社会不安障害とトラウマ|人間関係が怖くなる心理・視線や会話が苦しいとき

人と関わるのが苦手 対人関係の悩み

ふとした瞬間に、誰かと目を合わせることさえためらってしまうことがあります。

店員に声をかけるだけで胸が詰まる。職場で雑談が始まると、何を話せばよいのか分からなくなる。人前で発言する予定があると、その数日前から身体が緊張し、頭の中では失敗する場面ばかりが繰り返される。相手が少し黙っただけで、自分が変なことを言ったのではないかと考え続けてしまうこともあります。

人との関わりが苦しくなるとき、そこには単なる人見知りや内向的な性格では説明しきれない問題が隠れていることがあります。

社会不安症(社会不安障害)は、他人から注目されたり、否定的に評価されたりすることへの強い恐怖を特徴とする不安症です。特に、自分の緊張や失敗を他者に見られることが怖くなり、会話、発表、会食、電話、初対面の人との交流など、日常のさまざまな場面が負担になることがあります。

しかし、社会不安の苦しさは、人前で緊張することだけにあるわけではありません。

他者と接している間、自分がどう見られているのかを絶えず監視し、相手の表情や沈黙から否定的な意味を読み取ってしまう。会話が終わっても緊張が解けず、帰宅してから何時間も自分の言葉や態度を振り返る。

そのうち、誰かと関わること自体が、自分の欠点を発見される危険な出来事のように感じられてきます。

こうした恐怖には、過去のいじめや嘲笑、繰り返される批判、対人関係での裏切りなどが関係している場合があります。以前に人前で深く傷ついた経験があると、現在の何気ない視線や言葉が、そのときの屈辱や恐怖を呼び起こす手がかりになることがあるのです。

人と関わりたい気持ちはあるのに、人の前では自分らしく振る舞えない。その矛盾の中で、孤独と緊張を繰り返すことになります。

社会不安障害の心理|他人の視線が「評価」に変わる瞬間

誰かと向かい合って話すとき、私たちは相手の表情や声の調子を見ながら、自然に会話を進めています。

ところが、社会不安が強い人の場合、相手の反応を受け取ることと、自分がどう評価されているのかを監視することが重なってしまいます。

相手が眉を少し動かしただけで、不快にさせたのではないかと考える。返事が短いと、自分の話がつまらなかったのだと感じる。相手が視線を外せば、嫌われたのではないかと不安になる。

会話の中で生じる何気ない変化が、自分への評価を示すものとして受け取られていくのです。

ここで重要なのは、他人の視線そのものが怖いというよりも、その視線の中で自分がどのように見られているのかが分からないことに、強い不安が生じる場合があるという点です。

相手の本心を確かめることはできません。そのため、不確かな部分を、自分にとって最も恐ろしい意味で埋めようとすることがあります。

「今の言葉はおかしかったかもしれない」「声が震えていることに気づかれた」「顔が赤くなっていると思われている」。

こうした考えが浮かび始めると、相手の話を聞くことよりも、自分の声や表情を確かめることに意識が向かっていきます。

2023年、Halldorssonらは、社会不安症を抱える8〜12歳の子ども12人に対して、他者から見られる場面で何を感じ、どのように状況を受け取っているのかを調べる質的研究を発表しました。

その中では、注目の中心になることへの強い不快感や、周囲からじっと見られているように感じる経験が語られています。また、一部の子どもは、他者に見られている自分の姿を否定的に想像していました。

この研究が興味深いのは、他者からの評価を恐れる感覚が、必ずしも十分に言語化された考えとして現れるわけではないという点です。

相手に何を思われているのかを説明できなくても、見られているという感覚だけで身体が緊張することがあります。

大人になってからも同様に、頭では「相手はそれほど気にしていないかもしれない」と分かっていても、身体の緊張が収まらない場合があるのです。

会話中に自分を監視すると、言葉が出なくなる

社会不安が強い人は、他者と会話している最中に、自分の表情や声、身体の反応へ過剰に注意を向けることがあります。

心理学では、こうした働きを**自己注目(self-focused attention)**と呼びます。

会話をしているはずなのに、意識の一部では常に自分自身を観察している。声が震えていないか、言葉の選び方は適切か、相手を不快にさせていないかと考え続けるうちに、会話そのものへ向ける注意が減ってしまいます。

