深い闇を抱えている人にとって、華やかで美しい街並みを眺めることは、しばしば複雑な感情を引き起こします。周囲が光に満ち溢れている中で、自分だけが暗闇に囚われているように感じることがあります。彼らは、自分が周りとは正反対の存在であり、他の人々と同じように寄り添うことや、普通の幸せを手に入れることが困難であると感じることがあります。
それでも、彼らは諦めずに自らの夢や目標に向かって進もうと努力します。病気に打ち勝とうとし、どんなに辛い状況でも前向きに頑張ろうとする心は、非常に強く勇敢です。しかし、鏡に映る自分の姿を見ると、その深い闇が自分自身に映り込んでいるように感じられることがあります。これは、自己との闘いが続いていることの表れであり、内面の苦悩と向き合っている証です。
深い闇を抱えた人々
深い闇を抱えた人々は、過去に経験した虐待、性暴力、いじめといった人間としての尊厳を傷つけるようなトラウマによって、非常に複雑な心理的、身体的な症状を示すことがあります。これらの経験は、深刻な心の傷となり、様々な精神障害を引き起こす原因となることがあります。
具体的には、複雑性PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)、解離性同一性障害(以前は多重人格障害とも呼ばれていた)、境界性パーソナリティ障害、統合失調症などが挙げられます。これらの症状は、日常生活に大きな影響を及ぼし、人間関係、職業活動、さらには自己のアイデンティティにも深刻な問題を引き起こすことがあります。
影の中の自己:孤独な魂の物語
彼らは幼い頃から孤独感に包まれ、他人が享受するような普通の幸せから取り残された人生を送ってきました。彼らにとって、自分の運命はまるで呪いのように感じられ、幸せに満ちた「光の世界」に住む人々とは違う存在であるという思いが強くあります。彼らは自分自身を「闇」とみなし、周囲の人々の幸福に自分は属していないと感じるため、自分が経験する苦痛や悲しみは自己責任であると自らを責めがちです。
このような感覚により、彼らはしばしば自分自身を愛されるに値しないと感じ、生きる価値がないと思い込みます。その結果、自分に対して厳しく接し、自分を追い詰めてしまうことがあります。彼らにとって、自分の苦しみは当然のことであり、それを受け入れることが自分の運命だと信じ込んでいます。
内面の苦悩、現実感の喪失、自己との分裂
深い心の苦しみを抱えている人々は、この世界に対して強い不信感を持っており、その苦痛は時に非常に大きなものとなります。彼らは、全身にさまざまな症状が現れ、感情や行動をコントロールすることが困難になることがあります。ストレスに対して非常に脆弱で、自己を支配する能力が失われていく中で、体が捻じれるような感覚や、バラバラになりそうな感覚に苦しむことがあります。これは、心理的な崩壊に直面しているような状態と言えます。
また、彼らは危険な状況に直面した際に、フリーズして動けなくなることがあり、その結果、何度も被害に遭うことがあります。これは、彼らが常に危険に備え、周囲の環境に対して過敏に反応しているためです。不安定な状態で、常に傷つけられることや被害妄想に苛まれることもあります。
複雑なトラウマを抱える人々は、幻聴によって、見知らぬ人物に話しかけられたり、聞いたことのない声で呼ばれたりすることがあり、これは非常に不気味な感覚を引き起こします。解離や離人症の症状では、彼らはまるで雲の中を旅しているかのように現実から遠ざかり、自己から距離を置くことになります。これにより、自分自身と向き合うことや、自分の分身との対話、またはもう一人の自分が一方的に話しているのを聞くことがあります。
情動的な人格部分の二極的な性質
複雑なトラウマを経験し、構造的解離を持つ人々は、日常生活の中で「正常」に見える人格部分と、時折現れる情動的な人格部分との間で、共存や交代が起こることがあります。このような状態は、彼らが経験したトラウマに対処するための心の防衛機制として発展したものです。通常、情動的な人格部分(身体パーツ)は二極的な性質を持ち、例えば「優勢な残酷さ」と「脆弱な傷つき」のように、対照的な特徴を示します。これらの極端な特徴は夢の中で表れることが多く、時には現実の行動や感情にも影響を与えます。
彼らは自分の心の痛みを理解しているものの、日常生活を送る上で平常心を保つために、その痛みを心の奥底に隠しています。この「脆弱な傷つき」は、内面に抑え込まれた心の痛みの声であり、身体のさまざまな場所で助けを求め、泣き叫んだり暴れたりすることがあります。これは、彼らが経験したトラウマや苦痛を表現する方法です。
一方、「優勢な残酷さ」は、彼らのセルフの暗黒部分のようなもので、この人格部分は痛みや苦しみを暴力や攻撃的な行動に変えてしまうことがあります。これは、彼らが感じる無力感や怒りを対外的に表現する方法となっています。これらの対照的な人格部分の存在は、彼らがトラウマにどのように対応しているかを示しており、内面の葛藤や苦痛を理解する上で重要です。
無情さと深い闇の対話
