自己肯定感が高い人と低い人の違いとは?自己否定が止まらない原因と、成長に必要なこと

自己肯定感 境界線・自己肯定感

仕事で失敗したとき、誰かに注意されたとき、あるいは自分より優秀な人を目にしたとき、必要以上に落ち込んでしまうことがあります。周囲から見れば小さな出来事でも、本人の中では「自分は何をやってもダメだ」「どうせ誰からも認められない」という思いが広がり、それまで積み重ねてきた努力や成果まで否定したくなるのです。

同じように失敗しても、しばらく落ち込んだあとで気持ちを切り替えられる場合もあれば、何日も自分を責め続けてしまう場合もあります。その違いに深く関係しているのが、自己肯定感です。

自己肯定感とは、自分の長所や能力を認めるだけでなく、欠点や弱さ、思いどおりにできない部分も含めて、自分という存在を受け入れられる感覚です。自分に自信が持てない日や、他人から評価されない日にも、自分を大切にする気持ちが残っていることが、その土台になります。

一方、自己肯定感が低くなると、自分の価値を他人の評価や仕事の成果、人間関係の良し悪しによって判断しやすくなります。人から褒められれば安心できても、少し冷たい態度を取られただけで不安になり、失敗すれば自分の存在そのものが否定されたように感じることもあります。

こうした自己否定の背景には、育ってきた家庭環境、過去の人間関係、繰り返された批判や拒絶の経験など、さまざまな要因が関係しています。自己肯定感がどのように形成され、何によって揺らぎ、どうすれば育て直していけるのかを理解することは、自分との関係を見直す大切なきっかけになります。

Table of Contents

  1. 自己肯定感とは何か|自信や自尊心との違い
  2. 自己肯定感が高い人と低い人の違い
    1. 自己肯定感が高い人は、自分の弱さを受け入れられる
    2. 自己肯定感が低い人は、他人の評価によって自分の価値が揺らぎやすい
  3. 自己肯定感が低い人に見られる特徴と心理
    1. 人の顔色を気にしすぎて、自分の気持ちが分からなくなる
    2. 完璧主義になり、失敗を必要以上に恐れる
    3. 自分で決められず、受動的になる
  4. 自己否定が止まらない原因|なぜ自分を責め続けてしまうのか
    1. 幼少期に条件付きで認められてきた経験
    2. 否定された経験が、心の中の批判的な声になる
    3. いじめやトラウマによって、自分への評価が変わることもある
  5. 自己肯定感が低いと、人間関係や心の健康にどのような影響があるのか
  6. 自己肯定感を高めるには?自分との関係を育て直す方法
    1. 1.自己否定が始まる場面と、そのときの感情を知る
    2. 2.自分を責める代わりに、苦しさを理解する
    3. 3.自分の強みや達成したことを、事実として受け取る
    4. 4.小さなことから自分の意思で決める
    5. 5.安心できる人間関係を増やす
    6. 6.心と身体が休める時間をつくる
  7. 自己肯定感を育てるために必要なのは、自分への信頼を取り戻すこと
  8. まとめ|自己肯定感の高さより、自分をどう扱っているかが大切
  9. 参考文献
    1. ご相談をご希望の方へ

自己肯定感とは何か|自信や自尊心との違い

自己肯定感という言葉は日常的に使われていますが、心理学では、これに近い概念として自尊感情(self-esteem)が研究されてきました。自尊感情とは、自分自身に対する全体的な評価や、自分には価値があると感じられる程度を指します。

自己肯定感と自信は重なる部分があるものの、同じものではありません。自信は「この仕事ならできる」「人前で話すのは得意だ」といった、特定の能力や行動に対する見通しとして表れることがあります。それに対して自己肯定感は、何かができるかどうかにかかわらず、自分を尊重できる感覚に関係しています。

