こころのカウンセリングは、ただ悩みを話す場でも、アドバイスを受け取る場所でもありません。
長年続いてきた生きづらさ、誰にも言えなかったトラウマ、言葉にならない不安の背景にある“心の仕組み”を丁寧にひも解き、
少しずつ「本来の自分」に戻っていくプロセスです。
ここでは、どんな方にカウンセリングが向いているか、そしてどのような変化が期待できるのかを、臨床の視点から具体的に解説します。
1.人生の方向性に迷い、「自分が何を望んでいるのか分からなくなっている方へ」
進路、キャリア、恋愛、家族、住む場所…。
人生の分岐点では、自分でも理由が分からない迷いが生じることがあります。
- 「このままで本当に良いのか?」
- 「何を選ぶべきか分からない」
- 「みんな普通に生きているのに、自分だけうまくできない」
そんな迷いは、弱さではなく「見直す時期が来ているサイン」です。
カウンセリングでは、
- 生き方の判断基準がどこから来ているのか
- 家族から受け継いだ価値観の影響
- 子どもの頃につくられた「こうあるべき」
- 本音を抑えている恐れや遠慮
を丁寧に整理し、
“自分の軸” を取り戻すための土台を作っていきます。
ただ“正しい答え”を教えるのではなく、
あなたが「これなら生きられる」と思える方向を一緒に探していきます。
2.パートナーや家族との関係で消耗している方へ
もっとも近い存在であるパートナー・親・きょうだいとの関係は、
心の深い層に影響を与えます。
- 相手に気を遣いすぎて疲れる
- 本音を言うと嫌われそうで言えない
- 同じ喧嘩パターンを繰り返してしまう
- 親の影響がいまの自分に残っている気がする
こうした状態は、性格の弱さではありません。
**これまでの環境を生き抜くために身についた“適応のクセ”**です。
カウンセリングでは、
- 怒り・悲しみ・あきらめ・罪悪感
- 頼りたい気持ちと距離を取りたい気持ち
- 心の中で対立している二つの欲求
などを丁寧に扱いながら、
- なぜ境界線を引けないのか
- なぜ同じパターンが起こるのか
- どこで相手と距離を調整すればよいか
が見えてきます。
その結果、
相手に振り回される関係から、
自分の気持ちを大切にできる関係へと少しずつ変わっていきます。
3.職場・学校でのストレスで心身がすり減っている方へ
責任感が強く、人の期待に応えようとする人ほど、職場でのストレスを深く抱え込みます。
- 朝起きるのがつらい
- 常にミスが怖い
- 人に会うだけで疲れきる
- 頭が仕事のことでいっぱいになる
これらは「怠け」でも「気持ちの問題」でもありません。
心が限界に近づいているサインです。
カウンセリングでは、
- 過剰に頑張ってしまう背景
- 断れない理由
- すぐ自分を責めてしまう癖
- ストレスを身体がどう受け止めているか
を整理しながら、
- どこまでなら頑張れるのか
- どこからは「引き受けなくていいこと」なのか
- 身体や神経が回復できる働き方とは何か
を一緒に見つけていきます。
心と身体のバランスを回復させ、
“すり減り続ける働き方”から抜け出すプロセスを支えます。
4.自己否定が強く、いつも自分を責めてしまう方へ
「どうせ自分なんて」
「何をしてもダメだ」
そんな声が心の中から離れず、
日常の小さな選択ですらつらく感じることがあります。
カウンセリングは、あなたを評価する場所ではありません。
- なぜ自分にだけ厳しくなるのか
- その“否定の声”は誰の声だったのか
- どんな環境が自己否定を育ててきたのか
を一緒にたどりながら、
**“責める以外の自分との関わり方”**を増やしていきます。
ありのままの自分を否定せず受け止められたとき、
人はそこから自然な変化へ向かい始めます。
5.過去のトラウマや虐待の影響が、いまも人生を縛っている方へ
幼少期の虐待・いじめ・事故・災害・性的被害など、
心を揺さぶる経験は、大人になってからも影響し続けます。
- 人を信じられない
- 幸せに近づくと壊してしまう
- 空想の世界や一人の世界に入り込みやすい
こうした反応は、
「弱さ」ではなく 当時の自分を守るために必要だった心の防衛です。
カウンセリングでは、
- 過去を無理に思い出させる
- 「忘れましょう」と押しつける
といったことはしません。
むしろ、
- 身体に残っている反応
- 避けてしまう感情
- 当時の自分が感じた痛みや孤独
こうしたテーマに安全な距離から少しずつ触れ、
凍りついた時間を“現在の自分”へ統合する作業を行います。
6.不安・うつ・パニック・解離など心身の症状に悩んでいる方へ
診断の有無にかかわらず、
- 気分の波が激しい
- 現実感が薄れる
- 記憶が抜ける
- 自分が自分でない感覚がある
こうした症状に悩む方は少なくありません。
カウンセリングは、
症状を力づくで治す場所ではなく、
「今の自分を安全に保つ力」を育てる場所です。
医療と併用しながら、
- 症状が起きるしくみ
- どんな場面で自分を守ろうとしているのか
- 日常生活でできる調整
- 無理しない境界線の引き方
を理解し、
症状との健全な付き合い方を取り戻していきます。
7.「変わりたいのに、変わるのが怖い」と感じている方へ
知性や感受性の高い人ほど、
トラウマや過去の経験を深く受けやすく、
“前に進みたい気持ち”と“変化への恐れ”の両方を抱えがちです。
- 動きたいのに動けない
- 変わりたいのに怖い
- 他人に頼れず、1人で背負ってしまう
これらは矛盾ではなく、
心が安全を確保しようとしている自然な反応です。
カウンセリングでは、
- 無条件の肯定的配慮
- 共感的理解
- セラピストの自己一致
この3つを大切にしながら、
あなたの内側に元々備わっている“成長しようとする力”が自然に働き出す環境を整えていきます。
8.正解ではなく「本当の自分を取り戻したい」方へ
カウンセリングは“正解を教える場所”ではありません。
- 親からの期待
- 社会から刷り込まれた価値観
- これまでの環境で身につけた仮面
- 押し殺してきた感情
こうしたものを一度静かに見つめ直し、
自分の価値観に沿って生き直すプロセスです。
セッションのなかで、
- 何が本当に大事だったのか
- どんな価値観はもう手放してよいのか
- どんな鎧をまとって生きてきたのか
が見えてくると、
人生の再選択が可能になります。
9.継続的な対話を通して「生きる土台」をつくりたい方へ
心の変化は、短時間で劇的に起こるものではありません。
週1回、あるいは隔週での対話を積み重ねながら、
内面の層をじっくり深めていきます。
初回は、
- 生育歴
- 家族関係
- 学校・職場での経験
- 医療歴
- 今の困りごと
- 望む変化
を丁寧に整理する時間です。
2回目以降は、
- 外からの価値観
- 繰り返すパターン
- 抑えてきた感情
- 身体感覚への気づき
などへ少しずつ踏み込み、
“生き直すための基礎”を築いていきます。
10.「一人で抱え込むのをやめたい」と思えたときが、はじまりです
カウンセリングが必要な人は、
特別に弱い人ではありません。
- 生きづらい
- 心が疲れている
- うまく説明できない苦しさがある
- ひとりで抱えるのがしんどくなってきた
そんなときこそ、相談のタイミングです。
「正解を教えてほしい」から
「自分の答えを取り戻したい」へ。
その一歩を踏み出すために、
カウンセリングという方法は、あなたの力になるはずです。
トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2025-12-07
論考 井上陽平