感情がなくなる人の特徴と原因:失感情症やストレスが引き起こす「無」になりたいと願う心の正体

感情がなくなる病気には、うつ病、統合失調症、失感情症(アレキシサイミア)、離人感・現実感消失症が含まれます。本ページでは、これらの病気について詳しく説明します。
(ここから先で扱うのは、「感情が消えた」という表現の裏側に、神経系の生存戦略がどう刻まれるかです。感情は単なる気分ではなく、身体・注意・記憶・人間関係の全体に関わる“機能”だからこそ、消えたように見えるとき、人生の輪郭そのものが薄くなります。)

人生の厳しさに疲れ切っている人々は、しばしば「感情なんていらない」と内心で叫びたくなることがあります。この考えは、表面上は感情がただの余計な荷物、つまり生き抜く上での障害にしか見えないからです。感情の重さは、時には我慢できないほど圧倒的で、全てを手放してしまいたくなるくらいに感じられる場合もあります。
(この「余計な荷物」という感覚は、怠けでも弱さでもありません。むしろ逆で、感情が生じるたびに現実が崩れるほどの負荷がかかっていた人ほど、感情は“敵”になります。泣けば責められ、怒れば見捨てられ、怖いと言えば笑われる。感情が人を守るどころか、関係の危険を増幅させてしまう環境では、感情は“危険物”として処理されます。)

しかし、この「何も感じない状態、つまり“無”になりたい」という願望が浮かんでくる背後には、自分自身を何とか守りたいという本能的な反応が働いている可能性が高いです。感情と向き合うことで生じる心の痛みやストレスから逃れ、一時的でも平穏な状態を手に入れたいとそう願うのは、極度に困難な状況下での自然な心の動きかもしれません。
(「無になりたい」は、自己破壊の願望ではなく、自己保存の願望であることが少なくありません。火事場で煙を吸わないために息を止めるように、心もまた“吸い込まない”選択をします。感じた瞬間に崩れてしまう世界があったなら、心は“感じない”ことで、ぎりぎり日常を維持しようとします。ここで起きているのは、意志ではなく神経系の適応です。)


失感情症-無感情になった人

感情がない人は、しばしば「失感情症」と呼ばれる状態に陥っている可能性があります。失感情症は、感情を理解することができない、感情を表現することができない、あるいは感情が鈍いといった症状を示すことがあります。具体的には、自分自身の感情を表現できないため、人間関係の構築が困難になったり、相手の感情を理解できないため、他者とのコミュニケーションに問題が生じることがあります。
(ただ、ここで大事なのは「感情がない」というより、感情の翻訳機能が止まっているという理解です。身体の中では何かが起きているのに、言語に変換されない。緊張や胃痛、息苦しさ、頭痛として現れているのに、それが“怒り”“不安”“悲しみ”として自覚されない。だから人は「自分は何も感じない」と表現します。実際には、感じる回路と理解する回路が分断されているのです。)

失感情症は、複雑なトラウマが原因となっていることがあります。例えば、過去に暴力や虐待、性的虐待、心理的虐待、またはその他の精神的ストレスに晒された人は、失感情症になる可能性が高くなります。
(複雑性トラウマでは、単発の出来事ではなく、逃げられない関係の中で長期間さらされる恐怖が中心になります。恐怖の質が違います。「怖い出来事」ではなく、「怖い日常」。ここでは感情は育ちません。育つ前に、毎日折られていきます。)

これは、複雑なトラウマを抱える過程で、強烈な感情が脳の奥深くで生み出され、身体的感覚の源泉から絶えず攻撃を受けているにもかかわらず、その源から意識の上で切り離されてしまっているためです。たとえば、過去に虐待を受けた人は、その瞬間に感じた痛みや恐怖を、現在の状況でも感じてしまうことがありますが、その感情を意識の上で認識できなくなってしまいます。このような状況下では、感情を抑圧することが、自己防衛的な反応として現れることがあります。
(ここには、臨床で繰り返し見える“二重構造”があります。
感情は残っている。だが、意識には上がってこない。
だから、何かの拍子に身体だけが反応します。胸が固まり、喉が締まり、視界が遠のき、足が冷える。ところが本人は「なぜそうなるのか」が分からない。分からないまま“正常に振る舞う”努力だけが増える。努力が増えるほど、身体はさらに切り離しを強めます。)


