あなたの身体は、危険が去ったあとも、世界を「まだ危ない場所」として読み続けることがある。
本人は「もう大丈夫なはず」と分かっている。
けれど、胸が詰まる。肩が固まる。考えが止まる。眠れない。疲れが抜けない。
このズレは、意思の弱さでも、気合い不足でもない。
身体が、古い地図のまま生きているということだ。
ここでは、その反応が「日常」でどんな形で出るのかを、丁寧に描き直す。
読みながら「これ、私のことだ」と一致する部分があるなら、それは“欠陥”の証拠ではない。
あなたの神経が、長く生き延びてきた証拠だ。
神経は三つの道を行き来する:過覚醒・凍結・シャットダウン
過覚醒:眠れない、休めない、周囲を点検し続ける
過覚醒は、心拍を上げ、視線を鋭くし、他者の気配を一瞬で測ろうとする。
森で獣に囲まれた子鹿のように、あなたは眠れず、休めず、常に周囲を点検する。
日常では「敏感」「気にしすぎ」「考えすぎ」と言われがちだ。
しかし内側では、神経が“警備モード”を解除できない。
空気を読む、先回りする、失敗を避ける、相手の機嫌を読み取る――
それらが癖ではなく、安全確保の仕事になっている。
凍結:逃げられないとき、身体は石になる
逃げられないとき、身体は石になる。
声は出ず、息は浅く、時間だけが遠のく。
砂漠で固まった塩の柱のように、動けないまま耐える。
「動けない」「言えない」「決められない」が前面に出る。
頭は冷静なつもりでも、体だけが止まる。
この“止まり”は怠けではない。
生存のためのブレーキだ。
シャットダウン:感情の灯が落ちる、深い水底に沈む
すべてが多すぎるとき、感情の灯が落ちる。
世界は遠く、身体は重く、あなたは深い水底に沈む。
これは怠けではなく、命を守るための最後の避難所だ。
シャットダウンは「無」や「疲労」の顔をして現れる。
泣けない、喜べない、動けない。
でもそれは“壊れた”のではなく、これ以上の刺激を入れないための退避だ。
とくに、日常的に肩や顎が固く、休んでいるはずなのに休めない人は、ベースライン自体が過緊張に傾いていることが多い。タスクや人間関係が「作業」ではなく「危険刺激」として立ち上がりやすくなる背景がここにある。
※過緊張と神経系の理解はこちら:
https://trauma-free.com/hyper-tension-nervous-system/
内側の世界:厳格な守護者と、傷ついた子ども
臨床心理は長くこの仕組みを見つめてきた。
内的世界には、あなたを守ろうとする厳格な守護者がいる。
危険を感じるたびに扉を閉め、近づくものすべてを遠ざける。
その声はときに冷酷だが、もとは「これ以上傷つかせたくない」という願いから生まれている。
同時に、内側には二つの声がいる。
ひとつは「近づくな」と叫ぶ守護者。
もうひとつは「触れてほしい」とささやく傷ついた子ども。
あなたの生きづらさは、この二人のあいだで引き裂かれてきた歴史でもある。
近づけば古い恐怖が目覚め、離れれば孤独が疼く。
親との距離をめぐる葛藤も、ここに根を持つ。
あなたは悪いのではない――それほど深い傷を抱えてきただけだ。
発達の視点:早く大人にならざるを得なかった子ども
発達の視点から見ると、あなたは十分に守られた子どもではなく、早く大人にならざるを得なかった子どもだった。
安心の土台が細かったため、身体はいつも緊張し、心は「失敗=危険」と学んだ。
“ちゃんとしている自分”は、ただの性格ではない。
それは、混乱の中で秩序を保つための習慣だった。
そしてその習慣は、大人になってからも自動で走る。
危険がない場面でも、身体だけが警戒を続けてしまう。
身体の記憶:未完了の防衛反応が、いまも呼吸を浅くする
身体志向のトラウマ理論は、これを「未完了の防衛反応」と呼ぶ。
逃げたかったのに逃げられなかったエネルギーが、肩や胸、喉に凍りつき、いまも呼吸を浅くしている。
電車やレジでの緊張は、現在の出来事ではなく、過去の身体記憶が目を覚ます瞬間だ。
つまり、あなたは「今」を生きているのに、身体だけが「昔の場所」に立ってしまう。
そのズレが、生きづらさの正体になる。
これが「日常」でどう出るか:場面別の具体像
通勤電車:過覚醒が顔を出す
混んだ車内で、実際には誰もあなたを責めていないのに、
「邪魔していないか」「変に思われていないか」と神経が勝手に走り出す。
頭は何も考えていないつもりでも、肩は固まり、呼吸は浅く、帰宅後にどっと疲れが出る。
これは性格の問題ではない。
