依存症はなぜやめられない?アルコール・薬物・ギャンブルとトラウマの関係

依存症の特徴 強迫・依存・その他

仕事が終わり、ようやく一人になれた夜。何か嫌な出来事があったわけでもないのに、胸の奥がざわつき、じっとしていられなくなることがあります。頭の中では過去の失敗や人から言われた言葉が繰り返され、身体は疲れているのに緊張が抜けない。そんなとき、酒を飲むと少しだけ気持ちが緩み、ようやく息ができるように感じられることがあります。

ギャンブルに没頭している間は、勝つか負けるかだけに意識が向き、普段の不安や空虚さを忘れられる。薬物によって感覚が変わると、自分を責め続ける声や、耐えがたい現実から一時的に離れられる場合もあります。

その瞬間だけは楽になるため、また同じものを求めたくなります。

しかし、翌朝には身体のだるさや後悔が残り、使ってしまったお金、守れなかった約束、周囲に隠していることへの罪悪感が重なります。「もうやめよう」と何度も決意しているのに、苦しくなると再び同じ行動へ向かってしまう。

依存症がやめられなくなる背景には、アルコールや薬物、ギャンブルによって生じる強い報酬や習慣化の仕組みがあります。それに加えて、トラウマや慢性的なストレスを抱えている場合には、依存行動が心の苦痛を和らげるための対処法になっていることがあります。

身体の緊張を落としたい。頭の中を静かにしたい。孤独を忘れたい。自分がここにいる感覚を取り戻したい。

そうした願いが、飲酒や薬物使用、ギャンブル、過食、買い物、恋愛、性行動などへの強い没頭として現れる場合があります。

ただし、これらの行動がすべて医学的な依存症に当たるわけではありません。また、依存症には物質の作用、遺伝的な要因、生活環境なども関わり、トラウマだけで発症を説明できるものではありません。

依存を理解するうえで重要なのは、何に依存しているかだけでなく、その人が苦しくなったとき、なぜその行動を必要とするようになったのかという点です。

依存症はなぜやめられないのか|脳の報酬と苦痛からの逃避

依存症では、飲酒や薬物使用、ギャンブルなどを繰り返すうちに、行動を自分でコントロールすることが難しくなります。

最初は気分転換のつもりだった飲酒が、やがて毎晩欠かせない習慣になる。少しだけ遊ぶつもりで始めたギャンブルに何時間も費やし、生活費まで使ってしまう。薬物をやめようとしても、強い欲求や身体の不快感が生じ、再び使用してしまうことがあります。

厚生労働省は、依存症について、アルコールや薬物、ギャンブルなどにのめり込み、やめたくてもやめられない状態が続き、心身や生活に問題が生じる病気として説明しています。

その背景には、報酬を学習する脳の働きや、繰り返される行動の習慣化が関わっています。

アルコールや薬物によって気分が変わる、ギャンブルで勝って強い興奮を得る。そうした体験が繰り返されると、関連する場所や時間、音、感情などが、その行動を求める手がかりになっていきます。

もう一つ重要なのが、不快な状態から逃れようとする働きです。

例えば、強い不安を感じているときに酒を飲み、その不安が一時的に軽くなったとします。すると、次に同じような不安が生じたときにも、酒を求めやすくなります。

心理学では、不快な状態が軽減されることで行動が繰り返されやすくなる仕組みを、**負の強化(negative reinforcement)**と呼びます。

依存行動は、気持ちよさを求めるためだけに続くものではありません。飲まなければ不安が収まらない、賭けている間だけ嫌なことを忘れられる、薬を使わなければ身体や気持ちがつらいという状態が、行動を維持する場合があります。

依存が深まるにつれて、最初は快楽や安堵をもたらしていたものが、今度はそれがないこと自体を苦痛にするようになります。

こうなると、「やめた方がよい」と理解しているだけでは、行動を変えることが難しくなります。

トラウマと依存症の関係|心の痛みを麻痺させるための行動

トラウマを抱える人は、過去の出来事を思い出しているときだけ苦しくなるわけではありません。

何気ない会話や人の視線、誰かの沈黙、夜の静けさ、身体の疲れなどをきっかけに、理由の分からない不安や焦りが生じることがあります。

仕事中に上司から注意され、その場では平静に対応できたとしても、帰宅後に急に胸が苦しくなる。恋人からの返信が遅れただけで、見捨てられたような感覚が強まる。人と楽しく過ごした日の夜に、突然、自分が誰ともつながっていないような孤独を感じることもあります。