その結果、相手が話している内容を十分に理解できなくなったり、言おうとしていた言葉を忘れてしまったりすることがあります。

職場の会議で意見を求められたとき、普段なら理解している内容なのに、突然頭が真っ白になる。雑談の中でも、次に何を話すかを考えている間に相手の話が進み、返事のタイミングを逃してしまう。

そうした失敗を経験すると、「やはり自分には会話する能力がない」と考えるようになります。

しかし、このような場面では、会話する力そのものが不足しているというより、強い自己監視によって、本来使えるはずの注意や思考の働きが妨げられている可能性があります。

社会不安の認知モデルを提唱したClarkとWellsは、自己注目と安全確保行動が、不安を維持する重要な要因になると考えました。

たとえば、声が震えないように話し方を細かく調整したり、失敗しないように頭の中で文章を何度も確認したりすることがあります。

そのように自分を制御しようとするほど、会話は不自然になり、本人はますます緊張してしまう。

そして、うまく話せなかったという経験が、次の会話への恐怖を強めていきます。

この過程では、相手との間に生まれる自然なやり取りよりも、「失敗しない自分」を維持することが優先されているのです。

自分を守るための行動が、かえって不安を長引かせる

社会不安が強いとき、人は自分が恥をかかないように、さまざまな工夫をします。

会話の前に話す内容を細かく準備する。顔が赤くなっていることを見られないように視線を下げる。沈黙が生じないように次々と質問をする。失敗したときに備えて、できるだけ自分の意見を言わないようにする。

こうした行動は、本人にとって不安を抑えるための方法になっています。

心理学ではこれを安全確保行動(safety behaviours)と呼びます。

ただし、ここでいう安全確保行動は、現実の危険から身を守る行動とは区別して考える必要があります。社会不安の文脈では、実際には起きていない否定的評価を防ぐために、過剰に行っている振る舞いなどを指します。

たとえば、会話で失敗しないために、自分が話す内容を完全に準備しておく人がいるとします。

その結果、会話を無事に終えられたとしても、「今回は十分に準備していたから大丈夫だった」と感じ、自分が自然に話しても問題なかったかどうかを確かめる機会は得られません。

また、相手の反応を監視し続けることで、会話中の緊張がさらに強まることもあります。

本人は危険を避けるために努力しているのに、その努力によって、社会的な場面がますます難しいものになっていくのです。

ここで必要なのは、すべての準備や配慮をやめることではありません。

自分が何を恐れ、その恐れを防ぐためにどのような行動をしているのかを理解することです。

そのうえで、負担の少ない場面から、過剰な自己監視や準備を少し減らしてみる。自分が予想していた失敗が本当に起こるのか、実際の経験を通して確かめていくことが、恐怖を変えていく手がかりになります。

視線への恐怖や身体の緊張への具体的な対処については、対人恐怖症の人がやってはいけないことと治し方|安心感を取り戻すためにでも詳しく取り上げています。

会話が終わったあとも苦しい|頭の中で続く「反省会」

社会不安の苦しさは、人と接している時間だけで終わるとは限りません。

仕事が終わり、電車に乗って帰宅する途中で、昼間の会話が突然頭に浮かぶ。自分が話した言葉や相手の表情を思い返し、「あの発言は余計だったのではないか」「相手は困っていたのではないか」と考え続ける。

その場では大きな問題が起きていなかったとしても、後から振り返るほど、失敗した部分ばかりが目立つようになります。

さらに、過去の別の出来事まで思い出され、以前にも同じような失敗をした、自分はいつも人とうまく関われないと考えるようになることがあります。

このように、社会的な出来事が終わったあとに、その場面を繰り返し振り返り、否定的に考え続けることを**事後反芻(post-event processing)**と呼びます。

2020年、吉永尚紀、髙岡光太、小堀修は、社会不安症を抱える21人への半構造化面接を通して、なぜ会話や対人場面のあとに反省を繰り返してしまうのかを調べました。

参加者の語りから明らかになったのは、反芻が単に自分を責める習慣として続いているわけではないということでした。

多くの参加者は、過去の会話を振り返ることを、次に同じ失敗をしないための必要な作業として考えていました。誰にも見られず、一人で安全に自分の行動を修正できる方法だと感じていたのです。

しかし、実際には反省を重ねても期待した改善が得られず、自己否定や不安が強まることがありました。それでも、ときどき何らかの解決策が見つかるため、反芻をやめることが難しくなっていました。

