ストレスに気づけない人へ|頑張れているうちに心身が限界へ近づく理由

ストレスに無自覚 心の病・精神疾患

休日の朝、洗濯を始めたところで身体が重くなり、少し横になるつもりが、そのまま昼を過ぎてしまう。平日は仕事へ行き、人と話し、帰宅後の家事も何とかこなしている。それなのに、予定のない日になると動く気力が残っていない。

そんな状態でも、「ストレスはありますか」と聞かれると、すぐには思い当たらないことがあります。仕事には行けているし、人と笑って話すこともできる。深刻に落ち込んでいる実感も乏しく、自分では、少し疲れている程度だと思っているのです。

一方、生活を振り返ると、眠りが浅くなっている。肩や背中の力が抜けず、食後には胃が重い。以前なら楽しめた会話や外出にも疲れ、その後の回復に時間がかかるようになっているかもしれません。

ストレスへの気づきは、苦しいという感情の強さだけでは測れません。 日々の役割を果たすことに注意を向け続けていると、疲労や気持ちの変化を確かめる余裕が少なくなります。動けている自分を基準にするうちに、動くために使っている力や、その後に必要な休息が見えにくくなるのです。

頑張ることが習慣になると、疲労は見えにくくなる

仕事を頼まれたとき、自分の疲れを確かめるより先に、どうすれば引き受けられるかを考える。家族が困っていれば、休む予定を変更して対応する。そうした判断が日常になると、自分の状態は、用事を終えたあとに確認するものになっていきます。

責任を引き受ける姿勢は、これまでの生活を支えてきた力でもあるでしょう。周囲から頼られ、感謝され、役に立てた実感が得られる。その一方で、休むことには、誰かを待たせる申し訳なさや、自分だけ楽をしているような落ち着かなさが伴う場合があります。

すると、疲れを感じた瞬間にも、「これが終わってから」「まだ自分でできる」と判断し、次の行動へ進みます。悲しかったことや腹の立ったことも、対応すべき用事の後ろへ回され、振り返る時間がないまま一日が終わってしまいます。

このような生活では、「疲れているか」より「今日もできたか」が、自分を判断する基準になりやすくなります。必要なことをこなせた日は大丈夫だと思い、できなかった日は自分を責める。その基準の中では、疲労が休む理由として扱われにくくなるのです。

外では明るく振る舞いながら消耗している状態については、適応障害の人が元気に見える理由|明るく振る舞う心の裏側にある限界サインでも詳しく扱っています。

ストレスに気づくきっかけが、身体の不調になることもある

気持ちを尋ねられると「特に困っていない」と答えられるのに、身体について聞かれると、いくつもの不調が挙がることがあります。朝からだるい、胸やみぞおちが落ち着かない、食欲に波がある、眠っても休まった感じがしない。本人にとっては、それぞれ別の小さな不調として感じられているのかもしれません。

ウェインバーガーらは、実験研究において、不安を低く報告していても、ストレス場面で身体に強い反応が現れる場合があることを示しました。主観的に感じている不安と、身体の反応にずれが生じうることを考える手がかりです。

臨床でも、「つらいとは思っていない」という本人の感覚を尊重しながら、眠りや食事、身体の緊張、活動後の疲れを具体的に確かめていきます。本人が説明できる苦痛の程度と、生活を維持するためにかかっている負担を、両方から理解するためです。

仕事中は集中して対応できても、帰宅すると動けなくなる。人と会っている間は楽しかったのに、その後は会話をする余力も残らない。そのような違いには、その場で頑張れることと、活動のあとに回復できることの差が表れています。

疲れが翌日以降まで残る状態については、慢性疲労と過緊張の関係|刺激のあとに疲れが翌日まで残る理由でも説明しています。

つらい状態が続くと、それが自分の「普通」になる

慢性的な負担は、少しずつ生活に入り込んできます。寝つきが悪くなっても、忙しい時期だからと考える。食事を楽しめなくなっても、食べられているから大丈夫だと思う。休日を寝て過ごすようになっても、年齢や体力のせいだと受け止める。

一つひとつには説明がつくため、生活全体が以前と変わっていることに気づきにくくなります。疲れている状態が基準になると、調子のよい日の感覚も思い出しづらくなるでしょう。

