体が固まって動けない日々へ|複雑性PTSDのフリーズと生活への影響

この文章では、トラウマが引き起こす「凍りつき」反応について扱います。
凍りつき(フリーズ)とは、過去のトラウマや恐怖体験によって、危険な状況に直面したときに、身体と心が動けなくなる状態のことです。

通常、人は危険を感じると、防衛的反応が働きます。筋肉は緊張し、視野が絞られ、すぐに行動を起こします。
ところが複雑なトラウマを経験している場合、過去の傷が影響し、こうした防衛行動が取りづらくなり、凍りついたように動けなくなることがあります。

その結果、無力感に襲われ、何もできず、危険な状況から逃げることもできなくなってしまいます。
これは怠けでも性格の問題でもなく、トラウマによって引き起こされる自然な防衛メカニズムであり、適切なケアが必要です。


身体を凍りつかせている人は:生活の中で何が起きているか

身体を凍りつかせている人の内側には、「人から傷つけられるかもしれない」という恐怖が常につきまとっています。
この恐怖は、はっきり意識できない形で存在し、日常の判断や対人場面を静かに支配していきます。

そのため警戒心が過剰になり、自己防衛のために慎重になります。人が怖くて、他人の意見や評価が気になり、空気を読みすぎてしまうことがあります。

また、小さい頃から凍りつき状態で生活していた人は、「真面目にしなければいけない」と思い込んで、いい子を演じたり、必死に生きていたかもしれません。
真面目さや努力が「自分を守る鎧」になってきた人ほど、鎧を脱ぐことが、危険のように感じられるのです。

このような人たちは将来への不安が強く、不安定で落ち着かない状態で生活することが多いです。さらに、うまくできない自分を責め、自分に厳しくなることが多く、自己評価が低くなってしまいます。


外界の刺激への弱さ:音・気配・空気に反応して固まる

身体が凍りついている状態で生活している人は、外界の刺激に弱くなっています。
強い刺激や嫌悪刺激に曝されると、無意識のうちに危険を感じて筋肉が硬直します。

凍りつきの人は過剰な警戒心から、人の気配や音に耳を澄まして、じっと動きません。
これは「何もしていない」のではなく、危険を察知するために全神経を張り詰めている状態です。

その結果、過去のトラウマや怖い体験を思い出し、強い不安感やパニック症状を引き起こすこともあります。
生活の中でこの反応が頻発すると、家から出る、電車に乗る、職場に行く、集団に入る、といった当たり前の行為が、どれも「試練」に変わっていきます。


凍りついている人の脳の働き:守るために“止める”

身体が凍りつくと、脳は自己保護のために緊急時の対応を開始します。
可能性のある危険を想定し、防御的な姿勢をとります。

しかし、身体が凍りついた状態が続くと、脳は外界からの刺激に対して過剰反応を起こす可能性があります。
強い刺激や嫌悪刺激に反応して、筋肉が硬直から崩壊してしまうことがあります。

この状態では、脳はさまざまな情報を処理し、自分を守るために行動を起こすための情報を収集し続けます。
ただし、自分を脅かす対象の前では、本音や感情を出すことができず、不安や恐怖に囚われ、自己防衛のために感情を抑圧してしまいます。

つまりフリーズとは「止まっている」のではなく、守るために全力で回っている神経系が、結果として身体を停止させている状態だといえます。


凍りついている人の身体の動き:動けなさの具体像

凍りついた状態にある人は、不安定で揺らぎの多い人生を送ることになります。
恐怖や不安が高まるとパニック状態に陥ることがあります。

また、頭がぼんやりとしてきたり、全身倦怠感を伴うことが多く、四肢末端の感覚が鈍麻となり、手先や足先に力が入らなくなることがあります。
身体感覚が麻痺すると、外界の刺激に対して反射的な動きが取りにくくなり、身体機能が低下するため、動作が鈍くなってしまいます。

それでも日常生活では「凍りついた身体を動かさなければならない」という意思が働きます。
そのため、凍りついた身体に自分で暗示をかけたり、おまじないのように言葉を発したりして、心身の安定を図ることがあります。

この方法によって身体の機能を再度稼働させ、あたかも正常に戻ったようなふりをして生活することができます。
しかし、これは一時的な対処方法に過ぎず、根本的な解決にはなりません。