たとえば、仕事で高い評価を受け、多くの成果を残しているにもかかわらず、心の中ではいつも自分に満足できず、少しの失敗で強い自己嫌悪に陥ることがあります。周囲から自信があるように見えても、本人の内側では「結果を出し続けなければ価値がない」という不安が働いているのかもしれません。

心理学者のCrockerとWolfe(2001)は、自尊感情の高さだけでなく、自分の価値を何に結びつけているのかという点に注目しました。学業成績や他人からの承認、容姿など、特定の条件に自己価値が強く依存していると、その条件が満たされるかどうかによって自己評価も変動しやすくなります。

自分の価値を何によって確かめているのか。この問いは、自己肯定感を理解するうえで重要な意味を持っています。

自己肯定感が高い人と低い人の違い

自己肯定感が高い人と低い人の違いは、明るい性格かどうか、積極的に行動できるかどうかだけでは判断できません。普段は控えめで慎重な人でも、自分の気持ちや価値観を大切にできていれば、安定した自己肯定感を持っていることがあります。

違いが表れやすいのは、失敗したときや人間関係がうまくいかないとき、自分の弱さに直面したときです。

  • 失敗したとき: 自己肯定感が高い人は、失敗の原因や改善点を考えやすい一方、低い人は失敗を自分自身の欠陥として受け取りやすくなります。
  • 他人と比較したとき: 高い人は相手の優れた部分を認めながら自分の良さも保ちやすく、低い人は比較するほど劣等感や焦りが強くなることがあります。
  • 批判されたとき: 高い人は相手の意見を検討し、必要な部分を受け取れますが、低い人は人格全体を否定されたように感じやすくなります。
  • 自分の意思を伝えるとき: 高い人は意見の違いや断ることを受け入れやすく、低い人は嫌われることを恐れて相手に合わせすぎる場合があります。

ただし、これらは固定された性格の分類ではありません。自己肯定感はそのときの心身の状態や置かれた環境によっても変動し、特に強いストレスや孤立が続いているときには、普段より自分を否定的に捉えやすくなります。

自己肯定感が高い人は、自分の弱さを受け入れられる

自己肯定感が高い人は、自分の能力や価値観を比較的現実的に把握しています。得意なことには自信を持ちながら、苦手なことについては周囲に助けを求めたり、時間をかけて学んだりすることができます。

その背景には、失敗しても自分の価値が失われるわけではないという感覚があります。人から注意されれば嫌な気持ちになることもありますが、その出来事と自分自身の価値を分けて考えられるため、必要以上に自己否定が広がりにくいのです。

また、自分の欲求や感情を認められることも特徴の一つです。疲れていれば休むことを考え、嫌なことがあれば違和感を大切にし、無理な要求に対しては断る選択肢を持っています。自分の限界を知っているからこそ、他人にも同じように限界や事情があることを理解しやすくなります。

このような自己肯定感は、日々の経験によって少しずつ育っていきます。自分で考えて行動し、その結果を引き受けながら、うまくいった経験も失敗した経験も自分のものとして積み重ねていくことが、自分への信頼につながります。

自己肯定感が低い人は、他人の評価によって自分の価値が揺らぎやすい

自己肯定感が低いと、自分がどう感じているかよりも、周囲からどう思われているかが気になりやすくなります。相手の表情や声の調子、返事の速さ、ちょっとした言葉の変化まで注意深く読み取り、その反応から自分の価値を判断しようとすることがあります。

たとえば、職場で上司から注意されたあと、指摘された内容について考えるだけでなく、「自分は嫌われているのではないか」「もう期待されていないのではないか」と不安が広がります。帰宅してからも会話を何度も思い返し、相手の言葉の意味を考え続けてしまうこともあるでしょう。

こうした状態では、自分を認めるために常に何らかの根拠が必要になります。仕事で成果を出すこと、人から好かれること、誰かの役に立つこと、問題を起こさないことなどが、自分の価値を確認するための条件になっていきます。