こうした感情や身体反応を、自分ではどう扱えばよいのか分からない場合があります。

誰かに話しても理解されないかもしれない。相談するほどのことではない。自分の弱さを知られたくない。そう考えているうちに、苦しさを一人で抱え込むようになります。

そこで、感覚をすばやく変えてくれるものに頼ることがあります。

アルコールを飲むと、緊張していた身体が少し緩む。薬物によって感覚が変化すると、耐えがたい感情から距離を取れる。ギャンブルに集中している間は、過去の記憶や自己否定から注意が離れる。

本人にとって、それらは苦しい時間をしのぐための方法だったのかもしれません。

ただし、トラウマと依存症の関係は一方向ではありません。アルコールや薬物の使用によって判断力が低下し、事故や暴力などの危険にさらされることもあります。また、依存による生活上の問題が、新たなストレスやトラウマにつながる場合もあります。

米国退役軍人省のNational Center for PTSDは、PTSDとアルコール・薬物使用の問題が併存しやすく、苦しい感情や身体症状を和らげようとすることが物質使用につながる場合があると説明しています。

そのため、依存行動だけを問題にして過去の傷つきを扱わなかったり、逆にトラウマだけを扱って依存症への治療を後回しにしたりすると、十分な改善につながりにくい場合があります。

空虚感と孤独|何かで心を満たし続けたくなる理由

幼少期から、自分の居場所を探し続けてきた人は、大人になってからも深い空虚感を抱えることがあります。

家の中にいても安心できず、学校でも周囲に合わせ、人と一緒にいるときには相手の期待を優先してきた。自分が何を感じ、何を望んでいるのかを考えるより、相手にどう振る舞えばよいかを考えてきたのかもしれません。

そうした生活が長く続くと、自分自身の感覚が曖昧になることがあります。

人と話していても、自分の言葉がどこか空っぽに感じられる。周囲から褒められても、自分が認められた実感が持てない。楽しい時間を過ごした後には、急に胸の奥が冷えていく。

空虚感は、単に退屈していることとは違います。

何をしても満たされず、誰かと一緒にいても孤独が消えない。仕事で成果を出しても、自分の存在に確かな手応えを持てない。何かを達成するたび、次は何をすればよいのか分からなくなる。

そのような感覚を抱えていると、人は外側に、自分を満たしてくれるものを求めることがあります。

酒に酔っている間だけ、感情が動く。誰かに求められている間だけ、自分には価値があるように感じる。買い物をしているときには、自分の人生を自分で動かしている実感が生まれる。

ギャンブルで勝った瞬間には、普段の無力感とは反対の、強い高揚感が得られる場合もあります。

しかし、そうした刺激が終わると、以前から抱えていた空虚さが再び現れます。

それまで感じられていた満足感が急に失われ、もう一度同じ刺激を求めたくなる。依存行動が、満たされない感覚を埋めるために繰り返されることがあるのです。

絶望と混乱の底で起きていること|複雑性トラウマとブラックホールのような虚無感では、過去の恐怖や孤独が浮かび上がったとき、心身が深い虚無感へ引き込まれていく体験を詳しく扱っています。

幼少期の家庭環境が、依存への対処法を形づくる

幼少期に不安定な家庭環境で育った人は、苦しい感情をどのように扱えばよいのかを、十分に学ぶ機会がなかった場合があります。

親が怒れば、黙って耐えるしかない。悲しいときに泣くと責められる。助けを求めても受け止めてもらえない。家庭の中に安心できる大人がおらず、自分で何とかすることを求められてきた。

そのような環境では、子どもは感情を表現するより、感情を抑えることによって生活を保とうとします。

さらに、親自身が酒や薬物に頼っている家庭では、苦しさを感じたときに物質を使用する姿を、子どもが日常的に目にしている場合があります。

仕事で嫌なことがあると親が酒を飲む。酔った親が怒鳴り、家庭の空気が荒れる。翌日には何事もなかったように振る舞い、家族の中でその出来事を話し合うこともない。

子どもは、親の行動を見ながら、苦しい感情をどう扱うかについて学んでいくことがあります。

Gouldら(2025)は、ロサンゼルスで注射薬物を使用していた成人30人にインタビューを行い、幼少期の家庭環境や喪失体験が、その後の薬物使用とどのように関わっているかを調べました。