この研究は、社会不安のある人が、自分を傷つけると分かっていながらも、次に傷つかないために反省を続けてしまうという葛藤をよく表しています。

反省している間は、何かを改善しようとしている感覚があります。しかし、その反省が自分の失敗や欠点を探し続ける作業になってしまうと、次の対人場面への恐怖をさらに強める場合があります。

重要なのは、実際に改善する必要があることと、想像の中で相手の評価を決めつけている部分を区別することです。

相手に失礼なことを言ったと分かったなら、必要に応じて謝ったり、次の対応を考えたりできます。しかし、相手がどう思っていたのか分からない場面について、何時間も否定的な結論を探し続けても、確かな答えが得られるとは限りません。

トラウマと社会不安|過去の屈辱が現在の視線に重なるとき

社会不安が生じる背景には、気質や学習経験、認知的な傾向など、複数の要因が関係しています。その一つとして、過去の対人関係で深く傷ついた経験が影響している場合があります。

学校で発言したときに笑われた。人前で失敗を責められた。職場で何度も人格を否定された。信頼していた相手に弱さを打ち明けたところ、その内容を周囲へ広められてしまった。

こうした経験では、単に嫌な思いをするだけでなく、人前で自分の弱さや失敗を知られることが、強い屈辱として記憶に残る場合があります。

その後、別の人から見られたり、何かを質問されたりしたときにも、過去と似た恐怖が生じることがあります。

相手は穏やかに話しているのに、こちらは責められるような感覚になる。周囲の人が笑っているだけで、自分のことを笑っているのではないかと不安になる。

現在の状況と過去の経験が部分的に似ていることで、以前の感情や予測が呼び起こされるのです。

このとき、現在の相手が実際に危険な人物なのか、それとも過去の経験によって恐怖が強まっているのかを、本人が区別することは難しい場合があります。

社会不安の認知療法では、こうした過去の社会的な傷つきの記憶と、現在の否定的な自己イメージとのつながりが重視されることがあります。

たとえば、過去に人前で恥をかいた経験がある人は、新しい人間関係でも、自分が失敗している姿を頭の中に思い浮かべることがあります。

そのイメージは、現在の相手が実際に見ている姿とは異なっていても、本人には非常に現実的に感じられます。

そのため、人前での恐怖を理解するには、現在の視線や会話だけでなく、その人がどのような場面で自分を恥ずかしい存在だと感じるようになったのかを確かめることも重要になります。

ただし、社会不安症のすべてがトラウマによって生じるわけではなく、社会不安症とPTSDも異なる診断です。過去の傷つきが関係している場合でも、現在の生活の中で恐怖を維持している仕組みを合わせて考えていく必要があります。

注意や指摘を受けた瞬間に強い身体反応が生じる心理については、注意されると泣いてしまう・落ち込んでしまう理由でも詳しく扱っています。

「自分だけが違う」という感覚が、人間関係をさらに難しくする

社会不安が強い人は、周囲の人が自然に会話している様子を見ると、自分だけが取り残されているように感じることがあります。

職場で同僚たちが雑談している。誰かが冗談を言い、それに周囲が笑っている。自分も会話に入りたいと思うものの、何を言えばよいのか分からず、結局は黙ったまま過ごしてしまう。

その時間が長くなるほど、自分は周囲の人とは違う、自分には人間関係を築く能力がないという考えが強まっていくことがあります。

しかし、周囲の人が自然に会話しているように見えるからといって、本人に会話する能力がないとは限りません。

強い緊張の中では、言葉を探すことだけでも大きな負担になります。失敗しないように考え続けるほど、相手の話を受け取ったり、自分が感じたことを自然に表現したりする余裕が減ってしまうのです。

さらに、自分の緊張を他人に知られたくないという思いから、あえて無関心な態度を取ることもあります。

本当は話に入りたいのに、興味がないように振る舞う。誘われたいと思っていても、自分から近づかない。相手から話しかけられても、緊張を隠すために短い返事で終えてしまう。