ゾンネンターは、仕事のストレスが高いときほど回復が必要になる一方、その回復自体が難しくなるという「回復の逆説」を論じました。仕事から心理的に離れることや、睡眠など、回復につながる過程が、負担の大きい時期に妨げられやすくなるという視点です。

実際、忙しいほど帰宅後も仕事の段取りが気になり、横になってからも翌日の対応を考えてしまいます。休みの日にも、残っている家事や連絡が目に入り、気持ちが仕事へ戻っていく。身体を休める時間があっても、何かに応じる構えが続いているのです。

ここでは、「今週も乗り切れたか」に加えて、「乗り切ったあと、どの程度戻れているか」を見ることが役立ちます。休んだあとに食事を楽しめるか、人と話す余裕が戻るか、次の日へ疲れを持ち越していないか。その違いから、普段の負担を捉え直していきます。

感情がわからず、自分の感覚が遠くなることもある

何がつらいのかを考えようとしても、言葉が出てこない。ただ身体が重く、頭がぼんやりしている。仕事で嫌なことがあったはずなのに、悲しいのか腹が立っているのか、自分でもよくわからない。こうした状態では、気持ちを尋ねられること自体が難しく感じられます。

レーンとシュワルツは、感情への気づきを、身体の感覚、行動への傾き、個々の感情、複数の感情の組み合わせなど、異なる水準から捉える理論を示しました。この視点は、まだ感情の名前が浮かばない段階にも、確かめられる体験があることを教えてくれます。

たとえば、「悲しい」とは言えなくても、ある人と話すと胸が重くなることはわかる。怒りかどうかは判断できなくても、その話題になると席を離れたくなる。そのような感覚から、何が負担になっていたのかを少しずつたどれる場合があります。

いつも相手に合わせてきたなら、自分の気持ちを尋ねられても、相手が望みそうな答えが先に浮かぶかもしれません。「どうしたいか」を考えているつもりが、いつの間にか「どう答えれば困らせずに済むか」を考えている。その違いに気づくことも、自分の感覚を取り戻す過程の一つです。

また、現実が遠く感じられる、自分の身体の実感が薄い、会話や行動の一部を思い出しにくいといった体験には、解離が関わる場合もあります。解離とは何か|離人感・現実感喪失・健忘・DIDの原因と回復では、こうした体験の違いを詳しく扱っています。

気づかないまま、別の行動で苦しさを和らげようとする

気持ちとしては説明できなくても、生活の中で繰り返している行動に、負担が表れることがあります。帰宅後に甘いものを食べ続けたり、買い物をしたり、SNSや動画から離れられなくなったりする。お酒で気分を切り替えることや、予定を詰めて静かな時間を避けることもあるでしょう。

たとえば、眠いのに動画を見続けてしまう夜には、刺激を求める気持ちとともに、「このまま寝たら、また誰かのために動く一日が始まる」という重さが含まれているかもしれません。自分のために使える時間が夜しか残っておらず、それを終えるのが惜しくなるのです。

こうした行動を理解するときには、どの場面から始まり、その間に何が少し楽になるのかを見ていきます。考え事が途切れるのか、寂しさが紛れるのか、自分で好きなものを選べた感覚が得られるのか。行動が引き受けている役割がわかると、必要としていた休息や楽しみ、支えも具体的になります。

同時に、睡眠時間が減る、出費が増える、翌朝の調子が悪くなるなど、その行動による負担にも目を向けます。短い時間だけ楽になる方法に頼り続けているなら、日中の仕事量や人との関わり方まで含めて、生活を見直す必要があるでしょう。

言葉にしにくかった負担と身体の関係については、身体が緊張を覚え続ける理由|固まった身体が語るトラウマと回復のプロセスも参考になります。

ストレスに気づくために、生活の中で確かめたいこと

「今、どれくらいつらいか」と聞かれても、比較する基準が見つからないことがあります。そのようなときには、以前の自分と比べて、生活にどんな変化が起きているかを確かめます。