努力家で責任感が強く、周囲への気配りができる人にも、このような苦しさが隠れていることがあります。外側では十分に力を発揮していても、内側では「もっと頑張らなければ認められない」という緊張が続いているのです。

自己肯定感が低い人に見られる特徴と心理

自己肯定感の低さは、単純に自信が持てないという形だけで表れるわけではありません。人に頼れない、断れない、完璧を求めすぎる、失敗が怖くて行動できないなど、日常生活のさまざまな場面に影響することがあります。

人の顔色を気にしすぎて、自分の気持ちが分からなくなる

相手の期待に応えようとする気持ちが強いと、自分の希望よりも周囲の反応を優先することが習慣になっていきます。

友人から誘われたとき、本当は休みたくても断れない。職場で仕事を頼まれると、自分の予定がいっぱいでも引き受けてしまう。相手が不機嫌になると、自分に原因があるのではないかと考え、何とか機嫌を直してもらおうとすることもあります。

こうした行動の背景には、人との関係を失いたくないという不安が関係している場合があります。特に、家庭の中で親の機嫌に左右されたり、自分の希望を伝えても受け入れられなかったりした経験があると、相手に合わせることが安心を保つ方法として身につくことがあります。

その状態が長く続けば、自分が何をしたいのか、何を嫌だと感じているのかさえ分からなくなっていきます。自己肯定感を育てるためには、他人の気持ちを理解することと同じように、自分自身の感覚にも注意を向ける必要があります。

完璧主義になり、失敗を必要以上に恐れる

自己肯定感が低いからといって、努力が苦手になるとは限りません。むしろ、失敗することへの恐怖から、人一倍頑張り続けることもあります。

仕事のミスを防ぐために何度も確認する。人に迷惑をかけないよう、必要以上に準備する。十分な成果を出しても満足できず、次に失敗する可能性ばかり考えてしまう。その結果、周囲からは真面目で優秀だと評価されていても、本人には達成感が残りません。

こうした完璧主義の奥には、自分に厳しくしていれば失敗や批判を避けられるという期待が隠れていることがあります。ところが、どれほど努力しても不安が消えない場合、自分に求める基準はさらに高くなり、休むことや人に頼ることにも罪悪感を覚えやすくなります。

自分で決められず、受動的になる

自分の判断に自信が持てないと、何かを選ぶ場面で強い不安が生じることがあります。間違った選択をして後悔することや、誰かから責められることが怖くなり、自分で決めるよりも相手の意見に従うほうが安心できるようになるのです。

こうした受動性には、過去の経験が影響している場合があります。自分の意見を言うたびに否定されたり、何をしても細かく訂正されたりする環境では、自分で考えることよりも、相手が求める正解を探すことに意識が向きやすくなります。

やがて、新しいことに挑戦する前から失敗を想像し、行動を避けるようになることもあります。しかし、行動しない時間が長くなるほど、自分で選んで物事を進めたという経験が増えにくくなり、ますます自信を持ちにくくなります。

自己肯定感と主体性は、このように互いに影響し合っています。

自己否定が止まらない原因|なぜ自分を責め続けてしまうのか

自己否定が強いとき、頭では「そこまで気にしなくてもいい」と分かっていても、気持ちが追いつかないことがあります。周囲から励まされても、自分の欠点や失敗ばかりが浮かび、良い言葉を素直に受け取れないのです。

このような自己否定を理解するには、現在の考え方だけでなく、これまで自分がどのように扱われ、何を大切にして生きてきたのかを振り返ることも役立ちます。

幼少期に条件付きで認められてきた経験

子どもは、身近な大人との関係を通して、自分がどのような存在なのかを学んでいきます。失敗したときに励ましてもらい、悲しいときに気持ちを受け止めてもらい、自分の意思を尊重される経験を重ねることで、自分には大切にされる価値があるという感覚が育まれます。