トラウマから脳と心の働き

感情がない人は、トラウマや恐怖に対処する中で、特定の脳領域の機能を停止することを学んだ結果、感情が鈍くなってしまいます。これは、トラウマ自体への反応や、長期的な恐怖に対処するための生存戦略として起こります。
(「停止することを学ぶ」という表現は、とても正確です。心は壊れるのではなく、壊れないためのモードへ移行します。感じると危険なら、感じない。考えると苦しいなら、考えない。これは“怠惰”ではなく、“過負荷に対する自動調整”です。)

彼らは、恐怖や怒り、痛みなどの強い感情を遮断することで、日常生活をやりくりしようとします。この適応は、なんとも悲しいもので、感情を抑えることで、人間らしい感覚や生きていると感じる能力まで弱めてしまいます。
(遮断は、必要だから起きました。けれど遮断の代償として、世界の彩度が落ちます。楽しいはずの場面で笑えない。安心できるはずの関係で緩めない。“生きている実感”が遠のく。これは本人にとって、単なる症状ではなく、人生の質そのものが薄くなる体験です。)

具体的には、脳の前頭葉や扁桃体などの部位が影響を受けることがあります。前頭葉は、感情や判断、行動などをコントロールする役割を持っており、扁桃体は恐怖や不安などの感情を処理するために重要な役割を果たしています。
しかし、トラウマや恐怖が強い場合には、これらの部位が過剰に活性化してしまうため、感情を遮断することで、これらの部位の活性化を抑えることができるとされています。このような状態は、適応的な反応である一方で、感情を理解することや、自分自身や周囲の人々との関係性を築くことに支障をきたすことがあります。
(ここで重要なのは、遮断は“感情だけ”を止めないことです。感情は、記憶、注意、対人認知、身体感覚と結びついているため、遮断が続くと、人とつながるための回路も同時に細っていきます。相手の表情が読めない。自分の本音が分からない。距離の取り方が分からない。結果として、さらにストレスが増え、遮断が強まる。ここに悪循環が成立します。)

身体の緊張が慢性化する仕組みは、以下の記事で整理しています。
https://trauma-free.com/trauma-back-tension/


感情がなくなる人の特徴

感情がない人は、過去のトラウマやストレス、緊張が蓄積されていることが原因で、自分自身を保護するために感情を封じ込め、無感情な状態になってしまいます。性格的には真面目で我慢強く、素直で、物静かな人が多い傾向があります。また、怖がりなところがあり、人の目につくことが苦手で、人に良く思われようと相手に合わせることが多いです。
(この“真面目さ”は、性格ではなく生存の方法です。場を荒らさない。相手の機嫌を損ねない。自分の感情より、相手の都合を優先する。そうしないと危険だった。そうしないと居場所が消えた。だから、真面目であることは“美徳”というより、代償つきの安全確保だった可能性があります。)


幼少期のトラウマと親子関係

幼少期にトラウマを経験すると、子どもたちはしばしば深く強い感情を抱くようになります。親からの虐待、不適切な養育、または不安定な環境で育った場合、これらの感情を周囲に表現することが困難になり、結果的に内側に感情を閉じ込めてしまうことがよくあります。感情を表現することがさらなるトラブルを招くと感じた子どもたちは、怒りや悲しみを表に出すことを避け、感情や感覚を無視して行動することを学びます。このような状況で育った子どもたちは、感情を無視することで生き延びる方法を身につけ、感情を脇に置いて頭で考え、正確に行動するようになります。
(子どもが学ぶのは、「感情を持つな」ではなく、「感情を持つと危険だ」です。危険が学習されると、感情は“感じない対象”へ分類されます。すると、身体感覚も同時に薄くなります。身体が感じるほど、心が動くほど、危険だったからです。)