参加者の語りには、家族が薬物を使用する姿を幼い頃から見ていたこと、身近な人の死や家庭内の混乱を経験したこと、そして苦しさをしのぐ方法として物質使用を学んでいったことが含まれていました。

また、心理的な支援や経済的な資源が不足し、別の対処法を十分に得られなかった経験も語られています。

この研究は特定の薬物使用者を対象としたもので、依存症になる人すべてに同じ経過が当てはまるわけではありません。それでも、依存行動が本人の意思や性格だけで生まれるのではなく、家庭の中で見てきた対処法や、成長過程で得られた支援によっても形づくられることを示しています。

機能不全家庭で育った人の生存戦略|神経が覚えた適応のかたちでは、子ども時代の恐怖や過剰適応が、大人になってからの感情調整や人間関係に残る過程を扱っています。

アルコール依存症|飲まなければ眠れない、落ち着かない

アルコールは、緊張や不安を一時的に和らげるため、トラウマを抱える人にとって頼りやすいものになることがあります。

仕事中は周囲に気を遣い、相手の機嫌を読み、失敗しないように緊張している。帰宅しても身体の力が抜けず、頭の中ではその日の会話が繰り返される。

そんなとき酒を飲むと、ようやく気持ちが緩むように感じられることがあります。

また、眠ろうとすると過去の出来事を思い出したり、不安が強まったりする人は、眠るために飲酒することがあります。

最初は少量で眠れていたのに、次第に酒の量が増えていく。飲まない日は落ち着かず、眠れない。仕事で嫌なことが起きると、帰宅する前から飲酒することを考え始める。

そのような状態が続くと、酒は楽しむためのものから、不安や身体の緊張を抑えるために必要なものへ変わっていきます。

しかし、アルコールは睡眠の質を悪化させることがあり、翌日に疲労や不安、気分の落ち込みが強くなる場合があります。

さらに依存が進行すると、酒を飲まないときに手の震え、発汗、動悸、不眠、焦燥感などの離脱症状が生じることがあります。

その不快さを抑えるために、再び酒を飲む。こうして、もともとの不安を和らげるために始まった飲酒が、今度は飲酒しないことによって生じる苦痛を避ける行動へ変わる場合があります。

長期間、多量の飲酒を続けている人が急に断酒すると、重い離脱症状としてけいれんや意識障害が起こる危険もあります。アルコール依存症が疑われる場合には、自己判断で急に断酒せず、医療機関へ相談することが重要です。

アルコールに依存している人にとって、酒をやめることは、長い間頼ってきた不安への対処法を失うことでもあります。

そのため、飲酒による身体的な依存への治療と並行して、眠れない夜や孤独な時間、強い不安をどう扱っていくかを考える必要があります。

薬物依存症|苦痛や孤独を感じなくなる時間を求める

薬物への依存も、強い不安や孤独、身体の痛み、過去のトラウマを避けるために始まることがあります。

薬物の種類によって作用は異なりますが、感覚が鈍くなったり、気分が高揚したり、身体の苦痛が和らいだように感じたりする場合があります。

普段は自分を責める考えが止まらない人が、薬物を使用している間だけ、その声から離れられると感じることもあるでしょう。

しかし、使用を繰り返すうちに、薬物がない状態に耐えにくくなり、さらに強い欲求が生じることがあります。

使用をやめようとすると不安や焦燥感が強まり、眠れなくなる。身体の不快感や気分の落ち込みを避けるため、再び使用してしまう場合もあります。

薬物依存症では、本人が苦しさを紛らわせようとしていることに加えて、薬物そのものによる依存形成や離脱、強い欲求への対応が必要になります。

また、違法薬物だけでなく、処方薬や市販薬の不適切な使用が問題になることもあります。

特に、一部の睡眠薬や抗不安薬などでは、急な減量や中止によって危険な離脱症状が生じる場合があります。使用をやめたいときには、自分だけで調整しようとせず、処方医や依存症を専門とする医療機関へ相談することが大切です。