その結果、周囲からは人づきあいを望んでいない人だと受け取られ、関係が深まる機会が減ってしまうことがあります。

本人の内側にある「人と関わりたい」という気持ちと、外側に現れる行動とが、反対の方向を向いてしまうのです。

2016年、Hjeltnesらは、社会不安のために専門的な支援を求めていたノルウェーの大学生29人に聞き取りを行いました。

その研究では、自分の感情を脅威として感じること、他者に弱い自分を知られないようにすること、人間関係が減って孤独が深まることなどが重要なテーマとして示されました。

また、参加者たちは、人との関わりが怖い一方で、将来はその恐怖に向き合いたいという気持ちも語っていました。

社会不安の中には、人と距離を置きたい気持ちと、人とのつながりを取り戻したい気持ちが同時に存在していることがあります。

その葛藤が強くなるほど、本人は自分自身の行動を理解できなくなり、孤独感を深めてしまう場合があるのです。

孤独が安心になる一方で、孤独だけでは満たされなくなる

人と関わることが怖いとき、一人で過ごす時間は大きな安心をもたらします。

誰かの視線を気にする必要がなく、会話の内容を考え続けることもない。相手の反応を確認せずに、自分のペースで過ごすことができる。

対人関係で消耗している人にとって、一人でいる時間は心身を休めるために必要なものです。

しかし、人との関わりを避けることが唯一の安心になってしまうと、生活の中で経験できることが少しずつ狭まる場合があります。

友人から誘われても断り続け、新しい場所へ行くことを避ける。連絡が来ても返事をすることが負担になり、誰かと話したいと思っても、自分から関係を始めることが難しくなる。

その結果、傷つく機会は減っても、人とつながることで得られる喜びや安心を経験する機会も減ってしまいます。

一人でいると落ち着くのに、長く一人でいると寂しい。人と会いたいと思うのに、実際に予定が入ると怖くなる。

こうした矛盾は、社会不安を抱える人にとって大きな苦しさになります。

大切なのは、孤独を否定することでも、無理に人間関係を増やすことでもありません。

一人で過ごす時間を確保しながら、自分にとって負担の少ない関わり方を探していくことです。

短い会話だけで終える。会う時間を決めておく。大勢で集まるより、少人数で過ごす。相手との距離を自分で調整できるようになることで、対人関係の負担が変わってくる場合があります。

ただし、実際には安全な場面まで避け続けることで不安が維持されている場合には、避けている状況に少しずつ近づき、新しい経験を積み重ねていくことも重要になります。

社会不安障害を改善するには|自分への注意を外へ向け直す

社会不安の回復を考えるとき、重要になるのは、人と接することへの恐怖を理解するだけでなく、その恐怖を維持している反応を少しずつ変えていくことです。

英国NICEの診療ガイドラインでは、成人の社会不安症に対して、ClarkとWells、またはHeimbergのモデルに基づいた、社会不安症に特化した個人認知行動療法(CBT)が推奨されています。

そこでは、自己注目や安全確保行動を減らすこと、否定的な自己イメージを検討すること、恐れている結果が実際に起こるのかを行動実験によって確かめること、会話前後の過剰な反芻を見直すことなどが重視されています。

例えば、会話中に自分の声が震えていないかを確かめ続けている人なら、少しずつ相手の話の内容へ注意を向ける練習が役立つ場合があります。

相手が何を話しているのか、どのようなことに関心を持っているのか、その会話の中で自分は何を感じているのか。

そのように、注意を自分の内側だけでなく、実際の会話へ向け直していくのです。

また、相手にどう思われたのかを何時間も考え続ける習慣がある場合には、事実として確かめられることと、自分が想像している相手の評価を分けて考える方法があります。

相手が黙ったことは事実でも、自分を嫌っていたかどうかは分かりません。会話中に言葉が詰まったとしても、それだけで能力が低いと評価されたとは限らないのです。

さらに、会話で失敗しないために必要以上の準備をしている場合には、負担の少ない場面から準備を少し減らしてみることも考えられます。

これまでのように完璧な返事を考えるのではなく、自分が自然に感じたことを短く伝えてみる。その結果、相手との関係に何が起こったのかを確かめていきます。

不安を完全になくしてから人と関わるのではなく、不安がある状態でも、自分が予想していたほど悪い結果にはならないことを経験していく。

そのような新しい学習が、対人場面への恐怖を変えていくことにつながります。

ただし、現在もいじめやハラスメント、暴力などにさらされている場合には、危険な状況へ無理に近づくことを求めるべきではありません。現実の安全を確保したうえで、取り組める場面を選ぶ必要があります。