フリーズ生活が引き起こす身体症状

凍りつき状態に陥っている人は常に緊張しているため、身体からさまざまな症状が現れます。
具体的には、不眠、不安、うつ病、自律神経失調症、頭痛、胃腸の不調、肩こり、腰痛などです。

また緊張しているために、過剰に体を動かしたり、手足を震わせたりすることがあります。
この状態で生活し続けることで人生の自由度が制限され、人間関係や社会生活に影響を与えることがあります。


凍りついている人の心の働き:孤立と自己防衛が強まる

身体が凍りつくと、身体的な症状のみならず心理的な問題も生じます。
集団での会話やパーティーなどで緊張が高まり凍りついてしまう人は、孤立感や孤独感を感じることがあります。

社交不安障害を患っている人は、常に凍りついているような状態で社交場面を避けるようになり、孤立してしまうことがあります。
さらに精神的ストレスが蓄積され、うつ病や不眠症などの精神的問題にもつながることがあります。

凍りつきの状態に陥る人は、社交的な状況やプレッシャーの高い状況でのストレスに敏感に反応します。
そのような場面では自分の本音を出すことができず、自分を守るために防御的な態度をとってしまいます。

凍りついた状態から抜け出すことは容易ではありません。
恥ずかしさや、「自分がそんなに弱いと思われるのではないか」という恐怖心が加わり、それ自体がさらなるプレッシャーになります。


凍りつきが慢性化していくと:世界が狭まり、自分が分からなくなる

脅かされる環境にいる人が凍りつき状態に陥ると、この世界に対する注意が狭まり、感情が無くなっていき、自己とのつながりが薄れ、自分自身がよく分からなくなってしまいます。

凍りつき状態は、ストレスの原因によって身体が戦うか逃げるかという強いエネルギーを抑制しているため、心身共に極度に疲れがたまります。
常に緊張しているため体力が消耗し、長引くと慢性的な疲労感が生じることがあります。

この状態が続くと体力や気力が徐々に枯渇し、最終的には無気力な状態に陥ります。
生きること自体が苦痛に感じられ、欲求も減退して食欲不振に陥ることがあります。

また凍りつき状態は受け身的な防衛反応であるため、人間関係に対して不信感を持つようになり、外出が怖くなって引きこもりがちになることもあります。

身体が凍りついている状態は慢性化していくと心身の状態が悪化する可能性があります。
だからこそ身体が疲れ果てている場合、適切な休息が必要となります。

しかし、自分の居場所が見つからない場合、無理をし続けることになり病気になってしまうことがあります。
身体が凍りついている人は、自分の身体のサインに早く気づいて、心身のケアを最優先に考えることが大切です。


トラウマの凍りつきをケアする:回復の現実的ステップ

凍りつき状態は複雑なトラウマがもたらす防衛反応として現れ、心身に大きな負担をかけます。
長期にわたってこの状態が続くと、心理的ストレスだけでなく身体的健康にも悪影響を及ぼすことがあります。

凍りつき状態から脱するには、まず自分自身が凍りついていることに気づくことが大切です。
自己観察をして身体に起きている変化や感情を感じることが重要です。

そして自分自身に正直になり、自分の感情や思考に向き合うことが必要です。
ただし、ここで重要なのは「急がない」ことです。フリーズのケアは順序が崩れると悪化しやすく、回復の土台は安全の獲得にあります。


抑圧された感情は、フリーズ解除とともに浮上する

凍りついた心と体を解放するための次のステップは、多くの場合、トラウマによって抑圧された感情が、フリーズ状態が解除される際に徐々に浮上してくることです。

この過程は非常にデリケートで、時には強い不安や苦痛を伴いますが、感情を解放することが不可欠です。
この段階では感情を言語化し、感覚的に認識することが重要です。

トラウマが引き起こす心身のフリーズは、自分自身の感覚から切り離されることで生じます。
心が安全と感じられる空間で感情を丁寧に探り、その背後にある記憶や経験に気づくことで、抑圧されていたエネルギーを解放することができます。