しかし、このような感情の無視は、長期的には感情や感覚を鈍らせる結果を招きます。これは、無表情や無感情として表れることがあります。具体的には、怒りや恐怖、喜び、幸せなどの基本的な感情が感じにくくなり、人間らしい感情の表現を失うことにつながります。これらの感情の麻痺は、自分自身や他者との関係においても深刻な影響を及ぼし、感情的な交流や共感を困難にする可能性があります。
(ここで痛いのは、麻痺は“つらい感情”だけを消さないことです。怒りや恐怖を消したいと願って始まった遮断は、喜びや安心まで一緒に薄めていく。つまり、守るために始めたはずの方法が、いつのまにか人生の感受性そのものを奪っていく。だから多くの当事者は「自分が自分でない感じ」を抱えます。)

幼少期の“避難”が心に残す形については、以下も参照できます。
https://trauma-free.com/hideout/


毒親育ちの影響

毒親育ちの人々は、親に対して本当に伝えたいことがあっても、それを言葉にすることの葛藤を抱えています。この葛藤は、自分の感情を素直に表現することが、時には関係をさらに複雑にし、こじれさせる可能性があるためです。彼らは感情や感覚を凍りつかせ、自己犠牲や無力感の象徴となることも少なくありません。
(伝えたいのに言えない。言えば壊れる。黙れば自分が壊れる。ここで心が選ぶのはしばしば第三の道です。感じないことで、どちらの破壊も先送りにする。凍結は“諦め”ではなく、葛藤の板挟みから生まれる“停止”です。)

この心理的凍結は、気持ちを言葉にすることが無駄であるという感覚、そして伝えることの無意味さを繰り返し味わうことから生じます。結果として、自分の感情を表現すること自体が無意味であると感じ、自己表現を抑制する傾向に陥ります。これは、家族という小さな社会の中で、自己表現と自己抑制の狭間での深い葛藤を反映しています。
多くの場合、これらの個人は、関係がさらに複雑になることを恐れ、相手に同調し、自分の意見や感情を抑え込むことを選びます。この抑制は、彼らの内面の声を無視し、真の自己を隠すことを余儀なくされる状況を生み出します。このような環境では、本来の自己を探求し、真の感情を表現することが困難になります。
(“真の自己”が見つからないのではなく、真の自己が出ると危険だった。だから自己は、環境に合わせて“安全な形”へ畳み込まれます。畳み込まれた自己は、いざ安全な場所に来ても、すぐに広がれません。広がり方を知らないからです。)


PTSDになるような強いショック

感情がなくなる症状は、強いストレスやトラウマによって引き起こされることが多く、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の一部としても知られています。現実感や自己感覚が消失することで、現実の出来事に対する適切な反応をとることができなくなり、日常生活に支障をきたすこともあります。
人が戦慄の恐怖に曝されると、感情や感覚が麻痺することがあります。この状態は離人感・現実感消失症や失感情症と呼ばれ、感情がなくなることで、自分自身や周りの出来事に対する関心が薄れ、何をやっても味気ない、空虚な状態になることがあります。また、恐怖心が強すぎると、自分の身体や周りの環境が自分自身とは切り離されたもののように感じられます。長年に渡って、酷い環境にいると、自分の身体がマネキンや人形、ゴムのようなものになってしまっているかのような感覚に陥り、神経が通っていない、血液が通っていないような感覚を覚えます。
(ここで起きるのは、心の“逃走”ではなく、身体の“遮断”です。逃げられない恐怖の中で、心はしばしば「ここにいない」ことで生き残ります。離人・現実感消失は、狂気ではなく、極限で働く正常な防衛として理解できる領域があります。)