会話後の反省を、次の恐怖へつなげないために

人と話したあとに反省が始まる場合には、その反省が何のために行われているのかを確かめてみることが役立ちます。

たとえば、会議で発言したあとに「あの説明は分かりにくかったかもしれない」と考えたとします。

そのとき、伝えたい内容が十分に整理できていなかったのであれば、次に向けて準備することができます。

しかし、「同僚は自分を無能だと思ったに違いない」「もう職場での評価は下がっただろう」と考え続けている場合には、実際の出来事から離れ、想像の中で自分の評価を決めつけている可能性があります。

この二つを区別することが重要です。

反省が具体的な改善へつながっているなら、その内容を整理して終えることができます。一方、相手がどう思っていたのかを繰り返し推測するだけになっている場合には、考え続けても確かな答えが得られないことがあります。

また、相手の表情や言葉の一部分だけを取り出し、否定的な意味を探し続けていないかを確かめてみることも役立ちます。

会話の中には、相手がうなずいていた時間や、普通に返事をしていた場面もあったかもしれません。しかし、不安が強いときには、気になった一瞬だけが強く記憶に残ることがあります。

会話全体を振り返ることと、最も恥ずかしかった瞬間だけを何度も思い出すことは、同じではありません。

反省を減らすことは、自分の行動に責任を持たなくなることではなく、必要な振り返りと、自分を傷つけ続ける思考を区別することなのです。

安全な対話を経験する|他者の中で自分を失わない関係

社会不安や対人トラウマを抱える人にとって、人との関係は恐怖の原因になる一方で、新しい経験を得る場所にもなります。

自分の意見を伝えても、相手が否定しなかった。会話の途中で言葉に詰まっても、そのまま待ってもらえた。沈黙が生じても、関係が気まずくならずに続いた。

そのような経験を重ねることで、人と関わることへの予測が変わっていく場合があります。

ただし、安全な関係とは、相手が常に自分を褒め、決して否定しない関係という意味ではありません。

相手と意見が違っても話し合えること、必要なときには断ることができること、相手の不機嫌さをすべて自分の責任として引き受けずに済むことも、安心できる関係の重要な要素です。

人間関係の中では、相手が思いどおりに反応しないこともあります。話題がかみ合わない日もあれば、何となく会話が続かない日もあるでしょう。

そうした出来事が起きても、自分の存在や能力をすべて否定する必要はありません。

社会不安が強い人にとっては、うまく話せたという成功体験だけでなく、うまく話せなかったときにも、関係がそのまま続くという経験が大切になる場合があります。

完璧な自分を見せなくても、誰かと一緒にいられる。相手の反応を細かく監視し続けなくても、会話を続けることができる。

そのような経験が増えることで、人との関係は自分を評価される場所から、自分の考えや感情をやり取りする場所へと変わっていきます。

過去の傷つきを、現在の人間関係から少しずつ分けていく

対人関係のトラウマが強く残っている場合には、現在の人との関わりだけを練習しても、不安が十分に軽くならないことがあります。

以前、人前で恥をかかされた経験や、信頼していた相手に拒絶された記憶が、現在の対人場面で繰り返し呼び起こされている場合があるからです。

このようなときには、過去の出来事を無理に忘れようとするよりも、その経験が現在の自分にどのような影響を与えているのかを整理していくことが役立つ場合があります。

「あのとき、自分は笑われることが怖かった」「誰にも助けてもらえず、非常に恥ずかしかった」「自分の弱さを見せたことで、相手に傷つけられた」。

そのように、当時の感情や状況を理解していくことで、現在の他者の反応に対して、なぜこれほど強い恐怖が生じるのかが見えてくることがあります。

また、過去の社会的なトラウマ記憶と現在の自己イメージが強く結びついている場合には、専門的な認知療法の中で、記憶の意味づけを見直す方法が用いられることもあります。

重要なのは、過去の出来事を現在のすべての人間関係へ当てはめないようになることです。

以前、自分を笑った人がいたとしても、今目の前にいる人が同じことをするとは限りません。かつて弱さを見せて傷つけられたとしても、現在の関係で同じ結末になると決まっているわけではないのです。