依存の背景にトラウマがある場合には、薬物使用に至った経緯を理解するとともに、過去の苦痛や現在の生活上の問題を、無理のない範囲で扱っていく必要があります。

ギャンブル依存症|勝敗への没頭が、現実から離れる時間になる

ギャンブルにのめり込む背景には、お金を得たいという気持ちだけでなく、普段の不安や空虚感から離れたいという願いが関わる場合があります。

画面の数字が動く。勝敗の結果を待つ。次はどうなるのかを考える。その時間は、普段の生活で感じている孤独や無力感、仕事の失敗、人間関係の問題から注意が離れます。

普段は何をしても満たされない人が、ギャンブルの強い緊張や高揚感の中では、自分が生きている実感を持てる場合もあります。

しかし、負けた後には金銭的な損失と自己嫌悪が残ります。

失ったお金を取り戻そうとして、もう一度賭ける。さらに損失が増え、生活費や貯金にまで手をつけてしまう。家族に隠していることが増え、問題が明らかになることへの恐怖も強くなる。

その苦しさを忘れるために、またギャンブルへ向かってしまう場合があります。

Moxeyら(2026)は、英国でギャンブルの問題について治療を求めていた195人への調査と、10人への質的インタビューを行い、幼少期の逆境体験との関係を調べました。

調査対象者の約81%が、少なくとも一つの小児期逆境体験を報告していました。また、インタビューでは、家庭内での依存行動の影響や、ギャンブルを苦痛から逃れるための対処法として使っていた経験が語られています。

この割合は治療を求めた集団のものであり、ギャンブルをする人全体に当てはめることはできません。

それでも、ギャンブルの問題を理解する際には、金銭管理や行動のコントロールだけでなく、その人が抱える孤独やストレス、過去の傷つきを考える必要があることを示しています。

ギャンブル依存症では、借金や家族への隠し事が問題をさらに深刻にすることがあります。心理的な支援に加えて、金銭管理や債務について専門機関へ相談することも重要です。

過食・買い物・性行動も、心の苦痛を紛らわせる手段になる

アルコールや薬物、ギャンブル以外にも、強い感情を調整するために特定の行動を繰り返すことがあります。

過食では、食べている間だけ不安や孤独が薄れ、身体が満たされたように感じられる場合があります。

買い物では、欲しいものを探し、選び、購入する過程に没頭することで、普段の無力感から離れられることがあります。

性的な行動では、身体への刺激や誰かに求められる体験を通して、自己否定や孤独が一時的に和らぐ場合もあります。

ただし、こうした行動をすべて医学的な依存症として扱うことは適切ではありません。

WHOの国際疾病分類ICD-11では、ギャンブル障害とゲーム障害が「嗜癖行動による障害」に分類されています。一方、強迫的性行動症は「衝動制御症群」に分類されており、過食や買い物への没頭についても、それぞれ異なる評価が必要です。

重要なのは、行動の頻度だけでなく、その行動を自分で調整できているか、生活にどの程度の支障が生じているか、どのような感情や状況と結びついているかという点です。

過食によって、不安や空虚感を埋めようとする

仕事で傷ついた日や、恋人との関係がうまくいかなかった夜に、食べることが止まらなくなる場合があります。

食べている間は、不安な考えが薄れ、口の中や胃が満たされる感覚に意識が向きます。

しかし、食べ終わった後には身体の不快感や罪悪感が生じ、また自分を責めてしまう。その自己嫌悪が、次の過食につながることもあります。

過食が止まらない原因はトラウマ?チェックすべき心理的要因とはでは、過食が感情調整や自己否定と結びつく過程について詳しく扱っています。

性行動によって、自分の価値を確かめようとする

誰かに求められている間だけ、自分が必要とされているように感じることがあります。

幼少期から十分に受け止められず、自分には価値がないと感じてきた人は、他者から強く求められることで、一時的に安心する場合があります。

しかし、関係が終わると再び孤独が強まり、次の相手を求めたくなることもあります。

性行動が繰り返される背景には、性的な欲求だけでなく、孤独や自己否定、過去の被害体験などが関わる場合があります。

セックス依存症と性依存になりやすい人の特徴と原因では、性的な行動が感情の調整や孤独を紛らわせる手段になっていく仕組みについて扱っています。

恋愛や共依存|誰かに必要とされることで自分を保つ

トラウマを抱える人の中には、人との関係を強く求めながら、親密になることに深い不安を感じる人がいます。

恋人から返信が来ないと、見捨てられたような感覚が生じる。相手が少し冷たくなると、自分に価値がなくなったように感じる。相手の機嫌を直そうとして、何度も連絡し、自分の予定や気持ちを後回しにする。