解離の構造をより深く知りたい方へ:
https://trauma-free.com/dis/did/


感情がなくなる人の症状

感情が鈍化すると、多様な心理的および身体的な症状が現れます。感情が鈍ると、何も感じなくなり、物事に対する興味や楽しみを見いだせなくなることがあります。日常生活のさまざまな活動や趣味に対する関心が失われ、これによって生活の質が低下することがあります。
また、自分自身の感情が理解できなくなるため、自分自身や他人に対する共感力が低下します。これは社交性の減少につながり、人間関係の構築や維持に困難を感じることがあります。さらに、感情が鈍化すると、表情や身体の動きが減少し、顔に表情が乏しくなることがあります。味覚や嗅覚、触覚などの感覚も鈍くなり、日常の経験から得る感覚的な満足が減少します。
感情の鈍化に苦しむ人々は、自分の感情を抑圧する傾向があり、公共の場で涙を流すことができなくなるなど、感情の表出が制限されます。その結果、生きることへの感覚や感度が低下し、感受性や想像力も大きく損なわれます。辛い気持ちを我慢することに疲れ、感情の全範囲が鈍化することがあります。この状態は、世界を悲しみや無関心の色で見るようになり、元気や興味、関心が失われる原因となります。また、複雑な感情を理解する能力が低下するため、自己理解や他者との関係性にも影響を与えることがあります。
(臨床では、ここにもう一つの苦しみが重なります。「苦しい」と言えないことそのものが苦しい。身体は苦しいのに、言葉にできない。助けを求めたいのに、求め方が分からない。だから症状は、言葉の代わりに身体へ出ます。これは“気のせい”ではなく、言語化の回路が閉じた結果でもあります。)


感情がなくなる病気(4タイプ)と背景

生活全般におけるストレスと緊張は、感情を鈍らせる原因の一つとなります。日々のストレスや緊張が長期化すると、精神的な疲労やストレス反応が蓄積されます。この結果、元気がなくなり、感情の起伏が少なくなることがあります。これは、日常生活における興味や関心が薄れてしまうことを意味します。また、ストレスは不眠症や食欲不振などの身体的な症状を引き起こすことがあり、これらの身体的な変化も感情の低下に影響を及ぼすことがあります。感情がなくなる病気には、以下の4つの主なタイプがあります。

うつ病

うつ病は、感情の鈍化や喪失を特徴とする精神疾患です。この病気は、悲しみ、無力感、希望の喪失など、深い感情的苦痛を引き起こします。うつ病に苦しむ人々は、生活に対する興味や関心を失い、やる気が出なくなることが特徴的です。日常の活動や趣味、さらには人間関係に対しても無関心になり、これらの変化は日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
うつ病の原因は多岐にわたります。主な原因としては、脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが乱れることが挙げられます。これらの物質は、気分や感情の調節に重要な役割を果たしています。また、トラウマや慢性的なストレス、遺伝的な要因、さらには身体的な疾患や健康状態の変化も、うつ病を引き起こす要因となり得ます。
うつ病は、単に「悲しい」や「落ち込む」といった感情を超えた、深刻な状態です。この病気に苦しむ人々は、日常生活に対する動機付けやエネルギーを失い、何をするにも無気力になることがあります。これにより、仕事や学業、家庭生活における機能が低下し、社会的な関係が希薄になることがあります。
(うつの“無感情”は、感情が無いというより、神経系が電池切れを起こし、感情を立ち上げるエネルギーが枯渇している状態として見えることがあります。)

