑な状況や困難な経験に対応するための心の防衛策です。それらは、私たちが過度の不安やストレスを感じるときや、自らや他者からの直接的な危険を認識する際に働きます。

抑圧は、深い心の層で働く機制で、辛い記憶や痛みを感じる出来事、またはそれに関連する情報を意識の表面から隠す役割を果たします。これは、一時的に痛みや不安から解放されることで、私たちが日常生活を継続するのを助ける働きがあります。しかし、これらの感情や記憶は完全に消え去るわけではなく、潜在的な形で存在し続け、時折表層に出てくることがあります。

一方、解離は少し異なるアプローチをとります。ここでは、心は痛みやトラウマから自分自身を保護するため、その出来事や感じている情感との結びつきを一時的に断ち切ります。これにより、人は自分が経験したことと自分自身を一時的に分離し、状況から距離をとることができます。

両方のメカニズムは、私たちが日常生活で直面するさまざまな挑戦やトラウマに対処する上で役立ちますが、それらが長期にわたって過度に働くと、心の健康に悪影響を及ぼすことがあります。心の安全と健康を維持するためには、これらの防衛メカニズムがどのように働いているのか、そして私たち自身がどのようにそれらと関わっているのかを理解し、適切に対処することが重要です。

精神分析的治療のアプローチ

抑圧された感情や欲望を意識化し、再体験することが精神分析的治療の中心的なアプローチです。無意識に押し込められた感情や記憶を掘り起こすことで、クライエントは自分自身の内的葛藤と向き合い、未解決の感情を解放し、再統合するプロセスを経験します。

1. 自由連想法

自由連想法は、クライエントが自分の心に浮かぶあらゆる思考や感情を自由に語る手法です。これにより、抑圧された無意識の内容が徐々に表面化し、自己理解が深まります。セラピストは、クライエントの語りを丁寧に聞きながら、無意識的なテーマ葛藤を探ります。

2. 夢分析

フロイトは夢を「無意識への王道」と呼び、夢を通じて抑圧された欲望や感情が表れると考えました。夢分析は、クライエントが夢の内容を語ることで、抑圧された感情や欲望に光を当て、それを意識的に扱うための手助けをします。

3. 転移の活用

治療の過程でクライエントは、しばしばセラピストに対して親子関係や過去の対人関係に基づいた感情を投影します。これを「転移」と呼びます。セラピストはこの転移を利用して、クライアントが過去の未解決の感情と向き合い、それを解消する機会を提供します。

抑圧の治療に向けた具体的ステップ

1. 自己認識の向上

抑圧された感情に気づくことが第一歩です。感情や身体的な反応に注意を向け、不安やストレスを感じる瞬間を観察することが重要です。例えば、特定の状況や人との関わりで感情が高ぶる場合、それは抑圧された感情が表に出てきているサインかもしれません。

2. 安全な環境での感情表現

抑圧された感情を表現するためには、安全で受容的な環境が必要です。セラピストや信頼できる人々との対話を通じて、自分の本当の感情を表現する練習をすることが有効です。感情を抑え込まずに表現することで、心の解放が進みます。

3. 身体感覚への意識

抑圧はしばしば身体に蓄積され、緊張や不調として現れます。ボディワークマインドフルネスを取り入れることで、身体と心のつながりを再確認し、感情を解放するサポートとなります。

4. 過去の経験と向き合う

抑圧の源泉となっている過去のトラウマや感情を意識的に探求することも重要です。これには、ジャーナリング(日記を書くこと)や芸術療法などの手段が役立ちます。自分の過去を再評価し、感情を言葉や創造的表現で解放することが、自己理解と治癒への道を開く鍵となります。

結論

抑圧は、自己を守るための防衛機制でありながら、長期的には私たちの心身に大きな影響を与えることがあります。精神分析的アプローチを通じて抑圧された感情を意識化し、自己理解感情の解放を進めることが、抑圧によって引き起こされる神経症や心の葛藤からの回復につながります。

トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2021-04-14
論考 井上陽平

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