生ける屍-十字架を背負って生きる

苦難・絶望

虐待や性暴力の被害者の中には、生ける屍になり、背中に大きな十字架を背負って、重たい十字架をズルズル引きずりながら、死に向かって長い道を歩くような人がいます。十字架は、罪と苦難の象徴であり、耐え難い苦痛や消えることのない罪をいつまでも身に持ち続けます。そして、自分を見捨てて、自分を罰しながら生きるようになります。

生ける屍化する過程

物心ついた時から、親の虐待やDVなどを受けてきた子は、とても辛く、とても苦しい毎日の繰り返しになります。家の中は、差し迫った危険に対処しなければならず、うまく対処できない場合は、息が詰まり、声が出にくく、動けなくなっていき、どんよりとした空気が支配し、暗い人生を歩まされます。

親に刃向かっても、余計痛い目に遭わされることが繰り返されると、抵抗しなくなり、体を凍りつかせたり、死んだふりをして生き延びます。親や周りの皆から、罵倒されたり、嘲られたり、裏切りものとして扱われたりして、人間扱いしてもらえませんでした。そして、どこかで致命的なトラウマを負っていて、その時に動きが封じられ、暴れたり、泣いたりもできず、押さえつけられて、もの凄い痛みのなかで、凍りつき、虚脱、解離、離人、崩れ落ちていき、この世界に救いが無くなりました。

このような酷い環境にいて、もともとの資質が潰されていくと、体の中のトラウマが肥大化して、自分の心身を乗っ取ります。トラウマが重症化するほど、環境の変化に弱くなり、嫌な刺激や不快な状況では、筋肉が硬直して、気持ちが高ぶる、恐怖や怒り、心臓が痛む、お腹が痛む、過呼吸になる、頭が真っ白になる、声が出ない、身体が動かなくなるなどの不具合が出ます。 そして、些細なことでも、驚愕反応が出てしまうため、凍りつき、パニック、解離、虚脱のトラウマを何度も受ける感覚に陥って、性格が弱弱しくなります。

ミスが許されない緊張感のなか、非常事態が続き、痛みが体に刻まれていくと、親の態度が豹変するだけでも、心臓が縮み上がり、いつも殺されると思いながら生きるようになります。この世界が怖くてたまらなくなり、追い詰めらていくと、動けなくなって、ネガティブな感情が暴走し、そうした感情や感覚を封じ込めると、自分が自分であることが分からなくなります。

自分を見失い、生き生きと過ごしている現実感が喪失していくと、生ける屍になります。生ける屍化した人は、心は空虚で、中身がなく、自分が分からなくなっています。一人でぼーっとして、天井を眺めて、時間だけが過ぎていきます。また、自分の人生があまりにも惨めなために、何も出来ず、自分に価値が感じられず、罪悪感だけが残ります。彼らは、慢性的なトラウマ状態にあり、無力で絶望感に苦しみ、性器を切り取られ、去勢されているかのようです。

生ける屍の特徴

生ける屍は、生きているのか死んでいるのか分からない、死んだように生きてる人です。人生に対して全くやる気がなく、何の生きがいもなくて、その日を生きるためだけに仕事をしています。常に死んだ目をしていて生気が無く、ただ生きているだけで何も楽しくありません。目の見え方がおかしくなり、この世界がどんより見えて、感覚も狂っていきます。日常生活の記憶は薄れていき、物忘れが多くなり、物事を覚えられないとか、同じミスを繰り返すなど不安が出てきます。

生ける屍の身体

生ける屍化している人は、慢性的なトラウマの影響から、虚脱傾向が強く、免疫力が低下し、体は脆弱で、炎症が出やすいです。人に対してトラウマ反応が出るため、人間が怖く、もともとの自我は打ちのめされたような状態になり、感覚が麻痺していきます。体はこわばるか、伸び切っていて、体が鉛のように重く、外に出るとぐったりして、体に力が入らず、思考もうまくできません。自分の体は、紐で吊られて、首から下がぶら下がっているような感じで、姿勢は前のめり、手足はだらんと垂れ下がって、エネルギーが枯渇しています。体の中は空洞で、頭の中はすっからかん、何も考えられず、抜け殻で歩きます。

緊張が強まる場面では、体はガチガチに固まり、息が吸い込めず、発作が起きたり、胃が痛んだりします。筋肉がなく骨だけのイメージで、手足がバラバラ、動作がバラバラ、手先が不器用で、何事もスムーズに行えず、普通のことが出来ません。ショックなことがあると、脳がすぐにフリーズして、大声が出たり、体が勝手に動いたりします。トゥレット症候群のように、自分の意識を超えて、体が別の動きをします。例えば、体が勝手に動いて自分を傷つけたり、恨みつらみを身近な人にぶつけらり、卑猥なことや口汚いことを言ったりしますが、自分がやりたくてやっているわけではありません。

内的な世界にいるパーツ

生ける屍化している人は、自らを捨てており、内的な世界には、人から人として扱ってもらえなかった経験から、この世界を恨んで、憎んでいるものや、もう消えたいと怖がり、怯えている防衛的なパーツがいて、葛藤しています。防衛的なパーツは、バラバラに機能して、わがままを言ったり、暴れたり、甘えたり、昏迷状態に陥ったり、パニックになったりするため、日常を送る自己は、緊張した面持ちで生きていくしかありません。

彼らの内的世界には、保護者/迫害的な住人がおり、本人は、自分に憑き物が付いているように感じています。保護者の役割としては、窮地に陥った自我を救います。一方、迫害者は、現実世界の人と関わって、問題行動を起こします。また、日常を送る自己がミスをしたときに強く責めます。迫害者は、あらゆる罪を告白し、許しを乞う私を見るまでその手を緩めません。

慢性的な不動状態

体は動かないけども、生活のために無理に仕事をこなしており、仕事がうまくいかなったり、仕事が終わると死んだように座り込みます。生きていくことが大変で、仕事が終わった後は、心身が疲れ切り、体力が奪われて、しんどくてフラフラになり、食事をする元気もなくなります。体に力が入らず、動きづらくて、風呂に入ることが面倒になり、ベッドから起き上がるエネルギーすら無くなります。体の中が枯れていくような感じで、不快感、疼き、差し込むような痛みがあります。

非常事態

常に不安、焦りに苛まれて、思考が独特で、現実を配慮できません。非常時に備えた生き方をしていて、必要のないものまで、いつか必要になるかもしれないと思って捨てられません。外出時も、手抜かりのない準備を行い、自分のお守りと思って、必要のなさそうなものまで肌身離さず持ち歩きます。人と関わり、強い情緒刺激に混乱するため、他者を警戒し、自己を防衛します。

治療法

身体ワークとイメージワークを行い、筋肉を伸ばしたり縮ませたりして、体の状態を整えていきます。日常生活のなかで、危険を感じてガチガチに固まる状態でもなく、圧倒されて筋肉が極度に弛緩している状態でもない状態を作っていきます。セラピーを週1回取り組み、ヨガを毎日繰り返していくことで、状態は少しずつ回復していくでしょう。ただし、根本的な打たれ弱さや危険を感じて固まる部分に対しては、完治は難しいため、日常生活の中で、自分を調整するスキルを学び、自分でケアしていく必要があります。

トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2021-04-04
論考 井上陽平

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