統合失調症

統合失調症は、幻覚、妄想、思考の混乱といった症状を特徴とする精神疾患です。この病気は、現実と虚構の区別がつきにくくなるなど、現実の認識に影響を及ぼすことで知られています。しかし、統合失調症には感情の鈍化も見られることがあり、この症状は患者にとって特に苦痛を伴うことがあります。
感情の鈍化は、患者が喜怒哀楽の感情を表現することが難しくなる状態を指します。これは、統合失調症の患者が感情を感じる能力が低下するため、外から見ると感情表現が乏しくなるように見えます。このような感情の鈍化は、脳の前頭葉や辺縁系といった部位の機能障害が原因であるとされています。これらの脳の領域は、感情の調節や表現、社会的行動などに深く関与しており、その機能障害によって感情の鈍化が生じると考えられています。
統合失調症の患者における感情の鈍化は、対人関係や日常生活におけるコミュニケーションに影響を及ぼすことがあります。感情を表現することが困難になるため、患者は他人との関係構築や維持に苦労することがあります。
(ここでは、症状の理解と同時に、本人が背負う“孤立の重さ”が焦点になります。感情が出ないことそのものが、さらに誤解を生み、関係がほどけていくからです。)

失感情症(アレキシサイミア)

失感情症は、感情を認識し、表現する能力が低下する精神的な状態です。この症状により、喜怒哀楽などの基本的な感情を感じることが難しくなります。これは、周囲の人々とのコミュニケーションや人間関係に影響を及ぼし、日常生活において様々な困難を引き起こす可能性があります。感情の鈍化は、他人との感情的なつながりを築くことを困難にし、対人関係において深い悩みを抱えることにつながります。
失感情症に苦しむ人々は、自分自身の感情に対しても鈍感になるため、自分がどのように感じているのかを認識することが難しくなります。自己の感情を理解する能力の欠如は、自己認識や自己表現の問題を引き起こし、自己理解や自己表現に障害をもたらすことがあります。
失感情症は、うつ病、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、心身症、脳病変などの様々な精神疾患と関連していることが知られています。これらの疾患は、感情の認識や表現に影響を与えることがあります。また、心的外傷や慢性的なストレス、薬物の副作用などが原因となることもあり、これらの要因は感情の処理や表現能力に影響を及ぼすことがあります。
(“感じられない”は、人格の欠陥ではなく、適応の痕跡です。とくに長期の緊張やトラウマが背景にあるとき、焦点は「感情を出す」より先に、「安全があるか」に移ります。)

離人感・現実感消失症

離人感・現実感消失症は、個人が現実世界との接触を失い、現実感を喪失する症状を指します。この状態では、自分自身が現実世界とは別の次元に存在しているかのように感じることがあります。また、現実が夢のように感じられることも特徴的です。現実世界にいながらも、その体験が非現実的であるかのような感覚を持つことがあります。
具体的には、身体的な感覚、感情、思考が自分のものであるという感覚が失われます。例えば、手足が自分自身の意志で動いているとは感じられず、まるで別の存在がそれを操っているかのように感じることがあります。また、周囲の人々が非現実的に見えることがあり、ロボットや仮面をかぶったような印象を受けることもあります。このような現象は、現実との距離感が変わっているという感覚を引き起こし、自分自身が現実に存在しているのかという不安を感じさせます。
離人感・現実感消失症は、精神疾患の一種であり、ストレス、心的外傷、薬物乱用、睡眠不足などが原因とされています。これらの要因は、個人の精神的なバランスを乱し、現実感の喪失を引き起こすことができます。また、パニック障害や社交不安障害などの他の精神疾患とも関連していることがあり、これらの疾患の症状として現れることもあります。
(「夢みたい」「現実じゃない」は、しばしば“壊れた”のではなく、“切り離した”というサインです。現実が危険だったとき、心は現実感を弱めて生き延びます。)


無感情になった人の治療(回復の道筋)

無感情になった人の治療 感情を再発見する過程は、簡単な道のりではありませんが、その一歩一歩が重要です。
感情を再び感じるようになると、初めはその強さや圧倒的な存在感に戸惑うかもしれません。
しかし、その感情は自分自身の大切な一部であり、これまで抑え込んでいた分、今こそしっかりと向き合い、受け入れていく必要があります。
感情を無視したり逃げたりするのではなく、それに立ち向かい、内なる声を大切にすることで、自己理解が深まり、自己成長が促されるのです。

