ひとりでものすごい悲しみの中を生き抜いてきた人は、
「強かった人」ではありません。
強くならなければ、生き続けられなかった人です。
泣く場所がなかった。
寄りかかる胸がなかった。
悲しみをこぼした瞬間に、
さらに孤立が深まる環境にいた人もいます。
だから悲しみは、
誰かに見せる感情としてではなく、
身体の内側に沈み込むものになっていきました。
息を深く吸えない感じ。
胃のあたりに居座る重さ。
眠っても回復しない感覚。
それらは性格でも体質でもなく、
表に出る場所を失った悲しみの居場所です。
トラウマでは「心が覚えている」のではなく、
身体が覚えていると表現される理由が、ここにあります。
→ https://trauma-free.com/body-remembers-trauma/
この悲しみは、
一つの出来事として整理されるものではありません。
「何があったか」よりも、
誰もいなかったという事実として刻まれます。
悲しみが突然よみがえるとき、身体で起きていること
助けを呼ぶ相手がいない、
あるいは呼ぶこと自体が危険だったとき、
人は悲しみを感じることそのものを止めます。
日常を続けるために、
感情の回路を切り替えるしかなかった。
それは回避ではなく、
生存のための神経系の判断でした。
しかし、凍結された感情は消えません。
安全が少し確保されたとき、
ある日ふいに、涙や息苦しさ、動けなさとして戻ってきます。
それは後退ではなく、
低覚醒・凍結状態がほどけ始めたサインです。
→ https://trauma-free.com/freeze-low-arousal/
人は過去を思い出しているのではありません。
過去の状態に引き戻されている。
時間が統合されていない悲しみは、
今も現在形で反応を起こします。
「抱えられなかった」悲しみと、偽りの自己
本来、悲しみはひとりで処理するものではありません。
誰かに抱えられ、
一緒に感じ直されることで、
少しずつ変化していくものです。
それが叶わなかったとき、
心は別の均衡を選びます。
誰にも受け止められないまま耐えた悲しみは、
“感じる核”を守るために奥へ退き、
代わりに前面に立つのが、
何事もなかったように振る舞う自己です。
過剰に合わせる。
迷惑をかけない。
先回りして空気を読む。
それは性格ではなく、
過剰適応という生存戦略でした。
→ https://trauma-free.com/good-girl/
「こんな自分だから愛されない」という自己非難は、
悲しみを外に向けられなかった人が
内側に引き取った、最後の防壁です。
空虚・荒廃として現れる悲しみ
このタイプの悲しみは、
必ずしも「悲しい」という感情で自覚されません。
何も感じない。
世界が平面的に見える。
楽しいはずのことが遠い。
“生きているのに、生きていない感じ”。
それは感情が浅いのではなく、
悲しみが感覚の底に沈んでいるからです。
解離や感覚遮断として現れるこの状態は、
心が壊れた証拠ではありません。
→ https://trauma-free.com/dis/
深すぎる感情を、
これ以上失わないために隔離した結果です。
身体に残る悲しみは、回復の入口でもある
悲しみは、
感情としてだけでなく、
神経系の反応として身体に残ります。
凍結。
過緊張。
自己消去。
涙、震え、息苦しさ、重だるさ。
それらは不具合ではありません。
完了できなかった反応の続きです。
かつて、
感じきれなかった。
動ききれなかった。
誰にも支えられなかった。
その反応が、
いまの安全な時間の中で、
少しずつ続きを始めています。
回復は、ひとりで完遂するものではない
ひとりで悲しみを生き抜いてきた人ほど、
回復まで、ひとりでやろうとしてしまいます。
けれど、
守られなかった時間は、
関係の中でしか経験し直せません。
誰かの前で、
崩れても壊れなかった。
泣いても、置いていかれなかった。
そうした体験が、
身体の記憶を書き換えていきます。
悲しみは、あなたを弱くしたのではありません。
あなたが生き延びるために、
形を変えて保持されてきただけです。
いま、それは
安全な場所で、ほどかれ始めている。
その過程そのものが、回復です。
他の相談テーマも含めて、全体像を整理した一覧はこちらです。
相談内容一覧を見る【執筆者 / 監修者】
井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)
【保有資格】
- 公認心理師(国家資格)
- 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)
【臨床経験】
- カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
- 児童養護施設でのボランティア
- 情緒障害児短期治療施設での生活支援
- 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
- 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
- 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
- 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入
【専門領域】
- 複雑性トラウマのメカニズム
- 解離と自律神経・身体反応
- 愛着スタイルと対人パターン
- 慢性ストレスによる脳・心身反応
- トラウマ後のセルフケアと回復過程
- 境界線と心理的支配の構造
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。