ヒステリー研究|シャルコーからフロイトへの探求

心理学

19世紀後半、シャルコーの催眠療法により、ヒステリーが心因性の病気であることが認識されました。ジークムント・フロイトがヒステリー研究に興味を抱き始めたのは、著名な神経科医ジャン・マルタン・シャルコーの弟子として学び始めた時でした。当時の医学界におけるシャルコーの影響力は非常に大きく、その理論はフロイトの考え方に大きな影響を与えました。

シャルコーとの交流を通じて、フロイトはヒステリーという疾患について深く探求することになります。ヒステリーとは、感情の過度な表出や身体的症状を伴う神経症の一種で、特に19世紀末のヨーロッパでは広く認識されていました。フロイトはこのヒステリーの症状が、実は患者が抑圧した精神的トラウマから来るものだと考えました。

また、ジークムント・フロイトとヨーゼフ・ブロイアーは、同僚として協力し、精神的トラウマについて深く探求しました。1895年に彼らはヒステリーについての共同研究を発表し、これが現代における心的外傷や解離性障害の理論的基盤となりました。

彼らの研究は5つの症例に基づいていました。その中の一人、アンナ・Oはブロイアーが1880年から1882年にかけて催眠療法を施した患者で、この経験が催眠カタルシス療法(催眠状態で患者にトラウマを再体験させ、感情的な解放を促す治療法)の発展に繋がりました。ブロイアーの治療は一時的にアンナの症状を軽減したものの、彼に対する感情移入が強くなったために治療は中止されました。

エミー・フォン・N夫人の治療では、フロイトが催眠を使用しながらも自由連想法の使用を開始しました。これは患者に無意識の思考や感情を自由に語らせる方法で、心の中の隠されたトラウマにアクセスするための手法となりました。エリーザベト・フォン・Rの治療は、フロイトがヒステリーに対して分析的な治療を提供した例として記録されています。

ブロイアーとフロイトは、患者の記憶と感情に直接アクセスする方法を開発し、その中で隠されたトラウマを明らかにしました。そして、これらのトラウマがどのようにヒステリーの症状を引き起こすのかを理解しようと努力したのです。その結果、精神分析学という新たな心理学の領域が生まれ、人々の内面的な心理状態と行動、思考の相互関係を研究する重要な学問として現在でも評価されています。

ジャン・マルタン・シャルコーとヒステリー症状の進行

19世紀のフランスの神経学者であるジャン・マルタン・シャルコーは、ヒステリーの科学的解明に尽力しました。彼は特に、意識消失や筋硬直を伴う大ヒステリーの発作の時間経過について詳細な表を作り上げました。この成果は神経学及び心理学の発展に大きな影響を与え、後の精神医学の指導者たるピエール・ジャネとジークムント・フロイトも彼の下で学んだことで知られています。

彼が作り上げたヒステリーの発作経過表は以下の4段階から成り立っています。

  1. 前兆期:この段階では発作の始まりを告げるような症状が見られます。卵巣痛のように、これらの持続的な徴候はヒステリー発作の近い到来を示すものです。
  2. 発作期:これはいわゆる発作が起こる時期です。突然の叫び声、顔面の蒼白、意識喪失、そして卒倒に続く筋肉の硬直が特徴的です。この発作はてんかん性や類てんかん性とも言われます。
  3. おどけ症期:次に来るのが「間代性」あるいは「おどけ症的」と言われる時期です。この段階での行動はシャルコーによれば「すべてがヒステリー性だ」と言われます。それは、大げさな身振りや、意図的な体の捻転、そして情緒的な恐怖、不安、憎しみなどを芝居がかった仕草で表すものです。
  4. 消退期:この段階は発作が徐々に収まる時期で、すすり泣き、涙、大笑いなどが特徴的です。

さらにシャルコーは、大ヒステリーの患者がカタレプシー(蝋人形のように一定の姿勢を保ち続ける状態)や夢中遊行のような症状を示すことを指摘していました。これらの観察と研究は、現代の精神医学の発展に寄与し、ヒステリー理解の基盤を築きました。

現代的視点から見たシャルコーのヒステリー発作の進行ステージ

ジャン・マルタン・シャルコーが提唱したヒステリー発作の概念を、より具体的かつ現代的な解釈に基づき説明すると以下のようになります。

前兆期:この段階では、患者は何らかの形でストレス、疲労、突然の痛み、恐怖、脅威など感じており、強い緊張感の中でお腹が痛くなります。

発作期:心臓の鼓動はますます激しくなり、胸が締め付けられるような痛みが生じ、呼吸は浅くて早くなり、過度の覚醒状態になります。この時、自律神経の一部である背側迷走神経が同時に急速に活動し、体全体がこわばり、凍りついた状態になります。呼吸はほとんどできず、顔色が青ざめて、正常に動くことが困難になります。この段階ではフリーズ(動けなくなる)状態になり、意識喪失の危機状況に陥ります。血圧が低下することによって、心臓の働きが弱くなり、死にそうに思います。顔面の蒼白、息苦しさ、冷や汗、めまい、ふらつき、痙攣、突然の叫び、嘔吐、下痢、パニック状態、意識が朦朧とし、最終的には意識喪失に至ることもあります。