身体がまだ“危険地帯”にいるつもりになっている反応だ。
過覚醒は「恥をかかないように」「攻撃されないように」あなたを守っている。
守り方が過剰になっているだけで、あなたが弱いわけではない。
関連:何もしないと不安になる理由|機能不全家庭と慢性的過覚醒の心理構造
https://trauma-free.com/cannot-rest-dysfunctional-family/
レジ・人混み:凍結が忍び寄る
後ろに人が並ぶと、手がこわばり、小銭がうまくつかめなくなる。
「早くしなきゃ」と思えば思うほど、身体が固まり、動きが遅くなる。
頭では冷静でも、体だけが止まってしまう。
これは弱さではない。
昔の記憶が再生されているだけだ。
「急げ」「迷惑をかけるな」という圧が、身体に“逃げ場のない感じ”を作ると、凍結は起きやすい。
凍結はあなたを守るために、いったん世界との接触を減らしている。
関連:凍結反応の神経メカニズム|強直性不動(Tonic Immobility)はなぜ起こるのかhttps://trauma-free.com/freezing/
仕事中の突然の息苦しさ:小さなシャットダウン
忙しくない時でも、急に胸が詰まり、マスクを何枚も重ねたように息が入らなくなる。
肩が重く、視界が遠くなり、世界が少し薄くなる。
これは「疲れたから」だけではない。
神経が限界を感じた瞬間の緊急ブレーキだ。
シャットダウンは“倒れる前に落とす”反応であり、最後の避難所である。
関連:シャットダウン/停止反応の整理
https://trauma-free.com/shutdown-freeze-recovery/
大きな音:過去が混ざる(驚愕と過覚醒)
トラックの急ブレーキや警笛が鳴った瞬間、理屈を超えて身体が跳ねる。
いま目の前の音よりも、子どもの頃の恐怖が先に反応してしまう。
距離を置いたら楽になったという経験は、あなたの神経が安全を取り戻しつつある証拠でもある。
「音に敏感だからダメ」ではなく、神経がまだ“警戒の地図”を使っているだけだ。
親のことを考えるだけで凍る:思考停止という防衛
話し合おうと想像するだけで、胸が締まり、疲労が押し寄せ、考えること自体をやめてしまう。
これは逃げではない。
身体が「これ以上は危険」と判断している合図だ。
ここには「近づけば恐怖」「離れれば孤独」という葛藤がある。
だから、思考が止まるのは不思議ではない。
それは、内側の守護者が扉を閉める瞬間でもある。
関連:崩れ落ちる回路(虚脱・落ち込み)
https://trauma-free.com/collapse/
ひとつの芯
日常のしんどさは、「あなたが考えすぎている」からではなく、
神経がまだ安全を信じきれていないことから生まれている。
過覚醒はあなたを守ろうとし、
凍結はあなたを壊れないように支え、
シャットダウンは命を守る最後の砦だった。
問題なのはあなたではなく、まだ緊張したままの神経系――それだけだ。
それでも、いまあなたは少しずつ動いている。
凍った指先がわずかに震え、胸に空気が入る瞬間が増えている。
人に本音を言っても見捨てられなかった経験は、神経系に「世界は完全な敵ではない」という新しい記憶を刻みつつある。
生きづらさは、欠陥ではない。
それは長く生き延びてきた証であり、回復の入り口でもある。
あなたの身体は、まだ安全を学び直している途中なのだ。
回復の導線
回復は「気合い」ではなく、「安全の再学習」から起きる。
その第一歩は、体が警戒を始めた瞬間に「いまは危険ではない」と小さく知らせることだ。
たとえば、息を一回だけ深くする。
足裏を床に感じる。
指先を1センチ動かす。
それだけでも、神経はわずかに現在へ戻る。
あなたの身体は、危険が去ったあとも、世界を「まだ危ない場所」として読み続けることがある。
本人は「もう大丈夫なはず」と分かっている。
けれど、胸が詰まる。肩が固まる。考えが止まる。眠れない。疲れが抜けない。
このズレは、意思の弱さでも、気合い不足でもない。
身体が、古い地図のまま生きているということだ。
ここでは、その反応が「日常」でどんな形で出るのかを、丁寧に描き直す。
読みながら「これ、私のことだ」と一致する部分があるなら、それは“欠陥”の証拠ではない。
あなたの神経が、長く生き延びてきた証拠だ。
神経は三つの道を行き来する:過覚醒・凍結・シャットダウン
過覚醒:眠れない、休めない、周囲を点検し続ける
