自己愛性パーソナリティ障害の子どもの特徴とトラウマの影――情緒障害児の内面を「危険信号に敏感な神経系」から読み解く

自己愛性パーソナリティ障害(NPD)は、大人の人格の問題として語られることが多いテーマですが、その土台は乳児期から児童期にかけての発達過程の中で、ゆっくりと形づくられていきます。
極端な自己愛、他者への共感の乏しさ、批判に対する過敏さ、他者より上に立とうとする態度――。こうした特徴だけを見ると、「わがまま」「自己中心」「育て方の問題」といった単純な言葉で片づけられてしまいがちです。

しかし、その根底には、多くの場合、幼少期から続いてきた不安定な家庭環境や、子どもの神経系に大きな負担をかけてきたトラウマ体験が存在します。表面に現れているのは「問題行動」でも、その内側では、常に危険を探し続ける神経系と、傷つきやすい自尊心が、なんとか日常生活を乗り切ろうと働いているのです。

ここでは、自己愛性パーソナリティ障害の特徴を持つ子どもたちの内面を、「トラウマ」と「自律神経」の視点から丁寧にたどりながら、その行動の背景にある心の動きと、支援のポイントを詳しく解説していきます。

 

賞賛を渇望する心の背景

――「特別でなければ存在できない」という感覚

自己愛性パーソナリティ障害の形成には、幼少期の逆境体験やトラウマが深く関わっています。乳児期や幼児期に、次のような経験が重なると、子どもの内面には「そのままの自分では不十分だ」という感覚が深く刻まれていきます。

・愛情が安定して届かない
・親の機嫌によって態度が大きく変わる
・過干渉や過保護で、常に管理されている
・厳しい批判や比較、人格否定的な言葉が続く
・暴力や怒鳴り声、威圧的な態度が日常化している

こうした環境の中で育つと、子どもは「自然な感情や欲求を出しても安全ではない」と学習します。本音を出すことは、怒りや拒絶、失望を招く危険な行為になります。その結果、子どもは「親にとって望ましい自分」「評価される自分」を優先して生きるようになります。

やがて、子どもは自分の価値を内側で感じることが難しくなり、成績、能力、見た目、役割、成果といった“わかりやすい評価”だけを頼りに自尊心を支えようとします。
この過程で、

「優秀であること」
「役に立つこと」
「中心であること」

が、自分の存在を支える条件になっていきます。

そのため、他者からの賞賛や承認が得られる場面では、一時的に安心感が高まりますが、それが途切れると、すぐに不安や虚しさが戻ってきます。自尊心が安定せず、「ほめられているあいだだけ保たれる」状態が習慣化していくと、自己愛性パーソナリティ障害の特徴である「賞賛への強い依存」「批判への過敏さ」が、目立つようになっていきます。

 

厳しい家庭環境で育った子どもが学校で直面する現実

暴力や怒鳴り声、理不尽な叱責、過度な期待、無視や放置などが日常的にある家庭で育つと、子どもは常に緊張を解けないまま生活することになります。
そのような子どもたちにとって、幼稚園、保育園、小学校などは、家庭のストレスから一時的に離れられる場として感じられることもありますが、一方で「集団生活」という新たな難しさに直面する場所でもあります。

家庭の中では、親の機嫌を読む、怒られないように振る舞う、空気を察して動く、といった行動が生き延びるための重要なスキルになります。しかし、学校生活では、それが必ずしも適切に機能するとは限りません。

例えば、
・家では「良い子」でいることで身を守ってきた子が、学校でも常に周囲の顔色をうかがい、必要以上に控えめになってしまう。
・逆に、緊張が限界を超えたとき、衝動的な行動や乱暴な言動として一気に噴き出してしまう。

こうした反応は、単なる「性格」ではなく、長期にわたるストレスの中で形づくられた「生き残るための適応パターン」です。

自己愛的な特徴を持つ子どもの場合、学校という場は、自分の価値を確かめる舞台にもなります。
・勉強ができる
・運動が得意
・友達が多い
・目立つ役割を任される

といった要素は、家庭で安定した承認が得られない子どもにとって、非常に強力な「代わりの安全源」になります。
しかし同時に、そこから外れた瞬間に、自尊心は急激に揺らぎます。失敗、評価の低下、友人関係のトラブル、からかい、いじめ――。こうした出来事は、他の子ども以上に大きな打撃となり、激しい怒りや落ち込み、反抗、登校しぶりなどにつながります。