感情との向き合い方

感情との向き合い方 感情を抑圧してきた人が再び感情と向き合うとき、その過程は混乱や不安を伴うことが多いです。
喜びや悲しみ、怒りや恐れなど、多様な感情が一気に表面化し、どのように対処すべきか戸惑うこともあるでしょう。
このようなとき、感情を一つ一つ丁寧に扱い、それらを「感じても良い」と許可することが重要です。
感情は自分自身の一部であり、それを否定することは、自己の一部を否定することと同じです。
感情に正面から向き合うことで、自己とのつながりが回復し、内なる平和が少しずつ取り戻されていきます。
このプロセスを通じて重要なのは、無理に感情を抑え込むのではなく、それに名前を付けて理解することです。
例えば、「今私は悲しんでいるんだ」と認めることで、感情が自己を支配することを防ぎ、冷静に対処できるようになります。
また、感情を他者と共有することも有効です。
信頼できる人に自分の感情を話すことで、その感情が軽く感じられたり、共感を得ることで安心感を得ることができます。

(ここに、臨床的な追加をします。回復は「感情を出せるようにする」だけでは成立しません。感情が閉じた背景には、必ず“危険”がありました。だから回復は、順序が逆です。
安全が先、感情は後。
安全が身体に入ったとき、感情は自然に戻り始めます。戻るときは、しばしば波のように来ます。だから「うまく感じよう」と頑張るほど、逆に苦しくなることもあります。)

サポートの重要性

サポートの重要性 感情を再び感じ始める過程では、周囲のサポートが非常に大切です。
家族や友人、専門家といった支援を受けることで、感情の波に飲み込まれず、穏やかに対処することができるでしょう。
また、サポートを受けることで、自分が一人ではないという安心感を得られます。
他者からの支えや共感は、感情を再発見し、それを処理していく過程で大きな力となります。
専門家の支援を受けることも大変効果的です。
心理療法やカウンセリングは、感情を適切に表現する方法を学び、感情との健康的な付き合い方を身につける場を提供します。
また、過去のトラウマや抑圧されていた感情を解放するための安全な環境を提供し、回復のプロセスをサポートしてくれます。

(支援は“話を聞いてもらう”だけではなく、神経系にとっての**共同調整(co-regulation)**として機能します。相手の声のトーン、沈黙の質、急かされない時間。それらが「感じても大丈夫」を身体に教えます。)

未来への希望と感情の力

未来への希望と感情の力 感情との健全な付き合い方を学び、再び感情を感じられるようになると、人生に対する希望や明るい展望が生まれます。
感情は私たちを生き生きとさせ、喜びや充実感をもたらす原動力でもあります。
かつて無感情な状態で日々を送っていた人々が、再び感情を取り戻すことで、失われていた生きる意味や喜びを感じられるようになるでしょう。
感情は、人間関係を豊かにし、自己表現を促進します。
感情を正直に表現できることで、他者との関係は深まり、共感や理解が生まれます。
また、感情が動くことで、クリエイティビティや探究心も刺激され、自己実現に向けた新たな一歩を踏み出すことができるでしょう。
感情の力を再び手に入れたとき、その人は自分自身の可能性をさらに広げ、より充実した人生を歩むことができるのです。

(回復とは、昔の自分に戻ることではありません。遮断が必要だった歴史を否定せず、その上で、いまの自分が選べる範囲を増やしていくことです。「無」は敵ではなく、かつてのあなたを守った装置です。だからこそ、回復は“壊す”ではなく、“ほどく”。)

当相談室では、感情がなくなる病気に関するカウンセリングや心理療法を希望される方に対し、ご予約いただけるようになっております。予約は以下のボタンからお進みいただけます。

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【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造