こうした関係では、相手の愛情や反応によって、自分の存在を確かめようとすることがあります。

子どもの頃、親の機嫌によって自分の居場所が変わり、期待に応えることで愛情を得ようとしてきた人は、大人になってからも、誰かに必要とされることに強い安心を感じる場合があります。

一方で、相手から必要とされなくなることには、強い恐怖を覚えることがあります。

そのため、相手から傷つけられていても関係を離れられず、相手の問題をすべて自分が引き受けようとする場合があります。

ただし、こうした関係をすべて依存症と呼ぶことはできません。共依存も、独立した医学的診断名ではありません。

重要なのは、他者との関係の中で自分の意思や生活を保てているか、相手の問題を過度に背負っていないか、関係を維持するために自分を傷つけ続けていないかという点です。

愛情不足で育った大人の特徴|恋愛が苦しくなる心理と心身に現れるサインでは、幼少期の親子関係が、成人後の親密な関係や見捨てられ不安にどのような影響を残すのかを扱っています。

トラウマの引き金が、依存したい衝動を強める

依存行動を繰り返す背景には、その人にとって苦痛を呼び起こしやすい状況がある場合があります。

例えば、職場で強く注意された日の帰宅途中に、急に酒を飲みたくなる。恋人から返信が来ないと、不安を紛らわせるために過食してしまう。誰とも話さずに過ごした休日の夕方、ギャンブルへ行きたい衝動が強まる。

本人には、なぜその瞬間に強く求めたくなるのか分からないこともあります。

しかし、出来事を振り返ると、その前に恥ずかしさや怒り、孤独、身体の緊張などが生じていた可能性があります。

子どもの頃、親から強く責められてきた人は、職場で注意されると、当時の恐怖や無力感に似た感覚が生じることがあります。

人から見捨てられた経験を重ねてきた人は、相手の沈黙や返信の遅さに強い不安を感じることがあるでしょう。

そのような苦痛を和らげるために、以前から頼ってきた行動が選ばれる場合があります。

ただし、依存症では、苦しい感情をはっきり自覚していなくても、いつもの場所や時間、関連する刺激によって強い欲求が生じることがあります。

そのため、すべての衝動の背景にトラウマを探す必要はありません。

自分がどのような状況で依存行動へ向かいやすいのかを把握し、その場で取れる選択肢を増やしていくことが重要です。

やめた後に苦しくなる理由|依存が担っていた役割を失う

依存行動を減らしたり、やめたりした後に、以前より不安や孤独を強く感じる場合があります。

酒を飲まなくなると、夜に何をしてよいか分からなくなる。ギャンブルをやめると、休日が長く感じられる。誰かとの関係に没頭することを減らした途端、自分がどれほど孤独だったのかに気づく。

