フラッシュバックの対処法:思い出すと泣くほど辛い(再体験から戻る手順)

PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)は、深刻なトラウマ体験後に発症する複雑な心理障害であり、多くの患者が再体験症状を中心にさまざまな症状を持っています。
再体験症状は、トラウマ体験のフラッシュバックや悪夢として突如として現れることが多く、日常生活において非常に困難な状況を生じさせます。

ここで強調したいのは、フラッシュバックは「思い出している」だけではないということです。
本人の意思とは無関係に、心と身体が“過去の危険の中”へ引き戻される。その結果、涙が止まらないほど辛くなったり、息ができないほど苦しくなったりします。

そしてこの反応は、弱さではありません。
かつて危険だった環境で、あなたの身体が生き延びるために獲得した反応が、いまも自動再生されているだけです。

関連:PTSDの全体像 → https://trauma-free.com/trauma/symptoms/


PTSDで起きる主要な症状(フラッシュバックを中心に連鎖するもの)

PTSDの症状は、単独で起きるというより、連動して増幅します。
フラッシュバックが出るとき、同時に起きていることを整理します。


1)再体験(侵入症状):過去が“いま”になる

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の再体験症状は、深く複雑な心の過程を背景に持つものです。
この症状は、トラウマ体験を再体験する突然の回想として現れるだけでなく、過去の痛みや恐怖、トラウマの瞬間の詳細なイメージや感覚を強烈に呼び起こすことが特徴的です。

これらの突然の回想や感覚は、時にはトラウマ体験を想起させる外部の刺激や状況、物によって引き起こされることがあります。
例えば、トラウマを受けた場所や、その時に聞いた音、見た光景などが、日常生活の中で偶然出会ったときに、再体験症状を引き起こすことがあります。

このような瞬間、患者は再びその恐怖や痛みを身体全体で感じることがあり、
不安や恐怖、怒りなどの強烈な感情が湧き上がることが多いです。

さらに、これらの再体験症状は、視覚的・聴覚的・身体的な感覚や感情として現れることが多く、
その瞬間、患者は現実と過去の出来事の境界が曖昧になることがあります。

胸が詰まるような感覚、息切れ、震え、痛みなどの身体的な反応は、そのトラウマの現実性を更に強調し、
患者はその恐怖や痛みから逃れようとするために回避行動を取ることが一般的です。

ここで起きているのは、単なる「記憶」ではありません。
**脳と身体が“過去の出来事を現在として処理してしまう”**という現象です。
だから現実感が薄れたり、「いまの場所」が分からなくなったりします。


2)過覚醒症状:危険が去っても警戒が解けない

過覚醒症状とは、日常的な音や刺激に過度に反応することや、常に警戒心を持ち続ける状態を指します。
例えば、突然の大きな音に強く驚いたり、予期しない接触に激しく反応することがこれに該当します。

これは、潜在的な脅威が常に身の周りにあると感じることからくる反応と言えるでしょう。

過覚醒が入ると、体は次のように変化します。

  • 呼吸が浅くなる
  • 心拍が上がる
  • 肩や顎、背中が固まる
  • 眠りが浅くなる/悪夢が増える
  • 目が冴えて止まらなくなる
  • 小さな刺激でもビクッとする

ここまで来ると、「落ち着こう」としても落ち着けません。
落ち着けないのは性格ではなく、神経系が“戦闘配置”のままだからです。

参考:過覚醒の整理 → https://trauma-free.com/hyperarousal/
参考:音への過敏(過覚醒の一部として出ることが多い)→ https://trauma-free.com/sound-hypersensitivity/


3)回避行動:避けるほど、生活が狭くなる

回避行動は、トラウマに関連する場所、人、状況などを極力避ける行動を指します。
これは、それらの刺激が再体験症状を引き起こす可能性があるため、無意識のうちに避けるようになるものです。