一方、成績が良いときだけ褒められたり、親の期待に応えたときだけ優しくされたりする環境では、自分の価値を成果や従順さと結びつけるようになることがあります。

たとえば、テストで90点を取っても「なぜ100点ではないのか」と言われ続ければ、達成したことよりも足りなかった部分に意識が向くようになります。自分の意見を伝えるたびに否定された経験が重なれば、何かを言う前に「間違っているかもしれない」と考える習慣が身につくこともあるでしょう。

もちろん、自己肯定感の低さがすべて幼少期の家庭環境によって決まるわけではありません。生まれ持った気質や、その後の学校生活、友人関係、職場での経験なども関係します。ただ、幼い頃から繰り返された関わり方は、自分を評価する際の基準に長く影響する場合があります。

親との関係が現在の生きづらさにつながっている場合は、母親との関係や家庭環境が心に与える影響について考えることも、自分を理解する手がかりになります。

否定された経験が、心の中の批判的な声になる

長いあいだ批判や拒絶を経験していると、実際には誰からも責められていない場面でも、自分を厳しく評価するようになることがあります。

「こんなこともできないのか」「もっとしっかりしなければ」「自分なんかが意見を言ってはいけない」。こうした言葉が自然に浮かぶようになると、外側に厳しい人がいなくても、心の中で絶えず自分を監視しているような状態になります。

精神分析的に考えると、過去に向けられた批判的な態度が内面化され、自分自身に対する厳しい要求として働く場合があります。かつて周囲から傷つけられた経験が、今度は自分で自分を責めるという形で繰り返されるのです。

その一方で、自己批判には、自分を守ろうとする働きが含まれていることもあります。他人から責められる前に自分の欠点を見つけておけば、失敗を防げるかもしれない。自分に厳しくしていれば、見捨てられずに済むかもしれない。そのような経験から身についた考え方が、現在も働き続けているのかもしれません。

ただ、自己批判によって一時的に安心できても、長い目で見れば自分への信頼は育ちにくくなります。自己否定が止まらないときには、自分を責めている言葉の内容だけでなく、その言葉を使って何を防ごうとしているのかを理解することも重要です。

いじめやトラウマによって、自分への評価が変わることもある

学校でのいじめ、家庭内での暴力、親しい人からの裏切り、職場でのハラスメントなど、繰り返し傷つく経験は、自分自身の見方に影響することがあります。

特に、逃げることが難しい関係の中で否定され続けると、相手の問題として受け止めることが難しくなり、「自分が悪いからこう扱われるのだ」と考えるようになる場合があります。

また、過去の経験と似た雰囲気や声の調子に触れたとき、身体が先に緊張したり、胸が苦しくなったりすることもあります。そうした反応のあとで「自分は弱い」「またうまくできなかった」と自分を責めると、過去の傷つきと現在の自己否定が結びつき、苦しさが大きくなっていきます。

トラウマが関係している場合には、安心できる環境を整えながら、心身の反応を理解し、自分への否定的な見方を少しずつ見直していくことが大切です。

自己肯定感が低いと、人間関係や心の健康にどのような影響があるのか

自己肯定感は、自分自身との関係だけでなく、他人との関わり方にも影響します。

恋人からの返信が遅いとき、友人がいつもより静かなとき、職場の人が忙しそうにしているとき、本来はさまざまな理由が考えられます。しかし、自分には愛される価値がないという思いが強いと、その曖昧な状況を「嫌われたのかもしれない」「自分が何か悪いことをしたのだろう」と解釈しやすくなります。

不安が強くなると、相手に何度も確認したり、嫌われないように過剰に尽くしたりする場合があります。反対に、傷つくことを避けるため、親密になる前から距離を取ってしまうこともあります。

HarrisとOrth(2020)は、自己評価と人間関係についての縦断研究を統合し、良好な人間関係がその後の自尊感情と関連する一方、自尊感情もその後の人間関係に関係していることを示しました。