複雑なトラウマを抱え、構造的解離を経験した人々は、自己と向き合う際に深い苦悩を感じます。彼らが心の中にある「鏡」に目を向けると、そこには情動的な人格部分が活性化し、暗闇のような深い痛みが映し出されます。自分を見つめ直すたび、彼らは理想から遠く離れた現実を目の当たりにし、その現実は苦痛と悲しみに満ちています。
この苦悩が増していくにつれて、彼らは世界に対する絶望感を深め、さらに暗闇の深淵へと引き込まれていきます。この過程で、自分自身に無情で冷酷な態度を取り始め、自己攻撃的な行動を繰り返すことが少なくありません。この無情さは、彼らの傷ついた側面や自己攻撃の傾向から生まれ、自らを否定し、消し去りたいという衝動に駆られます。
その内なる声は、しばしば次のように響きます。「何度も君を傷つけ、終わらせようとした。それでも君は生き続けている。いつも ‘死にたい’ と願っているのに、なぜ実際に死なないのだ?君の存在が周りに迷惑をかけていると感じているのではないか。本当に死にたいなら、なぜ今すぐ死なないのか?」
しかし、この内なる対話において、暗闇の側はこう応じます。「今すぐにでも消えても構わない。でも、私がいなくなれば、あなたはどうなる?困るのはあなた自身ではないのか?」
「何を言っているんだ?君がいるから僕たちはこんなに苦しんでいるんだ。」
「本当にそうだろうか?私がいなくなれば、あなたは一時的に楽になるかもしれない。しかし、その輝きは長続きしない。光は暗闇があるからこそ輝く。暗闇が深ければ深いほど、光はより鮮明に見えるのだ。だから私はここにいる。あなたを支えるために、この暗闇と共にいるんだ。私がいなくなれば、あなたは一体どうする?」
この対話は、彼らの心の中で繰り返される葛藤を象徴しています。暗闇と光の対立は、内面的な苦しみの深さと、それを乗り越えるために必要なバランスの探求を示唆しています。彼らはこの絶え間ない対話の中で、自分自身をどう受け入れるか、どのように共存していくかを模索しているのです。
心の闇が深い人の苦悩
無情な神のような存在であっても、人間の愛情と思いやりによって変わりうる可能性を秘めています。これは、愛と共感が持つ癒しの力の象徴であり、希望を見出すべき瞬間です。しかし、この存在が人間らしい扱いを受けない場合、その神性は徐々に腐敗し、光をもたらすはずの存在が、闇の使者としての本性を露わにします。この闇の使者は、人間の純粋な精神とは対照的な、罪深く破壊的な存在となり、内面的な葛藤を象徴するのです。
この闇の使者、もはや悪魔へと成り果てた存在は、自己の内に深く埋もれた苦痛を映し出します。その悪魔的な側面は、苦しみを抱える人々を描写するかのように、彼らの心を縛り、支配します。
「あなたが暴力を行使するたび、私はあなたの支配下にあることを感じます。あなたの内なる闇が私を包み込み、自由を奪います。あなたの闇に操られ、私は自分の意志に反する行動を強いられ、自己のコントロールを失ってしまいます。喜びや平和を望んでも、あなたの闇に押し潰され、心も体も限界に達しています。
なぜ、あなたはその暗闇を背負い続けるのでしょうか?なぜ、私たち二人にとっての苦痛となるこの闇を手放さず、抱え続けるのですか?時には、あなたは私の命すら奪おうとしますが、その行為にどんな意味があるのでしょうか?あなたが私を傷つけるたびに、あなた自身も同じ苦しみを受けているはずです。そんな自己破壊を続けることで、何を得ようとしているのですか?」
悪魔の囁きからの解放と心の守り方
悪魔のような存在は、自らが信じることや幸せを拒絶し、深い恨みや怒りに囚われています。その心の中には、「お前が逃げなかったせいで、私はお前の代わりに長い間苦しみ続けた。だから、お前は死ぬまでその苦しみを味わうべきだ」というような強烈な敵意が渦巻いています。悪魔は、過去の苦痛やその原因となった人々や状況に対して、絶えず復讐心を抱いています。
このような敵意に満ちた心理状態に陥ると、自分自身を見失い、内なる悪魔に支配されてしまう危険があります。そうならないためには、まず自己を守ることが何よりも重要です。これは、心や体が傷つく環境から自分を遠ざけ、安心できる場所を探すことを意味します。しかし、厳しい環境から抜け出すことが難しい場合、人は心を守るために解離状態に陥ることがあります。
解離状態は、現実の苦しみから自分を切り離すための心理的防衛メカニズムです。しかし、自己の一部がその苦しみを背負うことで、さらなる痛みを引き起こす可能性があります。こうした心理的苦悩を抱えないようにするためには、早い段階で自己防衛のためのステップを踏むことが不可欠です。
この防衛には、心理的サポートを求めることや、自分の感情や体験を適切に処理するための技術を学ぶことが含まれます。また、自分を守る安全な環境を見つけることで、解離状態に陥るリスクを大幅に軽減できます。心の健康を保つためには、日々の努力が必要です。自己を守る技術を身につけることは、長期的な回復と成長のために欠かせない鍵となるのです。
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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-2-18
論考 井上陽平
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