それまで依存行動によって紛らわせていた苦痛が、再び意識されることがあるのです。

また、アルコールや薬物などでは、離脱症状や強い欲求、気分の変動など、使用を減らしたことによる身体的・心理的な変化も起こり得ます。

そのため、依存をやめた後の苦しさを、すべてトラウマが表れた結果として捉えることは適切ではありません。

依存行動をやめることによって、以前から抱えていた孤独や悲しみへ気づく場合もあれば、依存症そのものへの治療が必要な場合もあります。

特に、強い身体依存がある場合には、安全に離脱を進めるための医療的な支援が重要です。

また、依存行動を再開したくなるほど苦しいときには、一人で耐え続けるより、治療者や支援者とその状態を共有することが大切です。

回復では、依存行動を減らすことと並行して、それまで依存が担っていた役割を、より安全な方法へ少しずつ移していく必要があります。

依存症の回復には、トラウマと依存の両方への支援が必要になる

トラウマと依存症が重なっている場合には、依存行動を止めることだけでは、苦しさが十分に改善しないことがあります。

一方、過去のトラウマを理解することだけで、依存症そのものが改善するとも限りません。

依存症には、物質や行動への強い欲求、習慣化した反応、離脱症状、生活環境などへの対応が必要です。

また、PTSDや複雑性PTSDを抱えている場合には、再体験、過覚醒、回避、解離、感情調整の困難などに対して、それぞれ適切な支援を考える必要があります。

米国退役軍人省のNational Center for PTSDは、PTSDと物質使用障害が併存する場合には、両方の問題に対して根拠のある治療を提供することを推奨しています。

依存症の治療が完全に終わってからでなければトラウマを扱えない、というわけではありません。本人の安全や離脱症状、現在の生活状況に配慮しながら、同時期に両方の問題へ取り組むこともできます。

依存症の治療では、依存の種類や状態に応じて、認知行動療法、動機づけ面接、薬物療法、再発予防の支援、自助グループなどが用いられます。

トラウマに対しても、本人の症状や希望に応じて、専門的な心理療法などが検討されます。

また、依存行動を強めている背景に、家庭内暴力や経済的な困難、孤立、職場のストレスなどがある場合には、心理的な支援だけでなく、生活環境を整える支援も必要になります。