過覚醒は、心拍を上げ、視線を鋭くし、他者の気配を一瞬で測ろうとする。
森で獣に囲まれた子鹿のように、あなたは眠れず、休めず、常に周囲を点検する。
日常では「敏感」「気にしすぎ」「考えすぎ」と言われがちだ。
しかし内側では、神経が“警備モード”を解除できない。
空気を読む、先回りする、失敗を避ける、相手の機嫌を読み取る――
それらが癖ではなく、安全確保の仕事になっている。
凍結:逃げられないとき、身体は石になる
逃げられないとき、身体は石になる。
声は出ず、息は浅く、時間だけが遠のく。
砂漠で固まった塩の柱のように、動けないまま耐える。
「動けない」「言えない」「決められない」が前面に出る。
頭は冷静なつもりでも、体だけが止まる。
この“止まり”は怠けではない。
生存のためのブレーキだ。
シャットダウン:感情の灯が落ちる、深い水底に沈む
すべてが多すぎるとき、感情の灯が落ちる。
世界は遠く、身体は重く、あなたは深い水底に沈む。
これは怠けではなく、命を守るための最後の避難所だ。
シャットダウンは「無」や「疲労」の顔をして現れる。
泣けない、喜べない、動けない。
でもそれは“壊れた”のではなく、これ以上の刺激を入れないための退避だ。
とくに、日常的に肩や顎が固く、休んでいるはずなのに休めない人は、ベースライン自体が過緊張に傾いていることが多い。タスクや人間関係が「作業」ではなく「危険刺激」として立ち上がりやすくなる背景がここにある。
※過緊張と神経系の理解はこちら:
https://trauma-free.com/hyper-tension-nervous-system/
内側の世界:厳格な守護者と、傷ついた子ども
臨床心理は長くこの仕組みを見つめてきた。
内的世界には、あなたを守ろうとする厳格な守護者がいる。
危険を感じるたびに扉を閉め、近づくものすべてを遠ざける。
その声はときに冷酷だが、もとは「これ以上傷つかせたくない」という願いから生まれている。
同時に、内側には二つの声がいる。
ひとつは「近づくな」と叫ぶ守護者。
もうひとつは「触れてほしい」とささやく傷ついた子ども。
あなたの生きづらさは、この二人のあいだで引き裂かれてきた歴史でもある。
近づけば古い恐怖が目覚め、離れれば孤独が疼く。
親との距離をめぐる葛藤も、ここに根を持つ。
あなたは悪いのではない――それほど深い傷を抱えてきただけだ。
発達の視点:早く大人にならざるを得なかった子ども
発達の視点から見ると、あなたは十分に守られた子どもではなく、早く大人にならざるを得なかった子どもだった。
安心の土台が細かったため、身体はいつも緊張し、心は「失敗=危険」と学んだ。
“ちゃんとしている自分”は、ただの性格ではない。
それは、混乱の中で秩序を保つための習慣だった。
そしてその習慣は、大人になってからも自動で走る。
危険がない場面でも、身体だけが警戒を続けてしまう。
身体の記憶:未完了の防衛反応が、いまも呼吸を浅くする
身体志向のトラウマ理論は、これを「未完了の防衛反応」と呼ぶ。
逃げたかったのに逃げられなかったエネルギーが、肩や胸、喉に凍りつき、いまも呼吸を浅くしている。
電車やレジでの緊張は、現在の出来事ではなく、過去の身体記憶が目を覚ます瞬間だ。
つまり、あなたは「今」を生きているのに、身体だけが「昔の場所」に立ってしまう。
そのズレが、生きづらさの正体になる。
これが「日常」でどう出るか:場面別の具体像
通勤電車:過覚醒が顔を出す
混んだ車内で、実際には誰もあなたを責めていないのに、
「邪魔していないか」「変に思われていないか」と神経が勝手に走り出す。
頭は何も考えていないつもりでも、肩は固まり、呼吸は浅く、帰宅後にどっと疲れが出る。
これは性格の問題ではない。
身体がまだ“危険地帯”にいるつもりになっている反応だ。
過覚醒は「恥をかかないように」「攻撃されないように」あなたを守っている。
守り方が過剰になっているだけで、あなたが弱いわけではない。
関連:何もしないと不安になる理由|機能不全家庭と慢性的過覚醒の心理構造
https://trauma-free.com/cannot-rest-dysfunctional-family/
レジ・人混み:凍結が忍び寄る
後ろに人が並ぶと、手がこわばり、小銭がうまくつかめなくなる。
「早くしなきゃ」と思えば思うほど、身体が固まり、動きが遅くなる。
頭では冷静でも、体だけが止まってしまう。
これは弱さではない。
昔の記憶が再生されているだけだ。