 

「良い子」として身につけた防衛と、その限界

家庭で愛情不足や不安定な関わり、虐待を経験している子どもたちは、多くの場合、「良い子」でいることで身を守る術を身につけています。
怒られないようにする、役に立とうとする、空気を読み過ぎる、迷惑をかけないようにする――。

一見すると「手がかからない良い子」に見えることも多いですが、その内側では、不安や怒り、悲しみが処理されずに蓄積されています。

学校という新しい環境に入ると、これまで身につけてきた「良い子としてのふるまい」が通用しない場面が増えます。友達との間では、言いたいことを言わないと伝わらないことも多く、自己主張できないことで誤解を招くこともあります。

一方で、自己愛的な特徴を持つ子どもの中には、「良い子」でい続けることに限界を感じ、
・目立つことで存在を確かめる
・周囲を見下すことで劣等感から逃れようとする
・中心にいることで不安を紛らわせる

といった、より攻撃的・優位的なふるまいへと移行していくケースもあります。

どちらの場合でも、共通しているのは「本当の感情を出すことが怖い」という点です。
自分の弱さや不安を見せることで、再び傷つけられることを恐れているため、評価されやすい役割や態度に頼らざるを得ないのです。

 

トラウマを抱えた子どもの神経システムと行動

トラウマ経験を持つ子どもの行動や感情は、自律神経系の働きと密接に関係しています。ポリヴェーガル理論で説明されるように、特に重要なのが「腹側迷走神経」と「交感神経」です。

腹側迷走神経が優位な状態では、子どもは心身ともに落ち着いており、安心感を持って周囲と関わることができます。この状態では、他者への共感や思いやりが自然に働き、対人関係も比較的安定しやすくなります。

一方、交感神経が優位になると、心身は活動モードに入り、エネルギーに満ち、興味や関心のあることに集中しやすくなります。本来であれば、学習や遊び、運動などに向けられる健全なエネルギーですが、過度になると、落ち着きのなさ、衝動性、攻撃性として現れます。

さらに、子どもが危険や脅威を感じた場合、神経系は瞬時に「防衛モード」に切り替わります。
・周囲の表情や声に過敏になる
・特定の人物や場面に対して強い警戒心を抱く
・過去の恐怖体験の記憶がよみがえり、現在の状況と結びつく

こうした反応は、子どもが「今ここ」で感じている不安と、過去のトラウマ記憶が結びついて起きているものであり、単なるわがままや反抗ではありません。

自己愛性パーソナリティ障害の特徴を持つ子どもの場合、この「防衛モード」が、
・相手を攻撃する
・相手を見下す
・自分の正しさを強く主張する
・謝ることを極端に拒む

といった行動として現れやすくなります。
表面的には威圧的に見えても、その奥には、「自分が間違っていると認めると、すべてが崩れてしまうかもしれない」という、極めて強い不安が潜んでいるのです。

 

トラウマと自己愛的なふるまいの悪循環

トラウマは、心と体のバランスを大きく崩し、自律神経の調整機能を乱します。
落ち着いている時間が短くなり、過度な興奮と無気力が交互に訪れるようになります。

このような状態では、次のようなことが起こりやすくなります。

・小さな失敗でも極端に落ち込む
・イライラが抑えられず、攻撃的な言動に出る
・身体症状(頭痛、腹痛、吐き気、倦怠感)が増える
・対人関係でトラブルが続き、「自分はダメだ」という感覚が強まる

失敗体験が重なるほど自己評価は低下し、「どうせうまくいかない」「自分は価値がない」という物語が心の中で強まっていきます。

それを打ち消すために、子どもはますます「特別な自分」を演じようとします。
・中心に立ち続ける
・人より優れていることを証明しようとする
・負けを認めない
・謝罪や譲歩を拒む

こうして、「内側の劣等感」と「外側の誇示」という、自己愛性パーソナリティ障害に特徴的な二重構造が固定化していきます。

 

虐待を受けた子どもたちが抱える羨望と怒り

虐待やネグレクト、機能不全家庭で育った子どもたちは、同級生の「普通の家庭の話」を聞くたびに、言葉にならない痛みを感じることがあります。
家族旅行、誕生日の思い出、両親との何気ない会話。
こうしたエピソードは、本来であれば微笑ましい日常の一コマですが、過酷な家庭環境で育った子どもにとっては、「自分にはなかったもの」を突きつけられる体験にもなります。