つまり、人との関係が自分への見方に影響し、自分への見方が人との関係にも影響するという、双方向のつながりがあるのです。自己肯定感を育てるために、自分を大切に扱ってくれる人との関係が重要になるのも、このような背景があります。

人付き合いの中で自分を見失いやすい場合は、対人関係の悩みと心理的な背景についても理解を深めることができます。

さらに、低い自尊感情は抑うつや不安とも関連しています。SowisloとOrth(2013)は、複数の縦断研究を分析し、自尊感情の低さが、その後の抑うつ症状の強まりを予測する傾向を報告しています。

この結果は、自己肯定感だけで心の健康が決まるという意味ではありません。生活上のストレス、身体的な健康状態、社会的な孤立など、さまざまな条件が関係しています。それでも、自分を否定し続けることが心理的な負担につながり得るという点は、見過ごせない問題です。

自己肯定感を高めるには?自分との関係を育て直す方法

自己肯定感を高めようとすると、自分の良いところを探したり、前向きな言葉を繰り返したりする方法が思い浮かぶかもしれません。そうした方法が役立つ場合もありますが、長年にわたって自己否定を繰り返してきた場合には、自分を肯定する言葉そのものが受け入れにくいこともあります。

Woodら(2009)の研究では、自尊感情の低い参加者が強い肯定的な言葉を繰り返したとき、かえって気分が悪化する場合があることが示されました。

自分の内側で「そんなはずはない」と感じているのに、無理に「私は素晴らしい」「私は価値のある人間だ」と言い聞かせようとすると、その言葉と現在の自己認識との間に大きな隔たりが生じることがあります。

そのため、自己肯定感を育てる際には、今の自分が無理なく受け入れられるところから始めることが大切です。

1.自己否定が始まる場面と、そのときの感情を知る

まずは、自分がどのような場面で自己否定を始めるのかを観察してみます。

仕事で注意されたあとに落ち込むのか、人と比較したときに焦りが強くなるのか、誰かから返事が来ないときに不安になるのか。出来事を振り返りながら、そのとき頭に浮かんだ言葉や身体の反応にも注意を向けてみましょう。

たとえば、上司から注意されたあとに「自分は何をやってもダメだ」と感じたなら、実際に起きた出来事と、自分について下した評価を分けて考えてみます。

注意されたのは仕事の一部分についてであり、自分の能力や人間性のすべてが評価されたわけではありません。そうした区別を重ねることで、一つの失敗から自分全体を否定する考え方に、少しずつ気づけるようになります。

自己否定が強いときほど、すぐに前向きな結論を出そうとするよりも、何が起きて、何を感じ、どのような意味づけをしたのかを丁寧に整理することが役立ちます。

2.自分を責める代わりに、苦しさを理解する

失敗したときや落ち込んだとき、親しい友人に対してならどのような言葉をかけるでしょうか。事情を聞いたり、相手がどれほど頑張っていたのかを考えたり、今は少し休んでもよいと伝えたりするかもしれません。

ところが、自分自身に対しては「もっと頑張れたはずだ」「こんなことで落ち込むなんて情けない」と、厳しい言葉を向けてしまうことがあります。

このようなときに役立つ考え方が、セルフ・コンパッション(自分への思いやり)です。これは、自分が苦しいときに、その苦しさを認め、理解し、必要な配慮を向ける態度を指します。

NeffとGermer(2013)は、セルフ・コンパッションを育てるプログラムを検証し、参加者の自己への思いやりや心理的なウェルビーイングに改善が見られたことを報告しています。

日常生活でも、「今日は思うようにできなかったけれど、かなり疲れていた」「失敗して悔しいのは、それだけ大切に取り組んでいたからだろう」と、自分の置かれている状況を理解する言葉を使うことができます。

大切なのは、失敗の責任を曖昧にすることよりも、失敗を振り返るときに自分を傷つける必要があるのかを考えることです。自分への態度が少し穏やかになることで、改善すべき点についても落ち着いて考えやすくなります。