確かめるところ見過ごしやすい変化振り返る手がかり
睡眠眠りが浅い、夜中に目が覚める、寝ても重さが残る眠る前まで、仕事や人間関係を考えていないか
食事食欲に波がある、食事を楽しめない、食後に胃が重い落ち着いて食べる時間が取れているか
身体肩や背中に力が入る、音や人の気配に疲れるどの場所や相手との間で、緊張が強まるか
対人関係返信や会話が負担になり、会ったあと長く消耗する相手に合わせる時間や、引き受ける役割が増えていないか
休日横になるだけで終わり、休んだ実感が残らない休みの間にも、用事や気遣いが続いていないか

これは生活を振り返るための目安です。症状の数を数えるより、何が変わり、どのような日が続いているのかに目を向けます。

メーリングらは、身体への気づきを扱う質的研究で、身体感覚を通して自分や周囲との関わりを理解していく過程を検討しました。ここで参考になるのは、不調を探し続ける注意と、自分の状態を受け取り、生活に生かすための注意を区別する視点です。

たとえば、「肩が固まっている。何か悪いことが起きているのだろうか」と監視を続けると、それ自体が負担になります。一方、「今日は会議のあとから肩に力が入っている」と気づければ、その日の予定や、会議で引き受けた役割を振り返る材料になります。

記録する場合も、「帰宅後は食事を作る力が残っていなかった」「人と会った翌日まで疲れた」など、短く残す程度から始められます。何日かを並べてみると、繰り返し負担が増える場面や、休んだあとに戻りやすい条件が見えてくるでしょう。

気づいたあとは、負担を一つ減らす、誰かに一部を任せる、返事を急がず余力を確かめるなど、現実の調整へつなげます。疲れを正確に説明できるようになることと、生活を変えることを、少しずつ一緒に進めていきます。

心身の不調が続くときは、身体と心の両方を確かめる

頭痛、動悸、胃腸の不調、めまい、強い疲労感、不眠などには、ストレスが関わる場合があります。同時に、貧血、甲状腺の病気、睡眠の問題、感染症、薬の影響など、身体の状態を確認したほうがよい場合もあります。

不調が長く続く、生活への支障が大きい、急に強くなったというときには、医療機関へ相談してください。身体の状態を確かめながら、日常の負荷や人間関係、休息の取り方を整理していくことが大切です。

カウンセリングでは、本人が「大丈夫」と答えるとき、その言葉がどんな基準から出ているのかも一緒に考えます。出勤できていれば大丈夫なのか、人に迷惑をかけずに済めば大丈夫なのか。そうした基準をたどると、自分のつらさが後回しになってきた事情が見えてくることがあります。

また、疲れを認めると、引き受けている仕事や家族との関わりを変えなければならなくなる場合もあります。その難しさがあるからこそ、本人だけに休む判断を任せるのではなく、何を減らせるか、誰に相談できるかまで具体的に考えていきます。

こころのえ相談室では、理由のわからない疲労感、不眠、過緊張、身体の不調、自分の気持ちがわからない感覚、人間関係での消耗などについて相談をお受けしています。つらさをうまく説明できないときも、最近の眠りや、一日の終わりにどのくらい力が残っているかなど、今わかることからお話しいただけます。

日々を支えてきた自分のやり方を理解しながら、休息や人の助けを生活に組み込んでいく。自分の小さな変化に気づける時間を持つことが、その出発点になります。

参考文献

Weinberger, D. A., Schwartz, G. E., & Davidson, R. J.(1979). Low-anxious, high-anxious, and repressive coping styles: Psychometric patterns and behavioral and physiological responses to stress. Journal of Abnormal Psychology, 88(4), 369–380.

Lane, R. D., & Schwartz, G. E.(1987). Levels of emotional awareness: A cognitive-developmental theory and its application to psychopathology. American Journal of Psychiatry, 144(2), 133–143.

Sonnentag, S.(2018). The recovery paradox: Portraying the complex interplay between job stressors, lack of recovery, and poor well-being. Research in Organizational Behavior, 38, 169–185.

Mehling, W. E., Wrubel, J., Daubenmier, J. J., Price, C. J., Kerr, C. E., Silow, T., Gopisetty, V., & Stewart, A. L.(2011). Body awareness: A phenomenological inquiry into the common ground of mind-body therapies. Philosophy, Ethics, and Humanities in Medicine, 6, Article 6.

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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