過去の経験によって作られた予測を理解し、現在の人間関係の中で少しずつ確かめ直していくことが、恐怖を変えていく手がかりになります。

社会不安障害で専門的な支援が必要になるとき

社会不安が強く、仕事や学業、買い物、通院、人間関係など、日常生活のさまざまな場面に支障が出ている場合には、専門的な支援を受けることが役立ちます。

人前での発言を避けるために仕事の選択肢が狭まっている。電話が怖くて必要な連絡ができない。学校や職場へ行く前から強い緊張が続き、身体の不調が生じる。

また、対人場面のあとに何時間も反省が止まらず、睡眠や日常生活に影響している場合もあるでしょう。

こうした状態では、社会不安症に特化した認知行動療法など、効果が検証されている治療を検討することができます。

過去のトラウマ体験が現在の恐怖に強く関係している場合には、その記憶と現在の社会不安との関係についても、専門家と整理していくことが役立つ場合があります。

また、人との関わりへの恐怖には、社会不安症以外の状態が重なっていることもあります。PTSDやうつ病、回避性パーソナリティ障害、発達特性などとの違いを含めて評価することが、適切な支援につながります。

専門家との対話では、自分がどのような場面で緊張するのか、何を恐れているのか、これまでどのような方法で対処してきたのかを、少しずつ整理していきます。

人と話すことそのものが怖い場合には、最初から十分に説明できなくても構いません。言葉に詰まることや、緊張していることも含めて、現在の困りごととして扱うことができます。

人との関わりを怖がる心が、再び世界へ向かうとき

人間関係で傷ついた経験が深いほど、他者とのつながりを求めながら、同時にそのつながりを恐れることがあります。

誰かと自然に話したい。親しい人を作りたい。人前でも自分らしく振る舞いたい。しかし、実際に相手を目の前にすると、過去の失敗や屈辱がよみがえり、自分を隠そうとしてしまう。

そうした葛藤が続くと、人と関わることが、自分の価値を試されるような経験になっていきます。

けれど、本来、人との会話には正解が一つだけあるわけではありません。

言葉に詰まることもあれば、うまく伝わらないこともあります。相手の反応が予想と違うこともあるでしょう。そのたびに自分を否定し、関係を終わらせる必要はありません。

社会不安の回復では、自分の緊張を完全に消すことよりも、その緊張を抱えながら、少しずつ現実の他者と関わっていくことが大切になります。

これまで相手の評価ばかりを考えていた人が、相手の話そのものへ注意を向けられるようになる。会話で失敗したと感じても、何時間も自分を責め続けることが少なくなる。

人から見られることを恐れていた人が、やがて自分から誰かを見ることができるようになる。

そこには、単に不安が減ったという以上の変化があります。

他者からどう見られるかを考え続ける人生から、自分が相手をどう感じ、どのような関係を築きたいのかを考えられる人生へと、少しずつ移っていくのです。

人との関わりを怖がる心は、過去の経験から自分を守ろうとしてきたのかもしれません。しかし、現在の世界には、過去とは異なる関係を築ける可能性もあります。

相手の視線を監視することに使ってきた力を、相手の言葉を聞き、自分の気持ちを伝えることへ向けていく。

誰かにどう評価されるのかという不安だけで決まっていた人間関係が、自分の意思によって少しずつ選び取れるものへと変わっていく。

その経験を重ねることが、人と関わることへの恐怖を和らげ、自分らしく生きる感覚を取り戻していく道になるのです。


参考文献

  1. Yoshinaga, N., Takaoka, K., & Kobori, O. (2020). It hurts but I still need it: A qualitative investigation of post-event processing in social anxiety disorder. Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 48(3), 364–369.
  2. Hjeltnes, A., Moltu, C., Schanche, E., & Binder, P.-E. (2016). What Brings You Here? Exploring Why Young Adults Seek Help for Social Anxiety. Qualitative Health Research, 26(12), 1705–1720.
  3. Halldorsson, B., Waite, P., Harvey, K., Pearcey, S., & Creswell, C. (2023). In the moment social experiences and perceptions of children with social anxiety disorder: A qualitative study. British Journal of Clinical Psychology, 62(1), 53–69.
  4. Clark, D. M., & Wells, A. (1995). A cognitive model of social phobia. In R. G. Heimberg et al. (Eds.), Social Phobia: Diagnosis, Assessment, and Treatment (pp. 69–93). Guilford Press.
  5. National Institute for Health and Care Excellence. (2013). Social anxiety disorder: Recognition, assessment and treatment. Clinical guideline CG159.

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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