そのとき心の中には、

・うらやましさ
・自分だけが損をしているという感覚
・どうして自分だけこうなのかという怒り
・誰にも理解されない孤立感

が入り混じった、複雑な感情が生まれます。

理解されない痛みが続くと、「誰もわかってくれない」「自分だけが被害者だ」という意識が強まり、防衛的な被害者意識として固定化していくことがあります。

その結果、
・他人の幸せを素直に喜べない
・成功している人を見ると、妬みや怒りが湧く
・自分より弱い立場の人に対して、攻撃的になってしまう

といった行動が生まれます。
これは、心の中に蓄積された痛みが行き場を失い、「自分を守るための攻撃」として外に向かってしまっている状態だと言えます。

 

子どもの自己愛的な態度の裏側にある不安と孤独

小児期に、家庭環境の厳しさや自分の限界を強く意識させられた子どもは、孤独や不安を抱えながら成長していきます。その中で、「認められること」「必要とされること」が、自分を支える重要な支柱になっていきます。

グループの中心に立ちたい、リーダーとして振る舞いたい、努力を周囲にわかってほしい――。
こうした願望は、一見すると自己中心的に見えるかもしれませんが、その内側には、

・見捨てられたくない
・価値のない存在だと思われたくない
・誰かに必要とされていたい

という切実な思いが隠れています。

彼らは、周囲からの評価や視線に非常に敏感です。
認められていると感じるときは安心できますが、少しでも否定されたと感じると、心は大きく揺れ動きます。

・不機嫌になる
・攻撃的になる
・急に距離を取る
・自分を過度に責める

といった形で、その揺れが表面化します。

このような心の動きは、その子の歴史と結びついたものであり、単に「プライドが高い」「わがまま」という言葉では説明しきれません。
「認められたい」という強い欲求の背後にある不安や孤独を理解することが、支援の第一歩になります。

 

遊びや集団活動の中で現れる自己愛的特徴

自己愛性パーソナリティ障害の特徴を持つ子どもたちの傾向は、遊びや運動、グループ活動の中で特にわかりやすく現れます。

・自分の意見やルールを優先しようとする
・ゲームのルールを自分に有利になるように変えたがる
・自分が注目されないと機嫌が悪くなる
・他の子のミスを責め立てる
・チームよりも自分の活躍を優先する

例えば、サッカーの試合でボールを独占しようとしたり、パスを出さずに自分でゴールしようとすることがあります。このときその子にとって大切なのは、「チームとして勝つこと」以上に、「自分が活躍したという感覚」と「周囲からの評価」です。

また、学級内の係や委員決めの場面でも、自分が目立つ役割を取りたがる一方で、責任を問われたり批判されたりすると、急に反発したり、投げ出したりすることもあります。
ここでも、「特別でありたい」という願望と、「責められることへの強い恐怖」が、同時に働いているのです。

 

ストレス環境で育つ子どもの攻撃性と、その影響

ストレスの多い家庭環境で育つと、子どもの心の中には、不平、不満、恨み、虚しさなどの感情が少しずつ蓄積されていきます。これらの感情は、十分に理解されたり、言葉にされたりする機会がないまま放置されていると、やがて行動として噴き出すことがあります。

自己愛性パーソナリティ障害の特徴を持つ子どもの場合、自分を守るために、他者への攻撃という形でそれが表れることがあります。

・自分より弱い立場の子を標的にする
・繰り返しからかう、ばかにする
・相手の弱点を指摘して優位に立とうとする

このような行動は、相手を傷つけるだけでなく、

・いじめられる側の子どもの自己肯定感を奪う
・学校生活を恐怖と不安の場に変えてしまう
・クラス全体の信頼関係を壊す

といった深刻な影響を及ぼします。

いじめの標的になった子どもは、

・人の視線が怖くなる
・表情が乏しくなる
・常に警戒している
・うつ状態や解離症状を呈する

など、心身両面にわたる強いダメージを受けることがあります。

その一方で、攻撃する側の子どもも、根本的な不安や空虚感が解消されないまま、行動だけがエスカレートしていくという悪循環に陥ります。
この悪循環を断ち切るためには、加害と被害のどちらか片方だけを見るのではなく、「両者ともに支援が必要な子どもである」という視点が欠かせません。

 