3.自分の強みや達成したことを、事実として受け取る

自己肯定感が低いと、うまくできたことよりも失敗したことのほうが記憶に残りやすくなります。仕事で多くの課題を終えても、一つのミスが気になり、その日の努力を十分に認められないことがあります。

そのため、日々の生活の中で自分が行ったことを、できるだけ具体的に振り返ってみましょう。

「今日は予定していた仕事を一つ終えた」「難しい話し合いで自分の意見を伝えた」「疲れていたので無理をせず休んだ」といった小さな出来事でも構いません。評価や感想を加える前に、実際にできたことをそのまま確かめていきます。

自分を褒めようとしても抵抗がある場合には、無理に良い評価を付ける必要はありません。自分が何をして、どのように過ごしてきたのかを正確に把握することから始めるほうが、受け入れやすい場合もあります。

これまで当たり前だと思っていた努力や工夫を見直していくと、自分への評価が少しずつ現実に近づいていきます。

4.小さなことから自分の意思で決める

自己肯定感を育てるうえで、自分の意思を使う経験は大切です。

他人に合わせることが習慣になっていると、自分の気持ちを確かめる前に、相手が何を望んでいるかを考えてしまいます。そのため、まずは日常の小さな選択から、自分の感覚に注意を向けることを始めてみましょう。

昼食に何を食べたいのか、休日はどこで過ごしたいのか、疲れているときに人との約束をどうするのか。そうした場面で、周囲の期待とは別に、自分の希望を確かめてみます。

また、頼まれたことをすぐに引き受ける代わりに、「少し考えてから返事をします」と伝えることも一つの方法です。相手との関係を大切にしながら、自分の都合や気持ちを考える時間を持てるようになります。

自分で決めて行動した経験が増えると、自分の判断に対する信頼も少しずつ育っていきます。ときには選択を間違えることもありますが、その経験を次の判断に生かしていくことが、主体性の回復につながります。

5.安心できる人間関係を増やす

自己肯定感は、心の中だけで育てるものではなく、他人との関係の中でも育まれていきます。

自分の意見を伝えたときに最後まで話を聞いてもらえること、失敗したときにも尊重してもらえること、困ったときに助けを求められること。こうした経験を積み重ねると、人との関係に対する安心感が少しずつ増していきます。

一方、いつも批判されたり、意見を否定されたり、相手の機嫌に振り回されたりする関係では、自分への信頼を保つことが難しくなる場合があります。そのため、自分が誰といるときに自然に過ごせるのか、どのような関係の中で緊張が強くなるのかを振り返ることも重要です。

相手に合わせ続ける関係から、自分の気持ちも大切にできる関係へと変えていくことは、自己肯定感を育てるうえで大きな意味を持ちます。

6.心と身体が休める時間をつくる

自己否定が強くなる背景には、慢性的なストレスや疲労が関係していることもあります。十分に眠れていない日や、仕事で強い緊張が続いているときには、物事を悲観的に捉えたり、自分への評価が厳しくなったりすることがあります。

特に、幼少期から人の機嫌を気にしてきた場合や、トラウマに関係する反応が続いている場合には、身体の緊張がなかなか抜けず、休んでいても落ち着かないことがあります。

そのようなときには、気持ちを変えようとすることに加えて、生活の中に安心できる時間を取り戻していくことも役立ちます。落ち着ける場所で過ごす、疲れを感じたら作業を中断する、心地よい服を選ぶ、無理のない範囲で散歩やストレッチをするなど、自分の状態に合った方法を選んでみましょう。

自分が何をすると楽になるのか、どのような環境で安心できるのかを知ることは、自分自身を理解する一つの方法です。日常の中で自分の身体や感情を大切に扱う経験を増やしていくことが、自己肯定感を支える生活の土台になります。