「急げ」「迷惑をかけるな」という圧が、身体に“逃げ場のない感じ”を作ると、凍結は起きやすい。
凍結はあなたを守るために、いったん世界との接触を減らしている。
関連:凍結反応の神経メカニズム|強直性不動(Tonic Immobility)はなぜ起こるのかhttps://trauma-free.com/freezing/
仕事中の突然の息苦しさ:小さなシャットダウン
忙しくない時でも、急に胸が詰まり、マスクを何枚も重ねたように息が入らなくなる。
肩が重く、視界が遠くなり、世界が少し薄くなる。
これは「疲れたから」だけではない。
神経が限界を感じた瞬間の緊急ブレーキだ。
シャットダウンは“倒れる前に落とす”反応であり、最後の避難所である。
関連:シャットダウン/停止反応の整理
https://trauma-free.com/shutdown-freeze-recovery/
大きな音:過去が混ざる(驚愕と過覚醒)
トラックの急ブレーキや警笛が鳴った瞬間、理屈を超えて身体が跳ねる。
いま目の前の音よりも、子どもの頃の恐怖が先に反応してしまう。
距離を置いたら楽になったという経験は、あなたの神経が安全を取り戻しつつある証拠でもある。
「音に敏感だからダメ」ではなく、神経がまだ“警戒の地図”を使っているだけだ。
親のことを考えるだけで凍る:思考停止という防衛
話し合おうと想像するだけで、胸が締まり、疲労が押し寄せ、考えること自体をやめてしまう。
これは逃げではない。
身体が「これ以上は危険」と判断している合図だ。
ここには「近づけば恐怖」「離れれば孤独」という葛藤がある。
だから、思考が止まるのは不思議ではない。
それは、内側の守護者が扉を閉める瞬間でもある。
関連:崩れ落ちる回路(虚脱・落ち込み)
https://trauma-free.com/collapse/
ひとつの芯
日常のしんどさは、「あなたが考えすぎている」からではなく、
神経がまだ安全を信じきれていないことから生まれている。
過覚醒はあなたを守ろうとし、
凍結はあなたを壊れないように支え、
シャットダウンは命を守る最後の砦だった。
問題なのはあなたではなく、まだ緊張したままの神経系――それだけだ。
それでも、いまあなたは少しずつ動いている。
凍った指先がわずかに震え、胸に空気が入る瞬間が増えている。
人に本音を言っても見捨てられなかった経験は、神経系に「世界は完全な敵ではない」という新しい記憶を刻みつつある。
生きづらさは、欠陥ではない。
それは長く生き延びてきた証であり、回復の入り口でもある。
あなたの身体は、まだ安全を学び直している途中なのだ。
回復の導線
回復は「気合い」ではなく、「安全の再学習」から起きる。
その第一歩は、体が警戒を始めた瞬間に「いまは危険ではない」と小さく知らせることだ。
たとえば、息を一回だけ深くする。
足裏を床に感じる。
指先を1センチ動かす。
それだけでも、神経はわずかに現在へ戻る。
【執筆者 / 監修者】
井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)
【保有資格】
- 公認心理師(国家資格)
- 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)
【臨床経験】
- カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
- 児童養護施設でのボランティア
- 情緒障害児短期治療施設での生活支援
- 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
- 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
- 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
- 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入
【専門領域】
- 複雑性トラウマのメカニズム
- 解離と自律神経・身体反応
- 愛着スタイルと対人パターン
- 慢性ストレスによる脳・心身反応
- トラウマ後のセルフケアと回復過程
- 境界線と心理的支配の構造
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。