このような行動が続くと、社会的な孤立や日常生活の制限が進んでしまうことがあります。

回避は「悪いこと」ではありません。
それは当時の自分が、危険を避けて命を守るために必要だった反応です。

ただ、現在において回避が続くと、次の問題が起きます。

  • 外に出るほど不安が増える
  • 人に会うほど疲れる
  • 行動が減り、自己否定が増える
  • 生活が狭くなり、回復の足場が減る

つまり回避は、短期的には守るが、長期的には回復を妨げることがある。
ここが難しい点です。


4)否定的な自己像:自分を責めるほど、症状が固定される

また、否定的な自己像は、自分自身を価値のない存在として捉えたり、過去のトラウマ体験が自分のせいだと思い込んだりすることを指します。

このような否定的な考え方は、自己評価の低下や自己嫌悪感を引き起こすことがあり、うつ症状など他の精神的疾患の発症を招く可能性があります。

ここで重要なのは、自己否定は“気分”ではなく、症状を固定する燃料になりうることです。

  • 「私が悪い」→ 緊張が上がる
  • 「弱いからだ」→ 相談できなくなる
  • 「迷惑をかける」→ 孤立する
  • 孤立 → フラッシュバックが増える

このループに入ると、回復が遅れます。
だからフラッシュバックの対処には、身体だけでなく **自己像(自分への扱い方)**も含める必要があります。


フラッシュバックとは(単なる回想ではない)

トラウマによるフラッシュバックは、単なる過去の思い出や回顧ではなく、心の深層に刻まれた痛みから引き起こされる生々しい再体験として現れる心理的現象です。

この経験は、特に過去に危険な状況を経験した際に顕著で、その時の出来事と現在が混同し、非常にリアルな体験として感じられます。
フラッシュバックは視覚的、聴覚的、そして身体的な回想を伴い、その時の強烈な感情や記憶が突如として心にあふれ出ることがあります。

これによって、人は現実の瞬間から過去の出来事へと引きずり込まれるような、脱現実的な状態に陥ることがあります。

ここで起きているのは「思い出」ではなく、安全の誤認です。
身体が“危険は終わっていない”と誤作動するため、頭で止められません。


フラッシュバックと思い出すことの違い

トラウマのフラッシュバックは、人の心の中での嵐のようなものです。
これは、過去のトラウマ的な経験が何らかのトリガーによって突然心の表面に現れ、深い不安や恐怖、恐怖的な記憶といった感情的な反応を引き起こす現象を指します。

これは単なる過去の思い出しとは異なり、その瞬間、人は過去の出来事が現実の時間と空間の中で再び起こっているかのように感じるのです。

心の中で再現されるそのシーンは非常に鮮明で、五感を通じての体験が再び呼び起こされ、まるでリアルタイムでその出来事を経験しているかのような感覚に陥ります。

一方で、通常の「記憶を思い出す」という行為は、過去の出来事や体験を意図的に思い起こす行為を指します。
この場合、人は過去の出来事を客観的な視点から思い出すことができ、その記憶がもたらす感情的な反応は通常、フラッシュバックのような強烈なものではありません。

意識的に選択し、コントロールすることができるのです。

この違いが分かると、対処の方針が変わります。

  • 思い出=思考の領域(整理・意味づけ)
  • フラッシュバック=神経系の領域(鎮静・接地・安全回復)

「考えて整理しよう」とすると悪化する人が多いのは、ここです。


トラウマの過呼吸(フラッシュバック時に起きる身体反応)

トラウマ体験は、その瞬間だけでなく、後にも人の心と身体にさまざまな影響を及ぼします。
この体験に関連する過呼吸は、過去の恐ろしい出来事や痛みが、現在の身体的な反応として現れる典型的な例です。

トラウマ体験時の極度のストレスは、交感神経を刺激し、闘争・逃走反応を引き起こすことが知られています。
この反応は、危険から身を守るための本能的なものであり、心拍数の増加、筋肉の緊張、呼吸の加速などの身体的な変化を引き起こします。

トラウマ後、このような反応が適切に解消されないまま、身体が過度な警戒状態を維持することがあり、
その結果として過呼吸のような症状が継続的に発生する可能性があります。

過呼吸の症状は、単なる物理的な不快さにとどまらず、再びトラウマを思い出させるトリガーや、日常生活における不安感を増幅させることがあります。
そのため、過呼吸を理解し、適切に対処することは、トラウマを乗り越え、安心した日常を取り戻すための重要なステップとなります。

参考: 過呼吸時の対応:ベストな選択を考える→https://trauma-free.com/hyperpnea/


フラッシュバックの対処法(その場で現実に戻る手順)