「解離とは何か?原因・症状・治し方を専門家がわかりやすく解説」
https://trauma-free.com/dis/


身体の感覚へ戻る

このプロセスでは身体の感覚に注意を払うことも重要です。
心のフリーズだけでなく、体の硬直や感覚麻痺がトラウマによって生じることがあります。

たとえば体をほぐすための身体セラピーやマッサージ、またはゆったりとした動きを取り入れるヨガや太極拳などが役立つことがあります。
体を動かすことは心と体のバランスを取り戻し、凍りついた状態から徐々に解放されるプロセスをサポートします。

「迷走神経反射になりやすい人の特徴と背側迷走神経の関係」
https://trauma-free.com/vagus-nerve/


社会とのつながりを、回復の一部として取り戻す

この時点で、トラウマを抱えた人々が再び社会とのつながりを構築することも重要です。
長期間のフリーズ状態にあると、他者との交流が困難になり孤立感が深まる傾向があります。

新しい人間関係を築くことや、安心できる環境で徐々に他者とつながりを持つことは回復の一部となります。
対人が怖い人ほど、いきなり大きな場へ戻るのではなく、「安全が確保された小さな接点」から再接続していくことが鍵になります。


回復の土台は「安全の獲得」

フリーズから抜けるために最重要なのは、「動けるようになるための努力」を積み上げることではありません。
身体が安全を学べないまま努力を増やすと、凍りつきはより強固な防衛として固定化することがあります。

だから回復の最優先は、安全の獲得です。
ここでいう安全は、感情論ではなく、神経系が「今は危険ではない」と判断できる現実的条件です。


① 環境の安全(刺激・予測可能性)

凍りつきの人は刺激に弱く、音・気配・嫌悪刺激で筋肉が硬直しやすいという前提があります。
この前提を無視して「慣れろ」「外へ出ろ」と進めると、むしろ悪化します。

刺激をゼロにするのではなく、減らせる刺激を減らし、予測可能性を増やすこと。
休息の場所を決める、予定を詰めない、負荷の見積もりをする。これは小さく見えて、回復の根幹です。


② 関係の安全(評価・支配・急かしから距離を取る)

凍りつきが強い人ほど、他人の評価が気になり、空気を読みすぎ、いい子を演じやすいです。
この努力は「生き延びる技術」でした。

ただ、回復では「急かされる関係」「批判や支配が混ざる関係」から距離を取る必要があります。
距離を取る、連絡頻度を落とす、話題を限定する、関係のルールを決める。これらは弱さではなく、安全の設計です。


③ 内的安全(凍っても戻れる手順を持つ)

凍りつきが恥や自己否定と結びつくと慢性化しやすくなります。
「また凍った」「自分はだめだ」と叩き始めると、脳はさらに危険として処理し、フリーズを強化します。

内的安全とは、凍りつきが出たときに状況を悪化させず戻る手順を持つことです。
自己観察、休息、身体感覚の回復。この“戻り方”があるほど、フリーズは「終わり」ではなく「途中の反応」に変わっていきます。

「安全を土台にしたトラウマ克服のプロセス」
https://trauma-free.com/treatment/recovery/


まとめ:フリーズは生存反応であり、回復は安全から始まる

複雑性PTSDにおける凍りつき(フリーズ)反応は、危険に直面したとき身体と心が動けなくなる自然な防衛メカニズムです。
過剰な警戒、刺激過敏、自己否定、感情抑圧は、あなたを壊すためではなく、生存のために作動してきた反応です。

しかしフリーズが慢性化すると、疲弊・無気力・孤立・引きこもりへと進む可能性があります。
だから必要なのは、努力を増やすことではなく、回復の順序を守ることです。

凍りつきからの回復は、自己観察、感情の言語化と認識、身体へのアプローチ、社会との再接続で進みます。
そして最重要の土台は、安全の獲得です。

安全と信頼を確立しながら、個々のペースで凍りつきをほどいていくことで、心と体は再び調和を取り戻していきます。

STORES 予約 から予約する

【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
新刊『かくれトラウマ - 生きづらさはどこで生まれたのか -』
2026/2/26発売|Amazonで予約受付中
過緊張や生きづらさは、あなたのせいではなく、育った環境や親子関係の中で身についた生存の反応として残ることがあります。
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。