苦痛を感じたときの対処法を増やす

依存行動を繰り返してきた人は、不安や孤独が生じたときに、ほかの方法をすぐには思いつかない場合があります。

そのため、依存行動を減らすことと並行して、苦しい状態を安全にやり過ごす方法を増やしていくことが重要です。

疲れているときには休む。強い不安があるときには、信頼できる人や支援者へ連絡する。夜に孤独が強まるなら、あらかじめ予定や相談先を確保しておく。

アルコールや薬物、ギャンブルへつながりやすい場所や状況を把握し、必要に応じて距離を取ることも役立ちます。

ただし、依存症が進行している場合には、こうした生活上の工夫だけで対処することは難しく、専門的な治療を併用する必要があります。

自分が何をしのごうとしていたのかを理解する

依存行動へ向かった場面を振り返るときには、その直前に何が起きていたのかを確かめることが役立ちます。

仕事で責められていなかったか。誰かとの関係で傷ついていなかったか。疲労や睡眠不足が重なっていなかったか。

そのときの感情が分からなくても、身体がどのような状態だったのかを確かめることはできます。

胸が苦しかった。落ち着かなかった。誰かに連絡したかった。何も考えたくなかった。

そうした感覚が分かるようになると、以前は依存行動によってしか対処できなかった苦しさを、別の方法で扱える可能性が生まれます。

孤独を一人で抱えないための関係を作る

依存に苦しむ人は、自分の問題を誰かに話すことへ強い抵抗を感じる場合があります。

迷惑をかけたくない。依存していることを知られたら嫌われる。何度もやめようとして失敗しているため、もう相談する資格がないように感じる。

そのような人ほど、依存の問題を一人で隠し続け、孤立や自己嫌悪を深めてしまうことがあります。

回復では、依存行動を責めるだけではなく、その苦しさを理解し、必要な支援へつながれる関係が重要になります。

専門の医療機関、保健所、精神保健福祉センター、依存症の相談拠点、自助グループなどが、相談先になります。

日本では、アルコール、薬物、ギャンブル等依存症について、地域の相談機関や専門医療機関、回復支援施設などを利用できます。

詳しくは、厚生労働省「依存症対策」で確認できます。

自己嫌悪が依存を強める|自分を責める悪循環

依存行動を繰り返している人は、自分に強い嫌悪感を抱くことがあります。

また酒を飲んでしまった。お金を使ってしまった。家族との約束を破った。やめると決めたのに守れなかった。

そうした経験が重なると、自分は意志の弱い人間だ、もう変われないと感じる場合があります。

特に、幼少期から親に否定され、自分には価値がないと思ってきた人では、依存行動による失敗が、過去の自己否定と重なることがあります。

親から言われてきた「お前は駄目だ」「何をやっても続かない」という言葉が、自分の内側で再び聞こえてくる。

そして、自分を責めるほど気持ちが苦しくなり、その苦しさを紛らわせるために、また依存行動へ向かうことがあります。

この循環を弱めるためには、依存行動によって生じた問題への責任と、自分の存在全体への評価を分けて考える必要があります。

依存によって健康を損ねた場合には治療を受け、金銭的な問題があれば整理する。他者へ傷つける行動を取った場合には、必要な責任を引き受ける。

それと同時に、自分がどのような苦しさを抱えてきたのか、なぜその行動に頼るようになったのかを理解していくことも重要です。

依存によって起きた問題を見つめることと、自分を罰し続けることは同じではありません。

一度やめられなかったからといって、それまでの回復の取り組みがすべて失われるわけでもありません。

再び依存行動が起きた場合には、その前にどのような状況があったのかを整理し、治療や支援の方法を見直すことが大切です。

おわりに|依存に頼るしかなかった苦しさを、別の形で支える

トラウマを抱える人にとって、依存行動は、耐えがたい苦痛を一時的にでも和らげる方法として始まることがあります。

一人になると不安が強くなる。過去の記憶が浮かぶ。身体の緊張が解けず、眠れない。人から認められても、自分には価値があると思えない。

そのような状態で、アルコールや薬物、ギャンブルなどが、苦しさを遠ざけるための手段になる場合があります。

しかし、依存行動を繰り返すうちに、物質や行動そのものへの強い欲求が生じ、やめたくてもやめられない状態へ進んでいくことがあります。

飲酒によって身体の調子が崩れ、ギャンブルによって金銭的な問題が増え、薬物使用によって生活や人間関係に大きな支障が生じる。

その現実に苦しみながらも、依存行動をやめると、今度は以前から抱えていた不安や孤独、身体の不快感に直面する場合があります。

だからこそ、依存症の回復では、行動をやめることと、その行動が担ってきた役割を理解することの両方が重要になります。

何が苦しかったのか。どのようなときに依存行動へ向かいやすいのか。その行動によって、何を感じずに済んでいたのか。

そうしたことを少しずつ理解しながら、苦しさを扱う別の方法を増やしていく必要があります。

また、依存症が進行している場合には、本人の努力だけで解決しようとせず、専門的な治療や地域の支援を利用することが大切です。

長い間、依存行動によって何とか生活を保ってきた人にとって、その行動から離れることは大きな不安を伴うかもしれません。

それでも、安心して話せる人間関係を築き、自分の身体や感情を理解し、必要な支援を受けることで、これまで依存行動だけが担っていた役割を、少しずつ別の方法へ移していくことができます。

依存症からの回復とは、何かに頼ってしまった自分を責め続けることではなく、苦しさを抱えたときに、自分の生活を守れる選択肢を増やしていくことです。

苦痛から逃れるために依存へ向かってきた時間があったとしても、これからの生活では、苦しさを一人で抱えず、人とのつながりや専門的な支援を通して、自分の人生を少しずつ立て直していくことができます。


参考文献

  1. Gould, E. E., Ganesh, S. S., Trigo, D., et al. (2025). “We Weren’t Taught How to Cope With Tragedy”: Early Childhood Trauma, Grief, and Learned Coping Mechanisms Among People Who Inject Drugs. Substance Use: Research and Treatment, 19.
    https://doi.org/10.1177/29768357251383754
  2. Moxey, M., Dennie, E., Rossi, R., Sallis, H., & Herbert, A. (2026). Exploring adverse childhood experiences (ACEs) among those seeking treatment for gambling problems: A mixed-methods study. Addictive Behaviors, 173, 108535.
    https://doi.org/10.1016/j.addbeh.2025.108535
  3. U.S. Department of Veterans Affairs, National Center for PTSD. Substance Use and PTSD.
    https://www.ptsd.va.gov/understand/related/substance_misuse.asp
  4. U.S. Department of Veterans Affairs, National Center for PTSD. Treatment of Co-Occurring PTSD and Substance Use Disorder in VA.
    https://www.ptsd.va.gov/professional/treat/cooccurring/tx_sud_va.asp
  5. 厚生労働省「依存症についてもっと知りたい方へ」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000149274.html
  6. 厚生労働省「依存症対策|相談機関・専門医療機関・回復支援」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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