フラッシュバックは「止める」より、戻すが現実的です。
目標は、感情を消すことではなく、身体が現在に戻ること


1)まず最初にすること:安全確認(外界)

フラッシュバック中は、脳の機能が落ちます。
判断力が低下している前提で、手順を固定します。

  • いまいる場所に危険がないか確認
  • 可能なら静かな部屋・人の少ない場所へ移動
  • 立っていられない場合は座る/壁に背中を預ける
  • 水を飲めるなら一口

2)身体を“現在の座標”へ戻す(接地)

思考ではなく、感覚で戻します。

触覚

  • 服の生地を指でつまみ、摩擦を感じる
  • 手のひらをこすり温度を感じる

足裏

  • 両足で床を押す
  • かかと→つま先へ重心移動をゆっくり繰り返す

視覚

  • 目に入るものを5つ数える
  • 「四角いもの」「白いもの」などカテゴリーで探す

これで脳は、過去の映像からいまの環境へ注意を戻しやすくなります。


3)呼吸は「深呼吸」ではなく「吐く時間を伸ばす」

深呼吸が逆効果になる人もいます。
その場合はこれだけでいい。

  • 口から細く長く吐く(6〜8割吐く)
  • 吸うのは自然に任せる
  • 3〜10回

「吸わないと」と頑張るほど過呼吸が悪化します。
吐ければ十分です。


4)短い言葉で現実を再固定する(自己暗示ではない)

フラッシュバック中に長文は入らない。
短いフレーズにします。

  • 「いまは(場所)にいる」
  • 「終わっている」
  • 「身体が反応しているだけ」
  • 「私は今、安全を作っている最中」

5)フラッシュバック後の“反動”まで含めて対処する

終わった直後に、次が起きます。

  • どっと疲れる
  • 眠気が強い
  • 涙が止まらない
  • 胃腸が痛い
  • 罪悪感・恥が押し寄せる

ここで「またダメだった」と思うと自己否定ループに入ります。
だから、ここはルールを先に決める。

反動は正常。休息が必要。評価しない。

解離が混じる人は、このページも併用 → https://trauma-free.com/dissociation-defense/


周りの人がすべき対処方法(家族・パートナー・支援者向け)

トラウマのフラッシュバックは、非常に強烈な体験であり、被害者自身だけでなく、その周りの人々にとっても困惑や不安を感じる瞬間となることが多いです。
そのため、周囲の人々がどのように対応すればよいのか、理解し、共感することが非常に重要です。


1. 理解と共感

まず、フラッシュバックは被害者が過去の痛みや恐怖を強烈に再体験していることを認識することが必要です。
これは、ただの過去の思い出しとは異なり、彼らにとっては現実のように感じる瞬間です。


2. 安全な環境の確保

被害者の安全は最優先です。
身の回りの環境を確認し、トリガーとなるものや危険な状況がないように注意することが大切です。


3. 寄り添う態度(ただし踏み込みすぎない)

被害者が自らの感情や思いをオープンに共有できるような環境を提供することが必要です。
その際、批判や評価を避け、純粋に話を聴き、理解し、共感することが大切です。

※触れられるのがトリガーになる人もいるので、身体接触は確認してから。


4. 心のケア(終わった後が一番大事)

フラッシュバック後、被害者が平穏な心の状態を取り戻すためのサポートが大切です。
深呼吸や温かい飲み物、安心できる場所の確保など、回復のための条件を整えます。


5. 専門家のサポート

トラウマは専門家の介入が必要な場合があります。
被害者が必要とする場合、心理カウンセラーやセラピストなどの専門家のサポートを受けられるよう支援します。


当相談室で、トラウマのフラッシュバックについてのカウンセリングを希望される方へ

トラウマを乗り越えることは容易ではありません。
しかし、適切なサポートと手段を利用すれば、回復の道を歩むことができます。

大切なのは、自分のペースで回復を進め、必要なサポートやリソースを求める勇気を持つことです。
そして、自分の体や心の声を大切に聞き、自分をケアすることが何よりも重要です。

当相談室で、トラウマのフラッシュバックについてのカウンセリングや心理療法を受けたいという方は、以下のボタンからご予約ください。

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【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
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