自己肯定感を育てるために必要なのは、自分への信頼を取り戻すこと

自己肯定感を高めようとしても、すぐに変化を感じられないことがあります。長年、自分を責めることで失敗を避けたり、他人に合わせることで関係を守ってきたりした場合、その習慣を変えるには時間が必要です。

特に、これまで自分の気持ちを抑えて生きてきた人にとって、自分の希望を伝えたり、誰かの期待に応えない選択をしたりすることは、大きな不安を伴う場合があります。

そのため、自己肯定感の成長は、いつも前向きでいられるようになることよりも、自分の感情や欲求を少しずつ理解し、それを尊重できるようになる過程として考えることが大切です。

以前なら自分を責め続けていた場面で、少しだけ気持ちを切り替えられた。人に合わせる前に、自分がどうしたいのかを考えられた。失敗したあとも、必要以上に自分を否定せず、次の行動を選ぶことができた。そのような変化は、自己肯定感が育ち始めている一つの表れと考えられます。

また、自己否定が強く、過去の傷つきや不安が繰り返し浮かぶ場合には、カウンセリングなどの専門的な支援を利用することも選択肢になります。自分を責める考え方がどのように形成されたのかを整理し、安心できる関係の中で感情や身体の反応に向き合うことが、回復につながる場合があります。

トラウマや慢性的な緊張が背景にある場合には、心の回復とトラウマケアの進め方についても参考にしてください。

まとめ|自己肯定感の高さより、自分をどう扱っているかが大切

自己肯定感が高い人と低い人の違いは、失敗や他人からの評価に直面したとき、自分をどのように受け止めるかに表れやすくなります。

自己肯定感が高い人は、自分の長所も短所も現実的に理解し、うまくいかないときにも自分への信頼を保ちやすい傾向があります。一方、自己肯定感が低い人は、自分の価値を成果や他人の評価に結びつけやすく、失敗や批判をきっかけに強い自己否定が生じることがあります。

その背景には、家庭環境や過去の人間関係、繰り返された批判や拒絶の経験などが関係している場合があります。自分を厳しく評価することが、かつては傷つかずに生きるための方法だったとしても、今の生活では自分を苦しめる習慣になっていることもあるでしょう。

自己肯定感を育てるためには、そうした心の働きを理解し、自分の気持ちを確かめながら、小さな選択を積み重ねていくことが大切です。安心できる人間関係や、自分を思いやる態度を育てていくことも、その助けになります。

そして、自己肯定感が育ってくると、他人から認められることだけを頼りにしていた生活から、自分自身の感覚や価値観を大切にする生活へと、少しずつ変化していきます。

失敗した自分も、弱っている自分も、思うようにできない自分も、同じように大切に扱っていくこと。 その積み重ねが、自分への信頼を取り戻し、より自分らしい生き方を選んでいくための土台になるのです。


参考文献

  1. Crocker, J., & Wolfe, C. T. (2001). Contingencies of self-worth. Psychological Review, 108(3), 593–623. https://doi.org/10.1037/0033-295X.108.3.593
  2. Harris, M. A., & Orth, U. (2020). The link between self-esteem and social relationships: A meta-analysis of longitudinal studies. Journal of Personality and Social Psychology, 119(6), 1459–1477. https://doi.org/10.1037/pspp0000265
  3. Sowislo, J. F., & Orth, U. (2013). Does low self-esteem predict depression and anxiety? A meta-analysis of longitudinal studies. Psychological Bulletin, 139(1), 213–240. https://doi.org/10.1037/a0028931
  4. Wood, J. V., Perunovic, W. Q. E., & Lee, J. W. (2009). Positive self-statements: Power for some, peril for others. Psychological Science, 20(7), 860–866. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2009.02370.x
  5. Neff, K. D., & Germer, C. K. (2013). A pilot study and randomized controlled trial of the Mindful Self-Compassion program. Journal of Clinical Psychology, 69(1), 28–44. https://doi.org/10.1002/jclp.21923

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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