中学生以降に見られる自己認識の変化と自己愛的ゆらぎ

中学生になると、子どもたちは自分をより客観的に見る力を持ち始めます。同時に、他者の視線や評価を強く意識するようになります。

この時期になると、幼少期から続いてきた自己愛的な特徴が、少し形を変えて現れてきます。

・「怖がり方」「感情表現」が周囲から浮いてしまうことへの自覚
・クラスの中で自分がどう見られているかを強く気にする
・周囲の「人気グループ」と「そうでないグループ」を意識して行動する

病的な自己愛の傾向が強い子どもは、自分の立ち位置を「いけている」「いけていない」といった単純な基準で判断し、それに合わせて人間関係を作ろうとします。

その結果、「いけていない」と位置づけられた側にいる子どもたちは、自己肯定感を失いやすくなり、
・深い人間関係を避ける
・恋愛や親密な関係を怖がる
・現実の対人関係から距離を置き、空想の世界に逃げ込む

といった行動が増えていきます。

空想の中では、自分は特別な存在として扱われ、現実世界で感じている劣等感や孤立感から一時的に離れることができます。しかし、その時間が長くなればなるほど、現実とのつながりは弱まり、回避や解離の傾向が強まっていくことになります。

 

人気グループに属する子どもたちの内面と承認欲求

中学・高校時代に、いわゆる「いけているグループ」に属する子どもたちは、周囲から見ると順調で、人生を楽しんでいるように映ります。しかし、自己愛傾向が強い場合、その背景には「承認への強い依存」が隠れていることがあります。

・異性からの注目
・SNSでの反応
・容姿やファッションへの評価
・運動能力や学力での優位性

こうした要素が、そのまま「自分の価値」と結びついていると、少しでもそれが揺らいだとき、強い不安が生じます。

その不安を避けるために、

・周囲に対して強引な態度を取る
・上から目線で関わる
・相手をコントロールしようとする

といったふるまいが出てくることがあります。

しかしどれだけ外側を取り繕っても、幼少期から蓄積された傷つきやすさや孤独感が消えるわけではありません。
そのため、彼らは常に新しい承認を求め続けることになります。
承認が得られないとき、自分の内側にある不安や自己否定感が前面に出てくるため、それを避けようとして、さらに外側の評価に依存する――。

こうした構造が、自己愛性パーソナリティ障害の心理と重なっていきます。

 

支援の視点――「行動」だけでなく「背景」を見る

自己愛性パーソナリティ障害の特徴を持つ子どもたちの行動は、ときに周囲を深く傷つけます。そのため、どうしても「問題行動をやめさせること」に意識が向きやすくなります。

しかし、行動だけに焦点を当てて叱責や制裁を繰り返しても、子どもの内側にある不安やトラウマは弱まりません。むしろ、「理解されない」「否定された」という感覚が強まり、防衛としての自己愛的ふるまいはいっそう硬くなっていきます。

支援の出発点は、
・この子はなぜ、こうせざるを得ないのか
・この行動の裏で、どんな不安や孤独が働いているのか
・この子が安全だと感じる経験が、どれだけ少なかったのか

といった視点から、行動の背景に目を向けることです。

そのうえで、
・境界は明確に伝える(暴力やいじめは許されない)
・しかし、存在そのものは否定しない
・安全な関係の中で、ゆっくりと感情や本音を扱っていく

という二本立ての姿勢が重要になります。

 

おわりに――「特別でなくても、ここにいてよい」という感覚を取り戻す

自己愛性パーソナリティ障害の特徴を持つ子どもたちは、一見すると強く見えたり、わがままに見えたりしますが、その内側には、「そのままの自分では受け入れてもらえないかもしれない」という深い不安があります。

だからこそ、
・特別でなければならない
・優れていなければ価値がない
・負けること、失敗することは許されない

という硬いルールに縛られてしまいます。

支援者や親、教師、周囲の大人たちができることは、「行動の善悪」だけで判断せず、その背後にある歴史と心の動きに目を向けることです。
そして、時間をかけて、

「失敗しても、ここにいていい」
「特別でなくても、あなたには価値がある」
「あなたのしんどさは、理解されるべきものだ」

というメッセージを、言葉と関わりで繰り返し伝えていくことです。

自己愛的な防衛の中で生きてきた子どもが、少しずつそれを緩め、他者と対等な関係を築けるようになるまでには、長い時間がかかります。しかし、背景にあるトラウマと神経系の働きを理解したうえで関わることで、その過程を支え、子ども自身が「特別であること」に縛られず、「ありのままの自分」で生きていく力を取り戻していくことができます。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-12-23
論考 井上陽平

【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造

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