おどけ症期:この段階では、個人の人格が変化し、一種の「第二の人格」が現れる時期を指します。個人はこの厳しい状況を身体全体で克服しようと努めます。これは対象との関係性により、緩やかに進行する場合と急激な反応を引き起こす場合があります。緩やかな進行の場合、自分を世話してくれる対象の注意を引くためにいたずらをして、滑稽な行動を取ります。通常とは全く違う様子を見せ、尋常でない行動を取った後で、許しを求めることもあります。

一方、生命の危機に瀕したとき、体は固まり、完全に凍りつく感じがし、頭は非常に大きな圧力を感じて爆発するかのように感じます。強い緊張状態の中で、過度な自己否定や攻撃性、自傷行為、自暴自棄な状態になります。現状の把握が困難なまま、過去の問題に引きずられ、理不尽な行為を行った者への強い憎しみに狂うことがあります。この時、防御ラインが突破され、心が抜け落ち、身体がまるで他人のもののように動き始めます。トラウマが身体をバラバラにしようとする場合、手足が勝手に動き始め、生き残りをかけた動きをします。また、トラウマが身体をねじ曲げようとする場合、身体を捩じったり、正面を向いたり、反対側に捩じったりを繰り返し、正常な状態に戻ろうとします。

消退期:この段階は、問題が解決し、不快な状況から抜け出した時に起こる反応を指します。身体に滞った過剰なエネルギーが放出され、悔しさや情けなさから泣きじゃくることもあれば、震えやくすぐったさから愉快な笑いをあげることもあります。そして、落ち着きを取り戻し、本来の自分が現実世界に再び帰ってきます。

ヒステリーの発作やカタレプシーは、無力感を抱えた人々や過去に虐げられた人々によく見られる現象で、凍りつき、痙攣、パニック発作、叫び声、解離性昏迷、そして不動状態から覚醒するといった状態を指します。また、過去の外傷体験や部分的な外傷体験の回想、解離性フラッシュバック、または変性意識状態による人格の変化や交代などと類似しています

フェレンツィの視点:トラウマと感情的表現における第二人格の役割

シャーンドル・フェレンツィという精神分析家は、恐怖が心の中の感情と思考を引き裂く力となり、またその引き裂いた恐怖が依然として心の中で活動し続け、心の内容を互いに隔てていると語っています。この隔てられてきた心の部分と突然接触することで、強烈な反応が引き起こされます。これは痙攣や身体的な過敏症状、激しい怒りの爆発、そして多くの場合は抑えられない笑いとして現れます。これらは全て、制御不能な感情的動きの表現とされています。これらの表現はエネルギーを消耗し、最終的には比較的落ち着いた状態、つまり悪夢から覚めたかのような状態に至ると述べています。

これに基づいて、第二の人格が現れると、大げさな身体動作や感情的な反応、恐怖、不安、憎しみといった感情が劇的に表現されることがあります。これらの行動は、あたかも演劇の一部であるかのような派手な身振りや手振りによって表現され、これが本来の私たちが取るべき行動になるのです。

トラウマの回復の過程では、本来の私たち自身がこの第二の人格のような動きを取り入れることが求められます。身体をダイナミックに動かすことで、我々は生存か死かという極端な状況から、より安全で安心した状態へと切り替えることが可能になります。

ヒステリー発作の内面とその社会的影響: 恐怖と恥の悪循環

ヒステリー発作を引き起こす人々は、自身の身体内にトラウマを封じ込めています。彼らは恐怖や恥、イライラを感じるときに癇癪を起こしたり、意識が空白になったり、身体が硬直したりします。様々な心身症状が発生することが特徴で、感覚麻痺、視野狭窄、痙攣、運動麻痺、凍りつき、倒れ込む、健忘、朦朧といった典型的な解離症状が現れます。

ヒステリー発作が起こるとき、彼らは怯えた表情を見せ、過度な警戒心から、目の前の人が自分を脅かす敵であると察知するような状態になります。この状態は身体が凍りつく過程で、胸がざわつき、恥や怒り、不快感が湧き上がり、その場にじっとしていられなくなります。叫び声をあげたり、気が狂いそうな衝動に駆られたりします。

そして、息ができなくなり、身動きが取れず、痛みに凍りつくことで、理性ではコントロールできなくなります。理性ではなく、情動的な人格部分が支配し、怒りや恐怖、怯え、挑発、興奮、性欲などの生の感情を剥き出しにした行動を取ります。

その結果、周囲の人々は、理性で抑えていないその人を見て、関わりたくないと思うようになります。そのため、ヒステリー発作を起こす人は、自分が奇異に見られていないかを気にし、世間体を気にしたり、周囲の視線に怯えたりします。

そして、集団の中では孤立しやすく、自分がひそかに噂されていないか気にし、恥をかかないように表面的には良い態度を保つよう努めます。しかし、神経が過敏で、警戒心が強く、周囲の危険性について過度に気にしすぎると、周囲とのズレが生じ、思うように事が運ばないことが不快感を増幅し、再びヒステリー発作を引き起こすという悪循環に陥ります。

参考文献
Etienne Trillat:(安田一郎 訳、横倉れい 訳)「ヒステリーの歴史』青土社 1998年
シャーンドル・フェレンツィ:『臨床日記』(訳 森茂起)みすず書房

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-07-26
論考 井上陽平

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